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White Day in N.Y.

「ねえ、ハーヴィー。14日の夜って空いてる?」

マイクは昨日ハーヴィーから頼まれ、今朝、完成した書類を手に、上司のオフィスにやって来た。書類をファイルごと渡しつつ、尋ねたのが先ほどの問いである。3月14日の土曜日。ハーヴィーに・・・というか、自分たちにはカレンダー通りの休日はない。特にハーヴィーは仕事中心の生き方だから、休暇を取る、という概念があまりない。それでも、マイクと付き合うようになってからは、幾分を仕事をセーブし、マイクの為の時間を割くことは増えてきた。それがいいのか、悪いのか。マイクとしては嬉しい反面、仕事のできるハーヴィーをこよなく愛しているので、自分が仕事の妨げになるようなことは避けたいと思っている。それでも、14日のスケジュールを訊いてしまった。

「14日?土曜日だな。ドナに確認すれば時間がはっきりするが、確か会食が入っていたはずだ」

「あ、そうなんだ」

「どうした?何か用事があるなら、会食はキャンセルしても・・・」

「ダメ。それは絶対にダメ。ちゃんと仕事して」

「別に会食は仕事じゃない。汚いおっさんの顔を見て食事をするよりも、君を見ていた方が有意義だ」

「僕は、仕事じゃないの。もう一度言うけど、ちゃんと仕事して」

「・・・わかった。しかし・・・何かあるんだろう?だから、予定を訊いてきた」

「・・・ん・・・まあ・・・。でもさ、別にハーヴィーのお仕事会食の後でもいいんだ、僕は。って言うか、ハーヴィーが会食の方が僕にとっては都合がちょっといいかも」

「何なんだ。おかしな話だな」

「会食でも、ハーヴィーは帰ってくるでしょ?」

「おっさんと泊まる趣味はない」

「すっごい美女だったりして」

「ああ・・・しかし、俺の心を動かす魅力は半減以下だな。皆無だ」

「変わったねぇ、ハーヴィー」

マイクがおかしそうにクスクスと笑うと、ハーヴィーは片眉を上げて言った。

「それは、君のせいだ」

「そう?僕は胸も大きくないし、セクシーなドレスも似合わないよ」

「それでも、だ」

それを聞いて、マイクはにっこりと綺麗に笑った。

「じゃあさ、14日の夜、ハーヴィーの部屋に行ってもいい?」

「すでに一緒に住んでいるようなもんだろう」

「ハーヴィーがいないときは遠慮してる。・・・ハーヴィーがさ、会食してる時間から、ハーヴィーの部屋に居てもいい?」

「もちろん、構わない。しかし、どうして14日なんだ?別に今夜だっていいだろう」

「14日は特別な日なの。とにかく、14日ね。お邪魔するね。でもって、ハーヴィーは・・・」

「ちゃんと仕事する。すればいいんだろう?顔の汚いおっさんと」

「時間は気にしないで。ハーヴィーが遅くなってもちゃんと待ってる。ただ・・・さ」

「ん?」

「14日のうちに帰って来て欲しいんだ」

「俺にシンデレラになれ、と?」

「そういうこと。そうでないと、意味がなくなっちゃうから」

「わかった。14日な」

「ありがと。じゃ、僕は仕事に戻るね。またルイスの書類爆撃を受けているんだ」

「あいつめ」

「でも、いいんだよ。その方が僕の力になるから。ハーヴィーは余計な手を回しちゃダメだよ?」

「向上心があるのはいいが・・・無理はするなよ」

「わkってるって。じゃね」

手をひらひらと振って、マイクはハーヴィーをオフィスを出た。その後ろ姿を見送ってから、ハーヴィーはスマホのスケジュールアプリを開いた。取り立てて、何か、行事があるわけでもない。首を傾げつつも、ハーヴィーはマイクが持って来た書類に目を通し始めた。

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そして、14日。

会食を終えたハーヴィーがレストランの外に出て時計を確かめると、21:00を過ぎていた。すぐにレイの運転するレクサスで自分のペントハウスに帰る。何かマイクに土産を・・・と思ったが、早く帰ることが一番の土産だろうと考えて、何処にも寄らずに帰宅した。

結局、3月の14日の意味はわからないままだった。ただ、マイクにとっては特別にことがある日なのだろう。マイクと付き合うようになってから、よくドナに言われるようになった。

「ハーヴィー、貴方、柔らかくなったわよね」

と。屈託のない笑みを、あらゆる人間に振りまくマイクを見ていると、時々腹立たしくなることがある。あの笑顔を独占したくなるのだ。恐らく、ハーヴィーがいま、一番恐れていることは、マイクからの拒絶だ。それだけ、自分はマイクに依存しているのだ。最初は無自覚だったが、今はそのことをしっかりと自覚している。誰にも語ったことはないが。しかし、勘のいい赤毛に秘書にはきっとバレていることだろう。自分がマイクを失うことをどれだけ、恐れているのか、ということを。

自分の部屋のドアの前に立つ。いつもであれば、一緒に帰るか、あるいは残業を押し付けられたマイクが遅くに来ることが多い。マイクは主人の居ない部屋に、勝手に上がり込むことに対しては、遠慮している節がある。それは付き合い始めてからの方が顕著だった。だから、こんな風に、マイクが先にハーヴィーの部屋にいることは至って珍しいことなのだ。何処か新鮮な気持ちを感じながら、ドアを開けようとすると、まるで自動ドアであるかのように、中から扉が開けられた。

「お帰りなさい、ハーヴィー。って言うのも変だよね。ここは貴方の部屋なんだから。窓からレクサスが見えたのに、中々ドアが開かないから変だと思って・・・。ん?どうしたの?ハーヴィー」

「いや・・・。珍しいな、と。その格好が」

「えっと・・・まぁ・・・その・・・勝手に借りてごめんね」

「大歓迎だ」

ハーヴィーは部屋の中に入り、黒いシャツを着たマイクの細い体を引き寄せると腕の中に閉じ込めてキスをする。キスをしながら、するりとシャツの裾から手を滑り込ませる。そして、唇の隙間から小さな声で言った。

「残念。履いていたか」

「あっ、あったり前じゃん!!!もうっ!ハーヴィーったら!!」

「セーターもいいが、シャツもいいな。これは一体どういうサービスだ?いつもなら嫌がるくせに」

そんなハーヴィーの問いに、マイクは恥ずかしげにそっぽを向いた。上半身はハーヴィーの黒いシャツ。そして、下半身はハーヴィーがちらっと見たところによると、グレーのボクサーパンツ。いつもマイクはスウェットを履きたいとか、ジーンズを履きたいというのだが、ハーヴィーがマイクの綺麗な足を見るのを好むので、大体において、履かせない。それが今夜はマイク自らが「履かない」という選択をしたらしい。

「そういう格好と、14日に何か密接な関係があるのか?」

「んーまー・・・ちょっとだけ・・・かな?えっと、ハーヴィーは夕食を食べてるからあんまりお腹は空いてないよね?でも、お酒はちょっと飲むでしょ?」

「ああ、いいな、それは」

「じゃあ、ソファで座って待ってて。お酒と簡単なおつまみを用意するっていうか、してあるから」

そう言って、マイクは静かにハーヴィーから離れた。

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ハーヴィーがソファに座ると、テーブルには、数種類のチーズとナッツが用意されていた。すぐにマイクがシャンパングラスとボトルを持って来る。

「見たことのないボトルだな。・・・これは・・・日本語か?」

「そう。SUZUNEって読むらしいよ。日本酒のスパークリングなんだって。日経のアソシエイトが出張から帰って来たんだよね。お土産にって、くれたんだ」

そう言って、グラスに注ぐ液体は、スパークリングワインそのものだった。が、香りが甘い。

「それで?そろそろ種明かしをしてくれてもいいんじゃないか?今日が何の日か?色々と考えたが分からん。付き合い始めて何ヶ月目かの記念日とかいうわけじゃないだろう。君は、そういうのは無頓着だ」

「あ・・・根に持ってる?」

以前、ハーヴィーが付き合い初めて、というかベッドを共にして1か月目のい記念日に、とマイクに贈り物をしたら、ドン引きされたことがある。

「だって、僕は女の子じゃないから、そういうのってあんまり・・・正直どうでもいいていうか。それよりも、ハーヴィーがそういうことにマメっていう方が驚きっていうか・・・ああ、でも今まで素敵な女性を相手にしてたんだから、そういうのは当たり前なのか」

「いつだって、君が喜ぶことを考えているつもりなんだがな」

「でも、今日が何の日か知らないんだよね?やったね!そういうの気分がいい」

「マーイク」

「あはは。ごめん。あのね、このお酒をくれた同僚が教えてくれたんだけどさ、今日はホワイト・デーなんだって」

「?・・・何だ、それは」

「アメリカにはないよね。でもね、日本では普通にる風習なんだって。日本のバレンタインってアメリカと違ってさ、女の子が男の子に愛を告白する日なんだって。で、その1か月後の3月14日がホワイトデーで、男の子が女の子にお返しをするんだってさ」

「ふむ。だったら、そういうことはもっと早く教えろ。俺は君に何も用意してない」

言いながら、ハーヴィーは、「やはり何か土産を買って来るべきだったか」と思う。

「いいの。だってさ。先月のバレンタイン、僕ハーヴィーにめっちゃおもてなししてもらったもん。美味しいレストランの予約とか、ホテルとか、タイピンとか、花とか・・・何だか、僕ばっかり、いつもだけどハーヴィーに甘やかされれてばっかり。そんな時には、ホワイト・デーの風習を聞いたんだよね。僕にとっては、チャンス。ハーヴィーにお返しができるなって」

「別に俺は見返りは要求してないぞ」

「そういうんじゃなくて。僕も、ちゃんとハーヴィーのことを愛してるよって伝えたいってこと。もちろん、いつだって、僕はハーヴィーが好きだよ?でも、いつも、僕、ハーヴィーに大事にされるだけで、何も返せてない」

「返す必要はない。ただ、傍にいてくれればいい。ああ、そうだな。一生離れない、という誓約が欲しいとは思うがな」

「・・・さらりとすごいこと言うね、ハーヴィー・・・。でも・・・だったら、ちょうどいいかなぁ・・・。ハーヴィー、ちょっと待ってて」

マイクは立ち上がると、寝室に消え、そしてすぐに戻って来る。手に、細長い綺麗な箱を持って。

「これ。・・・ハーヴィーの趣味に合うといいんだけど」

「開けていいのか?」

「うん。バレンタインのお返し」

箱を見ただけで、中身がネクタイであることが分かる。

「ハーヴィーの行きつけのお店に行って、テーラーさんとも相談したんだ。ハーヴィーが持ってるスーツに合うものをセレクトしてもらって、最終的にはちゃんと僕が決めた」

ラッピングを剥ぎ、蓋を開けると、ハーヴィー好みのネクタイが現れる。それを手にして

ハーヴィーは満足げに笑った。

「ネクタイを贈る意味を知ってて、これにしたか?」

「・・・ん・・・まあ・・・その・・・調べた」

「上出来だ」

貴方に首ったけ

あまり、自分の思いを口にしないマイクだが、こういうところはきちんと押さえている。

「早速、仕事で使うとしよう。ああ、仕事が捗りそうだ」

「良かった。気に入ってもらえて。ハーヴィーって着るものとか装飾品とかのハードルが高いからさ・・・内心、ドキドキしてた。でも、喜んでもらえて嬉しい」

そう言って、恥ずかしげにマイクはグラスのお酒を飲んだ。

「うわっ・・・甘い!・・・けど、美味しい。ハーヴィーも飲んでみて」

言われてハーヴィーもシャンパングラスを手にし、一口飲む。

「確かに、女子向きの酒かもしれんな」

「後で、マッカランで口直しをする?」

「いや。口直しは、君でするとしよう」

「え?」

ハーヴィーがポンポンと自分の膝を叩く。マイクは少し躊躇ったが、「重いよ?」と言いながら、ハーヴィーと顔を合わせるようにして、その膝に座った。すぐにハーヴィーの手がシャツの中に入ってくる。

「・・・んっと・・・ここで・・・する?」

「いや。酒もつまみもまだあるからな。君もベッドの方がいいだろう。今は・・・こうして触れられればいい」

「んっ・・・でも、ハーヴィーの触り方・・・やらしぃ・・・」

「我慢できないか?」

それを聞いてマイクを口を尖らせた。

「いつも言うけどね。貴方に誘惑されて、我慢できる人間はいないの!!!もうっ・・・」

それでも、マイクはことんっと頭をハーヴィーの肩に乗せて、恋人の温かい掌の感触を享受する。

「愛の大きさ比べなんてナンセンスだけど、僕・・・ハーヴィーが思っている以上に貴方のこと好きだよ。すごく・・・愛してる」

耳元で囁かれたマイクの言葉にハーヴィーの芯に火が付く。

「ああ。前言撤回だ。ベッドに行こう。捕まってろ」

ハーヴィーはマイクの太腿を掴んで立ち上がると、スタスタとベッドルームに向かった。

「うわっ・・・ハーヴィー・・・危ないよっ」

「君とは体の鍛え方が違う」

ベッドの上に投げ出されて、マイクの体がバウンドする。

「今夜は寝かせてもらえると思うな」

「明日はオフ?」

「俺も君もな」

そう言って、ハーヴィーはマイクの体に静かに、そしてやや乱暴に覆いかぶさっていった。

有言実行するために。

END