月別アーカイブ: 2024年11月

悪戯とバスタブ

首が痛いなぁ・・・とか、でも、まだ眠いなぁ・・・とか、朝陽がちょっと眩しいなぁ・・・とか、腰がそこはかとなく怠いなぁ・・・とか。そんなことを頭の隅っこで考えながら、リードはぼんやりと薄目を開けた。やっぱり、陽の光が、眩しい。

「んー・・・・ん?・・・んんん?」

腰の少し上、背中の中央のあたり。なんだか、くすぐったい。くすぐったくて、暖かい。そして、心地良い。また、眠りに落ちてしまいそうな、そんな感覚をリードは感じた。毛布はちゃんと掛けて寝たと思う。けれども、背中に感じるのは、毛布の感触ではなくって。・・・そう・・・そうだ。これは・・・。

「・・・・・・ホッチ?」

閨を共にした男の名前を呼ぶが、返事はない。けれども、背中に与えられる感覚が、次第に確実なものになってきた。

「・・・ねえ・・・ホッチ?」

ホッチは相変わらず答えずに、自分の唇をリードの背中に這わせていた。時々、舌先を出して、舐めたりする。

「・・・や・・・も・・・ホッチってば・・・」

身体を捩って逃れてみようとするが、一晩中、翻弄され、疲れ切ってしまったので、自分の意思とは裏腹に、動かすことができなかった。

「んー・・・んー・・・」

自分の背中に悪戯を仕掛けてくる、上司であり恋人なこの男は、きっとニヤニヤと笑っているのだろう。けれども、その笑みは決して自分を馬鹿にするものではなくて、きっと、この関係に満足している表情なのだと思う。・・・今は、見えないけれども。

そんなホッチの顔を見たいと思う。

「・・・ホッチ・・・顔・・・見せて・・・」

「・・・こちらを向けばいい」

やっと返事が返ってきた。けれども。

「・・・首・・・痛い・・・」

「そんな寝相だからだ」

くすりという笑い声が降ってきた。

「うー・・・」

声だけ聞こえて、顔が見えないのがもどかしい。そして、背中への悪戯は、まだ続いている。

「ダメ・・・なの」

「どうしてだ」

唇が背中に触れるか触れないかの距離で言葉を発せられると、暖かい吐息がかかる。リードは、ぶるりと体を震わせた。

「・・・だってね・・・欲しくなるでしょ・・・」

「駄目か」

「・・・ダメ・・・」

「俺は、楽しい」

「うーん・・・複雑・・・」

BAUでは威厳を保ち、厳つい表情を見せてばかりのホッチではあるが、リードと二人きりでいるときはとても柔らかく微笑む。・・・許されているからだ。全てを。この、IQ187の天才青年に。

ホッチは、持ち上げていた毛布を掘り投げ、その手で丸く柔らかなリードの尻をするりと撫でた。

「そんなに首が痛いのなら、揉みほぐしてやろう。・・・そうだな、風呂で温まってからがいいと思うぞ」

「・・・それ、いいね・・・連れてって?」

「ああ。いいとも」

ホッチは、金髪を梳いて、それからリードがベッドから起き上がるのを手伝ったのだった。

********************

バスタブの中で、リードが背中をホッチに預けるようにして座り、その大きな手で、ゆっくりと首を揉みほぐしてもらう。

「どうだ?」

「んー・・・気持ちいい・・・ふわぁ・・・ 天国ー」

「天国には昨夜いっぱい行っただろう」

「・・・それとは違うの」

リードは小さく頰を膨らませると、すっと顔をあげた。けれども、ホッチの顔は見えない。かろうじて、顎が少し見えるかな、という程度だ。そういえば、今朝はホッチの顔をきちんと見ていないような気がする。昨夜だって、薄明かりの中でしか、見ていない。仕事の時はいつも見ているけれども、プライベートでのホッチの顔はレアなところがある。リードがちょっと意識してしまって、ちゃんと顔を見れていない・・・という理由もある。

「・・・ホッチ・・・」

「どうした?」

優しい声が降ってくる。

「ねえ、ホッチの顔が見たいよ」

「いつも見てるだろうが」

「仕事の顔じゃなくて。・・・ねえ、僕、ホッチの体を洗ってあげる」

リードは腕を伸ばして、黄色のスポンジを手に取ると、泡風呂の泡を含ませる。そして、くるりと身体の向きを変えると、ホッチの身体に手をかけながら、バスタブの中で膝立ちになった。湯船から、綺麗な形の尻が現れる。ホッチはリードの腰に左手を当てて、身体を支えてやった。明るいバスルームの中で、ホッチの精悍な顔がリードの瞳に映る。けれども、表情はどこか優しげだ。事件を追うときのような厳しさはない。

「・・・お仕事の顔も好きだけど、こういう顔も好き」

「そんなに違っているか?」

「違う。・・・今のホッチは優しい顔してる。仕事の時は・・・真剣すぎる」

「今だって真剣だ」

「・・・何に?」

「リードに」

「・・・うう・・・そういうの、恥ずかしい・・・」

リードはホッチの左肩に右手をかけ、スポンジで右手を撫でる。恥ずかしてくて、ホッチからは軽く視線をそらす。まともに顔は見られない。

「リード」

「・・・何?」

か細い声で、答える。

「キスを」

ホッチからの要求に、拒否はできない。そもそも、拒否する気はない。けれども、光が明るい子のバスルームでは、恥ずかしさが先に立つ。リードは少し、ホッチに顔を近づける。ホッチの視線はずれることなく、確実にリードを絡め捉える。リードはジッと見え植えらているのだ。もちろん、この上なく優しい表情で。

リードはそろそろと自分の顔を近づけた。大好きがホッチの顔が視界に入り、それがどんどん大きくなる。とても柔らかくて、優しい表情。もう少し・・・。けれども、リードには限界だった。もう、まともホッチの顔を見ることができなかった。だから、目を瞑ってしまった。恥ずかしい。けれども、感覚で、距離は詰めた。

リードの唇がホッチに触れる。軽く当たる・・・と言った方がいいかもしれない。残念なことに、リードの唇は確実にホッチの唇を捉えることはできず、少しずれて、唇の端に自分を押し付けることになった。それでも嬉しい。ホッチに触れられることは嬉しくて、リードにとっては喜びだ。でも、このキスは失敗の50点かな・・・と思う。

リードはホッチに触れたまま、小さく口を開いて言った。

「・・・ごめんなさい。ずれちゃった」

「目を瞑るからだ」

怒った風でもない、優しい声。

「だって・・・こんな明るい場所で、こんな至近距離で、ホッチ顔・・・見れないよ」

ホッチはリードの顎を指先で取ると、自分が動き、正確なキスをリードに与える。そういうところは、やっぱり優しいな・・・とリードは幸せな気持ちになった。

********************

キスをすれば、どうしたって身体が昂まる。湯の熱さも相まって、身体が火照る。

「は・・・あ・・・」

「大丈夫か?熱いか?」

「ん・・・ちょっと・・・」

「冷たい水でも浴びるか・・・いや。身体がびっくりするか。緩い湯の方がいいな・・・」

「待って・・・」

リードはバスタブの中で立ち上がり、左手でシャワーヘッドをフックから外した。そして、またホッチの方へ戻る。すぐさま、右腕で腰を引き寄せられた。

「あ・・・」

リードは自分の右手をホッチに絡め取られた。

「ん・・・んぅ・・・」

右の乳首に与えられる、ヌメリとした感触。いつも、閨で与えられているのと同じだった。ホッチの舌の熱さを感じる。

「・・・ホッチ・・・」

乳首を舌で転がされたり、唇で吸われたり。明るいバスルームでやられると、本当に恥ずかしい。リードは熱気と羞恥で顔を赤くして、ホッチを見下ろした。表情はよく見えなかったが、きっと優しい表情をしていると思った。そして、このままバスルームで抱かれてもいいなぁ・・・とも。

「・・・ホッチ・・・大好き」

ホッチは返事の代わりに、リードの乳首を、強く吸い上げたのだった。

********************

「そんな寝相で、また首が痛くなるぞ」

ホッチはエアコンを最強にしながら言った。ぐったりとしたリードがベッドにうつ伏せになっている。起きた時と同じように、頭を横に向けて。

「んー・・・も、動きたくない・・・」

結局のところ、リードの心の願いは聞き届けられ、バスタブの中で抱かれた。その結果が、これだ。すっかりのぼせてしまい、身体が火照って、しかも怠い。けれども、心は満ち足りていて、幸せだった。

エアコンの設定を終えたホッチがリードの横に来る。

「どうせ、休みなんだ。ゆっくりするといい」

「ホッチは?」

「俺もここにいるから」

「やった」

そう言うと、リードは静かに目を閉じた。そんなリードの金髪を愛しそうに優しくホッチは撫でたのだった。

ある日の休日のそんな朝の風景。

END

Baby On Board

新たなミッションの為に再びトップガンの卒業生、トップ・オブ・ザ・トップたちが召集された。作戦指導者はピート”マーヴェリック”ミッチェル。伝説のアヴィエイター。彼はモニターを使いながら、ミッション完遂のために必要な訓練内容を説明していた。

が。

「あれ、人形じゃないよな」

「手が動いてるし、『あぶあぶ』言ってるからな、生物だ」

「だよな。人形の方がかえって怖いよな」

「しかし、片手で抱っこできるなんて、大佐の筋力もすげーけど、あの赤ん坊のバランス感覚もすげえよな」

「親子なら分かるし」

「んなわけねえだろ。いつ産んだんだよ。雄鶏知ってる?」

「知るか。こっちが聞きたい」

「伝説のアヴィエイターが産休を取ったらすぐに噂になるだろうが」

「大佐って産休はとっても育休は取らなさそう」

「言えてる。産んだ翌日には飛んでそうだよな」

「わかるー」

「ところで父親は誰だよ」

「そんな当たり前のこと聞くなよ。違う名前が出てきたら、不敬罪で首が飛ぶぞ」

「だよな。やっぱ海軍大将だろ。結婚してるんだし」

「強いなー、海軍大将」

「でも、高齢出産だよな。産める?」

「いや、年齢の問題じゃねえだろ」

「いやぁ、生命の神秘だよな」

「あ、わかった!大佐って実はΩだったんじゃない?」

「おいおい。そこで特殊BL設定を持ち出してくるんじゃねえよ」

「何それ」

「オメガバース。今度、詳しい薄い本を貸してあげる」

「いや、いい。何か違う扉を開けちまいそうだから」

「んじゃあ・・・処女受胎だ」

「なるほどなー。マーヴェリックのMはマリアのMか!」

「そう言えばさー、処女受胎の告知したのガブリエルじゃん?あるドラマでガブリエルを演じた役者がシンプソン中将にそっくりなんだよなー」

「え?何?シンプソン中将が大佐に『あなたは孕って男子を産むが、その子をイエスと名づけなさい』って言うのか」

「ちょっと待て。マーヴが処女だって思うか?結婚30年だぞ?」

「あーないわー」

「だろ。あそこレス夫婦じゃないし」

「じゃ、やっぱり大将の子じゃん」

「強いなー、海軍大将」

「でも、高齢出産だよな。産める?」

「いや、年齢の問題じゃねえだろ」

「いやぁ、生命の神秘だよな」

・・・以下、エンドレス。

つまり、若鷹たちに講義するマーヴェリックは左腕で赤ん坊を抱えているのである。

「と言うことで、今日はドッグファイトと行こう。でも僕はこの子がいるから今日は飛ばない。代わりに君たちの相手をしてくれる優秀なアヴィエイターを紹介しよう。1988年のトップガン首席だ。

「「「「ええっ?」」」」

若鷹たちが振り向くと、そこにはパイロットスーツに身を包んだボー”サイクロン”シンプソン中将が立っていたのだった。

「出た!ガブリエル!」

「ちげーしっ」

戸愚呂を巻く蛇とトルネードを背負った88年のトップが、不敵に笑うのを見て、若鷹たちは背筋を凍らせたのだった。

***

「どうだ。ドッグファイトは」

「あ、アイス。さすが、サイクロンはトップガン首席だねー。キルしまくってるよ。あ、抱っこする?」

「ああ」

マーヴェリックから赤子がアイスマンに渡される。それを器用にあやしながら抱く。

「あぶあぶ・・・あっぶー・・・ぶぶーきゃっきゃっ!」

「僕や君みたいに空が好きみたいだよ」

「そのようだな」

無線からは若鷹たちの声が聞こえる。

「やだー!キルするならサクッとして欲しい!!!!」

「げっ!背後取られた!!」

「そこからが長いぞ!」

「すんげーいたぶられている気分!!!」

「オメーそこどけろよ!」

「しゃあねえだろ!サイクロン機が被さってきてんだよっ!ぎゃー!!!」

その声をアイスマンとマーヴェリックはニコニコしながら聞いてる。

「楽しそうだねー」

「明日は私は赤ん坊を預かるから、マーヴェリックが飛ぶといい」

「大丈夫なのか?」

「さっき、執務室に赤ん坊スペースを作らせた」

「さすが、仕事が早い」

仲良し海軍夫婦は、とても幸せそうに赤子をあやしながら、空を見上げたのだった。

***

「で?マーヴ。お願い。説明して」

アイスマンとマーヴェリックの家。ソファに座ったルースターが半泣きになっている。反対側に座るのはアイスマンとマーヴェリック。赤ん坊はマーヴェリックが抱いている。

「ああ。この子はね、ペニーの友人の子だよ。本当はペニーが預かるはずだったんだけど、都合が悪くなっちゃって。でも友人は数日出かけなくちゃいけないしで。それで僕が預かることにしたんだ。ほら、赤ん坊の世話は、君で・・・ブラッドで慣れているからね」

そしてキラキラと何かよくわからない神々しい光を放って笑うマーヴェリック。あ、これは最早、聖母マリアの光背じゃんよ。とはいえ、赤子の出自がわかったので、とりあえず納得するルースター。

「しばらくはこの子を連れて基地に行くけど、明日はアイスが執務室で預かってくれるから、ドッグファイトは僕が飛ぶね」

「は?え?海軍大将が子守すんの?いいの?」

「別に問題はないぞ、ブラッド」

アイスマンがツラッとした表情でいう。その表情を見て、「’あー・・・絶対に権力を持たせちゃいけない人だったんじゃね?アイスおじさんって。大体、マーヴを飛ばせ続けるために海軍大将まで昇進するって・・・公私混同も甚だしいよ」と、心が遠い目になるルースターだった。

「マーヴェリック、サイクロンからテキストだ」

スマホを操作していたアイスマンが言った。

「何だって?お説教?」

「明日のドッグファイトも飛ぶそうだ」

「え!じゃあ、僕と一緒にルースターたちを特訓するってこと?」

「明日だけは、僚機の座をサイクロンに貸してやろう」

そんな二人の会話を聞いて、心の中でルースターは十字を切った。

END

Service in blue

何度経験しても慣れない。

マーヴェリックはそう思った。アイスマンと一緒に仕立てたサービスドレスブルーは、お仕着せのそれとは違い、着心地が良い。フルオーダーメイド故に、マーヴェリックの身体の動きを妨げることはない。だから、窮屈なのは軍服ではなく、環境なのだと分かる。こんなパーティーで楽しみなことはサービスドレスブルーを優雅に着こなす夫の姿を見るくらいだ。

瀟洒なゲストハウスで開かれているパーティーは政治家と将官、佐官クラスの軍人で溢れている。大佐であるマーヴェリックは当然参加して然るべきなのだが、アイスマンが昇進してからは、その妻という立ち位置も含めて出席している。互いにプラチナの結婚指輪を嵌めてはいるが、その意味を知らないものも存在している。そういった輩がマーヴェリックに対して不遜な態度を取らぬよう、牽制の意味も込めての出席だった。アイスマンの隣に立ち、話し相手に笑顔を送る。今日は先の特別ミッションの成功を祝う話が多かった。だから作り笑いだけと言うわけにもいかず、相手の質問に答えたり、賞賛の声を受けたりする。かれこれ2時間。笑顔を作りすぎて頬の筋肉が痛くなってきた。しかし、上官であり、夫であるアイスマンに恥をかかせるわけにはいかない。

「マーヴェリック」

「ん?」

話が途切れ、一瞬目の前から人がいなくなったところで、アイスマンのマーヴェリックの耳元に囁く。

「そろそろ離脱しろ。一人で、と言うわけにはいかないが」

「え?」

アイスマンが、近くにいた部下、サイクロンを指で呼び寄せた。常に周囲に注意を払っているサイクロンは、すぐに気づき馳せ参じる。

「サイクロン。申し訳ないが、妻は気分が優れないらしい。一緒にバルコニーへ行って風に当たらせてやってくれ。マーヴェリック、ここはもういいから休んでこい」

「ごめん、アイス。すぐに戻るよ」

「無理はしなくていい」

アイスマンがマーヴェリックの背を押せば、ドレスブルーに包まれた身体はふわりとサイクロンに近づく。

「一人で歩けますか?」

「大丈夫。そこまでじゃないんだ」

サイクロンはマーヴェリックをエスコートし、バルコニーまで移動する。途中、給仕にドリンクを伝える。自分で取りに行ってもよかったが、それではマーヴェリックを一人にすることになる。それは決して海軍大将の真意でないことは十分過ぎるほど分かっている。過去のNCISが絡んだ未遂事件のファイルを見れば、この佳人の名前が表記されるものが簡単に見つかる。記録に残らないものも含めれば、その数は何倍へと膨れ上がるだろう。おそらく、敬愛する上官は多くの心無い兵士を闇に葬っている。

サイクロンは給仕からグラスを受け取ると、石造りのフェンスから外を眺めているマーヴェリックに声をかけた。

「サングリアです。どうぞ」

「ああ、ありがとう」

微風がバルコニーを漂う。グラスを受け取ったマーヴェリックの笑顔が風とともに広がるように見えた。

「喉が渇いていたけど、強い酒はあまり飲みたくないし、かといってソフトドリンクだと場の雰囲気を壊すし。なるほど、サングリアならいいね。さすが、シンプソン中将」

「貴方は、こういった場が相当苦手そうだ」

「うん。苦手。っていうか、中将。どうして僕に対して丁寧な言葉遣いなんだい?」

マーヴェリックは小首を傾げて問う。

「閣下は『妻を頼む』と仰った。だから私は貴方を部下ではなく、カザンスキー夫人として扱うことが肝要かと」

「あははー。ごめん。気を遣わせて。でも、ここは公の場だから、僕はアイスと君の部下だよ。アイスの言ったことはあまりに気にしないで」

「そういうわけにはいきません」

「真面目だね、シンプソン中将」

「サイクロン、と。コールサインでかまいません。貴方はウォーロックのことをコールサインで呼ぶでしょう」

「ああ・・・うん。昔からの知り合いだし。でも、中将にはいっぱい迷惑をかけてるから、馴れ馴れしくするのは申し訳ないかなって」

「そうであれば、私も閣下の奥方に対して不遜な態度をとるわけにはいきません」

「そっか。・・・じゃあ、こうしようよ。僕は君のことをサイクロンって呼ぶから。だから君もアイスの言葉を気にして過度に僕を丁寧に扱うのやめてくれるかな?全然、アイスに対して不敬には当たらないよ。第一、君は今まで僕に対して散々だったじゃないか。今更、丁寧に扱われても・・・。あ、これは嫌味じゃないからね」

「・・・・・・」

サイクロンは無言の後、小さく吐いた。

「分かった」

「あ、分かってくれた?嬉しいな。・・・実は君とは話をしたいと思ってたんだ。アイスから優秀な後輩であり部下であるボー”サイクロン”シンプソンの話はよく聞いていたから。優秀なアヴィエイター。88年のトップ」

「貴方だって相当な人だ。昇進を望まない、現役のアヴィエイター。誰一人死なせることなく、生還した」

「あれはハングマンのおかげだよ。出撃命令だって、君が出したんだろう?ありがとう。君は命の恩人だよ」

「それ以外の選択肢など・・・」

「アイスに何か言われた?」

「いや。彼の方は全ての判断を私に委ねていたので」

「忖度した?」

「もし、忖度などしていたら、貴方を編隊長などしなかった」

「僕にとってはあり難い判断だった。・・・何ていうのかな。僕は上手に言語化することが苦手なんだ。言葉でミッションの成功を示すことができなかった。だから、見せるしかなかった」

「アイスマンは貴方のことを、理屈抜きの天才的な技術を持つアヴィエイターと称した。だから、トップガンでは2番目の地位に甘んじるしかなかった」

「僕は、それで良かったと思ってるよ。アイスがトップだから、後を継ぐ者が生まれる。僕じゃ駄目なんだ。アイスは言ってた。サイクロンは自分に似ているところがあるって。確かに、君の昇進スピードはアイスに似てる。・・・でも、そんな君のコールサインがサイクロンって、凄いな。今度、君と飛んでみたいよ。どんな飛び方をするか、楽しみだ」

「フライバイはしないが?」

「そこはやらないと!アイスだって、やった」

「貴方に煽られてだろう!」

「案外、ノリがいいんだ。アイツは」

「~~~~」

眉間を抑えるサイクロンを見ながら、マーヴェリックが明るく笑った。そしてサングリアに口を付ける。ワインが炭酸で割られているのは、サイクロンの気遣いだろうか。

「マーヴェリック」

「ああ、アイス。談笑は終わったのかい?」

「終わらせた。サイクロン、感謝する。何かやらかさなかったか?マーヴェリックは」

「陸上じゃ、やらかしようがないだろう、アイス。なあ、サイクロン」

「閣下。奥方は大変大人しかったですよ。私と飛びたいと言った以外は」

「ほぅ。それは見たいなものだな。二人でフライバイでもするといい。コーヒーを飲みながら見届けてやろう」

「アイスマン!やりませんよ!」

「あははー。言うと思ったー」

バルコニーで戯れる、海軍の伝説と呼ばれるサービスドレスブルーの3人の姿。海軍大将が佳人の腰に手を添える。

「サイクロン、我々はこれで辞する。後のことは、次期大将に任せるとしよう」

「わかりました」

「いいのか?アイス。途中で抜け出したりして」

「言っただろう。次期海軍大将に任せておけば大丈夫だ」

「ごめん。サイクロン。えっと・・・今度、3人で一緒に食事でもしないか?」

「ぜひ」

マーヴェリックの申し出に、サイクロンは素直に応じた。

***

「気分は?」

「ん?大丈夫だよ」

家に帰り着き、着替えの為に寝室に上がりながら、アイスマンがマーヴェリックを気遣う。

「アイスが途中で抜け出させてくれたし。ああ、サイクロンがくれたサングリアが美味しかった。あれ、いいな。今度からパーティーの時はあれにする」

「サイクロンとはうまくやっているようだな」

「んー・・・彼は色々と言いたいことがあるみたいだけど、僕がこんなだから仕方がない。でも、アイスの可愛い後輩だから、もう少しお利口さんにするよ」

「別に遠慮することはない。今でこそ海軍中将だが、あいつの飛び方はコールサインそのものだ」

「アイスがそう言うなら、ますます一緒に飛びたくなった」

「僚機の座は譲らないが?」

「もちろん、僕の僚機の座は永久指定席だ」

マーヴェリックの指先がアイスマンの首筋を辿った。眼と唇が月のように弓形になる。

「マーヴェリック?」

「ん。やっぱりアイスはかっこいいな。ドレスブルーを着てるから余計にかっこよさが増してる」

「お前のドレスブルーも大概だが?」

「着られてる感が半端ないんだ。せっかくアイス御用達の店で仕立ててもらったのにな。体型が変わったかなぁ」

マーヴェリックが自分のサービスドレスブルーの襟や肩の辺りを触る。そんなマーヴェリックの体をアイスマンがぐいっと引き寄せた。そのまま抱え上げてベッドに運び、やや乱暴に投げ落とす。マーヴェリックが身体を起こす前に、アイスマンが覆い被さった。乱暴にネクタイを解き、ジャケットとシャツのボタンを外す。1つ2つ飛んだかもしれない。その勢いでシャツガーターの留め金も外れる。噛み付くように口を塞ぐ。乱暴に口腔内を犯しながら、ジャケットとシャツを纏めて肩から外す。腕の途中で止まるがそれでいい。薄い唇をマーヴェリックの肌を軽く噛みながら移動させる。乳首は少し強めに喰んだ。

「ひっ・・・あ・・・」

マーヴェリックの身体が跳ねるのを確認しながら、見える肌を歯で犯す。自分に延ばされた両手を取り、一纏めにする。そして、マーヴェリックの身体の横に落ちたネクタイで戒めた。左手で腰を掬いながら、空いたてでベルト外す。左足だけ下着ごとスラックスを抜き取る。まだ立ち上がらない果実を握り込む。

「んっ・・・」

マーヴェリックが身体を捩った。アイスマンはマーヴェリックの首筋を顔を埋め、柔らかく薄い肉を喰みながら手を動かした。

「あ・・・あ・・・」

頭上から聞こえる愛する者の声。胸元で戒めた手が動く。やや乱暴に扱き、半ば強制的に勃ち上がらせる。先端の雫を指で確認できたところで、親指でグリグリと捏ね回した。

「はっ・・・あ・・・」

マーヴェリックの左足先がシーツを擦り動く。少し指が潤ったところで、アイスマンはその滑りを前を寛げただけのスラックスから取り出した自身に擦り付ける。組み敷いた身体の両足を割り開き、黒いシャツガーターの輪のすぐ側をきつく吸い上げた。そこから鼠蹊部へと唇を移動させる。赤い筋が1本、残る。その色に満足げな笑を浮かべると、アイスマンはマーヴェリックの身体を二つに折り畳んだ。そして、躊躇いもなく、一気に犯す。

「ぐっ・・・あ゛・・・ひっ・・・」

慣らしていないそこは狭く、キツい。それでもマーヴェリックがアイスマンを受け入れることができたのは、この30年間の結婚生活のおかげだ。否、付き合いも入れたら30年以上。それほどの時間をかけて、マーヴェリックの身体はアイスマンを受け入れる器になっている。前立腺の辺りを越え、その奥。仮の終着点。そこに先端を当てながら、腰を深く動かす。

「んっんっんっ・・・んくっ・・・はっ・・・はっ・・・」

喘ぎと呼吸音が最高のBGMになる。アイスマンはその耳に心地よい音を聞きながら、さらに腰を力任せに進めた。短い肉襞のトンネルを越え、収まりたいところへ収まる。

「あっ・・・あああーーーーあっ・・・」

マーヴェリックは首を仰け反らせ、嬌声のような悲鳴を寝室に渡らせる。それでも、アイスマンはその身体の動きを止めることはなかった。

***

どうにか呼吸を整えて、ゆっくりと目を開ける。視界にあまり着衣の乱れていない夫の姿が映る。指で眉間の辺りを押さえている。「やらかした」といった表情だ。アイスマンはジャケットのボタンを外し、スラックスの前を寛げているくらい。一方マーヴェリックの方はといえば、不合意に誰かに襲われましたか、といった着衣の乱れ具合だった。ジャケットとシャツは腕に引っかかり、スラックスは左脚だけ抜かれていて、靴は脱げているものの、靴下は履いたまま。右足は脛の辺りでスラックスが引っかかっていた。ネクタイは、マーヴェリックの両手首を戒めていた。

「悪い。何処か痛むところは?」

「んー・・・大丈夫。だけど、このネクタイは外してくれるか?」

「ああ・・・本当にすまない」

アイスマンがマーヴェリックの手首からネクタイを取り除き、身体を起こすのを手伝う。丁寧に確認するが、痣にはなっていないようだった。そんな手首にキスを落とす。

「これじゃ、まるでレイプだな」

「気持ち良かったけど?いつもより乱暴だったけど、それはアイスが僕を気持ちごと欲しかったからだろう?アイスは僕を大事にしすぎなんだよ」

マーヴェリックが幼子を抱くように、アイスマンの身体を頭を掻き抱く。アイスマンも腕をマーヴェリックの背中に回した。

「アイス、好きだよ。心配するな。僕は大丈夫」

アイスマンの髪を撫でる。アイスマンがまるで過保護のように自分を大事にし、無理をさせない理由は分かっている。30年以上も昔の話だ。二人が結婚する前の。心無い連中が自分を無理矢理凌辱したことがあった。頼るグースはすでになく、どうしていいか分からずにアイスマンのところへ行った。その日のことは正直あまり覚えていない。ただ、「初めてはアイスがよかったな」と思ったことは記憶にある。あの日から、ずっとアイスマンが自分を守ってくれた。時には盾になり、時には真綿になり。

自分が痛めつけらたことを、互いに話題にすることはなかったけれども、ベッドでの紳士的な態度は必要以上で、そのことからもアイスマンがマーヴェリックが傷つけらた日のことを頭の片隅に常に置いていることが伺える。

「久しぶりにお前のドレスブルーを見たから、ちょっとグッときた」

「んー、僕も」

乱れたアイスマンの前髪をマーヴェリックが後ろに撫で付ける。
「今度は、僕が上になろうか?それだったら合意だろ?僕もドレスブルーの君を襲ってみたい」

アイスマンが片眉を上げる。マーヴェリックは許諾の言葉を待つことなく、その体幹を生かして身体をアイスマンごと捻り、ベッドに沈み込ませた。邪魔なジャケットとシャツを脱いで床に放り投げる。

「夜はこれからって、ことで」

マーヴェリックはこの上なく、夫の身体を見下ろして笑ったのだった。

END

君は全てを許される

若い頃の妻は、それは奔放で。

自分と出会う前の交友関係は、なかなかのものだったらしい。もちろん、その時は、きちんと誠実なお付き合いをしていたらしく、ただ一人の人間と長く続かなかったらしく、不名誉にも「お盛ん」という噂が広まったらしい。だから、誠実な人間であるのだ。長く続かなった理由は、マーヴェリックが軍人だからなのだろう。洋上に出れば、数ヶ月以上、陸には帰ってこない。尚且つ、海軍の問題児なので、ミッション以外にも「飛ばされる」ことも多かったに違いない。実際、自分と結婚した後も、妻は上司によって戦地へと送られていた。結婚したとはいえ、まだ社会や政治、法律によって許されるものではなかったし、アイスマンもまだまだ権力が足りていなかった。

「なんか、いいな。こういうの」

マーヴェリックがボソッと言ったことがある。「何が?」と問えば、

「長い間、任務についててさ、それで戻ってきたら、ちゃんと僕を出迎えてくれる人がいるってこと。大体、荷物ごと消えてるから」

確かに。数ヶ月単位で放っておかれたら、恋人は次の相手を探すことが多いのかもしれない。アイスマンは、法が守ってくれる書類も結婚式もなかったが、プラチナの指輪を贈ることでマーヴェリックを繋ぎ止めた。戦闘機に乗る時は外すが、ドッグタグのチェーンに通していた。自分もそうした。いや、最初にプロポーズしたときは指輪もなかったのだ。だから、アイスマンに見合いの話が来た時、マーヴェリックは自ら問題を起こして、戦地に勝手に赴いた。アイスマンがそれを知った時には、マーヴェリックはすでに洋上にあり、慌てたアイスマンは、当時自分が持てるあらゆる力を使って、F14で追いかけたのだ。ベロア素材の小さな青い箱を持って。空母に着艦して、艦長への挨拶もそこそこに、マーヴェリックを探し、見つけたところで彼の部屋に連れ込んで、「は?え?なんで?どうして?アイスが?ここに?いんの?」という僚機を壁に押し付けて、二度目のプロポーズをしたのだ。指輪を渡すときは、ちゃんと片膝を床に着いた。狭い空母の無骨な部屋で、お互いにフライト・スーツ姿で。後にアイスマンは、花束とレストランを準備して三度目のプロポーズをしようとしたが、それはマーヴェリックに「いやもう、充分だから。流石に、F 14を飛ばしてくるプロポーズのインパクトが強すぎて、僕はもう処理しきれない。っていうか、見合いはいいのかよ」と断られた。見合いに関しては、「は?そんなもん知るか。俺は自分の実力だけで、上に行くからいいんだよ。誰が、女の力なんぞ借りるか」とアイスマンが啖呵を切った。実際、マーヴェリックの始末書を処理しながら、最速で昇進したのは、正に「愛」という名の執念だった。愛する僚機を飛ばせるために、アイスマンは上を目指した。飛ぶことが望みと言うのならば、自分はその道を整えてやるだけだ。

ちなみに「指輪を持ってF14でプロポーズしに行きます案件」の際、巻き添えを喰らったのは、アイスマンのRIOであるスライダーだったのは言うまでもない。後日、スライダーはマーヴェリックに混々と説教をした。

「あのな。氷の男の執着を甘く見るなよ?あいつの心の中は、お前の起動並みに激しいから。男を見た目で判断してはいけません。それと、あらゆるとばっちりは俺のところに来るから、マジで、アイスに関してはおとなしくてて。な?頼むから」

最後は説教ではなく、懇願だった。

***

愛を確かめ合うには色々と方法はある。付き合い始めや結婚当初は、身体を重ねることがその全てとでも言うよう、互いの熱を感じ合っていた。きっと軍人であるが故に、離れている時間が長かったことも原因の一つだった。けれども、時が過ぎて、任務もそれぞれの落ち着いてくれば、一緒にいる時間も長くなる。二人でソファに座って、酒を飲みながら映画を観るのもいいし、ベッドの上で身体を寄せ合いながら、違う本を読んで過ごすのも悪くなかった。時折、外に出かけて食事をしたり、あるいはドライブすることも楽しかった。キャロルが天に召され、アイスマンがブラッドリーの後見人となり三人で暮らしていた間は、家族のように休日を過ごしていた。今でこそ和解したが、マーヴェリックがキャロルの遺言を受けて、ブラッドリーにとっては無体なことをしてしまい、彼がカザンスキー家を離れた時は、相当マーヴェリックも落ち込んでいた。きっと、マーヴェリックなりの家族というものの幸福を味わっていたのだろう。アイスマンと二人っきりの生活になって、再び身体を重ねる機会が増えたかもしれなかった。それでも、なんとか心に折り合いをつけて、遠くからブラッドリーの成長を見守ることに慣れていった。そんな妻の姿を見て、アイスマンはほっとした時期があった。ブラッドリーは確かに可愛い。息子同然だった。けれども、妻の注意が彼ばかりに向くのは、心の何処かであまり楽しくはなかったのだ。随分とエゴイストだとは思うが、これは感情の問題なので、致し方なかった。それでも、表には出さずにできた。もちろん、スライダーにはバレていたのだが。

「ブラッドリー坊やに嫁を取られて面白くない、と?でもなぁ、息子みたいなもんだろ?つか、完全に息子だろう。え、もしかして、お前、実の息子がいたとして、そいつにも嫉妬すんの?」

そんなスライダーの言葉に、真っ当な返答ができなかったので、おそらくそういった仄暗い感情が自分にはあるのだろう。随分な独占欲だった。「籠の中に閉じ込めておきたい」と思ったことは、実は一度や二度ではない。永遠の翼を与えるために出世をしたのに、その翼を折って閉じ込めてしまいたいという衝動もあるのだ。この腕の中に。

「・・・アイス?」

身体の下で、妻が名前を呼ぶ。

「眉間に皺が寄ってる。仕事、忙しい?あのミッション以来、僕はサイクロンの下でできるだけおとなしくしてるんだけどな」

「いや・・・そういうことじゃない」

アイスマンは、マーヴェリックの唇を親指で撫でた。

「・・・アイス、起こして。アイスの膝の上に座りたい。そうしたら、抱きしめてくれるだろう?」

「ああ、そうだな」

アイスマンはマーヴェリックの背中に腕を差し入れて、ぐっと引き起こした。身体上昇する。

「あっ・・・んっ・・・くぅ・・・」

その動きで、胎内に与えられている刺激の場所が変わったらしい。感じいった声が漏れる。マーヴェリックは夫の背中に腕を回し、唇を近づけた。そして、強請る。

「揺すって?」

そのリクエストを無視する気など当然ない。下からゆっくりと突き上げてやる。

「ん・・・あ・・・いい・・・んあ・・・ぁ・・・ぁんっ・・・」

アイスマンの耳元で、あえかな声が響く。それだけで、脳が焼かれそうな気がする。ああ、多分。自分はこの30年間、ずっと。空を駆ける黒い狼を手中に収めたくて仕方がないのだ。きっと、この先も。

「はっ・・・あ・・・アイスっ・・・んっ・・・きもち・・・い・・・あ・・・イキそう・・・」

マーヴェリックの訴えに、穿つ楔を早くする。

「や・・・くる・・・んっ・・・アイ・・アイスも・・・イって・・・僕の中で・・・」

「ああ・・・っ」

自分にまとわりつく、熱い肉襞の収縮。持っていかれそうになる。アイスマンはマーヴェリックをきつく抱きしめた。びくんっと、小さな体に力が入り、そして弛緩する。と同時に、アイスマンの肉壁に中に放つ。声にならない呻き声が、二人の口唇から溢れる。それでも。満足げな笑みを浮かべて、妻がしどけなくシーツの上に落ちた。身体を離し、その黒髪を撫でてから、自分よりも幾分か小さな身体をタオルケットごと抱き上げる。テラスに面したカウチに運び、静かに横たわらせた。

「アイス・・・好きだよ」

「俺もだ」

妻の言葉に間髪入れずに応える。そして左手の薬指に光るプラチナに口付けた。

***

シーツを取り替えてベッドを整えたアイスマンがカウチに近づく。タオルケットに包まったマーヴェリックが気怠い視線を送る。

「ベッドを整えたから、休むぞ」

伸ばしたアイスマンの腕をマーヴェリックが掴み、引き寄せる。アイスマンもマーヴェリック同様、鍛えられた体幹の持ち主ではあったが、咄嗟のことでバランスを崩す。が、マーヴェリックの身体に倒れ込むことなく、カウチの背に手をついた。そんなアイスマンのガウンの襟をマーヴェリックがそっと掴んだ。

「アイス、まだできるよ?」

年齢を重ねて、若い頃の単純な可愛さではなく、随分と妖艶な雰囲気を醸し出すようになった妻の表情にアイスマンは眉を顰めた。嫌だからではない。抗えないからだ。

「お前に無理をさせたくないからな」

「無理?・・・だって、アイスはまだ僕の中に挿入ってないじゃないか」

「マーヴェリック、もう後ろで何回もイッただろうに」

「でも、アイスは、僕の身体の奥まで挿入ってない。僕の身体の奥の奥」

そう言って、マーヴェリックは自分の下腹を摩って見せる。

「っ・・・マーヴェリック・・・」

アイスマンは、小さく溜息をつくと、目を瞑った。そんなアイスマンをマーヴェリックが引き寄せる。アイスマンはカウチに膝をつき、マーヴェリックに覆い被さった。黒髪の美しい狼は、氷の名前を持つ夫の肩に顎をのせ、その耳元に囁く。

「それとも・・・もう、僕には魅力がなくなっちゃったかな?もう、僕の身体に飽きちゃった?・・・そっか、そうだよね。いい年齢だし・・・」

「おい。勝手に自己完結するな。俺がお前に飽きる?そんなわけがあるか」

嗜めるように言うと、アイスマンは妻の頬を両手で包み、口付ける。ベッドの上で散々吸われた口唇は既にぽってりと赤くなっている。アイスマンはその腫れた口唇を自分の口唇で挟み噛んだ。口唇の隙間からマーヴェリックの舌先が口腔内に遊びに来る。アイスマンはそれを迎え入れた。

「んっ・・・あん・・・う・・・ん・・・んん・・・」

鼻と口唇の隙間で互いに酸素を取り込む。角度を変えながら、キスを深める。互いの唾液が混ざり合って、誰のものか分からなくなる。アイスマンのガウンの襟を掴んでいたマーヴェリックの右手が、いつの間にか外れた。そっと夫の身体を這うように辿る。そして。

「ほら・・・やっぱり。アイス、まだできる・・・」

マーヴェリックの悪戯な指先が、ガウンの中のアイスマンの昂りを捉えた。

「・・・マーヴェリックっ・・・」

「アイス。・・・君は何をしたっていいんだ。君だけは、僕に何だってできるんだよ?」

口唇を触れ合わせたまま、マーヴェリックが囁く。

「・・・しかし・・・」

「無理じゃないよ?僕が欲しいんだ。本当に欲しいんだ。僕のずっと奥。君ので、埋めてほしいんだ。身体の奥で、君を感じたい」

「っ・・・」

アイスマンは一度きつく目を瞑り、そして大きく息を吐いた。

奔放だった妻は、いつからこれほどしっとりと濡れた瞳をするようになっただろうか。飛び方は相変わらずだが、二人っきりでいる時、特に閨での態度は男心を酷く擽る。煽られる。歯止めが効かなくなる。堕ちる。この妻である、美しい狼に。この30年間、ずっと堕ち続けている。

「マーヴェリック・・・本当にいいのか?」

「いいんだよ?・・・本当なら、いつだっていいんだけどね。でも君はいつも遠慮するから」

「それは・・・するだろうが・・・」

「そんな、20年も前のこと、もう気にしなくたっていいのに」

マーヴェリックがくすくすと笑う。20年前、この美丈夫な夫に抱き潰されたことがある。その結果、マーヴェリックは2日間、飛ぶことができなかった。そのことを気にしているのだ。この海軍大将は。

「明日は休みだから。ああ、ブラッドが遊びに来るけど、昼くらいだろう。大丈夫だよ。だから・・・アイス・・・」

マーヴェリックがタオルケットを肩から落とし、膝を軽く開いた。

「来て・・・アイス」

広げられた両腕。アイスマンは観念して、その腕の中に身体を入れ込んだ。妻の膝裏を持ち、さらに大きく割り広げる。切先を後孔に宛てがうと、ベッドで散々アイスマンを咥え込んでいたそこはまだぬかるんでいる。腰を押し進めれば、すんなりと迎え入れられる。あっという間に、仮の終着点に辿り着く。アイスマンはそこで、マーヴェリックの身体を揺らしてやった。

「ああっ・・・あ・・・はっ・・・あ・・・」

顎を上げ、身体の中に与えられる快楽に意識を飛ばす。

「くっ・・・う・・・」

何度、挿入っても、飽きることのない胎内。包まれ、締め付けられる。愛される。

「・・・もっと・・・奥ぅ・・・」

アイスマンは軽く奥を突いた。ヒクヒクと靡肉の輪が動いている。もう一突きすれば、妻が求めるものを与えらるのだろうが、氷の男は躊躇った。

「アイスぅ?」

マーヴェリックが焦れた声を出す。

アイスマンが指の背でマーヴェリックの頬を撫でる。「本当にいいのか?」と目で問う。そんな夫に妻は口角を上げて微笑んだ。

「アイス。君は僕の夫なんだから。もっと、自分本位に僕を抱いたっていいんだよ?」

「DVやモラハラをする気はない」

「真面目・・・だよね。僕の旦那様は。でも、そろそろ焦らすのはやめてくれないかな?」

言いながら、マーヴェリックはアイスマンの身体を引き寄せた。夫は観念し、妻の腰に腕を回す。そして、今までノックしていた箇所に己自身を突き入れる。

「あっ・・・くっ・・・」

関門を越え、アイスマンの先端が飲み込まれた。

「はっ・・・いっ・・・いいっ・・・挿入ってる・・・ここ・・・まで・・・」

マーヴェリックが手のひらで、アイスマンが埋まっているところを撫で摩る。そうすると、より奥まで埋まり込んでくる。マーヴェリックはきゅうきゅうと締め付けた。

「っ・・・マーヴェリック、スキンを付けてない」

「ん、いい・・・そのまま、中に出して。中に・・・君の、熱いの、欲しい」

感じ入った表情で、マーヴェリックがアイスマンに縋り付く。

「もし、僕が女でもっと若かったら、君の子を孕んでいたね」

その言葉がスイッチだった。アイスマンは理性を捨てて、自分を包み込む心地よい場所を、抉り、犯し続けた。

***

スッと、アイスマンの意識が覚醒する。カーテンの隙間から差し込む光で朝と分かる。自分の身体に擦り寄っている妻を見れば、まだ深い眠りの中にいるようである。表情に苦痛はなく、穏やかだった。指先で、額にかかる短い黒髪を整えても身じろぎ一つない。

「無理をさせたか・・・」

アイスマンは小さく溜息をついた。マーヴェリックが望んだこととはいえ、良心が痛む。初めてマーヴェリックを抱いた時から、30年以上、絶対に彼に対して無理強いはしないことをアイスマンは決めていた。マーヴェリックに言ったことはないけれども。遠い昔のあの夜。着乱れて、ボロボロになったマーヴェリックが、その姿をアイスマンの前に表した時、怒りが湧いた。自分の僚機に陵辱を働いた者たちに対して。当然、スライダーを始めとした仲間たちと共に、マーヴェリックを貶めた輩たちのことは社会的に消した。しかし、彼の心の支えとなるグースは既に存在しておらず、代わりに仲間たちとマーヴェリックを陰ながら守った。アイスマンが一人で行動しなかったのは、マーヴェリックを安心させるためだった。自分が彼に対して欲を持っていることを知られるわけにはいなかった。怯えさせたくなかった。「愛している」という思いを、一生、自分の中に閉じ込めておいてもいいとさえ思った。

それなのに。

空を駆ける黒い狼は、自分の手を取ってくれた。自分に幸福を与えてくれた。妻になることすら許諾してくれのだ。

アイスマンは深く眠る妻の頬に口唇を落とした。感謝の意を込めて。

起きる気配のないマーヴェリックをそのままに、アイスマンはベッドサイドから眼鏡を取った。ベッドを降りるとタオルケットをマーヴェリックの肩まで掛けてやる。時計を見れば、結構な遅い朝だ。今日はルースターが来る。アイスマンはバスルームへと姿を消した。

***

「おはよう!っていうか、こんにちは、かな。アイスおじさん」

「よく、来たな。ブラッドリー」

「マーヴは?」

「まだ寝ている。いや、そろそろ起きてくるとは思うが」

玄関ポーチからリビングのソファまで。そんな会話をしながら移動する。

「コーヒーでいいか?」

「あ、俺が淹れるよ、アイスおじさん。ずっと運転してたから、座る以外の姿勢を取りたい」

「じゃあ、頼む」

ルースターがキッチンに行き、アイスマンはソファに身を落ち着けた。時々使うので、何処に何があるかは分かっている。というよりも、マーヴェリックのキッチンの使い方は母親のキャロルと似ている。父親が亡くなった後、マーヴェリックが母と一緒によくキッチンに立っていたのを覚えている。母親が亡くなってからは、マーヴェリックが一人で立っていた。

「ああ・・・」

ルースターの頭の中で、カチンっとピースが嵌まる。そう。マーヴェリックがキッチンにいて、その時、自分はアイスマンと一緒にリビングにいた。それが何処か日常の光景だった。幼かった頃、自分の両親はアイスマンとマーヴェリックだと思っていたこともあったくらいだ。

「ブラッドリー!」

「マーヴ!」

2階から降りてきたマーヴェリックがルースターの姿を認め、パタパタと駆け寄る。相変わらずの美人さんである。というか、あれ?とルールターはマーヴェリックを観察する。なんか、ぽわぽわしてないか?にこにこと浮かべる笑みが、3割り増しで艶めいてないか?シャツの襟元から見えるの、その鬱血痕って俗にいうキスマークですよね?さらに言わせていただければ、いっつもTシャツなのに、何で今日は違うの?しかもサイズが合ってなくて、絶対にそのストライプのシャツ、アイスおじさんのだろ。

「ん?どうした?ブラッドリー」

こてんっと首を傾げるマーヴェリックの仕草はかなりの破壊力がある。これ、クローゼットにしまっといた方がいいんじゃない?アイスおじさん。マーヴェリックの向こうのアイスマンを見れば、どうやら新聞の陰で笑っているらしい。

「あー・・・マーヴ。こういうのはちゃんと隠しておこうね。マーヴとアイスおじさんが相変わらずとっても仲良しなのが分かって嬉しいけど」

そう言って、ルースターはマーヴェリックのシャツの釦を2つ留める。

「!」

咄嗟にマーヴェリックが首に手を当てる。相当、遅いけれども。

「・・・ごめん。ブラッド」

「いいのいいの。父さんと母さんが仲良しなのは、息子としてはとっても嬉しい」

「ブラッドぉー♡」

マーヴェリックが嬉しそうに笑って、ルースターにハグをする。

「あーはいはい。コーヒー飲もうね、マーヴ」

その日の午後は、ルースターの隣に座って、始終にこにこと幸せそうに笑うマーヴェリックの姿が見られたのである。

***

マーヴェリックとルースターとで作った夕食を楽しんだ後、ルースターは用意された2階の自室に入った。この家を買ったとき、マーヴェリックがアイスマンに頼んだらしい。ルースターの部屋を用意したい、と。自分とは絶縁状態であったにも関わらず。マーヴェリックとの関係が改善してから、少しずつ、この部屋にルースターの私物が増えた。父親と母親が天国に行き、ひとりぼっちになったルースターを育ててくれたのが、マーヴェリックとアイスマンだった。願書の件でマーヴェリックと一方的に袂を分つことになっても、アイスマンは自分を後見してくれた。そしてまあ、いつの間にか結婚していたわけだけれども。

「いやー。あの顔面偏差値が異常に高い二人に育てられて、俺ってよくもまあ性癖が歪まなかったよなー。それにしても、結婚30年であれだもんなー。ラブいっつうの。すげーわ。目のやり場に困るわー。親父たち越されてんぞー。聞いてる?親父ー。Talk to me 親父ー。あ、そうだ」

ルースターは徐にポケットからスマホを取り出した。そしてアドレスをタップする。コール音3回で相手が出る。

「あー・・・っと。中将?俺です、ブラッドショーです。今、マーヴの家に来てて。んっと、明日、中将と会うことはできますか?」

『明日はオフだから、家にいる』

「じゃあ、行っても?」

『構わない』

「えっと、時間は・・・」

『決めなくていい。どうせ、マーヴェリックから解放される時間などわからないだろう』

「ご明察です。子離れができない母親なので」

『適当に来ればいい』

「そうさせていただきます。それじゃ、失礼します」

ルースターはタップして通話を切ると、スマホをベッドの上に放り投げた。

END