赤い風車 05

もぞりと身体を動かすと、自分が逞しい身体に包まれていることがわかる。リードは嬉しくなって、ホッチの身体に擦り寄った。

「・・・起きたか?」

「んーん・・・寝てる・・・」

「じゃあ、その返事は寝言かな?」

「ふふふ・・・」

リードは笑いながら、両手をホッチの頬に添えた。そして、小さなキスを送る。チュッチュと、何度も小さなキスを送る。一緒に朝を迎えられたことが嬉しいのだ。ホッチはそんなリードの金髪を撫でると、その手を柔らかく掴んだ。

「ステージで踊る、眩しいほどの照明の下にいる君も美しいが、朝日を浴びる君はもっと美しい」

「・・・やだ・・・ホッチ・・・恥ずかしい・・・っていうか、さすが、小説家。すごい、殺し文句だ・・・」

「物語を語っているわけじゃない。本当に、そう思うんだ」

「・・・ありがとう・・・」

リードは照れたように笑い、自分の手を掴むホッチの手にキスをした。

「起きられるか?」

「ん・・・たぶん・・・」

昨夜、リードは初めて身体を開いたのだ。ホッチがゆっくりと、たっぷりと時間をかけて、熱い舌と指で丹念にほぐしてくれたから、彼の昂りを受け入れたときは、最初こそ苦しかったものの、ちゃんと受け入れることができた。しっかりと根元まで銜え込んだ。ホッチもリードの身体を気遣い、緩く、軽く、揺さぶるように慣らしてから、少しずつ動きを激しくしていった。そして、互いに何度も精を吐き出した。身体だけではなく、心も満たされたひと時だった。まさか、この金髪の踊り子が自分の閨を共にしてくれるとは。ホッチは酷く感動した。リードもまた、男の自分が、この美丈夫に受け入れてもらえるとは思ってもみなかった。 先にホッチが身体を起こし、リードがベッドから起き上がるのを手伝った。

「ん・・・」

リードが軽く眉を潜める。

「大丈夫か?・・・やっぱり、無理をさせたんじゃ・・・すまない」

「あ、謝らないで。僕は嫌じゃなかったし、後悔もしてないし・・・とにかく・・・嬉しくて、幸せだった。ただ・・・僕、初めてだったから、貴方には良くなかったかもしれないんだけど」

「そんなことはない・・・君は、最高だった」

ホッチがリードの細い身体をぎゅっと抱きしめる。少し汗ばんでいる互いの湿度が心地よかった。

「こんなこともしていられないな。君は、自分の部屋かキャバレーに戻らなくちゃならないだろう?」

「え、あ、うん。自分の部屋で着替えて、それからレッスンに行くよ。でも・・・まだ・・・ちょっとだけ時間があるから・・・」

リードは上目遣いに、甘えるような視線をホッチに送った。媚びとは違う、綺麗な瞳の色だった。

「・・・レッスンや今夜のショーに差し支えないか?」

「だって・・・ホッチは優しくしてくれるでしょ?」

「・・・それは・・・もちろん・・・」

朝日が差し込み、リードの金髪をキラキラと輝かせる。ホッチはゆっくりと、その美しい身体を再び古びたベッドに沈ませたのだった。

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「ねえ。明日も・・・ショーが終わったら、ここに来てもいい?」

ホッチが用意してくれた濡れタオルで身体を拭きながら、リードが言った。しかし、ホッチは静かに首を横にふった。それを見て、リードはシュン・・・となる。拒否されてしまった。けれども、ホッチは慌てて言葉を繋いだ。

「この辺りは治安が悪い。夜の遅い時間に歩くのはよくない」

「でも・・・昨夜は大丈夫だったし・・・」

「その大丈夫が、これからも続くとは限らない」

「・・・じゃあ・・・ホッチにはどうやって会えばいいの?もう、会えないの?」

「・・・そうだな・・・」

「昼間・・・昼間ならいいの?僕、朝、早く起きる!そして、レッスンとショーの準備の間までなら、時間がある!・・・それなら、いい?」

「君はショーで夜が遅い。朝はゆっくりと、ちゃんと眠らないと、身体に悪い」

「・・・でも・・・会いたい・・・」

リードが泣きそうな表情になる。会いたい気持ちはホッチも一緒だった。もう少し、自分に稼ぎがあれば、毎日のように、ムーラン・ルージュに通える。しかし、今の自分には叶わない夢だった。

ホッチは、リードの金髪を撫でた。

「・・・毎日は・・・ダメだ。君に負担がかかる」

「・・・毎日じゃなきゃいいの?」

「・・・そう・・・だな・・・」

「じゃあ、1日おきとか!?」

「いや・・・それは・・・」

「・・・ホッチは・・・僕に会いたくない?会いたいのは、僕だけなの?」

「そんなことは・・・」

意外なほどのリードの押しの強さに、ホッチは口籠る。

「じゃあ、来ていいんだね!?」

「・・・・・・」

もう、ホッチは黙るしかなかった。これだけ美しい踊り子なのだ。ムーラン・ルージュの看板娘なのだ。きっと、いつか、うだつのあがらない、冴えない物書きに飽きるだろう。おそらく、たいした時間ではない。ホッチは、一息つくと、口を開いた。

「ああ・・・また、会おう。ただし、昼間に」

「ありがとう!!!!ホッチ!!!!ああ・・・嬉しい・・・。嬉しくなったら、お腹が空いちゃった・・・」

リードが赤いドレスを手にして立ち上がった。あいにく、この屋根裏部屋に食べ物はない。そもそもキッチンがなかった。

「もしよかったら・・・」

「なあに?」

「この近くに、安くて美味いカフェがある。そこのクロワッサンは、絶品だ。コーヒーも。俺は食べたことはないが、ブリオッシュも美味いらしい」

「そこに、僕を連れて行ってくれるの?」

「君さえ良ければ」

「行く!」

リードは赤いドレスを身に纏った。ホッチが背中のファスナーを上げるのを手伝う。左右が散らばっていた赤いハイヒールを揃えて足を入れた。

「さ、行こ、ホッチ。僕を案内して」

夜の踊り子は、朝も美しい花のままだった。

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ホッチはクロワッサンとコーヒーを、リードはカフェオレとブリオッシュをオーダーした。

「美味しいっ!!!バターの香りと味が最高っ!!!」

ブリオッシュを一口食べたリードが、満面の笑みを浮かべて、感想を言う。その表情を見ると、誰もが、このカフェの魅力がわかるというものだろう。歩道に面したテーブルで、美味しそうにブリオッシュを頬張るリードは、そのままカフェの宣伝になりそうなほどだった。

「足りるかな?ブリオッシュ1つで」

「んー・・・ホッチのクロワッサンも美味しそう・・・食べたい」

ホッチは軽く手を挙げるとギャルソンを呼び、クロワッサンを追加でオーダーした。

「ありがとう、ホッチ」

「太らないといいが」

「大丈夫。ショーのレッスンって、結構過酷なんだから。それと、僕って、太りにくい体質みたい」

「確かに、細い」

「・・・細いと・・・抱き心地・・・悪い?悪かった?」

「そんなことはない。最高だった」

「良かったぁ」

テーブルに運ばれて来たクロワッサンに目を輝かせ、リードは一口カフェオレを飲んだ。

「僕、とっても嬉しい。今夜のショーも頑張れそう」

「空中ブランコは、毎日?」

「うん。今シーズンの目玉だから。僕、よくわかんないけど、ムーラン・ルージュの経営状態はあんまりよくないって」

「あれだけ客が入ってるのに?」

「ショーが派手でしょ?そういうところに、お金をかけちゃうから、オーナーは。だから、ものすごく黒字ってわけでもないみたいで」

「そうなのか」

「うん。・・・支援するって仰ってくれてる方はいるんだけど・・・でも・・・」

「何か、問題が?」

「ううん。・・・何でもない。ねえ、それよりも、本当に美味しいね、ここのブリオッシュとクロワッサン。カフェオレも甘くて美味しい」

「甘いものが好きか?」

「大好き!」

砂糖菓子のような表情を見せるリードに、ホッチも思わず微笑んだ。

「食べたら、君の部屋まで送ろう」

「僕ね、ムーラン・ルージュのすぐ近くのアパルトマンに住んでるの。今度、遊びに来てね」

「君のファンに見つかったら大変だ」

「そお?」

リードはクロワッサンを頬張りながら、首を傾げたのだった。

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「朝帰りのリードちゃん!」

「昨夜はどこにいたのかな?」

JJとエミリーに両脇を固められて、質問されるリード。

「えっと・・・その・・・ね・・・」

「アーロン・ホッチナー様のアパルトマンでしょ?」

と、ガルシア。

「ええええええええ」

焦るリード。

「なっ、なんでっ・・・」

「だって。物騒じゃない?あの辺りって。だから、用心棒のモーガンに尾行させたのよね」

「え?モーガンが?」

「そう。リードがホッチナー様のアパルトマンに入るのを見届けて、出てくるのを待ってたって言ってたけど、なかなか出てこなくて。結局、一晩中でしょ?朝は朝で、二人でカフェでいちゃついてるし。あ、これ、モーガン情報だからね」

「ひゃあ・・・じゃあ、モーガンはずーっと外にいたの?」

「あったりまえでしょ?ムーラン・ルージュの看板娘に何かあったら大変だもの。ちなみに、リードが招待状を届けに行ったときも、モーガンが尾行してたから」

「・・・気づかなかった・・・」

リードは愕然として、椅子にへたりこんでしまった。確かに、ホッチ会いたさに、治安の悪い場所を歩いた自分が悪い。けれども、怖いとか、物騒とか、そんなことは頭の中にはなかった。ただ、ひたすらにホッチに会いたかっただけだ。けれども、モーガンには迷惑をかけてしまったし、ガルシアたちにも心配をかけてしまったのだろう。

「・・・ごめんね、僕。全然、周りが見えてなくて」

「恋は盲目ってえいうものね」

JJがウィンクして、リードの肩をそっと叩く。

「それで?今夜のショーは大丈夫?腰とか、お尻とか、痛くない?」

エミリーがリードの腰を摩る。

「んー・・・痛くないけど・・・ちょっと、腰がだるいかなぁ・・・って!!!!何を言わせるの!!!!」

「「「あはははははははー!!!!」」」

3人の笑い声が楽屋に響いたのだった。

to be continued