Service in blue

何度経験しても慣れない。

マーヴェリックはそう思った。アイスマンと一緒に仕立てたサービスドレスブルーは、お仕着せのそれとは違い、着心地が良い。フルオーダーメイド故に、マーヴェリックの身体の動きを妨げることはない。だから、窮屈なのは軍服ではなく、環境なのだと分かる。こんなパーティーで楽しみなことはサービスドレスブルーを優雅に着こなす夫の姿を見るくらいだ。

瀟洒なゲストハウスで開かれているパーティーは政治家と将官、佐官クラスの軍人で溢れている。大佐であるマーヴェリックは当然参加して然るべきなのだが、アイスマンが昇進してからは、その妻という立ち位置も含めて出席している。互いにプラチナの結婚指輪を嵌めてはいるが、その意味を知らないものも存在している。そういった輩がマーヴェリックに対して不遜な態度を取らぬよう、牽制の意味も込めての出席だった。アイスマンの隣に立ち、話し相手に笑顔を送る。今日は先の特別ミッションの成功を祝う話が多かった。だから作り笑いだけと言うわけにもいかず、相手の質問に答えたり、賞賛の声を受けたりする。かれこれ2時間。笑顔を作りすぎて頬の筋肉が痛くなってきた。しかし、上官であり、夫であるアイスマンに恥をかかせるわけにはいかない。

「マーヴェリック」

「ん?」

話が途切れ、一瞬目の前から人がいなくなったところで、アイスマンのマーヴェリックの耳元に囁く。

「そろそろ離脱しろ。一人で、と言うわけにはいかないが」

「え?」

アイスマンが、近くにいた部下、サイクロンを指で呼び寄せた。常に周囲に注意を払っているサイクロンは、すぐに気づき馳せ参じる。

「サイクロン。申し訳ないが、妻は気分が優れないらしい。一緒にバルコニーへ行って風に当たらせてやってくれ。マーヴェリック、ここはもういいから休んでこい」

「ごめん、アイス。すぐに戻るよ」

「無理はしなくていい」

アイスマンがマーヴェリックの背を押せば、ドレスブルーに包まれた身体はふわりとサイクロンに近づく。

「一人で歩けますか?」

「大丈夫。そこまでじゃないんだ」

サイクロンはマーヴェリックをエスコートし、バルコニーまで移動する。途中、給仕にドリンクを伝える。自分で取りに行ってもよかったが、それではマーヴェリックを一人にすることになる。それは決して海軍大将の真意でないことは十分過ぎるほど分かっている。過去のNCISが絡んだ未遂事件のファイルを見れば、この佳人の名前が表記されるものが簡単に見つかる。記録に残らないものも含めれば、その数は何倍へと膨れ上がるだろう。おそらく、敬愛する上官は多くの心無い兵士を闇に葬っている。

サイクロンは給仕からグラスを受け取ると、石造りのフェンスから外を眺めているマーヴェリックに声をかけた。

「サングリアです。どうぞ」

「ああ、ありがとう」

微風がバルコニーを漂う。グラスを受け取ったマーヴェリックの笑顔が風とともに広がるように見えた。

「喉が渇いていたけど、強い酒はあまり飲みたくないし、かといってソフトドリンクだと場の雰囲気を壊すし。なるほど、サングリアならいいね。さすが、シンプソン中将」

「貴方は、こういった場が相当苦手そうだ」

「うん。苦手。っていうか、中将。どうして僕に対して丁寧な言葉遣いなんだい?」

マーヴェリックは小首を傾げて問う。

「閣下は『妻を頼む』と仰った。だから私は貴方を部下ではなく、カザンスキー夫人として扱うことが肝要かと」

「あははー。ごめん。気を遣わせて。でも、ここは公の場だから、僕はアイスと君の部下だよ。アイスの言ったことはあまりに気にしないで」

「そういうわけにはいきません」

「真面目だね、シンプソン中将」

「サイクロン、と。コールサインでかまいません。貴方はウォーロックのことをコールサインで呼ぶでしょう」

「ああ・・・うん。昔からの知り合いだし。でも、中将にはいっぱい迷惑をかけてるから、馴れ馴れしくするのは申し訳ないかなって」

「そうであれば、私も閣下の奥方に対して不遜な態度をとるわけにはいきません」

「そっか。・・・じゃあ、こうしようよ。僕は君のことをサイクロンって呼ぶから。だから君もアイスの言葉を気にして過度に僕を丁寧に扱うのやめてくれるかな?全然、アイスに対して不敬には当たらないよ。第一、君は今まで僕に対して散々だったじゃないか。今更、丁寧に扱われても・・・。あ、これは嫌味じゃないからね」

「・・・・・・」

サイクロンは無言の後、小さく吐いた。

「分かった」

「あ、分かってくれた?嬉しいな。・・・実は君とは話をしたいと思ってたんだ。アイスから優秀な後輩であり部下であるボー”サイクロン”シンプソンの話はよく聞いていたから。優秀なアヴィエイター。88年のトップ」

「貴方だって相当な人だ。昇進を望まない、現役のアヴィエイター。誰一人死なせることなく、生還した」

「あれはハングマンのおかげだよ。出撃命令だって、君が出したんだろう?ありがとう。君は命の恩人だよ」

「それ以外の選択肢など・・・」

「アイスに何か言われた?」

「いや。彼の方は全ての判断を私に委ねていたので」

「忖度した?」

「もし、忖度などしていたら、貴方を編隊長などしなかった」

「僕にとってはあり難い判断だった。・・・何ていうのかな。僕は上手に言語化することが苦手なんだ。言葉でミッションの成功を示すことができなかった。だから、見せるしかなかった」

「アイスマンは貴方のことを、理屈抜きの天才的な技術を持つアヴィエイターと称した。だから、トップガンでは2番目の地位に甘んじるしかなかった」

「僕は、それで良かったと思ってるよ。アイスがトップだから、後を継ぐ者が生まれる。僕じゃ駄目なんだ。アイスは言ってた。サイクロンは自分に似ているところがあるって。確かに、君の昇進スピードはアイスに似てる。・・・でも、そんな君のコールサインがサイクロンって、凄いな。今度、君と飛んでみたいよ。どんな飛び方をするか、楽しみだ」

「フライバイはしないが?」

「そこはやらないと!アイスだって、やった」

「貴方に煽られてだろう!」

「案外、ノリがいいんだ。アイツは」

「~~~~」

眉間を抑えるサイクロンを見ながら、マーヴェリックが明るく笑った。そしてサングリアに口を付ける。ワインが炭酸で割られているのは、サイクロンの気遣いだろうか。

「マーヴェリック」

「ああ、アイス。談笑は終わったのかい?」

「終わらせた。サイクロン、感謝する。何かやらかさなかったか?マーヴェリックは」

「陸上じゃ、やらかしようがないだろう、アイス。なあ、サイクロン」

「閣下。奥方は大変大人しかったですよ。私と飛びたいと言った以外は」

「ほぅ。それは見たいなものだな。二人でフライバイでもするといい。コーヒーを飲みながら見届けてやろう」

「アイスマン!やりませんよ!」

「あははー。言うと思ったー」

バルコニーで戯れる、海軍の伝説と呼ばれるサービスドレスブルーの3人の姿。海軍大将が佳人の腰に手を添える。

「サイクロン、我々はこれで辞する。後のことは、次期大将に任せるとしよう」

「わかりました」

「いいのか?アイス。途中で抜け出したりして」

「言っただろう。次期海軍大将に任せておけば大丈夫だ」

「ごめん。サイクロン。えっと・・・今度、3人で一緒に食事でもしないか?」

「ぜひ」

マーヴェリックの申し出に、サイクロンは素直に応じた。

***

「気分は?」

「ん?大丈夫だよ」

家に帰り着き、着替えの為に寝室に上がりながら、アイスマンがマーヴェリックを気遣う。

「アイスが途中で抜け出させてくれたし。ああ、サイクロンがくれたサングリアが美味しかった。あれ、いいな。今度からパーティーの時はあれにする」

「サイクロンとはうまくやっているようだな」

「んー・・・彼は色々と言いたいことがあるみたいだけど、僕がこんなだから仕方がない。でも、アイスの可愛い後輩だから、もう少しお利口さんにするよ」

「別に遠慮することはない。今でこそ海軍中将だが、あいつの飛び方はコールサインそのものだ」

「アイスがそう言うなら、ますます一緒に飛びたくなった」

「僚機の座は譲らないが?」

「もちろん、僕の僚機の座は永久指定席だ」

マーヴェリックの指先がアイスマンの首筋を辿った。眼と唇が月のように弓形になる。

「マーヴェリック?」

「ん。やっぱりアイスはかっこいいな。ドレスブルーを着てるから余計にかっこよさが増してる」

「お前のドレスブルーも大概だが?」

「着られてる感が半端ないんだ。せっかくアイス御用達の店で仕立ててもらったのにな。体型が変わったかなぁ」

マーヴェリックが自分のサービスドレスブルーの襟や肩の辺りを触る。そんなマーヴェリックの体をアイスマンがぐいっと引き寄せた。そのまま抱え上げてベッドに運び、やや乱暴に投げ落とす。マーヴェリックが身体を起こす前に、アイスマンが覆い被さった。乱暴にネクタイを解き、ジャケットとシャツのボタンを外す。1つ2つ飛んだかもしれない。その勢いでシャツガーターの留め金も外れる。噛み付くように口を塞ぐ。乱暴に口腔内を犯しながら、ジャケットとシャツを纏めて肩から外す。腕の途中で止まるがそれでいい。薄い唇をマーヴェリックの肌を軽く噛みながら移動させる。乳首は少し強めに喰んだ。

「ひっ・・・あ・・・」

マーヴェリックの身体が跳ねるのを確認しながら、見える肌を歯で犯す。自分に延ばされた両手を取り、一纏めにする。そして、マーヴェリックの身体の横に落ちたネクタイで戒めた。左手で腰を掬いながら、空いたてでベルト外す。左足だけ下着ごとスラックスを抜き取る。まだ立ち上がらない果実を握り込む。

「んっ・・・」

マーヴェリックが身体を捩った。アイスマンはマーヴェリックの首筋を顔を埋め、柔らかく薄い肉を喰みながら手を動かした。

「あ・・・あ・・・」

頭上から聞こえる愛する者の声。胸元で戒めた手が動く。やや乱暴に扱き、半ば強制的に勃ち上がらせる。先端の雫を指で確認できたところで、親指でグリグリと捏ね回した。

「はっ・・・あ・・・」

マーヴェリックの左足先がシーツを擦り動く。少し指が潤ったところで、アイスマンはその滑りを前を寛げただけのスラックスから取り出した自身に擦り付ける。組み敷いた身体の両足を割り開き、黒いシャツガーターの輪のすぐ側をきつく吸い上げた。そこから鼠蹊部へと唇を移動させる。赤い筋が1本、残る。その色に満足げな笑を浮かべると、アイスマンはマーヴェリックの身体を二つに折り畳んだ。そして、躊躇いもなく、一気に犯す。

「ぐっ・・・あ゛・・・ひっ・・・」

慣らしていないそこは狭く、キツい。それでもマーヴェリックがアイスマンを受け入れることができたのは、この30年間の結婚生活のおかげだ。否、付き合いも入れたら30年以上。それほどの時間をかけて、マーヴェリックの身体はアイスマンを受け入れる器になっている。前立腺の辺りを越え、その奥。仮の終着点。そこに先端を当てながら、腰を深く動かす。

「んっんっんっ・・・んくっ・・・はっ・・・はっ・・・」

喘ぎと呼吸音が最高のBGMになる。アイスマンはその耳に心地よい音を聞きながら、さらに腰を力任せに進めた。短い肉襞のトンネルを越え、収まりたいところへ収まる。

「あっ・・・あああーーーーあっ・・・」

マーヴェリックは首を仰け反らせ、嬌声のような悲鳴を寝室に渡らせる。それでも、アイスマンはその身体の動きを止めることはなかった。

***

どうにか呼吸を整えて、ゆっくりと目を開ける。視界にあまり着衣の乱れていない夫の姿が映る。指で眉間の辺りを押さえている。「やらかした」といった表情だ。アイスマンはジャケットのボタンを外し、スラックスの前を寛げているくらい。一方マーヴェリックの方はといえば、不合意に誰かに襲われましたか、といった着衣の乱れ具合だった。ジャケットとシャツは腕に引っかかり、スラックスは左脚だけ抜かれていて、靴は脱げているものの、靴下は履いたまま。右足は脛の辺りでスラックスが引っかかっていた。ネクタイは、マーヴェリックの両手首を戒めていた。

「悪い。何処か痛むところは?」

「んー・・・大丈夫。だけど、このネクタイは外してくれるか?」

「ああ・・・本当にすまない」

アイスマンがマーヴェリックの手首からネクタイを取り除き、身体を起こすのを手伝う。丁寧に確認するが、痣にはなっていないようだった。そんな手首にキスを落とす。

「これじゃ、まるでレイプだな」

「気持ち良かったけど?いつもより乱暴だったけど、それはアイスが僕を気持ちごと欲しかったからだろう?アイスは僕を大事にしすぎなんだよ」

マーヴェリックが幼子を抱くように、アイスマンの身体を頭を掻き抱く。アイスマンも腕をマーヴェリックの背中に回した。

「アイス、好きだよ。心配するな。僕は大丈夫」

アイスマンの髪を撫でる。アイスマンがまるで過保護のように自分を大事にし、無理をさせない理由は分かっている。30年以上も昔の話だ。二人が結婚する前の。心無い連中が自分を無理矢理凌辱したことがあった。頼るグースはすでになく、どうしていいか分からずにアイスマンのところへ行った。その日のことは正直あまり覚えていない。ただ、「初めてはアイスがよかったな」と思ったことは記憶にある。あの日から、ずっとアイスマンが自分を守ってくれた。時には盾になり、時には真綿になり。

自分が痛めつけらたことを、互いに話題にすることはなかったけれども、ベッドでの紳士的な態度は必要以上で、そのことからもアイスマンがマーヴェリックが傷つけらた日のことを頭の片隅に常に置いていることが伺える。

「久しぶりにお前のドレスブルーを見たから、ちょっとグッときた」

「んー、僕も」

乱れたアイスマンの前髪をマーヴェリックが後ろに撫で付ける。
「今度は、僕が上になろうか?それだったら合意だろ?僕もドレスブルーの君を襲ってみたい」

アイスマンが片眉を上げる。マーヴェリックは許諾の言葉を待つことなく、その体幹を生かして身体をアイスマンごと捻り、ベッドに沈み込ませた。邪魔なジャケットとシャツを脱いで床に放り投げる。

「夜はこれからって、ことで」

マーヴェリックはこの上なく、夫の身体を見下ろして笑ったのだった。

END