君は全てを許される

若い頃の妻は、それは奔放で。

自分と出会う前の交友関係は、なかなかのものだったらしい。もちろん、その時は、きちんと誠実なお付き合いをしていたらしく、ただ一人の人間と長く続かなかったらしく、不名誉にも「お盛ん」という噂が広まったらしい。だから、誠実な人間であるのだ。長く続かなった理由は、マーヴェリックが軍人だからなのだろう。洋上に出れば、数ヶ月以上、陸には帰ってこない。尚且つ、海軍の問題児なので、ミッション以外にも「飛ばされる」ことも多かったに違いない。実際、自分と結婚した後も、妻は上司によって戦地へと送られていた。結婚したとはいえ、まだ社会や政治、法律によって許されるものではなかったし、アイスマンもまだまだ権力が足りていなかった。

「なんか、いいな。こういうの」

マーヴェリックがボソッと言ったことがある。「何が?」と問えば、

「長い間、任務についててさ、それで戻ってきたら、ちゃんと僕を出迎えてくれる人がいるってこと。大体、荷物ごと消えてるから」

確かに。数ヶ月単位で放っておかれたら、恋人は次の相手を探すことが多いのかもしれない。アイスマンは、法が守ってくれる書類も結婚式もなかったが、プラチナの指輪を贈ることでマーヴェリックを繋ぎ止めた。戦闘機に乗る時は外すが、ドッグタグのチェーンに通していた。自分もそうした。いや、最初にプロポーズしたときは指輪もなかったのだ。だから、アイスマンに見合いの話が来た時、マーヴェリックは自ら問題を起こして、戦地に勝手に赴いた。アイスマンがそれを知った時には、マーヴェリックはすでに洋上にあり、慌てたアイスマンは、当時自分が持てるあらゆる力を使って、F14で追いかけたのだ。ベロア素材の小さな青い箱を持って。空母に着艦して、艦長への挨拶もそこそこに、マーヴェリックを探し、見つけたところで彼の部屋に連れ込んで、「は?え?なんで?どうして?アイスが?ここに?いんの?」という僚機を壁に押し付けて、二度目のプロポーズをしたのだ。指輪を渡すときは、ちゃんと片膝を床に着いた。狭い空母の無骨な部屋で、お互いにフライト・スーツ姿で。後にアイスマンは、花束とレストランを準備して三度目のプロポーズをしようとしたが、それはマーヴェリックに「いやもう、充分だから。流石に、F 14を飛ばしてくるプロポーズのインパクトが強すぎて、僕はもう処理しきれない。っていうか、見合いはいいのかよ」と断られた。見合いに関しては、「は?そんなもん知るか。俺は自分の実力だけで、上に行くからいいんだよ。誰が、女の力なんぞ借りるか」とアイスマンが啖呵を切った。実際、マーヴェリックの始末書を処理しながら、最速で昇進したのは、正に「愛」という名の執念だった。愛する僚機を飛ばせるために、アイスマンは上を目指した。飛ぶことが望みと言うのならば、自分はその道を整えてやるだけだ。

ちなみに「指輪を持ってF14でプロポーズしに行きます案件」の際、巻き添えを喰らったのは、アイスマンのRIOであるスライダーだったのは言うまでもない。後日、スライダーはマーヴェリックに混々と説教をした。

「あのな。氷の男の執着を甘く見るなよ?あいつの心の中は、お前の起動並みに激しいから。男を見た目で判断してはいけません。それと、あらゆるとばっちりは俺のところに来るから、マジで、アイスに関してはおとなしくてて。な?頼むから」

最後は説教ではなく、懇願だった。

***

愛を確かめ合うには色々と方法はある。付き合い始めや結婚当初は、身体を重ねることがその全てとでも言うよう、互いの熱を感じ合っていた。きっと軍人であるが故に、離れている時間が長かったことも原因の一つだった。けれども、時が過ぎて、任務もそれぞれの落ち着いてくれば、一緒にいる時間も長くなる。二人でソファに座って、酒を飲みながら映画を観るのもいいし、ベッドの上で身体を寄せ合いながら、違う本を読んで過ごすのも悪くなかった。時折、外に出かけて食事をしたり、あるいはドライブすることも楽しかった。キャロルが天に召され、アイスマンがブラッドリーの後見人となり三人で暮らしていた間は、家族のように休日を過ごしていた。今でこそ和解したが、マーヴェリックがキャロルの遺言を受けて、ブラッドリーにとっては無体なことをしてしまい、彼がカザンスキー家を離れた時は、相当マーヴェリックも落ち込んでいた。きっと、マーヴェリックなりの家族というものの幸福を味わっていたのだろう。アイスマンと二人っきりの生活になって、再び身体を重ねる機会が増えたかもしれなかった。それでも、なんとか心に折り合いをつけて、遠くからブラッドリーの成長を見守ることに慣れていった。そんな妻の姿を見て、アイスマンはほっとした時期があった。ブラッドリーは確かに可愛い。息子同然だった。けれども、妻の注意が彼ばかりに向くのは、心の何処かであまり楽しくはなかったのだ。随分とエゴイストだとは思うが、これは感情の問題なので、致し方なかった。それでも、表には出さずにできた。もちろん、スライダーにはバレていたのだが。

「ブラッドリー坊やに嫁を取られて面白くない、と?でもなぁ、息子みたいなもんだろ?つか、完全に息子だろう。え、もしかして、お前、実の息子がいたとして、そいつにも嫉妬すんの?」

そんなスライダーの言葉に、真っ当な返答ができなかったので、おそらくそういった仄暗い感情が自分にはあるのだろう。随分な独占欲だった。「籠の中に閉じ込めておきたい」と思ったことは、実は一度や二度ではない。永遠の翼を与えるために出世をしたのに、その翼を折って閉じ込めてしまいたいという衝動もあるのだ。この腕の中に。

「・・・アイス?」

身体の下で、妻が名前を呼ぶ。

「眉間に皺が寄ってる。仕事、忙しい?あのミッション以来、僕はサイクロンの下でできるだけおとなしくしてるんだけどな」

「いや・・・そういうことじゃない」

アイスマンは、マーヴェリックの唇を親指で撫でた。

「・・・アイス、起こして。アイスの膝の上に座りたい。そうしたら、抱きしめてくれるだろう?」

「ああ、そうだな」

アイスマンはマーヴェリックの背中に腕を差し入れて、ぐっと引き起こした。身体上昇する。

「あっ・・・んっ・・・くぅ・・・」

その動きで、胎内に与えられている刺激の場所が変わったらしい。感じいった声が漏れる。マーヴェリックは夫の背中に腕を回し、唇を近づけた。そして、強請る。

「揺すって?」

そのリクエストを無視する気など当然ない。下からゆっくりと突き上げてやる。

「ん・・・あ・・・いい・・・んあ・・・ぁ・・・ぁんっ・・・」

アイスマンの耳元で、あえかな声が響く。それだけで、脳が焼かれそうな気がする。ああ、多分。自分はこの30年間、ずっと。空を駆ける黒い狼を手中に収めたくて仕方がないのだ。きっと、この先も。

「はっ・・・あ・・・アイスっ・・・んっ・・・きもち・・・い・・・あ・・・イキそう・・・」

マーヴェリックの訴えに、穿つ楔を早くする。

「や・・・くる・・・んっ・・・アイ・・アイスも・・・イって・・・僕の中で・・・」

「ああ・・・っ」

自分にまとわりつく、熱い肉襞の収縮。持っていかれそうになる。アイスマンはマーヴェリックをきつく抱きしめた。びくんっと、小さな体に力が入り、そして弛緩する。と同時に、アイスマンの肉壁に中に放つ。声にならない呻き声が、二人の口唇から溢れる。それでも。満足げな笑みを浮かべて、妻がしどけなくシーツの上に落ちた。身体を離し、その黒髪を撫でてから、自分よりも幾分か小さな身体をタオルケットごと抱き上げる。テラスに面したカウチに運び、静かに横たわらせた。

「アイス・・・好きだよ」

「俺もだ」

妻の言葉に間髪入れずに応える。そして左手の薬指に光るプラチナに口付けた。

***

シーツを取り替えてベッドを整えたアイスマンがカウチに近づく。タオルケットに包まったマーヴェリックが気怠い視線を送る。

「ベッドを整えたから、休むぞ」

伸ばしたアイスマンの腕をマーヴェリックが掴み、引き寄せる。アイスマンもマーヴェリック同様、鍛えられた体幹の持ち主ではあったが、咄嗟のことでバランスを崩す。が、マーヴェリックの身体に倒れ込むことなく、カウチの背に手をついた。そんなアイスマンのガウンの襟をマーヴェリックがそっと掴んだ。

「アイス、まだできるよ?」

年齢を重ねて、若い頃の単純な可愛さではなく、随分と妖艶な雰囲気を醸し出すようになった妻の表情にアイスマンは眉を顰めた。嫌だからではない。抗えないからだ。

「お前に無理をさせたくないからな」

「無理?・・・だって、アイスはまだ僕の中に挿入ってないじゃないか」

「マーヴェリック、もう後ろで何回もイッただろうに」

「でも、アイスは、僕の身体の奥まで挿入ってない。僕の身体の奥の奥」

そう言って、マーヴェリックは自分の下腹を摩って見せる。

「っ・・・マーヴェリック・・・」

アイスマンは、小さく溜息をつくと、目を瞑った。そんなアイスマンをマーヴェリックが引き寄せる。アイスマンはカウチに膝をつき、マーヴェリックに覆い被さった。黒髪の美しい狼は、氷の名前を持つ夫の肩に顎をのせ、その耳元に囁く。

「それとも・・・もう、僕には魅力がなくなっちゃったかな?もう、僕の身体に飽きちゃった?・・・そっか、そうだよね。いい年齢だし・・・」

「おい。勝手に自己完結するな。俺がお前に飽きる?そんなわけがあるか」

嗜めるように言うと、アイスマンは妻の頬を両手で包み、口付ける。ベッドの上で散々吸われた口唇は既にぽってりと赤くなっている。アイスマンはその腫れた口唇を自分の口唇で挟み噛んだ。口唇の隙間からマーヴェリックの舌先が口腔内に遊びに来る。アイスマンはそれを迎え入れた。

「んっ・・・あん・・・う・・・ん・・・んん・・・」

鼻と口唇の隙間で互いに酸素を取り込む。角度を変えながら、キスを深める。互いの唾液が混ざり合って、誰のものか分からなくなる。アイスマンのガウンの襟を掴んでいたマーヴェリックの右手が、いつの間にか外れた。そっと夫の身体を這うように辿る。そして。

「ほら・・・やっぱり。アイス、まだできる・・・」

マーヴェリックの悪戯な指先が、ガウンの中のアイスマンの昂りを捉えた。

「・・・マーヴェリックっ・・・」

「アイス。・・・君は何をしたっていいんだ。君だけは、僕に何だってできるんだよ?」

口唇を触れ合わせたまま、マーヴェリックが囁く。

「・・・しかし・・・」

「無理じゃないよ?僕が欲しいんだ。本当に欲しいんだ。僕のずっと奥。君ので、埋めてほしいんだ。身体の奥で、君を感じたい」

「っ・・・」

アイスマンは一度きつく目を瞑り、そして大きく息を吐いた。

奔放だった妻は、いつからこれほどしっとりと濡れた瞳をするようになっただろうか。飛び方は相変わらずだが、二人っきりでいる時、特に閨での態度は男心を酷く擽る。煽られる。歯止めが効かなくなる。堕ちる。この妻である、美しい狼に。この30年間、ずっと堕ち続けている。

「マーヴェリック・・・本当にいいのか?」

「いいんだよ?・・・本当なら、いつだっていいんだけどね。でも君はいつも遠慮するから」

「それは・・・するだろうが・・・」

「そんな、20年も前のこと、もう気にしなくたっていいのに」

マーヴェリックがくすくすと笑う。20年前、この美丈夫な夫に抱き潰されたことがある。その結果、マーヴェリックは2日間、飛ぶことができなかった。そのことを気にしているのだ。この海軍大将は。

「明日は休みだから。ああ、ブラッドが遊びに来るけど、昼くらいだろう。大丈夫だよ。だから・・・アイス・・・」

マーヴェリックがタオルケットを肩から落とし、膝を軽く開いた。

「来て・・・アイス」

広げられた両腕。アイスマンは観念して、その腕の中に身体を入れ込んだ。妻の膝裏を持ち、さらに大きく割り広げる。切先を後孔に宛てがうと、ベッドで散々アイスマンを咥え込んでいたそこはまだぬかるんでいる。腰を押し進めれば、すんなりと迎え入れられる。あっという間に、仮の終着点に辿り着く。アイスマンはそこで、マーヴェリックの身体を揺らしてやった。

「ああっ・・・あ・・・はっ・・・あ・・・」

顎を上げ、身体の中に与えられる快楽に意識を飛ばす。

「くっ・・・う・・・」

何度、挿入っても、飽きることのない胎内。包まれ、締め付けられる。愛される。

「・・・もっと・・・奥ぅ・・・」

アイスマンは軽く奥を突いた。ヒクヒクと靡肉の輪が動いている。もう一突きすれば、妻が求めるものを与えらるのだろうが、氷の男は躊躇った。

「アイスぅ?」

マーヴェリックが焦れた声を出す。

アイスマンが指の背でマーヴェリックの頬を撫でる。「本当にいいのか?」と目で問う。そんな夫に妻は口角を上げて微笑んだ。

「アイス。君は僕の夫なんだから。もっと、自分本位に僕を抱いたっていいんだよ?」

「DVやモラハラをする気はない」

「真面目・・・だよね。僕の旦那様は。でも、そろそろ焦らすのはやめてくれないかな?」

言いながら、マーヴェリックはアイスマンの身体を引き寄せた。夫は観念し、妻の腰に腕を回す。そして、今までノックしていた箇所に己自身を突き入れる。

「あっ・・・くっ・・・」

関門を越え、アイスマンの先端が飲み込まれた。

「はっ・・・いっ・・・いいっ・・・挿入ってる・・・ここ・・・まで・・・」

マーヴェリックが手のひらで、アイスマンが埋まっているところを撫で摩る。そうすると、より奥まで埋まり込んでくる。マーヴェリックはきゅうきゅうと締め付けた。

「っ・・・マーヴェリック、スキンを付けてない」

「ん、いい・・・そのまま、中に出して。中に・・・君の、熱いの、欲しい」

感じ入った表情で、マーヴェリックがアイスマンに縋り付く。

「もし、僕が女でもっと若かったら、君の子を孕んでいたね」

その言葉がスイッチだった。アイスマンは理性を捨てて、自分を包み込む心地よい場所を、抉り、犯し続けた。

***

スッと、アイスマンの意識が覚醒する。カーテンの隙間から差し込む光で朝と分かる。自分の身体に擦り寄っている妻を見れば、まだ深い眠りの中にいるようである。表情に苦痛はなく、穏やかだった。指先で、額にかかる短い黒髪を整えても身じろぎ一つない。

「無理をさせたか・・・」

アイスマンは小さく溜息をついた。マーヴェリックが望んだこととはいえ、良心が痛む。初めてマーヴェリックを抱いた時から、30年以上、絶対に彼に対して無理強いはしないことをアイスマンは決めていた。マーヴェリックに言ったことはないけれども。遠い昔のあの夜。着乱れて、ボロボロになったマーヴェリックが、その姿をアイスマンの前に表した時、怒りが湧いた。自分の僚機に陵辱を働いた者たちに対して。当然、スライダーを始めとした仲間たちと共に、マーヴェリックを貶めた輩たちのことは社会的に消した。しかし、彼の心の支えとなるグースは既に存在しておらず、代わりに仲間たちとマーヴェリックを陰ながら守った。アイスマンが一人で行動しなかったのは、マーヴェリックを安心させるためだった。自分が彼に対して欲を持っていることを知られるわけにはいなかった。怯えさせたくなかった。「愛している」という思いを、一生、自分の中に閉じ込めておいてもいいとさえ思った。

それなのに。

空を駆ける黒い狼は、自分の手を取ってくれた。自分に幸福を与えてくれた。妻になることすら許諾してくれのだ。

アイスマンは深く眠る妻の頬に口唇を落とした。感謝の意を込めて。

起きる気配のないマーヴェリックをそのままに、アイスマンはベッドサイドから眼鏡を取った。ベッドを降りるとタオルケットをマーヴェリックの肩まで掛けてやる。時計を見れば、結構な遅い朝だ。今日はルースターが来る。アイスマンはバスルームへと姿を消した。

***

「おはよう!っていうか、こんにちは、かな。アイスおじさん」

「よく、来たな。ブラッドリー」

「マーヴは?」

「まだ寝ている。いや、そろそろ起きてくるとは思うが」

玄関ポーチからリビングのソファまで。そんな会話をしながら移動する。

「コーヒーでいいか?」

「あ、俺が淹れるよ、アイスおじさん。ずっと運転してたから、座る以外の姿勢を取りたい」

「じゃあ、頼む」

ルースターがキッチンに行き、アイスマンはソファに身を落ち着けた。時々使うので、何処に何があるかは分かっている。というよりも、マーヴェリックのキッチンの使い方は母親のキャロルと似ている。父親が亡くなった後、マーヴェリックが母と一緒によくキッチンに立っていたのを覚えている。母親が亡くなってからは、マーヴェリックが一人で立っていた。

「ああ・・・」

ルースターの頭の中で、カチンっとピースが嵌まる。そう。マーヴェリックがキッチンにいて、その時、自分はアイスマンと一緒にリビングにいた。それが何処か日常の光景だった。幼かった頃、自分の両親はアイスマンとマーヴェリックだと思っていたこともあったくらいだ。

「ブラッドリー!」

「マーヴ!」

2階から降りてきたマーヴェリックがルースターの姿を認め、パタパタと駆け寄る。相変わらずの美人さんである。というか、あれ?とルールターはマーヴェリックを観察する。なんか、ぽわぽわしてないか?にこにこと浮かべる笑みが、3割り増しで艶めいてないか?シャツの襟元から見えるの、その鬱血痕って俗にいうキスマークですよね?さらに言わせていただければ、いっつもTシャツなのに、何で今日は違うの?しかもサイズが合ってなくて、絶対にそのストライプのシャツ、アイスおじさんのだろ。

「ん?どうした?ブラッドリー」

こてんっと首を傾げるマーヴェリックの仕草はかなりの破壊力がある。これ、クローゼットにしまっといた方がいいんじゃない?アイスおじさん。マーヴェリックの向こうのアイスマンを見れば、どうやら新聞の陰で笑っているらしい。

「あー・・・マーヴ。こういうのはちゃんと隠しておこうね。マーヴとアイスおじさんが相変わらずとっても仲良しなのが分かって嬉しいけど」

そう言って、ルースターはマーヴェリックのシャツの釦を2つ留める。

「!」

咄嗟にマーヴェリックが首に手を当てる。相当、遅いけれども。

「・・・ごめん。ブラッド」

「いいのいいの。父さんと母さんが仲良しなのは、息子としてはとっても嬉しい」

「ブラッドぉー♡」

マーヴェリックが嬉しそうに笑って、ルースターにハグをする。

「あーはいはい。コーヒー飲もうね、マーヴ」

その日の午後は、ルースターの隣に座って、始終にこにこと幸せそうに笑うマーヴェリックの姿が見られたのである。

***

マーヴェリックとルースターとで作った夕食を楽しんだ後、ルースターは用意された2階の自室に入った。この家を買ったとき、マーヴェリックがアイスマンに頼んだらしい。ルースターの部屋を用意したい、と。自分とは絶縁状態であったにも関わらず。マーヴェリックとの関係が改善してから、少しずつ、この部屋にルースターの私物が増えた。父親と母親が天国に行き、ひとりぼっちになったルースターを育ててくれたのが、マーヴェリックとアイスマンだった。願書の件でマーヴェリックと一方的に袂を分つことになっても、アイスマンは自分を後見してくれた。そしてまあ、いつの間にか結婚していたわけだけれども。

「いやー。あの顔面偏差値が異常に高い二人に育てられて、俺ってよくもまあ性癖が歪まなかったよなー。それにしても、結婚30年であれだもんなー。ラブいっつうの。すげーわ。目のやり場に困るわー。親父たち越されてんぞー。聞いてる?親父ー。Talk to me 親父ー。あ、そうだ」

ルースターは徐にポケットからスマホを取り出した。そしてアドレスをタップする。コール音3回で相手が出る。

「あー・・・っと。中将?俺です、ブラッドショーです。今、マーヴの家に来てて。んっと、明日、中将と会うことはできますか?」

『明日はオフだから、家にいる』

「じゃあ、行っても?」

『構わない』

「えっと、時間は・・・」

『決めなくていい。どうせ、マーヴェリックから解放される時間などわからないだろう』

「ご明察です。子離れができない母親なので」

『適当に来ればいい』

「そうさせていただきます。それじゃ、失礼します」

ルースターはタップして通話を切ると、スマホをベッドの上に放り投げた。

END