ホッチは、ムーラン・ルージュの特等席で、「ほうっ・・・」と感嘆の溜息を吐いた。その席は、あまりにも値の高い席で、最初ホッチは断ったのだが、スペンサー・リードを、このモンマルトルに連れ戻した功労者として、ガルシアが手を回して用意した席だった。そこはステージのセンターが良く見える席で、つまりはソロで踊るリードが最も良く観える席でもあった。「ムーラン・ルージュの元看板娘、スペンサー・リード、今宵だけの復活!」とガルシアが裏で宣伝をしていたらしい。客席は満員だった。群舞の中でも、リードはセンターに据えられていた。「現役の踊り子ではないのに・・・」と、楽屋でガルシアからショーの構成を聞き、最初は腰が引けていたが、ホッチが「踊り子姿のリードをじっくりと観たい」と言ったら、すぐに承諾した。そう。貧乏なホッチが、頻繁にムーラン・ルージュに通えるわけもなく、リードの踊る姿を見たことはあまりなかったのだ。賢いリードはガルシアの説明する構成をすぐに理解した。踊りは、全て過去に踊ったことのあるものだ。一度、身体に身につけたことは絶対に忘れない・・・という特技のあるリードだ。だから、今、ステージの上で、赤いルージュを引いた口を大きく開けた満面の笑みで、リードは踊っている。ソロも。もちろん、リードが姿を消す直前までの出し物であった空中ブランコも。髪をバッサリと短くしてしまってはいたが、その細い頸は、以前よりも踊り子を美しく、妖艶に見せる効果を生み出していた。
きらきら、していた。
ステージが。人々が。
何よりも、リードが。
とても、きらきら、していた。
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一通りのショーが終わると、踊り子たちは、馴染みの客の席へと足を運んだ。当然のように、ホッチのところにはリードがやってきた。頰を紅潮させて。瞳をきらきらさせて。
「ホッチ!」
軽く息の上がった呼吸を整えながら、ホッチの身体にぴったりとその細い身体を擦り付けるようにして座った。
「喉が渇いただろう?」
「うん」
「赤ワインでいいのか?それとも、冷たいシードルとかの方がいいか?」
「ううん。ホッチが今、飲んでるワインがいい」
そう言うと、リードはホッチの手から飲みかけのワイングラスをそっと取り上げて、口を付けた。視線をホッチから離さず、見上げるような上目遣いで。「ああ・・・」と、ホッチは思った。この瞳は、ステージでは絶対に見ることのできない瞳だった。リードがきっと、唯一、自分だけに向ける瞳だと信じたい、そんな視線。ホッチは思わず、剥き出しの項に掌を当てた。火照った熱が伝わってくる。リードはワイングラスを両手で持ったまま、赤い唇をホッチの耳に近づけた。
「ホッチ・・・セックスしたい・・・」
熱い吐息と共に吐き出された言葉は、ホッチの心と身体を昂ぶらせるには、充分すぎたのだった。
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屋根裏部屋に戻ると、リードはバッグをカウチに放りなげて、背中をホッチに向けた。その意図を察して、ホッチは背中のボタンに指をかけた。1つ1つ、丁寧に外していく。それがもどかしいのか、リードは身体を燻らせた。赤いドレスを破いてしまいたいほど、本当はリードを欲していた。しかし、何とか自制して、丁寧にドレスを脱がす。項にキスを与えながら、スルリと肩からドレスを落とした。
「ふ・・・うん・・・」
リードは頭を振った。そして、体重をホッチに預ける。ホッチはその身体を受け止めて、背後から抱き締める。
「身体が熱いな。・・・酔ったか?」
「うん。酔ったよ・・・でも、ワインじゃない。貴方に酔ったの。客席からの貴方の視線を感じた。だから・・・身体が反応しちゃった・・・。それに、出かける前にホッチが僕の身体の中に出したものが、踊ってるうちに染みてきちゃって・・・。もう・・・本当は踊りながら大変だったの。それに客席の貴方を見てたら・・・もう・・・や・・・」
リードはホッチの手を取ると、レース越しにパンティの上から、自分自身を触らせた。・・・そこは、じっとりと、濡れていた。
「・・・もう・・・パンティがビショビショなの・・・。責任、とって?」
「そうだな。そんな状態で、あのステージを頑張ったんだしな」
ステージ上のリードが、とても妖艶だった理由がわかったような気がした。ホッチはリードの身体を掬い上げると、ベッドの上へと運んだ。体液が染みてしまったパンティを脱がすと、床に落とす。リードを俯せに寝かせ、腰に腕を回して、尻を高く上げさせる。数えきれないほど、ホッチを受け入れて、すっかり形が変わってしまった後孔に舌を這わせる。まるで女性器のような形の排泄器官。しかし、そこはホッチを受け入れる場所となり、快楽を享受するのだ。
ホッチの唾液の刺激で、リードは尻を揺らした。早く、欲しいのだろう。ホッチも早く、リードの中に入りたかった。ムーラン・ルージュでリードに囁かれたときから、我慢していたのだ。もう、限界だった。数時間前にホッチが放ったもので、そこは十分に柔らかい。ホッチは己を当てがい、腰を進めながら、剥き出しのリードの項に吸い付いた。
「あんっ・・・それ・・・好き・・・」
髪を切ったせいか、リードの首に愛撫を施すことが多くなった。それをリードは気に入ったらしい。首を愛しただけで、絶頂を迎えることも幾度かあった。酷く気分が高まっている状態のリードだから、きっと今夜もそうだろう。痕が残るほどに、ホッチはキツく吸い付いた。
「ふあ・・・あんっ・・・あ・・・あ・・・ゾクゾク・・・する・・・」
「気分が悪いか?」
「そんなわけない。その逆・・・すごく・・・気持ちいい・・・も、すぐにイっちゃいそう」
「何度だって、イっていいんだぞ」
「イキ過ぎるのも、怖いの・・・」
「でも、嫌いじゃないんだろう?」
「・・・ん・・・好き・・・」
甘えたように鼻を鳴らすリードが可愛らしかった。この元踊り子が、自分のものになったとは、時々信じられなくなる。こんなにも、美しい、人間が。離せないと思った。もう、離したくないのだ。美しく、可愛らしく、才能があり、己の創作意欲を掻き立てる人間の存在を。
ホッチは、リードの項を愛撫しながら、ゆっくりと後ろを犯し始めた。次第に舌を背中に這わせ、器用に歯を使って、ブラジャーのホックを外す。そのまま頭を下ろして、リードの肢体を見る。ウエストにはガーターベルト。剥き出しの白い尻。しかし、その形の良い両脚は、絹の長靴下で覆われている。赤いヒールも、まだ履いたままだ。その姿は艶かしく、美しかった。ホッチは長靴下の上から、じっくりと脚を撫でると、腰をグッと密着させて、深く突いてやった。
「ひゃっ・・・ああんっ・・・」
「くっ・・・リードっ・・・」
「好き・・・大好き・・・も・・・わけがわかんなくなるくらい・・・好き・・・僕、どうしたらいいんだろう・・・貴方がいなくちゃ、生きていけないよ・・・」
泣きそうな声を上げながら、リードは喘いだ。
「ああ・・・俺もだ・・・。君がいなければ・・・生きる意味はない・・・」
「・・・一緒だね・・・」
「ああ・・・一緒だ」
「・・・ホッチ・・・お願い・・・貴方を抱きしめたい・・・」
ホッチは器用にリードの身体を裏返した。楔を打ち込んだまま。リードも、その動きに自然に合わせる。向かい合わせになった二人は、抱き締めあった。きつく。深く。そして、貪るようなキスをする。
「朝まで・・・こうしていたいの。・・・朝まで、ずーっと僕の中にいて・・・」
「いいのか?辛いぞ?」
「そんなことないよ。貴方で満たされて・・・すごく、嬉しいから・・・」
ぎゅっとリードは、ホッチの身体を抱き締める腕に力を込めた。愛する人を逃がさないように。
「は・・・あ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
ホッチを受け止めながら、額に滲む汗は・・・きらきらと・・・蝋燭の光に輝いていた。
END