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肩翼の烙印

「アイス!」

廊下の向こうから走ってきたのは基地一番のやんちゃなアヴィエーターであるマーヴェリックのRIOだった。

「どうした、グース。・・・今日、アレは一緒じゃないのか?」

「アレって・・・なあ、マーヴを物扱いするなよな」

「別にそういうわけじゃない」

「なあ、頼みがあるんだ。ちょっと、こっちに来てくれよ。あんまり他人に聞かれたくない話だ」

そう言って、グースはアイスマンの腕を引き、物陰に身体を納めた。

「またやらかしたのか?だったら、今更隠れて話す必要も・・・」

「違うんだって。あのさ、俺の代わりにマーヴの部屋に行ってくれないか?本当なら俺が行ってやりたいっていうか、いつもは俺が行ってるんだけど、今日はキャロルと一緒にブラッドリーの誕生会の準備をしなくちゃいけなくて」

「それならマーヴェリックも一緒に準備をしたがるんじゃないか?」

「今日っていうか、しばらくマーヴは部屋を出せない」

「意味がわからん」

「行けばわかる、なあ、アイス。これはアイスにしか頼めないんだって。頼むから、黙ってこの鍵を持ってマーヴのところに行ってやってくれ」

「病気なのか?まさか、二日酔いとかじゃないだろうな」

「誓って違う。病気や二日酔いの方がよっぽど安心できる」

 グースは本当に困った顔をして、アイスの青い瞳を覗き込んだ。こんな真剣な表情は珍しい。

「・・・わかった。貸せ、その鍵」

アイスマンは部屋の鍵をグースから受け取ると、それを手の中で軽く弄ぶ。

「俺、お前のこと、信頼しているから」

グースがアイスマンの肩を痛いくらいに掴んだ。そして、唇を噛みしめながら小さく溜息をついた。

「本当に・・・信じてるから。頼れるの、お前しかいないんだ、アイス。・・・じゃ、頼む」

グースは踵を返して来た廊下を戻り始めたが、時折振り返って、アイスに視線を送ってくる。本当に信頼されてるのか怪しい行動だ。アイスは手のひらの中の鍵を軽く見やると、訪れたことのあるマーヴェリックの部屋に行くべく歩き出した。

***

一応ノックをする。しかし、返事はない。その為の合鍵か、と納得する。病気でも二日酔いでもなければ何なんだ。

アイスは静かに部屋のドアを開けた。

「マーヴェリック・・・」

名前を呼び、姿を探そうとしたが、アイスはすぐに眉を顰めた。部屋中に充満する香り。香水でもぶちまけたかとお思うほどの濃密さ。

アイスマンは寝室であろう奥の部屋に足を進めた。ベッドに小さな山ができていて、微かに動いている。そして、この部屋に溢れている香りの発信源。

アイスマンは米神を指で揉み解しながら小さな溜息をついた。「そういうことか」と。アルファであるアイスマンが、抑制剤を服用していても、かなり体に来る濃密な香りだった。おそらく、オメガのヒート。アイスマンはベッドの端に座り、白い小さな山を軽く叩いた。

びくんっと小山が跳ねる。

「マーヴェリック、顔を出せ」

「・・・やだ」

小山の中から小さな声が聞こえた。確かに、こんな状態のオメガにやってやれることはない。ヒートの嵐が収まるのを待つか、それとも・・・。

アイスマンは白い毛布の端を掴むと、力任せに引っ張った。

「ひゃっ」

現れたのは横向きになって小さく蹲るマーヴェリックだった。

「返せってば!」

「意味ないだろう。隠れていたって、すごい香りだ。ああ、最初に言っておくが、グースに頼まれてここに来た。それとお前がオメガでも驚かない」

「・・・何で?」

「知ってたから」

「?」

マーヴェリックが潤んだ瞳を細める。意味が分からないらしい。

「初めて会ったときから、お前がオメガだって知ってた」

「っ・・・何で・・・?」

「俺はアルファだから。そういうことには鼻が利く。・・・マーヴェリック。ここまでヒートが酷いのは初めてか?」

「・・・たぶん。・・・わりと抑制剤が効くし、グースが身の回りの世話をしてくれて・・・」

「フォローもな」

「・・・・・・」

「飛べない時もあったんだろうが」

「・・・・・・」

無言は是だ。きっとヒートでマーヴェリックが跳べない時は、グースが適当な不始末をでっちあげて、相棒が飛ばなくてもいいようにしていたのだろう。

「起き上がれるか」

「・・・・・・」

普段とは違い、言葉が少ない。それでもマーヴェリックはゆっくりと起き上がった。

「抑制剤は飲んだんだろう?」

「ちゃんと飲んでる。でも、最近、効きが悪い」

「勝手に薬を増やすなよ。ちゃんと医者に言われたとおりに飲め。肝臓をやられるぞ」

「わかってる。・・・アイスは・・・平気なのか?ここにいて」

「グースに頼まれたからな」

「そうじゃなくて・・・」

マーヴェリックがそう問うのは、アイスマンがアルファだからだ。マーヴェリックも初めて会った時から、アイスマンがアルファであることは察知していた。一種の防衛本能。今までも、不埒なアルファが、マーヴェリックを慰み者にしようとしてきた。それをいつも助けてくれているのがグースだ。そのグースが今はいなくて、アイスマンがいる。

「グースは?」

「ブラッドリーの誕生会の準備。だからお前のことを頼まれた」

「そっか。そうだ・・・もうすぐだ。プレゼント、買わなくっちゃ」

「今は無理だけどな。・・・何か飲むか」

「水・・・それと、抑制剤」

「今日の分は飲んだんだろう」

「でも、効いてないし・・・」

「水だけだな。待ってろ」

アイスマンは綺麗に片付いているキッチンへ行くと、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出す。それを、持って寝室へ戻った。

マーヴェリックはベッドのヘッドボードに凭れ掛かって、うつろな瞳をしていた。両手で体をさすっている。いつものようなキラキラとした笑みはない。

「番は・・・いないのか?」

そう訊いてから愚問だったことに気付く。番がいたら、ヒートでこんなにも苦しむことはない。しかし、マーヴェリックは気にした風でもなく、アイスマンからペットボトルを受け取った。が、それは叶わなかった。手に力が入らないのか、取り落とした。蓋が開いていなかったことが幸いだった。

「ごめん」

アイスマンは答えることなく、シーツに落ちたペットボトルを拾い上げ、蓋を開けると、その飲み口をマーヴェリックの唇に当てた。

「自分で・・・」

飲める、と言おうとしたが、グッとペットボトルを押し当てられて言葉が続かなかった。マーヴェリックがアイスマンを見ると、ゆっくりとペットボトルが傾けられた。冷たい水が口腔を潤し、喉を流れていく。それで自分が、酷く乾いていたことに気づいた。体の中を蠢く、嫌な感覚に気を取られていたからだ。半分ほどの水を飲んで、マーヴェリックは再びアイスマンを見た。もう充分、という意味を込めて。喋ることができないから。それをアイスマンは察知してくれたらしい。ペットボトルをマーヴェリックの唇から離し、蓋を閉めてベッドサイドのテーブルに置いた。

「それで?」

「?・・・な、何?」

「それで、俺はグースの代わりに何をしたらいいんだ?」

アイスマンにとっては尤もな質問だった。自分がこの部屋に来た意味を問うている。

「何って・・・別に・・・」

「グースは?グースはいつもどんな風に、ヒート中のお前の面倒を?」

「・・・部屋の掃除とか?・・・ご飯を作ってくれたりとか?・・・まあ、あんまり食べられないんだけど・・・」

「どっちも俺の苦手分野だ」

「うん。だと思う。・・・だから・・・帰っていいよ、アイス。喉が渇いていたことを思い出させてくれてありがとう。ああ、鍵は掛けなくてもいいから。どっかそこら辺に置いといてくれれば・・・」

「馬鹿か、お前は。そんな危険な真似できるか」

アイスマンは眉を顰めて、若干、声を荒げた。どこまで無防備なんだ、この僚機は。あまりにも危機感が薄い。しかし、目の前の飛行機馬鹿は、本当に意味がわからない・・・というように首を傾げている。

「あのな。お前の匂い、相当だぞ。下手すれば、部屋の前を通っただけでも分かる。それがアルファだったらどうする?目の前に御馳走が寝てるようなもんだろうが。しかも、お前は、ピート”マーヴェリック”ミッチェルだぞ?」

ヒートでなくとも、オメガでなくとも、自分の僚機に好きあらば近寄ろうとする不埒な輩は大勢いる。今無事なのはRIOのグースと、僚機の自分が様々な馬鹿野郎どもを人知れず排除してきたからだ。きっと、ヒートの時にグースが傍にいるのも、マーヴェリックが放つ甘い香りに吸い寄せられる不埒な馬鹿から、相棒を守るためなのだろう。

「俺は掃除も料理もできないが、お前を危険から守ることはできる」

「・・・んー・・・」

「何だ、その不満そうな態度は」

「何だか、自分が情けないから。自分で自分を守れないなんて、軍人じゃない」

「別に軍はお前にそういうのを求めてはいないと思うぞ。そういうのはネイビーに任せておけ」

「意味が分からない」

「分からなければ、それでもいい。それよりも、どうしたら、少しでも気が紛れる?」

「・・・抑制剤」

「駄目だ。健康診断で引っ掛かれば、飛行機に乗れなくなるぞ」

「やだ」

「じゃあ、我慢だ」

「んー・・・」

マーヴェリックは、寄り掛かった姿勢から、ポテンっとベッドに身体を落とした。丸めた姿勢でシーツを手繰り寄せる。巣作りのように。

「何で・・・何で、オメガに生まれちゃったんだろう」

「その代わり、優秀なアヴィエイターになれただろう」

「二番目だけどな。一番はアイスだし。アイスはアルファだし。・・・いいな、アイスは。何でも持ってる」

「何を言ってるんだか」

アイスは呆れたように言った。自分が一番なのは、上官を怒らせないからだ。上官が望むように飛ぶからだ。それだけの技術があるからだ。自分には、マーヴェリックのような天性のセンスはない。神はそれを自分には与えてくれなかった。

「・・・アイス・・・悪いけど、向こうの部屋に行っててくれないか?」

「?」

「・・・アイスの匂い、結構、キツい」

「・・・分かるのか?」

「ん・・・悪い意味じゃない。すごく、いい匂いがする。だから、あっち行って」

「ふうん。それは悪くないな。お前もいい匂いがする」

「・・・何・・・それ・・・」

アイスマンは確信をもって、体重はかけずに、マーヴェリックに覆い被さった。

「俺たちは身体も僚機だってことだ」

アイスマンはニヤリと笑って、その黒髪を撫でた。

「え・・・ちょっと・・・アイス・・・何、その言い方っ」

「ああ、悪い。心も身体もだ。初めて会った時から気になっていた」

マーヴェリックは思い出す。自分の斜め後ろに座っていたアイスマン。カレッジ・リングを嵌めた指で、器用にペンを回していた。随分を自分を見てくるな・・・と思いながら、彼がアルファであることに本能的に気づいた。だから、自分も挑戦的な視線を送った記憶がある。向こうも自分がオメガであることを見破っていた、ということだ。

「嫌か?」

「嫌な匂いじゃない・・・」

「俺も、好きな匂いだ」

アイスマンがマーヴェリックの首筋に顔を埋めた。そして、その香りを吸い込む。頭がクラクラするような・・・。マーヴェリックも彼の好きなようにさせて、その身体を突っぱねることはしなかった。思考の隅っこで、「ここで頸を噛んでもらえたら、一生、楽になるな」と思った。言葉にはしなかったけれども。ただ・・・。

「なあ、アイス」

「どうした?」

「身体が辛いから、楽になりたい・・・」

アイスマンはそれが何を意味するか、すぐに悟る。

「いいのか?」

「いい。アイスなら・・・いい・・・?」

「そうか」

アイスマンは一度、マーヴェリックから身体を離し、着ていたシャツを脱いだ。そして、マーヴェリックのTシャツにも手を掛ける。

「自分で脱げる」

「いいから、やらせろ」

Tシャツの中に手のひらを潜り込ませ、その鍛えられた筋肉の感触を楽しむ。柔じゃないところがいい。

「ん・・・」

ヒートのせいで、だいぶ感じやすくなっている身体は、少しの刺激にも確実に応えた。Tシャツを脱がせ、下着にも手を掛けると、マーヴェリックの脚がアイスマンを撫でるように絡みついてくる。その太腿の内側に吸い付いてやると、「んんっ」とマーヴェリックは声を上げた。

「あ・・・アイス・・・そういうの・・・いいから・・・」

「悪いが、そんなに即物的な人間じゃないんでな」

「ん・・・」

それでも、マーヴェリックが辛そうにしている顔を見るのも可哀想で、アイスマンはその整った尻に手を這わせた。割れ目を撫でると、すでに濡れている。オメガ特有の現象。指を差し込むと、そこはすぐに飲み込んでくる。グジュリ・・・という淫猥な音。アイスマンの指に絡み付く粘膜。アイスマンはマーヴェリックの表情を確かめながら、指を動かし、増やしていく。僚機の表情が次第に緩んでくるのを見て、その耳元に唇を近づける。

「スキンは?」

「・・・ない・・・」

「それは困ったな。こんな状態のお前を置いて買いに行くのも興醒めだしな」

下半身の感覚を追うことに専念していたマーヴェリックが、腕を動かしてアイスマンの首に回す。

「いい・・・挿れて・・・して・・・無理・・・我慢できない・・・」

「・・・孕んだら、しばらく飛べなくなるぞ?」

ぴくんっとマーヴェリックの身体が震える。ゆっくりと睫毛が動き、緑色の瞳が覗く。

「・・・アイスは、そういうことにならないようにしてくれる」

「・・・冗談だろう?まったく。・・・わかった。体外に出す。しかし、避妊率は100%じゃないからな」

半分呆れながらも、我儘な姫君の言うことを聞くのも悪くはない。アイスマンは体勢を整えると、すっかり濡れて緩んだ後孔に自分の楔を打ち込んだ。

「はっ・・・あ・・・ああ・・・ああっ」

本当なら最奥まで責めてやりたいところだが、今日のところは我慢する。そう、今日のところは。マーヴェリックの身体を揺らしながら、勃ち上がった屹立も手で慰めてやる。

「やっ・・・あっ・・・ああんっ・・・」

喉を仰け反らせてマーヴェリックが達するのと同時に、アイスマンは自身をその身体から引き抜いた。そして、マーヴェリックに腹に白濁を撒き散らす。と、同時に、僚機を抱きすくめると、その頸に犬歯を立てたのだった。

***

「深い!!!!」

「悪かった」

「痛い!!!!」

「悪かった」

「めっちゃ傷になってる!!!!」

「悪かった」

「何で噛むんだよ!!!」

「番だから」

「へ?」

「何だ、その反応は。どう考えたって、俺たちは番だろう」

「いや、僚機」

「いや、番」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

話が噛み合わず、見つめ合うアイスマンとマーヴェリック。

「えっと・・・」

「身体は楽になっただろう?」

「うん、すごく・・・ってそうじゃなくて!!!!何で俺とアイスが番になるんだ?」

「お前、マジでそれを言ってるのか?」

「俺はいつだって真面目だぞ」

「真面目な奴は戦闘機を壊さない」

「話をすり替えるな!」

「お前、オメガだよな?」

「そうだよ」

「オメガの特性は?」

「・・・・・・」

「お前、オメガ教育を受けてないのか?」

「・・・つまんないから寝てた」

「リーフレットとかあっただろう?」

「F14のマニュアルなら読む」

「マーヴェリック、お前は本当にオメガとしての危機感がなさすぎる。これじゃあ、グースも苦労するよな。っていうか、お前、今まで本当によく無事でいたな」

アイスマンは呆れて天井を仰いだ。それでもすぐにベッドに座るマーヴェリックを抱き締めた。そして深い傷になってしまった噛み跡を舐める。

「初めて見た時から、お前は俺の番だと思っていた。それが僚機になって本当に嬉しかった。今は、それと同じくらいに嬉しい」

「アイス?」

腕の中でマーヴェリックが身じろいだ。嫌なわけではなく、居心地の良いところを探して、だ。相変わらず、いい匂いがして、それもまた落ち着く。多少なりとも精を注いでもらって、頸を噛まれて、身体を駆け巡る嫌な熱も引いた。

「・・・なあ、アイス。番って何?」

「・・・あー・・・それは、明日から俺がみっちりと教えてやる。ただ・・・身体は今、楽だろう?」

「うん」

「セックスしたことと、俺に頸を噛まれたからだ」

「・・・じゃあ、もうヒートは来ない?」

「それは、来る」

「何だ・・・また辛くなるんだ」

「そうしたら、また抱いてやる。ただし、他の男には抱かれるなよ」

「殴るから。今までもそうしてきたし」

どうやらアイスマンとグースの知らないところでも、危ないことはあったらしい。本当に、無自覚なオメガは厄介だ。けれども、その厄介さも愛おしいと思うアイスマンだった。

「明日・・・飛べるかなぁ・・・」

「明後日だな。我慢しろ。お前がマーヴェリックである限り、空は逃げない」

「んー」

「マーヴェリック。背中、いいか?」

「ん?」

アイスマンはマーヴェリックの背後に回り、右の肩甲骨に唇を当てる。そして、強く吸い上げた。

「うあっ・・・ん・・・」

やや暫くしてから離れると、肩甲骨の朱痕が残る。それをアイスマンは満足気に眺めた。

「な、何?」

「子羊が群れから逸れないように、な。印だ」

きっと。

マーヴェリックを抱く度に、同じように痕を残す。自分の所有の印を。

END

銀色の翼

「あ・・・う・・・んうっ・・・」

顎を上げて仰反るマーヴェリックの姿を眼下に眺めながら、アイスマンは口角を上げた。自分の腕に食い込む、その指すら愛おしいと思う。

「は・・・あ・・・」

アイスマンは自身を抜くことせずに、ぎゅうっと自分と同じくらいに鍛え上げられた、それでいて自分よりも小柄な身体を抱き締める。

「んー・・・んっ・・・」

腕の中で、マーヴェリックが苦しそうにもがいた。ただ、その口から漏れる声がそこはかとなく、甘い。

「満足したか?」

至近距離で、瞼が開き、綺麗な緑色の瞳がアイスマンを見た。

「・・・アイスは?」

「いくらでも、付き合うぞ’

「・・・少し・・・休みたい・・・」

「そうか。わかった」

少し枯れた声を出す唇に小さなキスを落としてから、アイスマンはゆっくりとマーヴェリックの身体の中から抜け出た。

「ふっ・・・あ・・・」

マーヴェリックの声を聞きながら、アイスマンは時計を見た。随分を長い時間、この身体を組み敷いていたと気付く。汗ばむ身体を冷やさないように、薄手のブランケットをかけてやりながら、空調をリモコンで調整する。冷えた部屋でブランケットに包まるのがマーヴェリックのお気に入りだった。

「水は?」

「いらない」

アイスマンがベッドを降りようとしたのを止めるかのように、手首を掴まれた。さほど力は強くない。本当なら、相当な握力の持ち主だが、今はすっかりと脱力している。

「・・・傍・・・いて・・・」

「わかった」

アイスマンがブランケットに潜り込むと、マーヴェリックはすぐさま腕の中の居心地の良い場所を見つけて、頭を落ち着かせた。汗ばむ額にかかる黒髪を撫で上げてやる。睫毛が揺らいで、緑色の瞳が自分を捉える。何か、言いたそうな、緑色の瞳。

「どうした?」

「・・・・・・・・・・・・昇進・・・おめでとう・・・」

たっぷりとした沈黙の後に、マーヴェリックが口を開いて言葉にしたのは自分への祝福の言葉だった。

「ああ・・・。ありがとう」

そして、再び沈黙が落ちる。祝福の言葉は、そこはかとなく、暗く、重かった。無理もない。出世をすれば、飛ぶことも少なくなる。

僚機。

そう言い合った、過去。共に空を駆けた過去。アイスマンは、自由に空を駆け巡るマーベリックを愛した。けれども、それと同時に、危うさも感じていた。

いつか、こいつは、翼を奪われる

と。

一匹狼は、秩序を守らない。それが彼の魅力でもあり、存在意義でもあった。空を飛ばない彼は、もはや彼ではない。彼が彼で無くなる日。そんな日が訪れることを許すわけにはいかない。

だから。

自分は、出世をすることを選んだ。愛する彼の翼を守るために。やんちゃな一匹狼を守り切る為には、権力が必要だった。自分の翼よりも彼の翼を大切に守りたかった。・・・マーヴェリックから銀色の翼を奪う者は、誰であっても許すわけにはいかないのだ。だからこそ、権力を求めた。

・・・彼に、言ったことはないけれども。

きっとマーヴェリックは不満なのだ。空から少しずつ離れていく、自分のことが。僚機が、空から離れていくことが。

「大丈夫だ。俺はウィングマークを手放す気はない」

「・・・でも・・・」

マーヴェリックは唇を噛んだ。存外、この狼は我儘なのだ。しかし、仕方がない。グースの死後、一層顧みずな操縦をするようになってしまったのだから。

時折、不安になる。飛んで。空を飛んで。そして、そのまま、グースの所へ行ってしまうのではないかと。むしろ、その為に飛んでいるのではないかと思う時すらある。それを地上に引き止め、繋ぎ止めるのも自分の役目、とアイスマンは思っている。飛ばせながらも、繋ぎ止める。矛盾した話だ。しかし、そうでもしなければ、この男は消えてしまいそうなほどの儚い存在なのだ。

「心配するな。俺は、空も翼も捨てない」

「本当に?」

「約束する。だから、お前も約束しろ」

「何を」

「必ず、地上へ戻れ。どんなに遠くへ飛んでもいい。しかし、必ず、戻ってこい」

「・・・・・・」

「何だ、その沈黙は。そんな約束もできないのか?」

「約束しなかったら、アイスは・・・」

「さあ、どうしようかな」

「っ・・・駄目だから!」

マーヴェリックは身体を起こすと、アイスマンを見下ろした。緑色の瞳に涙を溜めながら。

「・・・マーヴ?」

アイスマンも驚いて、上体を起こした。

「・・・アイス・・・空を捨てるなよ・・・翼・・・どんなに飛びたくても、飛ばなくなった奴だっているんだっ」

・・・ああ。やっぱり。グースのことだ。二律背反。本当はグースの為に翼を捨てるわけにはいかないくせに、それでいてグースの為に、無茶な飛び方をして、その傍に行こうとする。何という我儘な一匹狼。

「そうだな」

泣きじゃくるマーヴェリックを、あやすように抱き寄せる。右手で背中をトントンと叩きながら、左手で頬を撫でてやる。

「明日・・・飛ぶか」

「・・・フライト・プラン・・・提出してないぞ」

「お前が言うか?マーヴ」

ククッと笑いながら、アイスマンは小柄な身体を抱き絞めた。

**************************

なあ、知ってるか、グース。

お前がどれだけ、この銀色の翼に愛されているかを。

過去形じゃない。現在進行形でだ。

俺と同じ刻を生きながらも、お前の所へ行こうとする一匹狼。

俺は・・・きっと・・・死んでもお前には勝てない。

END

恋してる 愛してる

「まだ、終わらないか」

「ああ・・・中将。すみません。まだ、かかりそうなので・・・」

「さっさと始末書を書き始めないからだ。慣れているだろうに」

「だから、気を許しました」

「それでこの時間か」

「すみません」

「ミッチェル大佐。始末書は私のオフィスのデスクへ」

「イエッサー。・・・中将は、もうお帰りに?」

「ああ。・・・大佐はカワサキで来ているんだろう?」

「はい」

「だったら、先に帰って夕食を作って待っている」

サイクロンはニヤリと笑った。

「だったら、早く仕上げないといけませんね」

「そうしてくれ」

マーヴェリックも悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

「それじゃあ、大佐」

「お疲れ様です。中将」

マーヴェリックは大きな背中を見送ると、ラップトップPCに再び向かったのだった。

***

「お帰り。意外と早かった」

「お帰りって・・・ここは僕の家じゃない」

「1週間も、あの砂漠のハンガーに帰っていないのに?」

「貴方が帰してくれない」

「命令違反ばかりする狼は、目の届くところに置いておいた方がいい。ほら、手を洗って座って。料理が冷める」

「美味しそう。ああ、違う。ボーの作る料理は何でも間違いなく美味しい」

そう言って、マーヴェリックは洗面所に行き、手を綺麗に洗ってダイニングに戻る」

「別に、いつも作ってるわけじゃない。貴方が来る時だけだ」

「そっかぁ・・・じゃあ、もう1週間も夕食を作ってるんだ。・・・ごめん」

「どうして、そこで謝罪の言葉が出てくるんだ?」

「余計な仕事を増やしてるなって」

「料理くらい大したことはない。それよりも始末書の数を減らしてくれ」

「あー・・・努力します・・・」

明後日の方向を向いて、マーヴェリックは誤魔化した。けれども、いい匂いに釣られて、テーブルに視線を送る。

「今夜はチキンのロースト」

「赤いのは?」

「ベリーのソース」

「甘い?」

「お菓子ほどではないが」

「チキンとベリー。・・・ボーの思考が分からない」

「ちゃんとしたレシピがある」

「それ、覚えてるの?」

「ああ」

「僕には無理」

「F18のマニュアルを一晩で覚える人間なら、できるさ」

「そうかなぁ・・・」

「冷める前に」

「うん」

ナイフとフォークで切り取られたチキンがマーヴェリックの更に乗せられ、ベリーのソースでドレスされる。

「いただきます」

「サラダも」

「わかってるって!・・・基地でも、ここでもお小言かい?ご飯は美味しく食べたいんだけど?」

マーヴェリックはサラダのリーフレタスにフォークを刺す。

「まあ、地上ではそこそこお利口さんだからな、貴方は」

「始末書を書くので忙しいので」

「だから。始末書を書かなければなならないことをしなければいい」

「だよな。でも・・・たぶん、無理!あー!このソース美味しいな。チキンも柔らかい!」

誤魔化されたな・・・とサイクロンは思ったが、食事は美味しく食べる方がいい。それ以上の小言を言うことは控えた。食事中はあまり仕事の話はしない。ただ、お互いに飛行機乗りだから、やはり機体の話では盛り上がる。P-51の整備が終わったら、サイクロンを乗せて飛ぶと言う。それは楽しみだった。

・・・何故、この黒髪の狼は、砂漠の中のハンガーを棲家としたか。それは尊敬する、トム”アイスマン”カザンスキー海軍大将から聞いた。あそこは、アイスマンが天外孤独となるであろうマーヴェリックの棺なのだと。マーヴェリックが認めたお気に入りの大切なものを詰め込む、棺なのだと。ただ、敬愛する海軍大将は言った。

「あそこが・・・彼の本当の棺にならないようにしてほしい。ボー”サイクロン”シンプソン”中将」

と。

「ピート”マーヴェリック”ミッチェルを頼む」

と。

「彼から空が奪われることのないように」

と。

最初は酷く面倒なことを押し付けられたと思った。出会いは最低だった。けれども、あのミッションの2分15秒が、サイクロンの心を変えた。何故、海軍大将が、自分のキャリアを賭けるようなことをしてまで、このやんちゃな狼を守っていたのか。彼を目で追ううちに。日々、小言を言うたびに。時折、処分を言い渡すたびに。何故か・・・愛おしいと、思うようになったのだ。庇護欲。自分の立場を利用してでも、守りたいと思う存在となるのに、そう時間は掛からなかった。マーヴェリックも空を奪われなければ、存外に大人しいのだ。ただ、純粋、空と飛行機を愛しているのだ。そんなサイクロンの思いを知ってか知らずか、魔pーヴェリックも特段サイクロンに逆らうわけでもなく、自由を求めるが故の命令違反はするが、むしろ懐いた・・・と言ってもいいだろう。

「ボー?」

食卓は終わり、二人はリビングのソファで食後のコーヒーを楽しんでいた。手動のコーヒーミルでマーヴェリックが挽いた豆を、サイクロンが丁寧にドリップした。コーヒーメーカーもあるが、時間と手間をかけたコーヒーの方がサイクロンは好きだった。最初、そんな淹れ方をしたコーヒーを飲ませたら、

「美味しいけど・・・めんどくさっ!」

と言われたのはいつだったか。それに対してサイクロンは、

「戦闘機だって、時間をかけて、手間をかけて整備した機体の方がいいだろう」

と返したのだった。

「そっかー。そういう例えだったら、分かるな」

と納得するマーヴェリックが可愛らしかった。

説教。お小言。処分。そんなことばかり、マーヴェリックに対して行っている自分に嫌気が差すこともあったが、マーヴェリック自身は気にする風でもなく、サイクロンを慕った。・・・海軍大将が亡くなってからは、一層に。そう、感じた。彼に、問うたことはなかったけれども。

そんな傷心の年上の部下を、手に入れるために、サイクロンは慎重に行動した。少しずつ距離を詰めた。

「・・・ボーは、どうして戦闘機から降りたんだ?」

「・・・それは・・・」

男としての出世欲か。階級社会の中での上昇思考か。おそらく両方だろう。しかし、後悔はしていない。戦闘機乗りだけでは、海軍は組織として成立しないからだ。誰かが空から降りて、組織を統べなければならない。それに、今は、ピート”マーヴェリック”ミッチェルを守らなければならない。守るためには、権力が必要だった。敬愛する海軍大将のように。だから、満足しているのだ。

「・・・アイスは・・・僕のために空から降りたって言ってた。冗談だと思うけど。やっぱ、あいつも出世したかったんだよなぁ・・・」

手の中でコーヒーカップを弄びながら、マーヴェリックは言った。

冗談ではなかった。海軍大将は、本当にマーヴェリックのために空から降りた。彼を守るために。彼を飛ばせるために。今は自分がその役目を負う。押し付けられたとはもはや思ってはいない。こういう運命だったのだろう。空を駆ける黒い狼は魅力的だった。その姿に惹かれた。空を見上げる姿が愛おしいと思った。

だから、その手を取り、抱きしめてしまった。

最初は驚いていたマーヴェリックも、間を詰めていた関係に慣れていたのか、素直にサイクロンの身体に寄りかかった。

マーヴェリックがサイクロンのことを「シンプソン中将」ではなく「ボー」と呼ぶのに時間は掛からなかった。サイクロンもまた、「マーヴェリック」と呼ぶよりも「ピート」と呼ぶ方がしっくりときた。キスも身体を重ねることも、慣れたように、マーヴェリックは受け入れた。サイクロンはその身体を大切に扱う。海軍にとって必要な戦闘機乗りだから。海軍大将から託された、大切な人間だから。しかし、サイクロンにとっては、それ以上の存在となっている。宝石箱に閉じ込めておきたいほどの宝物だった。

「ボー?僕は質問してるんだけど?ずっと考え込んでる」

「ああ、それは悪かった。ただ、思い出していただけだ。カザンスキー大将のことを」

「アイスのこと?」

マーヴェリックに眉間に皺が寄ったが、サイクロンは気づかなかった。

「君は敬愛するトム”アイスマン”カザンスキー大将から預かった・・・」

カシャンっ。

乱暴にテーブルに置かれたコーヒーカップ。唇を噛み締めて、立ち上がるマーヴェリック。

「ピート?」

「・・・帰る」

ジャケットを取り、それを着ながら玄関に向かう。

「ピート!」

サイクロンがマーヴェリックの腕を掴む。

「触るな!」

「一体、どうした!?急に!」

「うるさい!」

マーヴェリックは1週間ぶりにカワサキに跨ると、振り向くこともなく、サイクロンの前から走り去ったのだった。

***

住居にもなっているハンガーに戻る。

鈍く光るP-51マスタングの機体をそっと撫でた。

「・・・少し、ほったらかしちゃったなぁ」

サイクロンの家にいたのはどのくらいだったろうか。たぶん、1週間かそこら。マーヴェリックが毎日丁寧に整備している機体を放置してしまうほどに、サイクロンの家は・・・否、サイクロンの傍は居心地が良かったのだ。

それなのに。

彼は言った。マーヴェリックのことを。

「君は敬愛するトム”アイスマン”カザンスキー大将から預かった・・・」

と。

自分がアイスの僚機でなければ、今頃自分はサイクロンの傍にはいない。アイスの僚機だから。アイスに託されていなければ、サイクロンは自分の傍にはいない。

アイスの存在は関係なく、マーヴェリックはサイクロンを信頼した。惹かれた。恋した。そして、愛した。愛したから傍にいたいと思った。だから、傍にいた。

ああ、それなのに。

マーヴェリックは深い溜息を吐いた。そんな時、彼の鋭い耳はエンジン音を捉えた。

「ああ・・・来たんだ」

たぶん、こうなると思っていた。捨て台詞を吐いて、シンプソン邸を飛び出したのだ。アイスから預かった自分を見届けるという義務感。責任感。

ハンガーの扉の隙間から見えたヘッドライトの光が消えた。そして、ドアの閉まる音と、足音。

「マーヴェリック」

「・・・・・・別に・・・僕の帰る場所はここしかないから。貴方が心配することはない」

「それでも、だ」

「敬愛するトム”アイスマン”カザンスキー大将から預かった・・・」

サイクロンの家で聞いた言葉がリフレインする。けれども、言いたいことは全て、サイクロンの家で吐き出した。今はもう、空っぽだった。話を蒸し返す気もない。

「・・・コーヒーでも?」

マーヴェリックはサイクロンの顔を見ずに言った。

「ああ、貰おう」

居住スペースに向かえば、何も言わずにサイクロンもついてくる。2、3度来たことのある場所だ。マーヴェリックがコーヒーの準備を始めたのを見ると、サイクロンはまるで我が家のように古ぼけたソファに腰を下ろした。

「・・・貴方の家とは違うから、ミルは電動だよ」

「気にすることはない」

「・・・・・・」

別に言い返すこともなく、気分を害することもなく、マーヴェリックは二人分の豆を電動のミルに入れた。異質な感じのする機械音。それでも、挽きたての香りがサイクロンの鼻をくすぐった。サイクロンが好きで常備しているのと同じ豆の香り。

時間をかけてドリップしたコーヒー。

マーヴェリックは、ファイヤーキングのマグカップに入れたコーヒーを無言でサイクロンに渡した。サイクロンも無言で受け取る。マーヴェリックはソファではなく、簡易的なダイニングテーブルの椅子に座った。

無言の時間が過ぎる。

けれども、サイクロンにとっては無意な時間ではない。

謝罪と贖罪を。

「・・・悪かった。・・・もっと、言葉を選ぶべきだった」

「選んだところで、貴方の放った言葉は消えない」

「違う。言葉が足りなかったということだ。・・・君も最後まで聞かずに飛び出ていくし」

「僕が・・・悪い?・・・一方的に?」

「君は、何一つ悪くはない。悪いのは、私だ」

「・・・・・・」

サイクロンはローテーブルにマグカップを置くと、立ち上がってマーヴェリックに近づいた。

「確かに、カザンスキー大将から君のことは託された。ただそれは、君から空を奪わないで済むように、だ」

「・・・昔の仲間が言ってた。アイスは僕の守護天使だって」

「その役目を私が引き継いだ。・・・後悔したよ、正直」

マーヴェリックは唇を噛む。

「けれでも、アヴィエタイターとして、君を素晴らしいと思った。そして、惹かれた」

「飛行機乗りとして?」

「最初は。・・・けれども、恋をした。君自身に。そして、愛した」

「アイスが僕を貴方に託した、その責任感?」

「それは違う。カザンスキー大将に託されたのは君の処遇だけだ。愛することは含まれていない。私が君に恋して、君を愛したのは、私の意志だ」

「じゃあ、何でアイスのことを引き合いに出したんですか」

「それは私のミスだ。それと、最後まで君が私の言葉を聞かなかったせいだ」

「・・・僕が悪い?」

「悪くない」

「・・・・・・」

「マーヴェリック」

伸びたサイクロンの掌が、マーヴェリックの頬に触れる。それが振り払われることはなかった。

「今度は最後まで聞いてほしい。私は、こう言いたかった。君は敬愛するトム”アイスマン”カザンスキー大将から預かった・・・大切な、私の宝物だ」

「!・・・」

マーヴェリックはまじまじとサイクロンを見つめた。

「君は私のかけがえのない、宝物だ。だから守りたいし、守らなければならない」

サイクロンの親指がマーヴェリックの頬を往復するように撫でる。マーヴェリックは、ようやく唇を開いた。

「僕はアイスに惹かれた。恋した。愛した。・・・身体も繋げた。・・・だから、貴方に対して何処か後めたい思いがあった」

「・・・まだ、カザンスキー大将に恋心を?」

マーヴェリックは首を横に振った。

アイスにはサラっていう奥さんができた。それで、僕たちは友人になった。かけがえのない友人に。・・・今、僕が恋してるのは貴方で、愛してるのも貴方で・・・」

「カザンスキー大将のことも含めて、私は貴方を愛している。あの方あってこその、ピート”マーヴェリック”ミッチェルなのだから。あの方が守らなければ、君はここにはいない。私は君と出会うことさえできなかっただろう」

「・・・アイスって・・・守護天使じゃなくて、キューピッドだったんじゃないか?・・・ははっ」

ようやく、マーヴェリックが笑顔を見せた。

「・・・中将・・・」

階級で呼ばれ、サイクロンは指でマーヴェリックの唇を優しく押した。

「・・・ボー・・・」

サイクロンも柔らかい表情でマーヴェリックを見る。

「・・・ボー・・・ごめん。・・・ちゃんと貴方の言葉を最後まで聞かなくて・・・」

「誤解は・・・解けたということかな?」

マーヴェリックはこくりと頷いた。そして立ち上がると、両手をサイクロンの肩に置き、ぽてんっとその逞しい胸の頭を預けた。

「本当に、ごめん」

「貴方が謝る必要はない。私が誤解をさせた」

「・・・でも、ごめん」

戦闘機を操るのはレジェンドと呼ばれるほどに巧みなのに、人の心の機微には完全に疎い。そういう人間であることを、サイクロンは忘れていたのかもしれない。あまりにも二人の関係が順調だったから。そう、思い込んでいたから。もしかしたら、自分の思いとは裏腹に、この黒髪の一匹狼は、心の何処かでよくわからない感情を抱え込んでいたのかもしれないのだ。

マーヴェリック故に。

「・・・ボー・・・仲直り・・・する?」

「ああ、是非に」

サイクロンはマーヴェリックの脇下に手を入れるとグッと持ち上げて、木製のダイニング・テーブルに座らせる。

「え・・・ここ?」

「まずは」

マーヴェリックの身体を押し倒し、指を繋ぎ、テーブルに止めてしまう。マーヴェリックも抵抗らしい抵抗もせず、静かにサイクロンを見上げる。瞳の色は緑。マーヴェリックにはよく分からないが、違う緑色だと彼は言う。「貴方の瞳の色は様々な緑に変わる」と、言われたことがあった。自分ではよく分からないし、そもそも自分の容姿にあまり興味がない。マーヴェリックが好きなのは、空と飛行機と生死を共にした仲間。今は亡きアイスマンにグース。・・・そして、可愛いブラッドリー。今は随分と大きくなって、自分の僚機としてミッションに参加もした。マーヴェリックの交友関係の範囲は、驚くほど狭い。狭いが故に、一度関係を繋げば、それが深くなることもある。サイクロンも関係を深くした数少ない人間の一人だった。そんなサイクロンの唇がマーヴェリックに降りる。重ねて、そっと吸い上げる。確かめるように。言い方は悪いが、マーヴェリックの反応が気になる。本当は、まだ、怒っているのではないかと。自分の不用意な言葉に。

「・・・ボーとアイスは違う・・・」

唇の隙間からマーヴェリックが呟いた。

「僕はアイスを愛した。アイスも僕を愛してくれた。・・・でも、僕とアイスは、それ以上に・・・僚機なんだ。それが僕たちの関係を一番に正しく表現する言葉だと思う」

自分の身体の下で、敬愛する大将の名前を出しても、何故か嫉妬の思いは込み上げてこなかった。それよリモ、拙い口調で一生懸命に話す人が愛おしい。

ああ、そうだ。この感情だ。愛おしいと。そう思ったはいつのことだったか。自分よりも年上のくせに、やんちゃで無謀な飛び方をする部下。カザンスキー大将に託されながらも、最初は嫌味と小言で、そのうち怒鳴って、その行動を諌めるようになった。それでも、ピート”マーヴェリック”ミッチェルは変わらなかった。次第に命令違反よりも、彼の身体を、生命を心配するようになった。そして芽生えた、愛おしいという感情。

「・・・でも、ボーは違う。・・・上司だけど、何だか、ごめん。僕にとっては、ボーが僕を叱るたびに・・・嬉しくなってて・・・。ああ、凄く心配されてるんだなって・・・。それ・・・アイスと違うんだ。・・・アイスも僕を叱ったけど、やっぱり何処か共犯だったんだ。でも、ボーは・・・違ってたら、ごめんなんだけど・・・僕を・・・アイスとは違う方法で、僕を愛してくれた。・・・違う・・・かな?」

「過去形なところを除けば、合ってる、ピート」

「・・・アイスは、僕をピートとは呼ばなかった。いつだって、マーヴェリック。やっぱり、僚機なんだよ。僕とアイスは。だから・・・ボーは違うんだ・・・」

ダイニング・テーブルからぶらりと落ちている自分の脚の内側を、マーヴェリックはサイクロンの腰に軽く擦り付けた。

「・・・好きだよ、ボー。ボーも僕のことを好きになってくれたら・・・嬉しい」

「ずっと前から、貴方が好きですよ、ピート」

好きだと言い合い、身体を重ねてきたくせに、今改めて「愛している」と痛感する。

「ベッドへ」

「ん・・・でも、ボーのベッドみたいに、スプリングは良くないよ?」

笑ってマーヴェリックが言う。サイクロンはマーヴェリックを引き起こし、テーブルから下ろした。手を引き、隣の部屋に誘う。しばらくの間、住人がいなかった部屋は、何処か埃っぽく、湿っていた。背徳的な空間だった。

踵を上げたマーヴェリックが、両手でサイクロンの頬を包み、キスをする。サイクロンは両手を動かし、腰から尻を撫でるように摩る。

「ふっ・・・ん・・・」

唇の隙間から二人で酸素を補給する。サイクロンの長い指が器用にベルトを外し、ジーンズのボタンも外す。そのまま手を入れると、すぐに肌の感触を遠ることができる。動きの邪魔にならない、という理由で、いつもTバックを身につけているからだ。そんなこと、自分以外の人間には知られたくはない。敬愛する大将は別として。

マーヴェリックも自分の手もサイクロンの頬から、糊の効いた薄いブルーのシャツへと動く。キスを続けたまま、ボタンを外す。素肌に手を這わせ、その感触を楽しむ。それから、スッと身体を離すと、マーヴェリックは床に膝をついた。すぐに意図を理解し、サイクロンは前をくつろげる。履かない主義のサイクロンのそれに、マーヴェリックは口付けた。雄の匂いがする。

「無理はしないように」

「させてくれないよね」

言いながら、大きなものを頬張る。絶対に根元までは飲み込めない。上の口では。

唇と舌と器用に使って愛撫する。そうすることがマーヴェリック自身を昂らせる。サイクロンがそんな狼の黒髪に指を差し込んだ。艶やかな短髪。付き合い始めた頃はパサついていた。何せ、「面倒臭い」という理由で、ボディソープで髪も顔を洗っていたのだから。一緒にシャワーを浴びた時には驚いた。素材がいいのに勿体無い。本当に、空と飛行機以外には興味がない。

けれども、今は、自分にも興味をもってもらえているだろうか。かの海軍大将ほどではないにしても。

睫毛が揺らいで、サイクロンを見上げてくる。

「・・・ピート。そろそろ貴方の中に入っても?」

マーヴェリックはゆっくりと口を外すと綺麗に笑った。そして、スニーカーもジーンズもTシャツも脱ぎ捨てると、無自覚に尻を見せつけるようにしてベッドに上がった。すぐさまサイクロンも追う。高く上げられた腰。尻の割れ目に隠れる黒いストリングに指を引っ掛ける。脱がすつもりもなく、サイクロンは、自分を受け入れてくれる場所に舌を差し込んだ。

「んっ・・・やっ・・・それ、いらない・・・」

逃げるように腰が動く。しかしサイクロンは、それを両手で押さえ込んだ。逃がさない。

「・・・そんなこと・・・しなくても・・・んっ・・・あ・・・ほんと・・・や・・・」

サイクロンに対する遠慮から、いつもそんなことを言う。けれども、この美しい戦闘機乗りを無意味に傷つけるわけにはいかない。サイクロンは一層、丁寧に濡らす。指も一緒に差し込みながら。

「ボー・・・っ・・・無理・・・我慢・・・無理・・・お願い・・・ンンッ・・・」

マーヴェリックの指がシーツをぎゅうっと掴む。快楽からはもう逃れられない。

「はっ・・・あ・・・ボーが・・・言ったくせに・・・」

「確かに」

サイクロンはマーヴェリックの尻たぶをきつく吸い、そして体勢を整えた。親指で尻を開きながら、しっかりとホールドする。そして、大きな自分を当てがい、グッと押し込んだ。

「ひっ・・・あ・・・あああっ・・・」

身体が二つに引き裂かれるような感覚。それでも愛しいものが体の中に入ってきているのだと思うと、痛みは感じない。

男の身体ゆえに、終着点はない。サイクロンの長さの分だけ、奥を蹂躙する。ガツガツと突きながら、時折、狼の背中にキスを送る。そうして、サイクロンはまーvエリックのウエストに腕を回し、その身体を引き起こした。胡座を描いた自分に座らせるように。一気に終わりのない奥に入り込む。根元まで。しっかりと。

「やっ・・・ああああーっ・・・あっあっあっ・・・」

大きく脚を開いたマーヴェリック身体。右手が上から後ろに回される。ダークブラウンの髪を指先が撫でる。サイクロンの手のひらがマーヴェリックの下腹を押した。

「っ・・・あ・・・やっ・・・ああ・・・」

言葉にならない声。それは、甘く溶けるような音。サイクロンはマーヴェリックの左耳に顔を寄せる。今は塞がったピアスの穴が視界に入る。そして目を細めて、耳朶を唇で喰んだ。

「ああ。そうだ。ピアスを贈ろう」と、サイクロンは思った。エメラルドの小さなピアスを。だったらピアスホールは2つ並べて開けるといい。一つは自分。そしてもう一つは敬愛する海軍大将。

「・・・ボー・・・あ・・・好き・・・」

いつの間にか身体から力の抜けた動物が腕の中にいる。Tバックの前はしっとりと濡れている。

「私は、愛してる」

そう言って、サイクロンはマーヴェリックの中に白濁を解き放った。

***

数日後。

「痛くはない?」

「平気。昔、開けた時も平気だった。まあ、この年齢になって、またピアスホールを開けるとは思わなかったけど。でも、なんで二つ?」

「貴方には必要でしょう。・・・嫌だったかな?」

「・・・それは、いいんだけど・・・。ボーは嫌じゃないのかなって」

マーヴェリックの左耳に、小さなピアスが二つ並んでいる。エメラルドはサイクロンが贈った。サファイアはハンガーにある祭壇とも言える場所に置いてあった、小さな箱の中にあったものだ。

「ピートが認めてくれるのであれば、貴方の守護天使は二人だ。好きなだけ空を飛んでも安全だ」

「そう言うわりには、お小言が多いし」

「それは貴方が命令違反をするから」

「好きに飛んだら、そうなる」

「大丈夫。貴方から空を奪うことはしない」

「ふーん。意外な発言。さっき、1週間の謹慎って言ったの誰?」

「だから。それは貴方が命令違反をするから。1ヶ月のところ1週間にしたのは私だ」

「あ、そうなんだ。ありがと、ボー。じゃあ、少しはお利口さんにしてるよ」

「整備士に混じって仕事をするのは大人しくするとは違う」

「えー・・・つまんない」

どうやら、本気で謹慎中に整備の仕事をする気でいたらしい。

「大人しくしていないと、ベッドに繋ぐという手も」

「それは、勘弁して」

「だったら、礼儀正しく、教官の仕事を」

「え?」

「貴方の今週のミッションだ。ひよっこたちを鍛えるように。彼らを死なせないために」

「・・・優しいよね、そういうところ」

「そろそろ、時間だ。一緒に?」

「うん。どうせ、行き先は同じだから」

サイクロンの車で基地に向かうべく、マホガニーのダイニング・テーブルから立ち上がる。今朝のコーヒーはサイクロンが淹れた。ただし、手動のミルで豆を挽いたのはマーヴェリックだ。わりといつもの朝のように。違ったのは、太陽に光で煌めく、マーヴェリックの耳にある二つの小さな宝石だけだった。

END

Happy Present

「フィンランドのサンタクロースに、もう手紙は書いたのか?」

ホッチは朝食のコーヒーを飲みながら息子に尋ねた。

「うん!とっくに書いたよ!」

ジャックは明るく応えた。

「父さんには見せてくれないのか?」

「内緒だもん。僕とサンタクロースの秘密なんだ」

「・・・そうか」

そんなジャックの返答を聞いて、ホッチは困る。これでは、クリスマスまでに息子の為のプレゼントを用意することができない。正直、困る。去年までだったら、いつも嬉しそうに教えてくれるのに。今年は秘密とは。

「せめて、ヒントをくれないか?ジャック」

「やだよ。これは絶対に内緒の絶対に秘密のクリスマスのお願いだから。とっておきなんだ」

とっておきのプレゼント。どうやら、いつものヒーローグッズではなさそうだ。ホッチは心の中で頭を抱えた。

***************************

「内緒のクリマスプレゼントなの?」

リードはホッチの運転する車の助手席で首を傾げた。

「ああ、そうなんだ。だから、困ってる。一体、何を靴下に入れたらいいものやら。まあ、大きなものなら、クリスマスツリーの下だが・・・」

「ふうん・・・。でも、きっと、ものすごく欲しいものなんだろうね」

「だからこそ、困ってる。ヒントもくれない」

「・・・僕から、聞いてみようか?もしかしたら、ちょっとはヒントをくれるかも」

「そうだな。そうしてくれると助かる。ジャックもリードには懐いているし、勉強も教えてもらっているし、何か言うかもしれん」

「うん、わかった。それとなく聞いてみるね」

仕事が終わり、二人は車でホッチの家へと向かっていた。夕食を3人で食べるのと、リードがジャックの勉強を手伝うためだ。科学のプレゼンテーションがあって、ジャックがリードにアドバイスを願ったのだ。

「今日は冷えるから、ビーフシチューだ。食べられるな?」

「大丈夫。僕、好き嫌いはないよ?」

「俺がいないと、まとも食事も取らないくせに」

「だって、面白い本があると・・・つい・・・・・・ごめんなさい」

「別に謝ることはない。ビーフシチューには人参も入っているからな」

「もうっ。食べられるってば!そんなにお子様じゃないよー!」

「ははっ。そうだな。しかし、リードが野菜を食べると、ジャックも嫌がらずに食べるからありがたい」

「ふふっ。ちょっと野菜の好き期待があるもんね。ジャックは。でも、大丈夫。大人になったら、味覚って変わるから」

「だといいが」

ホッチは車をガレージに入れた。

***************************

「うわぁ!リード、いらっしゃい!!!!」

破顔したジャックがリードを迎え入れた。

「ダッドもおかえりー。あのね、ビーフシチューを少し温めておいたよ」

「父さんがいないときに、キッチンを使ったのか?」

「それくらい、できるもん。でも、ナイフは使ってないよ?だから、サラダは、まだ」

「じゃあ、僕がサラダを作るね」

リードが袖を捲る。

「リードが作ったサラダなら、僕、食べる!」

「ええ?お父さんが作ったサラダは食べないの?」

「・・・だって、細切りの人参とかピーマンとか入ってるし・・・」

「今日のビーフシチューだって人参が入ってるよ?」

「・・・煮込んでるから、大丈夫。それにリードがいるから」

「僕、関係ある?」

「あるよー!!」

「ほら、二人とも、夕食にするぞ。リード、サラダを頼む。俺は最後の仕上げをするから」

「うん。ほら、ジャック、レタスを千切るのを手伝ってくれる?」

「はーい!!」

そんな二人の姿を見て、まるで母親と息子だな、とホッチはかすかに笑った。

ビーフシチューにイギリスパン、それにリードとジャックが作ったサラダ。人参が若干少なめなのは、まあ良しとしよう。

「ねえ、リード。夕食が終わったら、僕の科学のレポートとプレゼンテーションを見てくれる?明日、覇票なんだ!」

「OK。もちろんだよ。そうそう。人参をしっかりと食べると、賢くなるよ?」

「ええ?嘘だぁー」

「本当だよ。僕は人参を食べるようになって、勉強もすっごくできるようになったから」

「そうなんだー。そっかー。リードが言うなら間違いないよね。うん、わかった!僕、食べる!」

そう言って、ジャックはビーフシチューの中に少し大きめな人参にフォークを刺したのだった。

***************************

「どお?」

「いいね。よくまとまっているレポートだと思うよ。そうだな、この辺りに、根拠となるデータを添付するといいかも。スライドショーは完璧だね」

「ありがとう!!」

ジャックの部屋で、リードはレポートとプレゼン資料を見て、アドバイスをした。しかし、さすがホッチの息子。たいしてアドバイスすることはなかった。優秀で本当に賢い。

シャックは、デスクの上を片付け始めた。その様子を見ながら、リードが尋ねる。

「ねえ、ジャック。クリスマスは楽しみ?」

「え?あ、うん!もちろん!だって、サンタクロースが願い事を叶えてくれるんだよ!」

「願い事っていうか、プレゼントをくれるんじゃないかな?」

「プレゼントって願い事の1つでしょ?」

「うーん。まあ・・・そうかな。・・・ねえ、ジャックの欲しいものって、靴下に入るの?」

「入らないよ」

ヒント、ゲット。リードは心の中でガッツポーズをした。

「じゃあ、クリスマスツリーの下に置くしかない物なんだね」

「えー・・・それもないかなぁ・・・。それだったら、ちょっと怖い」

「え?ツリーの下に置けないの?」

「うん。それだと死体みたいになっちゃう」

「し、死体?」

これはヒントか?そうではないのか?リードは眉間に皺を寄せた。

***************************

「・・・それは・・・等身大のヒーロー人形とかか?」

「わかんない。けど、可能性はあるけど・・・でも、違うような気もする。だって、ジャックはヒーローに憧れてるけど、一番のヒーローはホッチ、貴方でしょ?ホッチの等身大マネキンとか欲しがらないでしょ?本物が側にいるのに」

「・・・迷宮入りだな。・・・頼む、リード。クリスマス・イブはうちに泊まってくれ。俺は25日の朝が怖い」

「困っちゃったね。ジャックの欲しいものがわからない。とにかく大きいってことだけ」

「それと・・・置いたら死体になる・・・か。わからん」

「でもさ、ジャックは絶対にサンタさんに貰えるって自信があるみたい」

「親の欲目だが、いい子だからな」

「そう。本当にいい子。・・・だから、あげたいよね。ジャックが本当に、欲しい物」

「ああ・・・」

しかし、二人ともジャックの欲しい物に検討がつか図、溜息をつくばかりだった。

***************************

「等身大のアイアンマンとかスパイダーマンの人形をあげたらいいんじゃね?」

「あら、等身大のバービー人形かもよー」

「女の子じゃないんだから」

「女の子じゃないから、欲しいってこともあるだろー」

などと、無責任な発言をするBAUメンバーたちに囲まれつつ、事件も解決しながら、とうとうクリスマス・イブの日がやってきた。ホッチやリードのみならず、BAUの仲間たちも探りを入れてくれたし、なんだったらJJが息子を使って聞き出そうともしてくれた。しかし「これは絶対の秘密のプレゼントだから」となかなか口を割らないジャックだったのだ。

「クリスマス・ディナーは完璧なんだがな」

「そうだね。ホッチはジャックの食べたいもの全部用意したもんね。あ、僕は空想科学読本の本をあげることにしたよ」

と、リードがラッピングされた四角い物をホッチに見せた。

「空想科学?リードらしくいないな」

「そお?でもさ、これもしヒーローが実在したらどうなるかってことを科学的に検証した本なんだよ。元々はジャパンの本の発想なんだけど、それのマーベル版って感じ?」

「そうか。しかし・・・」

「ホッチ、気を落とさないで。ジャックはいい子だから、貴方が用意したものをジャックは喜ぶよ?」

そんなホッチが用意したのは、等身大ではないが、あらゆるマーベルヒーローたちのフィギュアだったのだ。

「ねーねー、ダッド!リード!ディナーにしようよ!」

キッチンでこそこそしている二人に、ジャックが声をかける。

「あ、ああ、そうだな」

「い、今、行くね」

***************************

ホッチお手製の豪華で美味しいディナー。3人での楽しい会話。独りぼっちのクリスマスが多かったリードには新鮮で嬉しかった。きっとホッチとジャックも二人でささやかなクリスマスを過ごしていたのだろう。リードは赤ワインでほろ酔い気分になりながら、ハンサムな父親と活発なその息子を、ニコニコとした笑顔で眺めたのだった。幸せだなぁ・・・と思いながら。

「じゃ、僕はもう寝るね!早く寝ないとサンタさんがきてくれないから!」

食事を終え、片付けを手伝い、風呂と歯磨きをしたジャックが、そう宣言する。ホッチとリードがそれぞれジャックの頭にお休みのキスをする。

「おやすみ」

「おやすみー」

軽快に階段を上がって行くジャックを二人は見送った。ドアのパタンと閉まる音で、ふーっと溜息をつく。

「・・・プレゼント・・・置こっか?ホッチ」

「・・・ああ・・・そうだな」

マーベルヒーロのフィギュアと空想科学読本。それからBAUのメンバーたちから預かったプレゼントを、クリスマスツリーの下に並べる。

果たして、この中に正解はあるのか。

「大丈夫だよ、ホッチ。今から、そんな顔をしないで」

「ああ・・・そうだな。・・・せっかく、リードもいるんだし、これから大人のクリスマスをするか」

「大人のクリスマス?」

「ああ。良いシャンパンがある。それにチーズ。シャンパンに合うチョコレートもあるぞ」

「いいね」

「それらをトレイに乗せて、寝室に行こう」

「え?ベッドの上で、飲んで食べるの?お行儀悪くない?」

「いいんだ。大人のクリスマスだからな。さあ、準備を手伝ってくれ」

「OK!」

寝室で大人のクリスマス会が始まる。シャンパンを飲みながら、軽いスキンシップやボディタッチ。それがいつしか、冗談ではない、本物になる。

「は・・・あ・・・ダメ・・・だよ・・・ジャックが・・・いるんだからぁ・・・」

「もう、眠ってる」

「でも、起きちゃうかも」

「サンタを待つ良い子だから、絶対に起きない」

「なあ・・・に・・・それ・・・んっ・・・」

耳朶を甘く噛まれて喉奥から声が出そうになる。これまでもホッチの家の寝室で抱き合ったことはあるが、それはジャックがお泊まり会や合宿で不在の時だ。ジャックが在宅している時に、この部屋でリードがホッチに抱かれたことはない。それはリードが自分で決めたルールでもあった。それが今、破られそうになっている。

「ホッチ・・・ホッチ・・・だめ・・・ねぇ・・・だめ・・・」

「ダメじゃない」

ホッチは強い力でリードをシーツに縫い留める。

「声・・・出ちゃうもん・・・」

「我慢できるか?」

リードは首を横に振った。

「・・・自信ない・・・」

「そうか」

ホッチは静かにゆっくりとリードの身体を裏返した。そして首の後ろを舐め上げる。

「ひ・・・んぐ」

リードは声を出しそうになった瞬間、シーツを噛んだ。

「それでいい。それなら、ジャックにも聞こえない」

ホッチは顔に笑顔を貼り付けながら、丁寧にリードの衣服を剥いでいった。至るとこを吸った李、舐め上げたりしながら。確実に朱痕を残しながら。

「ぐ・・・く・・・・んグゥ・・・」

「可愛らしい声で哭くリードもいいが、こうして堪えているのもいいな」

「んっんっんっ・・・んんっ・・・んっ・・・」

リードの身体を背後から揺らしながら、ホッチが耳元で囁く。指先で乳首をキュッと摘むと、リードの体が跳ねた。楔を打ち込まれている白い尻を、ホッチの腹に擦り付けるように動かめかす。可愛らしいこと、この上ない。シーツに白い精を解き放つリードを見ながら、ホッチのその体内に白濁を押し込むように注いだのだった。

***************************

「ふ・・・ん?」

ほわん・・・とした気持ちでリードはゆっくりを目を覚ました。

「何処だっけ?」

と眼球を動かして、周囲を確認する。

「・・・あ・・・あ!!!!!!」

リードは怠い身体をなんとかベッドの上に起こした。自分の身体もシーツも綺麗だ。ホッチが全て後始末をしてくれたのだろう。いつものように。

ホッチの寝室には、幾ばくかの自分の衣服は置いてある。チェストの引き出しを開けて下着を出すが、肝心のトップスとボトムがない。仕方がないので、椅子にかかっていた、ホッチのシャツを羽織る。昨日、脱がされた服をも当たらないからだ。すでに部屋のホッチはいない。きっとすでに階下なのだろう。

「ああっ!ジャックのプレゼント!!!」

リードはシャツのボタンを留めながら、寝室を慌てて出て、1階に降りる。そこには、クリスマスツリーの下で体育座りをしているジャックと、その姿を項垂れるようにして見下ろすホッチの姿があった。どうやら、マーベルのフィギュアはハズレだったらしい。しかし、黙っているわけにもいかない。

「・・・お、おはよう、ジャック、ホッチ。えっとジャック?サンタさんに何を貰ったか見せて教えてくれる?」

そうリードが言った瞬間、ジャックは立ち上がり、顔に満面の笑みを浮かべて、リードに走り寄ってきたのだった。そして、リードの腰の辺りにしがみつく。

「ジャ、ジャック!?」

ジャックを身体を抱きしめがら、その向こうにホッチを見る。ホッチは何故か驚いたような顔をしていた。

「やっぱり、サンタさんにお願いしてよかった!!!」

「え?何?どういうこと?ジャック?何をお願いしたの?やっぱり、マーベルのフィギュアが嬉しかった?」

「違うよ!僕は、サンタクロースに、『リードがママになって欲しい』ってお願いしたんだ!」

「へ?」

「クリスマスの朝になって、起きてもリードがいなかったから、きっと僕、悪い子だから、サンタクロースはお願いを聞いてくれなかったんだって思ったの!でも、こうしてリードが家にいてくれるってことは、リードは僕のママになってくれるってことだよね!?」

「えっと・・・その・・・」

ジャックのフォローのために泊まったとは言えない状況だった。そして、気づけばホッチが近くにいた。

「そうだ。ジャック。リードはジャックのママになってくれるんだよ。父さんがちゃんとお願いしたから」

ホッチが息子の頭をポンポンと愛情を込めて軽く叩く。

「ありがとう!ダッド!」

「ちょっと!ホッチ!」

「それじゃあ、朝食にしようか。ジャックは何がいい?」

「リードママのの作ったパンケーキ!」

「そうか。作ってくれるか、リード?」

「・・・つ、作るよ・・・作るんだけど・・・」

「僕、エプロン、持ってくるね!」

タタタっとジャックが駆けて行く。

「・・・ホッチ?どうしよう・・・」

「どうもこうも。リードが下に降りてくるまで、ジャックは意気消沈してたんだ。自分は悪い子だからお願いを聞いてもらえなかったって。何をお願いしたかも教えてくれなくてな。しかし・・・リードママとは。確かに、ツリーの下でリードが横になってたら、死体だな」

「そういうことじゃなくて!」

「・・・今日は買い物に行こう。指輪を買わなくてはな。ああ、それと、色々と順番が逆になったが・・・リード、結婚しよう」

「・・・それ、決定事項?」

「先にママになったがな」

「ジャックのことは悲しませたくない。でも・・・」

「今日はクリスマスだ。嫌な言葉はなしで」

「・・・いいの?僕で」

「俺もジャックも君がいい」

「・・・ありがとう。・・・なんだか、僕にとっても最高のクリスマスかも・・・」

「Merry Xmas、リード。そして、愛してる」

「うん。僕も・・・」

二人の唇が重なろうとした瞬間。

「リード!エプロン持ってきたよー!!!」

「あっ、ありがとうっ」

慌てて離れる。けれども。

「ダッドもママは、おはようのキスしてもいいんだよ?」

そんなジャックの言葉に赤面するリードだった。

 Happy Merry Christmas !

END

Babydoll

BAUのオフィスで、リードは甘ったるい、最早コーヒーとは言えないようなコーヒーの入ったカップを持って、ぼーっと座っていた。思考が、何処か深い所へと入り込んでしまったような感じ。そんなリードの様子をチラチラと伺う、エミリーとJJとガルシア。それも仕方がない。彼女たちは、BAUの末っ子リードの姉的存在なのだから。兄的存在のモーガンは出掛けていて不在だった。

「リード、悩み事?」

「その表情は事件のことじゃないわね。第一、今現在は事件を抱えていないもの」

「お母さんのことってわけでもなさそう」

「え?ええええ?」

3人の女性ににじり寄られて、リードは焦った。

「まあ、リードがそんな顔をするときは、ある人のことを考えてるときよね」

エミリーが自分の主張に頷きながら言う。

「そうそう。年上の彼氏のことに決まってるわよねー。今、オフィスで書類と格闘しているね」

と、JJ。

「で?ホッチと何かあったの?」

ガルシアは直球勝負だ。

「ななな何で、何で、ホッチなのっ。む、昔の事件のことかもしれないじゃん!」

リードが肩をヒクつかせながら、反応する。

「だって、目つきが違うもの。その目は事件のことを反芻してる目じゃないわね」

「お母さんのことを考えてるときの目とも違う」

「と言うことは、残るはホッチしかいないじゃないの。ビンゴでしょ?」

「・・・うー・・・もう・・・みんなには隠し事、できない・・・」

リードが観念したように呻いた。

「うふふ。私たちに隠し事なんて、百億年早いわよ」

「みんな、魔女みたいな」

「あはは。ある意味、そうかもねー。で?何があったの?喧嘩でもした?」

リードは首を振った。

「違うんだ。・・・寝言、なんだけどね。・・・ホッチが、『ベビードール』って呟いたんだ」

「あら」

「まあ」

「あらららららら」

3人の姉たちの瞳がキラリと輝いた。

「それは・・・ねぇ・・・」

「まあ、リードは華奢だし?」

「可愛いしね」

意味深に呟く、エミリー、JJ、ガルシア。

「それって、1回だけ?」

「ううん。何回も。でも、僕、意味がわかんなくて。それで、検索したんだよね。そうしたら・・・」

「セクシーランジェリーがヒットしたのね」

「・・・そうなんだ・・・」

「まあ、うちのユニットチーフは、ムッツリスケベだからねぇ」

そう言いながら、エミリーはホッチのオフィスを見遣った。

「でもまあ、寝言って無意識の潜在意識だから、それって、ホッチがリードの求めてる願望ってことよね」

JJは立ち上がるとバッグを手に取った。それにエミリーとガルシアも習う。

「ほら、リード、立って!行くわよ!」

ガルシアがリードの腕を取った。

「へ?行くって・・・何処?」

「「「決まってるじゃない!ランジェリー・ショップよ!」」」

その掛け声と共に、リードはズルズルと拉致されていったのだった。

*******************

「リード?」

寝室の入り口で、斜め掛けバッグのストラップを握りしめたまま、リードは立ち竦んでいた。ホッチの家である。ジャックはいない。何故か、ジェシカの所に行っていると言う。けれども、なんとなく、エミリーたちが手を回したような気がしないわけでもなかった。きっとホッチもそのことに気づいている。

エミリーたちとの買い物を済ませた後、タクシーでホッチの家まで送り届けられた。そして、インターホンを鳴らしたJJが、

「じゃ、リードを置いてくわね~。素敵な夜を~」

とリードをホッチに渡したからだ。きっと、エミリーかJJかガルシアがホッチにバラしているに違いない。

「ぼ、僕、帰る!」

踵を返そうとしたが、ホッチの力強い手で、それは阻止された。すぐに、ホッチの腕の中に収まってしまう。こうなると、非力なリードは逃げられない。

「ふええええええ・・・」

情けない声を出して、もう、涙が出そうだった。

「寝室まで来て、帰る、はないだろう?ん?」

「きょっ、今日はダメなの!」

「生理や排卵日でもあるまいし。まあ、リードにならありそうな気もするが」

「ホッチ!!!何てことを言うの!!!」

ホッチの腕の中で真っ赤になる。

「昨夜は良くて、今夜はダメ。そんな理屈が俺に通ると思うか?非理論的だ」

「うう・・・」

「それとも、ここで脱ぐか?ジャックもいないし、俺は何処でもいいぞ」

「ホ、ホッチの意地悪!!」

「意地悪はどっちだ。ここまで来て、お預けを食らってるのは俺の方だぞ?違うか?リード」

「うううう・・・」

小さく恥ずかしげに唸るリードの身体を、ホッチは掬い上げるようにして抱き上げた。言葉で言うことをきかせるよりも、こっちの方が断然、早い。

「ひゃあ・・・」

軽々とベッドに運ばれてしまい、間髪入れずに、バッグを取り払われた。

「で?自分で脱ぐか?俺が脱がせるか?」

「・・・どっちも・・・やだ・・・」

「おいおい」

「だって・・・恥ずかしいんだもん」

「服を脱ぐ以上に恥ずかしいことをしてるだろうが、いつも!」

「今日は違うの!・・・もう・・・やだぁ・・・」

めそめそとした、煮え切らない態度をリードはとる。

「じゃあ、俺が脱がせるぞ」

「やっ!ダメ!・・・う・・・も・・・自分で脱ぐもん・・・」

ベッドの上でアヒル座りをしたリードが、身体を斜めにして、ホッチの視線から逃れるようにしながら、カーディガンを脱ぎ始めた。それからネクタイ。チェックのシャツはそのままで、ベルトを外すと、シャツが捲れないように気を付けながら、チノパンを脱ぐ。そして、そこで、リードの手は止まってしまった。

「リード?」

「こ、今夜は、このままじゃ、ダメ?」

「おかしいな。今夜は、非常に可愛らしいリードを堪能できると、JJたちから聞いたんだが」

「!!!!」

リードが驚いたように、目を見開く。バレてる。と言うよりも、JJがホッチにリークしたのだ。

「まあ、脱がせる楽しみもあるか」

ホッチはリードのシャツのボタンに指を伸ばした。

ひくんっと、リードが後ろに身体をずらす。しかし、それを逃すホッチではない。

「やっ!!!や、やっぱり、自分で脱ぐから!!!」

「そうか。いい子だ」

ホッチは、手を引っ込めた。しかし、視線はリードから外さない。じっと見つめられて、リードは身体がもぞもぞとした。それは、いつものことだ。けれども、今日はそれに、もう一つの理由がある。

「あのね。ホッチ・・・あの・・・その・・・戊、僕を見ても、笑わない?」

「俺がリードを笑ったことがあるか?ん?天才少年」

「・・・僕の頭脳は関係ないもん・・・でも、本当に、笑わない?」

「笑わない」

「・・・ほんと?」

「俺が信じられないか?」

「そんなことない。僕はいつだって、ホッチを信じてる。でも・・・今の僕・・・とっても変だから・・・」

「リード」

ホッチが腕を伸ばして、優しくリードの髪を撫でた。

「どんなリードでも、俺の可愛いリードだよ」

「ふええ・・・」

ホッチのセリフにリードは俯いてしまった。けれども、その言葉で意を決する。リードは自分の指をシャツのボタンに掛けた。ゆっくりと、ボタンを外す。

「あの・・・本当に笑わないでね」

「約束する」

リードはボタンを全て外し終えると、するんっとシャツを腕から落とした。

「ああ・・・いいな。JJから聞いてはいたが、予想以上だ」

「嘘・・・だって、僕、女の子じゃないんだよ?胸だってないし、ウエストもくびれてないし・・・」

「しかし、リードはピンクが似合うからなぁ。ほら、今日の靴下だって、片方はピンクだろう?」

「・・・うん。まあ、そうなんだけど・・・」

シャツの下にリードが身につけていたのは、ガルシアが見立てた、ピンク色のベビードールだった。少しだけ透け感があり、胸はレースで彩られている。リードは恥ずかしそうに、指先でベビードールの裾を弄っている。

「よく、見せてごらん」

「ん・・・」

ようやく、リードはすとんと両腕を身体の横に落とした。ピンクのベビードール。右足は薄ピンクの靴下で、左足は薄紫の靴下だ。リードのジンクス。科学的な頭脳の持ち主が、そんな靴下のジンクスを信じるギャップが可愛らしい。

ホッチはリードの髪を撫でていた手を下に滑らせて、ベビードールの中を確かめようと、その裾を割った。

「あ・・・」

「ほう・・・ちゃんとお揃いなんだな」

「だって・・・JJが、こういうのは、ちゃんとお揃いにしないとダメだって・・・。エミリーもガルシアもそう言うんだもん。僕に、拒否権なんて、なくって・・・」

「相変わらず、いい仕事をするな、あの3人は」

「・・・僕・・・変じゃない?」

「全然。かえって可愛らしい。抱きしめていいか?」

「ホッチが・・・嫌じゃなかったら・・・」

「嫌なわけがないだろう」

薄い生地に包まれたリードの身体を、まるでガラス細工を扱うかのように、腕に囲う。さらりとした上質な布。露わになっている、しっとりとした肌。

「ああ、本当に、リードは可愛いな」

ホッチはゆっくりと、リードをベッドに押し倒した。

「しかし、どうして、こういう下着を着ることになったんだ?」

「え?だって・・・だって、ホッチが寝言で言ってたから・・・」

「俺が?」

「うん。昨日・・・寝言で、babydollって、何回も言ってた。だから、僕、検索したんだよ。そうしたら、こういう下着がヒットしちゃって・・・それで、ぞのこと考えてたら、エミリーたちに問い詰められて・・・その・・・」

「それで、こういうことになったのか。そうか、俺のせいか」

「みんな言うんだもん。ホッチはきっと、こういうのを着た僕が見たいんだって。僕は全否定したけど・・・でも・・・」

「まあ、結果オーライだな。俺の寝言で、こういう良いものが見られたのなら、大正解だ」

「ん?結果オーライって・・・本当は違うの?」

「寝言を言っていた自覚はないんだが・・・おそらく、petnameで、夢の中でリードのことをbabydollって呼んでいたんだろうな」

「え・・・petname?えええええ・・・嘘・・・僕の勘違い?えええええ!!!!こういうランジェリーのことじゃなかったの!?」

「たぶん、俺は『かわいこちゃん』という意味の寝言を言ってたんだろう。何せ、本当に腕の中に『かわいこちゃん』がいたんだからな」

「嘘ぉ・・・僕の・・・勘違い?やだ・・・馬鹿だ、僕・・・」

リードは慌てて、ホッチから逃れて、シャツを着ようと腕を伸ばした。しかし、すぐに、ホッチに阻まれる。

「リード、夜はこれからだろう?」

「やだよう・・・僕の勘違いで、こんな格好・・・本当に馬鹿で恥ずかしい・・・」

「しかし、俺の為に着てくれたんだろう?本気で嫌だったら、全力で拒否してただろうに」

「・・・う・・・だって・・・3人が、絶対にホッチは喜ぶって言うんだもん」

「正直、喜んでる」

「・・・変じゃない?」

「リードにベタ惚れしてるからな。頭がおかしくなるくらいに。だから、つい、寝言も言った」

「pentname・・・紛らわしいよぅ・・・」

「言っただろう?結果オーライだ。俺にとっては最高のご馳走だな」

「僕、食べ物じゃないよ」

「いや、食べてやる」

ホッチは不敵に笑うと、ピンクのベビードールに身を包んだリードを抱きしめて、深いキスを送ったのだった。

END

誰かにめくられてパンチラ

「んー・・・?」

スペンサー・リードは、鏡に映る自分の全身像を見ながら首を傾げた。何やら、スカートが短くなっているような気がするのだ。

「もしかして・・・」

リードは、ポンっと手を打った。

「遅くきた成長期?」

きっと少し背が高くなって、それでスカートが短くなってしまったに違いない。リードはそう考えた。と、同時に、両手で小さな自分の胸を触る。

「どうせなら、こっちが成長して欲しいなぁ・・・。そうしたら、きっと、ホッチも喜んでくれると思うのに・・・」

ホッチはリードに、いつも素敵なランジェリーを用意してくれるのだが、自分の胸があまりにも貧弱すぎて、似合わないように思えるのだ。だから、ホッチに申し訳ないと思いつつも、自分から進んでセクシー・ランジェリーを身につけることをしないリードだった。

「あ、もう、出勤する時間だ!」

リードは時計を見ると慌てて、茶色い鞄を斜めがけにして、部屋を出たのだった。

********************

「え?小学校にお出かけ?」

リードは目を丸くした。BAUの仕事と小学校はあまりにも、相入れないような気がしたからだ。

「そう」

JJが頷いた。

「ほら、ジャックのクラスでね、輪番でお父さんやお母さんの仕事を紹介する授業があるの。それで、とうとうホッチの出番になったっていうわけ」

「でも、どうして僕が一緒に行くの?」

「あら、だって、リードはホッチの一番弟子じゃない?それにジャックも懐いてるし」

「うーん。モーガンが行った方が、ザFBIって感じがしていいと思うけど」

「モーガンは別な仕事よ。あら、噂をすれば・・・」

モーガンが何やら紙袋を片手に、二人に近寄ってきた。また、ドーナツかな?などと甘いものの好きなリードは思ったが、その紙袋を手に押し付けられると、すぐにそれがドーナツでないことはわかった。クシュっとなったからだ。

「なあに?何なの?これ、モーガン」

リードはモーガンに問うた。

「今日は小学校に行くんだろう?だったら、それは必需品だ。いつもの果物がらパンツの上から履いとけ」

「へ?どういうこと?」

「まあ、中身を見てみろっての」

言われてリードはガサゴソと紙袋を開いた。

「うわっ・・・何、これ!」

「アンダースコート。よくテニスプレイヤーが履いたりしてるだろ。あれだ。通称、見せパン」

「なっ、何で、小学校に行くのに、見せパンを履くの!」

リードは慌てて問いただす。

「小学生男子がやることなんて決まりきってる。1にスカート捲り、2にスカート捲り、3、4がなくて、5にスカート捲りだ」

「ジャックはそんなことしないよ!」

「小学校にはジャック以外の男子がわんさかいるからな。しかも、そのミニスカートじゃ、絶対に狙われる」

「ぼ、僕、チノパンに履き替えてくる」

「残念ながら、その時間はないな。ホッチがオフィスから出てきた。ほら、タグは取ってるから、ここで履いちまえ、見せパン。早く!」

「ひゃっ。急かさないでよ!!!」

結局、壁になった、JJとモーガンに隠れて、リードはキウイ柄のバナナ柄のパンティの上から、アンダースコートを履くことになったのだった。

********************

「どうしたリード?」

小学校の構内を歩きながら、妙にスカートを気にしているリードを横目に、ホッチが尋ねる。

「え?な、何でもないです。ほら、小学校って久しぶりだし・・・その」

「ああ・・・そうか。すまなかったな。リードは小学校にあまりいい思い出はなかったか」

ホッチはリードが幼い頃に虐められたことを言っているのだろう。それに気づいて、リードはブンブンと首を横に振った。

「ち、違うの!そうじゃないです!・・・なんか・・・久しぶりだなぁって・・・。それと、僕あんまりFBIっぽくないし・・・ホッチと一緒に来るのが僕でよかったのかなぁって・・・」

「君がいいんだ。ジャックの推薦だからな」

「ジャックが僕をお勧めしてくれたの?」

「そうだ。俺と一緒に来るなら、リードがいいと」

「そっかー・・・じゃあ、僕、頑張らなくちゃ」

「別に気負わなくてもいい」

その時、1時間目の授業が終わるベルが鳴った。あちらこちらの教室のドアが開き、元気一杯の小学生たちが飛び出してきた。

「さあ、ジャックの教室はここだ・・・」

と、ホッチが言った、その時。一人の男子が、走ってきて、リードの横をすり抜けざまに、スカートを思いっきり捲ってきたのだ。

「ひゃっ!!!!」

「ちぇっ!何だよ!見せパンかよ!つまんねー!!!」

「俺はいちごだと思ったんだけどな」

「俺はピンクのレース」

「どっちも外れー」

「えっ・・・えっ・・・えっ・・・」

リードはびっくりしている間に、悪童たちは走り去って行ってしまった。

「び、びっくりしたねぇ・・・ホッチ・・・って、え!ちょっと!ホッチ!ダメ!銃はしまって!!!!!」

校内で銃を抜いているホッチに、リードは慌てて、宥めるように注意したのだった。

********************

リードがスカート捲りをされて憤っていたホッチではあったが、愛息を目にすると、すぐに優しい父親の目になった。そんな姿を見て、リードもホッと胸を撫で下ろす。本物のFBI、ということで授業も盛り上がった。まるで女子高生みたいな風体のリードは、すぐに女子たちの人気者になった。小学生女子は可愛いものが大好きだ。ガルシア仕込みのヘアアクセサリーはなかなかの評判だった。何人もの女子たちに「可愛い!可愛い!」を連発されて、嬉しくもあり、困ってもしまうリードだった。ホッチはジャックの父親ということもあるが、やはりBAUのユニットチーフということもあり、これまたすぐに男子たちの人気者になった。プロファイリングの実演では、教室中が、感心のため息でいっぱいになった。最後に、担任の先生に、「FBIエージェントになるための秘訣は?」と聞かれ、ホッチは、

「人を・・・特に男であるならば女性を敬うことですね。女性にいたずらをするなどは・・・言語道断です」

と言って、さっき、リードにスカート捲りをした男子を睨みつけた。そのあまりの眼光の鋭さに、当該男子は「お漏らししちゃった・・・」と後に担任に訴え出たという。

いずれにせよ、ホッチとリードによる、FBIの授業は成功したのであった。そして、帰り際、ホッチはリードの耳元に囁いたのだ。

「戻ったら、俺のオフィスに来なさい」

それは有無を言わせない命令だった。

********************

「さて。スカート捲りされたのは君の責任ではない。が、そのスカートに中について説明をしてもらおうか」

「えっと・・・その・・・モーガンがね、小学校に行くなら、必需品だって言って、くれたの」

「ほう。モーガンが」

「うん。でも、モーガンの言った通りだった。やっぱり、僕、スカートを捲られちゃったもん。履いてて、良かった。アンダースコート」

「’別名、見せパン、な」

「そんな・・・・見せる為に履いたんじゃないよう・・・。だって、今日の僕、バナナ柄だし」

「・・・バナナ・・・。本当にリードは不思議な柄のパンティを持ってるな。そして、俺の贈ったものは履かないときている」

「だって・・・。僕、貧弱だし・・・。背ばっかり大っきくなって、大事なところが全然なんだもん」

「大事なところ?」

リードは自分の胸を指差した。

「ああ。大丈夫だ。そこはいずれ大きくなる。俺がちゃんとマッサージをしてやってるからな」

「だと、いいんだけど。エミリーくらい大きくなったら、いいんだけどなぁ」

「いや、そこまで大きくならなくてもいい。リードにはリードに似合ったサイズがあるから」

「そう?」

「ああ。それよりも、ちょっと回って見せてごらん」

「ん?どういうこと」

「一回転して見せてくれ」

「?こんな感じ?」

リードはくるりとその場で一回転した。遠心力で、ミニスカートが翻る。見えるのは、白いアンダースコート。まあ、悪くはない。

「もう一度」

「はーい」

無邪気にリードは何回も回って見せた。

が。

ずでーん!!!

いきなり、転んだ。

「リード!」

「ふえぇ・・・ホッチ・・・目が、目が回っちゃったよう・・・」

床に倒れたリードは目を頭をクラクラとさせていた。

「すまなかった。可愛らしくてな。つい・・・」

目が回ったリードをホッチはお姫様抱っこすると、黒いソファに横たわらせた。

「少し、休むといい。それと、もう、ここは小学校じゃないから、アンダースコートは脱いでいいな」

ホッチがリードのスカートの中に手を入れる。

「バナナ柄を見せてもらおうか」

「ホッチが贈ってくれたのでなくてごめんなさい」

「今夜、無理矢理にでも履かせるから構わない。ジャックが家に来て欲しいそうだ。今日の授業のお礼がしたいと言っていた」

「本当?嬉しいな」

「3人で、夕食を食べよう。俺が腕をふるう」

「ホッチは料理が上手だもんね。僕も見習わなくちゃ」

「リードはそのままでいい。そのままのリードで充分だ」

「・・・僕、そう言ってもらえて幸せ。でも、ホッチとジャックの為に、頑張るってこと、したいんだ」

「そうか。じゃあ、今夜はジャックと一緒にサラダを作ってくれ」

「うん!わかった!」

そんな会話の間に、モーガンの用意したアンダースコートは脱がされて、放り投げられた。ホッチの目に映るのは、黄色いバナナ柄の木綿のパンティだ。しかし、今夜のベッドでは、同じ黄色でも、もっとレースがふんだん使われたパンティを履かせようと誓うホッチだった。

END

着替えを覗かれてパンチラ

突然の雨だった。

リードが被害者の知人に対する聞き込みを終えて、エミリーとの待ち合わせ場所まで歩こうとしたとき、ポツポツと雨が降ってきた。それはすぐに土砂降りへと変わった。

「・・・嘘・・・今日って、雨の天気予報だったっけ?」

リードは首を傾げながら、仕方なく歩き始めた。雨宿りをしていたら、エミリーを待たせてしまうことになるし、何よりも雨宿りをする場所がなかった。斜めがけ鞄の中の書類を濡らさないよに、リードは鞄を抱き締めるようにして歩き出した。

てくてくと雨の中を歩くと、ハイスクール時代ことを思い出す。ハイスクールといっても、リードはスキップしていたから、年齢はジュニアハイだった。生意気だとクラスメイトに言われて、テキストやノートを窓から捨てられた。それを拾っていたら、雨が降ってきた。一生懸命拾ったけれども、雨はどんどん、ノートのインクを滲ませていったのを覚えている。何とか全てを掻き集めて、それ以上濡れないように、抱き締めて家路に着いたのを覚えている。自分は濡れてもいいから、大事なテキストとノートは守りたかった。全てを暗記できるリードだったけれども、まだ読んでいないページもあったのだ。けれども、その日も物凄い土砂降りで、テキストもノートもページが完全に張り付いてしまい、もう二度と開くことが出来なかった。その時思ったのだ。虐められるのは仕方がないけれども、勉強に必要なものを台無しにされるは辛いなぁ・・・と。そんなことを思い出しながら、リードは鞄を抱き締める腕に力を込めた。何故なら、鞄の中には、ホッチから借りた犯罪心理学の本が入っているからだ。これは絶対に濡らすわけにはいかない。リードは、カーディガンやボックスプリーツのスカートがどんどん重くなるのを感じながら、足を早めたのだった。

********************

BAUのエレベーターが開くなり、エミリーが叫んだ。

「誰か!タオルを!!」

エミリーに抱えられるようにして、ずぶ濡れになったリードが現れた。

「リード!!!」

JJとガルシアが立ち上がった。すぐにモーガンがタオルをデスクの引き出しに突っ込んであったタオルを取り出して、リードに近づく。

「ほら」

「あ、ありがと・・・モーガン・・・くしゅんっ・・・」

タオルを受け取りながら、リードはくしゃみをした。

「早く着替えないと」

JJがタオルでリードの髪の水分を取ってやりながら言う。

「私が悪いのよ。聞き込みに手間取って、リードを随分と雨の中で待たせてしまったの」

エミリーが申し訳なさそうに言った。

「エミリーのせいじゃないよ!」

慌ててリードが否定する。

「どうした」

オフィスからホッチが出てきた。ずぶ濡れのリードの姿を見てすぐに眉を顰める。

「リードを更衣室に連れて行きます。リード、ロッカーに着替え、あるわよね?」

「え?あ・・・ああ・・・えっと・・・」

「着替えながら俺の部屋にある。リードのゴーバッグがあるから。来なさい、リード」

有無を言わせない口調で、命令するかのようにホッチが言った。

「ほら、早く行きなさいよ」

ガルシアがリードの背中をそっと押した。

「・・・うん・・・」

鞄を抱きしめたまま、リードは階段を上がった。

「俺は外に出ているから。ゆっくり着替えるといい」

「・・・はい」

そんなやりとりを見ながら、BAUのメンバーたちは「あ、ホッチにも常識があったんだ」と胸を撫で下ろした。なんとなく、皆、ホッチはリードの生着替えをガン見しそうな気がしていたからだ。リードがホッチのオフィスに消えると、ホッチは階段を降りて、エミリーに事情を聞き始めたのだった。

********************

出張から帰って来て、リードはホッチに報告することがあった。その時にゴーバッグをホッチのオフィスに置き忘れてしまったのだ。そして、すぐに新しい事件が起きた。リードのゴーバッグはそのままになってしまった。

リードがオフィスを見回すと、黒いソファの上に、リードのゴーバッグが置いてあった。床に置いたのを、ホッチが移動してくれたのだろう。リードはそれを床に置き、代わりに茶色い鞄をソファの上に置いた。そして、中の本を確認する。ホッチが貸してくれた犯罪心理学の本は無事だった。全く濡れていなかった。

「よかったぁ・・・」

リードは安心して、ようやく肩の力を抜いた。自分が雨に濡れることよりも、本のことがずっと気になっていたのだ。濡れた自分のせっかくの本が濡れてしまうのを避けて、リードはすぐにソファから離れた。そして、腕時計を外し、カーディガンを脱いだ。雨水をじっとりと含んでいてとても脱ぎづらい。それはカーディガンに限らず、シャツもスカートもそうだった。身体にべったりと張り付いているのだ。リードは、皮膚から剥がすようにして、衣類を脱いでいったのだった。

*********************

ホッチはエミリーから事の経緯を聞くと、「わかった」とだけ言って、責めるわけでもなく、自分のオフィスに戻った。当然、BAUの皆が「え?もう?まだ、着替え中じゃ・・・」と心の中で突っ込んだが、口には出せなかった。何せ、リードに関しては「超」が付くほどに過保護なのだ。うちのユニット・チーフは。

ホッチはノックもせずにドアを開けると、身体を滑り込ませて、すぐにドアを閉めた。そして、自分の視界に入ってくる光景に「おお・・・」と心の中で言ったのだ。何故なら、パイナップル柄のパンティに包まれた、形の良い尻が、自分の方に突き出されているからだ。どうやらリードは床に置いたゴーバッグの中を漁って、探し物をしているらしい。

「おかしいなぁ・・・ないなぁ・・・入ってると思ったんだけどなぁ・・・変だなぁ・・・」

ホッチの存在に気づかず、ブツブツと呟きながら揺れる尻。レースのセクシーパンティでないのは残念だが、この際パイナップルでもいい。眼福である。

「・・・リード」

「ひゃっ!・・・あ・・・ホッチ・・・」

声をかけられて、ようやくその存在に気付いた。振り向いたリードはパイナップルのパンティ1枚で、ふくよかとはいえない胸も露わだった。

「着替えがないのか?」

「えっと・・・パンティもあったし、シャツとかスカートもあるんだけど、ブラジャーがないの・・・」

それで、上半身がスッポンポンなのか、とホッチは納得する。

「でも・・・僕、ぺったんこだから、ブラジャーなくても平気かなぁ・・・って・・・あ!!!やだっ!」

ようやく自分がパンティ1枚であることに気づき、リードは慌てて両腕で慎ましい胸を隠した。

「ふえ・・・」

床にあひる座りになって、胸を隠す。ホッチは萌えた。が、これでも一応BAUのユニット・チーフだ。こほん、と咳払いをすると、「大丈夫だ」と言った。が、その後に続く言葉が問題だった。メンバーには聞かせられない。

「リードの下着一式は、常に俺がオフィスの引き出しに準備してあるから」

「え・・・」

ホッチはデスクの引き出しを開けると、レースのブラジャーをいくつか取り出した。

「パンティは取り替えたのか?」

「うん。それはすぐに見つかったから・・・」

「そうか。じゃあ、パイナップルに合わせて、黄色いにするか」

そう言うと、ホッチはシフォンレースで彩られた、淡い黄色のブラジャーをリードに差し出した。

「あ・・・ありがとうございます・・・」

「礼には及ばん。それよりも、風邪をひくから、早く着なさい。ああ、ブラのホックは俺が止めてやろう」

リードがブラジャーを身に付けるのを手伝い、それからホッチはソファにドカリと座った。リードの着替えを堪能するためである。しかも無意識である。

リードが服を脱いでいく様子を見るのもいいが、こうして一枚一枚、ゆっくりと服を着ていく様子を見るのも新鮮で良い。何よりも可愛らしい。左右が埒外の靴下を履く姿が、ホッチはかなり好きだ。

「リード。今夜は身体の温まるものを食べて帰ろう。いい店がある」

「あ、ありがとう、ホッチ。それと・・・ホッチに借りてる本、濡らさずにに済みました。僕、本を濡らしたらどうしようってずっと思ってて。でも、ちゃんと鞄に入れて抱きかかえていたから、大丈夫でした。本当なら、雨宿りをする場所を探すべきだったんだけど・・・」

「事情はエミリーから聞いた。仕方がない。場所がなかったんだ。しかし、俺の本のことよりも、自分のことを心配しなさい」

「でも・・・大事な本だし・・・」

「俺には、リードよりも大事なものはないから。だから、ちゃんと自分を大事にしなさい」

「・・・はい」

リードは照れ臭そうに俯くと、はにかみながら小さな声で返事をした。

「そうだな。食事の後は、俺の家に泊まるといい。ちょうどジャックがお泊まり学習会から帰ってくる。君に会いたがってるしな。いいな?」

「はい!ジャックに会えるのは、僕も嬉しいです!」

「行こうか」

「はい!」

リードがゴーバッグを持とうとすると、それはホッチに奪われた。

「あ、あの・・・」

「いいから。濡れた服で重くなってる。ああ、洗濯も俺の家でするといい。今夜は泊まっていけ。ジャックも喜ぶ」

「いいんですか?」

「構わない」

リードは茶色い斜め掛け鞄を持って、先に歩き始めたホッチの後を追ったのだった。

END

破けてパンチラ

築年数の経ったアパートの、古びたドアの横についているインターホンを押すと、中から「はーい」という声がして、ドアが開いた。部屋の主はスペンサー・リード。BAUの女性捜査官だ。しかし、IQは187と非常に高く、一度自分の頭の中に入れた情報は、寸分違わずに取り出すことができる。そしてそれはいつだって捜査の役に立つのだ。

ホッチがリードを気に入ったのは、彼女がまだアカデミーの学生だった頃だ。いつも一番前の席で、熱心にホッチの講義を聞いていた。質問は常に的確で、すぐに現場に出してもいいくらいのものだった。・・・運動神経の悪さを除けば。そんなリードが、アカデミーの男たちにレイプされそうになったところを、ホッチが助けた。ちなみに、彼らはひっそりと闇に葬られている。彼らがFBIの捜査官になれることはなかった。絶対に。決して。とはいうものの、ホッチも自らを犯罪者にするわけにはいかないので、社会的に葬り去ったのだ。

「えっと・・・いらっしゃい、ホッチ」

「ああ。入っていいか?」

「もちろん!・・・あんまり片付いていなくて恥ずかしいんだけど」

リードはホッチを部屋に招き入れた。

リードは私服を制服化している。シャツに細いネクタイにカーディガン。ボックスプリーツのスカート。あまりのファッションセンスの無さに、ガルシアが決めてやったコーディネートだった。ただし、祖母の教えを頑なに守り、靴下は常に左右柄違いだ。長さも違う時がある。靴は黒のコンバース。それがBAUでの、リードの定番ファッションだった。

ところが。

今日は、オフのせいなのか、いつもと雰囲気が違った。トップスはチェックのシャツ。まあ、これはいつも通りだ。カーディガンは着ていないけれども。しかし、スカートを履いていない、綺麗な脚の形を最大限に魅力的に見せる、黒のスキニーパンツだった。それに赤いハイヒール。スペンサー・リードがハイヒール。職場ではありえない。

「えっと・・・その・・・変・・・かな?」

「いや・・・似合ってる。スカートじゃないのに、ものすごくセクシーだ。・・・それは・・・JJの見立てか?」

「あ、やっぱりわかっちゃう?えへへ。・・・お家デートなんだぁ、って言ったら、このコーディネートを教えてくれたの。でも僕、こんなパンツもハイヒールも持ってないから、昨日、仕事の帰りにJJと買いに行ったんだ」

リードはペロッと舌を出しながら笑った。少し、恥ずかしさが滲み出ている。しかし、スレンダーなリードには非常にお似合いのスタイルだった。

「あ、コーヒーを淹れるね!ホッチは、そこのソファに座って!あ、そこらへんの本は避けちゃっていいから!」

リードの部屋は本が多い。読書家だから、自然とそうなってしまったらしい。書棚に収まりきらない本は、チェストやテーブル、床の上に積まれている。ホッチはソファに置かれた1冊の本を手に取り、「リード」と声をかけようとした。が、その前に「ひゃあ!!!」というリードの悲鳴が聞こえた。それから、バターンっ!という音。

「リード!?」

リードは履きなれないハイヒールでぐらつき、体勢をを立て直そうとしたら足がもつれて、床に積んである本の小山に躓いたのだ。

「いったー!!!」

「大丈夫か!リード・・・」

慌てて、転んだリードに近寄ったホッチが息を飲んだ。

形の良い尻がホッチの方に突き出されている。そして、スキニーパンツの尻の縫い目が見事に破けていた。そしてその破れ目からは、ピンクのレースが見えている。

「ふぇ・・・い、今・・・ビリって音がした・・・」

「あ、ああ・・・そうだな・・・破けてしまったようだな・・・パンツが」

「うそっ」

リードは慌てて、片手を尻に当てた。

「やーん!!!」

リードは立とうとするが、赤いハイヒールのせいで、どうやって立っていいのかわからないらしい。そんなリードをホッチは検分するかのように眺めた。

実に、良い、眺めだ。

仕事の時は、訳のわからない果物柄の木綿のパンティなのだが。スキニーパンツの下は、ピンクのレースのパンティだったとは。しかも、これは間違いなく、自分がリードに贈ったものだ。なかなか進んで、ホッチが贈ったランジェリーを身に付けてくれないリードなので、これは非常に嬉しい。

「ホッチ・・・助けて・・・」

泣きそうな声を出して、リードが懇願する。

「あ、ああ、そうだな」

ホッチは一瞬にして、エロ親父から紳士モードに自分を切り替えて、リードが立ち上がるのに手を貸した。

「あのね。ウエストはちょうど良かったの。・・・でもお尻はちょっときつかったんだ。だけど、JJが、お尻が強調されていいっていうから・・・。僕もウエストがブカブカなのは落ち着かなかったし・・・」

貧乳なリードであったが、何故か、尻は「桃尻」といっていいいほどの、素晴らしい形をしていた。プリンとした桃。立ち上がったリードの尻の裂け目からは、まだピンクのレースが見えていた。尻が思いの外、大きいからだろう。思わず、堪能してしまうホッチだった。

「ねえ、ホッチ?」

「え?あ、ああ・・・どうした」

「コーヒーは後回しにして、着替えてきてもいい?・・・破けたの・・・お直しに出せるかなぁ・・・」

「大丈夫だろう、きっと」

といい加減な返答して、ホッチは笑った。別にこのまま、ピンクのパンティが見えたままでもいいのだが。

「じゃあ、ちょっと着替えてくるね」

「リード」

「なあに?」

「・・・ハイヒールはそのままで」

「え?あ・・・うん・・・わかった」

寝室に消えるリードの後ろ姿を見ながら、

「今夜は、赤いハイヒールを履かせたまま、抱くのもいいな」

と思ったホッチであった。

END

キックで足を上げてパンチラ

リードは幼い頃からイジメられっ子だった。華奢な身体や頭が良いところ、そして空気を読まずに喋ってしまうところなどなど、イジメの理由など虐める側には何だっていいのだ。欲求不満の解消。ただそれだけだ。スペンサー・リードはその標的になった。大学生になって、研究に打ち込むことができるようになって、少しは虐められることは減った。けれども、変わった女子学生であるリードが、奇異の目で見られることには変わりはなかった。そんなリードはFBIアカデミーに入ることになった。自分の能力を活かせる場所を統計的に考えて選んだのだ。しかし、如何せん、リードは運動神経が皆無だった。射撃に至っては、側にいたら身内に死者が出そうなほど最悪だった。そんなリードでも、アカデミーから追い出されなかのは、その優秀な頭脳のおかげだった。けれども、ここでもイジメはあった。手入れをされていない自分で適当に切った髪、全くお洒落とは皆無な服装・・・シャツにカーディガンにチノパン。女性ではあったものの、身体つきはとても貧相で、冴えなかった。けれども、無意識にアカデミーの男たちを言葉でやり込めてしまうリードは、イジメの対象になった。無視、からかいなどは、まだいい方だった。一部の男たちの間で、性的にスペンサー・リードを虐めてやろう・・・という計画が持ち上がった。冴えない見栄えとはいえ、女は女だ。それに、男たちにとってはリードは虐めていいという認識の対象であったから、罪悪感などなかったのだ。

ある夜。

アカデミー出された課題に取り組み、リードは帰宅が遅くなった。終電ギリギリだった。慌てて、荷物をまとめて廊下に出ると、そこには数人の男たちが待っていた。リードは思わず、立ち止まった。その場の空気感に、リードは覚えがあった。自分が過去に酷いイジメに遭った時のことだ。これは、女子たちに服を脱がされて、ブラとパンティだけにされて、ゴールポストに縛り付けられたときの空気感に似ていた。リードはぎゅっと鞄のストラップを握りしめた。過去の体験でリードが学んだことは1つだけだ。

抵抗をしないこと。

諦めて抵抗をしなければ、相手は飽きる。飽きたら、それで終わる。

リードは唇を噛み締めた。昔のことを思い出したが、今、目の前にいるのは彼女たちではない。屈強なアカデミーの男たちだ。この先に起こることは、何と無く予想ができた。

諦める。

我慢する。

抵抗をしない。

そんな言葉をリードは心の中で反芻した。

リードの目の前に男たちが動いた。リードは、すぐ近くの部屋に連れ込まれたのだった。

********************

「全く、色気がねえよな、この女」

「服はダサいし、不景気な顔をしてるし、おっぱいは小せえし」

「でもまあ、女は女だろ」

「突っ込めりゃいいってか?」

男は4人だった。

床に叩きつけられたリードは、

諦める。

我慢する。

抵抗をしない。

を心の中で繰り返した。

乱暴にカーディガンを逃がされて、シャツは破かれた。チノパンのベルトは抜き取られて、ウエストのボタンを外された。

「はっ。マジ、なんなの、このブラジャー。だっせー」

「こんなちっちぇおっぱいに必要ねえよなぁ」

男の手が、リードの粗末なブラにかかった、その時、

「グホッ・・げっ・・ウェッ・・・」

突然、男がリードから離れて、目の前から消えた。おかしな悲鳴のようなものと一緒に。そのあと、バキッとか、メキッとか、ボキッっとかいう音が聞こえた。そして最後に

「消えろ」

という静かで、それでいて、怒りをはらんでいる声が聞こえた。

リードは、両手をついて身体を起こして、何が怒ったのかを確認しようとした。自分を襲った男たちが、身体を引きずりながら、部屋を出て行くのが見えた。

「大丈夫か?」

ファサリ・・・と身体に何かが掛けられた。見れば、とても質の良さそうなスーツの上着だった。

「え・・・あ・・・」

「大丈夫か?スペンサー・リード」

リードは自分の目の前に片膝をついて座る男を見た。

「あ・・・貴方は・・・」

リードの知っている男だった。アカデミーで行動分析の講義をしてくれたFBIのエージェント。

「えっと・・・アーロン・・・・ホッチナー・・・?」

「ああ。よく覚えていたな。いい子だ」

「貴方の講義は・・・とても、理性的で、理知的で・・・すごく印象に残ってて・・・」

リードは目をパチクリとさせた。

「どうして、抵抗しなかった?君は悲鳴すらあげなかった」

「・・・えっと・・・その・・・仕方がないかなって・・・」

「仕方がない?」

「・・・昔から・・・虐められていたから・・・」

「あれは虐めじゃあない。レイプだ。あいつらは、君をレイプしようとした」

「・・・・・・」

「君は、セックスの経験があるのか?」

リードは慌てて首をブンブンと横に振った。そんなことあるわけがない。

「セックスの経験もないくせに、レイプされるのは平気なのか」

「・・・・・・」

突然、リードの心の中にこみ上げてくる感情があった。・・・恐怖。今頃になって、恐怖が芽生えた。目の前に男に助けてもらって。そう。自分はレイプされる所だったのだ。冷静に考えたら、それは最早イジメではない。犯罪だ。

「ふえ・・・え・・・えぐ・・・ふえ・・・」

思わず、涙が出てきた。そんなリードの手入れのされていない栗色の髪をアーロン・ホッチナーは優しく撫でてくれた。

「送っていこう」

「だ・・・大丈夫れす・・・終電・・・間に合うかも・・・」

「馬鹿者。そんな格好で地下鉄に乗れるわけがないだろう。車で送る。・・・どこか、痛いところはないか?怪我は?」

リードは首振った。床に倒されたときの打撲はあるかもしれないが、大したことはないと判断した。

「そうか。じゃあ、帰ろう」

アーロン・ホッチナーは、リードが立つのを手伝ってくれた。そして、最低限の身なりを整えるのを待ってくれた。

「あの・・・」

「どうした?」

「・・・どうして・・・僕のこと・・・僕の名前・・・知ってるんですか?」

「ああ・・・それはな、君が賢くて、そして可愛らしいからだ」

アーロン・ホッチナーは優しい笑顔で答えた。それを聞いて、リードのは自分の心臓が鐘のようになるのを感じたのだった。

********************

それ以来、アーロン・ホッチナーは頻繁にアカデミーを訪れ、リードに護身術を教えてくれるようになった。とは言っても、運動神経ゼロのリードだ。パンチは無理だと早々に諦めた。しかし、アーロン・ホッチナーはリードの長い脚に目を付けた。リードの脚は充分に武器になる。だから、踵落としや回し蹴りを教えた。高身長ゆえに、リードの回し蹴りは、相手の顔にクリーンヒットする。身体を旋回するから、遠心力で充分な破壊力を発揮できた。幾度も稽古をつけてもらううちに、回し蹴りの精度も上がってきた。

そして、現在。

「リード!」

ホッチから逃げリードに向かってきた犯人に狙いを定める。もちろん銃ではない。そんなものをリードに持たせたら、身内が’危険だ。しかし、リードには別な武器がある。ホッチが育成した武器である。

「任せて!ホッチ!」

シャツに細いネクタイ、カーディガン。ボックスプリーツのスカートに左右柄違いの靴下。そんな服装のリードが、黒いコンバースを履いた足を振り上げた。そして、身体を旋回させる。

ズバゴンっ!!!!

ホッチとの特訓の成果もあり、今日もリードの回し蹴りは精度が高かった。踵が見事に犯人の頰にめり込んだ。薄汚れた歯が、2本ばかり宙を飛んだ。そして、犯人は地べたに沈んだ。遠心力によって翻ったボックスプリーツのスカートが華麗に捲れ上がる。地べたに沈む犯人が気を失う直前に見たものは、サクランボ柄のパンティだった。

********************

「リード。どうして、俺が送ったパンティを穿かないんだ」

「だってぇ・・・」

リードはモジモジとスカートの裾を弄った。昨夜、ホッチがリードの為に用意したのは、総レースのヒップハングショーツだった。あまりにもセクシーすぎるのい恥ずかしい・・・というので、ホッチは少しボーイッシュなヒップハングショーツで妥協したのだ。しかし、レースには拘りがあった。

「オフィスに帰ったら穿き変えるように」

「えー・・・」

「命令だ。背くのか?」

「・・・はい・・・穿き替えますぅ・・・」

リードは恥ずかしそうに俯くと、モジモジとした。

リードは、助けてもらったあの日、恋をした。自分を助けてくれた男に恋をした。神様の計らいで、相手も自分を好いてくれた。だから・・・恥ずかしいけれども、大好きな人の命令もちゃんと聴かなくちゃ・・・と思ったのであった。けれども、女らしい格好をしたことがなさすぎて、恥ずかしのだ。ボックスプリーツのスカートだって、最近になって、ようやく慣れたのだ。

「色はピンクで」

「・・・はい・・・」

犯人に手錠を掛けながら話す内容ではなかったが、どうせ気を失っているからと、平然としているホッチだった。そして、

「やっぱりホッチはむっつりスケベよね」

「うん。そう思う」

と確認し合う、エミリーとJJであったのだった。

END

寝転がってパンチラ

スペンサー・リードは身体が細い。そして、薄い。背が高いこともあって、女性らしい体つきとは言えない。胸もあまりふっくらとはしていない。けれども、何故か尻に関して言えば、ぷるんっとした桃のような形をしている。少々小ぶりではあるけれども。

そんなリードは今日も、シャツに細いネクタイ、カーディガン。ボックスプリーツのスカートに左右柄違いの靴下に黒のコンバースだ。カーディガンの上から嵌める腕時計も定番で、大きな黒縁眼鏡は、かけたりかけなかったりだった。今は、かけてはいない。何故なら、ホッチが外してやったからだ。どうしてそうしてやったかというと、捜査で疲れ切って、ホテルのベッドに倒れこんでしまったからだ。ばふんっと。リードが。フレームが歪んでしまってはいけないと思って、ホッチが眼鏡を外してやった。しかし、ベッドに寝転がるときに捲れてしまったボックスプリーツの裾は直してやらなかった。だから、見事に、黄色いレモン柄のパンティが丸見えである。それを眺めながら、ホッチは腕組みをして眉間に皺を寄せた。この子は、スペンサー・リードは、とことん、ホッチが贈ったパンティを自ら進んで履かないのだ。言い訳はいつも「だって・・・」で始まる。レースが・・・とか、フリルが・・・とか、透けてて・・・とか。それがいいのに、とホッチは思う。まあ、果物柄のパンティが決してダメだ、と言っているわけではない。それはそれでいい。しかし、先日のアボガド柄のパンティのセンスは一体どうしたものかと思う。そもそも、そんな柄のパンティは一体何処で売っているのか。一体何処で手に入れているのか。ホッチが買う、セクシーランジェリーよりも入手困難な気がするのだが。

「んー」

リードが寝返りを打った。ますますスカートがまくれ上がる。今度はレモン柄に包まれた丸い尻が露わになる。あと、5分。レモン柄のパンティを堪能してから、リードを起こしてやることにホッチは決めたのだった。

END