リードが扉を開けると、そこには3人のハウスメイドたちが待ち構えていた。
「まあ!綺麗な肌!」
「ボディ・ローションはちゃんと塗った?」
「綺麗な栗色の髪ねぇ!」
あっという間に3人に囲まれる。しかし、驚くだけで、「怖い」という感情はなかった。3人とも、とても朗らかで優しい笑みを浮かべていたからだ。
「ご、ごめんなさい。ボディ・ローション・・・よくわからなくて。・・・それに着替えも・・・」
「大丈夫よ!私たちに任せて!」
リードが両手に抱えていたよく分からない下着らしきものを、金髪のメイドが受け取った。
「私はJJよ。そして彼女がエミリー。そして、ガルシア」
「よろしく」
「よろしくね、リード」
「あ・・・よろしくお願いします・・・」
「まずは、ボディ・ローションね」
「これを見ると・・・パンティとメイド服だけなのね。じゃあ、まずは下着の付け方を教えてあげる。でも、恥ずかしくない?大丈夫?」
リードは頷いた。自分ではどうしようもないのだ。教えてもらうしか。
「じゃあ、メイド服を脱ぎましょう。手伝うわ」
エミリーが背中のファスナーを下ろしてくれた。そうすると、ストンっと黒いメイド服が床へと落ちる。皮膚の汚れは落としたものの、痩せ細った身体はどうしようもない。うつむけば、肋の浮き出た腹がわかる。けれども、3人のハウスメイドたちは、リードの体つきのことは何も言わなかった。眉を顰めることもなく、笑顔のままで、リードの背中や腕にボディ・ローションを塗り始めた。
「とても良い香りでしょう?薔薇よ。ブルガリアン・ローズ。とても貴重なものなの」
ガルシアが言った。
「それにね、ご主人様はとても気前が良くて、こういったローションを私たちメイドにも使わせてくださるの」
「ホッチナー家のメイドでよかったわよね、私たち!」
「さあ、これでボディ・ローションはおしまい。今度はコルセットね」
「リードは侍女だから、あまり締め付けないタイプのコルセットにしたわ。ちなみにエミリーとJJのコルセットは、防弾防刃繊維で作られてるの」
「ぼ・・・防弾?防刃?」
物騒な言葉が出てきて、思わずリードは聞き返してしまった。
「まあ、詳しいことは、そのうちわかるわ。まずはリードの身なりを整えましょうよ」
「そうね」
「男の子にはちょっと苦しいかもしれないけど、我慢してね。そんなに強く占めたりしないから」
背後に回ったエミリーが、JJがリードに巻きつけたコルセットのリボンをキュッと引っ張った。一瞬、「うっ」となってしまったが、苦しくはなかった。
「これがストッキングよ。自分で履ける?太腿まである長い靴下と思えばいいわ」
「椅子に座ると履きやすいわよ」
リードは促されるままに、椅子に座ってストッキングを受け取った。いまにも破けてしまいそうな薄い生地。
「大丈夫よ。心配しないで。見た目よりも結構丈夫だから。丸めて足先を入れると履きやすいわ」
リードは言われたように片方のストッキングをくるくると丸め、靴下を履くように、足先を入れた。そうして少しずつ、痩せぎすの脚を隠すようにストッキングを履いていく。
「上手よ。リード」
「さあ、同じように、もう片方も」
リードは破かずにストッキングを履けたことに安堵しながら、もう片方も同じように履いていった。
「そしてね、このコルセットについてるガーターベルトでストッキングを固定するのよ。こうして、パチンって」
JJが左後ろの留め金をやってくれた。
「自分でできそう?」
リードは頷いて、残りの留め金でストッキングを留めていった。
「ただし、注意が必要よ。本当はね、こうしてストッキングを留めた後にパンティを穿くの。どうしてかわかる?」
リードは首を傾げた。
「それはね、トイレで困っちゃうからよ!」
リードは想像した。トイレのことを。確かに。パンティの上から留めてしまったら・・・。それは非常に面倒だった。
「まあ、それは後で直せばいいわよね。次はスリップを着て、メイド服ね」
先ほど脱がされた黒いメイド服をもう一度着る。
「仕上げはエプロンとホワイトブリムね」
真っ白なレースとフリルのエプロン。腰の後ろで大きなリボン結びにされる。そして、頭にもこれまたたっぷりなギャザーの寄ったホワイトブリムを付ける。これはカチューシャのようになっているので簡単だった。
「そして、ブーツ。貴方はご主人様の侍女だから、ヒールのないブーツね。骨盤や脊椎が歪まないように、こういうブーツを履くことになってるの」
健康な子を産むには、健康な器が必要だった。だから、どこの家の侍女もこのような平らなブーツを履課されるのだ。
「これで、いいわ。後は、髪ね。とても綺麗な髪だわ」
「あ!私が結いたい!」
「じゃあ、ガルシアに任せるわね」
ガルシアは一度ホワイトブリムを取ると、リードの髪をいくつかのピンを使って、ふわりとしたハーフアップに結い上げた。そしてもう一度ホワイトブリムを付ける。
「完璧じゃない?」
「そうね」
「じゃあ、お茶にしましょう」
「そうしましょう」
エミリーがリードの背にそっと手を当てて、丸テーブルに誘った。そこには綺麗な色や形のお菓子がたくさん並べられていた。薔薇の模様が描かれた、ティーポットにティーカップ。
「さあ、座って」
「いただきましょう」
リードは、テーブルの上に並んだお菓子たちに気後れしてしまった。こんなにたくさんの食べ物を見たことなどなかった。
「ほらほら、遠慮しないで!これはマカロン。最近の私のハマってるお菓子なの!」
ガルシアが、ピンク色のマカロンを1つ摘むと、それでリードに差し出した。リードは恐る恐る受け取り、他のハウスメイドたちがするように、1口齧ってみた。すぐに、甘い味が口の中に広がる。美味しかった。初めて食べる味だが、美味しいと感じた。
「どう?」
「・・・お、美味しいです」
「やだ!私たちに敬語なんてやめてよね」
「そうそう。メイドなんだから。侍女のリードの方がずっと格上なんだから!」
「でも、この屋敷に来たばっかりで不安よね。でも大丈夫。ちゃんと教えてあげるから!」
「リードはお肉とお魚、どっちが好き?」
「え?」
肉とか魚とか言われても、答えられなかった。食べたことがなかったからだ。それらしきものを口にしたことがあったような微かな記憶はあったけれども。
「やっぱり、両方じゃない?でも、いきなりいっぱい食べたらお腹がびっくりしちゃうわね。そうだ、今夜の夕食は少しずつ色んなものを作りましょうよ」
「そうね。それがいいわね」
「ねえ、リード。今夜は私たちと一緒に夕食を食べましょうね。もちろん、ご主人様が貴方と一緒に食べるって言ったらそうはならないけど、でも今日は初日だから、それはないわね」
リードはぼうっとしてしまった。話が急展開すぎるのだ。風呂にしても、服にしても、お菓子にしても、夕食の話にしても。今まで自分が暮らして来た世界とはまるでかけ離れているのだ。そんなリードの肩にJJがそっと手を置いた。
「大丈夫よ。貴方は選ばれた。神に。そして、きっとご主人様も貴方を気にいる」
JJの笑顔に、リードもぎこちない笑顔で返した。本当はもっと笑いたかった。けれども、笑うことをしてこなかったリードの表情筋は、それを上手にできなかったのだ。