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ハンプトンにて 01

「来週の金曜日の午後から日曜にかけて、仕事は休めるか?」

早起きして少し余裕のある朝。マイクはワイシャツを羽織って、キッチンカウンターでコーヒーの香りを味を楽しんでいた。もちろん、ハーヴィーが淹れてくれたコーヒーだ。そんな時に、唐突にかけられた言葉。

「んっと・・・土日は基本休みだけど・・・金曜日はどうかな。まあ、立て込んだ案件はないから、休もうと思えば休めるとは思うけど・・・何?どうしたの?何かあった?」

マイクは両手でマグカップを持ったまま、首を傾げた。

「夏だから、少しは夏らしいことをしようかと」

「夏・・・。かき氷を食べる・・・とか?ああ、でもかき氷に二日半もかかんないよね。ごめん。わかんない。教えて」

「それは、君が休みを取れたら、教えてやる」

「えー・・・そう言われると、ものすごく、気なる。・・・わかった。絶対に休むよ。金曜の午後からでいいんだよね?新しい案件はできるだけ保留にして、今、抱えてるのも問題が起きないように前倒しで片付ける」

「君なら、できるな」

「そういうハーヴィーは?貴方は立場がいいから休めると思うけど、基本的に仕事大好き人間でしょ?」

「前にも言ったことがあるだろうが。今の俺は、何事もマイク・ロス優先だ」

「・・・そういうこと、正面切って、真面目な顔で言わないで。貴方、いい男すぎるから、その直球は心臓に悪い」

「惚れ直したか」

「・・・いつでも、惚れてるってば」

マイクは照れ隠しに、コーヒーに口を付けた。

スコッティのことがあって以来、マイクは以前よりも素直に自分の想いや感情を表現するようになった。思わず自分を卑下してしまうところは相変わらずだが、それでもたいした進歩だとハーヴィーは思う。コーヒーを飲み終えて、いそいそとスーツを着るマイクを見ながら、ハーヴィーは嬉しそうに目を細めた。

********************

そして、金曜日のランチタイム。いつもであれば近くのカジュアルなレストランに行ったり、フードトラックでサンドイッチかベーグルを買うマイクだったが、秘書のエイミーに「後をよろしく」と声をかけると、自分のオフィスを出て、1階に降りた。エントランスのガラス越しに、道路に停めてあるレクサスが見える。ハーヴィーが迎えに来る約束だった。マイクは後部座席のドアを開けると、するりとレクサスに乗り込んだ。

「ごめん、ハーヴィー。待った?」

「そうでもない。一応、君のランチタイムに合わせてきた。ああ・・・昼飯はまだか・・・」

「大丈夫だよ。まだ、あんまりお腹は減ってないから」

「そうか?だったら、空港まで我慢してくれ」

「空港?・・・空港に行くの?」

「ああ。ニュー・アークのリバティ空港。ここから車で30分くらいだ。そこでランチにしよう」

「どこに行くの?旅行なの?僕、何にも準備しないよ?仕事用の鞄だけよ?」

焦ったマイクはあたふたとする。しかし、ハーヴィーは涼しい表情で言った。

「君のスーツケースは持ってきた。もちろん中身の準備も万端だ」

「え・・・ハーヴィーが、用意してくれたの?」

「俺は朝から休んだからな」

「仕事優先のハーヴィーが・・・」

「言っただろう。マイク・ファーストだ」

「ちょっと!レイもいるんだよ!」

「彼は聞かなかったことにしてくれる。なあ、レイ」

「ええ。もちろん」

「めっちゃ、聞こえてるよ・・・」

がっくりと肩を落とす。

「・・・それで?何処に行くの?」

「ハンプトン」

「・・・ハンプトンって・・・前に行った?」

「ああ、そうだ。前回は車で行ったが、それだと時間がかかりすぎるからな。飛行機だと直航便で1時間半だ。ゆっくり、ハンプトンを楽しめる」

ハーヴィーの知り合いのコテージ。マイクも気に入った場所だった。静かで、海が目の前にあって。・・・今回は一体、何処に宿泊するのだろうか。

マイクは、柔らかいシートに背中を預けた。もう、じたばたしても始まらない。夏の短い休暇をハンプトンで過ごす。ハーヴィーと一緒に。それだけで、理由はもう、十分だった。

********************

ノーフォーク国際空港には、オンタイムで16:01に着いた。ハーヴィーが空港でレンタカーを借りる手続きをする間、マイクが二人分のスーツケースの見張りをする。週末旅行だから、小回りの効く小さめのスーツケースだ。空港を行き交う人々を眺める。スーツ姿の人間はあまりいなかった。確かに、今はヴァカンスの時期だ。そして、ハンプトンはわりとセレブなリゾート地。ラフではあるが、質の良い、リゾートファッションの人が多いように感じる。街に出たら、きっとその数はもっと増えるのだろう。

「疲れていないか?」

いつの間に、レンタカーのキーを持ったハーヴィーが横に立っていた。

「あ、ハーヴィー・・・ごめん。ちょっとぼーっとしてた。なんか・・・違和感だね。スーツの僕って。あ、ハーヴィーは別。仕立てがいいから」

「君だって、転職して、良いものを着るようになっただろう?」

「んー・・・でもさ、中身がね」

「何を言ってる。俺だって元はファームの郵便室で働いていたんだ。生まれだって、そんなに良くはない」

「ハーヴィーの実力かぁ・・・そうだね。そうだよね」

「ああ。だから、君も、自分に自信を持ったほうがいい。ほら、行くぞ」

「あ、うん!」

自分のスーツケースを引いて、ハーヴィーの後を追う。外に出てレンタカースペースに行く。さすが、高級リゾート地ハンプトンのレンタカー。高級車が多い。ハーヴィーは一体、どんな車を選んだのだろうか。ハーヴィーは、既に目的地がわかっているかのように、ずんずんと歩いて行った。それに一生懸命追いつくようにマイクも歩く。暑い太陽光。改めて、夏のヴァカンスの季節だということを思い知らされる、スーツのジャケットを脱ぎたいな・・・と思ってしまうほどの暑さ。ハンプトンの天気など調べてはいなかったが、滞在中は良い気候に恵まれそうだった。

「これだ」

ハーヴィーが一台の車の前に立つ。

「うわお!かっこいい!コンバーチブルだ!これ・・・ハーヴィーが持ってるのと同じで・・・色違い・・・だよね?」

「ああ、そうだ。ほら、ジャケットを脱いで、ネクタイも外すといい。俺もそうする」

言うや否や、ハーヴィーはさっさとジャケットとネクタイを車の後部に置く。マイクも慌てて、それに倣った。そして、助手席に乗り込む。「少し早めの夕食にしよう。昼は軽かったから、さすがに腹が減っただろう?」

「・・・なんか、気持ち的にお腹がいっぱい」

「そう言うな」

笑いながら、ハーヴィーは車を発進させた。風が気持ちい。まるで、天然のエアコンだった。

「シーフードでいいか?」

「え?あ、う、うん」

景色に気を取られていたマイクが、遅れて返事をする。ビルが立ちはだかるマンハッタンと違って、ここは青い空が広い。

「海が近いから、魚が美味い。ああ、でも君が肉の方がいいと言うなら・・・」

「大丈夫!シーフード大歓迎!・・・言われてみれば、ステーキとか、イタリアンとか、中華のデリが多いから、シーフード料理って珍しいかも。うん。僕、シーフードがいい」

「そうか。それは良かった。The SaltBoxという店を予約してる。カジュアル店だから、緊張しなくていいぞ」

「良かった。僕、ハーヴィーに高級なお店に連れていかれると、いまだに緊張するんだよね」

「今更か?その割にはいつも美味しそうに肉を頬張ってるぞ」

「だって。ステーキに罪はないもん。美味しいものは美味しく食べなくっちゃ。それと、めちゃ高級なお店に行った時はできるだけ周囲を見ないようにしてるんだ」

「なるほど。ステーキだけ見てるわけだ」

「あ、ハーヴィーのことも見てるよ、もちろん」

「優等生な答えだな。100点だ」

空港から程なくして、ハンプトンの繁華街に着く。ハーヴィーは優雅に車を停めると、エンジンを切った。

「へぇ・・・オープンな感じ。いいね。すごく、リゾートって感じ」

「どうだ?敷居は低いか?」

「うん。大丈夫。緊張しないで済みそう。休暇で緊張するなんて、もったいないもんね。ありがとうハーヴィー。僕に気を使ってくれて」

「君がリラックスできるのが一番だからな」

案内された席に落ち着く。すぐにビールが運ばれてきた。

「あ、珍しい。ワインとかじゃないんだね」

「海のリゾートだからな。ここはビールだろう」

「ますます、落ち着く。でも、このビールは絶対に高いヤツ」

「君の部屋の冷蔵庫にあった、安いビールが懐かしいか」

「昔はアレが限界だったの!ちゃんとしたお酒の味を覚えたのは、ハーヴィーと働くようになってからだよ。たまに、シドウェルと飲みに行くことあるけど・・・うん、ハーヴィーのセレクトとはちょっと違うかな。・・・ねえ、ハーヴィー、本当はすっごくいいとこのお坊ちゃんなんじゃないの?」

「残念ながら、庶民の出自だ。美味いものは、自分に箔を付けるために、実際に飲んで食べて覚えた。着るもののも、そうだな」

「形から入る人間っているけど、ハーヴィーはそういうのとは違うよね。だって、ちゃんと実力があるもん。それと、自信」

「そんな俺の自信を見事に打ち砕いてくれる人間もいるがな」

「え、嘘。もしかして、ハーヴィー、仕事で何かあった?もしかしてこれって、その傷心旅行?何か、僕に手伝えることある?もう・・・あなたのアソシエイトではないけど・・・」

「まったく、君はわかってないよな」

「え?僕、何か鈍かった?ハーヴィーに失礼なこと言っちゃった?」

ビールのグラスを持ちながら、マイクが固まる。自分がしたかもしれない失敗に思いを馳せているのだろう。ハーヴィーはそんなマイクを眺めながら、可笑しそうに溜め息を吐いた。

「そういうところだな」

「え?何?ちゃんと言ってくれないと、僕、自分のいけないところ、直せない!」

「俺の自信を唯一、打ち砕いてくれるのは君だ」

「ぼ、僕?」

「こんなにも俺は君を愛しているのに、君はそれを疑うだろう?」

「ちょっ・・・ここ・・・公共の場だよっ・・・周りに聞こえたら・・・」

マイクの声が小さくなる。

「俺は別に構わないが?君は、気になるんだな」

「う・・・だって・・・ハーヴィーが変な目で見られたら・・・やだもん。僕のことはどうだっていいんだよ。でも、ハーヴィーは立場ってものがあるんだし」

「ここはNYじゃない。ハンプトンだ。俺を知ってる人間なんか、いないだろう?まあ、NYでも俺は言うけどな」

「ううううううう・・・・」

恥ずかしさのあまり、マイクが項垂れる。

「ほら、料理が来たぞ。この店のおすすめだ。白身魚のグリル。魚の種類は日によって変わるらしい。今日は・・・タラだな。食べさせてやろうか?マイク?」

「ここ!公共の場!」

マイクは恥ずかしくて少し涙目になっている。少し苛め過ぎたか、とハーヴィーは反省し、そこからは大人しく、ナイフとフォークを扱い始めた。マイクもハーヴィーの表情をチラチラと伺いながら、ようやく自分もグリルを食べ始めたのだった。

********************

「帰りにスーパーに寄って行こう」

「え?ホテルに泊まるのに?」

夕食を終えて、コンバーチブルに乗り込みながら、ハーヴィーが言う。それにマイクが不思議そうに問い返したのだ。

「パンとパストラミとチーズ。それから・・・ああ、タルタルソースだったな」

「え、それって・・・」

「君がハンプトンで作ってれたサンドイッチ。あれは美味かった。あれなら、ホテルでも作れるだろう?」

「あ、あんなの・・・全然だし・・・。ホテルにルーム・サービスの方が絶対に美味しいいよ?」

「俺が食べたいと言ってるのに?その望みを叶えてくれないのか?」

悲しげに言うハーヴィーに、マイクはようやく答える。

「う・・・そんなことも・・・ないけど」

「じゃあ、決まりだ」

してやったりと、現金にも表情を明るくすると、ハーヴィーは車を走らせ始めた。すぐ近くのマーケット。観光地故に、さほど大きくはないが、食材は揃っている。以前、マイクが自転車で来たことのある店だ。マイクは手早く、サンドイッチの材料をハーヴィーが持つかごの中に入れていった。

「ああ、これも買っていこう」

ハーヴィーが手にしたのはワインのボトルだった。赤と白。

「ハーヴィー。それこそ、ホテルにあるんじゃないの?それ、安いチリワインだよ?」

「チリワインを甘く見るな。美味いぞ」

「それは知ってる。ハーヴィーと暮らす前は結構飲んでたもん。でも・・・いいの?ホテルにはきっと美味しいワインがもっと揃ってるよ?まあ、僕の作るサンドイッチに合わせるなら、チリワインが分相応なんだけど」

「マイク」

ハーヴィーが声のトーンを落とす。

「あ、ごめんなさい」

マイクも自分の失言に気付いてすぐに誤った。ハーヴィーは、自分自身を卑下する言葉を好まない。しかし、如何せん自分に自信がないので、思わず口を衝いて出てしまうのだ。無意識に。それで、以前よりは言わなくなったという自負もあるのだが。ここが、ハンプトンという高級リゾート地だということが関係しているのだろうか。正直、マイクは自分に自信などもてなかった。

買い物を済ませて、再び車に戻る。繁華街に立つリゾート感満載なホテルが視界に流れていく。

しかし。

「あれ?」

車は街中を抜けて、どんどん建物が少ない地域へと入っていった。

「ハーヴィー?何処・・・行くの?ホテルとか、過ぎちゃったけど」

夕日を背負いながら、サングラスをかけたハーヴィーは無言だった。けれども、口元が悪戯っ子のように笑っている。

「ねえってば・・・」

「着いてのお楽しみだ」

それから10分。ハーヴィーはようやく車を停めた。一軒のコテージの前。マイクは、あんぐりと口を開けたまま固まる。

「ここって・・・」

「君が気にったようだったからな。ここにした。ここは食材もないし、酒もない。買い物をして来て正解だったろう?」

「ハーヴィー・・・それなら、そうと言ってよ!」

マイクは助手席から降りる。ハーヴィーが「マイク」と声をかけ、コテージの鍵を渡した。

「先に行ってろ。荷物は俺が運ぶから」

「ありがとう、ハーヴィー!」

マイクは駆け足で玄関に行くと、鍵穴にキーを差し込んだ。ガチャリ・・・という音。ドアを開けると、懐かしい景色が広がった。

「うわぁ・・・」

高級ホテルよりはずっと、心が落ち着く。誰の目にも晒されない、場所。

「どうだ?」

「やっぱり、ここ、いいね。ちょっとインテリアが変わったっていうか、少なくなったような気がするけど、それもさっぱりしてていいね」

「ああ、それは前の持ち主が持って行ったからだな。ただし、大きい家具やキッチン用品はそのままだ」

「え?持ち主が変わったの?」

「ああ」

「やっぱり、ハーヴィーの知り合い?」

「もちろん。君もよく知ってる人間だ」

「えー・・・ファームの顧客?いたかなぁ・・・ハンプトンに関係があって、僕の知ってる人」

マイクは自分に頭の中の記憶を探る。一度でも仕事をしたり、書類を見たりしていれば、必ず引っかかる。しかし、それがない。

「おかしいなぁ・・・わかんないや。ねえ、誰?」

「ハーヴィー・スペクター」

「?・・・えっと、それは貴方でしょ?」

「だから。俺が、ここを買い取った。言っただろう?オーナーが手放したがっていると」

「それで・・・買ったの?このコテージ」

「ああ。君が、ものすごく気に入っていたようだったから。それにハンプトンなら、飛行機を使えば楽に来れるしな。君は優秀だし、今はそれなりの立場だから、休みも取りやすいだろう?」

後ろからハーヴィーがマイクの身体を抱き締める。

「ホテルよりも、君はこういう場所の方が落ち着くと思ったしな。それに、繁華街から遠くて静かだ。二人っきりでいられる。・・・誰の目にも触れない。最高だろう?」

「・・・ハーヴィー・・・貴方・・・僕を甘やかし過ぎ・・・」

「愛してるんだ。甘やかして、当然だろう?君の為だ」

ハーヴィーが鼻先をマイクの項に埋める。そして、キス。

「ん・・・ハーヴィー・・・今日は午前中は仕事してて・・・まだシャワーも浴びてなくて・・・」

「構わない・・・今の君がいい」

「だって・・・汗っぽいし・・・」

そんなマイクの言葉など無視をして、ハーヴィーの指がシャツのボタンをどんどん外していく。マイクも抵抗らしい抵抗はしなかった。マイクも、シャワーを浴びていない、ハーヴィーの匂いが好きだった。マイクはハーヴィーの腕の中で、くるりと向きを変えると、両手で愛する男の頬を包んだ。

「ありがとう・・・ハーヴィー・・・。好きだよ・・・。いつも僕のことを考えてくれて・・・。僕には本当にもったいないくらい・・・。僕は、何も返せないけど・・・でも、好きって言葉だけは言える。ううん・・・愛してる。ハーヴィー」

「それで十分だ、マイク」

ハーヴィーがマイクの蜂蜜色の髪を撫でる。窓から差し込む夕陽のせいか、いつもよりも濃い、ねっとりとした蜂蜜のようだった。そんな蜂蜜色の髪が動く。珍しく、マイクの方がハーヴィーに寄り添い、唇を合わせてくる。持て余してしまった感情を押し付けるようなキス。そんなキスを受けながら、ハーヴィーはマイクのシャツを肩から落とした。

「ここで・・・する?」

唇の隙間から、マイクが問う。

「いいのか?まだ、夜じゃないぞ?」

「いいよ。僕・・・欲しくなっちゃった・・・」

そう言って、マイクはハーヴィーから離れると、スラックスと下着、それから靴も靴下も脱いで、ソファに座った。そして、ハーヴィーに両腕を伸ばす。笑顔を向けて。ハーヴィーは遠慮することなく、マイクの身体に覆いかぶさった。再びキスをしながら、互いの身体を弄る。マイクはハーヴィーのシャツのボタンを外して、鍛えられている逞しい身体に手を這わせる。そして、ベルトに手をかける。ハーヴィーはクスリと笑いながら、マイクの中心を握り込んでやった。

「あ・・・んっ・・・ずるい・・・ハーヴィー・・・まだ、脱いでない」

「いいから・・・楽しませろ」

「・・・楽しいの?」

「ああ。こんなにも、素直で積極的な君は楽しい」

「だって・・・ここ・・・好きだし・・・静かで・・・ハーヴィーと二人っきりで・・・こんなに嬉しいこと・・・ないもん・・・」

「俺もだ」

言いながら、マイクを刺激する。

「んっ・・・あんっ・・・ハーヴィー・・・ハーヴィーも・・・一緒・・・それが・・・いい・・・」

「仕方がないな」

ハーヴィーはマイクから少し離れて、素早く全裸になる。そして、もう一度、マイクの全身を抱き込んだ。

「ハーヴィー・・・あったかいね・・・」

「君は、熱いな」

「暑苦しい?」

「そうじゃない。こんなに体が熱いのは、相手が俺だから・・・という解釈でいいか?」

「それ、すごい、意地悪な発言だよ・・・僕が、ハーヴィー以外で熱くなるわけない・・・」

「そうか。なら、しっかりと掴まってろ」

ハーヴィーはマイクの両足を大きく割り広げると、後ろの窄みに指をあてがった。そこはすでにヒクついていて、いつでも受け入れようとしている。つぷんっと差し込み、浅く抽送を始める。

「ふ・・・あ・・・だ、大丈夫なのに・・・」

「ダメだ。ちゃんと解さないと。俺は君を傷つけたくないからな」

「僕は、ハーヴィーが早く欲しいのに」

「休みを取るために、仕事を頑張って、ここのところ遅かったろう?」

つまり、二人はしばらくご無沙汰だった。だから、ハーヴィーがマイクの身体を労わるのも無理はなかった。けれども、マイクにはそれがもどかしい。

「本当に・・・大丈夫だよ・・・だって、僕、とっても幸せだから。そういう時って、ちゃんと身体は適応するんだよ?いつも貴方を受け止めてる僕が言うんだから・・・ねえ・・・」

マイクの脚が上がり、ハーヴィーの腰に絡む。そこまでされては、ハーヴィーも耐えきれない。

「わかった・・・しかし、ゆっくりな」

「うん・・・ありがと・・・大好きだよ・・・」

ハーヴィーは指を抜き、体勢を整えると、自分の切っ先をマイクにあてがった。そして、ゆっくりを差し入れて行く。マイクは自分で呼吸を調整し、入り込んでくる質量を、受け入れる。

「んっ・・・好き・・・ハーヴィーの・・・熱い・・・」

マイクはぎゅうっと、ハーヴィーを抱き締める腕に力を込める。

夕陽が、揺れるハーヴィーの背中と、蜂蜜色のマイクの髪を照らしていた。

to be continued

籠の鳥 湖畔の戯れ 02

ゆらゆらと、体が揺れている。まるで、揺り籠の中で眠っているかのようだった。

「ん・・・」

「スペンス?」

名前を呼ばれて、ふっとリードは目を開けた。すぐ間近にホッチの顔がある。そうだった。ここは、ホッチの別荘で、屋外風呂で湯当たりしてしまって、リビングのソファで眠ってしまったのだ。リードはゆっくりと辺りを見回した。リビングではない。広い廊下だ。どうやら自分はホッチに抱かれて運ばれているらしい。

「具合は?」

「大丈夫・・・スッキリしてて・・・でも、その・・・」

「どうした?」

「自分で歩けるから・・・降ろして・・・?」

「本当に?」

「うん。・・・だって、この別荘を探検するって・・・」

「せっかく、ベッドまで運んでやろうと思ったのに」

そう言いながらも、ホッチはリードを床へと降ろしてくれた。

「もう、寝ちゃうの?夜なの?」

「いいや。日はまだ高い。昼を少し過ぎたところだ。別荘についた時間が早かったからな。ああ、そうか。あそこへ行こう」

「何処?」

「寝室」

「え・・・せっかく、僕、起きたのに」

「いいから。ここはデイブの設計した別荘だと言っただろう?寝室はいくつもあるが、その中でも一際、素晴らしい部屋がある。おいで」

ホッチはリードの手を引き、長い廊下を歩き始めた。

********************

「うわぁ・・・螺旋階段・・・すごい高い所まで続いてる?」

「自分で昇るか?それとも抱いて行ってやろうか?」

「大丈夫だもん。昇れるもん。なんだか、ワクワクする」

「それはいい。ただし、疲れたら、いつでも言えよ?」

「大丈夫だってば、アーロン。僕、そんなに柔じゃないよ?」

リードは軽やかに螺旋階段を昇り始めた。・・・が。その3分後。

「は・・・あ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「スペンス?そろそろ抱いて行ってやろうか?」

「だ・・・大丈夫・・・大丈夫・・・はぁ・・・はぁ・・・」

強がるリードの口調はとても弱々しかった。元々、身体を鍛える習慣のないリードだ。気力はあっても、体力がついていかないのだろう。ホッチはこの先の楽しみのことを考えて、リードの腰に腕を回すと、軽々とその身体を抱き上げた。

「アーロン、ごめんなさい。僕・・・全然、ダメ。こんなんじゃ、仕事でアーロンのお役に立てないね。・・・もっと鍛えなくっちゃ・・」

「いや、スペンスはそのままでいい。この細い身体は俺の好みだからな。ほら、着いた」

ホッチは器用にドアを開けた。するとそこに広がったのは、部屋の内装ではなく、壮大な外の景色だった。

「え?何?ここ・・・寝室?・・・でも・・・外?」

「言っただろう?ここはデイヴが設計した別荘だと。彼なら、このくらいのことは考える」

リードは目の前に広がる景色に目を見張った。そこは壁のない寝室だった。中央には大きな天蓋付きのベッド。屋根を支える太い、4本の柱。・・・それだけ。後は、広がる山並み、森、緑、空。

ホッチは静かにリードをベッドの上に降ろした。が、リードはホッチの着ているガウンをつかんだままだった。

「どうした?」

「怖い・・・落ちそう・・・」

ベッドの上で、小動物のように固まるリードの身体を、後ろから抱きしめてやった。

「美しい、壮大な景色だろう?」

「うん。・・・でもね、落ちそう・・・」

「スペンスは高い所が怖いのか?」

「わかんない。だって、こんなに高いところに登ったの・・・初めてなんだもん」

「そうか。・・・ここは嫌いか?」

「ううん。だって、ロッシが考えた寝室なんでしょ?だから嫌いじゃない。でもね、怖い。落ちそう」

「俺がしっかりと抱いててやるから、少し周囲を見てみろ。ああ、鳥が飛んでいるな」

ロッシが考えたのは、天空の寝室だった。山の傾斜に建てた別荘の立地を生かして、整理出した舞台をを造り、そこに寝室を設えたのだった。

リードはホッチの腕の中で。恐る恐る周りをちらりと見てみる。信じられないほどの自然。本当に、自分たちが空に浮かんでいるようだった。やっぱり怖くなって、リードはホッチの胸に顔を埋めてしまった。

「そんなに怖いのなら、ずっと俺を見ているといい」

ホッチはリードの身体をベッドに横たえ、押し付けた。するりと、紐をほどいて、リードのガウンの前を開く。すぐに陶器のような白い裸体が現れる。

「アーロンも、僕だけを見てくれる?」

「ああ、もちろん」

せっかくの二人きりなのだ。こうして愛する者を独り占めできることは久しぶりだった。ホッチは静かに、鍛え上げた自分の身体をリードに重ねた。

********************

リードは自分の両腕はホッチの首で、両脚は腰へと絡みつけた。怖いほどに美しい自然が視界に入らないように、軽く目を瞑って、ホッチの胸の辺りに鼻を擦り付けるようにする。ホッチの匂いがする。それで安心できる。身体に穿たれた楔が、二人を繋いでいる。一人ではないと感じられる。怖くない。ホッチがいる。

「・・・アーロン・・・好き・・・」

「ああ、俺もだ」

両手両脚に力を込めて、ホッチを引き寄せる。リードには珍しい積極的な行為だった。怖さから逃れたい・・・という思いもあるが、それ以上に、久しぶりにこうして抱き合えることが嬉しかったのだ。さっき、屋外風呂でもセックスしたばかりだというのに、足りない。ホッチが足りなかった。ホッチもまた、リードを酷く欲していた。

「せっかくの景色なのに、俺ばかりを見てていいのか?」

「・・・うん。いいの・・・」

リードは身体を揺さぶられながら、そう答えたが、けっして美しい自然の景色を嫌っているわけではない。しかも、せっかくホッチが連れてきてくれたのだ。本当なら、この雄大な景色を楽しむべきなのだろうが、ここはリードにしてみればあまりにも高い場所だった。塔にすら登ったことのないリードにとって、あまりにも心許ない場所だった。・・・ただ、今はホッチと一緒だ。もう少ししたら、ホッチにちゃんと抱きしめてもらえたら、ちゃんと景色も眺めることができそうな気もした。ただ、今は・・・。

「スペンスは女の子みたいだな。こんなにもたくさん注ぎ込んだら、孕んでもおかしくない」

「え?・・・孕むって・・・赤ちゃん・・・できちゃうの?」

「ああ、ここに」

ホッチがリードの薄い腹を撫でた。

「この奥で、きゅうきゅうと俺に吸い付いてる」

「僕・・・男だし・・・」

「スペンス。俺が君を娼館から連れ出したことの意味をわかってるか?」

「え?・・・と・・・その・・・僕を哀れんでくださったから・・・?」

「違う。男が娼館から女を連れ出すことは、身請けするってことだ。つまり、自分の妻にするのと同じだ。だから、スペンスも・・・そういうことだ」

ホッチが口角を上げて、ニヤリと笑う。

「そういうこと・・・そういう・・・そ・・・え?・・・じゃ、僕・・・貴方の・・・」

「妻、ということだな。妻なら、孕むだろう?跡取りを」

「やっ・・・だ辛っ・・・僕はその・・・男でっ・・・」

「君に似たら、金髪の可愛らしい子だろう。男でも女でも。ああ、楽しみだな」

言いながら、ホッチがグイッとさらに腰を推し進めた。

「ひゃんっ・・・んあっ・・・!」

衝撃に耐えながらも、リードの中は、確かにホッチを離すまいと、きゅうっと締め付ける。

「ああ、君の中は素晴らしい・・・」

ホッチはリードの腰を掴みながら、幾度めかの射精をしたのだった。

********************

「まだ・・・周りを見るのは怖いか?」

シーツに顔を押し付け、呼吸を整えるリードの金髪を撫でながら、ホッチが言った。心地のいい風が、二人の体を撫でる。リードはゆっくりと目を開けた。

「・・・僕を離さないでいてくれる?」

「ああ、もちろんだ」

リードはホッチの腕に掴まりながら、そろそろと体を起こした。ホッチもまた、リードの身体を背後から包むように抱きしめる。安心感。それを得て、リードはゆっくりを首を回した。

「うわぁ・・・すごい・・・空・・・山が、近いね」

ぎゅっとホッチの腕を掴みながらリードが言った。

「もう、怖くないか?」

「ホッチがちゃんと捕まえててくれてるから。・・・ねえ、ここどうなってるの?別荘の中なんだよね?」

「この別荘は山の斜面に建っているだ。少しがけのようになっている部分があってな、そこを基礎にして、ロッシが寝室を設計した」

「じゃあ、ここ、崖の上なの?」

「そうとも言う」

「・・・落ちたら・・・怖いね」

「まあ、ここで、夜に眠るということしないが、スペンスと過ごすのにはとてもいい。しがみ付いてくるからな」

「鳥が・・・飛んでるね・・・」

「ああ、そうだな」

「大きな鳥だね。何だろう・・・」

「覚えておけ。図書室に鳥の図録がある。、後で照合してみるといい」

「図書室があるの?」

「ああ。屋敷ほどではないが、本は置いてある。ん?・・・まさか、籠る気じゃないだろうな?せっかく俺と別荘に来ているのに」

「えーっと・・・でも・・・どんな本があるかだけでも・・・」

「スペンス?」

「・・・お願い!ほんのちょっとでいいから!」

本を愛するリードが懇願の声を上げる。ホッチの腕の中で身体を捻り、愛らしい瞳を向ける。

「わかったわかった。ただし、本を選んでもいいが、読むのは禁止だ。屋敷に持って帰るといい」

「ありがとう!」

「それで?本の代わりに、スペンスは俺に何をしてくれるんだ?」

「んっとね、僕がお料理を作れるようになったら、美味しくないかもしれないけど、アーロンにお夜食を作ってあげる!」

「それは一体、いつになることやら。・・・俺は、今、何かが欲しい」

「でも・・・僕、何も持ってきtrないよ?っていうか、住むところも、着るものも、ぜーんぶアーロンがくれて、僕は自分のものなんて何一つ持ってないよ?本当に僕、身体一つでアーロンのお屋敷に行ったんだから」

「その、身体がいいんだ」

ホッチがリードの肩にキスを送る。リードは身じろぎ、首を伸ばして、ホッチの顎にキスをした。

「・・・僕、脳、怖くないよ?・・・この景色、素敵。好きになったよ?」

「そうか。それは良かった」

「だからね。今度は僕が頑張るから、アーロンは楽しんで?・・・こんな痩せぽっちの貧相な僕だけど・・・」

「自分を卑下するな。スペンスはとても綺麗だから」

「・・・ありがと」

言いながら、リードは体重をホッチにかけた。ホッチの体は自然とベッドに倒れこんだ。その仰向けになった体の上に、跨るようにして、リードは座った。逞しい腹筋に指を置いて、腰を上げる。背後に手を回して、休むことなく勃ち上がっているホッチの剛直に指を添わせて、自分の後孔に誘い込む。そして、ゆっくりと腰を落とした。風が吹き、リードの金髪が攫われるように揺れる。自然の中の美しい絵画。ホッチは優しく、リードの頬を撫でてやった。

********************

「本は選ぶだけと言ったよな?」

「だって~!あ、ねえねえ、アーロン!あの鳥ね、なんだかハヤブサみたいだよ!」

「こら。誤魔化すな。反対の手に持っている本は何だ」

「え、これ?何だか、面白そうで・・・あ!やっ!取り上げないで~!!」

「没収。これは屋敷に帰ってからだ」

「寝る前に読んじゃダメ?」

「そんな暇があると思うか?」

「え?」

「この別荘に行くつの寝室があると思う?しかも、デイブが設計した特殊な寝室が」

「・・・・・・えっと・・・いっぱい、あるの?」

そんなリードの質問に、ホッチは意味深な笑顔で応えた。

「それは、夕食が終わってからのお楽しみだな」

ホッチはリードの手から本を取り上げると、その身体を抱き上げて、食堂へと運んだのだった。

二人のヴァカンスは、始まったばかりだ。

END

籠の鳥 湖畔の戯れ 01

馬車はそれなりに整備された道をゆっくりと慎重に進んで行った。道の両側から覆いかぶさるように伸びている木の枝と葉が、時折、馬車の屋根を掠めた。最初はその物音に驚いていたリードだったが、次第に慣れて、窓からの景色を楽しむようになった。とは行っても、緑しか見えなかったのではあるが。それでも、隣に座るホッチに体を軽く預けながら、リラックスしているリードの様子に、ホッチもまた口端に笑みを浮かべながら、その横顔を眺めていた。

ホッチがリードを娼館から連れ出し、自分の屋敷で一緒に暮らすようになってからおよそ一ヶ月が経過していた。最初はホッチ直々の行儀見習い。貧しい生まれで、貴族のマナーとは無縁の生き方をしていたリードではあったが、頭は良く、飲み込みも早かった。だから、ホッチが教えたことは一度でマスターしたし、エミリーやJJ、ガルシアの協力もあり、どこからみても青年貴族としての立ち振る舞いができるようになっていた。しかしながら、自分の仕事以外の時間をリードと共に過ごそうとしているものの、ことごとく三人娘に邪魔をされて、寝室のベッドでしかリードと一緒に過ごせないのだ。しかもリードは3人に振り回されて、すっかり疲れてしまい、ベッドに潜り込むとすぐに、くぅくぅと寝息を立ててしまうのだった。せっかくリードを娼館から連れ出しというのに。せっかくの蜜月を過ごそうと思ったのに。屋敷にいては、それもできない。そこでホッチが考えたのが、いくつか所有している別荘へ逃げることだった。三人娘にバレないようにこっそりと。眠っているリードを抱きかかえて場所に運んだのはホッチだ。しばらく馬車を走らせたところで目覚めたリードに事情を説明して、寝間着から外出着に着替えさせた。だから、今はすっかりと貴公子の服装でいる。娼館にいたときのような、ブラウスとパンツスタイルも可愛らしかったが、それは別荘についてからでもいいだろう。窓の外を楽しそうに眺めるリードの金髪を指先で梳きながら、ホッチは再び微笑んだ。

********************

「うわぁ・・・凄い・・・凄いですね!」

リードは別荘に入るなり、簡単の声をあげた。ホッチのカントリー・ハウスも立派なものであるが、この別荘はホッチの年上の友人であるデヴィッド・ロッシのアイディアで様々な趣向が凝らされている。湖畔に建つ別荘は、深い森の中にあって、そして非常に開放的な造りとなっていた。広いリビングから繋がるのはテラスだけではなく、湯浴みのできる屋外風呂だった。管理も行き届いており、また自然と調和した造りが非常に美しい別荘だった。

ホッチは、自然と一体になっている屋外風呂を眺めているリードの細い体を後ろから包むように抱き込んだ。

「長い道のりで疲れたろう?早速、この風呂にでも入るか?」

「え?これ・・・お風呂なんですか?僕、ものすごく綺麗に整備されている池だと思ってました。それに、リビングを出たらすぐお風呂なんて・・・」

「デヴィットのアイディアだ」

「サー・ロッシのですか?」

「相変わらず君は堅苦しい」

「ホッチのご友人に失礼があってはいけません」

「・・・ホッチ・・・か?」

「だって・・・」

リードはホッチの腕に中で肩をすくめた。娼館や閨では、ずっとホッチのことを「アーロン」とよんでいたが、JJやエミリー、ガルシアたちが彼のことを「ホッチ「と呼ぶのを聞いて羨ましくなってしまったのだ。そこでホッチにお願いして、みんなといるときは「ホッチ」と呼ばせてもらうようにした。ホッチにしてみても、二人っきりでいるときに「アーロン」と呼んでもらった方が特別感があり、リードの提案に承諾した。そして、今はリードと二人っきりだ。それなのに、「ホッチ」と呼ばれるとは。

ホッチはいっそうリードの身体を強く抱きしめると、その柔らかな金髪に顔を埋めて囁いた。

「今は、二人っきりだ」

「・・・えっと・・・アーロン?」

「それで、いい」

ホッチはリードのジャケットやベスト、柔らかなスカーフタイなどを次々と優しく剥ぎ取っていった。リードも抵抗することもなく、されるがままになっている。程なくしてすっかりと裸体にされると、その背中にキスを受ける。

「適温にはずだ。先に行っていろ」

「いいの?アーロンも一緒じゃないの?」

「すぐに行くから」

「・・・すぐに来てくれないと・・・寂しい・・・」

「いつもは俺を放っておいて、JJたちと楽しくやってるのに?」

「それとこれは・・・別だもん」

「そうだな。二人っきりだ。まあ、使用人はいるとしてもだ。ゆっくりと二人の時間を楽しもうな。だから、ほら、行っておいで」

ホッチは優しくリードの両肩を押した。それに合わせて、リードもようやく1歩を踏み出しのだった。

********************

湯は熱くもなく、温くもなく、適温だった。ホッチが「風呂」と言ったのが良くわかる。まさに、そういった温度だった。リードは肩まで湯に浸かり、右の手のひらで、スーッと左腕をなぞってみた。

「あ・・・」

屋敷での風呂とは違う湯の感覚。軽いぬめり。けれども、それは決して嫌な感じのものではなかった。心の隅っこで「いけないことかな?」と思いつつも、リードは手のひらで身体のあちらこちらを撫でさすってみる。湯の感触が非常に心地良い。ひとしきりなぞった後、湯から出した左腕を空中で右手のひらで触ってみる。

「うわぁ・・・スベスベだ・・・。ホッチがクリームを塗ってくれた後みたい・・・」

屋敷で風呂に入ると、いつもホッチがリードの身体にフランス製の上質なクリームを塗ってくれるのだが、その時と同じくらいに、肌がしっとりと滑らかになっていた。

「これ・・・すっごく、不思議なお湯だ・・・」

リードは両手で湯を掬い、その手を上に上げることで、腕を伝い落ちる湯の間感触を楽しんだりもした。屋敷の泡の風呂もいいが、この湯もいい。

「気に入ったか?スペンス」

ガウン姿のホッチがリードの背後に立っていた。

「アーロン。あのね、このお湯、とっても不思議。変わってる。すごく肌がスベスベするの」

「温泉だからな」

「温泉?」

「ああ。まあ、後で説明してやる。それよりも、朝食だ」

ホッチは風呂の縁に、皿とグラスを置いた。サンドイッチと冷たい紅茶だ。それを見て、リードがゴクリと喉を鳴らす。そういえば、朝から何も食べていない。何せ、まだ眠っている間にホッチに運ばれて、目が覚めた時は馬車の中だったのだ。

「屋敷ほど本格的な料理は無理だが、腕の良い料理人を連れてきている。美味いぞ」

「アーロンのお屋敷で美味しくない料理なんか一度だって出たことないよ?でも・・・お行儀悪くない?お風呂に入りながら食事なんて・・・」

「風呂で酒を飲んだことはあっただだろう?」

確かに。二人で湯に浸かりながら、冷えたシャンパンを飲むのはとても美味しい。ただし、すぐに酔っ払ってしまうけれども。

「気にするな。せっかくのヴァカンスなんだ。少しぐらい行儀が悪くても、神様は許してくれるだろう」

そう言いながら、ホッチはガウンの紐を解くと、その逞しい裸体を空気に晒した。しかしすぐに、湯に入り、リードの隣に陣取る。

「まずは、喉を潤した方がいいな」

冷たい紅茶の入った大きめのグラスが渡された。リードの好きな、甘くてオレンジの風味のする紅茶だ。初めてホッチの屋敷で飲ませてもらったとき、こんなに甘くて美味しい飲み物があるのかと驚いた。その味が忘れられなくて、ホッチに「何か欲しいものはないか?」と尋ねられたとき、それが贈り物のリクエストだとは思わずに、「あの甘くてオレンジの香りがする冷たい紅茶が飲みたいです」と遠路がちに言って、ホッチを苦笑させたことがある。笑いながらも、ホッチはその飲み物をリードに与え、その後、本好きなリードを書店に連れて行ったのだった。

両手でグラスを持ち、コクコクと軽く喉を鳴らしながらリードは紅茶を飲んだ。湯で温まった身体には嬉しい飲み物だった。ホッチはまだ中身が残っているグラスを受け取り、今度はサンドイッチを渡す。ローストビーフとレタスを挟んだものだ。一見、簡単ではあるが、ローストビーフの火の通り具合とソースのバランスが’難しい。リードは、はむっと、美味しそうにサンドイッチを頬張った。娼館では、少し痩せすぎかと思うほどの細さだったが、ホッチの屋敷で生活するようになってからは食生活も改善され、髪や肌に艶が出るようになってきた。と言っても、元々が食が細いので、太ることもない。リードは、とても健康的でより一層美しい青年になった。

リードはサンドイッチを嚥下すると、にっこりと笑ってホッチを見た。

「美味しいか?」

「とっても!アーロンと食べるご飯は何だって美味しい!もちろん、美味しいものを作ってくれる料理人さんにも感謝してます。・・・ねえ、アーロン・・・僕、厨房に行っちゃダメかな?」

「何だ。料理をする様子でも見たいのか?」

リードは首を横に振った。

「・・・あのね。簡単な物しか作れないと思うけど・・・料理がしたいの」

「料理?料理は料理人がするものだ」

「うん・・・そうだよね。・・・アーロンの住む世界ではそうだよね。・・・でもね、僕、アーロンのために何か料理を作りたいんだ」

「俺のために?」

「・・・アーロン、いつも夜遅くまで、お仕事をしてるでしょ?だから・・・お夜食とか・・・作りたいなって・・・。アーロンが僕を娼館から連れ出してくれたことはすっごく嬉しかったんだ。・・・でも、アーロンはそうやって僕のために尽力してくれたのに、僕はアーロンのために何もしてあげられない。・・・だから・・・」

言い募るリードの唇をホッチが人差し指でそっと抑えた。

「スペンス。君は俺の傍にいるだけでいい。それだけで、俺は頑張ることができる」

そのセリフに、リードの瞳が哀しげに揺らめく。その瞳を見て、ホッチは小さく溜息をついた。本当であれば、もっと蜜月を楽しんだ後に伝えようと思っていたが、このままでは、今回のヴァカンスにこの金髪に青年は集中できなさそうだった。

「スペンス。・・・いや、スペンサー・リード」

フルネームで呼ばれて、リードの身体が緊張する。ホッチの口調に真剣な何かを感じ取ったらしい。その様子に、ホッチは満足した。本当に勘のいい子だと思う。素質や資質があるのだ。生まれもった。ホッチはリードの金髪を優しく撫でると、ゆっくりと口を開いた。

「俺が君を娼館から連れ出したのは、第一に、俺が君を愛したからだ。ただ、だからと言って、君を俺の人形にしておくつもりはないんだ。・・・君に、仕事を覚えてもらおうと考えている」

「仕事?」

「ああ。俺の仕事だ。今は詳しいことは言えない。機密事項もあるからだ。しかし、君には俺の片腕になるだけの才能がある」

「え?才能?僕に?・・・わかんない・・・」

「まったく。自覚がないところが末恐ろしいな」

ホッチは笑った。おそらく、語学に堪能なことも、ものすごい記憶力であることも、リードにとっては普通のことなのだろう。それが価値ある能力であることを知らないのだ。そう。これまで誰も教えてやらなかったから。

「・・・本当に、僕、よくわかんない。・・・でも、僕、アーロンの役に立てるの?」

「ああ。もちろん。貴族としてのマナーを学び、本をたくさん読んでもっと知識をつけたら、な」

ざばんっとリードが立ち上がった。

「僕、勉強する!!」

そう言ってそそくさと風呂を出ようとする。ホッチはその腕を掴んで引っ張ると、強引に自分の膝の上にリードを座らせた。

「今はヴァカンスだ、スペンス」

「でも、僕、早くアーロンの役に立ちたい!」

「慌てるな。・・・ゆっくり、じっくリと、だ。もし、今、俺とのヴァカンスを楽しまないのなら・・・そういう聞き分けのない子は・・・俺の役には立たないな。俺には従順でいないと、な」

「・・・従順?」

「そう。俺は味方に裏切られることも、反抗されることも好まない」

「僕は裏切らないし、反抗もしないよ!」

「だったら、それを態度で表すんだ。・・・今・・・な?」

「・・・はい・・・わかりました・・・」

リードはしょんぼりとホッチの膝の上でおとなしくなった。

「スペンス。焦るな。君は、能力も才能もある。ここで数日ヴァカンスを楽しんだところで、それは失われない。それよりも、俺を元気付ける手助けをしてくれ」

「え?アーロン、元気、ないの?」

「ずっと仕事が立て込んでいてな。ちょっと疲れている」

「だから・・・このヴァカンスなの?」

「ああ。一つ大きな仕事が片付いたからな。自分へのご褒美だ」

「ご褒美?」

「スペンスとの大事な時間だな。いつも、あの3人に、君を取られてしまう」

「えっと・・・もしかして、JJとエミリーとガルシアのこと?」

「ああ、そうだ」

「でも、3人とも僕に親切で優しくて、貴族の生活のことを教えてくれるんだよ?」

「そうだな。しかし、俺は、スペンスには俺だけを見ていてほしい」

「・・・アーロン。・・・そんなこと言われなくたって・・・僕はアーロンしか見てないよ?」

「そうか?」

「うん。そうだよ?」

「だったら、証拠を」

「証拠?」

「態度で」

「態度・・・・・・」

リードは首を傾げて少し考えると、おずおずとホッチの首に腕を回した。

「違ってたら、ごめんなさい」

そう言って、リードは柔らかい唇をそっとホッチの唇に押し付けた。角度を変えながら、軽く吸ってみたり、舐めてみたり、舌を差し入れてみたりする。互いに向き合った身体の狭間で、ホッチ自身が昂ぶってくるのがダイレクトにリードに伝わる。ホッチも力強くリードの細い身体を抱き込み、腰をぐっと押し付けた。そして唇の狭間から、伝える。

「いい子だ、スペンス」

その言葉で、自分は間違っていないことをリードは悟った。ホッチが自分の身体を欲していることが充分に分かる。嬉しい。ホッチに求められることが素直に嬉しかった。

ホッチの指がするりと湯の中でリードの後ろに回った。双丘の割れ目をなぞり、割り開く。

「あっ・・・やん・・・お湯・・・入っちゃう・・・」

「気持ち悪いか?」

リードは首を横に振った。

「ちょっと変な感じがするだけ・・・。は・・・あ・・・ん・・・」

リードは鼻先をホッチの顎に擦り付けた。そして腰を揺らす。

「欲しいか?」

「うん・・・でも・・・ここ、外・・・」

「気にすることはない。俺たち二人だけだ」

「それなら・・・欲しい・・・すごく・・・欲しい・・・」

夜、同じベッドで過ごすとはいえ、ホッチはずっと仕事が忙しくて、夜の営みはしばらくご無沙汰だった。起こせば、先に寝ているリードも起きるのだろうが、そんなこともしたくはなかった。寝巻き越しに抱き締める身体の体温を感じるだけでも、満足できた。それだけ、大事にしたいと、ホッチは思っていた。しかし、今はヴァカンスだ。羽目を外してもいいだろう。

つぷんと、ホッチは指を後孔に差し込んだ。湯と共に、入ってくる質量にリードが声を漏らす。

「ん・・・」

しかし、リードは切なげに首を振った。

「だ、大丈夫なの・・・すぐに、入ってきても・・・大丈夫なの・・・」

「そんなわけないだろう?ちゃんと慣らさないと」

「う・・・だって・・・我慢・・・できない・・・僕、ずっと我慢してたから・・・」

「我慢?」

「アーロンが遅くに帰ってきて、ベッドに来るでしょ?僕、本当は起きてた。ちゃんとアーロンにご奉仕しようって。でも・・・アーロン・・・すぐに寝ちゃうし・・・疲れてるなら、起こしちゃいけないって思ったし・・・」

どうやら、わずかに二人の思いはずれていたらしい。ホッチは苦笑した。

「どうして笑うの?アーロン」

「いや、・・・俺も我慢をしてたからな。馬鹿みたいだな、俺たちは」

「アーロンは馬鹿じゃないよ」

「いや、馬鹿だ。毎晩、君の身体の熱さに気づかなかったんだからな。しかし、言わないスペンスも悪い」

「だって・・・はしたないもん・・・」

「スペンスのおねだりは可愛い。ほら、ねだってごらん」

「・・・いいの?」

「ああ」

「・・・あの、ね?・・・僕、アーロンに抱いて欲しい。僕の身体の中をアーロンでいっぱいいっぱいにして欲しいの」

「お安い御用だ」

ホッチはリードを抱きかかえながら立ち上がると、その細い腕を風呂の縁に付かせた。そして背後から覆いかぶさる。

「痛かったら言うんだぞ?」

「大丈夫。だって、僕、アーロンが大好きだから」

そう言われてしまっては、ホッチも我慢などあする術がなかった。手のひらで双丘を割ると、その窄まりにすっかりとい勃ち上がった自身を突き入れた。

「はんっ・・・くっ・・・あ・・・」

「辛いか?」

「つ、辛くないもんっ・・・。う、嬉しいだけだもん・・・はっ・・・んっ・・・」

「ああ、もう、俺は我慢が効かないからな」

「来て。・・・もっと・・・もっとアーロンで僕をいっぱいにしてっ・・・」

切羽詰まった声をあげて、リードは懇願した。積もり積もった思いを吐き出すかのように。

********************

「大丈夫か?」

リビングのソファに横たわるリードの頬に、冷たいグラスを当ててやる。リードの大好きな、甘いオレンジ風味の冷たい紅茶だ。

「ごめんなさい。のぼせちゃったみたい、僕」

「俺よりも長く湯に浸かっていたしな」

リードは身体を少しだけ起こすと、紅茶をごくごくと飲んだ。そして一息つくと、ホッチを見て笑った。

「ねえ、こういうのがヴァカンスっていうので合ってるの?」

「ああ、合ってる。身体の熱が引いたら、この別荘を探検するのも面白いだろう。デヴィッドが設計した建物だからな」

「あのお風呂は凄かった。また後で、入りたい。すごく身体がスベスベになるんだよ」

「そうだな。風呂のおかげで、スペンスはより一層綺麗になった」

そんな言葉にリードは恥ずかしげに笑うと、ホッチの方へと腕を伸ばした。その手をホッチは優しく取る。

「大好き。アーロン」

「俺もだ」

「素敵なヴァカンスになるように、僕、頑張るね」

「それは楽しみだ」

ホッチはリードの額にキスを一つ落とすと、薄手のタオルケットを肩まで掛けてやった。今は暑いかもしれないが、これから冷えないようにな。風邪でもひいたら、ヴァカンスが台無しだ」

「大丈夫。寒くなったら、アーロンが温めてくれるから」

「それもそうだ。さあ、少し休むいといい」

「ん・・・ありがとう」

リードはホッチの存在を近くに感じながら、そっと目を閉じた。

to be continued

愛のお仕置き

それはちょっとした出来心で。リードの痴態を俯瞰してみたかった。だから、寝室のベッドの対面にあるチェストの上にビデオカメラを仕掛けた。ただ、それではベッドに沈むリードの表情が映らないので、後ろから抱き込むようにリードを膝の上に座らせて、喘ぎ、揺れる青年の姿がビデオに収まるように抱いた。下から突き上げ、前を扱いてやり、絶頂を極めさせ、その先端から勢いよくい吐き出された白濁で、腹や胸、顎の辺りまで汚してしまった姿も、しっかりとビデオは捉えたはずだ。この痴態を記録することに、ホッチはぞくりとした。

********************

夜に空調のメンテナンスが入るということで、BAUのメンバーたちは早々にオフィスを追い出された。ホッチは持ち帰って差し支えのない資料を鞄に入れて帰宅することにした。リードはどうするのかと思って下を見たら、どうやらJJたちと出かける気配だった。それを見送ってから、ホッチもオフィスを後にしたのだった。

********************

ジャックは、友達の家でゲーム・パーティをするというのでお泊まりだった。だから、今夜のホッチは家で一人で過ごすことになる。夕食は冷蔵庫にあるもので、簡単に済ませる。それから、グラスにウィスキーを注ぐと、それをローテーブルに置き、ラップトップと持ち帰った書類を準備した。さほど急ぐ仕事でもなかったが、時間があるときに片付けておけば、事件が起こったときに、そちらに気持ちを集中させることができる。ホッチは1時間ほど、書類を睨みながらキーボードを叩いた。・・・が。ふっと、気分が他に削がれる。ホッチは書類の画面を閉じると、デスクトップにある1つのフォルダを開いた。動画ばかりが収められたフォルダだ。いくつかある動画ファイルの中から、一番新しい物をクリックした。すぐにリードの裸体が浮かび上がる。そして甲高い喘ぎ声も。これは元データを編集し、感じまくっている最高のリードだけにした映像だ。この時は後ろからリードを責めたてていたから、表情は見えなかった。けれども、録画した映像で、その時の全身で感じているリードを鑑賞することができる。細い体躯。女性ほどではないが、軽くくびれたウエスト。もう少し食べさせて肉をつけたいところだが、一人暮らしのリードにそれを強いることは無理だろう。だから、せめて一緒に食事ができる時は栄養のあるものをたくさん食べさせる。すぐに「お腹がいっぱいで、もう入らないよ」と言うのだが、きっと胃が小さくなってしまっているのだろう。ホッチは画像の中の身体からリードの顔へと視線を移動した。ホッチによる下からの突き上げと手淫で、声にならない音と涎を口から零している。「綺麗だな・・・」と純粋に思う。そう思いながら、ホッチはそっと自分の手を股間に移動させた。そこは既に、硬く張り詰めていた。「いい年をして」と自嘲気味に笑いながらも、仕方がない。身体は正直だ。ホッチはスラックスの前を寛げると、下着の中に右手を滑り込ませた。ラップトップのモニターの中では、まだリードが身体を揺らしながら喘いでいる。その姿を見ながら、ホッチは自分で自分を慰め始めた。

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「やっ・・・い、いく・・・イっちゃう・・・アーロン・・・イっちゃう・・・ああああああー!」

画面の中のリードが、自分の腹に白濁を撒き散らすのを見ながら、ホッチも唇を噛んで、「くっ・・・」と嗚咽する。しかし、リードは頭を左右に振りながら、泣くようにして声を漏らしていた。あの時は、リードが達しても、責めることをホッチがやめなかったからだ。「離して、休ませて」と言っても、ホッチはそれを無視した。しつこいほどに、指先でリードの先端を擦り上げながら、身体を揺さぶってやったのを覚えている。涙と涎で、グズグズになっているリードの顔は扇情的でいい。煽られる。そう、今ホッチは、モニターの中のリードに煽られているのだ。ホッチは一呼吸つくと、再度、硬くなっている自分を握りしめた。と、その時。

「ホッチ!!!!!!!!!!!何やってんの!!!!!!!!!」

可憐だけれども、厳しい口調の声が背後から掛けられた。

「えっ・・・」

ホッチは慌てて、振り向く。そこに鞄のストラップを両手で握りしめて立っていたのは、リードだった。唇をぎゅっと噛み締めて、眉間に皺が寄っている。が、瞳は今にも泣き出しそうだった。

「・・・リード・・・お前・・・」

「ホッチの浮気者!!!!!!!」

「う、浮気って・・・ちょっと待て」

「だって、そうでしょ!!!僕以外の人で気持ち良くなってるなんて!!!!!」

「いや、これはお前だろう」

ホッチはラップトップを持ち上げると、モニターがリードに見えるようにする。

「違うもん!!僕じゃないもん!!僕かもしれないけど、それは過去の僕であって、今の僕じゃないし、それにリアルじゃないでしょ!!!!!」

そう怒鳴ると、リードはつかつかとホッチに近寄り、乱暴にラップトップを取り上げる。

「こんなもの・・・捨てるんだから!!!!」

「待て!!!仕事の資料も入ってるんだ!!!やめろ!!!わかった!!!俺が悪かった!!!だから、ラップトップをこっちへ渡してくれ!!!」

「・・・本当に悪いと思ってる?」

「思ってる」

「何が?何処が?貴方の反省点は?説明して」

「う・・・・・」

「ほら!わかってない!!!!!」

リードがラップトップを持った手を大きく振りかぶった。

「リード!!!!」

悲鳴のようなホッチの声に、リードが動きを止める。

「・・・ホッチ。このモニターの中の僕と今ここに立ってるリアルな僕とどっちが好きなの?」

「もちろん、リアルなリードだ」

そこははっきりしている。録画はちょっとした出来心だ。セックスの最中に体位の関係で見ることのできない表情を見たかっただけの話だ。リードは睨めつけるようにホッチを見ると、映像を止めてから静かにラップトップをローテーブルの上に置いた。

「僕は怒ってるんだ」

「・・・そうだな。俺が悪かった。ビデオを撮ったりなんかして」

「僕が怒ってるのはそこじゃないの!」

「違うのか?」

「ホッチが録画してるのは知ってたもん。僕が怒ってるのはね・・・」

「教えてくれ、リード」

ホッチが懇願する。リードは鞄を外し、床の上に置くと、ホッチの膝に跨るようにして座った。

「ホッチが浮気なんかしないのは分かってる。でもね、気持ち良くなりたいなら、偽物の僕じゃなくて、本物の僕で気持ち良くなって。・・・正直、僕、あのモニターの自分のめちゃくちゃ嫉妬してる。僕じゃなくて、あんな画像でホッチが気持ち良くなるなんて、絶対に嫌。それって、僕にしてみたら、浮気と一緒」

そう説明されて、ホッチもようやく合点がいく。つまりは、リードの嫉妬だったのだ。自分の分身に対する。

「・・・リード・・・いや、スペンス、悪かった。俺が悪かった。今日は残業もなかったし、お前はJJたちと出掛けてしまったようだったから・・・つい、魔が差した」

「・・・僕だって・・・本当はさ、貴方と一緒に帰りたかったんだ。でもさ・・・貴方が喜ぶことしたくて・・・ちょっとJJたちと出掛けたんだ」

「俺が喜ぶこと?」

「うん・・・」

さっきまでの怒りは何処へ行ったのやら、リードは小さな声で恥ずかしそうに俯いた。

「スペンス?」

ホッチがリードの長めの金髪を撫で付ける。

「俺が喜ぶことって?」

「・・・・・・待って・・・」

リードは緩く締めたネクタイを解き、床に落とす。そしてチノパンからシャツの裾を引っ張り出すとい、ボタンを全て外した。そして、

「これ・・・。JJが似合うって言うから・・・その・・・買ったの。それで、ホッチに見てもらいたくって、お店で着て、そのままここに来たの・・・」

「ほう・・・」

ホッチは簡単の声を上げた。リードがシャツの下に身に付けていたのは、オフホワイトのレースで彩られたブラだった。アンダーが少し長めで、リードの腹部をほんの少しだけ隠している。が、そこがまたいい。

「確かに、似合ってる」

「ほんと?」

「これを買いにJJたちと出掛けてたのか?」

「だって・・・可愛いランジェリーを着たら、ホッチは絶対に喜ぶって、JJもエミリーもガルシアも言うんだもん。・・・変じゃない?」

「全然」

ホッチはレースのブラ越しに、リードの平らな胸を触った。しかし。

「だーめ!」

リードはホッチの手を掴んで、自分の身体から離す。

「リ、リード?」

「ホッチは僕に触っちゃダメなの。お仕置きしなくっちゃなんだから。浮気したでしょ?」

「浮気って・・・」

「録画した僕と!」

どうやら、まだ怒っているらしい。

「これから、お仕置きタイムなんだからね!」

リードはホッチの膝の上から降りると、その大きな手を取るとソファから立たせる。

「ベッドに行こ?」

リードは蠱惑的に微笑むと、ホッチの手を引いて、寝室へ続く階段を上ったのだった。

********************

リードは手早く下着姿になると、ホッチをベッドに押し倒した。パンティもブラとお揃いのレースのものだった。ホッチにしてみれば垂涎ものである。我慢できずに、リードに触れようと手を伸ばすと、パシンっと払い退けられた。

「ダメなの。お仕置きなんだから。アーロンは僕に触っちゃダーメ!」

美人が起こると怖い・・・とはよく聞くが、リードの場合は可愛くなるらしい。プンスコ怒っているリードは可愛い以外の何者でもなかった。リードは丁寧に時間をかけてホッチから衣服を剥ぎ取ると、満足そうに微笑んだ。

「アーロン、元気だね」

「スペンスが目の前にいるんだ。仕方がないだろう」

「良かった。・・・映像の僕と、今ここに存在してる僕と、どっちが好み?」

「もちろん、今、目の前にいるスペンスだ」

「じゃあ、もう二度と、僕以外で気持ち良くならないでね。アーロンを気持ち良くしていいのは、僕だけなんだから」

リードは尻を高く上げて頭を下げると、すっかり勃ち上がっているホッチを口に含んだ。口は少し大きめのリードではあったが、ホッチの存在をそれを凌駕するほどのもので、全てを含むことはできなかった。だから、先端や竿や根元を唇と舌を使って、丁寧に愛撫した。しかも、わざと、ゆっくりと。

「はぁ・・・スペンス・・・」

ホッチがリードの髪に触れようとするが、それを察知したリードはそれを払い退けた。口から大きな高ぶりを離すと、ホッチの顔を見据えて言う。

「言ったでしょ?これはお仕置きなの。だから、アーロンは僕に触っちゃダーメ!」

ビシッと人差し指をホッチに突きつけると、ズリズリと立ち膝のまま、場所を移動した。

「ねえ、アーロン。僕の中に入りたい?」

首を傾げながら、中指で長い髪を耳にかけながら、リードがホッチに問う。

「ああ・・・もちろん」

「じゃあ、入れてあげる。・・・でも、アーロンは動いちゃダメなんだからね。もし、動いたら・・・抜いちゃうから」

リードはそう言うと、パンティを脱ぎ、右手でホッチの屹立したものを支え、左手で自分の後孔を軽く広げると、その先端を宛がった。ホッチとの度重ねる性交で、いつもリードのそこは柔らかい。しかもホッチの先端は既に滲み出た精液で濡れていたので、慣らすことなく受け入れることができた。リードはゆっくりと静かに、腰を沈めた。

「あっ・・・んっ・・・はぁ・・・あ・・・」

ズブズブと自分の中に受け入れるホッチの昂りが気持ちいい。これは絶対に自分だけのものにしておきたかった。相手が録画された自分だとしても許せるものではない。心が狭いとは自分でも思うが、仕方がない。リードはホッチの全てを自分の身体の中に収めると、わざときゅうっと締め付けた。

「くっ・・・」

ホッチが呻く。下から突き上げたい衝動に駆られたが、それをやったら、きっとリードは自分の身体から離れて行ってしまうだろう。そういうところは意外と強情だ。ホッチは仕方なく、シーツを指先で握りしめた。リードがホッチの腹に指を置き、身体を上下に動かし、自分の力で抽挿を始める。粘膜が擦られるのが、互いに気持ちがいい。

「あ・・・あんっ・・・ふあ・・・アーロンの・・・おっき・・・」

リードに触れたくなるのを、下から突き上げたくなるのを、必死に堪えて歯を食いしばる。そんなホッチの表情を見つめながら、リードが微笑む。

「・・・アーロン、いい子。本当は動きたいんでしょ?僕をめちゃくちゃにしたいんでしょ?」

「あ、ああ・・・そうだ・・・スペンス・・・」

「どうしようかなぁ・・・許してあげようかなぁ・・・」

「ああ・・・許してくれ、スペンス」

リードは返事をせずに、ぎゅうっと後孔に力を入れて、ホッチを締め上げた。

「くっ・・・ス、スペンス・・・ああ・・・頼むから・・・」

「我慢してる貴方の顔って、かなりセクシー。・・・好き」

リードは身体を繋げたまま、顔をホッチの顔に寄せると、その唇にキスをする。舌を差し込んで、口の中を擦り上げる。ホッチも自分の舌を自らリードに絡めたかったが、まだ許しを得ていないので我慢する。しかし、塞がれた口でリードの名前を呼んだ。二人の唇の間で、それがくぐもる。リードはシーツを掴んでいるホッチの指に自分の指を絡め繋いだ。そして、そっと唇を離す。

「アーロン。証明して。映像の僕よりも、今ここにいるリアルな僕の方を何倍も愛してるって証明して。そうしたら、許してあげる」

その言葉に、リードの中のホッチが数倍に膨れ上がる。

「ひゃっ・・・あ・・・あんっ・・・凄い・・・アーロン・・・」

「リアルなお前じゃなきゃ、こうはならない、スペンス」

「それが・・・証明?」

「動くことを許してくれたら、どれだけお前を愛してるか、もっと証明できる」

「・・・そう。・・・じゃあ、いいよ・・・アーロン。まだ、許さないけど、動いていいよ」

その言葉と同時に、ホッチは上体を起こし、素早くリードの身体をベッドに組み敷いた。そして、美しい両脚を抱え上げ、全ての体重を真上からかけるようにして押し潰す。そして、ガツガツとリードの体内を犯したのだった。

********************

「・・・無理・・・辛い・・・身体が動かない・・・喉が乾いた・・・アーロン、酷い・・・」

「悪かった。つい、我慢が・・・」

ホッチは申し訳なさそうに言うと、キッチンから持ってきたペットボトルをリードに渡そうとした。が、すぐにやめる。リードは身体が動かないと言っているのだ。ここは自分が飲ませてやるべきだろう。ホッチは冷たい水を自分の口に含むと、リードに口移しで飲ませてやる。リードも嫌がる風でもなく、素直にその行為に身を任せた。唇を押し付けて、もっと水を強請る。ホッチは3、4回、口移しで水を飲ませてやった。

「は・・・あ・・・ありがと、アーロン」

「それで?俺は許されたのか?スペンス」

「んー・・・。そうだね。許してあげる。だって、流石の貴方でも、映像の僕を抱き潰すなんてことできないもんね。リアルな身体の僕だの特権。・・・って、僕だけだよね?」

「ああ、もちろん。スペンスだけだ」

「・・・でもね、どうして録画だったの?」

「それは・・・ああいう抱き方だと、スペンスの顔が見えないだろう。それで・・・」

「・・・鏡を使えばいいんじゃない?そうしたら、後ろから僕を抱いても顔を見られるよ?」

「それも・・・そうだな。じゃあ、今度の休みは鏡を買いに行くか」

「ふふっ・・・あ、そうだ。アーロン、ラブホテルって知ってる?」

「ん?」

「あのね、日本にあるホテルでね、セックス専用のホテルなの。内装が面白くて、鏡張りの部屋とかもあるんだってー。天井が鏡とか」

「ほう。で?その情報は何処から?」

「JJとエミリーとガルシア。ガルシアはパソコンで、ホテルの映像を見せてくれたんだよ」

そう言いながら、リードは怠い身体を動かして、もぞもぞとホッチの腕の中に納めるようにした。ホッチも自然とその身体を抱き寄せる。オフホワイトのブラは身に付けたままのリードが愛らしい。それにしても、とホッチは思う。JJとエミリーとガルシアにはすっかりバレていることを改めて知る。しかし、普段はそんな素振りは全く見せない3人だ。流石、プロ意識というのか。けれども、自分を喜ばせるために、いろいろな情報をリードは得ているのだろう。自分の腕の中で、くうくうと寝息を立て始めたリードの金髪にキスを1つ落とすと、ホッチはベッドサイドのスマホを手に取り、早速「ラブホテル」を検索し始めたのだった。

END

籠の鳥 愛の個人授業 09

何度、身体を重ね、貫かれただろうか。仰向けにされてのし掛かられ、ぐっと奥まで昂りがリードを犯したし、その反面、膝の上に座らせて、指を絡めながらゆさゆさと優しく揺さぶられたりもした。けれども、それがどんな体位であっても、リードは嬉しかったし、もっとホッチに喜んでもらいたいと思った。自分からは、もうどんな液体も出ないくらいに夜通し責め立てられても、それが幸せだった。ホッチを後ろに咥え込んだまま、数度目の絶頂を味わいながら、意識を手放したような気がする。リードはうっすらと目を開いて、自分の左右を見た。そのどちらにもホッチはいなかった。「今、何時だろう・・・。アーロンはもうお帰りになられたのかな」と思いながら、リードは気怠い身体を起こそうとした。しかし、全くと言っていいほど、体に力が入らない。「あれ?」っと思って、もぞもぞとしたら、ようやく腕だけが持ち上がった。「どうしよう・・・部屋に帰れないなぁ」と困っていたら、優しい声が降ってきた。

「おはよう、スペンス。身体は大丈夫か?」

声が近づき、ホッチの顔がリードを覗き込んだ。

「・・・アーロン・・・どうしよう・・・起き上がれないんです・・・」

「そうか。・・・俺のせいだな」

ホッチは申し訳なさそうに言うと、ベッドとリードの背中の間に手を差し込んで起き上がるのを手伝ってやった。

「喉は乾かないか?」

「・・・少し」

「そうだろうな。昨夜はとても綺麗な可愛らしい声で啼いていたからな」

そう言うと、ホッチはリードのために、水差しの水をグラスに注いでやる。

「あ・・・自分で・・・」

「できないだろう?」

「・・・・・・」

リードはしゅんとなる。そうなのだ。うまく力が入らなくて水すらも汲めないのだ。渡されたグラスを両手で持つことはかろうじてできる。こくんこくんとリードは喉を鳴らしながら水を飲んだ。

「は・・・ああ・・・美味しかったです。ありがとうございます。それに、ごめんなさい。アーロンにこんなことをさせてしまって」

「何を言う。愛する者を労わるのは、当然のことだろう?」

リードからからのグラスを受け取り、空いた方の手で金髪を撫でる。それから、紫色のスリップ1枚のリードを横抱きにして抱き上げた。

「君の部屋へ案内してもらおうか」

「あ・・・自分で歩けます」

「本当に?」

「・・・えっと・・・」

言ってはみたものの、無理のような気がした。けれども、少し休めば大丈夫だろう。身体が怠いだけで、痛みは全くない。ホッチはとても優しくしてくれたのだとリードは思った。

「君の部屋は何回だ?」

「2つ上の階です。・・・でも・・・お客様が行くようなところではないです。こんな立派な部屋ではないんです」

リードは逞しい腕に抱かれながら、緋色の部屋を見回した。

「君が普段、暮らしている部屋も見てみたい」

ホッチは歩き出した。階段を上がり、廊下を歩く。リードが途中で指差した部屋を目指す。確かに、階の造りそのものが質素だ。客を迎え入れる場所ではないからだろう。何処と無く、埃っぽくて、うらぶれていた。リードを抱いたまま器用にドアを開けると、部屋の中に入り、疲れ切っている身体を静かにベッドに降ろしてやった。リードは両腕をついて身体を支えながら、ベッドに座った。

「あのお部屋に比べたら随分と質素でしょう?でも、僕にしたら、とっても良い部屋なんです。この娼館に来る前は物凄く酷い所に住んでいたんです。雨が降ったら、必ず家の中が雨漏りするような所でした。・・・そういう湿気も母には良くなかったのかなぁ・・・」

そこへトントンとノックの音が聞こえた。ホッチが出る。そこには、お湯の入った水差しとタオルを持ったアンダーソンが立っていた。

「ありがとう」

ホッチは心付けをアンダーソンに渡した。リードもドアの隙間から見えるアンダーソンに微笑んだ。扉を閉めると、ホッチは水差しとタオルをテーブルの上においた。すぐに洗面ボウルを見つけ、ホッチはそこへ熱い湯を注いだ。

「身体を拭いてやろう」

「えっ!だっ、だめですよ!そんなこと!自分でできますから」

「いいから、やらせろ」

嬉しそうにホッチがタオルを絞る。そしてリードに近づいた。紫色のスリップの肩ひもをするりと落とす。

「熱かったら、遠慮せずに言うんだぞ」

首筋から肩、腕。スリップを落とされて露わになった平らな胸。そこをタオルで丁寧に拭われる。リードは申し訳なく思うが、気持ちは良かった。さっぱりとする。そう思っていたら、トンっと肩をホッチに押された。無防備な絵リードはベッドに倒れこむ。それと同時に、スリップが剥ぎ取られた。

「あっ・・・」

反射的にリードは自分の手を股間にやった。が、すぐにホッチに取り払われてしまった。

「今更だろうに」

「そっそれは・・・夜の話でっ・・・」

しかし、ホッチは聞く耳を持たず、新しいタオルで、リードの下腹部や鼠蹊部、それに昨日散々愛してやった場所を拭いてやる。もちろん、後ろの方も。ん?3枚目のタオルでは脚を。つま先まで丁寧に拭われる。

「寒くないか?」

「大丈夫です。・・・本当にごめんなさい・・・貴方に世話を焼かせてしまって」

「俺は非常に楽しい」

ホッチは笑って、タオルを洗面ボウルの中に入れる。

「じゃあ、着替えるか」

「あ、もう大丈夫です。もう立てます。着替えも自分で準備できますから」

「そうか。しかし、これから君が着る服はこれだ」

ホッチはテーブルの陰に置いてある箱を持ち上げた。

「え?」

今まで貰ったどんな箱よりも大きな箱だった。小さな箱も1つある。ホッチはそれをベッドの上に置き、蓋を開けた。

「君の新しい服だ」

リードはおずおずと箱の中を見る。シャツにベスト。ジャケットにズボン。下着も。どれも、今ホッチが着ているような、上質なものだった。いつもリードが着ている、ブラウスやズボンとはまるで違っている。そう。まるで上流顔級の人間が着るような洋服の一色だった。

「こっちは靴だ」

ホッチが蓋を開けると、美しく磨き上げられた革靴が現れる。リードは娼館の中では靴など履いたことがない。いつも裸足だ。

「あの・・・どういうこと・・・ですか?」

「簡単なことだ。スペンスはこの服を着て、迎えの馬車に乗る。そして、俺の屋敷に行くんだよ」

「えっ・・・え!?」

リードが綺麗な目を見開く。あまりの驚きに声を失う。そんなリードに微笑みかけながら、ホッチは白いシャツを手に取り、リードの肩にかける。

「さあ、着せてやろう」

「・・・ま・・・待って!待ってください!・・・ぼ、僕は・・・その・・・この娼館からお出かけすることはできなくて・・・その・・・えっと・・・」

「お出かけ?違うな。ああ、そうか。俺の言い方が悪かったな。あのな。スペンス。君は俺と一緒に俺と一緒に俺の屋敷に帰るんだ。そして、二度とこの娼館には戻ってこない」

「え・・・わ、わかんない・・・」

「君は賢いだろう?わからないわけがない」

「だって・・・どうして・・・」

「愛してると言っただろう?それに君だって、俺を愛してくれているだろう?違うか」

「・・・違って・・・ないです・・・」

「だから、俺は、君を連れて帰るんだ。ずっと一緒にいたいからだ」

「でも・・・僕は・・・とても低い身分で・・・こんな服を着る資格なんてないし・・・貴方のお屋敷なんて・・・そんな・・・」

「俺は君を他の誰にも渡したくないし、触らせたくない。となると、連れて帰るしかない。スペンス、悪いが君に拒否権はない。もう、ストラウスに金を払ったからな。もう、君に借金はない」

「そんな・・・僕・・・そんな価値・・・ない・・・」

「さあ、それはどうかな」

ホッチは不敵に笑うと、リードの体に服を着付けていったのだった。

********************

綺麗な服を着て、金髪を後ろに流したリードは貴公子のようだった。その姿を満足げに眺める。そして、ホッチはリードを連れて娼館を出た。女将のストラウスとエルが、玄関まできて、二人を見送った。

「これに・・・乗るんですか?」

美しい装飾の施された馬車にリードが怖気付く。

「ああ。そうだ。さあ」

リードの手を取り、馬車に乗せてやる。シートに座るのが怖がっているリードの肩を抑えて無理矢理座らせる。もう、リードの体はガチガチだった。着ている服を汚しちゃいけない。馬車のシートを汚しちゃいけない。そんな思いばかりが、リードの頭を駆け巡る。隣に座ったホッチはそんなリードを片腕で抱き寄せる。

「今からそんなに緊張して、屋敷についたらどうするんだ」

「・・・死んじゃうかもしれません」

「それは困るな」

馬車は程なくしてホッチナー邸に到着した。ホッチは再びリードの手をとって、馬車から降りるのを手伝ってやる。地面に足が付き、リードは顔を上げた。そして、息の飲む。

「あ・・・・アーロン・・・いえ、ミスター・ホッチナー・・・」

「どうして呼び方を変えるんだ?スペンス」

「だって・・・やっぱり・・・僕・・・場違いだ・・・」

立派な屋敷を目に前にして、リードは後ずさる。しかし、ホッチのその腰に手を当てて、強引に歩かせた。

「・・・怖い・・・」

「バケモノ屋敷じゃないぞ。ああ・・・でも、それに近いのは来ているかな」

「え?」

「まあ、会ってのお楽しみだ」

数人の召使がエントランスで並んで待ち構えている。リードはいたたまれなくなって、下を向いてしまう。自分は貧乏で、母親の入院費用のために娼館で働くようになった人間だ。こんな立派な場所にいていい人間ではない。しかし、身体はしっかりとホッチに捕まえられていて逃げることはできない。

「きゃああああ!!!貴方がスペンサー・リード!?」

「金髪が綺麗ね!目の色も素敵」

「やっぱり私が誂えた服はいいわね。似合ってるわぁ!!!」

女性が3人。エントランスに躍り出て来た。あっという間に囲まれる。

「私はジェニファーよ。JJって呼んでね?」

「私はエミリー」

「私はペネロープよ。その服は私が見立てたの!どお?着心地は!?」

グイグイと来られながらも、リードは失礼にならないように、やっとのことで答える。

「と・・・とても、素敵です。・・・僕には勿体無いくらいに・・・」

「あら。貴方のためにあるような服だわ。すごく似合ってるもの!!!」

「さあさあ、お茶にしましょう。貴方の好きなショコラ・ド・オランジュも用意したわ!」

リードの身体はすっかりホッチから女性3人に奪われてしまった。ホッチは仕方がないな、と肩をすくめる。そんなホッチの背中を叩いたのが、ロッシとモーガンだった。

「うまくいったようだな。籠の鳥を救い出したか」

ロッシが言った。

「それで?これからどうするんだ?この屋敷で」

モーガンが問う。

「そうだな。モーガンが調べてくれた通り、賢い青年だ。ああ、そうだ。情報が1つ抜けていたぞ?彼はロシア語もできる」

「・・・それは・・・凄いな」

「今からでもきちんと教育を受けさせれば、きっと俺の素晴らしい右腕になるだろう。ただ、それは少し先の話だな。もう少し、彼との蜜月を大事にしたい」

「それがいい」

ロッシが賛同する。

「モーガン、彼の母親の病院の件は?」

「大丈夫だ。ちゃんとした病院に移送した。看護体制も整っている。そのうち、見舞いに連れて行ってやるといい」

「そうだな。きっと、喜ぶ。とても母親のことを愛して、大事に思っている青年だ」

ホッチはJJ、エミリー、ガルシアに連れ去られていくリードを穏やかな目で見守った。ホッチがリードに新しい生活を用意したのは、哀れみでも、憐憫でも、奉仕でもない。ただ、愛した者を大切にしたいという、純粋な思いだけだった。そんな感情が自分にもあるのだということを、リードに出会って、初めて知った。

「そろそろ、助けに行ってやった方がいいんじゃないか?」

モーガンが言うと、ロッシも頷いた。

「そうですね。けれども、彼女たちはきっと、彼の気持ちをほぐす役割を果たしてくれると思いますよ」

そう言いながらも、ホッチは4人が消えて行った部屋へと足を運んだ。

そう。

籠の鳥は、解き放たれたのだ。

END

籠の鳥 愛の個人授業 08

ホッチを見送ったリードは、紙箱を大事そうに両手で抱えると、自分の部屋に戻った。優しく箱をベッドの上に置くと、丁寧に身体を清めた。ホッチが愛してくれた身体だから、そこはかとなく嬉しい。身体を綺麗にした後、古くてゴワゴワになってしまっているバスローブを着ると、ベッドに腰掛けた。小さい方の箱を開けると、1つずつ銀紙で包まれた、少し小さめのお菓子が入っている。リードは1つ手にとると、包装を剥がしてみる。チョコレートだった。

「うわぁ・・・美味しそう・・・」

リードは茶色い繊細な塊を口に入れた。甘い。ちょっと歯を立てて齧ってみる。それは、想定外にホロリと砕けた。そして口の中に広がる、トロリとした液体。

「んっ!?」

甘い。しかし、甘いのだが、カッと熱くなるような・・・味。

「・・・お酒?」

お酒自体、飲んだことはないが、ジュースとは思えない。やはり、お酒なのだろう。ゴクリと飲み込むと、喉まで熱くなるような感じがした。けれども、嫌な味ではない。正直、美味しかった。チョコレートを1つ味わった後、今度は大きめの箱を開ける。予想した通りランジェリーだった。紫色のスリップ。その上に羽織るであろう薄衣。もちろんパンティも紫色だった。紫はリードが好きな色だ。リードはちょっと嬉しくなった。自分が好きな色を教えたわけでもないのに、ホッチが紫色を選んでくれたことが嬉しかった。パンティを取り上げる。フロントは綺麗なレースだ。しかし。斜め後ろに2本の紐。完璧にお尻の割れ目が見えてしまうデザインだ。

「え・・・っと・・・」

経験がなくとも、男が男を受け入れる時に使う場所を知らないリードではない。思わず、顔が赤くなる。

「もしかして・・・そういうこと・・・なのかな・・・?」

リードは胸がドキドキとしてきた。

********************

「ねえ、エル・・・僕、どうしたらいいかな?」

「ん?・・・あ、美味しい、これ!ウィスキー・ボンボンね!」

リードはホッチに貰ったお菓子を持って、エルの部屋に来ていた。男と女の違いはあるが、エルは物知りだ。

「で、どうしたらって・・・何が?」

「んっとね。ミスター・ホッチナーが、これを僕にプレゼントしてくれたんだ。今夜は・・・これを着て欲しいって」

リードは小綺麗な紙箱から、紫色のパンティを取り出してエルに見せた。

「わお!すっごく綺麗な紫色ね!それに、セクシーだわ。うふふ。何だか、ミスターの気合いを感じるデザインね」

「やっぱり、そう思う?・・・だからさ、僕、どうしたら上手にできるかわからなくって・・・」

「え?何を言ってるの、リード。初めてじゃあるまいし」

「・・・・・・・・・・・・」

エルの言葉に、リードは黙ってしまった。何故なら、まだホッチとは一線を超えていなかったからだ。

「・・・え・・・まさか・・・嘘・・・嘘でしょうっ!?リード・・・貴方達・・・まだなの!?」

リードはコクリと頷いた。嘘をついても仕方がない。

「貴方・・・あの紳士の専属になったんでしょ?何回かいらっしゃってるでしょ?それなのに?」

エルの声が大きくなる。リードは情けなく、そして恥ずかしくなってしまった。

「・・・やっぱり・・・僕に魅力がないのかなぁ・・・」

「それはないわよ。だって、ちゃんと通って来てくれるんだし、こうやって贈り物だってしてくれるんだから。・・・あ・・・」

「何?エル」

「・・・もしかして・・・勃たない・・・とか?そんなにお年を召した方じゃなかったと思うけど。・・・リード確かめてみた?」

「それは・・・その・・・してないけど・・・」

そうは言ったが、昨夜衣服を脱がせた紳士の身体はとても立派だったと思う。もちろん、じっくりと見たわけではなかったが、・・・あそこも。背後から抱きしめられたときに、腰の辺りに当たる熱も感じた。

「・・・じゃあ・・・」

エルが呟くように言う。

「きっと、リードは大事にされているのね」

「えっ・・・」

「だって・・・所詮、私たちの仕事って、単なる紳士の性欲処理でしょ?愛とか恋とか、そう言うのとは無縁の世界の中に生きているわけでしょ?・・・私なんか、お金は貰うけど、お菓子やランジェリーなんて贈って貰ったことなんてないわ。あ、これは、やっかみじゃないわよ?私は自分の身分や立場を心得てる。それに、自分で選んだ道だしね。・・・だから、分かるの。リードは大切にされてるんだって。最後まで抱かないにも関わらず、素敵な贈り物をして貰えるんだから」

「・・・そっかぁ・・・」

「でも、リード。今夜はキメるわよ、その紳士。だって、こんなパンティだもの」

エルがニヤッと笑う。

「あ、やっぱりそう思う?」

リードの目が上目遣いになる。

「そりゃそうでしょうよ。だって、お尻丸出しだもの」

「・・・だよね」

「怖い?」

「ううん。怖くない。・・・あ、でもちょっと怖いかな。ミスターを満足させられなかったら、怖い」

「あ、そっち」

「うん。・・・そりゃ、知識としては、何となくわかってるけど・・・僕、ちゃんとできるかなって」

「そうね。・・・んー・・・ねえ、リード、クローブ油は持ってる?」

「あ、うん。女将さんが、くれたけど。何に使うのかなぁって思ってた」

「まったく。ストラウスったら、中途半端なんだから」

エルは溜息をついて、指摘する。

「えっとね、リード。自分の何処を使って紳士を受け入れるかはわかってるわよね?」

「うん。僕は女性じゃないから、それはわかってる」

「普通、そこって何かを入れる場所?」

「違う。排泄器官」

「ダイレクトに言うわね。でも、まあ、そう。合ってる。だからね、受け入れるときって、すっごく痛いらしいの。怪我をするときもあるって聞いたことがあるわ」

「うん」

リードは物凄く真剣にエルの話を聞く。

「だからね、滑りを良くするためにオイルを使うのよ。クローブには麻酔作用もあるから、少しは痛みが軽くなると思う」

「そうなんだー。エルって物知りだね」

「っていうかね。知らないで、受け入れて、お尻が壊れちゃったらどうするのよ」

「そ、そうだよね」

「やっぱり、怖くなった?」

「ううん!僕、頑張る!」

「あ、それとね、先に口で奉仕するといいわよ。まあ、それはもうやってるか」

「・・・・・・・・・・・・」

「え?・・・それも・・・してないの?」

「・・・させてくださらないんだ」

しょんぼりとリードが言う。

「・・・はぁ・・・相当ね。本当に大事にされ過ぎ」

呆れながらも、嬉しそうにエルは言った。

********************

夜の帳が下りて来たので、リードは緋色の部屋に蝋燭を灯した。身に付けているランジェリーは当然、ホッチから贈られたものだ。ほとんどお尻が丸出しになってしまうパンティがギリギリ隠れるくらいの丈のスリップ。その上に、透ける薄衣を羽織る。色はどれも紫色。以前、女将のストラウスから貰ったクローブ油の小瓶を何処に置こうか考える。ずっと手に持っているのもおかしい。だったら、ベッド横の小さなテーブル?・・・いや、それもなあからさまだな、と思う。結局リードは、小瓶を枕の下に押し込んだ。そして、枕を整え終わったとき、丁度ドアがノックされて、重たい扉が開いた。

「あ、アーロン!」

駆け寄れば、ちゃんと抱き締めてくれる。

「今夜は、少し早く来ることができた」

「お仕事は大丈夫ですか?」

「ああ。ちゃんと終わらせて来たさ。朝は悪かったな」

「そんなことないです。また、こうして来ていただけて嬉しいです。それと、美味しいお菓子もありがとうございます。エルが、ウィスキー・ボンボンだって教えてくれました。初めて食べました。あれって、お酒が入ってるんですね」

「ああ。リキュールが入っている。・・・そうか・・・君は酒を飲んだことはなかったか。・・・それはまずかったな。違う、もっと甘い菓子にすればよかったか」

「そんなことないですよ?とっても美味しかったです。喉が一瞬、カッて熱くなりましたけど、ちゃんと甘い味も口に広がりました」

「そうか?気に入ったか?」

「ちょっと大人のお菓子ですね。それと・・・これもありがとうございます。これは僕の好きな色なんですよ?」

リードが薄衣を触りながら言った。

「そうか。スペンスに似合うだろうと思ってはいたが・・・こうして着ているのを見ると、俺の見立ては間違っていなかったな」

「あの・・・今日は・・・僕にご奉仕させていただけますか?」

「そうだな。しかし、無理はしなくていいんだぞ?」

「無理じゃないです。・・・貴方に・・・アーロンにもっと触れたいです!」

真剣な眼差しをホッチに向ける。ホッチはリードの金髪をひと撫ですると、すいっと身体を掬い上げるようにして横抱きにした。

「歩けますよ」

「紳士はこうするものなんだ」

その言葉に、リードは素直にホッチの首に腕を回した。そこそこ広い緋色の部屋とはいえ、ベッドにはすぐに着く。リードはガラス細工を扱うかのごとく、静かにベッドに降ろされる。そしてホッチもベッドに乗り上げた。リードは綺麗にベッドの上に座り、ホッチの着衣に手をかけた。上等な生地を痛めないように、一枚ずつ、丁寧に脱がせると、これまた丁寧に畳んで整え、ベッド脇のテーブルの上に置く。それを数度、繰り返した。逞しい、鍛え上げられた身体が現れる。

「・・・凄いや・・・」

「どうした?」

「貴方の身体・・・とてもかっこいいです」

言いながら視線を下に落とすと、ホッチの分身はすでにいきり勃っていた。リードは自分の肘と膝で身体を支え、腰を高く上げて四つ這いになると、ホッチ自身に

唇を寄せて、ちろりと先端を舐める。ほろ苦い味が口の中に広がったが、決して嫌なものではなかった。菓子とはとは違った意味で美味しいと思った。そして、ようやく自分の口で奉仕できる喜びも味わう。嬉しくて、幸せな気分。自然と高揚感が生まれる。リードは深く咥え込むと、じゅうっと吸い上げてみた。口の中で、ドクンと脈打つのがわかる。それからは、舌や唇を使って一生懸命奉仕する。そう。昨夜、ホッチが自分にしてくれたことを思い出しながら。リードが奉仕する間、ホッチはゆっくりと静かに優しく、リードの金髪を梳いてやる。時折、耳朶や頰をするりと撫でる。

「ん、ん・・・んん・・・んぐ・・・」

あまりにも一生懸命なリードの姿に、ホッチは堪らなくなった。そこで、リードの頰を両手で包み込むと、そっと自分から引き剥がした。

「は・・・あ・・・」

リードの唇が唾液とホッチの先端から滲み出た体液で光っている。

「・・・あ・・・今夜は僕にご奉仕させてくださるって言ったのに・・・」

リードが濡れた唇を軽く尖らせる。

「奉仕に使う場所はここだけじゃないだろう?」

ホッチがリードの唇を親指の腹でなぞった。そして、そのまま、身体のラインを辿りながら、スリップが捲れ上がって完全に見えてしまっている、桃のような双丘を掴み、割り開く。

「あ・・・」

普段は隠れている襞が空気に晒される。

「あ・・・アーロン・・・?」

「嫌か?」

リードは首を横に振った。

「そんなこと、あるわけないです。あ・・・でも・・・ちょっと待ってください。準備しますから」

「準備?」

リードは身体を起こして微笑むと、枕の下に片手を突っ込んだ。そしてクローブ油の小瓶を掴んで引っ張り出す。

「ちょっと待っててくださいね」

リードが小瓶の蓋を開けようとするのを、ホッチが止めた。そして容易くリードの手から取り上げてしまう。蓋を開けて香りを嗅ぐ。

「ほう・・・クローブか」

「あ・・・返してくださいませんか?・・・僕、ちゃんと準備しますから・・・」

「断る」

「・・・・・・」

リードは、唇を噛んだ。自分が否定されたと思ったのだ。それが表情に出てしまったらしい。ホッチは困ったように笑うと、優しい口調で言った。

「俺が準備をしてやりたいと言ったら・・・嫌か?」

「え・・・そんなのダメです。それは僕がしなくっちゃ・・・」

「どうして?」

「どうしてって・・・それが・・・その・・・僕の仕事ですし・・・」

「・・・仕事・・・か・・・」

ホッチはリードの脇に手を差し込み、軽く持ち上げると自分の膝の上に座らせる。

「君が・・・今まで俺と同衾していたのは、仕事だから?それだけか?」

「・・・・・・・・・・・・」

リードは考える。身体を売るのが自分の仕事だ。しかも自分はこの紳士に買われた身だ。けれども、純粋にアーロン・ホッチナーという人間に会うことを、いつも心待ちにしている自分がいたのも事実だった。お金も贈り物も関係なく、ただ、紳士を恋しく思った。だからリードは言った。

「僕・・・貴方に会えるのが嬉しくて・・・貴方が来てくださらなかった1週間は本当に寂しくて、辛くて。僕・・・貴方に会えるだけで・・・幸せ・・・」

「そうか。それを聞いて、俺は嬉しい」

「嬉しい?」

「ああ。そういうのを何ていうか知ってるか?」

「・・・・・・」

リードは首を傾げた。

「・・・『愛してる』・・・というんだ」

「愛・・・してる?」

リードは驚いたように目を見開いた。

「そうだ。それに、俺も君を愛してる。だから、俺とスペンスは対等なんだよ」

「・・・対等?」

リードにとってはとても恐れ多い言葉。自分が貴族と対等だなんて有り得ない。

「スペンス・・・愛してる・・・」

言いながら、ホッチはクローブ油を手に取ると、指でリードの双丘の隙間をなぞった。少しずつ、その狭間の深いところに指を侵入させる。

「あ・・・」

ホッチの指先が、リードの入り口に触れる。

「力を抜くんだ。ゆっくりと呼吸をして」

窄まりを撫でるように擦り摩る。そして、つぷっと差し込む。

「はんっ・・・あ・・・」

初めて経験する感触に、リードの身体が震える。まるで、全身に電気が走ったようだった。

「ゆっくりと四つ這いになれるか」

リードはホッチの指を後ろに咥え込んだまま、何とか、ホッチが求める態勢をとる。紫色の薄衣もスリップも大きく捲れ上がり、高く上げた白い臀部が露わになる。ホッチにとってはとても良い眺めだった。リードの背後に回り、ゆっくりと指の抜き差しを続ける。時々、ぐるりと大きく指を回す。その度、リードの声が上がる。

「んっ・・・あっ・・・」

「辛くないか?痛くはないか?」

「だ・・・大丈夫・・・です・・・でも・・・何だか・・・変な感じ・・・んっ・・・」

リードの様子を伺いながら、指の本数を増やす。クローブ油のせいもあるのだろう。後孔は容易く開き、素直に指を受け入れた。

「う・・・あ・・・」

口から漏れ出る声質は、苦しそうなものではなかった。快楽のせいと思うのは、ホッチの独りよがりだろうか。しかし、この痴態を見ると、もっと先へと進みたくなる。ホッチはスッと指を抜いた。十分に解された後孔がぽっかりと緩んでいる。襞も物欲しげにひくついている。ホッチは再度クローブ油を手に取ると、自分の剛直を扱いた。それから、リードに宛てがい、ゆっくりと腰を進める。高く突き出された尻を掴んで。

「は・・・ぐっ・・・うう・・・」

「さっきも言っただろう?力を抜いて・・・ゆっくりと呼吸をして・・・できるか?」

リードは、うんうんと頷いた。返事はできない。自分を貫く太い物を受け入れることで頭がいっぱいになる。しかし痛くはないし、苦しくもない。愛する人を受け入れることができた喜びがあるだけだ。ホッチはゆっくりと突き上げ始めた。奥へ奥へと自分を穿つ。緑のランジェリーを纏い、揺れるリードの身体が美しい。

「スペンスの身体はとてもいいな。見た目も美しいが、中も最高級品だ」

「んっ・・・んっ・・・んっ・・・」

もう、リードはホッチの律動に併せて、うめき声をあげることしかできなかった。けれども、ようやくきちんとホッチに抱いてもらえたことがこの上なく嬉しかった。

「スペンス、前も触るぞ。そうしたら、もっと気持ちが良くなるから」

リードの返事は待たずに、ホッチは片手を前に回し、軽く勃っているリードの可愛いモノを包み、扱き始めた。

「あっ・・・はっ・・・あんっ・・・ああんっ・・・ひあ・・・」

リードの漏らす声が艶めき始める。ホッチは思わず、舌なめずりをした。この美しい青年を、自分だけのものにしたいと思った。綺麗な部屋に閉じ込めて、ずっと可愛がり、愛したいと思った。けれども、それは、この青年がもつ才能を潰すことになるだろう。もっと、別な形で花開かせてやりたいと思う。

「スペンス・・・いいぞ・・・締めつけ方がとても上手だ」

言われて、リードはぎゅっと後ろに力を入れた。

「はっ・・・す・・・好き・・・アーロン・・・好き・・・んんうっ!!!!」

ホッチの手の中でリードの果実が爆ぜる。その熱さを手に感じながら、ホッチは抜き差しを激しくしたのだった。

to be continued

ランジェリード

FBI監督特別捜査官アーロン・ホッチナーとDr.リードには、朝の細やかで秘め事的な儀式がある。

********************

朝。リードはオフィスに入るとみんなに挨拶をして、手に持っていたコーヒーの紙コップを自分のデスクに置いて、鞄を斜めに掛けたままホッチの個人オフィスに向かった。ノックをして入り、後ろ手に扉を閉める。すでにデスクで書類仕事をしていたホッチは顔を上げずに言った。

「リード。鍵とブラインドを」

「・・・はい」

リードは扉に内鍵をかけ、ブラインドを閉めた。これで、ホッチのオフィスは外界から閉ざされる。リードが鞄を肩から外して黒いソファに静かに置くと、おずおずとホッチのデスクに近づいた。そこで、ようやくホッチは顔を上げて、リードを見ながら立ち上がった。ゆっくりとデスクを回り、リードの前に立つ。肩よりも少し上までの長さの髪をひと撫でする。それが合図だった。リードは濃い紫色のベストを脱ぎ、続いて同系色のネクタイも外した。元々、シャツの一番上のボタンは留めていない。リードは上司の顔をじっと見つめた。少し緊張した面持ちで。今日は、合格点だろうか。そこから先はホッチの仕事だ。骨太な指で、リードのシャツのボタンをゆっくりと1つずつ外す。チノパンのウエスト部分からシャツの裾を引っ張り出して、一番下までボタンを外し、シャツを肩から外した。

「・・・ああ・・・いいな」

「・・・合格?」

「もちろんだ。そもそも俺はリードの身体に似合うものしか選ばないし、買わないからな」

「よかったぁ」

毎日のことであるが、いつもリードは嬉しそうに笑う。どんなにホッチの選ぶセクシー・ランジェリーが素敵でも、自分の身体や着こなしがイマイチだったら台無しだからだ。今日のランジェリーは黒。まるで蝉の羽のような、繊細なレースが特徴の綺麗なブラジャーだ。これもいつものようにホッチが選び、昨日プレゼントしてくれたものだ。ホッチは黒いレースに隠された平らな胸に、チュッとキスを1つ落とすと、シャツを直してやる。

「下は?」

「・・・もちろん・・・ホッチが昨日くれたやつだよ・・・ブラとお揃いの黒いレースの・・・その・・・」

「Tバック?」

「・・・うん」

リードが恥ずかしげに呟いた。

「いい子だ。見せてくれるか?」

リードは無言で頷くと、かしゃかしゃとベルトを外した。チノパンを全て下ろすことはせずに、ちらりと見せる。ホッチはそんなリードを抱き込むと、背後に手を回して、ストリングを軽く引っ張る。

「あ・・・ん・・・ダメ・・・まだ朝で、これから仕事なんだから・・・」

「わかってる」

ホッチはリードから離れると、自分のデスクから、茶色い紙袋を取り上げた。

「リードは、これは明日の分」

「はい、わかりました」

リードは微かに嬉しそうに微笑むと、素直にその紙袋を受け取り、愛用の鞄にそっと入れたのだった。

********************

その頃。JJとエミリーとモーガンは、ブラインドに閉ざされたホッチのオフィスを見上げながら、こそこそと話し合っていた。

「何で、ブラインドを降ろすのかしら」

「鍵をかける音もしたぞ」

もう、かれこれ2週間以上続いてるわよね」

そこへ、ラップトップを持ったガルシアが現れた。

「ちょっと!みんな!これを見て!謎が解けたわ!」

3人からよく見えるように、デスクの上にラップトップを置く。そして、そのモニターに映し出されていたのは、ランジェリー・ショップの公式ウェブサイトだった。

「あら、素敵。可愛いわね、このレース」

と、エミリー。

「私、この色好き」

これは、JJ。そこへモーガンが本題に戻そうとホッチのオフィスを指差しながら、口を挟んだ。

「これとあの謎がどう繋がるんだ」

「ホッチのオフィスと自宅のコンピュータをハッキングしたの。これが最新の検索履歴。過去の履歴を遡っても、この手のお店のサイトばっかりなのよ。ちなみに、昨日ホッチの自宅に届いた商品がこれ」

ガルシアがクリックすると、黒いレースのブラとショーツのセットが映し出された。

「やーん。セクシーで可愛い」

「蝉の羽のような繊細なレースですって。確かに」

JJとエミリーがキャッキャと喜んでいる。そこへ、ロッシが登場。

「お。それは私がホッチに教えた見せだな。そうか、早速行動に移していたか」

「「「「え?」」」」」

4人の疑問詞が小さく響く。

「最近、マンネリ化してるから、刺激が欲しいって相談されてな。それで、色々なランジェリーサイトを教えたんだ。活用しているんだな、いいことだ」

笑いながらロッシはコーヒーを淹れに立ち去った。

「つまりだ・・・」

モーガンは呟いた。

「今日のリードはこれを・・・」

「「きゃーん!可愛いー!!!」」

モーガンの声はJJとエミリーの叫び声に掻き消された。

「ねえねえ、ガルシア。ホッチは他にどんなの買ってるの?」

「待って、順を追って履歴を見せるから」

モーガンはそっとその場を離れた。その時、ホッチのオフィスからリードが出て来る。いつもの肩掛け鞄を大事そうに胸に抱いていた。

「あ、おはよう、モーガン」

「あ、ああ・・・あー・・・おはよう、天才君」

「ねえ、JJたちは何を盛り上がってるの?」

「気にするな。それよりも、お気に入りのカフェのコーヒーを奢ってやる。外に出るぞ」

モーガンはリードを女子3トリオから離すように促した。

「ほんと!?じゃ、砂糖とクリームがたっぷりの甘いラテ!!」

「わかった、わかった」

モーガンはリードの背中に手を当てようとして、思わず止める。そうだ、この服の下は。

「・・・・・・お前も大変だな」

「ん?何が?ねえねえ、ラテにチョコレートシロップもトッピングしていい?」

「ああ。いいぞ」

自分の弟分であるリードに同情の眼差しを向けながら、モーガンはリードを連れて歩き出したのだった。

********************

その頃。

「こんなのはどうだ?このショップはかなりセクシーななのを取り揃えているぞ」

「いいですね。この色はリードに似合いそうだ」

互いのスマホを操作しながら、コアラとゴリラが、ランジェリーショップのウェブサイトを検索していたのだった。

END

籠の鳥 愛の個人授業 07

ホッチは背後からリードの体を抱き締めた。無下に力を入れたら、折れてしまいそうな細さだった。幼い頃から、きちんとした栄養を取ることができず、身長だけは伸びたものの、体に肉がつかなかったのだろう。そんな細い体を、ホッチは静かに、ゆっくりと撫で摩った。

「温かいですね・・・貴方の手は・・・そして、とても優しい」

うっとりとした口調でリードが呟く。

「そうか?本性はとてつもなく酷い男かもしれないぞ?」

「・・・きっと、そんなことはないですよ?だって・・・貴方は・・・アーロンは、とても綺麗な目をしているもの」

自分を抱き込む腕にそっと触れながらリードが言う。自分はさほど良い人間とは思っていないが、ホッチは「ありがとう」とリードの耳元で囁いた。

「スペンスはいつから、この娼館にいるんだ?」

「・・・えっと、貴方に買われる3日前です。母を病院に入れるお金が必要で。それが新聞の売り子じゃとても払えない金額だったんです。でも、入院させないと母の具合は良くならないって言われて。そんな時に、アンダーソンがこの娼館の下男の仕事を教えてくれたんです。新聞の売り子よりは稼げるからって。それで・・・来たんですけど・・・その・・・女将さんが・・・」

「君を、あのステージに立たせたというわけか」

「ちょっとした・・・遊びっていうか、余興のつもりだったと思うんですけど・・・」

「しかし、俺が目をつけた」

「・・・ありがたかったし・・・何より、嬉しかったです」

「嬉しかった?」

「はい。・・・あのステージの上で・・・僕はものすごく緊張していて・・・だから、何が何だかって感じだったんですけど・・・客席の中にいる貴方の顔を見たら、何故だかホッとしちゃって・・・あ、なんか変ですよね、僕」

「いや、嬉しい。俺は君のお眼鏡に叶ったというわけだな」

「そんな・・・恐れ多いです。そういうんじゃないです。僕こそ、貴方に買っていただけて・・・専属にまでしてもらって・・・感謝してます。下男の仕事だけじゃ、母の入院費用は賄えないから」

「母親は、病院では息災にしているのか?」

「・・・それは・・・わからないんです。娼館では、勝手に出かけることは許されていませんし」

「心配だな」

「・・・はい。病気ではありますが・・・大切な母なので。・・・僕がまだ小さいのに、読み聞かせをしてくれた本はプルーストでした」

「ほう・・・。『失われた時を求めて』・・・か?」

「はい。小さな子ども相手なのに、おかしいと思うでしょう?でも・・・僕には分かったし、面白かったし・・・好きだった。本も、母も。・・・『音が窓ガラスにして、なにか当たった気配がしたが、つづいて、ばらばらと軽く、まるで砂粒が上の窓から落ちてきたのかと思うと、やがて落下は広がり、ならされ、一定のリズムを帯びて、流れだし、よく響く音楽となり、数えきれない粒があたり一面をおおうと、それは雨だった。』・・・僕ね。全部覚えてるんですよ?」

「あの長編をか」

「変ですよね・・・。でも、無意識に覚えちゃうんです」

「フランス語で読んだのか?」

「母が読み聞かせてくれたのは英語です。でも、教会にあったのは原書だったので・・・」

「フランス語か?」

「はい。教会で、ドイツ語やラテン語も教わりました」

「そうか」

モーガンの言った通りだった。決して学のない子ではなかったのだ。しかし、あのプルーストの長編を暗記しているとは驚きだった。

「本は好きか?」

「はい。・・・でも、すぐに読み終わっちゃうから・・・。教会にある本もあっという間に読む本がなくなってしまいました」

「プルーストはどのくらいで読み終わったんだ?」

「フランス語だったので、少し時間はかかりましたけど・・・1週間かからなかったかな・・・」

全部で7篇からなる大作だ。それを母国語ではない言語で、1週間もかけずに読むことに、ホッチは正直驚いた。

「でも、牧師様にラテン語を教えていただいたのが一番良かったです。おかげで、フランス語もドイツ語も楽に覚えることができました」

「・・・そうか。それは・・・凄いな。それだけの言葉を操れるとは・・・」

「そうですか?凄いですか?」

ホッチの腕の中で振り向いたリードの表情はきょとんとしていた。

「ああ、凄い。俺はフランス語やドイツ語はそこそこ理解ですが、ラテン語なんてからっきしだ」

「でも、単語は元々ラテン語由来のものが多いんですよ?」

「あのな、君のように、英語の他にフランス語、ドイツ語、ラテン語ができる人間はそうそういないぞ」

「え・・・じゃあ、ロシア語も分かるって・・・おかしいですか?」

「ロシア・・・語?」

これはモーガンの調査にはなかったことだった。

「スペンスは・・・素晴らしく頭がいいんだな。・・・学校には、通ったことがないんだろう?」

「はい。貧乏だったので。その日のご飯のお金を稼ぐことで1日が終わっちゃいます。だから、教会で本が読めるのも1時間ぐらいでした」

ちょっと待て。と、ホッチは思った。毎日1時間の読書で、7篇もあるプルーストを1週間もかけずに読み終わるとは、一体どういう読書スピードなのだ、と。

「どうしてもお金が稼げない時は、教会でご飯を食べさせてもらえたの、凄くありがたかったです」

とても切ない話を、懐かしそうに話すリードの姿に、ホッチは軽く胸が痛む。その思いが、リードを抱く手に表れたのか、ぎゅっと力を入れて身体を引き寄せた。おのずと二人の身体が密着する。

「どうしました?・・・アーロン?」

ホッチのファーストネームを呼ぶ声はまだ遠慮がちだったが、ちゃんと言われたことを実行に移す様子は素直で好ましい。

「また・・・君に触れたくなった」

「え?こんなにくっついているのに?」

「これ以上に、だ」

ホッチは上体を起こすと、リードを仰向けにして、その顔を覗き込む。

「もう一度、スペンスの可愛い声が聞きたくなった」

「・・・あ・・・」

その言葉でリードも理解したらしく、顔を赤らめた。そして言葉を続ける。

「あ・・・あの・・・それだったら・・・アーロンの服をお脱がせしても・・・良いですか?・・・僕だけじゃ・・・その・・・恥ずかしくて・・・」

「そうだな。・・・それに、今夜は泊まっていくとしよう」

「え!?本当ですか?嬉しいな」

屈託無く笑うリードにホッチの表情も和らぐ。リードの手が、ホッチのシャツに触れる。

「・・・よろしいですか?」

「脱がせてくれるのか?」

「はい!」

リードは自分の居住まいを正して、上質な生地で仕立てられた服を脱がせていった。

「・・・すごく・・・鍛えていらっしゃるんですね。僕の身体、情けないから・・・恥ずかしいや」

「いや。君はそのままでいいぞ。ああ・・・ただ、もう少し食べて肉を付けた方がいいがな」

「ごめんなさい」

「謝るんじゃない。スペンスは今まで生きるのにも大変な環境にいたんだから。これからいっぱい美味しいものを食べればいいんだ。ここでの食事は?十分か?」

「はい。アーロンが僕を専属にしてくださったおかげで、ちゃんとご飯が食べられます。・・・でも、僕は今までスープとパンぐらいしか食べたことなくて。こんなにたくさん食べてもいいのかなって・・・心配になってしまいます」

「そういうことは気にせずに、うんと食べるといい」

「そうですね。・・・母さんにも食べさせてあげたいなぁ・・・」

精神分裂症と診断されているリードの母。しかし、ホッチは知らないことにした。

「見舞いに行きたいか?」

「・・・お給金も少しいいので。そう・・・この間アーロンからいただいたショコラ・ド・オランジュを買ってあげて行きたいです」

「そうか。それは、いいな」

鍛え上げた身体を使い、力強くリードの身体を引き寄せ、深いキスをする。リードも教わった通りに、舌を積極的に絡める。呼吸が苦しくなるのも気にならなくなるほど、リードは溺れた。リードはそれほど、ホッチという存在に安心感を得ていた。ホッチの手は余すところなく、リードの身体を撫でて愛でる。そして、先ほど口で愛した部分に触れる。

「あ・・・あん・・・あ・・・あ、アーロン・・・ぼ、僕にはご奉仕させていただけ・・・ませんか?」

「それは、また今度・・・な。それよりも、俺の首に腕を回してくれ」

はぐらかすように言うと、形を成し始めたリードを扱き始めた。

「んっ・・・んっ・・・んっ・・・あ・・・は・・・」

経験の浅いリードはすぐに高まってしまう。そして、ダメだ、と分かっていてもイキそうになる。それを我慢するように、軽く唇を噛んで首を横に振る。

「スペンス。我慢をしなくていい。好きなだけイケばいいんだ。その顔が見たい」

「・・・恥ずかし・・・い・・・」

「そんなことはない。イく時のスペンスは可愛いぞ」

「・・・はっ・・・そ・・・そんな・・・あんっ・・・ダメ・・・っ!!!」

リードは仰け反り、大きなホッチの手の中で爆ぜる。しかし、それでもホッチはリードを離すことはしなかった。そのまま扱き続ける。親指で鈴口を撫でたり、先端部分だけを執拗に弄ったりする。一度弛緩したリードの身体が再び小刻みに震え始める。

「んっ・・・やっ・・・やっ・・・だ・・・め・・・変・・・や・・・変なの・・・」

「気持ち悪いか?」

リードは金髪を横に振った。

「違うの・・・何だか・・・変なの・・・あ・・・ダメ・・・アーロン・・・出ちゃう・・・」

「出せばいいだろう?さっきみたいに」

「・・・あ・・・だから・・・違うの・・・バ、バスルームに・・・行かせて・・・ください・・・っ」

「それは・・・ダメだな」

「だってっ・・・出ちゃうっ・・・」

「何が?」

「やん・・・出ちゃうよ・・・おしっこ・・・出ちゃう・・・」

「いいんだよ、出して」

「ダメ・・・そんなの・・・ダメ・・・」

リードの耐える姿にホッチも思わず興奮する。そして、愛撫する手や指の動きは変えない。そのまま、リードのペニスを弄り、扱き続ける。

「ああ・・・出ちゃう・・・本当に・・・出ちゃう・・・あ、ああああああーー!!」

仰け反るリードの先端から、白濁ではない、透明な液体が吹き出る。

「あー・・・あー・・・」

全てを吐き出すと、リードの身体は力が抜け、ぐったりとホッチの胸に凭れかかった。

「は・・・あ・・・」

「気持ちよかったか?」

「あ・・・ああっ・・・ごめんなさい・・・僕・・・粗相をしちゃった・・・」

「それは違うな。これは尿じゃない。透明な液体だ。スペンスは潮を吹いんたんだ」

「潮?」

「そう。簡単に言うと、女の子みたいにイッたってことだ」

「女の子みたいに?」

「そう。これで、スペンスは俺の女の子になったな」

「女の子・・・?・・・僕、そんなに可愛くないです」

「いや、可愛い。可愛くて、綺麗だ。イッた時の表情はものすごく妖艶だった」

リードの身体を優しく抱き込み、ベッドに倒れ込む。

「眠ろうか?」

「あ、アーロンの身体をお拭きしなくちゃ」

慌てて起き上がろうとするリードの身体をホッチが押し留める。

「汚くないから。大丈夫だ。それよりも、スペンスは温かくていいな。落ち着く」

「アーロンも温かいです。貴方と一緒にいると、幸せな気持ちになります」

「そうか」

ホッチは毛布を引き上げて、リードの身体を包む。

「眠りたくないな・・・」

「どうして」

「明日の朝、貴方がいなかったら寂しいから・・・」

「大丈夫だ。俺は約束は守る。今夜は泊まると言っただろう?安心して。ほら、目を瞑るといい」

「・・・はい」

リードは素直に呟くと、そっと目を閉じた。

********************

とても温かい夢を見た。それは愚形化されておらず、どこか概念的なものであったが、リードの心を柔らかく解した。気怠い身体。しかし、痛みはない。リードは目を開ける。そして、その瞬間、バッと起き上がった。隣にホッチがいなかったからだ。慌ててベッドを降りる。昨夜、丁寧に脱がせた衣服もない。リードはがっくりと肩を落とした。やっぱり、自分は置いて行かれたのだ。けれども仕方がない。自分は娼館に勤める者なのだから。思わず溢れそうになる涙を、リードは指先で拭った。その時、バスルームへとつながるドアが開いた。そして、身支度を整えたホッチが現れる。

「アーロン!」

リードはパタパタと走り寄った。しかし、抱きつくことはしない。ホッチが一部の隙もなく、身なりを整えていたからだ。それを乱すわけにはいかない。しかし、それなのに、ホッチの方がリードの身体を引き寄せた。

「起こしたか?」

「い、いえ・・・自然に・・・目覚めました」

「そうか。それなら良かった。スペンス?今夜も来ていいだろうか?」

「え?今夜も・・・来てくださるんですか?」

「ああ。それと、昨夜、、君に渡すのを忘れていたものがあった」

ホッチはリードから離れると、赤いカウチの上の紙箱を取り上げた。そしてリードの元に戻る。今夜は、これを着て待っていてくれると嬉しい」

「あ・・・は、はいっ!」

リードは嬉しそうに箱を受け取った。

「それと、これも」

小さな箱もリードに渡す。

「これは菓子だ。スペンスは甘い物が好きだろう?」

「そうみたいです。この間いただいたお菓子もとっても美味しかったです。エルと一緒に食べました」

「エル?」

「あ、はい。えっと、娼婦仲間で・・・僕、このランジェリーの身につけ方が分からなくて・・・教えてもらったんです」

リードは自分の身につけているピンクのランジェリーをちらっと見ながら言った。

「そうだったか。しかし、よく似合っている。今夜も楽しみだ。また、楽しませてくれ」

そう言いながら、リードの頰にキスをする」

「本当はもう少し、君と居たいんだが、仕事だと言う電報が届いた。悪いな」

「いえ!いいんです!・・・お仕事は大事にしなくちゃ!」

「ありがとう。しかし、今夜もちゃんと来るから。その約束は違えない」

「・・・はい」

リードは花のように笑うと、静かに、礼儀正しく、ホッチを部屋から送り出したのだった。

to be continued

プンスコおこリード

リードは2日くらい前から調子が悪かった。BAUの仕事ではちゃんとプロ意識を発揮して、的確で適正な仕事をしていたつもりだ。けれども、そうやって精神のコントロールはできていても、「ソレ」が身体に与えてくる影響からは逃れようがない。否、もしかしたら「ソレ」のせいで、精神も病んでる。リードは溜息をついた。事件を解決した後、クワンティコに戻るジェットの中で、リードはブランケットに包まって、横になっていた。身体が火照っているような感覚はあるのだが、何かに包まっていると、少しだけ気持ちが安心するのだ。リードは、ブランケットの中で、両手を下腹部に当てて、まるで暖をとるようにして、クワンティコまで蹲るようにして眠った。

********************

「一仕事終わったし、飲みに行かない?」

ガルシアがメンバーを誘う。エミリーやJJ、モーガンは賛同したが、リードは首を横に振った。

「帰る・・・何だか・・・眠いんだ・・・」

「あら、疲れちゃったのかした?ちょっと目がとろんってしてるわね」

JJがお姉さんらしく、リードの額に手を当てる。

「ちょっと熱っぽいかも」

「風邪気味?」

エミリーもリードの顔を覗き込む。しかし、リードは首を横に振った。

「本当に眠たいだけなんだ。・・・大丈夫だから」

「俺が送ろう」

いつの間にか側に来たホッチが口を挟んで来た。

「みんなは飲みに行くといい。リードは俺が送って行く」

有無を言わせない口調に、一同は黙り込んだ。そして、ようやく、ガルシアが、

「じゃ、じゃあ・・・お言葉に甘えて・・・」

と言うと、JJ、エミリー、モーガンもそそくさと立ち上がって部屋を出て行ったのだった。

それを見送ってから、ホッチがリードの肩に手を置く。しかし、リードはその手をパシンっと払いのけた。

「・・・一人で帰れるもん」

「いいから」

「・・・まだ、地下鉄、動いてるもん」

「リード。頼むから」

「・・・それって、ホッチのお願いなの?」

「ああ、そうだ。頼むから、送らせてくれ」

「・・・じゃあ・・・いいよ・・・」

リードは、口を尖らせながら、ボソッと呟いた。そして、使い込んだお気に入りの茶色い鞄を斜めに掛けると、さっさとオフィスを出たのだった。まるで、ホッチが間違いなくついてくると確信しているように。

********************

「リード。中に入っていいか?」

リードのアパートに着くと、ホッチが伺いを立てる。

「・・・好きにすれば・・・」

リードの返事は素っ気ない。しかしホッチは意に解することなく、リードと一緒に部屋の中に入った。リードは、やや乱暴に鞄をソファに投げると、パタパタとバスルームに駆け込む。しばらくして、トイレのフラッシュの音。それからやや時間が経ってから、ようやくリードがバスルームから出て来た。思いっきり眉間に皺が寄っている。

「リード。大丈夫か?」

「嫌い。ホッチなんて嫌い。やっぱり帰って」

リードはイライラして怒っている。ホッチは即座にプロファイリングを開始した。とは言っても、リードのイライラの原因はわかっている。しかし、先月とは違う、イラつき方だった。何かあっただろうか。自分は何かしただろうか。

「ねえ、聞こえなかったの?帰ってってば」

逆ギレした猫のような眼差し。それすらも可愛く思えるので、末期症状だ。リードはソファでなく、床に膝を抱えて座り込んだ。

「腹が痛いのか」

クッションが飛んできた。リードがホッチに向かって投げたのだ。ホッチは持ち前の動体視力で、難なく避ける。それがまた、気に入らなかったらしい。リードは2つ目のクッションを投げた。今度は避けずにわざと当たってやる。それで、リードも少しは満足したらしい。けれども、視線はまだきつい。ホッチはリードの傍に跪いて、顔色を伺う。自分ではどうにもならない感情を持て余しているような瞳の色だった。

「リード」

「・・・だって・・・なっちゃったんだもんっ・・・ジェットの中でもお腹が痛いし・・・も、やだ」

「そうか、辛いんだな。だったらベッドに行った方が・・・」

「ダメなの!僕が重くて量が多いの知ってるでしょっ!!・・・買い忘れてて、夜用ナプキンもタンポンもないの!!!・・・だから・・・ここで寝る・・・シーツを汚したくないもんっ!!!どうせ、ちゃんと準備してなかった僕が悪いんだもんっ!!放っておいてよ!!」

「それは違うだろう?リード。最近、仕事がとても忙しかった。だから買い物に行く時間もなかったんだろう?」

優しく語りかけるが、リードは口を尖らせたままだ。

「俺が買ってくるから。ああ、そうだ、腹を温めた方がいいな」

ホッチはキッチンへ行く。何が何処にあるかは把握している。引き出しの中から、ホットパックを取り出すと、レンジで温めた。それからタオルを用意する。温まったホットパックをリードの服の中に差し込み、彼の両手をその上に添えるように置いた。

「熱くないか?ちょうどいいか?」

「・・・・・・ん・・・・・・」

リードはぶっきらぼうに小さく頷いた。

「じゃあ、行ってくるから」

ホッチは車のキーを確かめて、リードの部屋を足早に出たのだった。

********************

リードと二人で来たことのあるドラッグストア。ホッチはすぐに棚を探す。しかし、お目当のものはなかった。しかし、そこで諦めるホッチではない。スマホから画像を呼び出すと、レジに向かい、店員に差し出す。もしかしたら、バックヤードに在庫があるかもしれないと考えたのだ。女性店員は画像を見ながら呟いた。

「特に多い夜用朝までブロック400・・・すき間ゼロ設計で、モレ徹底ブロック・・・」

「それからこれも」

ホッチは次の画像を見せる。

「ソフトタンポンスーパープラス特に量の多い日用25コ入り・・・・」

「棚になかったんだ。在庫はないだろうか」

ゴリラ顔の強面な男にずいっと迫られて、ビビる女性店員。

「ちょ・・・ちょっと、お待ちください・・・ざ、在庫を確認して来ます・・・」

逃げるようにして、その場を離れる。その間ホッチは、カゴにリードの好きなチョコバーをたくさん放り込んだ。そして再び衛生用品コーナーに戻る。

「・・・念の為に、これも買っておくか」

ホッチは、『特別心配な夜用安心ショーツタイプ』も手に取り、カゴに入れたのだった。そこへ女性店員が戻ってくる。

「お待たせしました!在庫がありました!」

「助かる。それと、アドビルも」

「は、はいっ!」

ゴリラ顔に睨まれながら、鎮痛剤を含めた品々の会計を始める女性店員だったが、その手はかすかに震えていた。

********************

「ただい・・・」

ばふんっ。

クッションがホッチの厚い胸板に当たる。

「遅いってば!!!!」

リードがプンスコと怒っている。ホッチは紙袋からチョコバーを1つ取り出すと、封を切って、リードの口元に近づけた。鎮痛剤を飲ませるよりも先に、何か食べさせた方が良いと思ったのだ。それにこういう時のリードは、甘い物を食べたがる。リードは差し出されたチョコバーを素直に一口齧った。そしてそっと目を閉じて天を仰ぐ。甘さを味わっている顔だ。どうやら、満足な味らしい。リードが咀嚼して飲み込むのを確かめてから、ホッチは食べかけのチョコバーの端でリードの唇を突いた。それにムッとした表情を返すリード。

「一人で食べれるもん!」

リードはホッチの手からチョコバーを取り上げると、自分で噛り付いた。その様子を見ながら、ホッチはミネラルウォーターを用意するために立ち上がった。

*******************

ローテーブルの上には、手付かずのアドビルとミネラルウォーターのペットボトル。リードは3個目のチョコバーをもしゃもしゃと食べていた。空中の一点を睨むようにしている。4個目のチョコバーに手を伸ばそうとした時、ホッチが止めた。

「リード、そろそろ薬を・・・」

「うるさいってば!!!」

まだ、怒っている。ホッチは肩を竦め、仕方なく、4個目のチョコバーを頬張るリードを眺めるしかなかった。

「・・・・・・ホッチのせいだもん・・・・・・」

4個目の半分まで食べ終わった時、リードがボソッと呟いた。

「・・・なんだって?」

「三日も早く来ちゃったの・・・ホッチのせいだもん・・・」

「俺?」

「・・・だって、出張先のホテルで、ホッチがめちゃくちゃズンズンしたでしょ?だからお腹がびっくりして、生理が早く来ちゃったんだよ!・・・いつも通りなら、ちゃんと買い物にだって行けたのに・・・ほらっ!」

リードはスマホを取り出すと、ウサギのイラストのアプリを開いてホッチに見せる。生理予定日や排卵予定日、妊娠可能性などが表示されたピンク色の画面だった。確かに生理予定日を見れば、3日後の日付になっている。そして出張先でのことを思い起こす。確かに、リードと同室でセックスはした。しかし、あれはリードの方が誘ってきたのではなかったか。仕事なんだから、と宥めたが、ホッチにのしかかって来たのはリードの方だ。そうされれば、ホッチだって我慢が効かなくなる。しかし、そんな説明を聞き入れてくれるような状態ではなさそうだった。今のリードは。だから、ホッチは言う。

「そうか。・・・それは、俺が悪かったな、リード。お前の体のことを考えないで、無理をさせたな。すまない」

「・・・別に・・・謝って欲しいわけじゃないけど・・・」

さっきまではとは裏腹にしゅんとした声になる。どうやら、チョコバー4個で、気持ちが落ち着いたらしい。そして、一緒に床に座っているホッチにぽとんっと体を寄せてくる。

「薬を飲むか?」

「・・・・・・ん」

ホッチはアドビルの錠剤を取り出し、リードの唇の隙間から押し込む。そして自分がミネラルウォーターを口に含み、口移しで飲ませてやる。リードも嫌がらずに、されるがままだ。

「ちゃんと、お前がお気に入りのブランドのを買って来たから。取り替えて、ベッドに行くといい」

「・・・・・・ん」

「何か食べたかったら作ってやるぞ」

「・・・甘いご飯」

「・・・簡単なパウンドケーキでも焼くか?」

「それがいい」

リードはそう言って、紙袋を持って立ち上がると、バスルームへ行った。ホッチはキッチンへと。バターや薄力粉を探す。

「ホッチ!!!!!!!!!!!!!」

「ん?」

振り向きざま、ホッチの顔面に何かがダイレクトヒットした。

「僕は赤ちゃんじゃないの!!!!!!!」

そしてバスルームのドアが思いっきりバタンと閉まる。

ホッチは床に落ちた、自分の顔面にぶつかった物体を見た。

『特別心配な夜用安心ショーツタイプ』

どうらや、ホッチの思いやりは、少々、余計なものであったらしかった。

END

籠の鳥 愛の個人授業 06

気が付けば、1週間が’経過していた。ホッチはし仕事に忙殺され、自分の自由な時間は奪われていた。しかし、ようやく仕事が片付き、カレンダーに目をやると、最後にあの青年とあった日から1週間が過ぎてしまっていたのだ。ホッチは屋敷の書斎で溜息をついた。今夜リードの待つ娼館へ行くべきか、それとも明日か。それに、モーガン伯爵から調査が終了したことは電報を読んで分かっていたが、詳しい内容を聞く時間はなかった。ホッチは一息着くと、電報を打つために、メイドを呼んだのだった。

********************

「父親は行方知れず、母親は病院に入院している。・・・窓に鉄格子の嵌っているような病院だ」

ホッチナー邸にやって来たモーガンは、手元の資料を見ながら話し始めた。

「・・・精神病質者・・・なのか?リードの母親は」

ホッチはリードが母親の病院代のことを話していたのを思い出した。

「精神分裂症だ。重篤なものではないらしいが、周囲の偏見があるからな」

「そうか・・・」

「そんな家庭環境のせいか、リードは教育を受けたことはない。ただ、ああいった貧民層は街の教会の世話になることがあるだろう?入院する前の母親のために、食べ物が欲しかったせいもあるかと思うが、よく教会にには行っていたらしい。貧しい教会だが、そこの牧師が結構リードを可愛がっていたっていう話だ。文字の読み書きや計算なんかもその牧師に教わっている」

「まったく学がないわけではないんだな」

「ああ。しかも、すごいぞ。ラテン語、フランス語、ドイツ語ができる。教会にある本を片っ端から読んでいたらしいが、1冊の本を半日で読み終え、しかも内容もちゃんと覚えている、と牧師が言っていた」

「賢い・・・という言葉では表現できないな」

「ああ。まさに天才君だ。他にも、あの娼館に行くことになった経緯や、借金の額なんかもここにまとめてある」

モーガンは手に持っていた数枚の紙をホッチに渡した。

「助かるよ、モーガン。本当なら本人に直接尋ねればいいのだろうが、どうも複雑そうでな。それに明るく、屈託なく笑うリードを見ていると中々聞けなかった」

「だろうな。そもそも自分の置かれた悲惨さを表に出して同情を買うような人間は、娼館には向いていない」

「でも、彼のことを知りたかった。とんだ我儘だな」

「惚れたか」

「・・・かもしれない」

「おいおい。相手は娼館の売り物だぞ」

「そうだな・・・・」

ホッチは呆れるモーガンの向こうにある壁を見つめながら呟いた。

********************

「電報ですよー」

ノックと共に、部屋の扉が開いた。リードはひょいとベッドから降りると、アンダーソンに駆け寄った。

「だっ誰から?」

「アーロン・ホッチナー侯爵様からですよ」

「本当!?」

リードは差し出された電報を受け取り、紙片に目を落とす。

「うわぁ・・・今夜、来てくださるって!ミスター・ホッチナーが!!」

「良かったですね」

嬉しそうに微笑むリードの姿を見ながら、アンダーソンも心の中で笑った。何せ、この1週間、本当に元気がなかったのだ。先週、3つの箱の送り物が届いた日が元気だったが、それからは手紙もなく、リードはとてもしょんぼりとしていたからだ。リードから笑顔が消えると、アンダーソンも何処か寂しい気分になった。けれども、いま、目の前にいるリードは瞳をキラキラと輝かせている。そんな表情を見ていると、アンダーソンも嬉しくなった。

「ありがとう!アンダーソン!」

「また、来てくださることになってよかったですね」

「うん!」

「それじゃあ」

もっとリードの笑顔を見ていたいような気もしたが、アンダーソンは部屋を辞することにした。きっと、ミスター・ホッチナーを迎える準備もあるだろうと思ったからだ。

パタンとドアが閉まると、リードはもう一度、電報を読み直した。仕事で来ることができなかったこと、今夜娼館に来ること、そして先週送ったランジェリーを身に付けて欲しいことが書かれていた。リードは電報を丁寧にテーブルに置くと、それからチェストの上の紙箱を手に取った。そっと蓋を開けると、美しい生地とレースで彩られた、可愛らしいピンクのランジェリーが現れる。リードは嬉しそうに、生地に優しく触れた。と、同時に眉を潜めた。ランジェリーが嫌なのではない。ただ、何やら付属品が多いのだ。キャミソールから伸びた長めの紐。その先には留め具。それにレースがふんだんに使われた長い靴下。要するに、リードはこのランジェリーの身に付け方がわからないのだ。紳士は、これを着た自分に会いに来るというのに。リードはしばらく悩み考えた後、ハッとしたように手を叩いた。

「そうだ!エルに聞けばいいんだ!」

リードはランジェリーの入った箱を大事そうに抱えると、先輩娼婦である、エルの部屋へと走ったのだった。

********************

「あらー。素敵!可愛い!リードにぴったりのランジェリーね!これは・・・例の紳士からの贈り物?」

「え?あ・・・う、うん・・・」

リードはエルの言葉に照れながら頷いた。

「で、でもね、どうやって身に付けたらいいか分からないんだ。ほら、変な紐とか金具とかがついてるでしょ?」

「変?やあね。これはね、然るべくして付いてるのよ。あ、ちょうど私、似たようなランジェリーを持っているから、着て見せてあげるわ。ちょっと後ろを向いててね」

「あ、うん!」

リードは素直に、身体をドアの方に’向ける。いくら同じ’娼館で働く仲間とはいえ、エルは女性で自分は男だ。そのあたりのことはわきまえている。程なくして。

「いいわよ、リード」

リードはゆっくりと振り向いた。そこには、真紅のランジェリーを纏ったエルがポーズを取って立っている。

「うわぁ・・・綺麗!」

「私が?ランジェリーが?」

「もちろん、両方だよ!」

「うふふ。満点の答えだわ。じゃ、説明するわね。これね、ガーター付きのキャミソールなのよ」

「ガーター?」

「そう。靴下留めのことよ。ほら、箱の中に長い靴下が入っていたでしょ。それをこの金具でこんな風に留めるのよ。ほら、もっと近づいて見て」

「へぇ・・・そっかぁ。靴下を留める金具なんだ」

「気をつけることが1つあるわよ」

「何?」

「ちゃんと靴下をガーターで留めてから、パンティを履くのよ」

「ん?」

「そうでないと、いざっていう時に、パンティが脱げないでしょ?」

「・・・あ・・・そっか・・・そうだよね」

「それと長靴下は破けやすいから、爪を立てないように、気をつけてゆっくりと履いてね」

「うん!わかった!ありがとう、エル!それと・・・これ・・・ちょっと少ないけど・・・」

リードは紙に包んだお菓子を差し出した。先週、箱でホッチから貰ったものの1つだ。

「あら。いい香り。芳醇なバターの香りね。これもミスターから?」

「うん」

エルは包みを開いた。大きくて厚みのあるクッキー。

「美味しそう。ねえ、お茶を入れるから食べない?」

「いいの?」

「たまにはお喋りしましょうよ」

「じゃあ、僕、部屋からもっとお菓子を持ってくる!ちょっと待ってて!」

「お茶を入れながら待ってるわ」

エルはまるで弟に向けるような眼差しでリードを見送った。

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夜。エルに教えられたように、リードはピンクのランジェリーを身に付けた。破けないように長靴下を履くのに苦労したし、レースを傷めないようにガーターの留め具を付けるのにも気を遣った。それでも、今夜、あの紳士に会えるのが嬉しかった。お菓子のお礼にと、エルに貰ったローズムスクのお香を焚く。心地良い香りが部屋に広がる。紳士に気に入って貰えるだろうか。この香りも。このランジェリーを身に付けた自分も。深呼吸をしながら、気持ちを整える。身体にお香の香りを馴染ませようと、そっと腕を手のひらで摩ってみる。ガーターの紐が捻れていないか、鏡で確かめてみる。とにかく、落ち着かなかった。落ち着いて座っていることができないのだ。何時に紳士が来るか分からないというのに。リードが部屋の中をウロウロして30分。ドアがノックされた。

「あ!」

慌ててドアに駆け寄るが、それよりも先にドアが開かれた。姿を見せたのは、ずっと会いたかった人。

「ミスター!!」

リードは後ろ手にドアを閉めた紳士に抱きついた。

「おいおい。どうした?リード。抱きつかれたら、その可愛らしい顔が見えないぞ」

ホッチは優しい手つきで、自分の身体からリードを引き剥がした。

「あ・・・ごめんなさい・・・」

「そんなに俺に会いたかったか?」

「・・・そんなの・・・」

リードは顔を真っ赤にして俯いた。

「はしたないことをして・・・ごめんなさい・・・」

「かまわない。気にすることはない。俺も嬉しい。ただ、もっと顔をよく見せてくれ。久し振りなんだから」

そう言うと、ホッチはリードの顎に指をかけた。潤んだ青い瞳が美しい。

「どうした?泣いているのか?」

リードは頭を振った。

「違います。・・・何だか・・・嬉しくて・・・」

「俺を待っていた?」

「・・・ずっと。・・・ごめんなさい。僕みたいな人間がこんなこと・・・言って・・・分不相応ですよね」

「そんなことはない。俺も会いたかった。すまなかったな。1週間も来ないで・・・」

「だって・・・それは・・・お仕事だったから・・・。我儘をいうつもりはないんです。ただ・・・また、会えて・・・とても嬉しくて・・・」

「そうか。俺も嬉しい。・・・ベッドへ行こうか。贈ったランジェリーをよく見せてくれ」

リードは恥ずかしげに頷くと、そっとホッチの手を取って、ベッドへと歩いた。そしてベッドの横に立つと手を話し、クッションがふんだんに置かれたヘッドボードに寄りかかるようにして座った。長い足を斜めに伸ばすようにして。これは、昼間、エルに教えて貰った座り方だった。セクシーに見える座り方らしい。自信なかったが、試してみたのだった。ホッチは絵画を

鑑賞するかのように、リードの姿を眺めた。そして。

「ああ。やはり、美しいな、君は」

そう言って、ベッドに上がる。薄いピンク色の長靴下に包まれた形の良い脚を下からゆっくりと投げ上げる。パンティと長靴下の狭間は、手の甲を使ってさわさわと撫でた。

「ん・・・」

リードはうっとりと目を細めて小さな声を漏らした。この1週間、街気がれていた、手の暖かさ。

「・・・ミスター・ホッチナー・・・」

「リード。その可愛らしい唇からは、アーロンと呼んでもらいたいものだな」

「え・・・そんな・・・恐れ多い・・・」

「いいから。言ってごらん」

躊躇いで、青い瞳が’揺れたが、意を決したように、リードは小さな声で「アーロン」と呟いた。

「それでいい」

満足気に言うと、ホッチはリードの金色の髪を優しく撫でた。

「あの・・・アーロン?」

「何だ?」

「・・・その・・・復習をしても・・・?」

「復習?」

「・・・えっと・・・その・・・キスの・・・」

一瞬驚いたように目を見開いたが、ホッチはすぐに目を細めて、ますます金髪を撫でる。

「まさか、他の誰かと練習などしていないだろうな?」

わざとそう言うと、リードは慌てて首を振って否定した。

「そっ・・・そんなことしてませんっ!!・・・だって・・・僕は貴方の専属なんですし・・・」

「そうだな。悪かった。冗談だ」

ホッチはリードの身体を抱き寄せて、自分の腕の中に納める。リードは身じろぐと、ホッチを見上げて、視線で唇を捉えた。そして、そっと口付ける。最初は唇を合わせるだけ。けれど、すぐに押し付け、唇の隙間から舌を潜り込ませた。自分は上手にできているのだろうか。そんな不安を抱えながらも、一生懸命、唇と舌を動かす。

「ん・・・ふっ・・・」

呼吸をしようと、少し唇を離した瞬間に腕を掴まれて身体を引き剥がされてしまった。

「あ・・・ごめんなさい・・・僕・・・下手・・・でしたか?」

「いいや」

ホッチは即座に否定した。そして、ゆっくりとリードをベッドに押し倒した。今度はホッチがリードにキスを与える。深いキスではない。ただし、ホッチの唇は、リードの身体のラインを辿るように、下へ下へと降りてゆく。顎、首筋、薄い胸、その小さな突起、鳩尾、臍。そして、パンティラインのギリギリのところをチュッと吸い上げる。

「はっ・・・ん・・・」

そしてレースの上から、リードの膨らみに口付ける。

「リード、腰を上げて」

リードは言われるまま、素直に腰を少し浮かせる。スッとホッチの指がパンティのサイドの紐にかかり、ピンク色の下着を引き下ろした。

「あっ・・・」

股間を突然外気に晒され、一瞬声を上げてしまう。羞恥で身体を捩るが、逞しいホッチの腕がそれを許さなかった。そして、あろうことか、まだ柔らかいペニスを口に含まれてしまった。

「あ、ダメっ・・・貴方がそんなことしちゃ・・・ダメ・・・」

そんなリードの言葉を受け流し、ホッチは口での愛撫を始める。リードにしてみれば、それは経験のない、初めての感覚だった。全身の血液が、その一点に集まってしまうような感じ。ホッチは指を使って睾丸を弄びながら、リードの中心を高めていった。

「ふっ・・・あ・・・ダメ・・・だ・・・め・・・ああ・・・」

言葉ではダメだと言いながらも、腰が自然と浮き、ホッチに押し付けてしまう。頭の隅ではしたないと思いながらも、リードはその快感を享受することに抗えなかった。長い脚をM字に割り開かれ、その膝は快感でガクガクと震える。逃れようにも、太腿をしっかりと掴まれ、どうにもならない。リードは手の甲を口に当て、はしたない言葉が出ないように努めたが、快楽の吐息はどうしようもなく見れてしまった。追い上げられ、昇りつめ、もう吐き出すしかないところまで追い込まれる。

「ダメ・・・出ちゃう・・・ダメ・・・ダメ・・・だ・・・あ・・・ああああああーっ!」

とうとうリードは堪えきれずに、ホッチの口の中に自分の欲望を吐き出してしまった。

「あ・・・あ・・・あ・・・」

ホッチは気にすることもなく、全てを飲み干し、まるで精液や唾液を拭うように、リードの可愛らしいペニスを舐め上げた。そしてようやくリードの下半身を回避雨すると、身体を動かし、青年と目を合わせる。

「上手にイケたな。本当に君はいい子だ」

「う・・・ごめんなさい。・・・本当は僕が貴方にご奉仕しなくちゃいけないのに・・・」

リードが涙目でいうと、ホッチは気にする風でもなく、そのこめかみにキスを落とした。

「いいんだ。俺がこうしたかったんだ。そのために選んだランジェリーだからな。すごくセクシーだ」

パンティは脱がされたものの、ガーター付きのキャミソールと長靴下はそのままだった。

「あ・・・」

急に恥ずかしくなったリードはシーツを引き寄せて隠そうとする。しかし、それはホッチの手によって阻まれた。

「そのままで」

「・・・変・・・じゃないですか?・・・僕、男ですし・・・」

「わかってて、君を俺のものにしたんだ」

「あの・・・今度は、僕にご奉仕させていただけませんか?・・・それが僕の仕事なんですし・・・」

「そうだな。・・・しかし、それは、また今度にしよう」

その言葉に、リードはまた会える、という喜びを見出した。と、同時に、今夜はもう紳士が帰ってしまうのかと落胆した。だから、リードは、思わず、ホッチの手を取ってしまった。両手で、包むように。

「どうした?」

「あ・・・ごめんなさい。・・・お仕事、忙しんですよね?・・・引き留めるようなことをしてしまって・・・」

言いながら、リードは慌てて、ホッチの手を離した。

「君に引き止められるとは光栄だ。リード・・・いや、スペンサーだから・・・スペンス、と呼ぼうか。嫌か?」

リードは首を横に振った。大好きな人に愛称で呼んでもらえるほど、嬉しいことはない。

「スペンス」

「・・・・・・あ・・・アーロン?」

「いい子だ。そうだな、今夜はここに泊まっていくことにしよう」

ホッチは靴とジャケットを脱ぐと、リードの横に並んで横たわった。

「あの・・・お仕事は?」

「終わったから、君に会いに来たんだ、スペンス」

ホッチはリードの細い体を腕の中に納めるようにして抱き込んだ。

「いい香りだ」

「たぶん、お香の香りだと思います」

「そうか?スペンスからもいい香りがする」

きっと、エルから貰った薔薇のシャボンの香りだな・・・とリードは思った。

「眠りますか?」

「そうだな。・・・しかし、君の話が’聞きたいな」

「僕の話?」

「ああ。幼かった頃の話とか」

「つまらないですよ?」

「君をもっとよく知りたいんだ」

そう言いながら、ホッチはモーガンが持って来た調査書類のことを思い起こしていたのだった。

to be continued