月別アーカイブ: 2019年5月

Flower Garden

ホッチが作った、少し遅めの夕食を食べ終わる。片付けはリードも手伝う。料理はほとんどできないが、食器を洗うくらいはなんともない。食洗機のあるアパートではないので、もちろん手洗いだ。仕事以外で二人で並んで何かをする・・・という行為は、それがたとえ食器洗いだったとしても、リードにとっては楽しいことだった。

キッチンを片付けて、一息つくと、リードが言った。

「コーヒーにする?」

「・・・いや、スペンスにする」

「ふえ?」

背中を膝裏を掬い上げられて、大して広くもない部屋を横切る。身長差はさほどないが、リードは必要以上に細いので、とても軽い。小さなベッドはすぐそこだ。ホッチは静かにリードをベッドに下ろすと、その体に覆いかぶさった。

「ホッチ。シャワーがまだだよ?」

「後でいいだろう。それよりも・・・名前」

「あ、・・・ああ。ごめん。スイッチが入ってなかった。だっていきなりなんだもん」

ぺろっとリードを舌を出しながら、細い両腕をホッチに巻きつけると、小さな声で「アーロン」と呼んだ。自分の名を呼ぶ唇を軽く塞ぐ。幾度か角度を変えながら、薄い唇を弄ぶ。

「んっ・・・んっ・・・んんっ・・・」

わずかな隙間から、なんとか呼吸をしようとするものの、リードの唇の端から、唾液が一筋流れてしまう。が、それすらも、ホッチが舐め取る。

髪や、眉や、頰をなどを指先で撫でられながら、そのキスに酔いしれる。そしていつも感じるのは幸せだ。

リードも両手をホッチの両頬に添えて、少し力を入れて吸い、それから離れた。笑顔のままで。

「ふふっ・・・」

「どうした?スペンス」

「うん。・・・この時間・・・こういう、今の時間好き。僕はアーロンにとって4番目だけど、こんな時は1番っぽいから」

「・・・?どういう意味だ?」

「ん?だって、1番はジャックでしょ?2番は亡くなったヘイリー。3番は仕事。だから、僕は4番目」

ホッチは思わず黙り込んでしまった。リードのいうことはあながち間違っていない。いや、今まで順位付けなどしたことはないが、言われてみれば、そうなのかもしれない。

けれども。

自分はリードの存在をないがしろにしようと思ったことはない。ただ。その時々で、優先する順位が変わるだけのこと。今は、目の前にいるリードの存在が1番だ。

それをわからせなくては。

ホッチは、もう一度、キスを落とすと、ゆっくりと丁寧に、リードの服を脱がせ始めた。ネクタイを取り、ベストを脱がせる。シャツのボタンを外すのは、その薄い胸を唇で辿りながら。臍の中を突くように舐めながら、ベルトを外し、ズボンも引き下ろす。リードも腰を浮かせたり、足でズボンをずらしたりと協力的だ。しかし。左右で柄の違う靴下はそのままで。リードも別にそれは気にしていないようだった。

細くて、白くて、綺麗な肢体だった。

ホッチも素早く自分で衣服を脱ぐとすぐにリードに覆いかぶさった。キスをしながら、乳首を指先で転がしてやる。

「ひゃっ・・・あ・・・ぼ・・・僕、女の子じゃないから・・・・そんなとこを触ったって・・・」

「感じてるみたいだぞ?」

「アーロンに触られたら、どこでも感じちゃうの!!んー・・・あ、あ、あ・・・」

胸への刺激に、リードの白い首筋が仰け反る。

指だけでなく、舌でも乳首を転がすと、余計に甘い声が響いた。悪くない。

ホッチは、そろそろと舌を腹部へと、そして下腹部へと移動させていった。普段はあまり主張を知らないような場所が、ふわりと勃ち上がっている。ホッチは指を添えると、それを口に柔らかく含んだ。

「あああっ・・・あ・・・あ・・・だか・・・ら・・・シャワーって・・・言った・・・のに・・・うう・・・」

情けない声を出すリードだったが、ホッチはそんなことは意に介さない。リードを形作る、そう体臭さえも愛おしい。

ホッチはリードの膝裏を押し上げて両足を開かせると、激しい口淫へと移った。経験の浅いリードは、それだけで、脚をガクガクとさせている。

「は・・・う・・・や・・・やん・・・も・・・イっちゃうよ・・・アーロン・・・ダメ・・・やぁ・・・」

ホッチはリードの先端を咥えたまま言ってやる。

「イケばいい。遠慮はするな」

「ん・・・じゃ・・・離して・・・そうでないと、アーロンの口を汚しちゃう・・・」

「今更だな」

そう言って、ホッチは再び深くリードをしゃぶると上下に激しく口を動かした。

「ひゃっ・・・あ・・・あ・・・あ・・・や・・・ああああああああ~っ・・・」

腰をガクガクと動かしながら、そうして、最後は局部をホッチに押し付けるようにして、極めた。それから、ゆったりと弛緩。

「は・・・あ・・・」

けれども、ホッチはリードの太腿裏を離すことなく、さらに上にあげると、露わになっらピンク色の蕾に舌を合わせた。口の中に残るリードの精液を送り込むように、舌先を押し込む。

「ああああっ・・・そっ、それ・・・や・・・もう・・・シャワーも浴びてないのに・・・ふえ・・・ええん・・・」

羞恥のために、半泣きになりながら、体をよじろうとするが、その一方で、体の中には快楽の炎が灯っている。小さな嗚咽をあげながらも、ホッチの舌の動きを後孔で捉え、深く感じようとしている。

「うっ・・・・も・・・エッチだ・・・アーロンってば・・・めっちゃ、エッチだぁ・・・」

リードの声は聞こえているが、自分はリードを解すのに忙しい。リードに辛い思いはさせたくない。・・・大事、だからだ。ただ、快楽を知って欲しいし、快楽を求めて欲しい。

ホッチはだいぶ濡れたリードの蕾に指を1本差し込んだ。

「んっ・・・」

「大丈夫か?」

「ん・・・だ・・・大丈夫。・・・痛くない・・・」

ホッチは慣れた指使いで、リードの前立腺を押す。

「ひゃっ・・・あんっ・・・ああああ~・・・そこ・・・も、そこ、ダメ・・・や・・・」

本当に嫌なわけではない、感じすぎてしまうのだ。さっき放出したばかりなのに、再び勃ち上がってしまう。

「そっ・・・そこ、そこばっかり・・・やっ・・・あ・・・お願い・・・アーロン・・・挿れて・・・・お願い・・・挿れてぇ・・・指だけは・・・や・・・」

ぐずぐずと啼きながらお願いをする。

「いい子だ」

ホッチは、自分の二の腕で、リードの太腿裏を支えるようにして体を押し開いたままにする。そして自分の位置を決めると、すでに硬く屹立したモノをリードの蕾に充てがう。

「いいか?行くぞ?」

リードは声には出さず、頷くことで返事をした。欲しい。早く欲しいのだ。ホッチの。愛する人の、猛々しい太いモノが。それで奥まで突き上げて欲しいのだ。

ホッチは、可愛らしい唇にキスを与えながら、グッと自分を自信をリードの体内へと押し込んだ。

「はんっ・・・ん・・・」

その太さ、質量を、体の中に感じる。あとはわかっている。蹂躙されるように、体を揺さぶられるのだ。自分で自分の体をコントロールできないほどに。けれども怖くはなかった。相手はホッチだ。絶対に、自分に酷いことはしない。安心して、身体を、全てを任せられる。

上からプレスされるように、ホッチの体重がリードにかかる。身体の奥深くまで、ホッチのペニスが届く。身体の奥底をノックされるような感覚。

「んっ・・・んぐっ・・・・んんっ・・・」

呼吸を忘れたリードの唇を、ホッチが指先で優しく開く。

「は・・・あ・・・アーロン・・・もっと・・・ほし・・・」

両腕を伸ばして、ホッチに抱きつく。ホッチの身体の向こうで、左右で柄の違う足先が揺れている。

今は・・・きっと、多分・・・今は・・・一番。

そんなことを頭の隅っこで考えながら、あまりの気持ち良さに、リードは意識を手放した。ただ、視界の向こう側に、色とりどりの美しい花畑見えた。

********************

「・・・ド?・・・・リード?」

「・・・・・・・・ふ・・・ん?・・・んん?・・・あ・・・アーロン!」

起き上がろうとしたが、リードはできなかった。身体が思うように動かなかったのだ。まるで自分の体ではないかのように。

「悪い。無理をさせた。」

「んーん。・・・無理してないよ?」

「水・・・飲むか?」

「んー・・・・いらない。それよりも、アーロン、ギュってして」

ホッチは動けないリードの上半身を起こしてやると、その細い体を抱きしめてやった。

「もっと。強く」

「折れるぞ」

「そこまで華奢じゃないよう。女の子じゃないんだから」

BAUの女子枠だがな・・・と、思いつつも、リードの要求通りに、ホッチはリードの体を力強く抱きしめてやった。

「あのね。すっごく気持ちよかった。・・・そのせいかなぁ・・・」

「どうした?」

「あのね・・・お花畑を見たよ?すっごく綺麗なお花畑。いろんな種類の花がいっぱい咲いてるんだぁ・・・」

「・・・おい・・・臨死体験じゃないだろうな、それは」

「違うと思うよ?うん。だって、心が身体から離脱してるような感覚はなかったもん。っていうか、僕、そういうの信じないし」

「いや・・・少し無理をさせた。悪かった」

「そんなことないよ。・・・ねぇ、アーロン。僕、もう一回、あのお花畑を見たいなぁ」

そう言って、リードが甘えたようにアーロンを見上げる。そして指先で、髪や頬を触る、リードなりのおねだりだ。

「無理はダメだ」

「じゃあ、お花畑は見れなくてもいいから・・・、気持ちいいこと、しよ?もう一回?ダメ?それとも・・・もう・・・ジャックにホッチを返す時間かなぁ・・・」

しょんぼりと、リードが言う。

「・・・それは大丈夫だ。ジャックはJJのところだ。と言うか、JJがジャックを拉致して行った」

「ありゃ。・・・じゃあ・・・まだ、僕が1番?」

「そうだな」

リードの綺麗な金髪の頭に鼻先を埋めてキスをする。

「じゃあ、今度は、僕が上になっていい?僕が頑張ったら、今度はアーロンがお花畑を見れるかもしれないよ!」

「さあ、それはどうかな」

リードはトンっとホッチの身体をベッドに押し倒すと、その上に座り、すでに充分に柔らかく溶けている蕾に、ホッチを誘ったのだった。

********************

2回戦後。

「・・・僕・・・また、お花畑を見ちゃった。アーロンは?」

「君の綺麗な顔が見えた」

そうして、ジャックがJJno所にいるのをいいことに、3回戦に突入する二人だった。

END

ソックス

ホッチはリード脱力したリードの体をうつ伏せにひっくり返すと、そのウエストに力強い腕を回し、ぐいっと細い体を引き起こした。そして、胡座をかいた自分の膝に下ろそうとする。

「ふえ・・・あ・・・ホッチ・・・」

恐々とリードが不安気に振り向くと、ホッチが眉を顰めて不機嫌そうな表情をしている。ああ、そうだった。こういう時の約束だ。だから、リードは、もう一度、愛する人の名前を呼び直した。

「アーロン・・・んっと・・・」

「インターバルがあると思うな。大丈夫だろう?スペンス」

「う・・・ん・・・」

ホッチとのセックスにもだいぶ慣れ、立て続けに抱かれることに抵抗はない。それに、今夜の1度目は激しかったけれども、やっぱり何処か優しかった。否、ホッチはいつだって優しい。

一度は放出したというので、既に勃ち切っているホッチの甘い凶器に、そろそろと腰を下ろす。自分の後孔は十分に柔らかい。リードはホッチの雄に細い指を添え、その先端を自分に宛てがうと、自重をかけていった。張り出した部分を飲み込むときに、一瞬、動きが止まり、息を飲む。けれども、すぐに小さく甘い吐息を吐くと、さらにズブズブとホッチを飲み込み始めた。

「いい子だ。スペンス」

後ろからホッチがリードの髪を梳き、撫でる。さらに、指先でその小さな顔をなぞる。その指の動きが、リードは好きだった。

時間をかけて、ホッチの全てを飲み込んだリードは、ベッドに手をついて、呼吸を整える。膝と、左右柄違いの靴下を履いたままの足先の置き場所を考えて位置をずらす。今度は自分が動いて、ホッチに喜んでもらおうと、リードは思ったのだ。

それなのに。

いきなり、両太腿の裏を掬い上げられた。

「ひゃっ・・・あ・・・ホッチっ・・・」

「・・・スペンス?」

「あ・・ん・・・ごめんなさい・・・アーロンっ・・・」

再び恋人の名前を呼び直しながら、ただ一点だけで繋がっている不安定さから、リードは何かに掴まろうとするのだが、拠り所がない。けれども、逞しく、力強いホッチに腕に脚を抱えられていることを思い出し、全身の無駄な力を抜く。そんな恋人の様子を確認して、ホッチはその白い背中に唇を落とした。

「んっ・・・あんっ・・・くすぐったいよ・・・ふっ・・・んん・・・」

くすぐったいと言うわりには、リードは小さいけれども、嬉しそうな声をあげる。指や唇で体を辿られるのは、リードの好きな行為の一つだ。

ホッチの唇がリードの頸を捉え、キツく吸い上げると、それは始まった。抱えた太腿を持ち上げると、すぐに落とす・・・という行為。持ち上げられときにホッチが抜かれ、落とされたときにホッチがリードの奥を抉る。

「んあっ!・・・あっ、あっ、あっ・・・」

ぐじゅっ・・・ぐじゅっ・・・と音がする。さっきホッチが奥に放ったものが、今のリードの体を起こした体勢によって、流れ落ちてくるのもあり、ホッチの雄の動きは滑らかだった。

「はっ・・・あっ・・・あんっ・・・いい・・・いいよぅ・・・アー・・・ロン・・・すき・・・・んっ・・・」

あまりに気持ちが良くて、涙目になっているリードの視界には自分の両足。左右で柄の違う靴下に包まれている。それが、ボヤけた景色の中でゆらゆらと揺れている。そんな足先を見ながら、リードは自分の勃ち上がったものを両手で包んだ。ホッチが与えてくれる動きに合わせて、軽く握って扱く。

「んっ・・・んっ・・・んっ・・・やっ・・・あ・・・も・・・」

ぴくんっと、靴下に包まれた足先が伸びる。絶頂が近い。

「あ・・・い・・・イキたい・・・アーロン・・・イキたい・・・イってもいい・・・?」

「もうか?」

「ん・・・アーロンは・・・まだ、僕の中にいていいから・・・・でも・・・僕・・・イっちゃう・・・んっ・・・んくっ・・・」

自分を扱き上げる速度を増して、絶頂を迎える。

「んあっ・・・あー・・・」

短い悲鳴を上げながら、リードの体がヒクヒクと痙攣する。痙攣しながら、後孔が締まるのを、ホッチは感じる。まるで喰い千切られそうな感覚。

「まったく・・・君は・・・」

脱力したリードの体を揺らし続けて、ホッチもまた、その体の最奥へ精をを放とうとする。肩越しに見えるリードの足が可愛いらしい。なんだって、このジニアスは、いつも両足、柄の違う靴下を履くのだろう。尋ねたとしても明確な答えが返ってきそうにないので、問いただしたことはない。ただ、口にしたことはないが、その左右で柄や色の違う靴下を見て、『可愛い』と思うことは毎日だ。それは、相手がスペンサー・リードだからに他ならないのだが。それで、何と無く今夜は、服を逃がせても、靴下だけはそのままにしてしまった。

リードが一生懸命腕を後ろに回して自分に触れようとしてるのがわかる。それを感じて、ホッチはリードに体を密着させた。

「アーロン・・・僕の中・・・気持ち・・・いい?」

「ああ。出て行くのがもったいないほどに」

「へへ・・・褒められた・・・僕・・・」

「中だけじゃなく、君は全てがいい・・・」

「そ・・・なの?」

「ああ。両足で柄の違う靴下もいい」

「へ?・・・あ・・・ああ・・・んー・・・変?」

「いや、君らしいし、可愛い」

「可愛いって・・・ちょっと違うような気がするけど・・・あんまり気にしたことなかった・・・靴下・・・」

「そういう無自覚なところもいい」

そう言って、ホッチは一際リードの体を持ち上げると、激しくその体を落とした。それを繰り返す。

「ひゃっ・・・あんっ・・・」

再び、空中で揺れる、靴下。それを眺めながら、自分の体が翻弄されるのを感じる。そして、何度か落とされた後、ホッチが自分の体の中で爆ぜるのを感じた。お腹が、熱くなるのを感じ、それはリードの幸せに繋がっていった。

********************

「確かに。この状態なら、左右違う靴下になっても仕方ないな」

シャワーを浴びて、リードのチェストの引き出しを開けたホッチが言った。そこには、一足ごとになった靴下ではなく、左右バラバラになった色とりどりの靴下が放り込まれていたからだ。

「ごめんなさい、だらしがなくて・・・」

「君は、こういうことに頭脳を使う人間じゃないからな。別に謝まることじゃない」

「ん・・・ありがと、ホッチ」

ベッドから降りると、自然と呼び方が戻ってしまう。けれども、ホッチはそれを指摘はしなかった。閨の中だけでも、十分だった。あの可愛らしい、感じいった声で、自分の名前を呼ばれるのは。

「スペンス。今夜は泊まれるから」

「え!?本当!?じゃあ、朝食はちゃんと僕が作るね!あのね!ようやくオムレツが作れるようになったんだよ!!!」

「ほう。目玉焼きから進歩したな」

「うん!JJに教えてもらったんだ!」

嬉しそうに、リードが言う。

ジャックや仕事のこともあり、この可愛い恋人を一人、部屋に残して帰ることが多い。けれども、今夜はジャックが友人宅のお泊まり会でいなかった。

「じゃあ、君のオムレツに備えて、今夜は、もう寝るとしよう」

「えー?僕、練習しようと思ったのに」

「大丈夫だ。君は天才で、指導者がJJなら問題ない。・・・それよりも・・・滅多にない二人だけの時間だ」

「・・・うん。・・・そうだよね。・・・じゃあ、チェスでもする?」

「いいから。今日はもう眠るんだ」

「だって・・・ホッチが一晩中いるのに?眠っちゃうなんて・・・もったいない!!」

それを聞いて、『ああ』と心の中で思う。やはり、この天才青年は寂しかったのだな、と。そんなリードの頭をぽんぽんと叩いて、ホッチ言った。

「一晩中、抱きしめてやろう。今夜は、俺を独り占めだ」

「・・・うん・・・わかった」

独り占めの言葉が聞いたらしい。たたっとベッドに行くと、リードはシーツを替えたベッドに潜り込む。そして、半分のスペースをパンパンと叩く。

「早く!ホッチ!朝が来ちゃうよ!」

「ああ、わかった、わかった」

ホッチもベッドに入り、約束通り、リードの体を腕に抱き込む。

「いいね。・・・こういう、あったかいの。・・・好き」

「・・・すまないな・・・いつも、一人にして」

「いいの。・・・たまにだから・・・いいのかもしれないし・・・。ホッチには、ジャックのことを大事にしてもらいたいから」

そんなお利口さんの返答をして、もぞもぞと居心地のいい場所を見つける。

「・・・大好きだから・・・アーロン」

ホッチはリードの髪を撫でながら、その頭頂部にキスをして、ベッドサイドの灯りを消したのだった。

END

Four Beauties

金曜の夜。BAU。JJ、エミリー、ガルシア。3人の美女たちは書類仕事をしつつも、横目で時計をガン見していた。

電話が鳴りませんように。

ホッチのオフィスに呼び出しを喰らいませんように。

ミーティング・ルーム集合とか言われませんように。

カチリ。

と、時計の針が定時を指し示した瞬間、3人は立ち上がった。ガッツポーズをして。そして、いそいそとバッグを持って、BAUの部屋を出て行ったのだった。

その様子を見て、「ふむ」と小さく唸るモーガン。そして、

「まあ、金曜の夜だからな」

と呟く。その隣でリードが小さく頷いた。

「んっとね、女子会だって」

「なるほど、そうか。まあ、事件がない日なんてそうそうないからかな。・・・じゃあ、俺たちも飲みに行くか?」

モーガンがリードを誘う。けれどもリードは軽く首を横に振った。そして、ふわっと笑って言う。

「ごめんね。モーガン。僕も行くんだ」

「は?」

「女子会」

「ちょっと待て。お前、いつから女子になった?・・・っていうか・・・ああ・・・まあ・・・その・・・なんだ・・・いい・・・のか・・・リードの場合は・・・」

妙に納得したようにモーガンが呟く。

「ん?何?」

こてんっとリードが首を傾げてモーガンを見る。

「ああ、いや、なんでもない。しかし・・・お前は一緒に出なくてよかったのか?置いてけぼりだぞ?」

「ああ・・・彼女たちはさ、メイクとか着替えとか、準備があるから。僕はこのままでいいから、現地集合」

「なるほどな」

「まあ、楽しんでこい」

モーガンがポンポンとリードの頭を軽く叩いた。

「うん!」

リードはニコッと笑うと、飲みかけの甘ったるいコーヒーに口を付けたのだった。

*******************

事件はなくとも仕事はたっぷりとある。膨大に積まれた書類。それらに目を通し、サインをして決済する。そんな仕事を黙々とこなしていたら、時計はすでに午後9時を過ぎていた。デスクの上のコーヒーもすっかりと冷め切っている。新しいコーヒーを入れて、もう少しやるか、それとも・・・。ホッチナーは立ち上がった。

自分のオフィスを出て下を見ると、ちょうどモーガンが帰ろうちしているところだった。

「まだ、いたのか」

「ああ。珍しく事件のない金曜だったから、リードを飲みに誘ったんだがな。フラれた」

そんな返答にホッチが片眉を上げる。

「ああ、変な意味じゃないぞ?JJたちが女子会だっていうんで、それなら俺はリードを誘ってやるかって思っただけで。ところが、そのリードも女子会に参加なんだとさ。それで、まあ、俺は書類仕事を片付けてたったわけ。あんたと同じように」

「・・・女子会に・・・リード?」

「まあ、リードは女子枠だからな」

「・・・それも・・・そうか・・・」

妙に納得したように、ホッチは頷いた。モーガンは『ツッコミは無しかよ!』と思いつつも、軽く手を上げて部屋を出て行ったのだった。それを見送って、ホッチはこれからの時間の使い方を決めたのだった。書類の始末は、また後日でいいだろう・

********************

JJ、エミリー、ガルシアと別れたのは0時のほんの少し前だった。お姉様方3人は次の店へと繰り出すとのこと。けれども、リードは楽しい時間を過ごしたものの、少々飲みすぎたのと、前夜の寝不足(読書のしすぎ)が祟って、後半は欠伸ばかりだった。それで先に帰ることにしたのだ。さすBAUのお姉様方はあらゆる意味で強い。酒にも男にも、だ。

欠伸を噛み殺しながら、リードが自分のアパートの下でふと上を見上げる。そうしたら自分の部屋の窓に灯りが灯っていることに気づいた。

「えっ!?」

一瞬にして眠気が覚める。

『えええええ!?僕、電気を点けっぱなしで部屋を出た?』

『いやいや、そんなことない!だって、朝は電気なんかつけないもん』

『じゃあ・・・不審者?ご、泥棒とか?』

『でも泥棒さんなら、暗闇で仕事するよね』

『ああ・・・どうしよう・・・銃は職場に置いてきちゃった・・・』

『こ、こんな時はどうしたらいい?・・・ホッチなら・・・どうする?』

と、ここまでぐるぐる考えて、

「あ!ホッチに電話しよう!ホッチなら適切な対応策を教えてくれる!」

と両手をパチンと叩き、スマホを取り出す。アドレスからホッチの番号を呼び出して・・・。その瞬間が、夜の闇の光が動いたような気がした。反射的に自分の部屋を見る。その窓には、見知った人影。

「・・・ホッチ・・・?なんで?」

リードはててスマホをポケットにしまうと、たたたたたっと駆け出したのだった。

*********************

「ホッチ!」

鍵のかかっていないドアをバタンッと開けると、ホッチが小さなダイニング・テーブルの椅子に座ってコーヒーを飲んでいた。片手には、本。昨夜、リードが読み終わったものだ。部屋の合鍵は渡してある間柄だったから、別に上司であるホッチが部屋に入っていてもおかしくはないのだが、正直リードは驚いていた。今夜、会う約束などしていなかったからだ。

「さて。水がいいか?それともコーヒー?」

「んっとね、両方!」

「わかった」

リードが斜め掛けバッグを、これまた小さなソファに置くと、すぐに水のペットボトルが渡された。

「コーヒーは、今、濃いのを落としてやる」

「あ、うん。ありがと、ホッチ」

リードはごくごくと喉を鳴らして水を飲む。酔っていたし、下から走って上がってきたから、その冷たさが物凄く美味しい。半分ほど飲んで、ようやくリードはペットボトルから口を離した。

「はふぅ・・・」

一息ついて、ペットボトルをテーブルに置くと、リードはキッチンにいるホッチの背中に話しかける。

「えっと・・・その・・・いつから・・・いたの?」

「2時間くらい前だ。9時くらいまでは書類仕事をしていたからな」

「あ、だよね。そうだよね。そう思ったんだ、僕」

ブツブツと自分を納得させるようにリードが呟く。

「ほら、コーヒー。濃い目だが、甘くはしておいたから」

「ありがと、ホッチ」

「いつまでも突っ立ってないで、座ったらどうだ?ここはお前の部屋だろう?」

「あ、ああ。うん。そうだよね」

言われてようやく、リードがソファに座る。あまり大きいとは言えないソファ。リードの隣にカップを持ってホッチも座った。

「ねえ、ホッチ。今日って・・・その・・・貴方がここに来るって・・・約束してたっけ?」

「君の記憶にあるか?」

「・・・・・・ない。ないけど、こうして現実にホッチがここにいるわけで・・・その・・・」

「心配するな。約束はしていない。君がJJたちと女子会に行ったとモーガンに聞いたから、酔っ払いの介抱でもしてやろうかと思っただけだ」

「そ、そんなに酔ってないよぅ・・・」

「みたいだな」

仕事では見せない笑みをホッチが見せる。リードが好きな表情だ。

「しかし、女子会とは、君はいつから女子になったんだ?」

「んー・・・だって、誘われたんだもん。JJたちとお出かけするの、結構楽しいんだ。気を使わなくていいし・・・」

「で?今日は何処に行ったんだ?」

「まずはね、スイーツブッフェ。夕食の代わりに、可愛いプチケーキをたくさん食べた」

「じゃあ、夕食は食べてないのか?」

「だから、ケーキがご飯だってば!美味しかったよ?いけなかった?」

「まあ、たまにならいいか。それで?そのあとは?」

「新しくできたバー」

「ほう。そういう店で楽しめるタイプだったか?君は」

「うん。面白かったよ?あのね、ナンパ返しをするJJたちが最高にカッコよかった」

「なんだ、そのナンパ返しってのは」

「あのさ、ああいう店に来るちょっといけた感じのスーツを着た男の人ってさ、秘密の職業についてるフリをするんだよね。ナンパの手口っていうの?まずね、最初にJJに声をかけた男の人はCIAっぽいフリしてた」

「ほう・・・それで?」

「それでその自称CIAとJJが密着したところで、JJが身分証を出してさ。こう言ったの。『私はFBIだから、CIAとは仲良くできないわ】って」

「それは・・・傑作だな」

「それからね、エミリーは自称FBIにナンパされてね・・・」

「で、いいところで身分証を出した・・・と?」

「そう。『私もFBIだけど、貴方の名前も顔も知らないわ』って」

クックックと喉奥で笑いながら、リードの話を聞く。BAUの女子は強い。

「ガルシアは?」

「ちっちゃい携帯端末で相手のスマホををハッキングしながら、色々暴いてた」

「・・・今の話は聞かなかったことにしておこう。・・・それで?君は?」

「へ?僕?僕が・・・何?」

「君はナンパされなかったのか?」

「やだなぁ・・・僕、男だよ?ああ、でも・・・めっちゃ物理の専門的な話をしてくる男の人には話しかけられたけど。自称物理学者。まあ、本当かもしれないけど、僕の質問に答えられなくって、途中で青ざめながらどっかに行っちゃった」

ヘラっと笑いながら、リードが報告する。それを聞いて、ホッチが眉間に軽く皺を寄せる。

「あのな。そういうのをナンパっていうんだ。だいたい、夜のバーで男相手に物理の話をする男なんかいるわけないだろう。まあ、自分の頭の良さをアピールしたかったんだろうな。ただ、わがBAUのジニアスには通用しなかったわけだが」

「ほえ?あれ・・・ナンパ?ナンパだったの?・・・ワオ。じゃあ、僕、ナンパされデビューだ」

「喜ぶな」

「喜んでないよー。ただ・・・意外だなって。僕って、そっちの人に見える?」

「君の美貌は誤解されやすい」

「・・・美貌・・・ホッチもそういう単語を知ってたんだね」

「おい」

「あはは。嘘。冗談。・・・でも・・・こうして会えて嬉しい。本当はさ、事件のない金曜日だから、一緒にご飯とか食べたいなって・・・ホッチのことを誘おうかなって思ってたんだ。でも、こういう日の貴方は書類仕事で忙しいでしょ?それで声をかけそびれちゃって。そうしたら、JJたちに誘われて・・・」

「悪かったな。・・・いつも忙しいから、こういう珍しく事件のない日は俺が君を誘うべきだった」

「そんなことないよ。お仕事、優先して」

リードが笑う。そして、濃い目の甘いコーヒーに口を付ける。

「よかった。これだけ濃いコーヒーなら。眠らなくてすみそう。せっかく貴方が来てくれたのに眠るなんてもったいないもんね」

「明日・・・もう今日か。土曜日だし、少し遅めの出勤でいいぞ。・・・スペンス」

JJがよく使う愛称で呼ばれてスイッチが入る。

「でも、貴方は、いつも通りの時間に出勤するんでしょ?・・・アーロン?」

「これから体を酷使するのは君の方だからな。起きたくても、きっと起き上がれないだろうな」

「え・・・僕・・・そんなにされちゃうの?」

ドキドキしながらも、嬉しそうにリードが聞き返す。

「君の反応が、そうさせるんだ」

ホッチが自分のカップをテーブルに置き、リードの手からも取り上げる。それから手を取って立たせると、ベッドのあるスペースへと誘う。

「あー・・・僕、シャワー浴びてないよ?」

「構わない。君はいつもいい香りがする」

「フレグランスとか、使ってないよ?どんな香り?」

「そうだな・・・書類と、本と・・・石鹸の香り・・・だな」

「石鹸?・・・匂い、する?」

「ちゃんと泡を洗い流さないで、シャワーを済ませるんだろう、君は」

「あ、ああ・・・確かに・・・そういうところ、適当かも・・・僕」

ぽすんっと、あまりスプリングのよくないベッドに押し倒される。ホッチが少し長めの後ろ髪を指に絡めて鼻を近づける。

「ああ・・・やっぱり、まだ石鹸の匂いが残ってるな」

「よかった・・・お酒臭くなくて・・・」

リードが緩くホッチの背中に腕を絡ませる。

「ごめんね。今度から、事件のない夜は、ちゃんと誘うね。駄目元でも」

「俺はできる限り、その誘いを断らないようにする」

「無理しないで」

「多少の無理はしないとな。君の体を抱き込むためには。なあ、スペンス」

「ん・・・嬉しいな、アーロン」

「だから・・・これからは、ナンパには気をつけるように」

「・・・そんなんじゃないと思うけど・・・。でも、バーで物理の話をする男には気をつける」

「物理以外の難しい話全般な」

「・・・怒ってる?JJたちとお出かけしたこと」

「怒ってない。そもそも、君を構ってやらない俺が悪いんだから」

「そんなことないよ・・・だって、アーロンは仕事が・・・んっ・・・んぅ・・・んん・・・」

リードの言葉が、ホッチの唇によって遮られる。リードも素直にその唇を受け止める。

せっかくの二人っきりの夜だから。

言葉以上のことで、夜更かしをする方がいいに決まっている。

ホッチの口づけを受けながら、身体中を弄られる感触を確かめながら、リードは器用に靴を脱いでポーンと放ると、細い両足をホッチの背中に絡めたのだった。

END

君があまりにも崇高で美しいから

「あれ?アンジョルラスは、まだ起きてないの?」

グランテールは皆が集う場所でボソッと呟いた。

「昨夜はだいぶ遅くまで起きてたみたいだからな。まだ寝てるんだろう」

これは、コンブフェールの言葉。

「ふうん。・・・もう、こんな時間なのに。お腹、空かないのかな」

そう言って、かの美しき人が眠っているであろう階上を見上げる。

「朝ごはん・・・持って行ってあげようかなぁ・・・」

「ああ、そうしてやってくれ。首領として考えることがいっぱいあるんだろうが、時々寝食を忘れるからな」

コンブフェールが簡単な朝食の乗った、少し大きめのトレイをグランテールに渡す。

「ん?なんで二人分?僕はもう食べたけど」

「ああ、それはガブローシュの分だ。昨夜のお相手は、ガブローシュだったからな」

「えっ・・・」

ガブローシュは可愛い少年だ。アンジョルラスは綺麗な青年だ。

グランテールは、慌てて、バタバタと階段を駆け上がって行った。

********************

大きな足音を立てて、階段を上がったものの、グランテールは、ドアの前では静かにした。ノックをするかどうか悩んだが、それで眠っているアンジョルラス(ガブローシュは置いといて)を起こすのは嫌だ。できれば、寝顔を見たい。あわよくば・・・。

と、そこまで邪なことを考えて、グランテールはブンブンと頭を横に降った。何を考えてるだ自分は。こういうのは、「同意」とか「合意」が大事だ。

グランテールはそっとドアを開けると、静かに部屋の中に入った。カーテンを開けたまま、眠ってしまったのだろう。部屋には朝陽が差し込んでいる。

ベッドを見ると頭が2つ。けれども、その一つがすぐに反応し、起き上がった。

ガブローシュだ。

「んはっ!いい匂い!」

ガブローシュはベッドからぴょんっと降りると、グランテールが持っているトレイを覗きこんだ。

「起きてたのか、ガブローシュ」

「惰眠をむさぼるのもたまには必要だし。なあ、半分はおいらの飯?」

「ああ、そうだ。コンブフェールが持たせてくれた」

「やったね。めっちゃ腹が空いてんだ、おいら」

自分の分の食器をトレイから取って、ガブローシュは小さなテーブルへ置いた。そして、椅子に座ってガツガツと食べ始める。

「美味しいかい?」

「食えりゃ、幸せ。たった一切れのパンでもな」

ガブローシュはまだ小さい。本当なら、もっと美味しいものを食べさせてやりたいと思う。

あっという間に食べ終えると、ガブローシュは手の甲で口を拭き、椅子から降りた。

「じゃ、おいらは行くよ。ごちそうさま。んまかった。食器は自分で下げるから。それと・・・」

ガブローシュはニヤリと笑ってグランテールを見て言った。

「無抵抗の人間にやっちゃいけないことってあっからね」

「っ・・・ガ、ガブローシュっ!!」

「んじゃなー」

食器を持って部屋を出て行く少年。ドアを静かに閉めたのは、アンジョルラスへの配慮だろう。ガブローシュを見送ったグランテールは、ずっと手に持っていたトレイをテーブルに置くと、ベッドに近づいた。

金髪の青年、アンジョルラスが眠っている。いつも早起きの彼がこの時間まで眠っているということは、昨夜は相当遅かったのだろう。・・・理由は、わからないが。けれども、ガブローシュが居たということは、きっと革命話を聞かせてやっていたのだろう。アンジョルラスはその話に詳しいし、ガブローシュもその話が好きだ。

「ん・・・」

アンジョルラスに唇から、声が漏れた。思わず慌てるグランテール。何もしてない、自分は何もしてないぞ、と。・・・下心はあったとしても。

話しながら眠ってしまったのだろう。着替えることもせず、ベッドにいるアンジョルラス。ただ、タイは外しているし、シャツのボタンも数個外している。グランテール的には非常に見目麗しい光景。いやいや、ダメだダメだ。こういうことは、「同意」とか「合意」が大事なんだから。

グランテールは毛布を首元までかけてやろうと(何故なら、このままの状態は目に毒だからだ)、腕を伸ばした。アンジョルラスを起こさないように。

けれども。

グランテールが、毛布に手をかけた瞬間、アンジョルラスの瞳がパチリと開いた。

「あ・・・」

思わず、声を出すグランテール。

「・・・ん?あれ?・・・ガブローシュが、グランテールに変身した?」

相変わらず、天然なことをいう首領である。

「いや、ちゃんとグランテールだから。ガブローシュはさっきまでいたけど、朝食を食べて、さっき下に降りてった。・・・えっと・・・昨夜は、遅かった?」

「ああ・・・」

もぞもぞとベッドの上に半身を起こし、アンジョルラスは軽く伸びをした。グランテール的悩殺ショット。思わず、ゴクリと唾を飲み込む。もちろん、アンジョルラスに気づかれないように。

「うん。革命の話をね。ガブローシュには以前から、話をしてあげるって約束してたんだ。それが’叶ったのが昨夜ってことで・・・ああ、でも、あんな小さな子を夜遅くまで起こしといて悪かったなぁ・・・つい、興に乗ってしまってね」

「いや、めっちゃ元気だったから、そういう心配はいらないと思う」

「そう?なら、いいんだけど」

言いながら、アンジョルラスがベッドから降りる。その姿に、グランテールは「うっ」と小さな呻き声を上げて、鼻を押さえた。

何故なら、非常に寝乱れた状態だったからだ。シャツの裾はズボンからはみ出ていて、外した胸元のボタンのせいで、起きた瞬間、するっと片方の肩が露わになったからだ。グランテールにとっては、ある意味、殺傷能力の高い狂気。実際、鼻腔をたらりと何かが流れ落ちるのをグランテールは感じていた。

鼻血。

「どうした?グランテール・・・て!ちょっと!おい!血が出てるぞ!!!」

慌てて近づこうとするアンジョルラス、それを片手で遮るグランテール。これ以上、麗しの君が近づいてきたら確実に出血死だ。

「だ、だ、だ、大丈夫・・・らから・・・」

「そ・・・そうか?しかし・・・」

アンジョルラスはポケットを探り、ハンカチを取り出した。そしてグランテールに差し出す。

「使って」

「あ・・・あんがと・・・」

アンジョルラスからハンカチを受け取り、そうして2、3歩後ずさるグランテール。けれども、心配して間合いを詰めようとするアンジョルラス。心配はいいから、早くそのセクシーすぎる身なりを何とか整えて欲しい。出ないと、鼻血が止まらない。

「ご・・・ご飯・・・アンジョルラス・・・ご飯・・・」

グランテールはテーブルの上のトレイを指差した。

「あ、ああ・・・運んでくれたんだ。ありがとう。いただくよ」

天使の笑顔で答えると、「おやっ?」とばかりにようやくアンジョルラスは身なりを整え始めた。

「ゆゆゆゆゆゆっくり食べてくれ・・・。じゃ、下にいるから・・・」

「うん。わかった。ありがとう、グランテール」

天使の笑みを受け取りながら、グランテールは鼻を押さえて、廊下に出た。

アンジョルラスが貸してくれた白いハンカチは、真っ赤なハンカチへと変わりつつあった。洗ったとしても、元の白さは帰ってはこないだろう。

「あ、新しいのを買って返そう・・・」

言いながら、グランテールは、微笑んだ。これで公正明大に、愛する者へと贈り物ができる。

ダボダボと鼻血を流しながら、グランテールはガッツポーズを取るのだった。

END

契約という名の確実な束縛

「んっ・・・んっ・・・あっ・・・ああっ・・・い・・・いいっ・・・あ・・・サム・・・サミー・・・はっ・・・もっと・・・奥っ・・・」

体格の良いサムの体の下で、あられもない声を発しているのは、少しばかり弟よりも華奢な体をもっているディーンだった。両手両脚を弟の体に回し、自分の体に引き寄せているものだから、サムとしても、もっと快楽を与えてやりたいとはいえ、動きに制限が出てしまう。

狩の後のせいか、今夜の兄は少々感情が飛んでいるいるらしく、貪欲に弟を求めた。

それはサムにとって決して嫌なことではない。むしろ嬉しい。

「ディーン。もっと奥を突いてあげるから、ちょっと脚を外すよ」

言いながらサムは少しばかり体を起こして自分の背中から、兄の脚を引き剥がした。

「んうっ・・・」

不満そうな呻き声。けれども、間髪入れずに、サムがディーンの腰を抱え直して突き上げを再開すると、それは甘い喘ぎ声にすぐに変わった。二人の体の間で勃ち上がって揺れているディーンのものを掴んで扱き上げると、その形のいい唇からは、さらに甘い声が溢れてくる。

「ディーン、イく?俺もイっていい?」

兄の耳元で囁くと、コクコクと頷きがあった。それを「了解」と解釈して、サムはストロークと手淫を速めた。登り詰める。絶頂。

安モーテルの隣の部屋まで響きそうなディーンの声。ひとしきり啼いたかと思うと、ディーンは仰け反った体を、ドサリとシーツに落とした。目を瞑ったまま、呼吸を整えている。サムが、そろりとディーンの中から自身を抜くとき、一瞬。ディーンの眉が潜められた。それは「嫌」ではなく、ただそれだけの動きにすら敏感になってしまっている証拠だった。

サムは、自分のペニスからスキンを外すと、口を縛ってゴミ箱に放り込む。今夜、3つ目のスキン。

「水・・・欲しい?」

目を瞑ったままのディーンに問うが、彼は軽く首を横に振った。相当体が怠いらしい。そうだろう。あれだけ、喘ぎ、絶頂を覚えれば。

サムはディーンの下半身に古びた毛布を掛けると、自分は小さなテーブルの上い置いてあったペットボトルの水を一口飲んだ。兄、ディーンの寝姿を眺めながら。

・・・・・・これだけ、ぐったりと、動けないでいるのなら・・・・・・。

サムはペットボトルを置き、ベッドに近づいた。

寝息は聞こえないが、眠ってしまったのだろうか。だったら、好都合だ。

サムは静かにベッドに乗り上げて、そろそろとディーンに覆いかぶさった。もちろん体重はかけない。そして、息を殺して。ふわりと甘い香りのする兄の体。その首筋に目をやり目標を定めると、サムはゆっくりと顔を近づけた。

もう少し。そう、もう少し。あと、もう少し。

サムの舌がディーンの首筋に触れ、軽く口を開き、そのまま食いつこうとした瞬間。

ばこん。

「痛いっ!!何?何で?何で、グーパン?ちょっと顎が痛いんだけど?ディーン!!!」

「五月蝿ぇっ!!!それはこっちのセリフだ!お前、何をしようとしてた?あ!?」

さっきまで可愛らしい喘ぎ声を出していた口からは乱暴な言葉が飛び出し、潤んでいた眼には凶悪な光が灯る。

「えっと・・・」

「サム。何回も言うけどな、『噛む』のはナシだ!いいな!ったく!油断も隙もねえ、弟だな。最悪。俺、こっちのベッドで寝るからな。来んなよ」

「ツインの部屋のセックスに使っていない方のベッドにディーンは潜り込み、毛布を頭まで被った」

「え、ちょっと!待って!ディーンってば!『この件』については、ちゃんと話をしようよ!ねえってば!」

「五月蝿い!」

ディーンは毛布を跳ね除けてベッドに起き上がった。そして、ビシッとサムを指差し言い放った。

「俺は絶対にお前の番にはならねえからな!以上!もう起こすなよ!」

そして再び毛布の中に潜り込むディーン。

「そんな・・・・・・」

サムは、くすんくすんとベッドの上に三角座りとなり、落ち込むのだった。ちなみに、このやり取りは既に何度も繰り返されていることである。

*******************

ハンターであるウィンチェスター兄弟。弟、サムはアルファであり、兄、ディーンはオメガであった。サムは自分がアルファである自覚はあったが、兄がオメガであることは全く知らなかった。父が行方不明となり、兄と一緒に狩りをしながら旅をする中で、そのことに気づいた。ディーンの性格や、隠れて服用していた抑制剤。また、サムが大学の行くために家を出たこともあり、気づかなかったのである。しかし、一緒に旅をして入れば、わからない方がおかしい。本人は隠れていたつもりでも、何かしらの薬を飲んでいることはサムにもわかったし、、それに何よりも、時折強くなる、兄の甘い体臭だった。

ある日、ディーンの発情期と狩りが重なった。サムはディーンをモーテルに残して、自分一人でカタをつけようとしたが、どうやらディーンは発情期になると狩りへのアドレナリンも極端に出るらしい。つまり、発情期の方が普通の時よりも、ディーンは強かった。

異常なほどのハイテンションで悪霊を狩り終わると、そのハイテンションのままモーテルへと戻った。ベッドの上で、饒舌に狩ったばかりの悪霊の話をし、行方不明の父について話し、幼い頃のサムのことを話し、そうして、こてんっと、ディーンはベッドに横になってしまった。眠ったのだろうと思い、サムが毛布をかけようとすると、ディーンは自分の体を抱きしめてブルブルと震えていた。

「何?どうしたの?寒い?ディーン・・・もう1枚、毛布を掛ける?」

そんな言葉を無視して、ディーンはサムの頰に手を伸ばした。

「・・・なぁ・・・セックスしないか?」

その言葉は甘くて、その瞳は妖艶で、サムには逆らえなかった。

だから。

血の繋がった兄弟とは理解していながら、その規範を意識の向こうに追いやって、サムはディーンを抱いたのだった。

何度も。

発情期に限らず、ディーンが誘うこともあったし、サムが強請ることもあった。

けれども、ディーンがサムに絶対に許さないことがあった。

それは、『番』になることだった。

サムが自分の首筋を噛むことだけは、ディーンは絶対に許さなかったのである。

それがサムには理解できなかった。

確かに、最初は兄弟愛だったかもしれない。発情で体を持て余している兄を助けようとしただけなのかもしれない。けれども、今は、確実に、絶対に、ディーンを愛していると自覚している。だから「ディーン、愛してる」と何度も言った。それに対して兄は、「はいはい。お兄ちゃんも愛してるよ、サミー」と軽く受け止め、兄弟愛以上のものと理解してくれない。だから、サムは実力行使とばかりに、ディーンの首筋を噛もうとするのだが、成功した試しはない。今夜もダメだった。

「これじゃあ、ただのセフレじゃん。兄弟ってセフレって・・・なんか、もう・・・最低じゃん」

ベッドの上で、三角座りのまましょんぼりと呟くとサムだった。

********************

ディーンが、モーテルの壁に掛けられた、煤けたカレンダーを見て首を傾げている。

「どうしたの?ディーン」

「んあ?・・・ああ・・・いや、何でもない。んなことより、何か変わった事件は?」

「そうだね。・・・えっと・・・最近、この近くにあるいくつかの町で行方不明者が出てる」

「同じ町じゃないのか?」

「うん。近いけど・・・違う。同じ町で何度も行方不明事件は起きてない」

「ふうん・・・。行ってみるか。一番最近のは?」

「隣町」

「おっしゃ。ドライブだ」

ディーンはインパラのキーをチャリンと鳴らすと、モーテルのドアを出て行った。サムも慌てて追いかける。

身分を偽っての聞き込み調査。役場での調べもの。ネット検索。父親の手帳。

「ねえ、ディーン。同じ町じゃないけどさ・・・行方不明者が出た町って・・・同心円上にある」

「中心は?」

「俺たちが泊まってたモーテルのある町」

ディーンが指先で唇をなぞりながら言った。

「戻るぞ」

「モーテルに?」

「ああ。そして・・・町の中心を調べる」

「わかった」

インパラでモーテルに戻る。しばらくはここを定宿にするつもりだったから、大きめの荷物は置きっ放しにしていた。

「地図・・・だな。役場に行って、この町の地図、それから歴史を調べっか。でも、その前に・・・っと」

ディーンは自分の荷物をガサゴソを探すと、オレンジ色のプラスチックケースを取り出した。

「・・・抑制剤?」

「ん?ああ・・・」

「でもさ・・・そんな時期だっけ?」

今朝、カレンダーを見ながら首を傾げていたディーンを思い出す。

「まあ、調子が狂うことだってあんだろ。ほら行こうぜ」

錠剤を口に放り込んだディーンがドアノブに手をかけた。けれども、ドアは開かなかった。

「あ?何だ?」

ガチャガチャと乱暴にノブを回したものの、ドアは開かない。

「マジかよ・・・。サム!窓は!?」

慌ててサムが窓に近づく。そして開けようとしたが、ビクともしなかった。

閉じ込められた。それに気づくのに、数秒とかからなかった。

「まさか・・・ここが・・・このモーテルが発信源?」

「そうじゃなかったら、ハンターである俺たちを始末しようって魂胆か、だろうな」

ディーンは舌打ちをしてカバンを探る。道具のほとんどはインパラのトランクの中だ。今、手元にあるのは、清められた岩塩の詰まった短銃くらいだ。

ドアや窓が開かないだけで、部屋の中はシーンとしている。異形のものがいる気配もない。何より、ディーンの持っている機械が反応しない。

しかし、サムにはわかった。ディーンがもっていない、サムの能力。

「ディーン!こっちに来て!」

「え?んだよっ・・・って・・・あ?」

サムの言葉に反応したディーンが、足を踏み出そうとした瞬間、ディーンの体は姿の見えない何者かに捕らわれた。

「うわっ・・・」

誰かに背後から抱き竦められるような格好で、ディーンの体が宙に浮いた。

「ディーン!!!!」

「マジ・・・かよっ・・・サ、サム!撃て!」

「ディーンに当たる!」

「俺は人間だから岩塩じゃ死なねえよ!!!」

「近すぎるから!衝撃が!!!!」

「サムっ!!!!」

宙に浮いたディーンの首が奇妙に傾げるのが見える。まるで、首筋を曝け出すように。目に見えない何かの力で。そのディーンの姿に、サムが閃いた。

サムは狭い部屋の中を走り、テーブルを使ってジャンプし、持ち上げられたディーンと同じ高さに跳んだ。そして、晒されたディーンの首筋を左手で遮るように隠すと、ディーンの背後にいるであろう、目には見えない何者かに向かって、岩塩を込めた短銃をぶっ放した。

手応えを感じる。

次の瞬間、ディーンもサムも、モーテルの床に落ちた。

「いて・・・」

サムは受け身が取れたが、羽交い締めにされていたディーンはそのまま落ち、軽く足を捻ったらしい。足首を抑えている。けれども、すぐにサムに言い放った。

「サム!ドアと窓!」

「あ、うん!!」

サムはドアに駆け寄った。ドアノブは難なく回った。

「チャンスだ」

「ディーン、肩を貸すから。その荷物、持てる?」

「ああ、大丈夫だ」

二人は、さっさと部屋を出て、モーテルの受付に行ったのだった。

*******************

「は?事故物件?」

モーテルの主人がカウンターに額をつけて謝りながら、事情を説明する。

どうやらあの部屋では、アルファとオメガのカップルが事故死したらしい

「いやその・・・原因はわからないんですよ。心中じゃないかって話もあったんです。襲われた形跡もなかったし、穏やかな死に顔だったし・・・その・・・それに、できるだけ安い部屋をって・・・仰るんで・・・」

と主人はディーンを見た。ディーンは軽くそっぽを向いた。

「で!でも!・・・あの部屋で怖い目にあったお客さんは、いなかったんですよ?」

「いや、別に俺は怖くねーし」

ディーンが慌てて言う。

「逆にいい思い出になったって仰る方もいて・・・その・・・カップルですけどね」

モーテルの主人は続けた。

「で?どうします?今夜もお泊まりになりますか?」

「「チェックアウトで!!」」

サムとディーンは声を揃えて言ったのだった。

********************

「結局、行方不明事件とは無関係ってことかよ」

「多分ね。ああ、ディーン。動かないで。包帯が巻けないから」

「お前の手際が悪すぎんの」

「はいはい。・・・・・・でも、わかったんだ」

「何が」

「あの、ディーンを持ち上げた奴さ・・・番を求めてたんだと思う」

「・・・・・・」

ディーンの目が座る。

「だって、ディーンの首を噛もうとしてた」

「見えてねーのに、よくわかるな」

「ちょっとね。シンクロした。俺もディーンと番になりたいから」

「・・・じゃあ、さっきのは、お前の化身か」

「かもね」

サムが笑う。

「笑えねぇ、冗談だ」

ディーンはそっぽを向いた。

「ねえ、ディーン。調子悪いの?時期じゃないのに、薬、飲んだよね」

「・・・・・・」

「ディーン?」

ディーンは小さくため息をついた。

「なんつうか・・・あんまし、効かないんだよな。薬。そろそろ種類の替え時かもしんねぇ」

「辛い?」

「別に」

「でも、薬は体の負担になるよね?・・・ちゃんと番がいれば、そんなに薬に頼らなくてもよくなんだよね?」

「・・・・・・お前とは、番にはならない」

「どうして?家族だから?兄弟だから?・・・セックスはしてるのに?」

「・・・・・・お前さ、こういう状況なんていうかわかってるか?」

「うん。近親相姦」

「さらっと言うな!アホ!」

「だって、他に言いようがない。ねえ、番になろうよ・・・」

「・・・・・・俺は・・・お前を利用してるだけだ。俺はオメガだから、セックスすれば楽になる。けど、俺たちの稼業じゃ、相手を見つけるのは大変だ。それに、悪いのを相手にして、ガキなんか孕んじまったら、それこそ、仕事にならねえだろう。だから・・・お前が一番安心できる。わかっただろう?俺は自分が楽をするためにお前を利用してる。愛じゃない」

「・・・そうかな?今の発言って、俺を信用してくれてるってことだよね?うん。だって、いつだってスキンをつけてセーフティセックスしてるもん。・・・俺、ディーンから、『家業』を奪う気なんかないから」

「・・・それにしたって、血の繋がった兄弟だ」

「そだね。でも、その兄弟の絆をもっと強くしようよ。俺はディーンを兄さんとしても愛してるけど、一人の人間としても愛してるんだ。だから・・・噛ませてよ。ね?」

「・・・・・・」

ディーンが無言で唇を噛む。

「ディーン。ダメ、唇が切れちゃうよ」

サムの親指がディーンの唇をなぞり、歯を外す。

「サム・・・。覚悟・・・あんのか?」

「あるよ。だって、今までに何回、ディーンの首を噛もうとしたか、わかってるでしょ?遊びじゃないってこともわかってるよ。番になるってことは。ちゃんと真剣だから。真剣に考えた結果だから」

「・・・・・・畜生。結局、世の中のにーちゃんってのは、弟のわがままを許す運命にあるんだよな。全く、そんな立場だ」

ディーンはため息をつくと、ベッドに寝そべり、横を向いた。綺麗な頸が露わになる。

「・・・早くしろよ。俺に気が変わらないうちに」

「ディーン・・・ありがとう!!!今以上に大事にするからね!!!!」

「うっせ!」

憎まれ口を叩くディーンを優しく眺めながら、サムはゆっくりを頭をディーンの首筋に近づけた。少し陽に焼けた首筋をぞろりと舐める。そして、チュッと吸い付いてから、犬歯をその頸にめり込ませたのだった。

********************

いつ終わるかわかない旅路。

いつどちらかの生命が消えるかわかない未来。

それでも、その美しい皮膚に刻みつけた痕は、

目に見えなくなったとしても、

心の奥底には未来永劫残るであろう。

END