もぞりと身体を動かすと、自分が逞しい身体に包まれていることがわかる。リードは嬉しくなって、ホッチの身体に擦り寄った。
「・・・起きたか?」
「んーん・・・寝てる・・・」
「じゃあ、その返事は寝言かな?」
「ふふふ・・・」
リードは笑いながら、両手をホッチの頬に添えた。そして、小さなキスを送る。チュッチュと、何度も小さなキスを送る。一緒に朝を迎えられたことが嬉しいのだ。ホッチはそんなリードの金髪を撫でると、その手を柔らかく掴んだ。
「ステージで踊る、眩しいほどの照明の下にいる君も美しいが、朝日を浴びる君はもっと美しい」
「・・・やだ・・・ホッチ・・・恥ずかしい・・・っていうか、さすが、小説家。すごい、殺し文句だ・・・」
「物語を語っているわけじゃない。本当に、そう思うんだ」
「・・・ありがとう・・・」
リードは照れたように笑い、自分の手を掴むホッチの手にキスをした。
「起きられるか?」
「ん・・・たぶん・・・」
昨夜、リードは初めて身体を開いたのだ。ホッチがゆっくりと、たっぷりと時間をかけて、熱い舌と指で丹念にほぐしてくれたから、彼の昂りを受け入れたときは、最初こそ苦しかったものの、ちゃんと受け入れることができた。しっかりと根元まで銜え込んだ。ホッチもリードの身体を気遣い、緩く、軽く、揺さぶるように慣らしてから、少しずつ動きを激しくしていった。そして、互いに何度も精を吐き出した。身体だけではなく、心も満たされたひと時だった。まさか、この金髪の踊り子が自分の閨を共にしてくれるとは。ホッチは酷く感動した。リードもまた、男の自分が、この美丈夫に受け入れてもらえるとは思ってもみなかった。 先にホッチが身体を起こし、リードがベッドから起き上がるのを手伝った。
「ん・・・」
リードが軽く眉を潜める。
「大丈夫か?・・・やっぱり、無理をさせたんじゃ・・・すまない」
「あ、謝らないで。僕は嫌じゃなかったし、後悔もしてないし・・・とにかく・・・嬉しくて、幸せだった。ただ・・・僕、初めてだったから、貴方には良くなかったかもしれないんだけど」
「そんなことはない・・・君は、最高だった」
ホッチがリードの細い身体をぎゅっと抱きしめる。少し汗ばんでいる互いの湿度が心地よかった。
「こんなこともしていられないな。君は、自分の部屋かキャバレーに戻らなくちゃならないだろう?」
「え、あ、うん。自分の部屋で着替えて、それからレッスンに行くよ。でも・・・まだ・・・ちょっとだけ時間があるから・・・」
リードは上目遣いに、甘えるような視線をホッチに送った。媚びとは違う、綺麗な瞳の色だった。
「・・・レッスンや今夜のショーに差し支えないか?」
「だって・・・ホッチは優しくしてくれるでしょ?」
「・・・それは・・・もちろん・・・」
朝日が差し込み、リードの金髪をキラキラと輝かせる。ホッチはゆっくりと、その美しい身体を再び古びたベッドに沈ませたのだった。
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「ねえ。明日も・・・ショーが終わったら、ここに来てもいい?」
ホッチが用意してくれた濡れタオルで身体を拭きながら、リードが言った。しかし、ホッチは静かに首を横にふった。それを見て、リードはシュン・・・となる。拒否されてしまった。けれども、ホッチは慌てて言葉を繋いだ。
「この辺りは治安が悪い。夜の遅い時間に歩くのはよくない」
「でも・・・昨夜は大丈夫だったし・・・」
「その大丈夫が、これからも続くとは限らない」
「・・・じゃあ・・・ホッチにはどうやって会えばいいの?もう、会えないの?」
「・・・そうだな・・・」
「昼間・・・昼間ならいいの?僕、朝、早く起きる!そして、レッスンとショーの準備の間までなら、時間がある!・・・それなら、いい?」
「君はショーで夜が遅い。朝はゆっくりと、ちゃんと眠らないと、身体に悪い」
「・・・でも・・・会いたい・・・」
リードが泣きそうな表情になる。会いたい気持ちはホッチも一緒だった。もう少し、自分に稼ぎがあれば、毎日のように、ムーラン・ルージュに通える。しかし、今の自分には叶わない夢だった。
ホッチは、リードの金髪を撫でた。
「・・・毎日は・・・ダメだ。君に負担がかかる」
「・・・毎日じゃなきゃいいの?」
「・・・そう・・・だな・・・」
「じゃあ、1日おきとか!?」
「いや・・・それは・・・」
「・・・ホッチは・・・僕に会いたくない?会いたいのは、僕だけなの?」
「そんなことは・・・」
意外なほどのリードの押しの強さに、ホッチは口籠る。
「じゃあ、来ていいんだね!?」
「・・・・・・」
もう、ホッチは黙るしかなかった。これだけ美しい踊り子なのだ。ムーラン・ルージュの看板娘なのだ。きっと、いつか、うだつのあがらない、冴えない物書きに飽きるだろう。おそらく、たいした時間ではない。ホッチは、一息つくと、口を開いた。
「ああ・・・また、会おう。ただし、昼間に」
「ありがとう!!!!ホッチ!!!!ああ・・・嬉しい・・・。嬉しくなったら、お腹が空いちゃった・・・」
リードが赤いドレスを手にして立ち上がった。あいにく、この屋根裏部屋に食べ物はない。そもそもキッチンがなかった。
「もしよかったら・・・」
「なあに?」
「この近くに、安くて美味いカフェがある。そこのクロワッサンは、絶品だ。コーヒーも。俺は食べたことはないが、ブリオッシュも美味いらしい」
「そこに、僕を連れて行ってくれるの?」
「君さえ良ければ」
「行く!」
リードは赤いドレスを身に纏った。ホッチが背中のファスナーを上げるのを手伝う。左右が散らばっていた赤いハイヒールを揃えて足を入れた。
「さ、行こ、ホッチ。僕を案内して」
夜の踊り子は、朝も美しい花のままだった。
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ホッチはクロワッサンとコーヒーを、リードはカフェオレとブリオッシュをオーダーした。
「美味しいっ!!!バターの香りと味が最高っ!!!」
ブリオッシュを一口食べたリードが、満面の笑みを浮かべて、感想を言う。その表情を見ると、誰もが、このカフェの魅力がわかるというものだろう。歩道に面したテーブルで、美味しそうにブリオッシュを頬張るリードは、そのままカフェの宣伝になりそうなほどだった。
「足りるかな?ブリオッシュ1つで」
「んー・・・ホッチのクロワッサンも美味しそう・・・食べたい」
ホッチは軽く手を挙げるとギャルソンを呼び、クロワッサンを追加でオーダーした。
「ありがとう、ホッチ」
「太らないといいが」
「大丈夫。ショーのレッスンって、結構過酷なんだから。それと、僕って、太りにくい体質みたい」
「確かに、細い」
「・・・細いと・・・抱き心地・・・悪い?悪かった?」
「そんなことはない。最高だった」
「良かったぁ」
テーブルに運ばれて来たクロワッサンに目を輝かせ、リードは一口カフェオレを飲んだ。
「僕、とっても嬉しい。今夜のショーも頑張れそう」
「空中ブランコは、毎日?」
「うん。今シーズンの目玉だから。僕、よくわかんないけど、ムーラン・ルージュの経営状態はあんまりよくないって」
「あれだけ客が入ってるのに?」
「ショーが派手でしょ?そういうところに、お金をかけちゃうから、オーナーは。だから、ものすごく黒字ってわけでもないみたいで」
「そうなのか」
「うん。・・・支援するって仰ってくれてる方はいるんだけど・・・でも・・・」
「何か、問題が?」
「ううん。・・・何でもない。ねえ、それよりも、本当に美味しいね、ここのブリオッシュとクロワッサン。カフェオレも甘くて美味しい」
「甘いものが好きか?」
「大好き!」
砂糖菓子のような表情を見せるリードに、ホッチも思わず微笑んだ。
「食べたら、君の部屋まで送ろう」
「僕ね、ムーラン・ルージュのすぐ近くのアパルトマンに住んでるの。今度、遊びに来てね」
「君のファンに見つかったら大変だ」
「そお?」
リードはクロワッサンを頬張りながら、首を傾げたのだった。
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「朝帰りのリードちゃん!」
「昨夜はどこにいたのかな?」
JJとエミリーに両脇を固められて、質問されるリード。
「えっと・・・その・・・ね・・・」
「アーロン・ホッチナー様のアパルトマンでしょ?」
と、ガルシア。
「ええええええええ」
焦るリード。
「なっ、なんでっ・・・」
「だって。物騒じゃない?あの辺りって。だから、用心棒のモーガンに尾行させたのよね」
「え?モーガンが?」
「そう。リードがホッチナー様のアパルトマンに入るのを見届けて、出てくるのを待ってたって言ってたけど、なかなか出てこなくて。結局、一晩中でしょ?朝は朝で、二人でカフェでいちゃついてるし。あ、これ、モーガン情報だからね」
「ひゃあ・・・じゃあ、モーガンはずーっと外にいたの?」
「あったりまえでしょ?ムーラン・ルージュの看板娘に何かあったら大変だもの。ちなみに、リードが招待状を届けに行ったときも、モーガンが尾行してたから」
「・・・気づかなかった・・・」
リードは愕然として、椅子にへたりこんでしまった。確かに、ホッチ会いたさに、治安の悪い場所を歩いた自分が悪い。けれども、怖いとか、物騒とか、そんなことは頭の中にはなかった。ただ、ひたすらにホッチに会いたかっただけだ。けれども、モーガンには迷惑をかけてしまったし、ガルシアたちにも心配をかけてしまったのだろう。
「・・・ごめんね、僕。全然、周りが見えてなくて」
「恋は盲目ってえいうものね」
JJがウィンクして、リードの肩をそっと叩く。
「それで?今夜のショーは大丈夫?腰とか、お尻とか、痛くない?」
エミリーがリードの腰を摩る。
「んー・・・痛くないけど・・・ちょっと、腰がだるいかなぁ・・・って!!!!何を言わせるの!!!!」
「「「あはははははははー!!!!」」」
3人の笑い声が楽屋に響いたのだった。