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悪戯とバスタブ

首が痛いなぁ・・・とか、でも、まだ眠いなぁ・・・とか、朝陽がちょっと眩しいなぁ・・・とか、腰がそこはかとなく怠いなぁ・・・とか。そんなことを頭の隅っこで考えながら、リードはぼんやりと薄目を開けた。やっぱり、陽の光が、眩しい。

「んー・・・・ん?・・・んんん?」

腰の少し上、背中の中央のあたり。なんだか、くすぐったい。くすぐったくて、暖かい。そして、心地良い。また、眠りに落ちてしまいそうな、そんな感覚をリードは感じた。毛布はちゃんと掛けて寝たと思う。けれども、背中に感じるのは、毛布の感触ではなくって。・・・そう・・・そうだ。これは・・・。

「・・・・・・ホッチ?」

閨を共にした男の名前を呼ぶが、返事はない。けれども、背中に与えられる感覚が、次第に確実なものになってきた。

「・・・ねえ・・・ホッチ?」

ホッチは相変わらず答えずに、自分の唇をリードの背中に這わせていた。時々、舌先を出して、舐めたりする。

「・・・や・・・も・・・ホッチってば・・・」

身体を捩って逃れてみようとするが、一晩中、翻弄され、疲れ切ってしまったので、自分の意思とは裏腹に、動かすことができなかった。

「んー・・・んー・・・」

自分の背中に悪戯を仕掛けてくる、上司であり恋人なこの男は、きっとニヤニヤと笑っているのだろう。けれども、その笑みは決して自分を馬鹿にするものではなくて、きっと、この関係に満足している表情なのだと思う。・・・今は、見えないけれども。

そんなホッチの顔を見たいと思う。

「・・・ホッチ・・・顔・・・見せて・・・」

「・・・こちらを向けばいい」

やっと返事が返ってきた。けれども。

「・・・首・・・痛い・・・」

「そんな寝相だからだ」

くすりという笑い声が降ってきた。

「うー・・・」

声だけ聞こえて、顔が見えないのがもどかしい。そして、背中への悪戯は、まだ続いている。

「ダメ・・・なの」

「どうしてだ」

唇が背中に触れるか触れないかの距離で言葉を発せられると、暖かい吐息がかかる。リードは、ぶるりと体を震わせた。

「・・・だってね・・・欲しくなるでしょ・・・」

「駄目か」

「・・・ダメ・・・」

「俺は、楽しい」

「うーん・・・複雑・・・」

BAUでは威厳を保ち、厳つい表情を見せてばかりのホッチではあるが、リードと二人きりでいるときはとても柔らかく微笑む。・・・許されているからだ。全てを。この、IQ187の天才青年に。

ホッチは、持ち上げていた毛布を掘り投げ、その手で丸く柔らかなリードの尻をするりと撫でた。

「そんなに首が痛いのなら、揉みほぐしてやろう。・・・そうだな、風呂で温まってからがいいと思うぞ」

「・・・それ、いいね・・・連れてって?」

「ああ。いいとも」

ホッチは、金髪を梳いて、それからリードがベッドから起き上がるのを手伝ったのだった。

********************

バスタブの中で、リードが背中をホッチに預けるようにして座り、その大きな手で、ゆっくりと首を揉みほぐしてもらう。

「どうだ?」

「んー・・・気持ちいい・・・ふわぁ・・・ 天国ー」

「天国には昨夜いっぱい行っただろう」

「・・・それとは違うの」

リードは小さく頰を膨らませると、すっと顔をあげた。けれども、ホッチの顔は見えない。かろうじて、顎が少し見えるかな、という程度だ。そういえば、今朝はホッチの顔をきちんと見ていないような気がする。昨夜だって、薄明かりの中でしか、見ていない。仕事の時はいつも見ているけれども、プライベートでのホッチの顔はレアなところがある。リードがちょっと意識してしまって、ちゃんと顔を見れていない・・・という理由もある。

「・・・ホッチ・・・」

「どうした?」

優しい声が降ってくる。

「ねえ、ホッチの顔が見たいよ」

「いつも見てるだろうが」

「仕事の顔じゃなくて。・・・ねえ、僕、ホッチの体を洗ってあげる」

リードは腕を伸ばして、黄色のスポンジを手に取ると、泡風呂の泡を含ませる。そして、くるりと身体の向きを変えると、ホッチの身体に手をかけながら、バスタブの中で膝立ちになった。湯船から、綺麗な形の尻が現れる。ホッチはリードの腰に左手を当てて、身体を支えてやった。明るいバスルームの中で、ホッチの精悍な顔がリードの瞳に映る。けれども、表情はどこか優しげだ。事件を追うときのような厳しさはない。

「・・・お仕事の顔も好きだけど、こういう顔も好き」

「そんなに違っているか?」

「違う。・・・今のホッチは優しい顔してる。仕事の時は・・・真剣すぎる」

「今だって真剣だ」

「・・・何に?」

「リードに」

「・・・うう・・・そういうの、恥ずかしい・・・」

リードはホッチの左肩に右手をかけ、スポンジで右手を撫でる。恥ずかしてくて、ホッチからは軽く視線をそらす。まともに顔は見られない。

「リード」

「・・・何?」

か細い声で、答える。

「キスを」

ホッチからの要求に、拒否はできない。そもそも、拒否する気はない。けれども、光が明るい子のバスルームでは、恥ずかしさが先に立つ。リードは少し、ホッチに顔を近づける。ホッチの視線はずれることなく、確実にリードを絡め捉える。リードはジッと見え植えらているのだ。もちろん、この上なく優しい表情で。

リードはそろそろと自分の顔を近づけた。大好きがホッチの顔が視界に入り、それがどんどん大きくなる。とても柔らかくて、優しい表情。もう少し・・・。けれども、リードには限界だった。もう、まともホッチの顔を見ることができなかった。だから、目を瞑ってしまった。恥ずかしい。けれども、感覚で、距離は詰めた。

リードの唇がホッチに触れる。軽く当たる・・・と言った方がいいかもしれない。残念なことに、リードの唇は確実にホッチの唇を捉えることはできず、少しずれて、唇の端に自分を押し付けることになった。それでも嬉しい。ホッチに触れられることは嬉しくて、リードにとっては喜びだ。でも、このキスは失敗の50点かな・・・と思う。

リードはホッチに触れたまま、小さく口を開いて言った。

「・・・ごめんなさい。ずれちゃった」

「目を瞑るからだ」

怒った風でもない、優しい声。

「だって・・・こんな明るい場所で、こんな至近距離で、ホッチ顔・・・見れないよ」

ホッチはリードの顎を指先で取ると、自分が動き、正確なキスをリードに与える。そういうところは、やっぱり優しいな・・・とリードは幸せな気持ちになった。

********************

キスをすれば、どうしたって身体が昂まる。湯の熱さも相まって、身体が火照る。

「は・・・あ・・・」

「大丈夫か?熱いか?」

「ん・・・ちょっと・・・」

「冷たい水でも浴びるか・・・いや。身体がびっくりするか。緩い湯の方がいいな・・・」

「待って・・・」

リードはバスタブの中で立ち上がり、左手でシャワーヘッドをフックから外した。そして、またホッチの方へ戻る。すぐさま、右腕で腰を引き寄せられた。

「あ・・・」

リードは自分の右手をホッチに絡め取られた。

「ん・・・んぅ・・・」

右の乳首に与えられる、ヌメリとした感触。いつも、閨で与えられているのと同じだった。ホッチの舌の熱さを感じる。

「・・・ホッチ・・・」

乳首を舌で転がされたり、唇で吸われたり。明るいバスルームでやられると、本当に恥ずかしい。リードは熱気と羞恥で顔を赤くして、ホッチを見下ろした。表情はよく見えなかったが、きっと優しい表情をしていると思った。そして、このままバスルームで抱かれてもいいなぁ・・・とも。

「・・・ホッチ・・・大好き」

ホッチは返事の代わりに、リードの乳首を、強く吸い上げたのだった。

********************

「そんな寝相で、また首が痛くなるぞ」

ホッチはエアコンを最強にしながら言った。ぐったりとしたリードがベッドにうつ伏せになっている。起きた時と同じように、頭を横に向けて。

「んー・・・も、動きたくない・・・」

結局のところ、リードの心の願いは聞き届けられ、バスタブの中で抱かれた。その結果が、これだ。すっかりのぼせてしまい、身体が火照って、しかも怠い。けれども、心は満ち足りていて、幸せだった。

エアコンの設定を終えたホッチがリードの横に来る。

「どうせ、休みなんだ。ゆっくりするといい」

「ホッチは?」

「俺もここにいるから」

「やった」

そう言うと、リードは静かに目を閉じた。そんなリードの金髪を愛しそうに優しくホッチは撫でたのだった。

ある日の休日のそんな朝の風景。

END

Baby On Board

新たなミッションの為に再びトップガンの卒業生、トップ・オブ・ザ・トップたちが召集された。作戦指導者はピート”マーヴェリック”ミッチェル。伝説のアヴィエイター。彼はモニターを使いながら、ミッション完遂のために必要な訓練内容を説明していた。

が。

「あれ、人形じゃないよな」

「手が動いてるし、『あぶあぶ』言ってるからな、生物だ」

「だよな。人形の方がかえって怖いよな」

「しかし、片手で抱っこできるなんて、大佐の筋力もすげーけど、あの赤ん坊のバランス感覚もすげえよな」

「親子なら分かるし」

「んなわけねえだろ。いつ産んだんだよ。雄鶏知ってる?」

「知るか。こっちが聞きたい」

「伝説のアヴィエイターが産休を取ったらすぐに噂になるだろうが」

「大佐って産休はとっても育休は取らなさそう」

「言えてる。産んだ翌日には飛んでそうだよな」

「わかるー」

「ところで父親は誰だよ」

「そんな当たり前のこと聞くなよ。違う名前が出てきたら、不敬罪で首が飛ぶぞ」

「だよな。やっぱ海軍大将だろ。結婚してるんだし」

「強いなー、海軍大将」

「でも、高齢出産だよな。産める?」

「いや、年齢の問題じゃねえだろ」

「いやぁ、生命の神秘だよな」

「あ、わかった!大佐って実はΩだったんじゃない?」

「おいおい。そこで特殊BL設定を持ち出してくるんじゃねえよ」

「何それ」

「オメガバース。今度、詳しい薄い本を貸してあげる」

「いや、いい。何か違う扉を開けちまいそうだから」

「んじゃあ・・・処女受胎だ」

「なるほどなー。マーヴェリックのMはマリアのMか!」

「そう言えばさー、処女受胎の告知したのガブリエルじゃん?あるドラマでガブリエルを演じた役者がシンプソン中将にそっくりなんだよなー」

「え?何?シンプソン中将が大佐に『あなたは孕って男子を産むが、その子をイエスと名づけなさい』って言うのか」

「ちょっと待て。マーヴが処女だって思うか?結婚30年だぞ?」

「あーないわー」

「だろ。あそこレス夫婦じゃないし」

「じゃ、やっぱり大将の子じゃん」

「強いなー、海軍大将」

「でも、高齢出産だよな。産める?」

「いや、年齢の問題じゃねえだろ」

「いやぁ、生命の神秘だよな」

・・・以下、エンドレス。

つまり、若鷹たちに講義するマーヴェリックは左腕で赤ん坊を抱えているのである。

「と言うことで、今日はドッグファイトと行こう。でも僕はこの子がいるから今日は飛ばない。代わりに君たちの相手をしてくれる優秀なアヴィエイターを紹介しよう。1988年のトップガン首席だ。

「「「「ええっ?」」」」

若鷹たちが振り向くと、そこにはパイロットスーツに身を包んだボー”サイクロン”シンプソン中将が立っていたのだった。

「出た!ガブリエル!」

「ちげーしっ」

戸愚呂を巻く蛇とトルネードを背負った88年のトップが、不敵に笑うのを見て、若鷹たちは背筋を凍らせたのだった。

***

「どうだ。ドッグファイトは」

「あ、アイス。さすが、サイクロンはトップガン首席だねー。キルしまくってるよ。あ、抱っこする?」

「ああ」

マーヴェリックから赤子がアイスマンに渡される。それを器用にあやしながら抱く。

「あぶあぶ・・・あっぶー・・・ぶぶーきゃっきゃっ!」

「僕や君みたいに空が好きみたいだよ」

「そのようだな」

無線からは若鷹たちの声が聞こえる。

「やだー!キルするならサクッとして欲しい!!!!」

「げっ!背後取られた!!」

「そこからが長いぞ!」

「すんげーいたぶられている気分!!!」

「オメーそこどけろよ!」

「しゃあねえだろ!サイクロン機が被さってきてんだよっ!ぎゃー!!!」

その声をアイスマンとマーヴェリックはニコニコしながら聞いてる。

「楽しそうだねー」

「明日は私は赤ん坊を預かるから、マーヴェリックが飛ぶといい」

「大丈夫なのか?」

「さっき、執務室に赤ん坊スペースを作らせた」

「さすが、仕事が早い」

仲良し海軍夫婦は、とても幸せそうに赤子をあやしながら、空を見上げたのだった。

***

「で?マーヴ。お願い。説明して」

アイスマンとマーヴェリックの家。ソファに座ったルースターが半泣きになっている。反対側に座るのはアイスマンとマーヴェリック。赤ん坊はマーヴェリックが抱いている。

「ああ。この子はね、ペニーの友人の子だよ。本当はペニーが預かるはずだったんだけど、都合が悪くなっちゃって。でも友人は数日出かけなくちゃいけないしで。それで僕が預かることにしたんだ。ほら、赤ん坊の世話は、君で・・・ブラッドで慣れているからね」

そしてキラキラと何かよくわからない神々しい光を放って笑うマーヴェリック。あ、これは最早、聖母マリアの光背じゃんよ。とはいえ、赤子の出自がわかったので、とりあえず納得するルースター。

「しばらくはこの子を連れて基地に行くけど、明日はアイスが執務室で預かってくれるから、ドッグファイトは僕が飛ぶね」

「は?え?海軍大将が子守すんの?いいの?」

「別に問題はないぞ、ブラッド」

アイスマンがツラッとした表情でいう。その表情を見て、「’あー・・・絶対に権力を持たせちゃいけない人だったんじゃね?アイスおじさんって。大体、マーヴを飛ばせ続けるために海軍大将まで昇進するって・・・公私混同も甚だしいよ」と、心が遠い目になるルースターだった。

「マーヴェリック、サイクロンからテキストだ」

スマホを操作していたアイスマンが言った。

「何だって?お説教?」

「明日のドッグファイトも飛ぶそうだ」

「え!じゃあ、僕と一緒にルースターたちを特訓するってこと?」

「明日だけは、僚機の座をサイクロンに貸してやろう」

そんな二人の会話を聞いて、心の中でルースターは十字を切った。

END

Service in blue

何度経験しても慣れない。

マーヴェリックはそう思った。アイスマンと一緒に仕立てたサービスドレスブルーは、お仕着せのそれとは違い、着心地が良い。フルオーダーメイド故に、マーヴェリックの身体の動きを妨げることはない。だから、窮屈なのは軍服ではなく、環境なのだと分かる。こんなパーティーで楽しみなことはサービスドレスブルーを優雅に着こなす夫の姿を見るくらいだ。

瀟洒なゲストハウスで開かれているパーティーは政治家と将官、佐官クラスの軍人で溢れている。大佐であるマーヴェリックは当然参加して然るべきなのだが、アイスマンが昇進してからは、その妻という立ち位置も含めて出席している。互いにプラチナの結婚指輪を嵌めてはいるが、その意味を知らないものも存在している。そういった輩がマーヴェリックに対して不遜な態度を取らぬよう、牽制の意味も込めての出席だった。アイスマンの隣に立ち、話し相手に笑顔を送る。今日は先の特別ミッションの成功を祝う話が多かった。だから作り笑いだけと言うわけにもいかず、相手の質問に答えたり、賞賛の声を受けたりする。かれこれ2時間。笑顔を作りすぎて頬の筋肉が痛くなってきた。しかし、上官であり、夫であるアイスマンに恥をかかせるわけにはいかない。

「マーヴェリック」

「ん?」

話が途切れ、一瞬目の前から人がいなくなったところで、アイスマンのマーヴェリックの耳元に囁く。

「そろそろ離脱しろ。一人で、と言うわけにはいかないが」

「え?」

アイスマンが、近くにいた部下、サイクロンを指で呼び寄せた。常に周囲に注意を払っているサイクロンは、すぐに気づき馳せ参じる。

「サイクロン。申し訳ないが、妻は気分が優れないらしい。一緒にバルコニーへ行って風に当たらせてやってくれ。マーヴェリック、ここはもういいから休んでこい」

「ごめん、アイス。すぐに戻るよ」

「無理はしなくていい」

アイスマンがマーヴェリックの背を押せば、ドレスブルーに包まれた身体はふわりとサイクロンに近づく。

「一人で歩けますか?」

「大丈夫。そこまでじゃないんだ」

サイクロンはマーヴェリックをエスコートし、バルコニーまで移動する。途中、給仕にドリンクを伝える。自分で取りに行ってもよかったが、それではマーヴェリックを一人にすることになる。それは決して海軍大将の真意でないことは十分過ぎるほど分かっている。過去のNCISが絡んだ未遂事件のファイルを見れば、この佳人の名前が表記されるものが簡単に見つかる。記録に残らないものも含めれば、その数は何倍へと膨れ上がるだろう。おそらく、敬愛する上官は多くの心無い兵士を闇に葬っている。

サイクロンは給仕からグラスを受け取ると、石造りのフェンスから外を眺めているマーヴェリックに声をかけた。

「サングリアです。どうぞ」

「ああ、ありがとう」

微風がバルコニーを漂う。グラスを受け取ったマーヴェリックの笑顔が風とともに広がるように見えた。

「喉が渇いていたけど、強い酒はあまり飲みたくないし、かといってソフトドリンクだと場の雰囲気を壊すし。なるほど、サングリアならいいね。さすが、シンプソン中将」

「貴方は、こういった場が相当苦手そうだ」

「うん。苦手。っていうか、中将。どうして僕に対して丁寧な言葉遣いなんだい?」

マーヴェリックは小首を傾げて問う。

「閣下は『妻を頼む』と仰った。だから私は貴方を部下ではなく、カザンスキー夫人として扱うことが肝要かと」

「あははー。ごめん。気を遣わせて。でも、ここは公の場だから、僕はアイスと君の部下だよ。アイスの言ったことはあまりに気にしないで」

「そういうわけにはいきません」

「真面目だね、シンプソン中将」

「サイクロン、と。コールサインでかまいません。貴方はウォーロックのことをコールサインで呼ぶでしょう」

「ああ・・・うん。昔からの知り合いだし。でも、中将にはいっぱい迷惑をかけてるから、馴れ馴れしくするのは申し訳ないかなって」

「そうであれば、私も閣下の奥方に対して不遜な態度をとるわけにはいきません」

「そっか。・・・じゃあ、こうしようよ。僕は君のことをサイクロンって呼ぶから。だから君もアイスの言葉を気にして過度に僕を丁寧に扱うのやめてくれるかな?全然、アイスに対して不敬には当たらないよ。第一、君は今まで僕に対して散々だったじゃないか。今更、丁寧に扱われても・・・。あ、これは嫌味じゃないからね」

「・・・・・・」

サイクロンは無言の後、小さく吐いた。

「分かった」

「あ、分かってくれた?嬉しいな。・・・実は君とは話をしたいと思ってたんだ。アイスから優秀な後輩であり部下であるボー”サイクロン”シンプソンの話はよく聞いていたから。優秀なアヴィエイター。88年のトップ」

「貴方だって相当な人だ。昇進を望まない、現役のアヴィエイター。誰一人死なせることなく、生還した」

「あれはハングマンのおかげだよ。出撃命令だって、君が出したんだろう?ありがとう。君は命の恩人だよ」

「それ以外の選択肢など・・・」

「アイスに何か言われた?」

「いや。彼の方は全ての判断を私に委ねていたので」

「忖度した?」

「もし、忖度などしていたら、貴方を編隊長などしなかった」

「僕にとってはあり難い判断だった。・・・何ていうのかな。僕は上手に言語化することが苦手なんだ。言葉でミッションの成功を示すことができなかった。だから、見せるしかなかった」

「アイスマンは貴方のことを、理屈抜きの天才的な技術を持つアヴィエイターと称した。だから、トップガンでは2番目の地位に甘んじるしかなかった」

「僕は、それで良かったと思ってるよ。アイスがトップだから、後を継ぐ者が生まれる。僕じゃ駄目なんだ。アイスは言ってた。サイクロンは自分に似ているところがあるって。確かに、君の昇進スピードはアイスに似てる。・・・でも、そんな君のコールサインがサイクロンって、凄いな。今度、君と飛んでみたいよ。どんな飛び方をするか、楽しみだ」

「フライバイはしないが?」

「そこはやらないと!アイスだって、やった」

「貴方に煽られてだろう!」

「案外、ノリがいいんだ。アイツは」

「~~~~」

眉間を抑えるサイクロンを見ながら、マーヴェリックが明るく笑った。そしてサングリアに口を付ける。ワインが炭酸で割られているのは、サイクロンの気遣いだろうか。

「マーヴェリック」

「ああ、アイス。談笑は終わったのかい?」

「終わらせた。サイクロン、感謝する。何かやらかさなかったか?マーヴェリックは」

「陸上じゃ、やらかしようがないだろう、アイス。なあ、サイクロン」

「閣下。奥方は大変大人しかったですよ。私と飛びたいと言った以外は」

「ほぅ。それは見たいなものだな。二人でフライバイでもするといい。コーヒーを飲みながら見届けてやろう」

「アイスマン!やりませんよ!」

「あははー。言うと思ったー」

バルコニーで戯れる、海軍の伝説と呼ばれるサービスドレスブルーの3人の姿。海軍大将が佳人の腰に手を添える。

「サイクロン、我々はこれで辞する。後のことは、次期大将に任せるとしよう」

「わかりました」

「いいのか?アイス。途中で抜け出したりして」

「言っただろう。次期海軍大将に任せておけば大丈夫だ」

「ごめん。サイクロン。えっと・・・今度、3人で一緒に食事でもしないか?」

「ぜひ」

マーヴェリックの申し出に、サイクロンは素直に応じた。

***

「気分は?」

「ん?大丈夫だよ」

家に帰り着き、着替えの為に寝室に上がりながら、アイスマンがマーヴェリックを気遣う。

「アイスが途中で抜け出させてくれたし。ああ、サイクロンがくれたサングリアが美味しかった。あれ、いいな。今度からパーティーの時はあれにする」

「サイクロンとはうまくやっているようだな」

「んー・・・彼は色々と言いたいことがあるみたいだけど、僕がこんなだから仕方がない。でも、アイスの可愛い後輩だから、もう少しお利口さんにするよ」

「別に遠慮することはない。今でこそ海軍中将だが、あいつの飛び方はコールサインそのものだ」

「アイスがそう言うなら、ますます一緒に飛びたくなった」

「僚機の座は譲らないが?」

「もちろん、僕の僚機の座は永久指定席だ」

マーヴェリックの指先がアイスマンの首筋を辿った。眼と唇が月のように弓形になる。

「マーヴェリック?」

「ん。やっぱりアイスはかっこいいな。ドレスブルーを着てるから余計にかっこよさが増してる」

「お前のドレスブルーも大概だが?」

「着られてる感が半端ないんだ。せっかくアイス御用達の店で仕立ててもらったのにな。体型が変わったかなぁ」

マーヴェリックが自分のサービスドレスブルーの襟や肩の辺りを触る。そんなマーヴェリックの体をアイスマンがぐいっと引き寄せた。そのまま抱え上げてベッドに運び、やや乱暴に投げ落とす。マーヴェリックが身体を起こす前に、アイスマンが覆い被さった。乱暴にネクタイを解き、ジャケットとシャツのボタンを外す。1つ2つ飛んだかもしれない。その勢いでシャツガーターの留め金も外れる。噛み付くように口を塞ぐ。乱暴に口腔内を犯しながら、ジャケットとシャツを纏めて肩から外す。腕の途中で止まるがそれでいい。薄い唇をマーヴェリックの肌を軽く噛みながら移動させる。乳首は少し強めに喰んだ。

「ひっ・・・あ・・・」

マーヴェリックの身体が跳ねるのを確認しながら、見える肌を歯で犯す。自分に延ばされた両手を取り、一纏めにする。そして、マーヴェリックの身体の横に落ちたネクタイで戒めた。左手で腰を掬いながら、空いたてでベルト外す。左足だけ下着ごとスラックスを抜き取る。まだ立ち上がらない果実を握り込む。

「んっ・・・」

マーヴェリックが身体を捩った。アイスマンはマーヴェリックの首筋を顔を埋め、柔らかく薄い肉を喰みながら手を動かした。

「あ・・・あ・・・」

頭上から聞こえる愛する者の声。胸元で戒めた手が動く。やや乱暴に扱き、半ば強制的に勃ち上がらせる。先端の雫を指で確認できたところで、親指でグリグリと捏ね回した。

「はっ・・・あ・・・」

マーヴェリックの左足先がシーツを擦り動く。少し指が潤ったところで、アイスマンはその滑りを前を寛げただけのスラックスから取り出した自身に擦り付ける。組み敷いた身体の両足を割り開き、黒いシャツガーターの輪のすぐ側をきつく吸い上げた。そこから鼠蹊部へと唇を移動させる。赤い筋が1本、残る。その色に満足げな笑を浮かべると、アイスマンはマーヴェリックの身体を二つに折り畳んだ。そして、躊躇いもなく、一気に犯す。

「ぐっ・・・あ゛・・・ひっ・・・」

慣らしていないそこは狭く、キツい。それでもマーヴェリックがアイスマンを受け入れることができたのは、この30年間の結婚生活のおかげだ。否、付き合いも入れたら30年以上。それほどの時間をかけて、マーヴェリックの身体はアイスマンを受け入れる器になっている。前立腺の辺りを越え、その奥。仮の終着点。そこに先端を当てながら、腰を深く動かす。

「んっんっんっ・・・んくっ・・・はっ・・・はっ・・・」

喘ぎと呼吸音が最高のBGMになる。アイスマンはその耳に心地よい音を聞きながら、さらに腰を力任せに進めた。短い肉襞のトンネルを越え、収まりたいところへ収まる。

「あっ・・・あああーーーーあっ・・・」

マーヴェリックは首を仰け反らせ、嬌声のような悲鳴を寝室に渡らせる。それでも、アイスマンはその身体の動きを止めることはなかった。

***

どうにか呼吸を整えて、ゆっくりと目を開ける。視界にあまり着衣の乱れていない夫の姿が映る。指で眉間の辺りを押さえている。「やらかした」といった表情だ。アイスマンはジャケットのボタンを外し、スラックスの前を寛げているくらい。一方マーヴェリックの方はといえば、不合意に誰かに襲われましたか、といった着衣の乱れ具合だった。ジャケットとシャツは腕に引っかかり、スラックスは左脚だけ抜かれていて、靴は脱げているものの、靴下は履いたまま。右足は脛の辺りでスラックスが引っかかっていた。ネクタイは、マーヴェリックの両手首を戒めていた。

「悪い。何処か痛むところは?」

「んー・・・大丈夫。だけど、このネクタイは外してくれるか?」

「ああ・・・本当にすまない」

アイスマンがマーヴェリックの手首からネクタイを取り除き、身体を起こすのを手伝う。丁寧に確認するが、痣にはなっていないようだった。そんな手首にキスを落とす。

「これじゃ、まるでレイプだな」

「気持ち良かったけど?いつもより乱暴だったけど、それはアイスが僕を気持ちごと欲しかったからだろう?アイスは僕を大事にしすぎなんだよ」

マーヴェリックが幼子を抱くように、アイスマンの身体を頭を掻き抱く。アイスマンも腕をマーヴェリックの背中に回した。

「アイス、好きだよ。心配するな。僕は大丈夫」

アイスマンの髪を撫でる。アイスマンがまるで過保護のように自分を大事にし、無理をさせない理由は分かっている。30年以上も昔の話だ。二人が結婚する前の。心無い連中が自分を無理矢理凌辱したことがあった。頼るグースはすでになく、どうしていいか分からずにアイスマンのところへ行った。その日のことは正直あまり覚えていない。ただ、「初めてはアイスがよかったな」と思ったことは記憶にある。あの日から、ずっとアイスマンが自分を守ってくれた。時には盾になり、時には真綿になり。

自分が痛めつけらたことを、互いに話題にすることはなかったけれども、ベッドでの紳士的な態度は必要以上で、そのことからもアイスマンがマーヴェリックが傷つけらた日のことを頭の片隅に常に置いていることが伺える。

「久しぶりにお前のドレスブルーを見たから、ちょっとグッときた」

「んー、僕も」

乱れたアイスマンの前髪をマーヴェリックが後ろに撫で付ける。
「今度は、僕が上になろうか?それだったら合意だろ?僕もドレスブルーの君を襲ってみたい」

アイスマンが片眉を上げる。マーヴェリックは許諾の言葉を待つことなく、その体幹を生かして身体をアイスマンごと捻り、ベッドに沈み込ませた。邪魔なジャケットとシャツを脱いで床に放り投げる。

「夜はこれからって、ことで」

マーヴェリックはこの上なく、夫の身体を見下ろして笑ったのだった。

END

君は全てを許される

若い頃の妻は、それは奔放で。

自分と出会う前の交友関係は、なかなかのものだったらしい。もちろん、その時は、きちんと誠実なお付き合いをしていたらしく、ただ一人の人間と長く続かなかったらしく、不名誉にも「お盛ん」という噂が広まったらしい。だから、誠実な人間であるのだ。長く続かなった理由は、マーヴェリックが軍人だからなのだろう。洋上に出れば、数ヶ月以上、陸には帰ってこない。尚且つ、海軍の問題児なので、ミッション以外にも「飛ばされる」ことも多かったに違いない。実際、自分と結婚した後も、妻は上司によって戦地へと送られていた。結婚したとはいえ、まだ社会や政治、法律によって許されるものではなかったし、アイスマンもまだまだ権力が足りていなかった。

「なんか、いいな。こういうの」

マーヴェリックがボソッと言ったことがある。「何が?」と問えば、

「長い間、任務についててさ、それで戻ってきたら、ちゃんと僕を出迎えてくれる人がいるってこと。大体、荷物ごと消えてるから」

確かに。数ヶ月単位で放っておかれたら、恋人は次の相手を探すことが多いのかもしれない。アイスマンは、法が守ってくれる書類も結婚式もなかったが、プラチナの指輪を贈ることでマーヴェリックを繋ぎ止めた。戦闘機に乗る時は外すが、ドッグタグのチェーンに通していた。自分もそうした。いや、最初にプロポーズしたときは指輪もなかったのだ。だから、アイスマンに見合いの話が来た時、マーヴェリックは自ら問題を起こして、戦地に勝手に赴いた。アイスマンがそれを知った時には、マーヴェリックはすでに洋上にあり、慌てたアイスマンは、当時自分が持てるあらゆる力を使って、F14で追いかけたのだ。ベロア素材の小さな青い箱を持って。空母に着艦して、艦長への挨拶もそこそこに、マーヴェリックを探し、見つけたところで彼の部屋に連れ込んで、「は?え?なんで?どうして?アイスが?ここに?いんの?」という僚機を壁に押し付けて、二度目のプロポーズをしたのだ。指輪を渡すときは、ちゃんと片膝を床に着いた。狭い空母の無骨な部屋で、お互いにフライト・スーツ姿で。後にアイスマンは、花束とレストランを準備して三度目のプロポーズをしようとしたが、それはマーヴェリックに「いやもう、充分だから。流石に、F 14を飛ばしてくるプロポーズのインパクトが強すぎて、僕はもう処理しきれない。っていうか、見合いはいいのかよ」と断られた。見合いに関しては、「は?そんなもん知るか。俺は自分の実力だけで、上に行くからいいんだよ。誰が、女の力なんぞ借りるか」とアイスマンが啖呵を切った。実際、マーヴェリックの始末書を処理しながら、最速で昇進したのは、正に「愛」という名の執念だった。愛する僚機を飛ばせるために、アイスマンは上を目指した。飛ぶことが望みと言うのならば、自分はその道を整えてやるだけだ。

ちなみに「指輪を持ってF14でプロポーズしに行きます案件」の際、巻き添えを喰らったのは、アイスマンのRIOであるスライダーだったのは言うまでもない。後日、スライダーはマーヴェリックに混々と説教をした。

「あのな。氷の男の執着を甘く見るなよ?あいつの心の中は、お前の起動並みに激しいから。男を見た目で判断してはいけません。それと、あらゆるとばっちりは俺のところに来るから、マジで、アイスに関してはおとなしくてて。な?頼むから」

最後は説教ではなく、懇願だった。

***

愛を確かめ合うには色々と方法はある。付き合い始めや結婚当初は、身体を重ねることがその全てとでも言うよう、互いの熱を感じ合っていた。きっと軍人であるが故に、離れている時間が長かったことも原因の一つだった。けれども、時が過ぎて、任務もそれぞれの落ち着いてくれば、一緒にいる時間も長くなる。二人でソファに座って、酒を飲みながら映画を観るのもいいし、ベッドの上で身体を寄せ合いながら、違う本を読んで過ごすのも悪くなかった。時折、外に出かけて食事をしたり、あるいはドライブすることも楽しかった。キャロルが天に召され、アイスマンがブラッドリーの後見人となり三人で暮らしていた間は、家族のように休日を過ごしていた。今でこそ和解したが、マーヴェリックがキャロルの遺言を受けて、ブラッドリーにとっては無体なことをしてしまい、彼がカザンスキー家を離れた時は、相当マーヴェリックも落ち込んでいた。きっと、マーヴェリックなりの家族というものの幸福を味わっていたのだろう。アイスマンと二人っきりの生活になって、再び身体を重ねる機会が増えたかもしれなかった。それでも、なんとか心に折り合いをつけて、遠くからブラッドリーの成長を見守ることに慣れていった。そんな妻の姿を見て、アイスマンはほっとした時期があった。ブラッドリーは確かに可愛い。息子同然だった。けれども、妻の注意が彼ばかりに向くのは、心の何処かであまり楽しくはなかったのだ。随分とエゴイストだとは思うが、これは感情の問題なので、致し方なかった。それでも、表には出さずにできた。もちろん、スライダーにはバレていたのだが。

「ブラッドリー坊やに嫁を取られて面白くない、と?でもなぁ、息子みたいなもんだろ?つか、完全に息子だろう。え、もしかして、お前、実の息子がいたとして、そいつにも嫉妬すんの?」

そんなスライダーの言葉に、真っ当な返答ができなかったので、おそらくそういった仄暗い感情が自分にはあるのだろう。随分な独占欲だった。「籠の中に閉じ込めておきたい」と思ったことは、実は一度や二度ではない。永遠の翼を与えるために出世をしたのに、その翼を折って閉じ込めてしまいたいという衝動もあるのだ。この腕の中に。

「・・・アイス?」

身体の下で、妻が名前を呼ぶ。

「眉間に皺が寄ってる。仕事、忙しい?あのミッション以来、僕はサイクロンの下でできるだけおとなしくしてるんだけどな」

「いや・・・そういうことじゃない」

アイスマンは、マーヴェリックの唇を親指で撫でた。

「・・・アイス、起こして。アイスの膝の上に座りたい。そうしたら、抱きしめてくれるだろう?」

「ああ、そうだな」

アイスマンはマーヴェリックの背中に腕を差し入れて、ぐっと引き起こした。身体上昇する。

「あっ・・・んっ・・・くぅ・・・」

その動きで、胎内に与えられている刺激の場所が変わったらしい。感じいった声が漏れる。マーヴェリックは夫の背中に腕を回し、唇を近づけた。そして、強請る。

「揺すって?」

そのリクエストを無視する気など当然ない。下からゆっくりと突き上げてやる。

「ん・・・あ・・・いい・・・んあ・・・ぁ・・・ぁんっ・・・」

アイスマンの耳元で、あえかな声が響く。それだけで、脳が焼かれそうな気がする。ああ、多分。自分はこの30年間、ずっと。空を駆ける黒い狼を手中に収めたくて仕方がないのだ。きっと、この先も。

「はっ・・・あ・・・アイスっ・・・んっ・・・きもち・・・い・・・あ・・・イキそう・・・」

マーヴェリックの訴えに、穿つ楔を早くする。

「や・・・くる・・・んっ・・・アイ・・アイスも・・・イって・・・僕の中で・・・」

「ああ・・・っ」

自分にまとわりつく、熱い肉襞の収縮。持っていかれそうになる。アイスマンはマーヴェリックをきつく抱きしめた。びくんっと、小さな体に力が入り、そして弛緩する。と同時に、アイスマンの肉壁に中に放つ。声にならない呻き声が、二人の口唇から溢れる。それでも。満足げな笑みを浮かべて、妻がしどけなくシーツの上に落ちた。身体を離し、その黒髪を撫でてから、自分よりも幾分か小さな身体をタオルケットごと抱き上げる。テラスに面したカウチに運び、静かに横たわらせた。

「アイス・・・好きだよ」

「俺もだ」

妻の言葉に間髪入れずに応える。そして左手の薬指に光るプラチナに口付けた。

***

シーツを取り替えてベッドを整えたアイスマンがカウチに近づく。タオルケットに包まったマーヴェリックが気怠い視線を送る。

「ベッドを整えたから、休むぞ」

伸ばしたアイスマンの腕をマーヴェリックが掴み、引き寄せる。アイスマンもマーヴェリック同様、鍛えられた体幹の持ち主ではあったが、咄嗟のことでバランスを崩す。が、マーヴェリックの身体に倒れ込むことなく、カウチの背に手をついた。そんなアイスマンのガウンの襟をマーヴェリックがそっと掴んだ。

「アイス、まだできるよ?」

年齢を重ねて、若い頃の単純な可愛さではなく、随分と妖艶な雰囲気を醸し出すようになった妻の表情にアイスマンは眉を顰めた。嫌だからではない。抗えないからだ。

「お前に無理をさせたくないからな」

「無理?・・・だって、アイスはまだ僕の中に挿入ってないじゃないか」

「マーヴェリック、もう後ろで何回もイッただろうに」

「でも、アイスは、僕の身体の奥まで挿入ってない。僕の身体の奥の奥」

そう言って、マーヴェリックは自分の下腹を摩って見せる。

「っ・・・マーヴェリック・・・」

アイスマンは、小さく溜息をつくと、目を瞑った。そんなアイスマンをマーヴェリックが引き寄せる。アイスマンはカウチに膝をつき、マーヴェリックに覆い被さった。黒髪の美しい狼は、氷の名前を持つ夫の肩に顎をのせ、その耳元に囁く。

「それとも・・・もう、僕には魅力がなくなっちゃったかな?もう、僕の身体に飽きちゃった?・・・そっか、そうだよね。いい年齢だし・・・」

「おい。勝手に自己完結するな。俺がお前に飽きる?そんなわけがあるか」

嗜めるように言うと、アイスマンは妻の頬を両手で包み、口付ける。ベッドの上で散々吸われた口唇は既にぽってりと赤くなっている。アイスマンはその腫れた口唇を自分の口唇で挟み噛んだ。口唇の隙間からマーヴェリックの舌先が口腔内に遊びに来る。アイスマンはそれを迎え入れた。

「んっ・・・あん・・・う・・・ん・・・んん・・・」

鼻と口唇の隙間で互いに酸素を取り込む。角度を変えながら、キスを深める。互いの唾液が混ざり合って、誰のものか分からなくなる。アイスマンのガウンの襟を掴んでいたマーヴェリックの右手が、いつの間にか外れた。そっと夫の身体を這うように辿る。そして。

「ほら・・・やっぱり。アイス、まだできる・・・」

マーヴェリックの悪戯な指先が、ガウンの中のアイスマンの昂りを捉えた。

「・・・マーヴェリックっ・・・」

「アイス。・・・君は何をしたっていいんだ。君だけは、僕に何だってできるんだよ?」

口唇を触れ合わせたまま、マーヴェリックが囁く。

「・・・しかし・・・」

「無理じゃないよ?僕が欲しいんだ。本当に欲しいんだ。僕のずっと奥。君ので、埋めてほしいんだ。身体の奥で、君を感じたい」

「っ・・・」

アイスマンは一度きつく目を瞑り、そして大きく息を吐いた。

奔放だった妻は、いつからこれほどしっとりと濡れた瞳をするようになっただろうか。飛び方は相変わらずだが、二人っきりでいる時、特に閨での態度は男心を酷く擽る。煽られる。歯止めが効かなくなる。堕ちる。この妻である、美しい狼に。この30年間、ずっと堕ち続けている。

「マーヴェリック・・・本当にいいのか?」

「いいんだよ?・・・本当なら、いつだっていいんだけどね。でも君はいつも遠慮するから」

「それは・・・するだろうが・・・」

「そんな、20年も前のこと、もう気にしなくたっていいのに」

マーヴェリックがくすくすと笑う。20年前、この美丈夫な夫に抱き潰されたことがある。その結果、マーヴェリックは2日間、飛ぶことができなかった。そのことを気にしているのだ。この海軍大将は。

「明日は休みだから。ああ、ブラッドが遊びに来るけど、昼くらいだろう。大丈夫だよ。だから・・・アイス・・・」

マーヴェリックがタオルケットを肩から落とし、膝を軽く開いた。

「来て・・・アイス」

広げられた両腕。アイスマンは観念して、その腕の中に身体を入れ込んだ。妻の膝裏を持ち、さらに大きく割り広げる。切先を後孔に宛てがうと、ベッドで散々アイスマンを咥え込んでいたそこはまだぬかるんでいる。腰を押し進めれば、すんなりと迎え入れられる。あっという間に、仮の終着点に辿り着く。アイスマンはそこで、マーヴェリックの身体を揺らしてやった。

「ああっ・・・あ・・・はっ・・・あ・・・」

顎を上げ、身体の中に与えられる快楽に意識を飛ばす。

「くっ・・・う・・・」

何度、挿入っても、飽きることのない胎内。包まれ、締め付けられる。愛される。

「・・・もっと・・・奥ぅ・・・」

アイスマンは軽く奥を突いた。ヒクヒクと靡肉の輪が動いている。もう一突きすれば、妻が求めるものを与えらるのだろうが、氷の男は躊躇った。

「アイスぅ?」

マーヴェリックが焦れた声を出す。

アイスマンが指の背でマーヴェリックの頬を撫でる。「本当にいいのか?」と目で問う。そんな夫に妻は口角を上げて微笑んだ。

「アイス。君は僕の夫なんだから。もっと、自分本位に僕を抱いたっていいんだよ?」

「DVやモラハラをする気はない」

「真面目・・・だよね。僕の旦那様は。でも、そろそろ焦らすのはやめてくれないかな?」

言いながら、マーヴェリックはアイスマンの身体を引き寄せた。夫は観念し、妻の腰に腕を回す。そして、今までノックしていた箇所に己自身を突き入れる。

「あっ・・・くっ・・・」

関門を越え、アイスマンの先端が飲み込まれた。

「はっ・・・いっ・・・いいっ・・・挿入ってる・・・ここ・・・まで・・・」

マーヴェリックが手のひらで、アイスマンが埋まっているところを撫で摩る。そうすると、より奥まで埋まり込んでくる。マーヴェリックはきゅうきゅうと締め付けた。

「っ・・・マーヴェリック、スキンを付けてない」

「ん、いい・・・そのまま、中に出して。中に・・・君の、熱いの、欲しい」

感じ入った表情で、マーヴェリックがアイスマンに縋り付く。

「もし、僕が女でもっと若かったら、君の子を孕んでいたね」

その言葉がスイッチだった。アイスマンは理性を捨てて、自分を包み込む心地よい場所を、抉り、犯し続けた。

***

スッと、アイスマンの意識が覚醒する。カーテンの隙間から差し込む光で朝と分かる。自分の身体に擦り寄っている妻を見れば、まだ深い眠りの中にいるようである。表情に苦痛はなく、穏やかだった。指先で、額にかかる短い黒髪を整えても身じろぎ一つない。

「無理をさせたか・・・」

アイスマンは小さく溜息をついた。マーヴェリックが望んだこととはいえ、良心が痛む。初めてマーヴェリックを抱いた時から、30年以上、絶対に彼に対して無理強いはしないことをアイスマンは決めていた。マーヴェリックに言ったことはないけれども。遠い昔のあの夜。着乱れて、ボロボロになったマーヴェリックが、その姿をアイスマンの前に表した時、怒りが湧いた。自分の僚機に陵辱を働いた者たちに対して。当然、スライダーを始めとした仲間たちと共に、マーヴェリックを貶めた輩たちのことは社会的に消した。しかし、彼の心の支えとなるグースは既に存在しておらず、代わりに仲間たちとマーヴェリックを陰ながら守った。アイスマンが一人で行動しなかったのは、マーヴェリックを安心させるためだった。自分が彼に対して欲を持っていることを知られるわけにはいなかった。怯えさせたくなかった。「愛している」という思いを、一生、自分の中に閉じ込めておいてもいいとさえ思った。

それなのに。

空を駆ける黒い狼は、自分の手を取ってくれた。自分に幸福を与えてくれた。妻になることすら許諾してくれのだ。

アイスマンは深く眠る妻の頬に口唇を落とした。感謝の意を込めて。

起きる気配のないマーヴェリックをそのままに、アイスマンはベッドサイドから眼鏡を取った。ベッドを降りるとタオルケットをマーヴェリックの肩まで掛けてやる。時計を見れば、結構な遅い朝だ。今日はルースターが来る。アイスマンはバスルームへと姿を消した。

***

「おはよう!っていうか、こんにちは、かな。アイスおじさん」

「よく、来たな。ブラッドリー」

「マーヴは?」

「まだ寝ている。いや、そろそろ起きてくるとは思うが」

玄関ポーチからリビングのソファまで。そんな会話をしながら移動する。

「コーヒーでいいか?」

「あ、俺が淹れるよ、アイスおじさん。ずっと運転してたから、座る以外の姿勢を取りたい」

「じゃあ、頼む」

ルースターがキッチンに行き、アイスマンはソファに身を落ち着けた。時々使うので、何処に何があるかは分かっている。というよりも、マーヴェリックのキッチンの使い方は母親のキャロルと似ている。父親が亡くなった後、マーヴェリックが母と一緒によくキッチンに立っていたのを覚えている。母親が亡くなってからは、マーヴェリックが一人で立っていた。

「ああ・・・」

ルースターの頭の中で、カチンっとピースが嵌まる。そう。マーヴェリックがキッチンにいて、その時、自分はアイスマンと一緒にリビングにいた。それが何処か日常の光景だった。幼かった頃、自分の両親はアイスマンとマーヴェリックだと思っていたこともあったくらいだ。

「ブラッドリー!」

「マーヴ!」

2階から降りてきたマーヴェリックがルースターの姿を認め、パタパタと駆け寄る。相変わらずの美人さんである。というか、あれ?とルールターはマーヴェリックを観察する。なんか、ぽわぽわしてないか?にこにこと浮かべる笑みが、3割り増しで艶めいてないか?シャツの襟元から見えるの、その鬱血痕って俗にいうキスマークですよね?さらに言わせていただければ、いっつもTシャツなのに、何で今日は違うの?しかもサイズが合ってなくて、絶対にそのストライプのシャツ、アイスおじさんのだろ。

「ん?どうした?ブラッドリー」

こてんっと首を傾げるマーヴェリックの仕草はかなりの破壊力がある。これ、クローゼットにしまっといた方がいいんじゃない?アイスおじさん。マーヴェリックの向こうのアイスマンを見れば、どうやら新聞の陰で笑っているらしい。

「あー・・・マーヴ。こういうのはちゃんと隠しておこうね。マーヴとアイスおじさんが相変わらずとっても仲良しなのが分かって嬉しいけど」

そう言って、ルースターはマーヴェリックのシャツの釦を2つ留める。

「!」

咄嗟にマーヴェリックが首に手を当てる。相当、遅いけれども。

「・・・ごめん。ブラッド」

「いいのいいの。父さんと母さんが仲良しなのは、息子としてはとっても嬉しい」

「ブラッドぉー♡」

マーヴェリックが嬉しそうに笑って、ルースターにハグをする。

「あーはいはい。コーヒー飲もうね、マーヴ」

その日の午後は、ルースターの隣に座って、始終にこにこと幸せそうに笑うマーヴェリックの姿が見られたのである。

***

マーヴェリックとルースターとで作った夕食を楽しんだ後、ルースターは用意された2階の自室に入った。この家を買ったとき、マーヴェリックがアイスマンに頼んだらしい。ルースターの部屋を用意したい、と。自分とは絶縁状態であったにも関わらず。マーヴェリックとの関係が改善してから、少しずつ、この部屋にルースターの私物が増えた。父親と母親が天国に行き、ひとりぼっちになったルースターを育ててくれたのが、マーヴェリックとアイスマンだった。願書の件でマーヴェリックと一方的に袂を分つことになっても、アイスマンは自分を後見してくれた。そしてまあ、いつの間にか結婚していたわけだけれども。

「いやー。あの顔面偏差値が異常に高い二人に育てられて、俺ってよくもまあ性癖が歪まなかったよなー。それにしても、結婚30年であれだもんなー。ラブいっつうの。すげーわ。目のやり場に困るわー。親父たち越されてんぞー。聞いてる?親父ー。Talk to me 親父ー。あ、そうだ」

ルースターは徐にポケットからスマホを取り出した。そしてアドレスをタップする。コール音3回で相手が出る。

「あー・・・っと。中将?俺です、ブラッドショーです。今、マーヴの家に来てて。んっと、明日、中将と会うことはできますか?」

『明日はオフだから、家にいる』

「じゃあ、行っても?」

『構わない』

「えっと、時間は・・・」

『決めなくていい。どうせ、マーヴェリックから解放される時間などわからないだろう』

「ご明察です。子離れができない母親なので」

『適当に来ればいい』

「そうさせていただきます。それじゃ、失礼します」

ルースターはタップして通話を切ると、スマホをベッドの上に放り投げた。

END

親愛ラプソディ

「ジェイク。ジェイクジェイクジェイク。ジェイク~」

コヨーテによる面接と試験を乗り越えて、ハングマンをジェイク呼びする許可を得るなり、ルースターは少々、五月蝿い男になった。名前を呼ばれているハングマンは適当に聞き流している。なので、「ジェイク」という名前だけが、宙に霧散する。とはいえ、基地や仕事中にジェイク呼びをすると、氷の視線で睨めつけられるので、今のところ二人っきりの時やコヨーテが一緒の時にしか、ジェイク呼びはしていない。

「なあ、ジェイク。今度の休み、一緒にマーヴェリックのところに行かないか?」

「・・・モハーヴェか?」

以前したBBQの話を思い出して聞き返す。

「あ、いや。そっちの方じゃなくて。あ、もちろん、BBQもみんなとやりたいんだけどさ。えっと・・・正確に言うと、アイスおじさんとマーヴェリックの家」

「・・・どうして?」

「う・・・その・・・えーと・・・」

グリズリーのようなデカい男が言い淀んでいる姿が面白い。

「まあ、いい。行けばいいんだろ」

そう返事をすると、ルースターの顔がパァッと明るくなる。単純な奴だな、と思いながら「で?手土産は何がいいんだ?」と言ってやった。

「いや!ジェイクそのものが手土産だから!」

と、訳のわからないことを言いながら、ルースターは子どものように喜んだ。

***

結局のところ。二人の休みが一致したのは、それから二週間後のことだった。その二週間の間にも変化はあって、ルースターが自分の官舎に帰る回数が減り、彼の私物がハングマンの部屋の次第に増えて行ったこと。それと、同じベッドで眠るようになったことだった。と言っても、ルースターは今のところ、ハングマンに手を出していない。キスすらしていない状況である。思うに、ハングマンの過去のことがあるからだろう。

アイスマンとマーヴェリックの家に行く日は、晴れていた。

「あー・・・、こんなにいい天気なら、アイスおじさんの家でなくて、何処かビーチとか行きたいよなぁ」

とルースターが言うのを聞いて、

「その言葉、そのまま大佐に伝えるぞ」

とハングマンは言った’。すると、ルースターは慌てて「ごめん!やめて!内緒にして!」と焦っていた。よほど、それを言うと、マーヴェリックと面倒なことになるらしい。

「別に。一日中、大佐の家にいるわけじゃないだろうから、午後からはどこかに行けるだろ」

「え!?いいのか!?えー、何処に行こう」

嬉しそうに検索し始めようしたので、ハングマンはスマホを取り上げた。

「いいから。まずは、行くぞ。俺の気が変わらないうちに」

「え、気が変わる?いや、行こう。まずは、アイスおじさんの家に行こうっ」

ルースターはハングマンの手を引くと、空色のブロンコのドアを開けた。

「乗って」

「言われなくても」

本当は、この二週間の間で、ハングマンの気は変わりそうだった。正直にいえば、コヨーテに相談した。行くのは、あまり乗り気ではない、と。そうしたらコヨーテは「怖いんだね」と言って、ハングマンの短いブロンドを撫でてくれた。親友の言葉を聞いて「そうか。自分は怖いのか」と自覚した。一体、何に?自分の存在?負い目?よくはわからないが、「怖い」ということは自覚した。そんなハングマンにコヨーテは「カザンスキー大将も、教官も、ジェイクの良き理解者だと思うよ?ここは、親友を信じてみなよ」。その言葉がなかったら、きっとハングマンは、この休みの日に急遽仕事を入れていたかもしれない。ウォーロックに頼み込んで。

空色のブロンコは、もう走り出している。戻ることはできない。

ハングマンは、流れる外の景色を見ながら、自分が作らなければならない表情のことを考えた。

***

「おかえり!ブラッドリー!」

「ただいま、マーブ。昨日も、基地で会ってるけど」

「仕事とプライベートは違うだろう?やあ、ハングマン!いらっしゃい。待ってたよ」

とびきりの「例の顔」で迎え入れられる。

「お邪魔します」

「ジェイク、遠慮しないで。入って」

「ジェイク?」

マーヴェリックが、耳ざとくキャッチアップする。

「そうか。そうだよな。ねぇ、ハングマン。僕も君のことを「ジェイク」って呼んでいいかな?いいよね!よかった。ほら、入って。アイスも待ってる」

自己完結するのが大佐のナチュラルスタンダートなんだな、とハングマンは思いつつ、否定はしなかった。リビングでは、ラフな服装の海軍大将がコーヒーを淹れていた。

「先日は会ってくれてありがとう」

「いえ。こちらこそ、美味しい酒をご馳走になりました」

「座るといい」

「失礼します」

ルースターにとっては「アイスおじさん」だが、ハングマンにしてみれば、「海軍大将」である。最低限の礼儀は弁える。それを「崩すように」と無理強いしないところがありがたかった。皆が、ソファセットに座る。ハングマンは、視線だけで、さっ三人を見渡した。絵に描いたような、幸せな家族。確かに、ルースターとマーヴェリックの間には、深い溝があったのだろうが、きっとそれはほぼ解消されたのだろう。

「えーっと、それでね。アイスおじさん、マーヴェリック。前にも言ったんだけど・・・」

ルースターが話し出したのを、マーヴェリックが遮った。悪気はなく、言いたくて仕方がなかっただけだろう。

「それにしても、ジェイクがブラッドリーと付き合うなんて、本当に喜ばしいと思うよ」

マーヴェリックが嬉しそうに言う。

「付き合っていませんよ」

ハングマンは爽やかに答えた。最高の笑顔を伴って。

「え?」

困惑の表情を浮かべるマーヴェリック。

「ルースターに付き合ってほしいと言われたことはありません」

「あ・・・(汗)」←付き合っているつもりでいた。

ハングマンの言葉に、詰まるルースター。

「そもそも、彼に好きだと言われたこともありませんし」

「・・・あ・・・(滝汗)」←好きだと伝えたつもりになってた。

ハングマンは優雅な手つきでコーヒーカップを持ち上げると、薄い口唇を陶器に付けた。

「・・・ブラッドリー・ブラッドショー大尉っ!!!」

マーヴェリックの鋭い声がリビングに響く。

「Yes,Sir!」

上官モード全開で名前を呼ばれて、ルースターは思わずソファから立ち上がり、直立不動の姿勢を取る。

「どうやら君には教育的指導が必要のようだ。来なさいっ!」

「Yes,Sir!」

「アイス、ジェイクを頼む。ジェイク、ちょっとこのバカ息子を指導してくるから、ゆっくりとお茶しててね。ブラッドショー大尉、こちらへ」

前半はとても慈愛に満ちているが、後半は厳しい口調だった。ハングマンの目の前の海軍大将は肩を震わせて笑っている。

「すみません。大佐に誤解を与えていたようですが、事実なので」

「いや・・・いい・・・いいんだ」

可笑しみが止まらないらしい。手で口を押さえて、笑っている。

「けれども、どうなのかな?あの子が君に、きちんと伝えたら、君は受け入れてくれるんだろうか。ジェイク」

いつの間にか、海軍大将にまでファースト・ネーム呼びされるのか。展開が早いな、この家族は。などと思いながら、ハングマンは小さく首を傾げた。

「・・・・・・自分に拒否権がありますか?」

「どういうことかな?」

「俺がΩだということを、大将も大佐も失念していませんか?」

「ああ・・・それは、関係ないな。面白い昔話を聞かせてやろう。昔、私がマーヴェリックにプロポーズしたら、あいつはどうしたと思う?」

「・・・さあ」

わからないので、そう答えるしかない。

「あいつは逃げんたんだ。しかも普通の逃げ方じゃない。わざと問題を起こして、海外の戦地に飛ばされるようにして私から逃げた。だから、Ωだからと言って、αに縛られる必要はないんだよ」

「・・・マーヴェリックらしい話ですね」

「君にはブラッドリーを拒否する権利がある。けれども、拒否されてもブラッドリーはしつこく君を追うだろう。あの子は、F14でマーヴェリックを迎えに行った私の姿を見ているからね」

「は?」

「逃げられたら、追うしかないだろう?諦めたくない相手だったら。だから、私は指輪を持ってF14を飛ばして、マーヴェリックのところへ行った。待つのは苦手な性分なんだ」

すごいな、この夫婦。軍法会議もののことをやったんだ、若い時に。スケールがバカデカ過ぎて、理解に苦しむ。ああ、でも、だから海軍のビッグカップルなのか。でもやってることは、バカップルだな。などと、失礼なことを考える。

「・・・拒否したら、ルースターは・・・」

「ストーカーという犯罪者にならないように見張っておくよ、と言いたいところだが、できれば君に受け入れてもらえると嬉しいね」

「・・・受け入れていないわけではないので。さっきは、少々意地の悪いことを言いました」

「いや。きちんと言葉にしないブラッドリーが悪い。けれども、今の君の言葉を聞いて本当に嬉しく思うよ」

そう言われても、この幸せそうな家族の中に自分が入るは憚られる。ハングマンは、一息ついて、アイスマンをしっかりと見た。

「ルースターは言わなかったそうですが・・・自分は昔、子ども流しています。暴力を受けて妊娠して、暴力を受けて流産しました」

何の感情も込めずに、ハングマンは海軍大将に打ち明けた。目の前のアイスマンは動揺することもなく、ハングマンを優しく見つめる。

「・・・私が、空を降りて、海軍大将にまで登り詰めたのには理由がある」

「マーヴェリックですね?」

「マーヴェリックだけじゃない。君のような優秀な人間が、第二の性ゆえに、その力や翼を折られるのが我慢ならないからだ。もちろん、女性の地位向上のためもある」

ハングマンはフェニックスやヘイローの顔を思い浮かべた。彼女たちは、生き生きと空を駆ける。けれども、きっとマーヴェリックたちが若い頃は、そうではなかったのだろう。

「それと・・・差し出がましかったかもれないが、過去に君を傷つけた輩は、すでに排除した。もはや軍籍ではないし、社会的にも行く途は閉ざした」

アイスマンは、先ほどまでの温かな笑みを消し、絶対零度の酷く冷えた乾いた笑みを目に浮かべた。ハングマンの背筋がゾクリとする。敵に回してはいけない存在。

「・・・お手数をおかけしました」

「それが、私の仕事だ」

おそらく。海軍大将は義理の息子の話の断片から、ハングマンの過去のことを調べ上げたのだろう。当時の配属、ハングマンが行った病院。いくらでも調べることは可能だ。海軍大将であれば。サイクロンやウォーロックも動いたかのかもしれない。

「あの・・・大佐は知っていますか?」

「いや。君の許可なく話すことはしない。それが妻であっても。」

「でしたら・・・大将から話してくださって。構いません。・・・この先、ルースターとの関係がどうなるかは、正直わかりませんが・・・もし、番ったとしても、子を孕める身体かどうかはわかりません。・・・大佐は、子どもが好きそうなので。言っておかないと、がっかりさせるかもしれません」

「・・・伝えておこう。しかし、マーヴェリックは、ただただ、息子の好きな君の存在を大事にすると思うがね」

ハングマンは返事をせず、ただ小さく笑った。

バタバタと、人が階段を降りてくる音がする。どうやら、マーヴェリックによる教育的指導が終わったらしい。

「ほら!ブラッドリー!ケジメはちゃんとつけなさい!」

「はいっ!」

マーヴェリックに背中を押されて、ルースターがハングマンに近づく。そして、床に膝をついた。

「えっと・・・ごめんっ!!!俺、ちょっと浮かれてて、色々と順番が逆になった!・・・ジェイク・・・今更なんだけど、すっごく好きなんだ。だから、俺と付き合ってくださいっ!!!」

義理の親の前で公開告白を強要される雄鶏が可愛くて、そして少し可哀想になる。だから、ハングマンは答えた。

「ああ。いいよ」

その姿を、アイスマンとマーヴェリックが、微笑ましく眺めていた。

***

「あーっ!!!最悪っ!」

「・・・親の前で公開告白したことか?」

「違うっ!!!それはそれで嬉しかった!!最悪なのは、俺!!!・・・俺さ、本当に言ったつもりになってたんだ。ジェイクのことがずっと好きだったし、ジェイクは俺のためにご飯作ってくれるし、家に泊まってもO Kだし・・・。それが・・・伝えていなかったなんて・・・。マーヴに殴られても仕方がない」

「殴られたのか?」

「いや。それはないんだけど。ただ・・・俺のガキの頃の有る事無い事を基地の連中に言いふらすって脅された」

「は?」

それが脅しになるんですか、大佐。あなたは子どもですか。大人気ない。

上官の精神年齢を疑いながら、ハングマンは運転席の雄鶏を見やった。けれども、あの人らしいな、とは思う。ハングマンはさっきのことを思い出した。

「昼食を一緒に」とマーヴェリックが言い、キッチンへ行ったので、ハングマンは「手伝います」と一緒にキッチンに立ったのだ。

二人で昼食を作りながら、

「僕のことをお母さんて呼んでくれてもいいじゃないかっ」

「呼びませんよ。呼ぶわけないじゃないですか。あーっ!大佐!油を入れすぎです!」

「せめて、マーヴって呼んでくれても!」

「いいから!フライパンを見てください!火が!!早く、食材を入れてください!」

というやりとりを行った後、結局ハングマンが作ることになった。キッチンでテキパキと動くハングマンの背中を見て、

「なんて、いい子がブラッドのお嫁さんになってくれたんだ」

と泣きそうになっているので、思わず「まだ、嫁じゃないです!」と否定した。その後、ものすごく悲しい顔をされたので、失敗したなとは思ったが、アイスマンが「マーヴェリック、少し落ち着きなさい」と間に入ってっくれて助かった。

空のレジェンドも、ポンコツなところはあるんだな、と失礼なことを思った。

それでも、「いい家族なんだよな、きっと」とも思う。

ルースターがブロンコを路肩に停めた。シートベルトを外して、ハングマンの方に身体を向ける。そして、そっとハングマンの腕に触れる。

「なぁ、キスしていい?」

「・・・そうだな。コヨーテがいいって言ったら、いいぞ」

「え?それもコヨーテの許可制なのか!?ちょっと待って!電話する!」

ルースターが尻のポケットからスマホを取り出してタップする。

ああ、前にも見たな、この光景。

ハングマンは、小さく笑いながら、ルースターとコヨーテのやりとりを聞いていた。動かない、車窓からの景色を眺めながら。

END

グラスの中の琥珀色

フェニックス曰く。

「いつからバッグマンのひよこになったのよ、雄鶏は」

そんな風に評されるほど、ルースターはハングマンに付き纏っていた。側から見れば。しかし、当の本人は思いっきり「ハングマンを守っている」つもりである。そんなルースターの行動を理解できているのはコヨーテぐらいだった。纏わりつかれているハングマンといえば、興味なさそうに「放置」している。いてもいなくても、どうでもいい。正直、先日のルースターによる「守るから」発言が、このような行動に繋がっていることがわかっていなかった。別に守って欲しいとか、理解して欲しいとか、そんなことはどうでもよく、淡々と過去を教えただけに過ぎない。あの話は、他にはコヨーテしか知らない。コヨーテは口が固かったし、今となっては、何故自分がルースターに話したのか。その理由もわからなかった。

「げっ」

ルースターがスマホを見て声を上げる。興味はなかったが、ハングマンも立ち止まって、ルースターを見る。

「・・・ごめん。ハングマン。今夜はお前の家に行けない・・・。マーヴから呼び出しがかかった」

「別に。家に来る約束はしてないだろ。今日に限らず」

「いや、まあ・・・そうなんだけど・・・」

飲みに行く以外は、ほぼ毎日ハングマンの家での夕食が習慣化されつつあった。

「前にも言ったような気がするが、せっかく和解したんだ。もっと会えばいい。むしろ、優先するのはそっちじゃないのか?」

「う・・・・・・」

正論を言われて、返す言葉がない。

「じゃあな」

「ハングマン~」

そんな二人のやり取りを見て、ボブが言った。

「何だか、ルースターの一方通行なのかなぁ。でも、ハングマンも嫌だったら、もっとはっきり突っぱねると思うんだよね。うん」

その言葉に周囲の仲間たちも「うんうん」と頷いている。頷かなかったのは、コヨーテだけだった。彼だけは、親友の微細な本人も気づいていない、微細な心の変化を感じ取っていた。

***

フライトスーツからサービス・カーキに着替え、提出する書類を持って上官の執務室に向かう。ノックをして入室すると、サイクロンとウォーロックがいた。いつもの景色である。

「そうか。今日は君が書類を持参する当番だったか。それは、ちょうど良かった」

ウォーロックに言われて、微かに疑問の眼差しを向ける。しかし、答えたのはサイクロンだった。

「セレシン大尉。今日は定時で上がり、この場所へ行ってくれ」

一枚のメモが渡される。受け取った紙片を見れば、ホテルの名前と住所、そして時刻が書かれていた。

「そのホテルの最上階にあるラウンジで、カザンスキー大将がお待ちになっている。プライベートなので、軍服で行かないように。ドレスコードだが・・・」

「そこは会員制のラウンジですね。わかりました。カザンスキー大将に恥をかかせない服装で行けば良い・・・ということですね」

「察しがいいな」

「悪い話じゃない。心配するな」

ウォーロックが、優しい声で後を続けた。

***

悪い話じゃない。

これは、この場合、信用できないだろう。自分は仕事でミスはしていないし、面倒なことも起こしていない。そもそも、ホテルのラウンジで会うのならば、仕事は関係ないだろう。そうなると、考えられるのは、ルースターの存在しかない。

「別に、俺から近づいたわけじゃないんだが・・・」

それが事実だが、きっとそのようには受け取られなかったのだろう。ルースターは、あのトム”アイスマン”カザンスキー大将の義理の息子のような存在だ。海軍においての絶対権力をもつ優秀なαの息子。側にいるのは、一点の曇りもない、優秀な人間であるのが好ましいのだろう。

「失敗した。関わりらせすぎた」

今更言ったところで仕方がないが、離れるには、ちょうど良いタイミングだったかもしれない。自分から近づかなかったにせよ、寄ってくるのを冷たく拒絶しなかった自分も悪い。つい「面倒臭い」という思考が出てしまった。そのことは、今後の反省に生かすとする。

少し光沢のあるライトグレーのスーツに黒のハイネックを合わせたハングマンは、指定された時刻通りに、ホテルの最上階に着いた。ラウンジの入り口で、名乗ろうとしたが、すぐに中へ通された。

「お連れ様がお見えです」

他と隔絶されたボックス席で、海軍大将が長い足を組んで座っていた。テーブルの上には、琥珀色の液体の入ったカットグラスが置かれている。

「お待たせしてしまい、申し訳ありません」

「いや。時間通りだ。早くもなく、遅くもなく。ちょうどいい」

手で向いの席を示されたので、「失礼します」と言って座った。

「私と同じものでいいかな?それとも、決めた酒があるかな?」

「いえ。同じもので」

アイスマンが視線を黒服に送る。それから、すぐに同じ琥珀色の液体がグラスに入って提供された。

「救世主に」

そう言って、アイスマンはグラスを軽く掲げた。咄嗟に、ハングマンもグラスを持ったが、思わず指先に力が入った。

「言っても無理かもしれないが、そう緊張しないでくれ。私は今、海軍大将の肩書は置いてきているんだ」

そう言って微笑むアイスマンを見て、「やっぱりな」とハングマンは思った。けれども、次にアイスマンの口から溢れたのは、思いがけない言葉だった。

「ジェイク”ハングマン”セレシン大尉。私の妻と息子の生命を救ってくれてありがとう。心から感謝する。本当はもっと早くに礼を言いたかったが、こんなにも遅くなってしまった。許してくれ」

目の前の美丈夫の妻といえば、マーヴェリックだし、息子はルースターだ。確かに、自分はあの二人を窮地から救ったが、アイスマンに礼を言われるとは思わなかった。

「・・・いえ。当然のことをしたまでです。それに、本当にギリギリでした」

「それは仕方がない。サイクロンの立場では、すぐには君に発艦命令は出せなかった。もっと早くに決断すべきだったと、彼は言っている。それでも、即座に状況を判断し、敵機を撃墜したのは、さすが腕が良いとしか言いようがない。ああ、ちゃんと戦績データと報告書を読んだ上で言っている。本当に君には感謝しかない」

「・・・・・・」

どう答えていいか分からずに、ハングマンは黙ってグラスを両手で持つしかなかった。それでも、考えて、ようやく口を開く。

「・・・敵地からF14で戻ってきたのは、教官とルースターです。それがなければ、自分はどうしようもなかった。だから、あの二人は、自分たちの力で生命を繋いだのだと思います。それに、F14で第5世代とドッグファイトができたのは、教官の腕があったからでしょう。・・・自分がしたことは・・・うまく言えませんが・・・そんな礼を言われるほど大したことではありません」

アイスマンは怒った風でもなく、グラスを弄びながら言った。

「君は、優秀だ。データで分かる。おそらく、ルースターよりもマーヴェリックに近いのは君だ。君の飛び方は、早いだけではなく、理論や理屈に裏付けされている。・・・そのことをあまり言わないようだがね。マーヴェリックは、窮地に陥れば、勘で飛ぶ。もちろんそれは、長年の経験で培われたものだが、若い時は違った。しかし、君は計算ができる。何手も先を読んで飛ぶことができる」

「いえ。教官は、マーヴェリックは凄いと思います」

「そうだな。けれども、あいつはチェスが苦手なんだ。先を読むのが苦手だからだ。君は、得意そうだ」

確かに。チェスは好きだし、得意な方だ。けれども、飛行機の飛ばし方に関係などあるだろうか。目の前にいるのは、トップガンの首席だ。今は空を降りたとはいえ、飛行機乗りを知っている人間だ。ハングマンは、この会合の先が読めないでいた。だから、自分から仕掛けることにした。

「・・・ルースター・・・いえ、ブラッドショー大尉から、何かお聞きになりましたか?」

「どんな話かな」

「・・・きっとプロフィールでご存知かと思いますが、自分はΩです」

「・・・そうだね。ブラッドリーは、とても気になる子がいると言っていた。そして、その子は過去にとても辛い目にあったそうだ。だから、守ってやりたいと。そう言っていたよ。もちろん、その子の名誉のため、と言って、何があったかは教えてくれなかったけれどね。私は、自分の息子の恋を応援してあげたいと思うよ。これはマーヴェリックも同意見だ」

アイスマンの目を見て、確信する。どうやら、ルースターは自分のことをアイスマンとマーヴェリックに話したのだ。そして、二人は否定せずに、ルースターの話を受け入れたのだ。

ハングマンは無意識に自分の腹を触った。あの時、自分は何を考えた?・・・ほんの一瞬でも、ルースターの子を宿してもいいと、そう思わなかったか?

「今度、ルースターと一緒に家に来なさい。私もマーヴェリックも歓迎する」

「・・・・・・時間があったら・・・」

「ぜひ、その時間を作ってくれ」

***

1階のエントランスに降りると、アイスマンが言った。

「迎えを来させているから、送ってもらってくれ」

「いえ。自分はタクシーで・・・」

「ああ、来たな」

アイスマンの視線を追えば、いつものアロハシャツ姿の男が目に入る。

「あ!アイスおじさん!ハングマン!」

駆け寄って来たルースターが、ハングマンの肩に触れる。

「もうっ!言ってよ!マーヴェリックに呼ばれたと思ったら、アイスおじさんとハングマンが一緒に飲んでるなんてさ。しかし、俺が絶対に入れないドレスコードのあるとこじゃん!」

「スーツなら、買ってやっただろう」

「あ、ごめん。ちょっと鍛えすぎて入らなくなった」

「お前なぁ・・・。まあ、鍛えるのはいいことだ」

「えっと、話は・・・終わったの?」

「だから、ここにいる。彼を送ってあげなさい。もちろん、そのアロハで入れる店に寄り道するのは構わないぞ」

「そうする。なあ、ハングマン、どこか寄りたいところ、ある?」

「別に。・・・急に言われても・・・」

「だよなー。あ、じゃ、アイスおじさん、また今度ね」

「彼も一緒に連れて来なさい」

「え?あ、うん。・・・そうする!行こ。車の中で相談しようぜ」

ルースターがハングマンの背中に手を当てるのは、いつものことだった。その手にエスコートされて、外に出る。車寄せに、空色のブロンコが停まっていた。そしていつものように、ルースターが助手席のドアを開ける。「女の子じゃないんだけどもな」と思いつつ、座ってシートベルトをする。ルースターが運転席に乗り込んで、いきなりハンドルに突っ伏した。

「いやー・・・・マジ、やばい」

唐突すぎて、何がやばいのか、ハングマンにはわからない。

「・・・考えるの面倒だから、ハードデックにでも行くか?」

そうハングマンが言ったら、ルースターがガバッと身体を起こした。

「ダメっ!!!そーれーはー絶対にっっっダメっ!!!!!」

「・・・は?」

「だってさ!今日のハングマン、それ、めっちゃ反則!」

「訳がわからないが?」

「綺麗だってこと!いつも可愛けどさ、今のハングマンはすっげー、綺麗!そういう綺麗なハングマンをハードデックで他の連中に見せるとか、無理。できないね」

「あー・・・・お前、眼科に行け。いや、鶏だから獣医だな」

「いやもう、もっとよく見えるように、眼科に行きたいわ、俺」

「・・・本当に意味不明だが、家に帰るか?」」

「え?それもやだ。だって、俺、お前のこと見せびらかしたいもん」

「・・・どうしたいんだよ、一体」

「んー・・・そうだな。とりあえずさ・・・お前のこと「’ジェイク」って呼んでいい?」

唐突すぎる。本当に。けれども。

「・・・そうだな。コヨーテがいいって言ったら、いいぞ」

「え?コヨーテの許可が必要なのかよ!ちょっと待って!電話するかから!!!」

尻のポケットからスマホを取り出してタップする。どうやら、コヨーテはすぐに出たらしい。

「あ!なあなあ!コヨーテ!?俺さ、ハングマンのこと、「ジェイク」って呼びたいんだけど、いいか?え?は?面接が必要!?うわっ、ガードが硬いな!じゃあ、今から会えるか?ハングマンも一緒!あいつの前で許可くれよ!え?試験?マークシート式?なんで?え?あ、いや!受ける!受けます!受けさせてください!!!わかった!今から、そこの店に行くわ!!!」

「行き先は決まったみたいだな」

「決まった!絶対に、面接と試験、合格するから!」

そう言って、ルースターはブロンコを発進させた。

スーツのポケットの中でスマホが震えた。確認すると、コヨーテからのテキストだった。正確には、絵文字。そこには、スマイルマークが表示されていた。思わず、ハングマンは笑みをこぼした。どうやら、コヨーテは面白がっているらしい。けれども、きっと自分を思ってくれてのことなのだろう。ハングマンは「お手柔らかに」と短くテキストを返すと、スマホをポケットにしまった。隣を見ればルースターが「何を聞かれるんだろ。どんな試験かな」と呟いている。とりあえず自分は、酒を飲みながら二人のやりとりを見ていようと思った。

END

過去の出来事

というわけで(唐突)、ルースターはハングマンの官舎に入り浸っている。住んではいないが、入り浸っている。ハングマンも別に何も思わないので、何も言わない。食事はハングマンが作ることが多いが、後片付けはルースターがやってくれるので、楽だなぁ・・・ぐらいは思っているけれども。ああ、それと何故だか調子が良かった。口癖の返しではなく、本当に調子が良かった。日常的に「絶好調だ」とは言っているが、それは半分以上は嘘だ。そのことはコヨーテが一番よく知っている。調子が悪いことを知られると空を飛べなくなるので、反射的に「絶好調だ」を言うことにしている。けれども、やたらルースターが近くにいるようになってから、誤魔化しではなく本当に調子がいい。できだけ省エネで生きているのは変わらないが、奇妙な怠さとかがない。だから、今日も気分よく、飛ぶことができた。まさに「絶好調」だった。そして、今日もルースターはハングマンの官舎にやってきて(というよりも一緒に帰ってきた)、夕食を取った。昨日からセレシン家特製のソースに漬け込んでおいたスペアリブを焼いたのとグリーンサラダ。そしてルースターの前にだけ、キャロットラペが置かれている。これも昨日のうちに作っておいたものだ。炭水化物は、昨日ルースターがお気に入りのパン屋で買ったライ麦パン。つまり、昨日もルースターはハングマンの官舎に来ている。ハングマンが何も言わないので、雰囲気に甘えているのである。

「なぁ、めっちゃ美味しいんだけどさ。お前、面倒くさくない?こうやって夕食を作るの。仕事で疲れてるだろうしさ。それに朝だって・・・」

ルースターは朝食もハングマン宅で食べている。

「別に。慣れてるから大したことじゃない。作りたくなかったら、作らない」

「作りたくないなーって思ったことねぇの?」

「・・・・・・」

正直に言えば、ある。けれどもそれは、ルースターが入り浸るようになる前に話であって、今は面倒でもなんでもない。むしろ、ルースターがよく食べるので、熊に餌付けをしているようで面白い。なんでも食べるグリズリー。エンゲル係数が高くなるが、外食する時や飲む時はルースター持ちだし、なんだかんだとハングマンの好きなものを買ってくるので、イーブンどころか、きっとルースターの方が出費は多いだろう。昨日は、ブルトンヌのクッキー缶を持ってきた。ミントグリーンの缶が好きなので、嬉しい。

「ハングマン?」

急に無言になった救世主に心配げに声をかける。

「・・・とりあえず、今のところは作りたくたいって思ったことはない。作りたくない時は言う」

「うん。そうして。な?」

「ああ」

ルースターはスペアリブに齧り付き、ハングマンはナイフとフォークを使って丁寧に肉を骨から外して食べる。「美味しそうに食べる熊だな」と思いながら、柔らかい肉をゆっくりと咀嚼した。

***

夕食の後は、二人でネットフリックスを観るか、ハングマンが読書でルースターがスマホチェック(しつつのゲーム)するかのどちらかが多い。ルースターが食器を洗い終えると、ハングマンがペーパーバッグを持ってソファに行ったので、「今日は読書だな」と判断する。勝手にコーヒーを淹れて、クッキー缶と一緒に持っていく。ハングマンが本を読んでいる時は話しかけない。「ジェイクはね、読書の邪魔をされると不機嫌になりから」というコヨーテの教えを守っている。最初は、コーヒーに口をつけ、クッキーを摘みながら本を読んでいたが、そのうち、夢中になったらしく集中している。スマホチェックを終えたルースターがクッキーを一枚取り、それでハングマンの口の端っこを突くと、ハングマンは視線はそのままに顔を少し動かしてクッキー食べる。この餌付けみたいな行為が、ルースターの最近のお気に入りである。読書の邪魔をせず、ハングマンに噛むことができ、尚且つハングマンの可愛い姿を見ることができるという一石三鳥だった。問題は、ハングマンが「いつの間にかクッキーがなくなってる!!!!」と小さく騒ぐことぐらいだが、きちんと説明したところ、自分が食べたことに納得した。

それから、約1時間。

ハングマンは、。ペーパーバッグを閉じた。小さく溜息をつく。

「面白かった?」

「うん。まあ、続けて読んでるシリーズだし」

「’何で、そのシリーズが好きなんだ?」

「・・・・・・異質な物でも、家族になれる話だから・・・?よくわかんない」

ハングマンがローテーブルの上においたペーパーバッグの表紙には、「’これはいったいいつの時代のロボットですか?これは小学生の工作ですか?」というような、直方体の頭を持つロボットが描かれていた。胸の辺りはガムデープで留めてある。

「このロボットが主人公?」

「タング。そのロボット、タング。・・・タングを取り囲む全部が主役・・・。まぁ、俺の解釈だけど」

「家族か。テキサスの実家には帰ってるのか?」

「いや。ここ数年は全然」

「忙しいからか?」

「・・・何となく。お前こそ、せっかく和解したんだから、大佐のところに行けばいいんじゃないのか?」

「うん。まあ。それはそれとして。な」

今の段階では、育てのマーヴよりも、目の前の救世主である。何気なく、さりげなく、ハングマンの生活の中に入り込んでいるので、もう少し先に進みたい。

「せっかく家族が側にいるのに」

「んー、マーヴとは没交渉だったからなー。アイスおじさんとは連絡を取ってたけど」

「だからこそ、一緒にいた方がいいんじゃねぇの?」

「・・・だったら、お前も一緒に行く?」

「行かない」

即答である。少々がっくりきたものの、行ったら行ったでマーヴェリックが煩そうなので、これでいい。

「なぁ」

ハングマンがルースターを見ずに言う。

「何で、お前は俺に何もしねぇの?」

「は?」

「・・・お前、αだろ」

「いや。αだからって、見境なくΩをどうこうするっていうのは・・・ないぞ?アイスおじさんにも、そういうのはクソ野郎のすることだってガキの頃から教えられてきたし」

「・・・ああ・・・大将が・・・」

「そりゃまあ、お前とはもっと仲良くなりたいとは思ってるけど」

そこで初めて、ハングマンがルースターを見た。そして。

「変な奴」

そう言って、小さく笑った。

「いや!冗談抜きで!本当に!マジで!」

「・・・仲良くって・・・αがΩと仲良くなんて、ないだろ。友達みたいにさ」

「あると思うけどな。俺は」

と言いつつ、本当は友達以上になりたいので、複雑な心境のルースターだった。

「お前みたいな、α、珍しいな」

「そうかな。アイスおじさんを筆頭に、俺の周りには結構αがいるけど・・・みんなマーヴの味方だったし。そういうのを見て育ってきてるから・・・うん。やっぱり、そういう環境のせいなのかな。俺の中では、αとかΩとが、そういう括りがあんまりないんだよ。だって、マーヴがああいう感じだろ?それに・・・お前だって、そうだし」

「・・・Ωがお前よりも早く空を飛んだらムカつく?」

「だから。そういうのはないんだってば!」

「・・・でも、ムカつく奴はいるんだよ。軍の中にはな。むしろ、そっちの方が普通じゃねぇの?」

否定はできない話なので、ルースターは黙るしかなかった。マーヴェリックの若い頃の苦労話は、アイスマンから聞いてはいた。きっと、聞いた以上の差別はあったのだろう。時代が時代だった故に。

「・・・・・・俺たちのプロフィールには第二の性が明記されるよな」

「ああ、うん」

「上官はプロフィールを見るから、自分の部下がΩかどうかわかる」

「そう・・・だな」

「・・・昔、ドッグファイトの模擬訓練で、教官をキルしたことがある」

「すげーな。さすが救世主」

「・・・そのαの教官・・・中佐だったかな・・・それが面白くなくて、どうしたと思う?」

「え・・・ちょ、ちょっと待て」

ハングマンの瞳を覗けば、そこには何の感情もなかった。けれども、このストーリーの流れはルースターにもわかる。

「・・・・・・仲間3人と力づくで、Ωの部下を嬲った」

Ωの部下は、ハングマンのことだ。怒りも悲しも映さない緑色の瞳がルースターの向こうを見ている。何か、大切なものが抜けているような、そして抜け殻のような、身体。

「夜通し犯されたから、次の日は飛べなかった」

Ωがそんな風に精を受ければ、どうなるかは予想がつく。

「・・・子どもが・・・できた?」

「相手が三人だから、誰の子かわからねーけど」

「・・・・・・今・・・その子は?」

ハングマンは右手のひらで自分の腹をさすった。

「流れた。・・・しばらくして、具合が悪くて、病院に行って、妊娠がわかって・・・。どうしようかなって考えてる時に、また上官に捕まった。・・・抵抗しなきゃよかったんだよな。でもさ、腹に子どもいるってわかっちまったからさ。子どもに何かったら、いけないって思って、抵抗した。そうしたら、上官は逆ギレして、腹を殴った。何回もな。・・・それで、流れた。・・・そういうαしか、俺は知らない」

淡々と話すハングマンの身体をルースターは無意識に引き寄せた。

「お、お、俺がっ・・・俺が、守る・・・からっ!」

涙の混じる声。

「ん?おいおい、何、泣いてんの?お前。αの雄鶏らしくねーな」

「悔しいっ!俺、そいつらのこと、殺してやりたいっ!」

「物騒な雄鶏だな。・・・でもな、それが世の中の仕組みなんじゃねーの?・・・大佐はレアケースなんだよ」

「もっと早くに、お前のことを理解してたら、俺が守ってた!お前は空に愛されてんのにっ!何で!」

「・・・そうだな。愛されたかったな。でも、俺はダメなんだ。俺はマーヴェリックとは違う」

「愛されてるよ!だから、誰よりも速く飛べるっ!」

「・・・・・・」

ハングマンは返事をせずに、ポンポンとルースターの背中をタップした。雄鶏はグズグズとハングマンの肩で泣いている。

「俺が守るから・・・」

「・・・・・・ありがとな」

ハングマンは空いた手を、自分の腹に当てた。ほんの少し、自分の肩で泣く雄鶏の子を孕んでみてもいいかな、と思った。

END

雄鶏的にはデート

ハングマンは、ふんわりと覚醒した。柔らかなベッドの上で、見慣れた壁が目に入る。

昨日は食堂での宴開催中に体調が悪くなり、コヨーテに連れ出してもらった。「講義室で休もう」と親友が言ってくれたのは覚えているし、身体を彼に預けてうとうとしたのも覚えている。けれども、ここは講義室ではない。自分の部屋で自分のベッドだ。きっといつものように、コヨーテが連れ帰ってくれたのだろう。「あいつにランチでも奢んねーとな」と思いつつ、起きあがろうとしたところで、身体の自由が効かないことに気付く。痛みがあるわけではない。何かが自分の身体の動きを封じている。そして、それが非常によく鍛えられた男の腕であることがわかる。誰かの腕が、自分の身体に巻き付いているのだ。

「マジか・・・」

ハングマンはかろうじて自由な自分の手を動かして、自分の身体を検分する。痛みはない。着衣は昨日のサービス・カーキのままで、これといって乱れていない。皺にはなっていそうだけれども。首を触ってみたが、どうやら傷もできていない。

ハングマンは、再度、自分の身体に巻き付いている腕を見る。どうみても、親友の腕ではない。けれども、昨日、一緒にいたのは親友で。

「・・・わかんねー」

言いながら、何とか腕の中から脱出を試みようと、モゾモゾと動く。動きながら、「なんか、体調、いいな」と感じる。昨日はあれほど、動きたくなかったのに。

「・・・起きたのか・・・・ハングマン」

声を聞いて、ゾワリとする。それが、よく知った人間の声だったからだ。これなら、見知らぬ男の声の方が、まだこの状況にピッタリとくるのに。

戒めのような腕が解かれたので、ハングマンは両手をベッドに着きながら、ゆっくりと体を起こした。そして、仕方なく声の主を見る。やはり、ルースターだった。ハングマンは盛大にため息をつき、寝乱れたブロンドをかきあげると、焦点をルースターに合わせる。

「で?俺はシャワーを浴びた方がいいのか?それとも、このままの方がお前好みなのか?」

そう言いながら、ハングマンはサービス。カーキのボタンを外し始めた。

「ちょ、ちょっと待てっ!」

慌ててルースターが飛び起きる。そして、ハングマンの手首を掴む。傷まない程度の力で。

「あー・・・脱がせたかった?いや、それとも着たままがいいとか?まあ、いるよな、そういう奴。眠ってる俺を犯さなかった代わりに、要望は聞いてやるし」

「だから!ちょっと待ってくれ!ハングマン!」

「何だよ。αのくせに」

「知ってたのか」

「いや。俺は気づかなかった。興味ないし。ただ、コヨーテが、ルースターはαだから気をつけろって。危機管理ってやつ?俺は、αのくせにビビリでノロマだなって思ってた」

「あ・・・そ」

ガックリくる辛辣な言葉だが、少しハングマンの調子が戻ってきたようで嬉しかった。

「なぁ、体調はいいのか?」

「絶好調だ」

「うん。わかった。よかった。講義室でのお前、すっげー具合が悪そうでさ。心配した。それで、俺が官舎まで運んだんだけどさ」

「ん?コヨーテは?」

「お前、全然、身体に力が入っていなくてさ。コヨーテじゃ運べなくて、俺が運んだの。コヨーテも一緒に来た。お前をベッドに寝かせたら帰ったけど」

「なんで、お前は帰らなかったんだよ」

「心配だったし。コヨーテに頼まれたし」

「・・・コヨーテの奴、俺を売ったな。いつもなら、コヨーテが一緒にいてくれるのに」

「そう言うなよ」

「ふん。・・・ん?あれ?」

「どうした?ハングマン」

「・・・俺がΩだって、お前に言ってないよな」

「そうだな。俺も全然気づいてなかったし。昨日、コヨーテから聞いて知った」

「・・・コヨーテの奴。やっぱり俺を売った」

「いやいや、売ってない。あいつは、お前の味方を増やしたかったみたいだ」

「味方」

「そう。味方」

「ノロマなお前を?それはコヨーテの人選ミスだな」

口唇からこぼれる辛辣な言葉に、ルースターは安心する。

「とにかく。シャワーを浴びてこいよ。それから朝飯でも食いに行こうぜ。俺、腹が減った」

「・・・わかった」

ルースターがハングマンの手首を解放するのと同時に、ベッドを降りる。身体は痛くないし、本当に気分も絶好調だった。いつもなら、昨日のような状態は3日ほど続く。それが一晩眠っただけで解消されたのは初めてだった。

***

ハングマンと入れ替わりに、ルースターにバスルームを譲る。「タオルは適当に使っていいから」と伝えると「サンキュ」と返ってきた。

「あー・・・腹が減ったって言ってたな」

キッチンに向かってコーヒーを淹れる。淹れながら、朝食のメニューを考える。ルースターは、よく食べる男だ・・・という認識はあったが、何が好きかは分からない。

「まあ、食えて、量があればいっか」

ハングマンはフリッジと戸棚から、食材を色々と取り出し、慣れた手つきで料理を始めた。

***

「え?作ったのか?外で食べるんで良かったのに」

「んだよ、せっかく作ってやったのに」

「いや!ごめん!そうじゃない。ただ、面倒をかけたなって」

「別に俺も食べるし」

「ああ、うん。そうだな。でも・・・凄いな。お前、料理できるんだな」

「優秀だからな。コーヒーは?ブラック?」

「今日はブラックだな」

「毎日、好み変わるのか」

「そういうわけでもないけど。あ、サンキュ」

コーヒーが注がれたマグカップを渡される。ルースターは一口コーヒーを飲んでから、改めて食卓を見る。テーブルがこんなに料理で埋めつくされるのを見たのは、いつぶりだろうか。

「お前、毎朝、こんな量を食べるのか?」

「まさか。朝は、ほとんど食欲がないから、空を飛ぶのに必要最低限な栄養だけ摂取する」

「つまり?」

「適当な総合栄養食」

「じゃあ、これ・・・」

「お前の好みも、食う量もわからないから。いろんなものを多めに作っておけば、1つぐらい食えるものがあるだろ」

「ありがとう、ハングマン。嫌いなものはないし、ここにあるの全部好き。食べる」

「ふうん。・・・人参も?」

千切りの人参が乗ったグリーンサラダ。その皿をハングマンがルースターの方に押してくる。

「平気。美味しいだろ」

「うげっ」

「嫌いなのか?人参。綺麗で美味しそうな色してんじゃん」

「チッ。嫌がらせにならなかったか」

面白くない。という表情でハングマンが口唇を尖らせる。

「悪いな。基本的に俺に好き嫌いはない。子どもの頃、マーヴの手料理で鍛えられたから」

「あー・・・あの人、料理できなさそう」

「割と壊滅的。それでも、母さんのレシピはいくつかコピーできるようになったけど」

「ふうん」

「でも、お前は凄いな。あんな風に綺麗に空を早く飛べて、料理もできて」

「お前は?料理しないの?」

「マーヴよりはマシって程度。あ、BBQは得意」

「肉を焼くだけだろ」

「下ごしらえのシーズニングが大事なんだよ。これはスライダーおじさん仕込み」

「誰?」

「アイスおじさんのRIO」

「・・・・・・」

ハングマンの頭の中を「おじさん」というワードが舞う。そして、気付く。そうだ。トム”アイスマン”カザンスキー大将だ。マーヴェリックの夫で。ということは、ルースターの義理の父親みたいなものか。そう考えると、目の前の雄鶏には、物凄い後ろ盾が揃っていることになる。マーヴェリック。カザンスキー大将。確か、ベイツ少将もマーヴェリックの同期だ。けれども、ルースターが彼らの名前を出すことは今までなかった。

「ハングマン?どうかしたか?」

「いや。何でもない」

「BBQは嫌いか?」

「実家ではよくやってた」

「今度、みんなでやりたいよな、BBQ」

「みんな?」

「そう。コヨーテは当然だけど、フェニックスとかボブとか・・・みんなで。そのうち、みんなそれぞれの基地に帰るだろ?その前にさ。あ、マーヴに隠れ家を提供してもらおうかな」

「あの人、そんなの持ってるんだ」

「うん。マーヴはさ、バイクとか車とか、それと飛行機とかコレクションしてるから」

「は?飛行機?」

「そう。P51マスタング。さすがに一般家庭のガレージには入らないだろ。だから、アイスおじさんがマーヴェリックのために、使えるようにしたんだって。元は軍の保有施設」

「つまり、マスタングが格納できるでかいガレージ?」

「モハーヴェ砂漠にあるんだ。夫婦喧嘩した時はそこに逃げるって」

「あー・・・大将と大佐が夫婦喧嘩?」

「マーヴは言葉で説明するのが苦手で、面倒くさくなっちゃうんだ。だから、逃げる。アイスおじさんが嘆いてた。まあ、迎えに行くんだけど」

「ふーん」

言葉で説明するのが面倒くさい。それには何だか共感できる。ハングマンも、基本的にそういうタイプだ。説明が面倒くさいから、相手を怒らせる。

「なあ、マーヴのハンガーでBBQをやろうよ」

「・・・コヨーテが行くなら」

「行くだろ、絶対」

笑いながら、ルースターは人参を口の中に放り込む。その様子を「うわぁ」という顔でハングマンが見る。嫌いだけれども、色が綺麗だからという理由で、つい買ってしまう人参。

「なあ、お前さ、キャロット・ラペ好き?」

「あれ、美味いよな。マーヴが作るものの中では美味しいランキング上位に入る。簡単だから」

「・・・今度、作っとくわ」

何気なく言った言葉。それをルースターは耳ざとく捉えた。嬉しくなる。

「なぁ、朝飯の後、何か予定はあるのか?」

ルースターもハングマンも今日は休みだった。あのメンバーは皆、休みで、それだからこその昨夜の宴会になったのだ。

「別に。まあ・・・家にいるかな」

やっぱりな。とルースターは思う。昨夜、コヨーテが言っていた。「ジェイクは基本的に一人が好き」だと。けれども、例外はある。

「俺、一旦自分の官舎の戻って着替えて、また車でここに来る。そして、何処かに出かけないか?」

「んー・・・」

乗り気ではない返事。これは想定内の反応だ。しかし。

「映画とか、本屋とか」

「本?・・・本屋なら行きたい」

食いついた。「ジェイクを外に連れ出したいなら、映画か本だね」というのもコヨーテに教えてもらったことだ。

「そうか。じゃあ、行こう」

ルースターは約束を取り付け、ハングマンの気が変わらないうちに朝食を平らげ、そして食器を洗い、「また、後でな」と言って、ハングマンの官舎を後にしたのだった。

***

確か、好きで読んでいるシリーズの最新刊が発売されていたよなぁ。・・・と考えながら、ハングマンはチェストから出かけるための服を選ぶ。といっても、適当である。周りからは意外に思われるが、着るものにあまり執着はない。どう組み合わせても、大丈夫、というワードローブしか持っていないからだ。季節の変わり目などにコヨーテがチェックして買い足したりしている。着替えて、ランドリーを回して、必要最小限なものだけをポケットに入れる。財布と携帯と鍵。そして一応フリッジを確認する。今朝、朝食を作るのに使った食材の穴埋めをするメモを頭の中に作る。一瞬、多めに準備しておいた方がいいかな?と思ったが、ルースターが今後も自分の料理を食べる確証はないので、それは脳内から消去する。そうこうしているうちに、インターホンが鳴った。おそらくルースター。それにしても、早い。腕時計を確かめると、ここを出て1時間と少し。ドアを開けると、やはりルースターだった。ジーンズにタンクトップ。それにサングラスはいつも通りで、アロハシャツは見かけるたびに変わっていたような気もするが、その記憶にあまり自信はない。

「早いな」

「ああ、うん。シャワーはお前んとこで浴びさせてもらったから。着替えただけ。それの車だしな」

「まあ、そうか」

「えっと、もう出れる?」

「大丈夫だ」

ハングマンは自分の体を外に出し、鍵をかけた。家の前に綺麗な水色のブロンコ。ああ、空色だなぁ・・・と思っていると、ルースターが「乗れよ」と言って、助手席のドアを開けてくれる。一瞬、驚いたが、ルースターが目で促すのでとりあえず乗り込む。ドアも彼が閉めたので、ハングマンはシートベルトで自分の身体を固定することにした。ルースターも運転席に乗り、エンジンがかけられる。

「’じゃ、行くか」

「ああ」

ハングマンは右の肘を窓に当てて、外の遠くの景色に視線を送った。

***

「なぁ、音楽かけていいか」

「お前の車だし。好きにすればいい」

「いや、静かな方が好きかなって思って」

「そんなこともないけど。お前がピアノを弾きながら歌うのを聴くの好きだし。別に音楽は嫌いじゃない」

「そっか。じゃ・・・」

ルースターがオーディオを弄ると、聞き慣れた曲が流れてくる。ルースターがハードデックでよく歌う曲だった。ハングマンの太腿の上で人差し指がリズムを取るのを横目で見て、ルースターは少し安堵する。というか、情緒がマズい。ハングマンの官舎のドアが開いて、すぐに飛び込んできた姿に、ルースターは一瞬言葉を失ったのだ。

ナンデスカ。コノ、カワイイ、ドウブツハ。

詳しいことはよくわからないけれども、ローゲージのモスグリーンのサマーニット+インナーは白いTシャツ(たぶん)で、その白い部分がニットの襟から少し見えてて+明るめの色のジーンズがハングマンの形のいい脚をより一層綺麗に見せてるし+何だったらニットの裾からちらっとだけ見える白いTシャツがいい感じだし+何と言っても、ニットの袖が長くて手の甲を半分弱ほど隠してるって+それって俗にいう萌え袖ですか!・・・という思考がマッハ10で脳内を駆け巡って、尚且つ運転中も反芻しているのである。危うく開口一番「可愛いな」と言ってしまいそうになる自分は抑えた。言ったら、絶対に「・・・気持ち悪いな、お前。眼科に行ったらどうだ、雄鶏くん。いや、獣医か」と言われそうな気がしたからだ。過去の経験則で。けれども、今日みたいなハングマンだったら、そういうことは言わないかもな。あー、だったら何で、素直に誉めなかっただよ、俺!まさにチキンじゃねえか!こんな時、親父だったら、絶対に母さんのことを褒めてるよな。畜生!そういう遺伝子をちゃんと俺に組み込んどけよ!親父!・・・とハングマンの服装を即座に誉めなかった自分のことも同時に責めるという、器用なことしていた。

「俺、この曲好き」

「ああ・・・お前、ハードデックでかけてたよな。今度、ピアノで弾いてやろうか?」

「弾けんの?」

ずっと窓の外を見ていたハングマンが、ルースターを見る。嬉しそうな表情で。

「俺、耳コピできるから」

「・・・絶対音感があるのか?」

「そういうのかどうかわかんねーけど、俺のピアノは独学だし、楽譜はあんまり読めないから」

「すごいな。俺は楽譜がないと弾けない」

「え?弾けるのか?」

「バイエル、ブルグミューラー、ソナチネ・・・の途中までかな」

「あーそれ、俺には縁のないやつだわ」

「姉さんと妹が習ってるから、なんか俺も習う羽目になったってだけの話」

ピアノを弾けるとか、姉妹がいるとか。昨夜コヨーテからは聞けなかった情報をゲットしたことに満足しつつ、車を走らせる。

「今度、連弾しようぜ」

「やだ」

「え?何でだよ」

「ピアノが弾けるのはルースターだけでいいだろ」

「お前も弾けたら楽しいじゃん。ハードデックが盛り上がる。お前も目立つぞ」

「別に。俺は空で目立てばそれでいいから」

ハングマンが、またふいっと視線を窓の外にやってしまう。せっかく自分を見てくれたのに!俺の馬鹿!と自分を罵る。

「じゃあ、他にも弾いてほしい曲があったら教えろよ。弾いてやる」

「・・・うん」

ハングマンは外を見たまま、小さな声で返事をした。

***

ショッピングモールの中にある書店。そもそもこのショッピングモールに来ること自体、初めてだった。ミッションで忙しくて、買い物どころではなかった。フロアガイドで書店の場所を確かめて、移動する。実は、ルースターの場合、このモールについてはウェブ上でリサーチ済みである。コヨーテから「’ジェイクは読書が好き」という話を聞いて、速攻で検索した。フロア面積も広く、取り扱っている本の種類や冊数も多いのが、このショッピングモール内の書店だったのだ。

「欲しい本は決まってるのか?」

「んー・・・と、『ロボット・イン・ザ・ガーデン』の最新刊。後は特に決まってない。どんな本があるのか、見るのが好き」

「そうか」

これは想定内の返事である。コヨーテから教えてもらった。「ジェイクは3時間くらい本屋にいるのが好き」。

「あー・・・でも、欲しい本を買ったら別にいい」

「何で?」

「お前はつまらないだろ?」

「俺が本を読まない人間だとでも?」

「うん」

「あのなぁ。俺だって本は読む。最近は『Devotion』を読んだぞ」

「え?」

ハングマンが立ち止まってルースターのアロハの裾を掴む。萌え袖から覗く指で。マジ可愛い。ルースター心の声。

「お前も読んだのか!?どうだった?どう思った?」

キラキラした目で感想を聞いてくるハングマンがマジ可愛い。

ルースターは、『Devotion』の感想を滔々と語り始めた。ちなみに、ルースターはこの本を一行たりとも読んではいない。昨夜、コヨーテから「最近ジェイクは『Devotion』っていう本に感銘を受けたんだって」と教えてもらって、速攻で検索したのである。大体の内容を把握し、レビューをたくさん読んだ。今、ルースターが滔々と喋っている感想は数多くのレビューを再構成したものである。要するに、ルースターはハングマンの気を引きたいがために、盛大な嘘をついている、どころか語っているわけなのだが、後日ちゃんと読めば結果オーライ!という謎の理論で真剣に(ちょっと演技)語る。うんうん頷いて一生懸命聞いてくれるハングマンがマジ可愛い(3度目)。約30分に渡って、本を選ぶ他の客の邪魔になっていたがそれにも気づかず、ルースターは本の感想をハングマンに語り尽くした。その後の達成感。どだ!と心の中で胸を張る。

「お前と解釈一致で嬉しい」

「そっか」

心の中でガッツポーズを決める雄鶏。

「じゃあ、お前の本を探そうか。その後、本屋の中を探索しようぜ」

「うん」

ハングマンが素直に頷いたので、ルースターはほっとする。そしてさりげなくハングマンの腰をエスコートしながら、歩き始めた。

***

結局、ハングマンは5冊ほど本を買った。本当はもっと欲しかったのだが、官舎は仮の住まいであまり物を増やしたくないので、我慢した。そして、コヨーテの言った通り、書店には3時間ほど滞在したのである。最初は、「別行動でもいいのに」と言っていたハングマンだったが、次第に本に夢中になり、高いところにある本をルースターが取ってやっても、格段文句をつけることもなかった。ルースターも可愛いハングマンを見ることができたらそれで良いので、非常に充実した3時間になった。本の入った紙袋をルースターが持ってやる。そして時計を見ながら「’ランチにしようぜ」とハングマンを促す。ハングマンも腕時計を見て「そんな時間か・・・」と呟いた。

「エスニックは?大丈夫か?」

「平気」

「じゃあさ、このモールの一角がレストラン街になってて、そこにタイ料理の店があるんだ。そこでいいか」

「いいぞ」

これも当然の如く検索済みである。「最近、俺とジェイクはエスニック料理を食べに行くことが多いんだよな。トム・ヤン・クンとか好きだってさ」。もはや、ルースターにとってコヨーテは心の友である。そして、もしこのモールにタイ料理の店がなかったとしてもノープロブレムである。他に2軒、チェック済みである。ルースターがこのモール内に拘ったのには、理由がある。ランチの後で寄りたい店があったからだ。

モール内のレストランとはいえ、侮れない味。とYELP(ぐるなび的なウェブ)に書いてあったのだが、確かに申し分なかった。その証拠に目の間のハングマンが、トム・ヤン・クンとガイ・パット・ガパオ・ラート・カオを完食したし、ルースターのオーダーしたガイヤーンも食べた。「お前、共食いだな」と言いながら。けれどもマジ可愛い(4度目)笑顔付きだったので、ルースターは気にしない。

「このモールの中に寄りたいところがあるんだけど、疲れてないか?」

「別に」

「そっか。よかった」

会計を済ませるときにハングマンが財布を出したので、「これは朝飯にお礼だから、俺の奢り」と言って、ルースターが払った。何せ、可愛い格好と笑顔を見せてもらっているので、これでランチ代を支払われたら、貰い過ぎである。いやもう既に貰い過ぎなのだが。

「えっと。あーこっちだ、こっち」

相変わらず本の入ったショッピングバッグはルースターが持ち、尚且つハングマンにそっと触れながら誘導する。ハングマンは「今日は難しいことをあんまり考えなくていいから楽だなぁ・・・」と思いながら、ルースターに着いていく。歩いていくと、ふと甘い香りが鼻腔をくすぐった。

「ここだ。なんかさ、有名なクッキーのポップアップショップが明日まで出てんだよ」

何故に、クッキーか。コヨーテ曰く「ジェイクはね、家で映画を見る時はポップコーンじゃなくて、クッキー派。本を読む時も好きで食べるよ」。速攻で検索である。

「デメルだ。俺、ここのクッキー好き」

はい。正解。さすが、俺。っていうか、神様ありがとう。ハングマンイチオシのクッキーをこのモールで売ってくれて。いや、もう、今日の俺、祝福されてるわ。

ルースターは一番大きいアソートの箱を選び、会計を済ませる。そして、綺麗な紙袋をハングマンに渡した。

「え?」

「官舎に戻って本を読むなら、クッキーがあったほうがいいだろ?」

「あ、まあ・・・うん」

「ネットフリックスで映画を観ながら食べるのもいいしな」

「・・・サンキュ」

なんだかよくわからないが、好きな物を貰ったので例を言う。そして=、ちょっと逡巡した後、ハングマンはルースターを見て言った。

「・・・なあ。俺の家で夕飯食べるか?あ、でも、食材があんまリないから、ちょっとスーパーに寄ってもらわないとダメだけど」

「いいのか?」

「ん、まあ。どうせ、俺も食べるし。大したものは作れねーけど」

「お前の飯がうまいのは朝分かったから。お邪魔していいなら、行く」

「別に邪魔じゃない」

「そっか。じゃあ、スーパーに寄って帰るか」

ハングマンは返事をせずに、パーキングエリアに向かって歩き始めた。けれども、すぐにっ立ち止まって振り返る。

「なあ。、食いたいもん、ある?リクエストに応えるけど」

はい、マジ可愛い(5度目)。

「’お前が得意なおすすめは?」

「・・・そうだなぁ・・・イタリアン系かなぁ・・・」

「じゃあ、アクアパッツァ食いたい。できる?」

「簡単だ」

コヨーテの言葉を思い出す。

「ジェイクはね。イタリア料理が得意。アクア・パッツァは絶品」

END

そうだったのか

わかったことがある。

あの嫌味で人を挑発する言葉しか吐かないと思っていた口は、実はオフィシャルモードであって、プライベートでは存外無口であるということ。

そして何よりも、見てくれからα全開の人間だと思っていたら、実はΩであったということ。過去に初めて出会ったときも、そして今回も。特殊ミッションが終わっても。本当に気づかなかった。どうしてルースターが、彼がΩであることを知ったかというと、コヨーテの存在だった。基地の食堂で、ちょっとした宴会になったとき、気づけばコヨーテとハングマンの姿がなかった。自分とマーヴェリックの生命を助けてくれた救世主の存在はルースターにとっては非常に大きく、どうしたものか・・・と思って基地内を探した。そうしたら、暗い講義室にいる二人を見つけたのだ。ぐったりしている救世主の上半身を抱えながら、まるで子どもあやしているようにしているコヨーテの姿。そんな二人を見て、何故だかルースターの胸が痛くなる。

「ああ、ルースター」

気配に気付いたコヨーテが焦る様子もなく小さな笑顔でルースターに声をかける。

「あー・・・っと。寝不足とか?そいつ」

ルースターがハングマンを指差す。

「いや。体調不良。・・・こんなこと、珍しいんだけどね。意外に思うだろ?」

「んーまぁ・・・そうかな」

「今夜はもうダメそうだから、官舎に連れて帰るよ」

「一人で大丈夫か?」

「まあ、慣れてるからね。・・・ジェイク?立てる?」

「・・・んー・・・」

少し甘ったるさを感じさせる二人の様子に、ルースターは思わず尋ねてしまった。

「あのさ。お前ら、もしかして付き合ってる?」

ルースターの質問にコヨーテは目を丸くする。そして、小さく笑って否定した。

「まさか。違うよ。あー・・・でも、そういうの、気になる?」

コヨーテに質問返しをされて、返答に詰まる。けれども、さっき、胸が痛くなったのは事実だし、食堂から消えたハングマンが気になったのも事実だ。

「・・・少し」

「そっか。正直で嬉しいよ。なあ、そこに座らないか?」

講義室の椅子をコヨーテは指差した。ルースターは素直に座った。

「これを言ったら、後でジェイクに怒られると思うけど。まあ、ルースターならいいかな。うん。味方は多い方がいいからね」

コヨーテは一人で言って、一人で納得する。そして、ハングマンの肩を撫でながら、ルースターに向き合った。

「あのね。ジェイクは、Ωなんだよ」

随分と綺麗に笑うんだな、コヨーテは。と思いながら、耳に入ってきたワードを反芻する。

「あのね。ジェイクは、Ωなんだよ」

そして、コヨーテに凭れかかっているハングマンを見る。それから、ようやく、言葉が一致する。

「・・・こいつ・・・Ω?」

「そう。ジェイクは、Ω」

「え・・・だって・・・ちょっと待て。俺はαだぞ?でも、全然わからなかった!」

「だろうね。理由はよくわからないけど、ジェイクはフェロモンを出さないし、酷いヒートもない。ただ、時々こんな風になっちゃうんだ」

「マジ・・・か」

ルースターの身近にいるΩと言えば、マーヴェリックだった。番はアイスマン。二人は結婚していて、子どももいる。それでも、最高のアヴィエイターとして海軍に君臨している。だから、ルースターの認識として、Ωが弱くて庇護されなければならない存在という認識はない。実力さえあれば、第二の性は関係ない。驚いたのは、Ωの存在にαの自分がずっと気づかないでいた、ということだった。

「・・・もう、誰かと番ってるのか?」

コヨーテは首を横に振った。

「ジェイクはΩって思われてないし、フェロモンも出さないから気づかれない。ルースターだって気づかなかっただろう?」

「・・・まあ、そうか」

「でもさ、空を飛ぶには、その方が都合がいいのかもね。さて、と。困ったな。いつもなら、ちょっとは歩けるんだけどな」

コヨーテがハングマンを立たせようとするが、すっかり身体の力が抜けていてどうにもならないらしい。意識のない人間は重いし、筋肉も重い。

「俺が運ぶ」

「大丈夫?ラットとか起きない?」

「全然、フェロモンがわからないから大丈夫だろ。コヨーテこそ大丈夫なのか?」

「僕はβだからね」

ルースターはハングマンの身体を担ぎ上げた。姫抱きではない。

「さすが!ルースターは見かけ通りに力持ちだ」

「・・・なぁ。歩きながら、こいつのこともっと教えてくれよ」

「へぇ。興味持った?Ωだから?」

「いや。俺とマーヴの救世主だから」

「ルースターのそういうところが好ましいよ。でも、ジェイク本人から聞かなくのいいのかい?」

「こいつが、ペラペラ話すと思うか?」

「思わないな」

「だから、教えてくれよ」

「いいよ」

コヨーテはルースターの逞ましい腕を叩きながら、爽やかに笑った。そして、ルースターに担がれても意識を取り戻さない親友の金髪をそっと撫でてやったのだった。

END

polyamory

マーヴェリックが朝のワークアウトから家に戻ると、いつもの風景が目に入る。アイスマンはソファでコーヒーを飲みながら新聞を読み、サイクロンがキッチンで朝食を作っている。一緒に暮らすに当たっての役割分担は、かっちりと決めてはおらず、何となくそれぞれがそれぞれの得意分野でこなしている。食事に関して言えば、アイスマンは家事能力=0。マーヴェリックはそんな僚機のせいで必要最低限のことはできるようになった。しかし、ダントツにサイクロンが一番だった。初めてサイクロンが夕食を作って振る舞った時、アイスマンとマーヴェリックは顔を合わせて頷き合った。そして、アイスマンに「食事係に任命」と言われて現在に至る。深く敬愛する上司の言うことには、基本的に首肯するし、嫌いなことではないので、まあ、それでいいと思っている。そんなわけで、今朝もサイクロンの作った朝食がテーブルに並べられる。

「んー。今朝もいい匂い。シャワー、浴びてくるよ」

2階に上がろうとするマーヴェリックをアイスマンは止めた。

「マーヴェリック。シャワーは朝食の後に」

「何で?」

「食事の後で、サイクロンにグルーミングしてもらえ」

「グルーミングって、僕は猫かよ」

「いや。可愛い狼だな」

「んー・・・?ちょっと、待て。どうして僕はグルーミングしてもらわないといけないんだ?」

小首を傾げるマーヴェリックにアイスマンは小さな溜息をついた。そして「サイクロン」と声をかける。

「マーヴェリック。今日は上院議員主催の祝賀会だ。すでにスケジュールは伝えているはずだが?ウォーロックから聞いていないとは言わせないぞ」

グリーンサラダとドレッシングをテーブルの上で和えながらサイクロンが本日の予定を伝える。

「あー・・・んー・・・何か聞いたような気もするーけど・・・それ、僕も行かなくちゃいけないのか?アイスとボーが行くなら、僕ごときが行かなくたって・・・」

ぶつぶつとパーティー嫌いのマーヴェリックが文句をブウ垂れる。

「俺だって、行きたくない。だからお前を連れて行くんだ。お前が傍にいれば、まあ気が紛れる」

「そういう理由で僕を使うなってば」

サイクロンがマーヴェリックの腰に手を当てて、ダイニングテーブルに誘う。

アイスマンは新聞を置き、立ち上がる。そして、マーヴェリックを挟むようにして、サイクロンの反対側に立ち問いかける。

「お前は、どう思う?中将殿」

マーヴェリックは助けを求めるようにサイクロンを見上げる。けれども。

「本来であれば、貴方は既に将官になってもおかしくない。それが大佐止まりとあれば、周囲の人間は貴方を見下す。そうすれば、貴方だって空を飛びにくくなるはずだ。しかし、貴方に閣下や私の後ろ盾があると知らしめれば、ずっと周りを御しやすくなる」

「つまり、お前のため、ということだ。観念しろ」

「・・・わかった」

マーヴェリックは口を小さく尖らせると、オレンジジュースのグラスに手を伸ばした。

***

役割分担といえば、マーヴェリックのワードローブのほとんどは、アイスマンの管理下にある。その代わり、マーヴェリックの身体を磨き上げるのはサイクロンの役目になった。

ポイポイとワークアウト用のウェアを脱いで、マーヴェリックはサイクロンとバスルームへ向かう。ウォーキング・クローゼットにいるアイスマンに声をかける。

「アイスは?来ないの?」

「サイクロンに磨いてもらえ」

「・・・僕は行きたくもないパーティーに行くんだけど?」

小さな我儘。ご褒美の前払い要求。

「わかった。ドレスブルーを出したら、すぐに行く」

「早く来て」

バスルームではサイクロンが、いつもより多いアイテムを洗面台の上に並べていた。

「何で、ボーは脱いでないの?」

「貴方を磨くだけなので」

「・・・二人ともっ!僕はイヤイヤながらもパーティーに行くんだけど!?」

「僚機は朝から盛っているらしい」

そう言いながら、後からバスルームに入ってきたアイスマンが背後から裸のマーヴェリックを腕の中に収める。そして鏡越しにマーヴェリックと視線を合わせる。

「どうする?サイクロン?」

アイスマンは綺麗な笑みを浮かべて部下に問いかける。

「そうですね。・・・時間が有限にあるわけではないので、同時進行で・・・というのはいかがですか?」

「そうするか」

その言葉を聞いて、マーヴェリックの満足気な笑みが、鏡に映った。

***

サイクロンがマーヴェリックの髪を洗い、トリートメント塗布している最中に、アイスマンが僚機のアナルを指で解す。マーヴェリックは自分の髪をメンテナンスするサイクロンにしがみつきながら、小さな声を漏らす。漏らしながら、勃ち上がったモノをサイクロンの太腿になすり付ける。

「んっ・・・んっ・・・んぅ・・・」

「流すから、そのまま目を瞑って」

温かい無数の水滴が降ってくる。高めに設定された水圧が心地良い。サイクロンの指が、ブルネットを後ろに流すように動く。マーヴェリックは少し顎を上げると、口唇を求めた。それはすぐに与えられる。サイクロンが手探りで泡立てたボディソープがマーヴェリックの肌を撫でる。耳の後ろや首、鎖骨。好きなところを指で辿ってもらえるのがいい。背中にアイスマンの唇が這う。アナルの中の指がいつの間にか増やされている。けれども、そろそろ本物が欲しい。

「はっ・・・あ・・・アイスぅ・・・」

サイクロンと重ねている口唇の隙間から僚機の名を呼ぶ。名前を呼ばれた片割れは笑い、部下に視線を送る。それを受けてサイクロンはマーヴェリックの身体を太い両腕で固定し、安定させる。マーヴェリックは自然に腰を後ろに突き出した。アイスマンは尻を割り、切先を捩じ込んだ。

「ひゃ・・・あんっ・・・」

腰を大きな手で固定し、逃がさない。マーヴェリックは目の前のサイクロンの身体に縋ろうと指先を動かした。その手首をサイクロンが掴み、それから脇下に腕を入れて抱き止める。

「あ・・・ああ・・・」

マーヴェリックを犯しているのはアイスマンだが、その溶けた顔を見るのがサイクロンであるということが、何処か倒錯的だった。サイクロンは親指の腹で、マーヴェリックの下唇を撫でる。幾度かの往復の後、マーヴェリックは、その指を喰んだ。そして、クチュクチュとしゃぶる。水音の隙間から、喘ぐ声が漏れる。サイクロンは僅かに突き出されたマーヴェリックの舌を弄ぶ。マーヴェリックの背後からアイスマンが腕でウエストを掬い上げた。挿入が深くなる。

「は・・・ぐっ・・・ぅん・・・ああ・・・あんっ・・・」

高身長の僚機にウエストを掬い上げられて、バスルームの床から足が軽く離れる。身体が宙に浮く。バランスを崩さないでいられるのは、サイクロンのおかげだった。

「あ・・・ふか・・・ぁい・・・んっ・・」

縋る男が目の前にいる。マーヴェリックはその太い首に指を這わせる。口から赤い下をチラチラと覗かせる。年下の上司は口角を上げると、顔を近づけて狼の口唇と口腔を貪った。

「マーヴェリック、イクぞ?」

「んっ・・・うんっ・・・僕もっ・・・」

サイクロンと重ねた口の隙間から応える。サイクロンはもう一度深く口唇を捉えながら、マーヴェリックの下肢に大きな手を這わせる。太腿から脚の付け根。そして、犯されて昂っている果実。前と後ろからの刺激。

「ひゃっ・・・あっ・・・あっ・・・あっ・・・ああああああああーーーーーーっ!・・・」

バスルームに嬌声が響く。

「良い子だ」

アイスマンが身体をぶるりと震わせながら、マーヴェリックの耳に言葉を吹き入れる。

「んんっ・・・やっ・・・また・・・イっちゃう・・・」

そんな声を聞きながら、アイスマンはずるりと凶器を抜くと、マーヴェリックの身体を床に降ろした。崩れそうになる小柄な身体は、前後から支えられる。

「マーヴェリック。もう一度、身体を洗うから」

サイクロンがボディソープを取ろうとした手をマーヴェリックが止める。

「ボーが、まだ僕の中に入ってない」

下から睨め付けるようで、それでいて目尻を赤くした瞳が妖艶にサイクロンを見上げる。軽く眇められた目が、挑戦的で、まるで空にいるかのようだった。

「これから、出かけると言うのに?」

「僕に挿れてくれないなら、僕は面倒くさいパーティーになんか行かない。ベッドに戻って、一日中ブランケットの中から出ないよ?」

どういう脅しだ。と思いながら、部下の肩越しに上司を見る。氷の上司はニヤニヤと笑っている。サイクロンは盛大に溜息をついた。

「マーヴェリック。サイクロンの首に腕を回せ。そしてしっかりと掴まってろ」

アイスマンが僚機の耳元で囁く。そして、言う通りにしたのを確かめてから、小柄な身体の両膝裏に手を入れ、脚を開かせながら持ち上げた。アイスマンの放った液体が胎内から溢れ出る。至近距離にまで近づいたサイクロンに口付ける。そして、「ちょうだい」と小さな声でねだった。上司と部下から受ける圧力に、サイクロンは折れた。マーヴェリックの腰に手を巻きつけて、真下から切先を当てる。そこは既に「はくはく」と開いていて、先端を難なく迎え入れる。先ほどまでアイスマンを受け入れていたから、侵入は容易い。マーヴェリックは、小さく息を吐きながら、その質量を楽しむ。僚機と年下の上司が与えてくれる喜びはそれぞれが違う。それを二人に伝えたことはないけれども。そんなことは自分の中にだけ仕舞っておけばいい。

「ん・・・・ん・・・」

もっと深く犯して欲しいが、アイスマンに抱えられているので、自分では動きようがない。もどかしさを感じる。サイクロンが突き上げてくれたら・・・と思う。が、それもない。

「う・・・ん・・・んー・・・」

苦しいわけではなく、決定的な快感を与えられないもどかしさで眉間に浅い皺が寄る。マーヴェリックはサイクロンの首筋に額を擦り付けた。そんな僚機の様子を見て、アイスマンは太腿裏を抱えている手の力を少し抜いた。狼の身体が落ちる。合わせてサイクロンが下から突き上げる。

「ひっ・・・あっ・・・ああっ・・・んっあっ!・・・お・・・く・・・んっ・・・」

最奥の入り口近くまで入り込む。マーヴェリックはサイクロンの首にしがみ付いた。そんな僚機の身体を持ち上げては落とすことを繰り返す。それに合わせてサイクロンも動く。

「ぐっ・・・ん・・・んぅ・・・あっ・・・はっ・・・」

「気持ちいいか?マーヴェリック」

アイスマンが耳に声を吹き込む。マーヴェリックはこくこくと小さく頷く。その反応に満足気に笑うと、その笑みをサイクロンに向けた。その表情を見て、「いいんですか?」と視線を返す。それには答えず、アイスマンは殊更にマーヴェリックの身体を持ち上げた。そして、一気に落とす。サイクロンの鋒は、ぐぷっと結腸口を通り抜ける。

「あ”っ・・・がっ・・・ぐ・・・」

息が詰まる。けれども、脳天を突くような快感が背中を走る。内側から圧迫されて、下腹が疼く。無理。イく。壊れる。熱を吐き出したい。

「はっ・・・あ・・・あ・・・ああ・・・」

サイクロンから突き上げられ、アイスマンには身体を揺らされる。臨界点。限界。飛ぶ。意識が朦朧とする。熱い。熱い。熱い。

「あ・・・ああっ・・・イ・・・イきたい・・・イく・・や・・・あ・・・ああああああああっーーーーっ」

胎内で何かが弾ける。分かってる。自分の胎内で、僚機と年下の上司の液が混ざる。

「や・・・あ・・・」

指から力が抜け、するりと手がサイクロンから離れる。後ろに倒れそうになるが、アイスマンの身体で支えられる。サイクロンが自分の中から抜けるのを感じる。

「んっ・・・」

ぞわりと身体に快感が走る。と、同時に喪失感。脚が下ろされて、爪先が床につく。けれども、力が入らないのでそのまま崩れ落ちそうになる。けれども前後から支えられて、そうはならない。

「マーヴェリック。掻き出すから、サイクロンにしがみついてろ」

「ん・・・」

気怠く、身体をサイクロンに寄せる。尻を軽く突き出すと、アイスマンの指が入ってくる。けれども、良い意味で官能は引き出さない。冷静な動きだった。不思議だな、と思う。挿入前に解す指と、体液を掻き出す指は同じはずなのに、その指が持つ熱は全く違う。優しく身体の中を撫でられているような感じがする。

つぷんっと指が抜かれる。そして、体液が流れ出る感覚。

「後はサイクロンにケアしてもらえ」

そう言うと、アイスマンはマーヴェリックの身体を部下に預け、シャワーを簡単に浴びる。

「アイス・・・」

「ん?」

「キス」

アイスマンは笑うと、マーヴェリックに軽くキスを与える。マーヴェリックはにこりと笑う。大きな手が、マーヴェリックの頭を撫でる。そして、アイスマンはバスルームを出た。それを見送ると、サイクロンはマーヴェリックの身体をシャワーの湯で流した。そして、抱えて洗面台に座らせる。

「んー・・・・ん?」

マーヴェリックが首を傾げる。

「貴方はそのままで」

そう言うと、サイクロンは、ボーッとしたマーヴェリックの肌のケアを始めたのだった。

***

大体において、こういうパーティーでは、アイスマンもサイクロンも、上位の招待客に捕まるのが常だ。最初は三人でいたものの、いつしか二人は他の客たちに捕まっている。自分も色々と尋ねられたりはしたが、基本的に話すのが苦手なので、会話は盛り上がらない。最後は、場を誤魔化すように微笑んで、相手から逃げる。そんなことを繰り返していたら、いつしか身体はバンケットルームから廊下へと移動していた。このまま逃げてもいいんじゃないか、と思う。けれども、お愛想笑いで表情筋が痛いし、喉も乾いた。ラウンジで冷たいコーヒーが飲みたい。確か一階にあったはず、と思いながら、マーヴェリックはエレヴェーターを使って階下に降りた。何かあれば、セルフォンに連絡が来るだろう・・・と思って、マーヴェリックは内ポケットを押さえて、「あ!」となった。そうだ。今日はセルフォンを家に忘れてきたのだ。朝からバスルームで楽しい時間を過ごしたせいで、身支度の時間が自ずと縮小された。僚機と年下の上司が着替えを手伝ってくれたが、セルフォンは迂闊だった。ということは、電子決済が使えない。財布も忘れた。というよりも最近持ち歩いていない。大体の支払いはアイスマンとサイクロンが済ませてしまうのだ。それでも、いつもの服装だったら無意識にポケットに入れるが、普段着なれないドレスブルーだと、うっかり忘れる。

「うー・・・もう、帰ろうかなぁ・・・」

アイスコーヒーを諦めて、再びバンケットルームに戻るのは嫌だった。となれば、帰った方がいい。タクシー代は家の前でちょっと待っててもらって、それから払えばいい。

「・・・そうしよ」

そう決めて、マーヴェリックがホテルのエントランスに向かおうとした時に、後ろから声をかけられた。

「ミッチェル大佐!」

「?」

振り向くと、スーツを着た男が近寄ってきていた。何処かで会ったような気がする。近しい人間以外には全く興味がなく、記憶力を発揮しない頭で検索する。しかし、F14の操縦方法は身体が覚えていても、人間の顔と名前は覚えていなかった。が、ここは愛想笑いである。マーヴェリックは、にこっと、いつもの顔で笑い、小首を傾げた。時折、ルースターに「マーヴ。その顔、絶対にやめて。誤解されるから。ね?」と言われるが、とりあえず、この顔で生きてきたので条件反射である。対人スキルがポンコツなので、アイスマンからも「とりあえず、笑っておけ」と言われている。

「お久しぶりです!」

「えーっと・・・」

笑顔を崩さず、思い出そうとしている演技をする。が、今回は楽勝だった。何故なら、

「パーシヴァルです。貴方が編隊長を務めたチームにいたことが」

相手が名乗ってくれたからである。コールサインは割と覚えることができるマーヴェリックだったので、すぐにピンときた。

「ああ!パーシー?」

「そうです!ドミニク”パーシヴァル”エイディアです」

完全に思い出した。円卓の騎士、パーシヴァル。いつも「パーシー」と呼んでいた。自分も「マーヴ」と略されるので、そのノリである。

パーシヴァルが差し出した手をマーヴェリックは握り返した。再会の握手。

「えっと、君もこのパーティーに?あ、違うか。ドレスブルーじゃないから」

「いえ。パーティー参加者です」

「え?退役した?」

「はい。だから、今日はスーツなんです。大佐は?」

「うん・・・まあ、その・・・パーティーなんだけど・・・」

「・・・ああ。わかりました。バックれるってやつですね?」

「あはは」

「大佐はこういうの苦手ですもんね」

「ちょっとラウンジで休憩しようと思ったら、携帯も財布も忘れてきちゃって」

「それで、帰ってしまえ、と思ったわけですね」

「まあ、そういうこと」

「でも、そんなことをしたら、カザンスキー大将とシンプソン中将に叱られませんか?最初は一緒にいらっしゃいましたよね?」

「ああ、多分。説教はされるかな」

「じゃあ、僕がご馳走するんで、一緒にラウンジに行って休憩しましょう。それから会場に戻るといいですよ」

「いいよ。悪いから」

「いえいえ。貴方はお世話になった上官ですから。もちろん、無理強いはしませんけど。でも、懐かしい昔話でもできたら嬉しいです」

「んー・・・」

マーヴェリックは考えた。ここで抜け出して帰ったら、まず説教は間違いない。慣れてはいるが正直、面倒くさい。それに、冷たい氷と静かな暴風に無限で圧をかけられると居た堪れない。きっと、バンケットルームにさりげなく戻って、アイスマンやサイクロンと一緒に帰った方が無難なのは間違いない。

「じゃあ・・・ちょっと休憩しようかな」

「ぜひ!」

パーシヴァルは嬉しそうに笑った。

そして、エントランス近くのラウンジに腰を落ち着ける。

「酒がいいですか?」

「あ、それはもう十分。アイスコーヒーを飲もうかと思ってて」

「それはいいですね。実はこのラウンジのアイスコーヒーはおすすめです。急冷式ではくて、水出しなんですよ」

「ごめん。違いがわからない。教えてくれる?」

「ああ、すみません。急冷式のアイスコーヒーはポピュラーなものです。濃くドリップしたコーヒーを氷を入れたグラスに注ぐんです」

「ああ。それなら家で作ったことがある。水出しは?」

「多めの粉を不織布のフィルターに入れて水に浸すんです。8時間から12時間くらい。同じ粉でも、まろやかさとコクが出ます。このラウンジは両方のアイスコーヒーを提供してますが、水出しの方は数に限りがあります」

「へぇ・・・じゃあ、あれば水出しがいいかな」

「この時間だから大丈夫だと思います」

そう言うと、パーシヴァルはウェイターを呼び止めて、オーダーする。通ったので、どうやら水出しコーヒーが飲めるらしい。

「急冷式は注文を受けてから作りますから少し時間がかかります。けれども、水出しは冷蔵庫で冷えているので、すぐですよ」

とパーシヴァルが説明してすぐに、先ほどのウェイターが銀盆に背の高いグラスを二つ乗せて持ってきた。ストローを使って、一口含む。

「どうですか?」

「・・・んー・・・そうだな。たぶん、よく飲むアイスコーヒーと違って、深み?があると思う。ごめん。語彙力がなくて」

「そんなことないですよ。基地や空母のコーヒーは酷いですからね」

「あはは。まあ、泥水だね。とりあえず、カフェインが摂取できればいいって感じの」

「そうそう。でも、これは?」

「率直に言って、美味しい」

「それでいいと思います。美味しいものは美味しいでいいんですよ」

「そう言ってもらえると、気が楽だな。・・・で?退役って?君は結構、筋のいいファイター・パイロットだったと思うんだけど」

「光栄です。そうですね。未練がないと言えば嘘になりますが、それ以上に父の会社を大きくするのも面白そうだと。大佐とのミッションが終わって、部隊が解散した後に父が病に伏せりまして。仕事を引き継ぐ血族が僕しかいなかったです。だから、退役の時期がちょっと早まった感じなんですよ」

「じゃあ、元々、長く軍にいるつもりはなかったのかい?」

「すみません。実家の事情で、遅かれ早かれ、退役は決まっていました」

「いや。謝らなくていいよ。誰にだって、事情はある」

「ありがとうございます」

「じゃあ、仕事の方は順調に?」

「はい。父も仕事に復帰はできないまでも、かなり回復しました。来月、結婚するので、まだ生きていてほしいですね」

「へー!おめでとう!婚約者は軍にいた時から?」

「はい」

「じゃあ、パーシーが退役して、喜んだんじゃないか?」

「あ、わかりますか?そうなんですよ。僕が軍にいた時は基本的に遠距離恋愛でしたし、それに生命の危険がある仕事だからって・・・喧嘩ばかりでした。まあ、彼女の心配ゆえなんですけどね」

「そうだね」

マーヴェリックは、ふと、キャロルの言葉を思い出した。「あの子をパイロットにしないで」。心配と愛がないまぜになった母親の言葉だったのだろう。自分だって、あの可愛い子を失いたくはなかった。だから、どんなに疎まれようとも構わなかった。そして、願書を抜いた。とはいえ、結局はパイロットになり、そして困難なミッションを僚機としてこなすことになった。互いに生命を賭けて。自分にしてもブラッドリーにしても、パーシヴァルのような生き方も選べた。けれども、空と飛行機が好きで、結局は軍に自分の身を繋ぎ止めている。そう、自分の意志で。

「大佐が、今も現役で飛んでいること、嬉しく思っています」

パーシヴァルがそんなことを言った。その言葉を素直に受け取る。

「ありがとう」

「貴方は、全ての飛行機乗りの憧れですよ」

「あはは、そうかな?いっつも叱られてるけどね」

その言葉にパーシヴァルも肩を揺らして笑った。

「どうですか?少しは、気分転換になりましたか?」

「なったよ。会場に戻ってもいいかなって気になった」

「その方が、カザンスキー大将もシンプソン中将も安心しますよ。一緒に戻りましょうか」

「そうするよ」

パーシヴァルはテーブル・チェックを済ま背、マーヴェリックをエスコートする。

「もし、ご迷惑でなければ、結婚式に招待したいのですが?」

「いいの?もし、任務で何処かに飛ばされてなかったら、行けるよ」

「じゃあ、僕の結婚式が終わるまで大人しくしていてください」

二人で笑いながら、バンケット・ルームに向かう。歩きながら、マーヴェリックはパーシヴァルの結婚式の話を詳しく尋ねる。人付き合いが苦手なマーヴェリックにとって、過去に作戦で共に戦ったとはいえども、ここまで心を許すのは珍しかった。ましてや、結婚式に参加しようなどとは。けれども、今のマーヴェリックは、僚機か年下の上司のどちらかと一緒に参列してもいいかな・・・などと思っているのだ。本当は3人で休暇を取ることができたらいいのだろうが、流石にそれは無理だろう。

「ピート”マーヴェリック”ミッチェル大佐」

マーヴェリックとパーシヴァルは足を止めた。話に夢中なっているうちに、目の前に既知の人間が立っていたらしい。視線を向けた。先に、パーシヴァルが口を開く。

「・・・ダーヴィン上院議員・・・」

マーヴェリックは、首を傾げた。この男は確かに自分の名前を呼んだ。けれども、自分はこの男を知らない。いや、忘れているか、記憶していないかだけかもしれないが。そして、パーシヴァルは、この男を知ってる。上院議員?

「誰?」

マーヴェリックは小さな声で、パーシヴァルに尋ねた。ただし、不審者を見る目つきを、その上院議員とやらに送りながら。

「元海軍在籍のダーヴィン上院議員です。何かの作戦で一緒になったことは?」

「知らない」

「以前、ある部隊で僕の上官だったことがあります」

「何で、僕のことを知ってるんだ?」

「貴方は有名なので」

二人がこそこそと話しているのが面白くないのか、上院議員は腕組みをしながら、革靴の爪先で床を鳴らしている。

「ご無沙汰しております。ダーヴィン上院議員」

先にパーシヴァルが向き直って挨拶した。

「君は、この大佐と知り合いなのかな?」

「はい。一度、作戦でご一緒させていただいたことがあります」

「それは羨ましいことだ。私は噂は聞けど、なかなか同じ基地に配属なることはなかった。紹介してもらえるかな?パーシヴァル」

「・・・・・・」

パーシヴァルが逡巡したことにマーヴェリックは気づいた。そこで、思う。「あー・・・こいつな、絶対に嫌な奴だったんだな」と。若い頃から嫌なことを言われたりされたりしてきたので、マーヴェリックの「嫌な奴センサー」は高精度だった。嫌な奴なので、パーシヴァルも自分のことを紹介するのをためらっているのだろう。マーヴェリックはパーシヴァルの肩を軽く叩いて、笑った。それから、嫌な奴、もとい上院議員に向き直る。そして、いつもの「その顔」で微笑む。

「はじめまして。ピート”マーヴェリック”ミッチェルです。まあ、貴方は僕のことを知っているみたいだけれども」

「それはもう。貴方は有名人だ。例のプラント爆破の極秘作戦、伺っていますよ」

うわ、もう、これは、絶対に、嫌な奴、決定である。何故、あの極秘ミッションのことを知っているのか。議員という権力を笠に着て、余計なことに首を突っ込んだり、口を挟んだりするタイプだ。そしてそれは大抵の場合、良い結果を生み出さない。

「上院議員、待っている方がいらっしゃるので」

「また、そんな見え透いた嘘を」

パーシヴァルの言葉を嫌な奴が鼻であしらう。

「以前から、ずっと、ミッチェル大佐とは話をしたいと思っていた。・・・どうです?場所を変えて、飲み物でも?」

「議員」

パーシヴァルが止めるのを、嫌な奴が睨みつけた。

「私は元上官だ。少しは敬意を払ってもらいたい。ああ、そうだ。君は近々結婚するとか?それに、君の会社は現在特許の件で暗礁に乗り上げていると聞いたが?」

「それは・・・」

「私はこれでも政治家の端くれだ。船がそのまま転覆するか、はたまた再び航海に出るか・・・影響力はあるんだがね?」

「・・・・・・」

二人のやりとりを聞いて、マーヴェリックは小さく息を吐いた。そして。

「えっと・・・ダーヴィン上院議員?こんな僕でよければ、お酒のお付き合いくらいしますが?あ、でも携帯も財布も忘れてきてしまったので・・・」

「ああ、もちろん。ご馳走させてほしい」

「それなら」

と、マーヴェリックは「その顔」を崩さない。

「部屋を取ってあるので、いかがですか?」

「喜んで」

「マーヴェリック!」

慌てて、パーシヴァルが割ってはいる。けれども、マーヴェリックは笑顔を崩さず、パーシヴァルに告げる。

「伝言を頼まれてくれるかな?『狼は森の中』って」

「え・・・」

「じゃ、頼んだよ?・・さて、ダーヴィン上院議員、行きましょうか?」

マーヴェリックが、そっと議員のスーツの袖に触れる。すっかりと気をよくした男は、無遠慮にマーヴェリックの腰に手のひらを当てた。そして、絨毯ばりの廊下をエスコートし始めたのだった。パーシヴァルは、その後ろ姿を口唇を噛み締めながら睨みつける。それから踵を返して、バンケット・ルームに小走りで向かった。

***

「あんなパーティーのために、わざわざスイートを?」

「せっかくなのでね。好きでなった政治家だが、これもなかなか気苦労が多くてね。たまには息抜きをしたい」

「今日の息抜きの相手は、僕ってことなのかな?」

「まさか。息抜きどころか、本命ですよ。以前から、貴方とお近づきになりたいと思っていた」

「一緒に働いたこともないのに?」

「だからかな。余計に焦がれる」

一応紳士的ではあるが、過去に自分に対して良からぬ想いを抱いてきた男と所詮は同じだな、とマーヴェリックは分析する。さて、どうするか。パーシヴァルに対して、不当な権力の行使をしようとしたことは許せない。マーヴェリックは、ちらりと腕時計を見た。そして、顔を上げると極上の笑みを浮かべながら、ドレスブルーのジャケットのボタンに指を掛けた。視線を議員から外さずに、ジャケットを脱ぐと、それをカウチの上に放った。

「ほう・・・これはこれは」

「違ったかな?」

「いいえ。全然」

「それなら、よかった」

ネクタイも外して放り、シャツのボタンを外しながら議員に近づく。議員の手が伸びてきたが、それをパシンっと払いのける。ボタンを外したシャツをスラックスから引き抜く時に、シャツ・ガーターが外れたが、それはまあ、気にしないことにする。

「触らせてもらえないのは、厳しいな」

マーヴェリックは、挑戦的で蠱惑的な瞳を議員に向けた。そして、シャツを床に落とす。

「っ・・・」

議員が息を呑むのが分かった。

「この身体が何を意味するのか、分かるよね?」

議員の瞳に映るのは、美しい肌の色ではなかった。否、美しいことは美しいのだが、数種類の濃さの鬱血痕や深さがまちまちな噛み跡が、散らばっている。

「僕の身体をここまでにすることができる人間って、どういう立場にあると思う?」

「いや・・・その・・・貴方には、後ろ盾が?」

「あー・・・まあ、そういう言い方もあるね。ある上官は、彼らを僕の守護天使だと言ったから」

議員は小さな噂を記憶の端から呼び起こした。マーヴェリックのトップガン同期。86年の首席であり、彼の僚機。そして、トップスピードで昇進し続けた人間。彼は、僚機を飛ばせるために出世したという噂。まさに、守護天使。そして、最近、その天使が増えたと。

「まさか・・・貴方を守るだけではなく?」

「・・・『氷の男』はなかなか独占欲が強いんだ。『暴風』もなかなか手厳しくてね。過去、僕を守るために、社会的に抹殺された人間ってどのくらいいるのかな?僕には、よく分からないけど。興味ないし」

「その名簿に、そいつの名前を連ねればいいのか?」

突然、議員の背後から冷えた声が聞こえる。慌てて振り向くと、ドレスブルーに身を包んだ美丈夫が二人。

「久しぶりだな、ゲイリー”アキレス”ダーヴィン」

「・・・アイスマン・・・いや、カザンスキー大将」

「で?うちの僚機が脱いでいる理由は?」

「いや・・・こ、これは・・・わ、私では・・・彼が、勝手に・・・」

「ほぅ・・・」

眼鏡の向こうで青い瞳が顰められる。つかつかと、サイクロンが議員の横をすり抜けて、カウチからジャケットとネクタイを回収し、マーヴェリックに後ろから着せかける。今度はそのサイクロンが口を開く番だった。

「私は、飛行技術がカスなアヴィエイターの名前は覚えないようにしてるんだが、君のことは知っている。除隊する時のコールサインは「アキレス」だが、最初のは「タートル」だったかと」

「へぇ」

マーヴェリックがサイクロンの腕の中で、面白そうに笑う。

「ずいぶんな臆病者で、なかなかスピードが出せず、チームから置いてけぼりをくらった。違ったかな?」

「うわぁ・・・。でも、それって亀に失礼だよ」

「確かに。それで?貴方は大丈夫なのか?」

「んー・・・そうだねぇ・・・」

マーヴェリックはチラリと亀議員を見た。自分の返答次第で、この男の将来が決まる。

「わ、私は本当に何もしていない。ただ、酒を・・・そうだ。酒を一緒に誘っただけで・・・彼が勝手に・・・」

「そうなのか?マーヴェリック。大事なことだから、本当のことを言いなさい」

アイスマンに促されて、マーヴェリックは緑色の瞳を眇めた。

「自分の権力を使って、僕の友人に無理をふっかけたんだ」

「お前の友人なら、俺の友人でもあるな。どう思う?サイクロン」

「それならば、私の友人でもありますね。それに、パーシヴァルは私の部下だったこともあります」

「え?そうなの?ボー」

「私が空を降りた直後に、配属された。彼は良いアヴィエイターだ。で?この男はパーシヴァルを脅したのか?」

「そう。僕が言うことを聞かなったら、代わりにパーシーの仕事の邪魔をするってさ」

「最低だな」

「最低でしょ?」

「ち、違うっ!」

ダーヴィンはジリジリと後ずさると、突然、脱兎の如く部屋を駆け出した。スイートルームにドレス・ブルーの三人が残された。

アイスマンは軽く肩を竦めると、マーヴェリックに近付く。

「マーヴェリック。以前にも言っただろう。ハニー・トラップはやめなさい」

「だって。あいつ嫌な奴なんだ」

「まあ、それは分かる。けどな、いつもこんな風に上手くいくとは限らない。昔、俺やスライダーが間に合わなかったことがあっただろう」

「あの時は拳を使った。今も使える」

「アヴィエイターの手は大事にしろ。サイクロン、亀の始末は任せる」

「心得ました」

答えて、マーヴェリックのシャツを床から拾い上げる。

「身なりを整えるぞ」

「ん。あー・・・シャツガーターがスラックスの中で邪魔」

「全く。カザンスキー閣下の仰る通りだ。いつもこんな風に上手くいくとは限らない」

「そお?勝算はあったよ。僕が計算した時間通りに、二人とも来てくれた」

シャツ・ガーターを直すために、マーヴェリックはスラックスのベルトをカチャカチャと外す。サイクロンに身なりを整えてもらいながら、マーヴェリックは言った。

「ねえ、三人でパーシーの結婚式って行けるかな?やっぱり、アイスとボーが同時に休暇ってダメ?」

「いや、善処しよう」

アイスマンは即答する。

「彼には恩義ができたからな」

「やった!」

嬉しそうにマーヴェリックは笑った。

***

そして、3ヶ月後。

素晴らしい明るい太陽の元で、パーシヴァルの結婚式が行われた。軍服ではない盛装をした、海軍のトップと言える三人が祝福し、そして参列者の注目を浴びてしまったことは言うまでもなかった。

後に、マーヴェリックはパーシヴァルに謝った。

「ごめんね。うちの柄の悪い二人が変な目立ち方をしちゃって」

それに対して、パーシヴァルは面白そうに笑った。そして、思ったのだ。大将と中将の柄が悪かったのは、一重に、この美しい黒い狼を守るためなのだなぁ・・・と。

END