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処女淫魔が落ちていたので・・・ 02

アーロン・ホッチナーは、昨夜、淫魔を拾った。それも処女の。「魔界を首席で卒業した」と言っていたが、別に普通のセックスだったと思う。もっと、淫魔・・・リードが物凄いことをやらかしてくれるのかと思ったが、いたって普通のセックスだった。とはいえ、ホッチに不満はない。ホッチは路地裏に落ちていた淫魔に、見事に堕ちたのだから。

「ん・・・」

もぞもぞとリードが動きながら、ホッチに体を摺り寄せてくる。ホッチ的には、そろそろ起きる時刻だ。BAUのリーダーたるもの、遅刻は許されない。しかし、この可愛らしい寝顔をまだみていたい・・・という思いも事実で。

ホッチは、右手の指を金髪に差し込むと、その頭を支えるようにして、口付けた。ほんの少し開いていた唇に舌を滑り込ませる。そういえば、昨夜は満足なキスをしていなかった。

「んん・・・」

ホッチが自分の舌をリードのそれに絡めて吸うと、目を瞑ったままではあったが、淫魔は反応した。クチュクチュとリードの舌もホッチの舌を味わうように動いている。

覚醒しているのか、いないのか。いや、起き始めてはいるのだろう。リードの指が、ホッチの腕にかかる。大きなリップ音を立てて、しかし名残惜しそうにホッチが離れると、リードの眼はしっかりと開いていた。

「おはよう、リード」

「おはよう、ホッチ。美味しかった」

「美味しい?」

「うん。これ、朝御飯?」

「どういう意味だ?」

「ああ・・・そっか・・・。えっとね、唾液もご飯になるの、僕たちの場合は」

「なるほど。そういうことか」

淫魔にとって、体液は全て栄養になるということなのだろう。

「朝食は別に用意しよう。人間界のものを」

「うわぁ。僕、人間のご飯も好き。昨日のご飯も美味しかった。ゴミ箱のご飯と違うよね。あったかくて、いい匂いで」

「・・・二度と、ゴミ箱のものは食べないように」

「え・・・でも・・・」

「でも?」

「だって・・・その・・・」

言い淀むリードを見つめるが、どうやらリードは睨まれると感じたらしい。しょんぼりと項垂れてしまった。

「まあ、いい。あまり時間はないが、朝食を取りながら、話をするとしよう。シャワーを浴びてくるといい。もうやり方はわかるな?」

「うん!泡だらけにするんだよね!」

少々違うが、それは言わないでおくことにする。リードがベッドを降りてバスルームに走って行くのを眺めながら、自分は朝食の準備をするべく立ち上がった。

********************

「これ、なあに?」

「ベーコンエッグとサラダ。それにコーンスープとトースト」

「この赤いの、甘い匂いがする」

「苺ジャム。パンにつけて食べる」

ホッチがちぎったトーストに苺ジャムをつけて渡すと、リードはパクリと口に入れて咀嚼する。そうして瞳を輝かせる。

「美味しい!!!!僕、こういう甘いの好き!!!!」

どうやら、この淫魔は甘党らしい。そうしたら・・・。と、ホッチはコーヒーに目をやった。おそらく、ブラック・コーヒーは好まないだろうと。

ホッチはリードの分のマグカップを持ち、立ち上がった。

「どうするの?その黒いの」

「これはコーヒー。君は甘いのが好きらしいから、砂糖とミルクを入れる」

キッチンで、かなり甘いミルク・コーヒーに仕上げると、ホッチはマグカップをリードに渡した。

「熱いから、気をつけろ」

「うん。・・・ん?んん?これ、ちょっとほろ苦いけど・・・甘い!!!美味しい!!!!」

「それは良かった。緑色のも食べるように」

「はーい」

リードがサラダを口に入れると、動きが止まった。

「どうした」

「甘くない」

「当たり前だ。それはサラダ。野菜だからな。しかし、食べるんだ」

「う・・・」

「赤い野菜は甘いぞ。トマトだ」

リードはようやくレタスを嚥下すると、トマトを口に入れた。今度は表情が明るくなる」

「ジャムとは違う甘さだけど、これは美味しい野菜だね!甘いね!」

ホッチは楽しくなる。殺風景だった一人きりの食卓が、リードがいると明るくなる。その百面相とともに。

「俺はこれから仕事だから、もうすぐ家を出る」

「うん・・・わかった。じゃあ、僕もどっかに行くね」

「どうして?」

「どうしてって・・・」

「ここにいればいい」

「いいの?」

「’というか、俺は君をここにいさせなければならない。その義務がある」

「義務?・・・でも、僕、淫魔だよ?人間じゃないよ?」

「確かに君は淫魔だが、バージンだったろう?」

「うん・・・セックスをしたのは昨日が初めて・・・。あ、でも!僕、主席卒業だし!」

「それはわかった。とにかく、人間界では、バージンを貰ったら、一生大事にして、生涯の伴侶として、傍に置いておかなくてはならないというルールが存在する」

大嘘をホッチは真剣に語った。普段は無口なホッチだが、さすがBAUリーダー。ハッタリをかますことには長けている。

「そ・・・そうなんだ」

「魔界ではそういうことは習わなかったか?」

「・・・うん。テキストには書いていなかった・・・」

「つまり、俺は君のバージンを貰った。だから、君は俺の花嫁ということだ。俺は君を傍に置いておく義務がある。だから、君はもう、ゴミ箱のものは食べない、ということだ」

「あー・・・そこにつながるんだー」

「俺は君の夫として、君の衣食住を保証する義務があるんだ。まあ、服に関しては、とりあえず、俺のものを着ることにして、今度の休みにでも一緒に買いに行こう。住処はここ。まあ、もう少し広いところに引っ越してもいいな。それから、食べることに関しては、こうやっておやつを与えるし、もちろん、君の主食も提供する。それが夫の務めだからな。ただし、絶対的な条件が1つある」

ホッチは真剣な表情で人差し指を1本、立てた。

「な・・・何?」

ここまでの話でだいぶ圧倒されているリードも、真剣に聞き返した。

「花嫁は、夫以外の人間と食事をしていけない、ということだ。おやつは許すが、主食は絶対にダメだ」

「つまり・・・その・・・セックスは、ホッチとしかしちゃいけないってこと?」

「そういうことだな。人間界の言葉で言えば、貞操を守る、ということだ」

「貞操を守る・・・」

リードは頭の中のノートにメモをした。魔界で勉強したことのない情報が盛り沢山だ。人間界で暮らすのにも、色々とあるらしい。もっと先輩淫魔に話を聞いておけば良かった。人付き合いが苦手なリードは、もっぱら講義と書物だけで、勉強をしていたのだ。けれども、どうやら、この人と一緒にいれば、食べることには困らない、ということは理解できた。

「ということで、俺は仕事に行く。君は?」

「この部屋にいる」

「いい子だ。暇だったら、書棚の本でも読むといい。冷蔵庫の中の物も勝手に食べていい。ただし、外には出るな」

「うん。わかった!」

話は終わり、というようにホッチは立ち上がった。時計を見れば、仕事に行くちょうど良い、いつもの時刻だった。

「あ、待って・・・」

ドアに向かうホッチの背中をリードが追いかける。

「どうした?」

「ありがとう、ホッチ!僕・・・野良淫魔にならなくてもいいんだね。なんだか、嬉しいな」

リードの嬉しそうな顔が、ホッチの表情も綻ばせた。

「リード。もう1つ、人間界のルールを教えてやろう」

「うん!僕、いっぱい覚えるから!」

「夫が出かけるときは、『行ってらっしゃい』と言って、キスをするんだ」

「わかった!えっと・・・行ってらっしゃい!」

リードはちょっとだけ踵を上げると、両手でホッチの頬を軽く包んでキスをした。軽いキスと深いキスと、どっちがいいのかな?・・・と考えていたら、ぐっと腰を引き寄せられる。そして、暖かい舌がリードの口の中に入ってきた。どうやら、深いキスが正解らしい。だから、リードも舌を絡めた。この人の体液は美味しい。温かくて、甘い。昨夜は精飲できなかったから、今度は口で飲んでみたいな、と思う。夫とか、花嫁とか、よくわからないけれども、たった一度のセックスでお別れしたくなかったから、正直、嬉しい。食事をしたい・・・というよりも、このアーロン・ホッチナーという人とセックスしたい。そういうことだ。

ようやく唇を離すと、ホッチが溜息をついた。

「まずいな。俺の方が歩いが、朝のキスは軽いやつじゃないと、毎日遅刻だ」

そう言って、ホッチはスーツの内ポケットから携帯端末を取り出した。

「・・・ああ、ロッシ。俺です。すみません。2時間ほど遅れます。いえ、体調は大丈夫です。ちょっとした私用です。じゃあ」

携帯端末を切ると、ホッチは片手でリードの腰を掴んだまま言った。

「さあ、ベッドに戻るぞ。2時間しかないがな。君の食事タイムだ」

ホッチはリードを横抱きにすると、ズカズカと部屋を横切って、ベッドの上に可愛らしい金髪の淫魔を落としたのだった。

END

処女淫魔が落ちていたので・・・ 01

いつものように、遅い時間まで書類仕事をし、ようやくアーロン・ホッチナーは帰途についた。陰惨な事件は毎日のように起こるので、書類が減ることはないし、ましてや無くなることもない。街中を歩きながら、今夜の夕食はどうしたものか・・・と考える。が、あまり食に執着がある方でもないので、そこは適当だ。中華のテイクアウトでもいい。少々薄汚れたビルとビルの間の暗がり。そこに無意識に目をやりつつも、ホッチは足を止めることなく歩き続けた。が、数歩ほどの後、立ち止まった。一瞬。ほんの一瞬だが、地べたに投げたされた足のようなものを捉えたような気がしたからだ。無視するか、それとも・・・。FBIの敏腕プロファイラーは、事件性の有無を考えた。そうしたら、答えは1つだった。後悔するよりも、確認したほ方がいい。それが無駄であったのなら、それは街の平和の証拠だからだ。そう考えて、ホッチは踵を返すと、数歩、道を戻って路地に入ったのだった。

********************

大きなゴミ箱とゴミ箱の間にそれは落ちていた。少々長めのくすんだ金髪に隠れた顔。しかし、それは青年のものとは判断できた。着ているものはあちこち破れていて、汚れている。かろうじて靴は履いていたが、その靴もボロボロだった。ズボンと靴の間から見える靴下は、なぜか左右で柄が違った。一瞬、もう手遅れで死んでいるのかとも思ったが、首筋に指を当てると、きちんと脈打っていた。

「おい。大丈夫か」

ホッチは青年の頬を軽く手の平で叩く。

「ん・・・・・・」

酔っ払いかとも思ったが、酒臭くはなかった。だったら、ジャンキーか?と警戒する。

ゆっくりと開いた瞼から見える瞳は、淀んではいなかった。それよりも、澄んでいる、と言った方が正しい。ジャンキーではなさそうだった。

「大丈夫か?」

ホッチは再度訪ねた。

「・・・・・・お腹・・・空いた・・・」

そう言うと、金髪の青年は溜息をついて、再び瞼を閉じたのだった。

********************

「うわぁ!美味しい!これも・・・これも!!!」

「美味しいって・・・中華のデリだぞ」

「でも、すっごく美味しい!初めて食べた!!!!」

ダイニングテーブルで中華デリを物凄い勢いで食べている青年を見ながら、ホッチはグラスのウィスキーを一口飲んだ。

あの路地裏で、再び瞼を閉じようとした青年を無理矢理立たせて、表通りまで引きずった。空腹で体に力が入らないらしく、フラフラしてはいたが、それでも何とか、ホッチが止めたタクシーには乗り込めた。運転手は青年の身なりを見て、一瞬嫌な表情を見せたが、ホッチがチップを前払いすると、文句を言わずに車を発進させてくれた。途中、中華のデリを買って、そして現在、ホッチのアパートである。まずはバスルームに突っ込みたかったが、フラフラしている青年が可哀想になり、とりあえず、手だけはしっかりと洗わせて、食卓につかせたのだ。テーブルに並べたられたデリを見ると、青年の意識は覚醒し、橋を握って・・・そう、まさに握って、デリを口の中に入れていったのだった。

「あ・・・ごめんなさい。僕・・・もしかして、貴方の分も食べちゃってる?」

青年は橋を握ったまま、動きを止めると、ホッチに問うた。けれども、ホッチは首を横に振り、青年に食べることを促したのだった。それからは、チラチラとホッチの表情を伺いながら、デリを食べていた青年だったが、ようやくお腹が満足したのか、安心した吐息を漏らすと、ようやく箸を置いたのだった。

「満足したか?」

「うん!今夜のゴミ箱は不作だったんだ!あんまり食べ物がなくって・・・」

「ちょっと待て。君は、ゴミを食べて生活しているのか?」

「・・・まあ・・・そう・・・かな?」

「働いていないのか?」

「んー・・・そういう習慣がない・・・かな?」

「お金は?」

「持ってないよ?」

稼いでいないのなら、そうだろう。しかし、かといって犯罪に手を染めているわけでもなさそうだ。ということは、ホームレスなのか?この青年は。

「何処に住んでる?」

「いろんな所」

どうやら、定住しているホームレスではないらしい。

「今夜は・・・何処で寝るんだ?」

「・・・んー・・・わかんない」

ホッチは小さく溜息をついた。これは放ってはおけない。だから、提案をする。

「今夜は、この部屋に泊まるといい。ただし、その前に風呂に入る、という条件がつくが」

「風呂?・・・風呂って、何?」

「・・・・・・・・・・・・」

何なんだ。この、風呂の存在を知らないというのは。追求したかったが、お腹がいっぱいになった青年の目が、とろんとしてきたのを見て、その課題は後にとっておくことにする。まずは、この青年を風呂に放り込まなければ。

ホッチは、青年を立たせると、手を引いて、バスルームへと連れて行く。

「これが、お風呂?」

初めて見るかのように、キョロキョロとする。ホッチはバスタブに湯をためながら、青年い言った。

「服を脱いで」

「ん?うん」

恥ずかしがる風でもなく、青年はポイポイと衣服を脱いでいった。どう考えても、捨ててもいいような衣服を。せっかく体を綺麗にしても、それをまた着たら意味はない。とりあえず、バスローブを着せて、その後は自分のシャツでも貸せばいいだろう。いや・・・くれてやる、と言った方が正しいかもしれない。

「さあ、バスタブに入れ」

ホッチが指さすと、青年は素直にバスタブに入った。

「わお!あったかい!」

そう言って、青年は立ったままだ。次に何をすべきかはわからないらしい。ホッチは腕まくりをして、今度はバスタブの中で座るように命じた。そして、シャンプーを泡立てると、それを青年の頭に乗せ、指を使って洗ってやる。

「ねえ、これって、何?どうして頭をゴシゴシするの?」

「これはシャンプーだ。髪を洗っているんだ」

シャンプーの泡のせいで、顔の汚れも落ちる。想像していたのと違う、色白な肌が見えた。しかし、それも熱い湯のせいで、薄く桃色がかる。石鹸で顔を拭うようにして洗う。今度はスポンジを泡でいっぱいにして、それを青年に渡した。が、やはり、首を傾げられてしまう。「どうするの?これ?」という表情だ。体を洗う、ということがわからないらしい。ホッチはスポンジを取り上げると、背中から、青年の体を洗い始める。

「んー・・・何だか、気持ちいいね、お風呂って!」

「そうか、それは良かった」

不思議で、可笑しいことではあったが、ホッチはこの状況を案外、楽しんでいた。薄汚い青年の体が、どんどん泡で美しくなっていく。薄桃色に染まった陶器のような皮膚。風呂の熱が冷めたら、きっとそれは白磁に変わるに違いない。

全身の汚れを泡と一緒にシャワーで洗い流すと、ホッチは青年にバスローブを纏わせた。そして、そこで初めて、思い出したように名前を聞いたのだった。

「僕?リード!スペンサー・リード!」

美しくなった金髪の青年は、にっこりと笑って答えたのだった。

「貴方は?」

「アローン・ホッチナー」

ホッチも少しだけ笑って答えた。

********************

別に青年・・・リードをソファで寝かせても良かったのだが、どうせダブル・ベッドであったので、ホッチはリードをベッドに促した。ホッチのシャツを借りたリードは、嬉しそうにそれに従った。一人暮らしとはいえ、仕事で疲れた体には、質の良い睡眠が必要と感じたので、ホッチは部屋にダブル・ベッドを置いていたのだった。

「久しぶりのベッドだぁ」

風呂は知らなくても、ベッドは知っているのか、と思わずツッコミそうになったが、それを堪えてホッチはリードを先にベッドに寝かせる。リードはちゃんとホッチのスペースを開けて毛布に潜り込んだ。そういうこともわかって入るらしい。

ホッチもベッドに入り、ベッドサイドの灯りだけにする。寝る前の習慣で、本を数ページだけ読むのだ。

「それ・・・面白いの?」

「犯罪心理学の本だ。君・・・リードは、本を読んだことは?」

「あるよ!いっぱい読んで勉強した!」

「しかし、風呂は知らないんだな」

「だって、僕が読んだ本には書いてなかったもん」

一体、何処で、どのような本を読んだのか気になったが、まずは寝かせてやろうと思い、ホッチはリードの頭をぽんぽんと叩くと、本に目を落とした。

しばらくして・・・。

きゅう・・・・。

お腹の鳴る音がした。自分ではない。ホッチは隣に横たわるリードに目をやった。彼は眠ってはおらず、じっと自分を見ていたらしかった。

「あれだけ食べて、またお腹が空いたのか?」

「ん・・・だって・・・主食じゃなかいから・・・」

「まあ、確かに中華のデリだったしな。・・・何か・・・作るか?」

しかし、リードは首を横に振った。

「人間の食べ物は、おやつみたいなものだから、どれだけ食べても、すぐにお腹が空いちゃうの」

「・・・・・・は?」

「あのね」

リードは毛布から出て、ベッドの上に正座をして姿勢を正した。それを見て思わず、ホッチも背筋を伸ばす。

「何だ?」

「僕・・・人間じゃないないの。えっと・・・その・・・淫魔・・・なの・・・」

最後の方はかなり声が小さくなっていたが、ホッチの耳にはしっかりと聞こえた。「淫魔」というワードが。

「・・・説明しろ」

「あの・・・僕、魔界からきたスペンサー・リードっていう名前の淫魔なの。数日前に、もうお前は人間界で生きていけって言われて、魔界卒業なの。・・・本当はもっと早くにご主人様を見つけて生活をしなくちゃいけなかったんだけど、僕、そういうの人を見つけるのが苦手で・・・。あ、でも、自分で言うのも何だけど、優秀ではあるんだよ?今期の淫魔の中ではペーパーテスト、1位だから!!僕、勉強は得意なんだ!」

「勉強って、一体どういう勉強なんだ?」

「え?・・・まあ、その・・・えっと・・・その・・・ベッドの中ではどうすべきかっていう・・・」

「つまり、セックスってことだな」

「・・・そう」

「それで?」

ホッチは読みかけの本をベッドサイドに置いて言った。

「ベッドの中では、どうすべきなんだ?」

自分の白いシャツを着たリードにのしかかり、ホッチは重たい声で尋ねたのだった。

********************

「やっ・・・あっ・・・あんっ・・・やぁ・・・ち、違うのぉ・・・」

「何が違うんだ?」

ホッチがリードの可愛らしいペニスをしゃぶりながら、その口の隙間で尋ねる。

「んっ・・・ぼっ・・・僕が・・・ホッチのを、お口でするのぉ・・・」

「ああ・・・それは、後でお願いするとしよう」

「ふえ・・・やんっ・・・い・・・イっちゃう・・・出ちゃうよぅ・・・」

リードは両脚の太腿をがっしりと掴まれている。もちろん、体を割り開かれて。リードは指先でシーツを握りしめて、頭を左右に振りながら、絶頂を我慢している。この行為は知っていた。魔界で勉強した。けれども、自分は淫魔だから、「される」より「する」方の勉強の方が多かった。何故なら、口での精飲は淫魔の食事になるからだ。

「あっ・・・だめっ・・・も・・・や・・・むり・・・イっちゃうっ・・・」

「いいぞ、いけ」

くぐもった声で言うと、ホッチは口をすぼめて、十分自分の口に収まるペニスを吸い上げた。

「ひっ・・・あああああああ・・・・あ・・・ああんっ・・・んん~・・・」

一瞬、腰を跳ね上げる。そして落ちるその腰をホッチの逞しい腕が捉えて、そっとベッドに降ろした。

「淫魔なら、こんなこと、初めてでもないだろうに」

リードの金髪を梳きながら、ホッチが言った。その言葉にリードは唇を噛んで、横を向いた。

「どうした?リード」

「・・・本当は僕がするのに・・・。でも・・・こんなに気持ちいいなんて・・・知らなかった・・・僕」

「されるのは初めてか」

「・・・するのも初めてだから・・・下手だったらごめんなさい。・・・あ、でも僕、主席で卒業はしてるからね!」

「初めて?」

「うん」

「あー・・・・魔界では・・・その・・・実地訓練とかなかったのか?」

「動画は見た」

「つまり・・・君は・・・バージンなのか?」

「人間界の言葉で言うなら・・・まあ・・・そう・・・かな?」

その言葉に、ホッチが心の中で舌なめずりをする。

処女の淫魔。

こんな体験をすることができるのはそうないだろう。

リードの体はホッチにとって好ましかった。堕ちた・・・と言っても過言ではない。

「リードの食事は、こっちの口でもいいのか?」

するりと、後孔を撫でる。

「あんっ・・・」

突然の刺激に一瞬、体を浮かせるが、リードはすぐにコクリと頷いた。要は、人間の精を体に取り込めばいいのだ。

「それなら・・・」

ホッチはリードの両足を抱え上げると、そこを後孔を露わにする。そしてそこへ顔を寄せ、舌で舐め、解し始めた。

「あ・・・ん・・・く・・・くれるの?ホッチ・・・僕に・・・くれるの?」

「好きなだけ飲むといい。こっちで口でな」

リードの両足を割り開いたまま、体重をかけると、ホッチは己の切っ先をリードの薄桃色の孔へと押し込んだ。そこはほんの少しだけホッチを拒んだが、淫魔の特性なのか、すぐにゆるりとホッチを受け入れた。

「辛くないか?」

「大丈夫・・・これって、僕の食事だから」

にこりと微笑むと、リードは細い両手をホッチの首に絡めた。そして、

「動いて?僕、初めてだけど・・・今、すっごく、貴方のことが欲しい」

「初めてなら、少しは優しくしないとな」

言いながら、ホッチは動き始めた。口では言ったものの、優しくできる自信は全くなかったのだが。

「ああ・・・すご・・・ホッチ・・・奥・・・来てる・・・んぅ・・・当たってるの・・・」

リードがホッチにしがみつきながら、その耳元で言う。その言葉が一層ホッチを煽る。リードの柔らかい内壁が、自分を絡め取るように、纏わり付く。それを押し開くように、腰を進め、穿つ。何度も叩きつける。その度に、自分がリードの奥深くに侵入しているのがわかる。

「きっ・・・気持ち・・・いいよぅ・・・こんなに・・・凄いって・・・わからなかった・・・」

「そうだな。座学だけじゃ、わからないよな。それで?・・・美味いか?」

きっと先走りの液体は、リードの奥に染み込んでいるはずだ。

「うっ・・・うん・・・美味しい・・・ホッチの・・・美味しいの・・・もっと、もっと美味しいの・・・ちょうだい?」

「もちろんだ」

明日も仕事ではあるが、今はこの体を離すつもりはない。ほんの偶然で拾った淫魔ではあるが、もしかすると、これは神の采配なのかもしれない。体の下で可愛らしく揺れて悶えるリードを見ながら、ホッチはその細い指に自分の指を絡めた。今夜だけではなく、明日も、明後日も、この体を抱いていたいと思いながら。

END

貴方を想いながら

『急遽、人と会うことになった。今夜は行けない』

そっけないメッセージはとてもホッチらしかった。アパートへと歩く道の途中でそのメッセージを読んだリードは小さく溜息をついた。

でも、これは、日常茶飯事のこと。

リードは、キュっと唇を噛むと、再び歩き始めた。

********************

鞄を小さなソファに放り、自分はベッドへと軽くダイブした。本当なら、隣にはホッチがいるはずで。けれども、現実は独りぼっちだ。

毎日、オフィスで顔を合わせているとはいえ、それは自分のアパートで彼と過ごす時間とは違う。会えると思っていたのに会えない。一緒に過ごせると思っていたのに過ごせない。期待していただけに、心がいつもよりも余計に痛む。ツキンとする。寂しい。

溢れそうになる涙を我慢して、リードは天井を睨みつけた。そして、そっと目を閉じる。

会う。それは逢瀬だった。会えば、身体を重ねる。もっと恋人らしいことをすればいいのかもしれないが、リードは誰かと付き合ったことなどなく、何をしたらいいのかわからない。だから、ホッチと会えば、身体を重ねることがリードにとってのデフォルトだった。

だから、今夜も、そのつもりだったのだ。というよりも、それ以外に何をするかなんて、考えたこともなかった。

リードは手をベルトにかけてカシャカシャと外し始めた。ボタンを外し、前を寛げると、そろそろと手をその中に差し入れた。

「ん・・・・・・」

ブリーフの上から、まだ硬くはなっていないそこを撫でるように触る。思い出すのは、ホッチの指や手の動きだった。ジニアスは、自分が受けた行為を鮮明に覚えている。それをなぞっていくのだ。ホッチが自分に与えてくれた快楽を、記憶から掘り起こす。柔らかく揉むように、それから引っ掻くように。

「ん・・・ふ・・・」

リードは膝を立てて、軽く足を開いた。指先にゆっくりと力を込めていく。ホッチはブリーフを履いたままのリードを弄ってイかせるのが好きだった。リードは両方の手を当てがって、刺激を強くしていく。ホッチが与えてくれる刺激には遠く及ばないが、いないのだから仕方がない。

「あ・・・あ・・・あんっ・・・」

ホッチの手の動きを思い出しながら、それをなぞるようにして手を動かす。決定的イケる刺激がなくて、辛くなる。恋しい。ホッチが・・・恋しい。それでも。ホッチの手の熱さを、巧みな指の動きを、鮮明に思い起こす。耳元で囁かれる、愛の言葉も。

「や・・・あ・・・い・・・く・・・んっ・・・んんっ・・・」

ぴくんっと腰が浮く。と同時に、リードはブリーフに中に精液を放った。

「・・・あ・・・はぁ・・・」

刺激としては物足りないのだが、それでもイケた。

リードは、ゆっくりと身体を起こし、チノパンを脚から抜いて、ベッドの下に落とした。カーディガンも脱ぎ、ネクタイも外す。それからじっとりと濡れてしまった白いブリーフを右脚だけ抜いた。左の太腿に白い布が引っ掛かる。そういうのをホッチが好むから、リードはそうしたのだ。ここにホッチはいない。けれどもリードは彼をいるものとして、行為に耽ることにしたのだ。

リードは横向きに寝ると、右手の指を丁寧に舐めた。自分の性液の味がするが、気にはならない。ホッチの手に絡んだ自分の精液を舐めることはよくある。クチュクチュと舐めると、その指をリードは自分の後孔へともっていった。軽く呼吸を整えると、つぷりと指先を挿入する。

「んっ・・・」

軽く唇を噛みながら、リードはクッと指先をもっと侵入させていく。ぐるりと内壁をなぞるようにして指を動かす。それは、ホッチがリードを解すために、いつもしてくれることだった。今夜はホッチの太くて熱いものはもらえない。けれども、彼を想いながら、自分を慰める。

指を、1本から2本へと増やす。中で指を開き、アナルを広げる。リードが、「欲しい」といえばくれるのに。今はその相手がいない。

「はっ・・・はぁ・・・」

どこか虚しさを感じつつも、リードはもう1本。指を増やした。そして指を抽送させる。奥まで届かないことにもどかしさを感じるが、入り口付近を引っ掻くように刺激するのは良かった。

「ん・・・ん・・・あ・・・あんっ・・・アーロン・・・欲し・・・貴方が・・・欲しい・・・」

思わず、そんなことを呟いてしまう。聞いているのは、アパートの壁だけだというのに。

けれども。

突然、誰かの手によって肩を掴まれ、仰向けにされる。その拍子に、リードの後孔からは指が抜けた。

「ひゃっ・・・あ・・・」

部屋の灯りの眩しさに目がチカチカするのを我慢して、相手を確かめる。それは・・・。

「・・・ホッチ・・・あ、なんで・・・?」

「予定が変わったから。それで、来た。メッセージは送ったんだが・・・まあ、こんなことをしていたら、気がつくわけがないな」

「ふえ・・・」

ホッチいう「こんなこと」の言葉にリードがドキリとする。まさか・・・。

「・・・あの・・・ホッチ・・・いつ・・・来たの・・・?」

「スペンスが後ろで一人遊びを始めるあたりから」

「や・・・だっ・・・もうっ・・・こ、声かけてよぅ・・・」

「こんな可愛らしいスペンスは、そう見られないからな。堪能させてもらった。しかし、ご指名があったからな。・・・欲しいって?俺が」

「・・・ん・・・そんなの・・・決まってる・・・」

「もう一度。言ってみろ」

「・・・えっと・・・その・・・貴方が・・・アーロンが・・・欲しい」

「了解した。・・・前からがいいか?それとも後ろから?」

「・・・アーロンの顔が見たい・・・だって、今夜は会えないって思ってたから」

「そうか」

ホッチは嬉しそうに微かに笑うと、スラックスの前だけを寛げて、リードの細い身体をベッドに押し付けた。リードの左太腿に引っ掛かっている白いブリーフを視界に入れると、満足そうに微笑む。

「スペンスは、本当に俺の好みをわかってるな。いい子だ。いい子にはご褒美をあげないといけないな」

ホッチはリードの両脚を抱えて割り開き、そのブリーフの引っ掛かった白い太腿をじゅっと吸い上げた。リードの放ったものの匂いが鼻腔を掠める。太腿には、すぐに赤い痕が残った。そんな痕をいくつも付けてから、ホッチはようやく、リードの後孔に既に猛った自分自身を当てがい、グッと身体を推し進めたのだった。

「はっ・・・あ・・・ん・・・やっぱり・・・指なんかより・・・アーロンがいい・・・一番・・・いい・・・好き・・・」

ぎゅっとホッチにしがみつき、リードは可愛いセリフを吐いたのだった。ホッチが悦び、余計にリードに無理を強いることをすっかりと忘れて。

激しくて、甘くて。それでも、リードにとって幸せが時間が訪れたのは’確かだった。きっと、夜中過ぎまで続く、激しくて、甘い、時間。

END

ありがと、JJ。でも・・・(涙)

いつも通りの時刻に出勤して、いつも通りの砂糖とミルクの分量で自分用のコーヒーを作る。そして、さあ、自分の席について仕事だ!と振り向いて1歩踏み出した瞬間、悲劇は起こった。

「うわぁっ!!!」

「うおっと!!!」

ドンっ!

ひゅーん。がっしょーん。

シーン・・・・。

一瞬の静けさ。しかし、それを先に破ったのはモーガンだった。

「おいっ!リード!大丈夫かっ?熱くねーかっ?火傷なんかしてねーかっ?」

「あっ・・・うん・・・だいじょぶ・・・・どこも・・・熱くない・・・けど・・・ごめん・・・モーガン・・・」

呆然とした表情で佇むリード。その体の前面はコーヒー色に染まっている。背後にモーガンがいることに気付かず、振り向きざまにぶつかってしまったのだ。そして、リードとモーガンの両方のコーヒーを引っ被ってしまう結果となった。モーガンの方はといえば、その身体能力の高さ故に、見事にコーヒーを避け、染み一つ、付くことはなかった。

「「「あらあらあらあら」」」

JJ、エミリー、ガルシア。BAUの女子会メンバーたちがわらわらと集まってきた。

「スペンス、怪我はない?火傷はないって言ってたけど、マグカップの破片で怪我なんかしてない?」

「ありがと、JJ,心配してくれて。でも、服が・・・。あ、でも、大丈夫だ!出張バッグの中に着替えが入ってるから!それに着替えてくる!」

「ちゃんと濡らしたタオルで体も拭いた方がいいわよ?絶対にコーヒーの匂いが肌についてるわ」

と、エミリー。

「うん。そうするね」

「新しいマグカップは私がプレゼントするわ。仕事場にいっぱいあるから。新しいコーヒーも入れといてあげる」

「ありがと、ガルシア」

リードは3人の女子に笑顔を向けると、ロッカーに行くべく、踵を返した。

「床は俺が掃除しとくからなー」

これはモーガン。

「あ、ごめんね、モーガン。僕の方が悪いのに」

振り返ったリードの申し訳無さそうな表情に、モーガンは「気にすんな」と返した。

「スペンス。私も一緒に行くわ。髪をまとめるゴムをおいてあるの。さっきポケットを見たらなくって」

「そうなんだ」

男子ロッカーと女子ロッカーは隣り合っている。JJは「行きましょ」と笑顔で声をかけてリードを促した。

********************

ロッカーの中から出張用のバッグを取り出して、中身を確認する。シャツもカーディガンもネクタイもチノパンもある。リードは安心したように息を吐いた。後は、下着だ。2人分のコヒーを全て被ってしまったので、下着まで濡れてしまっていたのだ。

「あれ?」

リードは、こてんっと首を傾げた。下着が見当たらないのだ。

「あれれれれれれ~?」

リードはバッグの中身をポイポイとそこら辺に放り出す。元々、荷物が少ないリードである。バッグはあっとう間に空になった。しかし、パンツはない。

「ど・・・どうしよう・・・え?・・・ノー・・・パン?うー・・・それはやだなぁ・・・」

その時、男子ロッカーのドアがノックされた。

「スペンス?着替え終わった?」

ドアの向こうからJJの声がする。

「あ・・・ま・・・まだっ・・・」

「どうしたの?何かあった?もしかして、やっぱり火傷、してたの?ちょっと!入るわよ!」

「え?ええ?」

リードの返事などお構いなしに、バンっとロッカールームのドアが開けられる。

「スペンス!本当に大丈夫なの!?ちょっと見せなさい!」

JJは問答無用にリードのカーディガンのボタンを外し、シャツをチノパンから引っ張り出す。そして、その薄い腹を見聞し始めた。

「・・・赤くは・・・なっていないわね。ヒリヒリしない?」

「大丈夫だってば。ほんと、怪我とか火傷とかはしてないんだ。ただ・・・」

「ただ?」

「その・・・」

「その?」

「んっとね・・・んー・・・」

「スペンス?」

JJが腕組みをしてリードを睨め付ける。こういうポーズをとるJJは実は怖い。それで、リードは小さな溜息をつくと、小さな声で言った。

「・・・あのね・・・ないんだ・・・」

「?・・・何が?着替え?だったら、モーガンにでも借りる?」

「着替えはあるんだ!シャツとか・・・そういうのは・・・ただその・・・えっと・・・あの・・・」

口調がモゴモゴとなってしまうリード。けれども、JJの目が細くなってきたので、腹を括った。

「あのね!・・・パ、パンツがないの!」

「・・・あら、まあ・・・。じゃ、今日はノーパンね」

「やだよう・・・なんか・・・やだ・・・」

「うふふ、冗談よ。そうね・・・。あ!そうだ!私のあげるわ」

「へ?JJの?」

「そう!この間、通信販売でまとめ買いしたんだけど、私には合わない色があったのよね。それ、スペンスにあげるわ!ちょっと待ってて!」

「え、ちょっと待って!だって、JJは女性で・・・あ、JJ!・・・あー・・・行っちゃった」

走ってロッカールームを出て行ったJJだったが、1分もしないで戻ってきた。そしてその表情は満面の笑みである。

「はい、これ!」

小さな布切れが無理矢理に渡される。片手に納まってしまうほどの布だ。

「じゃ、それに履いて、さっさと着替えちゃいなさい。ミーティングをするって、ホッチが言ってたわ」

「うわ。じゃあ、急がないと!」

「そうよ。余計なことを考えないで、急がないと、よ?」

JJがウィンクをして、ロッカールームを出て行った。それを見送ってから、リードは手の中の布を見た。

「え・・・やっぱ・・・これ・・・そう・・・だよねぇ・・・」

リードは、赤面しつつ、がっくりと項垂れたのだった。

********************

「今朝は悪かったな」

ミーティングの後、モーガンがリードに声をかける。

「え?あ、あー・・・ううん。全然、平気」

「本当は、軽い火傷とかしたんじゃないか?」

「ん?そんなことないよ?」

「そうか?」

訝しげにモーガンがリードを見る。というのも、ミーティング中、リードが心ここにあらず、といった感じで座っていたからだ。発言を促されたら、ちゃんと答えはするのだが、今ひとつ集中力に欠けているような気がしたからだ。

「まあ、だったら、いいけどな。明日から出張だ。また、忙しくな」

ポンポンとモーガンはリードの頭を軽く叩くと、自席へと戻って行った。リードは資料を持っていない方の手で、自分のカーディガンの裾を軽く引っ張った。チノパンを履いているから、その中が見えているわけではない。けれども、やっぱり、気持ちがもぞもぞするのだ。

「ふぅ・・・絶対に、今日は交通事故とかに巻き込まれたらいけない日だ」

リードは小さな声でぽそっと呟くと、明日からの出張に備えて資料を確認しようと、自分の席へと向かった。その時、携帯が鳴った。見れば、それはホッチからのメールだった。

『書類仕事が終わったら、お前の部屋に行く』

ちょっとそっけない短い文面。けれども、それだけで嬉しくなる。明日は一緒に出勤、ということだ。サラダとパスタぐらいなら、リードにも作ることができる。今日は買い物をして帰ろうと思う。この間テレビで観た、小エビとキノコのペペロンチーノは簡単にできて美味しそうだった。レシピは頭に入っている。手順だって完璧に覚えている。こんな時、一度、見たり、読んだりしたことは忘れない能力があってよかったと思う。自分の体がその通りに動くかどうかはともかく、料理は射撃じゃない。なんとかなる。そう思うことにする。サラダは、ちぎったり切ったりした野菜をお皿に盛り付けてドレッシングをかければいい。スーパーには美味しいドレッシングがいっぱい売っている。困ることはない。リードは頭の中で、夕食のことを考えながら、ガルシアから渡された資料に目を通し始めた。

********************

ホッチやみんなよりも早くオフィスを出る。自分のアパートに近いスーパーに寄って、買い物をする。テレビで観たレシピを思い出しながら、食材をポイポイとカートに入れていく。仕事が忙しいことと、ホッチには最愛の息子であるジャックがいることで、二人っきりで会える時間やタイミングは限られている。時々、寂しいと思うことはあるが、ホッチの負担にはなりたくないから、我儘は絶対に言わない。仕事とジャックを優先してもらって構わない。けれども、今日みたいに、ホッチからアクションがあったときは別だった。こんな時は、リードがホッチを独り占めできる時だ。なかなか訪れないタイミング。だから、大事にしたいと思う。けっして得意とは言えない料理をするのも、ホッチが部屋に来るときだけ。でも、それでいい。

リードは、食材の入ったエコバッグを持って、アパートに帰った。時間は決めていないけれども、後2時間くらいしないとホッチは来ないだろう。その間に、することを頭の中で考える。料理は後回しにする。先に朝やらなかったベッドメイク。それから明日の出張の用意。バッグはロッカーにあるから、衣類だけを持って行けばいい。そう・・・そこまで考えて、リードはハッと思い出した。そうだった。着替えだ。まず、自分が着替えなければならない。何故なら、今、リードが履いている下着は、JJがくれた・・・。

リードはカバンとエコバッグをテーブルの上に置くと、慌ててカーディガンのボタンに指をかける。ネクタイも抜き、チノパンも脱ぐ。そして、シャツを脱ごうとしたとき、インターホンが鳴った。

「え?・・・こんな時に来客?・・・宅配便?いや、最近ネットで買い物してないし・・・」

そんなことを呟いていたら、ガチャリと鍵が回る音がした。

ホッチだ。

この部屋の鍵を持っているのは、自分とホッチしかいない。合鍵を使って、ホッチが鍵を開けたのだ。すぐに、ガチャリとノブが回ってドアが開いた。

「・・・ホッチ・・・は・・・早くない?」

「書類の量が少なかった。・・・着替え中だったんだな。悪かった」

ホッチはすぐにドアを後ろ手に閉めた。シャツと靴下だけの、こんな可愛らしい恋人の姿など、通りすがりのアパートの住人には見せたくない。

「こ、この前テレビで観た、パスタを作ろうかな・・・なんて思って、それで買い物してて・・・だから、僕も今、帰ってきたばかりなんだ。で、着替えなくちゃって思って・・・」

「?・・・もう、パジャマにか?」

「いや・・・そうじゃないんだけど・・・その・・・えっと・・・と、とにかく!き、着替えて来るから!ホッチはちょっと座ってて!!!」

リードは慌てつつも、強めの口調で言って、小さなソファを指差した。そして、ホッチに背を向けてクローゼットの方へと行こうとする。しかし、すぐに、ウエストを逞しい腕に掬い取られた。

「や・・・ホッチ・・・」

ホッチはリードの体を背後から抱きすくめると、その耳元で囁いた。

「着替えるのは、俺に見せてからでもいいだろう?何やら、いつもとは趣の違った下着を履いてるそうじゃないか」

「なっ・・・なんで、それっ・・・!」

「JJから聞いた。それもあって、早くここに来たんだ」

そう言いながら、ホッチは左腕だけでリードの体をホールドすると、右手で、シャツの裾を捲り始めた。

「駄目だってば!」

「俺の知らないリードがいる方が駄目、だろう?」

「知らなくてもいいってばぁ!」

ホッチの腕の中でもがくが、鍛えた体躯の持ち主はビクともしない。スッとリードのシャツを臍の辺りまで引き上げた。

「やっ・・・見ないでっ!」

「ほぅ・・・。なるほどな」

ホッチの視界に入ったのは、ブルーグリーンの総レースヒップハングショーツだった。いつもは白いブリーフのリードだから、とても目に鮮やかで意外性もあり、何より非日常的であった。

「もういいでしょ?ねえ・・・着替えて晩御飯を作るから・・・その・・・離して・・・?」

「いや、まずはこちらを食べさせてもらおう」

ホッチはリードを軽々と担ぎ上げると、あまり丁寧にはメイキングされていないベッドへと運んだのだった。

********************

ホッチがベッドに座り、その膝にリードを座らせる。そしてリードのシャツのボタンを全て外すと背中の方へと回し。緩くであるが、その細い両腕を絡め纏めてしまった。

「え・・・し、縛るの?」

「緩いから、痛くはないだろう?」

「痛くないけど・・・でも・・・なんで?」

「じっくりと見たいから」

「う・・・・・・」

顔を真っ赤にして俯く。そうすると、自分が履いている総レースのヒップハングショーツが視界に入ってしまう。それも恥ずかしくて、リードは顔を横に向けた。本当に恥ずかしい。

「モーガンとぶつかって、コーヒーがかかったんだって?」

「うん。でも、モーガンは悪くないよ?僕の不注意だったんだ」

「そうか。・・・やけどは・・・していないようだな」

「それは大丈夫。全然、熱くなかった。ただ、量が多くて、すごく服が汚れちゃって・・・」

「それで着替えようとしたんだな」

「そう・・・けど・・・」

「下着だけがなかったと」

「・・・うっかり、補充し忘れてたんだと思う」

「まあ、JJから貰ったからいいじゃないか」

「よ、よくないよ!だって・・・だって・・・これ・・・女の子の下着だよ!?」

「しかし、似合ってる」

「に・・・似合ってる?・・・う、嘘!それ絶対に嘘でしょ!だって、僕、女子じゃないもん!」

「BAUの女子枠だと聞いているが?」

「そりゃ、JJやエミリーやガルシアと一緒に出かけることはあるけど・・・でも!僕は男だからね!もう・・・着替えさせてってばぁ」

「却下。スペンスは男だけれども、体が細いから似合うんだな」

「ん・・・」

ファースト・ネームで呼ばれると、弱い。思わず、スイッチが入りそうになる。

「・・・アーロン・・・変だって思わないの?こういうの。僕、変じゃない?」

「全然。早く部屋に来て正解だった。こんなスペンスはなかなか見られないからな」

「・・・楽しいの?」

「そうだな。スペンスといるときはいつでも楽しいと感じるが・・・今夜はまた格別だな」

「僕・・・喜ぶ・・・べき?」

「俺の方が喜んでる・・・」

「アーロン・・・」

ホッチは両手でリードの腰を支えると、その薄い唇をキスを送る。リードもそれを素直に受け止める。最初は唇を合わせるだけのキスが次第に深いものへと変化する。ピチャピチャと音を立てて、互いの唾液が互いの口腔へと移動する。リードの口の中を蹂躙するホッチの舌を追うようにして、リードも必死に舌を動かす。そのうち、じゅっという音と共に舌を吸われる。

「んう・・う・・・んん・・・」

だんだん頭がぼうっとしてくる。ホッチのキスが巧みすぎて、いつもこうなってしまうのだ。リードは瞳を閉じて、唇に与えられる快楽を享受する。そうしているうちに、体全体がホッチを望むようになる。もっと、いろんなところを触って欲しい。それを伝えたくて、唇を離そうとするのだが、相手はそれを許してはくれなかった。だったら、指先で思いを伝えようとしようとしても、今は後ろ手に縛られているので、それもできない。リードはもぞもぞと腰を動かした。すると・・・。

「んっ・・・んんんんんーっ!」

いつに間にか、ホッチの両手がリードの腰から離れ、胸の飾りに移動し、指でそこを摘んだのだ。

「んっんっんっ~・・・」

指先で擦られ、摘まれ、こねくりまわされる。そして、ようやくリードの唇が解放された。

「あっ・・・あっ・・・あっ・・・」

ホッチの手にかかれば、全身が性感帯のようになってしまうリードだったが、最近は乳首を責められることが多くなった。最初は、「女の子じゃないんだから、つまらないでしょ?」とか「女の子じゃないんだから、そんなとこ感じないよ?」と言っていたリードだったが、今では立派な性感帯の1つだった。

「やっ・・・やっ・・・あ・・・・やっ・・・ホッチ・・・」

名前を呼んだ瞬間、痛いほどに指先で乳首を潰される。

「あうっ・・・いっ・・・」

「スペンス?」

「あ・・・ごめんなさい・・・ア、アーロン・・・」

プライベートなときは、ファースト・ネームで呼び合うのが二人の約束事だった。

「痛かったか?」

リードはゆるゆると首を横に振った。

「き・・・きもち・・・い・・・は・・・ふ・・・」

ホッチが視線を下に落とすと、形を成したリードのそれが、レースの生地を押し上げているのが分かる。女性用の下着のせいで、一層エロティックに感じられる。意識しているのか無意識か、ホッチの膝の上で、リードが腰をもぞもぞと動かしている。折った膝。その先には左右で柄の違う靴下に包まれた足。この姿を見ただけで、明日からの出張も頑張れそうな気がしてくる。

「イきたいか?」

コクコクとリードが頷く。

「それなら、ここだけで・・・イくといい」

そう言って、乳首への責めを再開する。

「やぁ・・・ん・・・ん・・・も・・・そこだけ・・・?」

「嫌いじゃないだろう?スペンス」

「ん・・・」

リードは目を閉じると、ぽてんっと額をホッチの肩に乗せた。そして、彼の指先の動きに集中する。

確かに、嫌いではない。ホッチが与えてくれる快楽は全て好きだった。最初は、「女の子じゃないんだし」という思いもあったが、確かに、もはや胸は、感じる場所の1つとなってしまった。摩られ、弄られるのも良かったが、実のところ、痛いくらいに摘まれ、責め立てられることが好きな場所だった。何故かはわからない。ただ、優しくそこを触られると、物足りなさを感じてしまうのだ。それを知ってか知らずか、ホッチの指はソフトタッチだった。リードは唇を噛む。イきたいのに、イけないもどかしさを感じる。リードを顔をあげると、ツンっと胸を反らし、ホッチの方へと突き出した。

「お願い・・・アーロン・・・もっと・・・酷くして?」

うるうるとした瞳をもって願いを伝える。

「そんな可愛らしい願いは聞き届けないとな」

そう言って、指先に力を込める。潰すように摘み、軽く引っ張る。

「ひっ・・・あっ・・・あああああああっ・・・あ・・・んあっ・・・」

欲しかった刺激。その強烈な痛みに、リードは自分の太腿でホッチの脚を挟み、体を仰け反らせる。ホッチは剥き出しになった喉に唇を這わせ、グリッと乳首を捻るようにして、責めた。

「やあっ・・・あああああ・・・んっ・・・んっんっんっ~・・・」

リードの身体が硬く緊張する。しかし、その後ゆっくりとし弛緩し始めた。その身体が後ろに倒れそうになるのをホッチが支える。それが自然と細い体を抱きしめる形となる。グリーンブルーの下着を見れば、レース生地の細やかな隙間から、白濁が滲んでいるのが分かる。ぐっしょりと白いブリーフを濡らす様を見るのもいいが、これもいい。ホッチに凭れかかって、浅い呼吸をしているリードの手首を戒めているシャツを解いてやる。

「・・・アーロン・・・」

リードはゆっくりと両腕をホッチの首に絡ませた。

「・・・ふふっ・・・やっと・・・アーロンに触れたぁ・・・」

嬉しそうにリードが言う。

「イけたか?」

分かり切ったことをわざと言ってやる。

「・・・ん・・・」

顔を赤らめながら、リードは小さく頷いた。

「・・・ね?・・・もう・・・これ、脱いでいい?」

「駄目だな」

「えええええっ」

リードが目を見開く。もう、この小さなレースの布地から解放されると思ったのに。

「もう少し、楽しみたい」

「うう・・・僕ばっかり。・・・アーロンは、まだ服も脱いでないのに」

ホッチはジャケットを脱いだだけで、ネクタイもそのままだった。そんなホッチの襟元にリードの指がかかる。

「脱がせても・・・いい?」

「ああ」

リードは目を輝かせると、いそいそとホッチのネクタイを解き始めた。それからワイシャツ。鍛えられた胸筋が露わになる。本当に自分の貧相な体とは大違いだと、リードは思う。そんなことを考えていたら、急にホッチに押し倒された。

「え?やだ。まだ、全部、脱がせてないのに~」

「いいから」

リードの身体をシーツに縫い留めると、自分でベルトを外し、スラックスも脱ぐ。リードに脱がせてもらうのも嫌ではないが、今は早く、この細い身体を堪能したい。

ホッチは指先で、濡れたレース生地をひと撫でした。

「んっ・・・駄目・・・僕、イッたばっかりで、触られたら・・・変になっちゃう・・・」

「変になればいいだろうに」

濡れた生地で指先を湿らせると、リードの両足を抱え上げ割り開く。ショーツを脱がすことなく、ただずらすだけにする。そして、露わになった後孔に、つぷりと指先を差し込んだ。

「あ・・・う・・・」

ホッチとキスを交わしていた時から疼いていた場所に刺激を与えられて、悦びの吐息が上がる。

「んっ・・・くぅ・・・あ・・・そこ・・・あ・・・や・・・」

身体の中のぷくりと膨れた部分を探し当てて、そこを押すようすると、リードの声が次第に甘ったるくなってくる。

「あ・・・や・・・ら・・・そ・・・そこ・・・んぅ・・・んん・・・んあ・・・あ・・・アーロン・・・」

伸びてきたリードの腕を受け入れるように、ホッチは上半身をリードに近づける。そうすると、自然とその細い体は折りたたまれる形になる。

「欲しいか?」

「ほ・・・ほし・・・アーロン・・・ほし・・・い・・・よ・・・ちょう・・・だい・・・アーロンの・・・ね・・・?」

ホッチは臀部のレースをさらにグイッとずらすと、既に昂ぶっている自分自身の切っ先をリードに当てがった。その刺激にリードは吐息を漏らす。そして、腕をホッチの首に絡め、受け入れる体勢を整える。ホッチは、ほぼ真上から押さえつけるようにして、ズブズブとリードの中へと入っていった。

「あっあっあっ・・・ああっ・・・アーロンっ・・・んっ・・・すきっ・・・もっと・・・ひどくしていいからぁっ・・・」

その言葉を聞いて、ギリギリまで引き抜いてから、勢いよく再奥まで突き上げる。それを繰り返す。何度も。何度も。何度も。

終わることのない抽送。

リードはそれを享受する。

この体は、もう自分のものではない。愛する人のものだ。だから、自分は壊れてもいいし、どうなってもいい。この繋がりがあるだけ、自分は幸せになれる。今、自分は幸福の真っ只中にいる。今だけは、この愛する人は自分だけのものになる。

「アーロン・・・すき・・・もっと・・・もっと・・・ひどくして・・・だい・・・すき・・・」

そんな言葉をリードが口から零す度に、中できゅうきゅうと締め付けられる。ホッチはその心地良さに軽く眉を潜めながら、自分もまたその快楽を受け入れる。自分はどれだけ、この可愛らしい恋人を我慢させているのか。仕方のないこととはいえ、罪悪感はある。ホッチは、リードの唇を吸い上げながら、身体の奥を責め立て、そして可憐な乳首を抓り上げた。おそらく、これが身体の下で喘いでいる恋人が、今、望んでいることだ。

「は・・・あ・・・アーロン・・・も・・・い・・・く・・・イっちゃう・・・」

「そうだな・・・いいぞ・・・」

ホッチは真上からプレスするように、グイグイと体の中の行き止まりのような部分に先端を押し付けた。

「ひあっ・・・あーっ!!!!」

揺らめいていたリードの脚が、ホッチの背中に絡む。よりいっそう、自分の体を愛する人に密着させるかのように。ビクビクと震える身体の中へと、ホッチもまた白濁を放った。

********************

「小エビとキノコのペペロンチーノ・・・」

「ん?」

「今夜、作ろうって思ってたんだ」

「・・・しかし・・・スペンスの身体は動きそうにないな」

「うう・・・」

悲しそうな表情をするリード。そんな彼を見て、ホッチはラフに衣服を身につけると立ち上がった。

「俺が作ろう」

「でも!・・・レシピは僕の頭の中にあるんだ・・・・・・」

「ふむ」

こういうところは、妙にリードはこだわる。自分の頭の中にあるレシピ通りのパスタでなければ、納得はしないのだろう。

「絶対に美味しいよ、そのパスタ」

「わかった。じゃあ、教えてくれ。その通りに作るから。キッチンに椅子を持ってきて座っていれば、身体は辛くないだろう」

「うん!あ、じゃあ、着替えるね。もう、JJがくれた下着、ぐっしょりなんだもん」

ぷうっとほっぺたを膨らませるリードはリスみたいだった。しかし。

「ああ。そうだな。それなら、これに履き替えるといい」

ホッチは鞄の中から小さな紙袋を取り出した。

「なあに?それ」

「JJが寄越した。君に、と言っていたぞ」

ニヤリと笑いながら紙袋を渡してくるホッチに訝しげな視線を送りながら、リードは紙袋を受け取った。そして中身を取り出して小さな悲鳴をあげる。

「やだー!!!もうっ!!!僕は男だってばぁ!!!!!」

「そう言うな。グリーンブルーもいいが、その色も似合うと思うぞ」

リードの手の中には、可愛らしいショッキング・ピンクの総レースヒップハングショーツが握られていたのだった。

「さあ。さっさとそれに履き替えて、パスタのレシピを教えてくれ」

「・・・履かなかったら・・・?」

「・・・パスタは・・・作らない」

「ううう・・・アーロンの意地悪ぅ・・・」

「どうする?」

「・・・わかったよぅ・・・。でも、恥ずかしいから、履き替えるところは見ないで!」

「もっと恥ずかしいことはしているのに?」

「あれとこれとは別なの!」

「あーわかったわかった。じゃあ、先にキッチンで準備をしている。だから、早く来い」

キッチンへ行くホッチの背中を見送り、リードは項垂れる。

「もう・・・JJったらぁ・・・」

けれども、自分の精液で濡れてしまったショーツは早く脱ぎたい。そしていつものブリーフだとホッチはペペロンチーノを作ってくれない。

リードは覚悟を決めた。どうせ、今夜だけのことだ、と。

ショッキング・ピンクの総レースヒップハングショーツを履き、その上にさっき脱いだシャツを羽織ってベッドから降りる。その時、キッチンから声がかかった。

「スペンス。シャツの下の方はボタンを留めるな」

「え?なんでー?」

「せっかくの下着が見えないから」

「・・・ア、アーロンのエッチ!!!!」

リードの悲鳴にも似た叫びこ声が、小さなアパートの部屋に響いたのだった。

END

Flower Garden

ホッチが作った、少し遅めの夕食を食べ終わる。片付けはリードも手伝う。料理はほとんどできないが、食器を洗うくらいはなんともない。食洗機のあるアパートではないので、もちろん手洗いだ。仕事以外で二人で並んで何かをする・・・という行為は、それがたとえ食器洗いだったとしても、リードにとっては楽しいことだった。

キッチンを片付けて、一息つくと、リードが言った。

「コーヒーにする?」

「・・・いや、スペンスにする」

「ふえ?」

背中を膝裏を掬い上げられて、大して広くもない部屋を横切る。身長差はさほどないが、リードは必要以上に細いので、とても軽い。小さなベッドはすぐそこだ。ホッチは静かにリードをベッドに下ろすと、その体に覆いかぶさった。

「ホッチ。シャワーがまだだよ?」

「後でいいだろう。それよりも・・・名前」

「あ、・・・ああ。ごめん。スイッチが入ってなかった。だっていきなりなんだもん」

ぺろっとリードを舌を出しながら、細い両腕をホッチに巻きつけると、小さな声で「アーロン」と呼んだ。自分の名を呼ぶ唇を軽く塞ぐ。幾度か角度を変えながら、薄い唇を弄ぶ。

「んっ・・・んっ・・・んんっ・・・」

わずかな隙間から、なんとか呼吸をしようとするものの、リードの唇の端から、唾液が一筋流れてしまう。が、それすらも、ホッチが舐め取る。

髪や、眉や、頰をなどを指先で撫でられながら、そのキスに酔いしれる。そしていつも感じるのは幸せだ。

リードも両手をホッチの両頬に添えて、少し力を入れて吸い、それから離れた。笑顔のままで。

「ふふっ・・・」

「どうした?スペンス」

「うん。・・・この時間・・・こういう、今の時間好き。僕はアーロンにとって4番目だけど、こんな時は1番っぽいから」

「・・・?どういう意味だ?」

「ん?だって、1番はジャックでしょ?2番は亡くなったヘイリー。3番は仕事。だから、僕は4番目」

ホッチは思わず黙り込んでしまった。リードのいうことはあながち間違っていない。いや、今まで順位付けなどしたことはないが、言われてみれば、そうなのかもしれない。

けれども。

自分はリードの存在をないがしろにしようと思ったことはない。ただ。その時々で、優先する順位が変わるだけのこと。今は、目の前にいるリードの存在が1番だ。

それをわからせなくては。

ホッチは、もう一度、キスを落とすと、ゆっくりと丁寧に、リードの服を脱がせ始めた。ネクタイを取り、ベストを脱がせる。シャツのボタンを外すのは、その薄い胸を唇で辿りながら。臍の中を突くように舐めながら、ベルトを外し、ズボンも引き下ろす。リードも腰を浮かせたり、足でズボンをずらしたりと協力的だ。しかし。左右で柄の違う靴下はそのままで。リードも別にそれは気にしていないようだった。

細くて、白くて、綺麗な肢体だった。

ホッチも素早く自分で衣服を脱ぐとすぐにリードに覆いかぶさった。キスをしながら、乳首を指先で転がしてやる。

「ひゃっ・・・あ・・・ぼ・・・僕、女の子じゃないから・・・・そんなとこを触ったって・・・」

「感じてるみたいだぞ?」

「アーロンに触られたら、どこでも感じちゃうの!!んー・・・あ、あ、あ・・・」

胸への刺激に、リードの白い首筋が仰け反る。

指だけでなく、舌でも乳首を転がすと、余計に甘い声が響いた。悪くない。

ホッチは、そろそろと舌を腹部へと、そして下腹部へと移動させていった。普段はあまり主張を知らないような場所が、ふわりと勃ち上がっている。ホッチは指を添えると、それを口に柔らかく含んだ。

「あああっ・・・あ・・・あ・・・だか・・・ら・・・シャワーって・・・言った・・・のに・・・うう・・・」

情けない声を出すリードだったが、ホッチはそんなことは意に介さない。リードを形作る、そう体臭さえも愛おしい。

ホッチはリードの膝裏を押し上げて両足を開かせると、激しい口淫へと移った。経験の浅いリードは、それだけで、脚をガクガクとさせている。

「は・・・う・・・や・・・やん・・・も・・・イっちゃうよ・・・アーロン・・・ダメ・・・やぁ・・・」

ホッチはリードの先端を咥えたまま言ってやる。

「イケばいい。遠慮はするな」

「ん・・・じゃ・・・離して・・・そうでないと、アーロンの口を汚しちゃう・・・」

「今更だな」

そう言って、ホッチは再び深くリードをしゃぶると上下に激しく口を動かした。

「ひゃっ・・・あ・・・あ・・・あ・・・や・・・ああああああああ~っ・・・」

腰をガクガクと動かしながら、そうして、最後は局部をホッチに押し付けるようにして、極めた。それから、ゆったりと弛緩。

「は・・・あ・・・」

けれども、ホッチはリードの太腿裏を離すことなく、さらに上にあげると、露わになっらピンク色の蕾に舌を合わせた。口の中に残るリードの精液を送り込むように、舌先を押し込む。

「ああああっ・・・そっ、それ・・・や・・・もう・・・シャワーも浴びてないのに・・・ふえ・・・ええん・・・」

羞恥のために、半泣きになりながら、体をよじろうとするが、その一方で、体の中には快楽の炎が灯っている。小さな嗚咽をあげながらも、ホッチの舌の動きを後孔で捉え、深く感じようとしている。

「うっ・・・・も・・・エッチだ・・・アーロンってば・・・めっちゃ、エッチだぁ・・・」

リードの声は聞こえているが、自分はリードを解すのに忙しい。リードに辛い思いはさせたくない。・・・大事、だからだ。ただ、快楽を知って欲しいし、快楽を求めて欲しい。

ホッチはだいぶ濡れたリードの蕾に指を1本差し込んだ。

「んっ・・・」

「大丈夫か?」

「ん・・・だ・・・大丈夫。・・・痛くない・・・」

ホッチは慣れた指使いで、リードの前立腺を押す。

「ひゃっ・・・あんっ・・・ああああ~・・・そこ・・・も、そこ、ダメ・・・や・・・」

本当に嫌なわけではない、感じすぎてしまうのだ。さっき放出したばかりなのに、再び勃ち上がってしまう。

「そっ・・・そこ、そこばっかり・・・やっ・・・あ・・・お願い・・・アーロン・・・挿れて・・・・お願い・・・挿れてぇ・・・指だけは・・・や・・・」

ぐずぐずと啼きながらお願いをする。

「いい子だ」

ホッチは、自分の二の腕で、リードの太腿裏を支えるようにして体を押し開いたままにする。そして自分の位置を決めると、すでに硬く屹立したモノをリードの蕾に充てがう。

「いいか?行くぞ?」

リードは声には出さず、頷くことで返事をした。欲しい。早く欲しいのだ。ホッチの。愛する人の、猛々しい太いモノが。それで奥まで突き上げて欲しいのだ。

ホッチは、可愛らしい唇にキスを与えながら、グッと自分を自信をリードの体内へと押し込んだ。

「はんっ・・・ん・・・」

その太さ、質量を、体の中に感じる。あとはわかっている。蹂躙されるように、体を揺さぶられるのだ。自分で自分の体をコントロールできないほどに。けれども怖くはなかった。相手はホッチだ。絶対に、自分に酷いことはしない。安心して、身体を、全てを任せられる。

上からプレスされるように、ホッチの体重がリードにかかる。身体の奥深くまで、ホッチのペニスが届く。身体の奥底をノックされるような感覚。

「んっ・・・んぐっ・・・・んんっ・・・」

呼吸を忘れたリードの唇を、ホッチが指先で優しく開く。

「は・・・あ・・・アーロン・・・もっと・・・ほし・・・」

両腕を伸ばして、ホッチに抱きつく。ホッチの身体の向こうで、左右で柄の違う足先が揺れている。

今は・・・きっと、多分・・・今は・・・一番。

そんなことを頭の隅っこで考えながら、あまりの気持ち良さに、リードは意識を手放した。ただ、視界の向こう側に、色とりどりの美しい花畑見えた。

********************

「・・・ド?・・・・リード?」

「・・・・・・・・ふ・・・ん?・・・んん?・・・あ・・・アーロン!」

起き上がろうとしたが、リードはできなかった。身体が思うように動かなかったのだ。まるで自分の体ではないかのように。

「悪い。無理をさせた。」

「んーん。・・・無理してないよ?」

「水・・・飲むか?」

「んー・・・・いらない。それよりも、アーロン、ギュってして」

ホッチは動けないリードの上半身を起こしてやると、その細い体を抱きしめてやった。

「もっと。強く」

「折れるぞ」

「そこまで華奢じゃないよう。女の子じゃないんだから」

BAUの女子枠だがな・・・と、思いつつも、リードの要求通りに、ホッチはリードの体を力強く抱きしめてやった。

「あのね。すっごく気持ちよかった。・・・そのせいかなぁ・・・」

「どうした?」

「あのね・・・お花畑を見たよ?すっごく綺麗なお花畑。いろんな種類の花がいっぱい咲いてるんだぁ・・・」

「・・・おい・・・臨死体験じゃないだろうな、それは」

「違うと思うよ?うん。だって、心が身体から離脱してるような感覚はなかったもん。っていうか、僕、そういうの信じないし」

「いや・・・少し無理をさせた。悪かった」

「そんなことないよ。・・・ねぇ、アーロン。僕、もう一回、あのお花畑を見たいなぁ」

そう言って、リードが甘えたようにアーロンを見上げる。そして指先で、髪や頬を触る、リードなりのおねだりだ。

「無理はダメだ」

「じゃあ、お花畑は見れなくてもいいから・・・、気持ちいいこと、しよ?もう一回?ダメ?それとも・・・もう・・・ジャックにホッチを返す時間かなぁ・・・」

しょんぼりと、リードが言う。

「・・・それは大丈夫だ。ジャックはJJのところだ。と言うか、JJがジャックを拉致して行った」

「ありゃ。・・・じゃあ・・・まだ、僕が1番?」

「そうだな」

リードの綺麗な金髪の頭に鼻先を埋めてキスをする。

「じゃあ、今度は、僕が上になっていい?僕が頑張ったら、今度はアーロンがお花畑を見れるかもしれないよ!」

「さあ、それはどうかな」

リードはトンっとホッチの身体をベッドに押し倒すと、その上に座り、すでに充分に柔らかく溶けている蕾に、ホッチを誘ったのだった。

********************

2回戦後。

「・・・僕・・・また、お花畑を見ちゃった。アーロンは?」

「君の綺麗な顔が見えた」

そうして、ジャックがJJno所にいるのをいいことに、3回戦に突入する二人だった。

END

ソックス

ホッチはリード脱力したリードの体をうつ伏せにひっくり返すと、そのウエストに力強い腕を回し、ぐいっと細い体を引き起こした。そして、胡座をかいた自分の膝に下ろそうとする。

「ふえ・・・あ・・・ホッチ・・・」

恐々とリードが不安気に振り向くと、ホッチが眉を顰めて不機嫌そうな表情をしている。ああ、そうだった。こういう時の約束だ。だから、リードは、もう一度、愛する人の名前を呼び直した。

「アーロン・・・んっと・・・」

「インターバルがあると思うな。大丈夫だろう?スペンス」

「う・・・ん・・・」

ホッチとのセックスにもだいぶ慣れ、立て続けに抱かれることに抵抗はない。それに、今夜の1度目は激しかったけれども、やっぱり何処か優しかった。否、ホッチはいつだって優しい。

一度は放出したというので、既に勃ち切っているホッチの甘い凶器に、そろそろと腰を下ろす。自分の後孔は十分に柔らかい。リードはホッチの雄に細い指を添え、その先端を自分に宛てがうと、自重をかけていった。張り出した部分を飲み込むときに、一瞬、動きが止まり、息を飲む。けれども、すぐに小さく甘い吐息を吐くと、さらにズブズブとホッチを飲み込み始めた。

「いい子だ。スペンス」

後ろからホッチがリードの髪を梳き、撫でる。さらに、指先でその小さな顔をなぞる。その指の動きが、リードは好きだった。

時間をかけて、ホッチの全てを飲み込んだリードは、ベッドに手をついて、呼吸を整える。膝と、左右柄違いの靴下を履いたままの足先の置き場所を考えて位置をずらす。今度は自分が動いて、ホッチに喜んでもらおうと、リードは思ったのだ。

それなのに。

いきなり、両太腿の裏を掬い上げられた。

「ひゃっ・・・あ・・・ホッチっ・・・」

「・・・スペンス?」

「あ・・ん・・・ごめんなさい・・・アーロンっ・・・」

再び恋人の名前を呼び直しながら、ただ一点だけで繋がっている不安定さから、リードは何かに掴まろうとするのだが、拠り所がない。けれども、逞しく、力強いホッチに腕に脚を抱えられていることを思い出し、全身の無駄な力を抜く。そんな恋人の様子を確認して、ホッチはその白い背中に唇を落とした。

「んっ・・・あんっ・・・くすぐったいよ・・・ふっ・・・んん・・・」

くすぐったいと言うわりには、リードは小さいけれども、嬉しそうな声をあげる。指や唇で体を辿られるのは、リードの好きな行為の一つだ。

ホッチの唇がリードの頸を捉え、キツく吸い上げると、それは始まった。抱えた太腿を持ち上げると、すぐに落とす・・・という行為。持ち上げられときにホッチが抜かれ、落とされたときにホッチがリードの奥を抉る。

「んあっ!・・・あっ、あっ、あっ・・・」

ぐじゅっ・・・ぐじゅっ・・・と音がする。さっきホッチが奥に放ったものが、今のリードの体を起こした体勢によって、流れ落ちてくるのもあり、ホッチの雄の動きは滑らかだった。

「はっ・・・あっ・・・あんっ・・・いい・・・いいよぅ・・・アー・・・ロン・・・すき・・・・んっ・・・」

あまりに気持ちが良くて、涙目になっているリードの視界には自分の両足。左右で柄の違う靴下に包まれている。それが、ボヤけた景色の中でゆらゆらと揺れている。そんな足先を見ながら、リードは自分の勃ち上がったものを両手で包んだ。ホッチが与えてくれる動きに合わせて、軽く握って扱く。

「んっ・・・んっ・・・んっ・・・やっ・・・あ・・・も・・・」

ぴくんっと、靴下に包まれた足先が伸びる。絶頂が近い。

「あ・・・い・・・イキたい・・・アーロン・・・イキたい・・・イってもいい・・・?」

「もうか?」

「ん・・・アーロンは・・・まだ、僕の中にいていいから・・・・でも・・・僕・・・イっちゃう・・・んっ・・・んくっ・・・」

自分を扱き上げる速度を増して、絶頂を迎える。

「んあっ・・・あー・・・」

短い悲鳴を上げながら、リードの体がヒクヒクと痙攣する。痙攣しながら、後孔が締まるのを、ホッチは感じる。まるで喰い千切られそうな感覚。

「まったく・・・君は・・・」

脱力したリードの体を揺らし続けて、ホッチもまた、その体の最奥へ精をを放とうとする。肩越しに見えるリードの足が可愛いらしい。なんだって、このジニアスは、いつも両足、柄の違う靴下を履くのだろう。尋ねたとしても明確な答えが返ってきそうにないので、問いただしたことはない。ただ、口にしたことはないが、その左右で柄や色の違う靴下を見て、『可愛い』と思うことは毎日だ。それは、相手がスペンサー・リードだからに他ならないのだが。それで、何と無く今夜は、服を逃がせても、靴下だけはそのままにしてしまった。

リードが一生懸命腕を後ろに回して自分に触れようとしてるのがわかる。それを感じて、ホッチはリードに体を密着させた。

「アーロン・・・僕の中・・・気持ち・・・いい?」

「ああ。出て行くのがもったいないほどに」

「へへ・・・褒められた・・・僕・・・」

「中だけじゃなく、君は全てがいい・・・」

「そ・・・なの?」

「ああ。両足で柄の違う靴下もいい」

「へ?・・・あ・・・ああ・・・んー・・・変?」

「いや、君らしいし、可愛い」

「可愛いって・・・ちょっと違うような気がするけど・・・あんまり気にしたことなかった・・・靴下・・・」

「そういう無自覚なところもいい」

そう言って、ホッチは一際リードの体を持ち上げると、激しくその体を落とした。それを繰り返す。

「ひゃっ・・・あんっ・・・」

再び、空中で揺れる、靴下。それを眺めながら、自分の体が翻弄されるのを感じる。そして、何度か落とされた後、ホッチが自分の体の中で爆ぜるのを感じた。お腹が、熱くなるのを感じ、それはリードの幸せに繋がっていった。

********************

「確かに。この状態なら、左右違う靴下になっても仕方ないな」

シャワーを浴びて、リードのチェストの引き出しを開けたホッチが言った。そこには、一足ごとになった靴下ではなく、左右バラバラになった色とりどりの靴下が放り込まれていたからだ。

「ごめんなさい、だらしがなくて・・・」

「君は、こういうことに頭脳を使う人間じゃないからな。別に謝まることじゃない」

「ん・・・ありがと、ホッチ」

ベッドから降りると、自然と呼び方が戻ってしまう。けれども、ホッチはそれを指摘はしなかった。閨の中だけでも、十分だった。あの可愛らしい、感じいった声で、自分の名前を呼ばれるのは。

「スペンス。今夜は泊まれるから」

「え!?本当!?じゃあ、朝食はちゃんと僕が作るね!あのね!ようやくオムレツが作れるようになったんだよ!!!」

「ほう。目玉焼きから進歩したな」

「うん!JJに教えてもらったんだ!」

嬉しそうに、リードが言う。

ジャックや仕事のこともあり、この可愛い恋人を一人、部屋に残して帰ることが多い。けれども、今夜はジャックが友人宅のお泊まり会でいなかった。

「じゃあ、君のオムレツに備えて、今夜は、もう寝るとしよう」

「えー?僕、練習しようと思ったのに」

「大丈夫だ。君は天才で、指導者がJJなら問題ない。・・・それよりも・・・滅多にない二人だけの時間だ」

「・・・うん。・・・そうだよね。・・・じゃあ、チェスでもする?」

「いいから。今日はもう眠るんだ」

「だって・・・ホッチが一晩中いるのに?眠っちゃうなんて・・・もったいない!!」

それを聞いて、『ああ』と心の中で思う。やはり、この天才青年は寂しかったのだな、と。そんなリードの頭をぽんぽんと叩いて、ホッチ言った。

「一晩中、抱きしめてやろう。今夜は、俺を独り占めだ」

「・・・うん・・・わかった」

独り占めの言葉が聞いたらしい。たたっとベッドに行くと、リードはシーツを替えたベッドに潜り込む。そして、半分のスペースをパンパンと叩く。

「早く!ホッチ!朝が来ちゃうよ!」

「ああ、わかった、わかった」

ホッチもベッドに入り、約束通り、リードの体を腕に抱き込む。

「いいね。・・・こういう、あったかいの。・・・好き」

「・・・すまないな・・・いつも、一人にして」

「いいの。・・・たまにだから・・・いいのかもしれないし・・・。ホッチには、ジャックのことを大事にしてもらいたいから」

そんなお利口さんの返答をして、もぞもぞと居心地のいい場所を見つける。

「・・・大好きだから・・・アーロン」

ホッチはリードの髪を撫でながら、その頭頂部にキスをして、ベッドサイドの灯りを消したのだった。

END

Four Beauties

金曜の夜。BAU。JJ、エミリー、ガルシア。3人の美女たちは書類仕事をしつつも、横目で時計をガン見していた。

電話が鳴りませんように。

ホッチのオフィスに呼び出しを喰らいませんように。

ミーティング・ルーム集合とか言われませんように。

カチリ。

と、時計の針が定時を指し示した瞬間、3人は立ち上がった。ガッツポーズをして。そして、いそいそとバッグを持って、BAUの部屋を出て行ったのだった。

その様子を見て、「ふむ」と小さく唸るモーガン。そして、

「まあ、金曜の夜だからな」

と呟く。その隣でリードが小さく頷いた。

「んっとね、女子会だって」

「なるほど、そうか。まあ、事件がない日なんてそうそうないからかな。・・・じゃあ、俺たちも飲みに行くか?」

モーガンがリードを誘う。けれどもリードは軽く首を横に振った。そして、ふわっと笑って言う。

「ごめんね。モーガン。僕も行くんだ」

「は?」

「女子会」

「ちょっと待て。お前、いつから女子になった?・・・っていうか・・・ああ・・・まあ・・・その・・・なんだ・・・いい・・・のか・・・リードの場合は・・・」

妙に納得したようにモーガンが呟く。

「ん?何?」

こてんっとリードが首を傾げてモーガンを見る。

「ああ、いや、なんでもない。しかし・・・お前は一緒に出なくてよかったのか?置いてけぼりだぞ?」

「ああ・・・彼女たちはさ、メイクとか着替えとか、準備があるから。僕はこのままでいいから、現地集合」

「なるほどな」

「まあ、楽しんでこい」

モーガンがポンポンとリードの頭を軽く叩いた。

「うん!」

リードはニコッと笑うと、飲みかけの甘ったるいコーヒーに口を付けたのだった。

*******************

事件はなくとも仕事はたっぷりとある。膨大に積まれた書類。それらに目を通し、サインをして決済する。そんな仕事を黙々とこなしていたら、時計はすでに午後9時を過ぎていた。デスクの上のコーヒーもすっかりと冷め切っている。新しいコーヒーを入れて、もう少しやるか、それとも・・・。ホッチナーは立ち上がった。

自分のオフィスを出て下を見ると、ちょうどモーガンが帰ろうちしているところだった。

「まだ、いたのか」

「ああ。珍しく事件のない金曜だったから、リードを飲みに誘ったんだがな。フラれた」

そんな返答にホッチが片眉を上げる。

「ああ、変な意味じゃないぞ?JJたちが女子会だっていうんで、それなら俺はリードを誘ってやるかって思っただけで。ところが、そのリードも女子会に参加なんだとさ。それで、まあ、俺は書類仕事を片付けてたったわけ。あんたと同じように」

「・・・女子会に・・・リード?」

「まあ、リードは女子枠だからな」

「・・・それも・・・そうか・・・」

妙に納得したように、ホッチは頷いた。モーガンは『ツッコミは無しかよ!』と思いつつも、軽く手を上げて部屋を出て行ったのだった。それを見送って、ホッチはこれからの時間の使い方を決めたのだった。書類の始末は、また後日でいいだろう・

********************

JJ、エミリー、ガルシアと別れたのは0時のほんの少し前だった。お姉様方3人は次の店へと繰り出すとのこと。けれども、リードは楽しい時間を過ごしたものの、少々飲みすぎたのと、前夜の寝不足(読書のしすぎ)が祟って、後半は欠伸ばかりだった。それで先に帰ることにしたのだ。さすBAUのお姉様方はあらゆる意味で強い。酒にも男にも、だ。

欠伸を噛み殺しながら、リードが自分のアパートの下でふと上を見上げる。そうしたら自分の部屋の窓に灯りが灯っていることに気づいた。

「えっ!?」

一瞬にして眠気が覚める。

『えええええ!?僕、電気を点けっぱなしで部屋を出た?』

『いやいや、そんなことない!だって、朝は電気なんかつけないもん』

『じゃあ・・・不審者?ご、泥棒とか?』

『でも泥棒さんなら、暗闇で仕事するよね』

『ああ・・・どうしよう・・・銃は職場に置いてきちゃった・・・』

『こ、こんな時はどうしたらいい?・・・ホッチなら・・・どうする?』

と、ここまでぐるぐる考えて、

「あ!ホッチに電話しよう!ホッチなら適切な対応策を教えてくれる!」

と両手をパチンと叩き、スマホを取り出す。アドレスからホッチの番号を呼び出して・・・。その瞬間が、夜の闇の光が動いたような気がした。反射的に自分の部屋を見る。その窓には、見知った人影。

「・・・ホッチ・・・?なんで?」

リードはててスマホをポケットにしまうと、たたたたたっと駆け出したのだった。

*********************

「ホッチ!」

鍵のかかっていないドアをバタンッと開けると、ホッチが小さなダイニング・テーブルの椅子に座ってコーヒーを飲んでいた。片手には、本。昨夜、リードが読み終わったものだ。部屋の合鍵は渡してある間柄だったから、別に上司であるホッチが部屋に入っていてもおかしくはないのだが、正直リードは驚いていた。今夜、会う約束などしていなかったからだ。

「さて。水がいいか?それともコーヒー?」

「んっとね、両方!」

「わかった」

リードが斜め掛けバッグを、これまた小さなソファに置くと、すぐに水のペットボトルが渡された。

「コーヒーは、今、濃いのを落としてやる」

「あ、うん。ありがと、ホッチ」

リードはごくごくと喉を鳴らして水を飲む。酔っていたし、下から走って上がってきたから、その冷たさが物凄く美味しい。半分ほど飲んで、ようやくリードはペットボトルから口を離した。

「はふぅ・・・」

一息ついて、ペットボトルをテーブルに置くと、リードはキッチンにいるホッチの背中に話しかける。

「えっと・・・その・・・いつから・・・いたの?」

「2時間くらい前だ。9時くらいまでは書類仕事をしていたからな」

「あ、だよね。そうだよね。そう思ったんだ、僕」

ブツブツと自分を納得させるようにリードが呟く。

「ほら、コーヒー。濃い目だが、甘くはしておいたから」

「ありがと、ホッチ」

「いつまでも突っ立ってないで、座ったらどうだ?ここはお前の部屋だろう?」

「あ、ああ。うん。そうだよね」

言われてようやく、リードがソファに座る。あまり大きいとは言えないソファ。リードの隣にカップを持ってホッチも座った。

「ねえ、ホッチ。今日って・・・その・・・貴方がここに来るって・・・約束してたっけ?」

「君の記憶にあるか?」

「・・・・・・ない。ないけど、こうして現実にホッチがここにいるわけで・・・その・・・」

「心配するな。約束はしていない。君がJJたちと女子会に行ったとモーガンに聞いたから、酔っ払いの介抱でもしてやろうかと思っただけだ」

「そ、そんなに酔ってないよぅ・・・」

「みたいだな」

仕事では見せない笑みをホッチが見せる。リードが好きな表情だ。

「しかし、女子会とは、君はいつから女子になったんだ?」

「んー・・・だって、誘われたんだもん。JJたちとお出かけするの、結構楽しいんだ。気を使わなくていいし・・・」

「で?今日は何処に行ったんだ?」

「まずはね、スイーツブッフェ。夕食の代わりに、可愛いプチケーキをたくさん食べた」

「じゃあ、夕食は食べてないのか?」

「だから、ケーキがご飯だってば!美味しかったよ?いけなかった?」

「まあ、たまにならいいか。それで?そのあとは?」

「新しくできたバー」

「ほう。そういう店で楽しめるタイプだったか?君は」

「うん。面白かったよ?あのね、ナンパ返しをするJJたちが最高にカッコよかった」

「なんだ、そのナンパ返しってのは」

「あのさ、ああいう店に来るちょっといけた感じのスーツを着た男の人ってさ、秘密の職業についてるフリをするんだよね。ナンパの手口っていうの?まずね、最初にJJに声をかけた男の人はCIAっぽいフリしてた」

「ほう・・・それで?」

「それでその自称CIAとJJが密着したところで、JJが身分証を出してさ。こう言ったの。『私はFBIだから、CIAとは仲良くできないわ】って」

「それは・・・傑作だな」

「それからね、エミリーは自称FBIにナンパされてね・・・」

「で、いいところで身分証を出した・・・と?」

「そう。『私もFBIだけど、貴方の名前も顔も知らないわ』って」

クックックと喉奥で笑いながら、リードの話を聞く。BAUの女子は強い。

「ガルシアは?」

「ちっちゃい携帯端末で相手のスマホををハッキングしながら、色々暴いてた」

「・・・今の話は聞かなかったことにしておこう。・・・それで?君は?」

「へ?僕?僕が・・・何?」

「君はナンパされなかったのか?」

「やだなぁ・・・僕、男だよ?ああ、でも・・・めっちゃ物理の専門的な話をしてくる男の人には話しかけられたけど。自称物理学者。まあ、本当かもしれないけど、僕の質問に答えられなくって、途中で青ざめながらどっかに行っちゃった」

ヘラっと笑いながら、リードが報告する。それを聞いて、ホッチが眉間に軽く皺を寄せる。

「あのな。そういうのをナンパっていうんだ。だいたい、夜のバーで男相手に物理の話をする男なんかいるわけないだろう。まあ、自分の頭の良さをアピールしたかったんだろうな。ただ、わがBAUのジニアスには通用しなかったわけだが」

「ほえ?あれ・・・ナンパ?ナンパだったの?・・・ワオ。じゃあ、僕、ナンパされデビューだ」

「喜ぶな」

「喜んでないよー。ただ・・・意外だなって。僕って、そっちの人に見える?」

「君の美貌は誤解されやすい」

「・・・美貌・・・ホッチもそういう単語を知ってたんだね」

「おい」

「あはは。嘘。冗談。・・・でも・・・こうして会えて嬉しい。本当はさ、事件のない金曜日だから、一緒にご飯とか食べたいなって・・・ホッチのことを誘おうかなって思ってたんだ。でも、こういう日の貴方は書類仕事で忙しいでしょ?それで声をかけそびれちゃって。そうしたら、JJたちに誘われて・・・」

「悪かったな。・・・いつも忙しいから、こういう珍しく事件のない日は俺が君を誘うべきだった」

「そんなことないよ。お仕事、優先して」

リードが笑う。そして、濃い目の甘いコーヒーに口を付ける。

「よかった。これだけ濃いコーヒーなら。眠らなくてすみそう。せっかく貴方が来てくれたのに眠るなんてもったいないもんね」

「明日・・・もう今日か。土曜日だし、少し遅めの出勤でいいぞ。・・・スペンス」

JJがよく使う愛称で呼ばれてスイッチが入る。

「でも、貴方は、いつも通りの時間に出勤するんでしょ?・・・アーロン?」

「これから体を酷使するのは君の方だからな。起きたくても、きっと起き上がれないだろうな」

「え・・・僕・・・そんなにされちゃうの?」

ドキドキしながらも、嬉しそうにリードが聞き返す。

「君の反応が、そうさせるんだ」

ホッチが自分のカップをテーブルに置き、リードの手からも取り上げる。それから手を取って立たせると、ベッドのあるスペースへと誘う。

「あー・・・僕、シャワー浴びてないよ?」

「構わない。君はいつもいい香りがする」

「フレグランスとか、使ってないよ?どんな香り?」

「そうだな・・・書類と、本と・・・石鹸の香り・・・だな」

「石鹸?・・・匂い、する?」

「ちゃんと泡を洗い流さないで、シャワーを済ませるんだろう、君は」

「あ、ああ・・・確かに・・・そういうところ、適当かも・・・僕」

ぽすんっと、あまりスプリングのよくないベッドに押し倒される。ホッチが少し長めの後ろ髪を指に絡めて鼻を近づける。

「ああ・・・やっぱり、まだ石鹸の匂いが残ってるな」

「よかった・・・お酒臭くなくて・・・」

リードが緩くホッチの背中に腕を絡ませる。

「ごめんね。今度から、事件のない夜は、ちゃんと誘うね。駄目元でも」

「俺はできる限り、その誘いを断らないようにする」

「無理しないで」

「多少の無理はしないとな。君の体を抱き込むためには。なあ、スペンス」

「ん・・・嬉しいな、アーロン」

「だから・・・これからは、ナンパには気をつけるように」

「・・・そんなんじゃないと思うけど・・・。でも、バーで物理の話をする男には気をつける」

「物理以外の難しい話全般な」

「・・・怒ってる?JJたちとお出かけしたこと」

「怒ってない。そもそも、君を構ってやらない俺が悪いんだから」

「そんなことないよ・・・だって、アーロンは仕事が・・・んっ・・・んぅ・・・んん・・・」

リードの言葉が、ホッチの唇によって遮られる。リードも素直にその唇を受け止める。

せっかくの二人っきりの夜だから。

言葉以上のことで、夜更かしをする方がいいに決まっている。

ホッチの口づけを受けながら、身体中を弄られる感触を確かめながら、リードは器用に靴を脱いでポーンと放ると、細い両足をホッチの背中に絡めたのだった。

END

君があまりにも崇高で美しいから

「あれ?アンジョルラスは、まだ起きてないの?」

グランテールは皆が集う場所でボソッと呟いた。

「昨夜はだいぶ遅くまで起きてたみたいだからな。まだ寝てるんだろう」

これは、コンブフェールの言葉。

「ふうん。・・・もう、こんな時間なのに。お腹、空かないのかな」

そう言って、かの美しき人が眠っているであろう階上を見上げる。

「朝ごはん・・・持って行ってあげようかなぁ・・・」

「ああ、そうしてやってくれ。首領として考えることがいっぱいあるんだろうが、時々寝食を忘れるからな」

コンブフェールが簡単な朝食の乗った、少し大きめのトレイをグランテールに渡す。

「ん?なんで二人分?僕はもう食べたけど」

「ああ、それはガブローシュの分だ。昨夜のお相手は、ガブローシュだったからな」

「えっ・・・」

ガブローシュは可愛い少年だ。アンジョルラスは綺麗な青年だ。

グランテールは、慌てて、バタバタと階段を駆け上がって行った。

********************

大きな足音を立てて、階段を上がったものの、グランテールは、ドアの前では静かにした。ノックをするかどうか悩んだが、それで眠っているアンジョルラス(ガブローシュは置いといて)を起こすのは嫌だ。できれば、寝顔を見たい。あわよくば・・・。

と、そこまで邪なことを考えて、グランテールはブンブンと頭を横に降った。何を考えてるだ自分は。こういうのは、「同意」とか「合意」が大事だ。

グランテールはそっとドアを開けると、静かに部屋の中に入った。カーテンを開けたまま、眠ってしまったのだろう。部屋には朝陽が差し込んでいる。

ベッドを見ると頭が2つ。けれども、その一つがすぐに反応し、起き上がった。

ガブローシュだ。

「んはっ!いい匂い!」

ガブローシュはベッドからぴょんっと降りると、グランテールが持っているトレイを覗きこんだ。

「起きてたのか、ガブローシュ」

「惰眠をむさぼるのもたまには必要だし。なあ、半分はおいらの飯?」

「ああ、そうだ。コンブフェールが持たせてくれた」

「やったね。めっちゃ腹が空いてんだ、おいら」

自分の分の食器をトレイから取って、ガブローシュは小さなテーブルへ置いた。そして、椅子に座ってガツガツと食べ始める。

「美味しいかい?」

「食えりゃ、幸せ。たった一切れのパンでもな」

ガブローシュはまだ小さい。本当なら、もっと美味しいものを食べさせてやりたいと思う。

あっという間に食べ終えると、ガブローシュは手の甲で口を拭き、椅子から降りた。

「じゃ、おいらは行くよ。ごちそうさま。んまかった。食器は自分で下げるから。それと・・・」

ガブローシュはニヤリと笑ってグランテールを見て言った。

「無抵抗の人間にやっちゃいけないことってあっからね」

「っ・・・ガ、ガブローシュっ!!」

「んじゃなー」

食器を持って部屋を出て行く少年。ドアを静かに閉めたのは、アンジョルラスへの配慮だろう。ガブローシュを見送ったグランテールは、ずっと手に持っていたトレイをテーブルに置くと、ベッドに近づいた。

金髪の青年、アンジョルラスが眠っている。いつも早起きの彼がこの時間まで眠っているということは、昨夜は相当遅かったのだろう。・・・理由は、わからないが。けれども、ガブローシュが居たということは、きっと革命話を聞かせてやっていたのだろう。アンジョルラスはその話に詳しいし、ガブローシュもその話が好きだ。

「ん・・・」

アンジョルラスに唇から、声が漏れた。思わず慌てるグランテール。何もしてない、自分は何もしてないぞ、と。・・・下心はあったとしても。

話しながら眠ってしまったのだろう。着替えることもせず、ベッドにいるアンジョルラス。ただ、タイは外しているし、シャツのボタンも数個外している。グランテール的には非常に見目麗しい光景。いやいや、ダメだダメだ。こういうことは、「同意」とか「合意」が大事なんだから。

グランテールは毛布を首元までかけてやろうと(何故なら、このままの状態は目に毒だからだ)、腕を伸ばした。アンジョルラスを起こさないように。

けれども。

グランテールが、毛布に手をかけた瞬間、アンジョルラスの瞳がパチリと開いた。

「あ・・・」

思わず、声を出すグランテール。

「・・・ん?あれ?・・・ガブローシュが、グランテールに変身した?」

相変わらず、天然なことをいう首領である。

「いや、ちゃんとグランテールだから。ガブローシュはさっきまでいたけど、朝食を食べて、さっき下に降りてった。・・・えっと・・・昨夜は、遅かった?」

「ああ・・・」

もぞもぞとベッドの上に半身を起こし、アンジョルラスは軽く伸びをした。グランテール的悩殺ショット。思わず、ゴクリと唾を飲み込む。もちろん、アンジョルラスに気づかれないように。

「うん。革命の話をね。ガブローシュには以前から、話をしてあげるって約束してたんだ。それが’叶ったのが昨夜ってことで・・・ああ、でも、あんな小さな子を夜遅くまで起こしといて悪かったなぁ・・・つい、興に乗ってしまってね」

「いや、めっちゃ元気だったから、そういう心配はいらないと思う」

「そう?なら、いいんだけど」

言いながら、アンジョルラスがベッドから降りる。その姿に、グランテールは「うっ」と小さな呻き声を上げて、鼻を押さえた。

何故なら、非常に寝乱れた状態だったからだ。シャツの裾はズボンからはみ出ていて、外した胸元のボタンのせいで、起きた瞬間、するっと片方の肩が露わになったからだ。グランテールにとっては、ある意味、殺傷能力の高い狂気。実際、鼻腔をたらりと何かが流れ落ちるのをグランテールは感じていた。

鼻血。

「どうした?グランテール・・・て!ちょっと!おい!血が出てるぞ!!!」

慌てて近づこうとするアンジョルラス、それを片手で遮るグランテール。これ以上、麗しの君が近づいてきたら確実に出血死だ。

「だ、だ、だ、大丈夫・・・らから・・・」

「そ・・・そうか?しかし・・・」

アンジョルラスはポケットを探り、ハンカチを取り出した。そしてグランテールに差し出す。

「使って」

「あ・・・あんがと・・・」

アンジョルラスからハンカチを受け取り、そうして2、3歩後ずさるグランテール。けれども、心配して間合いを詰めようとするアンジョルラス。心配はいいから、早くそのセクシーすぎる身なりを何とか整えて欲しい。出ないと、鼻血が止まらない。

「ご・・・ご飯・・・アンジョルラス・・・ご飯・・・」

グランテールはテーブルの上のトレイを指差した。

「あ、ああ・・・運んでくれたんだ。ありがとう。いただくよ」

天使の笑顔で答えると、「おやっ?」とばかりにようやくアンジョルラスは身なりを整え始めた。

「ゆゆゆゆゆゆっくり食べてくれ・・・。じゃ、下にいるから・・・」

「うん。わかった。ありがとう、グランテール」

天使の笑みを受け取りながら、グランテールは鼻を押さえて、廊下に出た。

アンジョルラスが貸してくれた白いハンカチは、真っ赤なハンカチへと変わりつつあった。洗ったとしても、元の白さは帰ってはこないだろう。

「あ、新しいのを買って返そう・・・」

言いながら、グランテールは、微笑んだ。これで公正明大に、愛する者へと贈り物ができる。

ダボダボと鼻血を流しながら、グランテールはガッツポーズを取るのだった。

END

契約という名の確実な束縛

「んっ・・・んっ・・・あっ・・・ああっ・・・い・・・いいっ・・・あ・・・サム・・・サミー・・・はっ・・・もっと・・・奥っ・・・」

体格の良いサムの体の下で、あられもない声を発しているのは、少しばかり弟よりも華奢な体をもっているディーンだった。両手両脚を弟の体に回し、自分の体に引き寄せているものだから、サムとしても、もっと快楽を与えてやりたいとはいえ、動きに制限が出てしまう。

狩の後のせいか、今夜の兄は少々感情が飛んでいるいるらしく、貪欲に弟を求めた。

それはサムにとって決して嫌なことではない。むしろ嬉しい。

「ディーン。もっと奥を突いてあげるから、ちょっと脚を外すよ」

言いながらサムは少しばかり体を起こして自分の背中から、兄の脚を引き剥がした。

「んうっ・・・」

不満そうな呻き声。けれども、間髪入れずに、サムがディーンの腰を抱え直して突き上げを再開すると、それは甘い喘ぎ声にすぐに変わった。二人の体の間で勃ち上がって揺れているディーンのものを掴んで扱き上げると、その形のいい唇からは、さらに甘い声が溢れてくる。

「ディーン、イく?俺もイっていい?」

兄の耳元で囁くと、コクコクと頷きがあった。それを「了解」と解釈して、サムはストロークと手淫を速めた。登り詰める。絶頂。

安モーテルの隣の部屋まで響きそうなディーンの声。ひとしきり啼いたかと思うと、ディーンは仰け反った体を、ドサリとシーツに落とした。目を瞑ったまま、呼吸を整えている。サムが、そろりとディーンの中から自身を抜くとき、一瞬。ディーンの眉が潜められた。それは「嫌」ではなく、ただそれだけの動きにすら敏感になってしまっている証拠だった。

サムは、自分のペニスからスキンを外すと、口を縛ってゴミ箱に放り込む。今夜、3つ目のスキン。

「水・・・欲しい?」

目を瞑ったままのディーンに問うが、彼は軽く首を横に振った。相当体が怠いらしい。そうだろう。あれだけ、喘ぎ、絶頂を覚えれば。

サムはディーンの下半身に古びた毛布を掛けると、自分は小さなテーブルの上い置いてあったペットボトルの水を一口飲んだ。兄、ディーンの寝姿を眺めながら。

・・・・・・これだけ、ぐったりと、動けないでいるのなら・・・・・・。

サムはペットボトルを置き、ベッドに近づいた。

寝息は聞こえないが、眠ってしまったのだろうか。だったら、好都合だ。

サムは静かにベッドに乗り上げて、そろそろとディーンに覆いかぶさった。もちろん体重はかけない。そして、息を殺して。ふわりと甘い香りのする兄の体。その首筋に目をやり目標を定めると、サムはゆっくりと顔を近づけた。

もう少し。そう、もう少し。あと、もう少し。

サムの舌がディーンの首筋に触れ、軽く口を開き、そのまま食いつこうとした瞬間。

ばこん。

「痛いっ!!何?何で?何で、グーパン?ちょっと顎が痛いんだけど?ディーン!!!」

「五月蝿ぇっ!!!それはこっちのセリフだ!お前、何をしようとしてた?あ!?」

さっきまで可愛らしい喘ぎ声を出していた口からは乱暴な言葉が飛び出し、潤んでいた眼には凶悪な光が灯る。

「えっと・・・」

「サム。何回も言うけどな、『噛む』のはナシだ!いいな!ったく!油断も隙もねえ、弟だな。最悪。俺、こっちのベッドで寝るからな。来んなよ」

「ツインの部屋のセックスに使っていない方のベッドにディーンは潜り込み、毛布を頭まで被った」

「え、ちょっと!待って!ディーンってば!『この件』については、ちゃんと話をしようよ!ねえってば!」

「五月蝿い!」

ディーンは毛布を跳ね除けてベッドに起き上がった。そして、ビシッとサムを指差し言い放った。

「俺は絶対にお前の番にはならねえからな!以上!もう起こすなよ!」

そして再び毛布の中に潜り込むディーン。

「そんな・・・・・・」

サムは、くすんくすんとベッドの上に三角座りとなり、落ち込むのだった。ちなみに、このやり取りは既に何度も繰り返されていることである。

*******************

ハンターであるウィンチェスター兄弟。弟、サムはアルファであり、兄、ディーンはオメガであった。サムは自分がアルファである自覚はあったが、兄がオメガであることは全く知らなかった。父が行方不明となり、兄と一緒に狩りをしながら旅をする中で、そのことに気づいた。ディーンの性格や、隠れて服用していた抑制剤。また、サムが大学の行くために家を出たこともあり、気づかなかったのである。しかし、一緒に旅をして入れば、わからない方がおかしい。本人は隠れていたつもりでも、何かしらの薬を飲んでいることはサムにもわかったし、、それに何よりも、時折強くなる、兄の甘い体臭だった。

ある日、ディーンの発情期と狩りが重なった。サムはディーンをモーテルに残して、自分一人でカタをつけようとしたが、どうやらディーンは発情期になると狩りへのアドレナリンも極端に出るらしい。つまり、発情期の方が普通の時よりも、ディーンは強かった。

異常なほどのハイテンションで悪霊を狩り終わると、そのハイテンションのままモーテルへと戻った。ベッドの上で、饒舌に狩ったばかりの悪霊の話をし、行方不明の父について話し、幼い頃のサムのことを話し、そうして、こてんっと、ディーンはベッドに横になってしまった。眠ったのだろうと思い、サムが毛布をかけようとすると、ディーンは自分の体を抱きしめてブルブルと震えていた。

「何?どうしたの?寒い?ディーン・・・もう1枚、毛布を掛ける?」

そんな言葉を無視して、ディーンはサムの頰に手を伸ばした。

「・・・なぁ・・・セックスしないか?」

その言葉は甘くて、その瞳は妖艶で、サムには逆らえなかった。

だから。

血の繋がった兄弟とは理解していながら、その規範を意識の向こうに追いやって、サムはディーンを抱いたのだった。

何度も。

発情期に限らず、ディーンが誘うこともあったし、サムが強請ることもあった。

けれども、ディーンがサムに絶対に許さないことがあった。

それは、『番』になることだった。

サムが自分の首筋を噛むことだけは、ディーンは絶対に許さなかったのである。

それがサムには理解できなかった。

確かに、最初は兄弟愛だったかもしれない。発情で体を持て余している兄を助けようとしただけなのかもしれない。けれども、今は、確実に、絶対に、ディーンを愛していると自覚している。だから「ディーン、愛してる」と何度も言った。それに対して兄は、「はいはい。お兄ちゃんも愛してるよ、サミー」と軽く受け止め、兄弟愛以上のものと理解してくれない。だから、サムは実力行使とばかりに、ディーンの首筋を噛もうとするのだが、成功した試しはない。今夜もダメだった。

「これじゃあ、ただのセフレじゃん。兄弟ってセフレって・・・なんか、もう・・・最低じゃん」

ベッドの上で、三角座りのまましょんぼりと呟くとサムだった。

********************

ディーンが、モーテルの壁に掛けられた、煤けたカレンダーを見て首を傾げている。

「どうしたの?ディーン」

「んあ?・・・ああ・・・いや、何でもない。んなことより、何か変わった事件は?」

「そうだね。・・・えっと・・・最近、この近くにあるいくつかの町で行方不明者が出てる」

「同じ町じゃないのか?」

「うん。近いけど・・・違う。同じ町で何度も行方不明事件は起きてない」

「ふうん・・・。行ってみるか。一番最近のは?」

「隣町」

「おっしゃ。ドライブだ」

ディーンはインパラのキーをチャリンと鳴らすと、モーテルのドアを出て行った。サムも慌てて追いかける。

身分を偽っての聞き込み調査。役場での調べもの。ネット検索。父親の手帳。

「ねえ、ディーン。同じ町じゃないけどさ・・・行方不明者が出た町って・・・同心円上にある」

「中心は?」

「俺たちが泊まってたモーテルのある町」

ディーンが指先で唇をなぞりながら言った。

「戻るぞ」

「モーテルに?」

「ああ。そして・・・町の中心を調べる」

「わかった」

インパラでモーテルに戻る。しばらくはここを定宿にするつもりだったから、大きめの荷物は置きっ放しにしていた。

「地図・・・だな。役場に行って、この町の地図、それから歴史を調べっか。でも、その前に・・・っと」

ディーンは自分の荷物をガサゴソを探すと、オレンジ色のプラスチックケースを取り出した。

「・・・抑制剤?」

「ん?ああ・・・」

「でもさ・・・そんな時期だっけ?」

今朝、カレンダーを見ながら首を傾げていたディーンを思い出す。

「まあ、調子が狂うことだってあんだろ。ほら行こうぜ」

錠剤を口に放り込んだディーンがドアノブに手をかけた。けれども、ドアは開かなかった。

「あ?何だ?」

ガチャガチャと乱暴にノブを回したものの、ドアは開かない。

「マジかよ・・・。サム!窓は!?」

慌ててサムが窓に近づく。そして開けようとしたが、ビクともしなかった。

閉じ込められた。それに気づくのに、数秒とかからなかった。

「まさか・・・ここが・・・このモーテルが発信源?」

「そうじゃなかったら、ハンターである俺たちを始末しようって魂胆か、だろうな」

ディーンは舌打ちをしてカバンを探る。道具のほとんどはインパラのトランクの中だ。今、手元にあるのは、清められた岩塩の詰まった短銃くらいだ。

ドアや窓が開かないだけで、部屋の中はシーンとしている。異形のものがいる気配もない。何より、ディーンの持っている機械が反応しない。

しかし、サムにはわかった。ディーンがもっていない、サムの能力。

「ディーン!こっちに来て!」

「え?んだよっ・・・って・・・あ?」

サムの言葉に反応したディーンが、足を踏み出そうとした瞬間、ディーンの体は姿の見えない何者かに捕らわれた。

「うわっ・・・」

誰かに背後から抱き竦められるような格好で、ディーンの体が宙に浮いた。

「ディーン!!!!」

「マジ・・・かよっ・・・サ、サム!撃て!」

「ディーンに当たる!」

「俺は人間だから岩塩じゃ死なねえよ!!!」

「近すぎるから!衝撃が!!!!」

「サムっ!!!!」

宙に浮いたディーンの首が奇妙に傾げるのが見える。まるで、首筋を曝け出すように。目に見えない何かの力で。そのディーンの姿に、サムが閃いた。

サムは狭い部屋の中を走り、テーブルを使ってジャンプし、持ち上げられたディーンと同じ高さに跳んだ。そして、晒されたディーンの首筋を左手で遮るように隠すと、ディーンの背後にいるであろう、目には見えない何者かに向かって、岩塩を込めた短銃をぶっ放した。

手応えを感じる。

次の瞬間、ディーンもサムも、モーテルの床に落ちた。

「いて・・・」

サムは受け身が取れたが、羽交い締めにされていたディーンはそのまま落ち、軽く足を捻ったらしい。足首を抑えている。けれども、すぐにサムに言い放った。

「サム!ドアと窓!」

「あ、うん!!」

サムはドアに駆け寄った。ドアノブは難なく回った。

「チャンスだ」

「ディーン、肩を貸すから。その荷物、持てる?」

「ああ、大丈夫だ」

二人は、さっさと部屋を出て、モーテルの受付に行ったのだった。

*******************

「は?事故物件?」

モーテルの主人がカウンターに額をつけて謝りながら、事情を説明する。

どうやらあの部屋では、アルファとオメガのカップルが事故死したらしい

「いやその・・・原因はわからないんですよ。心中じゃないかって話もあったんです。襲われた形跡もなかったし、穏やかな死に顔だったし・・・その・・・それに、できるだけ安い部屋をって・・・仰るんで・・・」

と主人はディーンを見た。ディーンは軽くそっぽを向いた。

「で!でも!・・・あの部屋で怖い目にあったお客さんは、いなかったんですよ?」

「いや、別に俺は怖くねーし」

ディーンが慌てて言う。

「逆にいい思い出になったって仰る方もいて・・・その・・・カップルですけどね」

モーテルの主人は続けた。

「で?どうします?今夜もお泊まりになりますか?」

「「チェックアウトで!!」」

サムとディーンは声を揃えて言ったのだった。

********************

「結局、行方不明事件とは無関係ってことかよ」

「多分ね。ああ、ディーン。動かないで。包帯が巻けないから」

「お前の手際が悪すぎんの」

「はいはい。・・・・・・でも、わかったんだ」

「何が」

「あの、ディーンを持ち上げた奴さ・・・番を求めてたんだと思う」

「・・・・・・」

ディーンの目が座る。

「だって、ディーンの首を噛もうとしてた」

「見えてねーのに、よくわかるな」

「ちょっとね。シンクロした。俺もディーンと番になりたいから」

「・・・じゃあ、さっきのは、お前の化身か」

「かもね」

サムが笑う。

「笑えねぇ、冗談だ」

ディーンはそっぽを向いた。

「ねえ、ディーン。調子悪いの?時期じゃないのに、薬、飲んだよね」

「・・・・・・」

「ディーン?」

ディーンは小さくため息をついた。

「なんつうか・・・あんまし、効かないんだよな。薬。そろそろ種類の替え時かもしんねぇ」

「辛い?」

「別に」

「でも、薬は体の負担になるよね?・・・ちゃんと番がいれば、そんなに薬に頼らなくてもよくなんだよね?」

「・・・・・・お前とは、番にはならない」

「どうして?家族だから?兄弟だから?・・・セックスはしてるのに?」

「・・・・・・お前さ、こういう状況なんていうかわかってるか?」

「うん。近親相姦」

「さらっと言うな!アホ!」

「だって、他に言いようがない。ねえ、番になろうよ・・・」

「・・・・・・俺は・・・お前を利用してるだけだ。俺はオメガだから、セックスすれば楽になる。けど、俺たちの稼業じゃ、相手を見つけるのは大変だ。それに、悪いのを相手にして、ガキなんか孕んじまったら、それこそ、仕事にならねえだろう。だから・・・お前が一番安心できる。わかっただろう?俺は自分が楽をするためにお前を利用してる。愛じゃない」

「・・・そうかな?今の発言って、俺を信用してくれてるってことだよね?うん。だって、いつだってスキンをつけてセーフティセックスしてるもん。・・・俺、ディーンから、『家業』を奪う気なんかないから」

「・・・それにしたって、血の繋がった兄弟だ」

「そだね。でも、その兄弟の絆をもっと強くしようよ。俺はディーンを兄さんとしても愛してるけど、一人の人間としても愛してるんだ。だから・・・噛ませてよ。ね?」

「・・・・・・」

ディーンが無言で唇を噛む。

「ディーン。ダメ、唇が切れちゃうよ」

サムの親指がディーンの唇をなぞり、歯を外す。

「サム・・・。覚悟・・・あんのか?」

「あるよ。だって、今までに何回、ディーンの首を噛もうとしたか、わかってるでしょ?遊びじゃないってこともわかってるよ。番になるってことは。ちゃんと真剣だから。真剣に考えた結果だから」

「・・・・・・畜生。結局、世の中のにーちゃんってのは、弟のわがままを許す運命にあるんだよな。全く、そんな立場だ」

ディーンはため息をつくと、ベッドに寝そべり、横を向いた。綺麗な頸が露わになる。

「・・・早くしろよ。俺に気が変わらないうちに」

「ディーン・・・ありがとう!!!今以上に大事にするからね!!!!」

「うっせ!」

憎まれ口を叩くディーンを優しく眺めながら、サムはゆっくりを頭をディーンの首筋に近づけた。少し陽に焼けた首筋をぞろりと舐める。そして、チュッと吸い付いてから、犬歯をその頸にめり込ませたのだった。

********************

いつ終わるかわかない旅路。

いつどちらかの生命が消えるかわかない未来。

それでも、その美しい皮膚に刻みつけた痕は、

目に見えなくなったとしても、

心の奥底には未来永劫残るであろう。

END

一方通行の愛でいい タナーとマイク

アソシエイト・オフィスのデスクで、マイクは黄色いペンを放り出すと、デスクに突っ伏した。ハーヴィーに言われた仕事は最優先で片付けた。今、終わったのは、ルイスに渡された仕事だった。

「あー・・・面倒くさくない、セックスがしたい・・・」

オフィスに誰もいないことをいいことに、マイクはそんなことを呟いた。面倒くさくないセックス・・・となると、相手がハーヴィーやトレヴァーではダメだった。疲れたときに軽く運動するとリフレッシュできる、というが、マイクがしたいのそういうセックスであって、そうなると、やはり、ハーヴィーが相手だと精神的に面倒くさくて、トレヴァーが相手だと身体的に面倒くさいセックスになる。もっと、気軽に、楽に、気持ちがよくなれるセックスがいい。しかし、そんな相手はいない。

マイクは溜息をつくと、ジャケットを着て、メッセンジャー・バッグを斜めがけにするとオフィスを出た。

「マイク・ロス!」

オフィス街を歩いていると、後ろから声をかけられた。その声の主に、マイクは眉を顰める。疲れているのに、面倒な相手に絡まれた。そんな感じ。

しかし、マイクは、無視をせずに、ゆったりと振り返った。

トラヴィス・タナー。自分とハーヴィーの足を引っ張る、面倒くさい男。面倒くさくないセックスがしたいだけの夜なのに、何だか、面倒くさいことばかり考え、そういう相手に出会う。これは、マイナスの引き寄せか、と思う。そんなマイクの思いとは裏腹に、タナーはつかつかと近づいてきた。

「今日は飼い主がいないんだな」

「ハーヴィーは、クライアントと会食。僕は残業でこんな時間。で?何」

「別に。見かけたから、声をかけた。それだけ。他意はない。今、君たちと争っている訴訟もないしな。同じ弁護士だ。ちょっと知り合いに声をかけた。ダメか」

「・・・まあ、ダメじゃないけど」

「ふうん。疲れた顔をしているな」

「毎日こき使われているんでー」

「そうか。・・・じゃあ、軽く飲みにでも行くか?奢る」

マイクがしたいのはセックスであって、酒を飲むことではなかったが、タダ酒ならいっかー・・・と、肩を竦めながら頷いた。

「軽く・・・っていうから、そこらのバーにでも行くのかと思った」

マイクが連れてこられたのは、高級ホテルのラウンジだった。

「NYナンバーワン・クローザーほどじゃないが、俺もこれで高給取りの弁護士なんでね」

「だろうね。相手がハーヴィーじゃなかったら、あんたが勝ってたかもね」

「勝ったのは、ハーヴィーと君のコンビだろう」

「そう見える?」

「プラスとプラスがかけ合わさると最強だな」

「マイナスとマイナスをかけてもプラスになるけどね」

マイクは笑った。高い酒は美味いので、少しピッチが早いかもしれない。目の前にいるタナーの顔にも、嫌味ったらしい表情はない。純粋に酒を楽しんでいるように見える。

確かに、仕事ではないのだから、常に人の足を引っ張るような顔をしているわけもないか、とマイクは思った。ふかふかのソファに背中を預け、両手の中でグラスを弄んだ。

「元気がないな。俺に噛み付いてきた子犬とは思えない」

「何、それ。そんなに僕って子犬キャラ?・・・まあ、事務所でもよく言われるけど」

「今は、飼い主に構ってもらえなくて、寂しがってる子犬っぽい」

「別に寂しくないし。ただ・・・ちょっと疲れてるだけ」

「ああ、さっきも言っていたな。・・・何なら、部屋を取ってやろうか?寝心地のいいベッドで寝たら、疲れも取れる」

「・・・軽い運動もしたら、もっとリフレッシュできるけどね」

マイクは小首を傾げて、ニヤリと笑った。

その表情を見て、タナーは『おや?』という顔をしたが、すぐに笑い返した。

最上階・・・ではなかったが、そこそこいい部屋に案内される。マイクは小さく口笛を吹いた。

「ほんと。あんたって、ハーヴィーほどじゃないけど、高給取りなんだね」

「一言二言余計だな」

「正直者なんで。ねえ、先にシャワーを使っていい?」

「構わない。俺はもう少し、飲む」

マイクはジャケット、ネクタイ、靴下をソファに放り出すと、バスルームへ行った。タナーはグラスに酒を注ぎ、一人掛けの椅子に座った。

いつも足を引っ張りたくなってしまうハーヴィー・スペクターの子犬と、まさかこういうことになるとは思わなかった。これをあの男が知ったら、どうなるのか。そこまで考えて、あの子犬は行動しているのか。ハーヴィーよりも心が読めないのが、マイクだった。本当はこれは、警戒したほうがいい状況なのか、とタナーはふと思った。しかし、ハーヴィーが自分の部下を使って、こういう手を使うとは思えない。やはり、これはマイク・ロスの意志なのだろう。

ほどなくして、マイクがバスルームから出てきた。

「先にベッドに入ってるからー」

少し間伸びした声で、マイクが言う。そこに緊張感は全くなかった。もぞもぞとシーツの中に入って行くマイクの姿を視界の端におさめてから、タナーもシャワーを浴びることにした。

「ルール1」

タナーがベッドに入ると、マイクがシーツの中から言った。

「キスはしない。僕がキスをするのは、ハーヴィーとだけだから」

「ああ。やっぱり、寝てるんだな。ハーヴィー・スペクターと」

「うん。それとルール2。体に痕はつけないで。色々と面倒だから」

「あいつが嫉妬するから?」

「っていうか、言い訳が面倒だから。まあ、ハーヴィーに限らずなんだけど」

マイクが意味深なことを言う。しかし、それについて深く尋ねる前に、マイクが言葉を続けた。

「あとは・・・好きにしていいよ。ただ・・・僕が求めてるのは、面倒臭くないセックス

だから。リフレッシュできるような・・・」

「ああ。軽いスポーツってところか」

「結構、察しがいいね。そういうこと。どうでもいい戯言も睦言もいらない。気持ちよくさせて。で、あんたも必要に応じて気落ちよくなればいい」

「なるほど。・・・了解」

タナーは笑うと、マイクの体にのし掛かった。

マイクの要求通り、タナーはどうでもいいことを言わなかった。ただ、マイクの体を抉り、手のひらをその白い肌に這わせた。しかし、マイクの表情だけは、つぶさに観察した。快感や快楽を追い求めるマイクの表情を見逃さないようにした。その表情に合わせて、犯す速さや角度を変えてやる。マイクは、タナーの体に腕を回すことはなかったが、シーツを指先で掴みながら、我慢することなく、唇から吐息を漏らした。与えられる快感を、自己中心的に、追いかけている表情だった。それはそれで構わなかった。それがある意味、ハーヴィーの子犬との契約だ。それに、この体は案外悪くなかった。体だけの相性はいいのかもしれない。

「マイク。ルールに中出しはダメっていうのはなかったよな」

「・・・ああ・・・うん。そうだね・・・いい・・・よ。・・・別に・・・」

目を瞑ったまま、マイクが’答える。

「・・・そろそろ・・・イく?」

「そうだな。君の中は結構、気持ちがいい」

「あっそ」

「君も一緒にイくか?」

「一緒って案外、難しんだよ。・・・いいよ。勝手にイってくれて。後ろに入れらっれるだけで、こっちも気持ちがいいから。・・・一緒とか・・・そういう面倒くさいの、なしにしようよ」

「わかった」

そうだった。子犬が求めていたのは、面倒くさくないセックスだった。

タナーは自分の快楽だけを求めて、腰を動かし、マイクの中に精を存分に放った。

タナーはマイクから体を離すと、その隣に横たわった。ちらりと横を見ると、マイクが右手の甲をひたいに当て、肩で息をしている。軽く、汗が流れていた。

「大丈夫か?」

「・・・気にしなくていいよ。・・・気持ちよかっただけ」

「君は・・・イってないだろう?」

「・・・そう・・・思う?・・・あんたは知らないだろうけど・・・男も中イキすることってあるんだよ。まあ、滅多にないけど。・・・久しぶりかも」

言いながら、マイクがニヤリと笑った。そうして、体をぶるりと震わせて、ゆっくりと起き上がった。それから、横たわるタナーの体を跨ぐ。

「何を?」

「うん。なんか、興が乗って来た。上にならせてよ。動きたい」

「ああ・・・どうぞ」

マイクは赤い舌で、唇を舐めて湿らせた。それを合図に、タナーの中心に手を添えて、自分の中に導いた。眉を顰めながら、ゆっくりと腰を落としていく。本当にゆっくりと。そして、全てを飲み込むと、もう一度、唇を舐めた。

「あんたは・・・動かなくていいよ。好きにやるから」

「・・・わかった」

下から面白そうに、タナーはマイクを見上げた。

自分の体のいい場所は、自分が一番よくわかっている。マイクはそこにタナーの昂ぶりが当たるように、角度を調整すると、上下に体を動かし始めた。自分本位に快楽を追うのは、男の本能だ。受け入れる側でも、それは同じだった。一番、気持ちよく感じる場所に、タナーを当てる。

「はっ・・・あっ・・・あっ・・・」

タナーが立ち上がって来たマイクの中心に指を伸ばした。しかし、マイクがそれを遮った。

「いいよ・・・自分で扱く。・・・それより・・・胸を触ってよ」

喋るマイクの口からは、赤い舌がチラチラと覗いた。タナーは言われるままに、マイクの両方の胸の飾りに手を伸ばした。擦り上げ、摘み、引っ張る。指先に力を入れると、少しずつマイクの白い喉が仰け反る。

「ひっ・・・あっ・・・い・・・くっ・・・」

マイクは指の動きを速くすると、嬌声を上げて、白濁をタナーの腹の上に放った。

「じゃあ、僕、帰る」

きちんとスーツを着込んだマイクの表情に、疲れの陰りがなくなっていた。本当に、タナーとのセックスでリフレッシュできたらしい。まだ、ベッドの住人でいたタナーがマイクに尋ねた。

「今夜のことを、俺がハーヴィー・スペクターに話したらどうする?」

ドアを出ようとしたマイクが立ち止まり、ゆっくりとタナーを振り返った。その顔は、何処か無表情だった。

「別に・・・構わないよ。言いたかったら、言えばいい」

「・・・あいつは俺の話など、信用しないと?」

「別にそういうわけじゃない。きっと、ハーヴィーは怒るよ。自分の所有物に手をつけられるのは我慢ならない人だから。・・・でも・・・」

マイクは少し考えるように視線をずらした。そして。

「僕が・・・そう。僕がハーヴィーを愛してるって事実だけあればいい。僕は嫌われても、疎まれても構わない。いっそ、捨てられたとしても構わない、一方通行の愛でもいい」

「だったら、どうして俺と寝た?君にとってはリスクだろうが」

「単純に、面倒くさくないセックスをしたかったから。その相手があんただったっていうだけ。それに、セックスだけが、愛じゃないから」

「愛してるのか?ハーヴィー・スペクターを」

「うん。愛してる。世界で一番、愛してる」

「他の男とセックスするのは裏切りだと思わないのか?」

「しつこいな。セックスだけが、愛じゃない。・・・以上、終了。じゃ」

マイクは、話を切り上げると、部屋を出た。エレベーターを使って一階へ。そして、エントランスから外へ。

だいぶ、NYも暖かくなってきた。空を見上げても、星は見えない。ただ、きらびやかなネオンの光。作り物の光。

スーツの内ポケットで携帯が鳴った。ハーヴィーだった。マイクは無視することはせずに、すぐに出た。

「何?どうしたの?会食は終わったの?・・・僕?あはは。まだ、残業中だよ。だから・・・ごめん。今夜は、部屋には行けない。でも・・・明日は大丈夫。今日、頑張って書類を片付けたら、明日は少し余裕ができるから。・・・うん。わかった。・・・おやすみ。・・・うん。愛してる」

マイクは通話を切ると、携帯をしまった。もう一度、空を見上げる。

おんぼろアパートに帰って、すぐに寝る。運動をした後だから、ぐっすりと眠れそうだった。そして、明日、明るい顔をしてハーヴィーに会う。いつものように。出来上がった書類を渡しながら「頑張ったでしょ?」と言えば、オフィスで酒の一杯は飲ませてもらえる。上機嫌だったら、ディナー。でも、たぶん。さっきの電話の様子だったら、セックス付き。きっとクライアントとの会食の首尾がよかったのだろう。ご機嫌な声だった。

どんなにどんなに愛しても、愛し足りない。そんな持て余し気味の自分の想い。自分ですらそうなのだから、きっとハーヴィーに知られたら、彼は困るだろう。

『軽い感じで、愛するふりをするのも、案外大変なんだよ、タナー』

ホテルで言わなかった言葉を呟いてみる。

そして、アパートへ向かって歩きは始めた。

END