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「今年のハロウィンは、リードと一緒に回りたい!」

とジャックが発言したのは、ホッチのアパートで部屋の主人のホッチとその息子、ジャック。そして夕食にお呼ばれしたリードの3人で食卓を囲んでいるときだった。それはハロウィンの2週間くらい前のこと。リードは、

「そうだね。もし、事件が起きなかったら、一緒に回ることができるよ。でも、ダディと回らなくていいの?」

「だって。お姫様を守るヒーローは二人もいらないでしょ?」

とジャック。頭上に?マークを浮かべたリードに向けられた次なるジャックのセリフは・・・、

「リード!お姫様のコスプレして!」

だった。

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「似合うじゃないか」

「・・・そんなことあるわけないでしょ!・・・でも・・・ジャックの頼みだからね。・・・頑張る。・・・顔、変じゃないかなぁ・・・」

オフィスの帰りに、ホッチの車でマダム・ブーヴィエの店に寄り、発注済みのシンデレラのドレスを着て、それに合わせたメイクも施してもらった。プリンセスにしては少々短かった髪は、エクステンションで長くして、結い上げている。元々は中世的な顔立ちで、細い身体つきだから、たとえ男であっても、リードのシンデレラ姿は全く違和感がなかった。

「ジャックはきっと、喜ぶ」

「だと、いいけど。ジャックはどんなコスプレをするの?・・・王子様?」

「どうだろう。衣装はジェシカに準備を手伝ってもらってて、教えてくれないんだ」

「へえ。ホッチにも内緒なんだ」

「ああ」

「寂しくない?」

「確かに、父親としては少し、寂しいな」

「ごめんね」

「何が?」

「だって、本当はホッチが一緒にジャックとハロウィンに行くべきなのに」

「事件が起こったら、ジェシカに任せることになるしな。ああ、そうだ。もし、ハロウィン中に事件が起こっても、リードはジャックに付き合ってやってくれ。仕事には後から合流すればいい」

「うん。わかった。遠慮しないで、事件の連絡はしてよね。でも、だからといって、ジャックに悲しい思いをさせることはしないから。ちゃんと責任をもって、回るよ」

「そうしてやってくれ」

完璧なシンデレラになったリードはホッチの運転で、アパートに戻った。そこで、待ち受けていたのは、仮装を終えたジャックだった。

「おかえりー!うわー!リード、綺麗!ものすごく、綺麗なお姫様!」

「ありがと。でも・・・えっと・・・ジャックは・・・その・・・それ・・・」

「カッコいい?FBI捜査官のコスプレだよ!」

子供用とはいえ、しっかりとしたスーツにワイシャツ。そしてネクタイ。ちゃんとガンホルスターも装着しているらしく、おもちゃの銃を持って構えている。

「それ・・・つまりは・・・ダディのコスプレ?」

「そう!お姫様を守る、FBIエージェントだよ!だってダディはヒーローだもん!ヒーローはお姫様を守るんだよ!」

いや、FBIとシンデレラ・プリンセスは絡まないと思うよ・・・というセリフをどうにか飲み込んで、リードは笑顔を作った。

「じゃ、じゃあ、かぼちゃのバケツを持って、早速行こうか?」

「うん!」

部屋を出るとき、リードがホッチを見ると、彼は肩を震わせて笑っていたのだった。

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「トリック・オア・トリート!」

賑やかな子どもたちの声があちらこちらで響いている。昨今の事情から、皆、保護者同伴だ。しかし、仮装をしている大人はリードくらいだ。しかも、プリンセスのフル装備。しかも、男。けれども、何故だか、奇異の目で見られることはなかった。どうやら、仲睦まじい母と息子のように周囲には映っているらしい。それがいいのか、悪いのか。リードとしては、非常に複雑な心境だ。

かぼちゃのバケツはあっという間に満杯になった。

「どうする?まだ、回る?それとも・・・」

「僕、満足。お家に帰ろう?」

「いいの?もらったお菓子を別な袋に入れて空っぽにしたら、まだお菓子は入るんだよ?」

「いいんだ。早く帰ろう。今夜はダディがハロウィン。ディナーを作るって張り切ってたから。僕、お腹すいちゃった。だから、お家に帰って夕食にしようよ。きっともう、できてるよ!だって、リードの携帯、鳴らなかったでしょ?」

「ああ、確かに・・・」

電話が鳴らない、ということは、事件が起きていないということだ。だからきっと、ホッチはディナーの準備に専念できただろう。

ダディのパンプキン・スープとか、絶品だから!お肉は、ジャックボーンローストビーフだといいな。僕、ハロウィン好き。だって、僕の名前、ジャック・オー・ランタンと同じ名前!」

「あはは。そうだね」

リードはかぼちゃバケツを持っていない方の手を繋いで、ゆっくりと歩いた。ドレスで隠れるから、靴はコンバースでいいかな、と思っていたが、それはマダム・ブーヴィエが許さなかった。ヒールは低いものの、ちゃんとシンデレラのガラスの靴を模した、パンプスを履いているのだ。だから、そう早くは歩けなかった。それをわかっているのか、ジャックもリードを急かすようなことはしなかった。父親に似て、紳士的な息子だ。シンデレラをエスコートする、非常に紳士的なFBIヒーローだった。

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ジャックボーンローストビーフ、パンプキンスープ、ゾンビのオムライス、ハロウィンサラダ、カラフルジェリーポンチなど。二人が帰ると、ホッチの手料理がテーブルに並べられていた。

「凄いね。ホッチが料理できるって知ってたけど・・・本格的」

「ああ。事件の電話が鳴らなかったからな。品数を減らさずに作ることができた」

「座って、リード。リードはお姫様だから、ダディがぜーんぶやってくれるから!」

ジャックがテーブルの椅子を引き、リードを座らせる。

「あ、ありがと」

「ローストビーフを切り分けるから、ちょっと待っててくれ、リード。腹が減ったろう?」

「ううん。大丈夫。それよりも、ジャックの方がきっといお腹をすかせてるよ。凄く、ホッチのハロウィン・ディナーを楽しみにしてた」

「そうか。・・・ジャックはブドウジュースとして、リードは?ワインを飲むか?」

「ホッチが飲むなら」

「じゃあ、ボトルを開けよう。ハロウィンだから、赤だな」

「血の色だね。それって、とてもハロウィンっぽい」

リードが笑いながら答えた。そして、楽しいディナーが始まる。ジャックは子どもらしく、もりもりと料理を頬張った。仕事の忙しい父親の手の込んだ料理はなかなか食べることはできない。それもあって、嬉しいのだろう。終始笑顔で、学校のことや友達のことを話している。ホッチもリードも笑顔で頷きながら、耳を傾けた。「なんとなく、楽しい一家団欒だなぁ」とリードは思った。自分が子どもの頃は、こんな風景を体感することはできなかった。父はあまり家にいなかったし、母はベッドにいることの方が多かった。食べるものは、自分で料理とも言えないようなものを、とりあえず食べられそうなものを作って食べた。温かい食卓というものを知ったのは、JJやホッチの家での夕食に誘われるようになってからだ。

「美味いか?リード」

「うん。とっても。ジャック、君のダディは最高だね。仕事もできるし、料理もできる」

「でしょう?リードの言う通り、最高のダディ。でも、今日のリードは最高のお姫様だよ」

「あ・・・ああ・・・あはは・・・」

苦笑するしかない、リードだった。

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食卓や食器の片付けはホッチ親子がすることになった。リードも手伝いを申し出たのだが、お姫様は何もせずに座っていなければならないらしい。「男の沽券」に関わるそうだ。ジャックがそういった。「僕も男なんだけどな・・・」と思いながらも、リードはソファに座らせてもらっていた。シャツの袖を捲り上げて食器を洗う男二人の姿は、それがキッチン仕事であっても、格好いいなぁ・・・と感じる。そして、二人の仲の良さが伝わってくる。そんな姿をリードは微笑ましく眺めていた。食器を洗い終えて、手をタオルで拭きながら、ジャックが言った。

「じゃあ、僕はもう、お風呂に入って、歯を磨いて寝るね。ダディ、今からお姫様を守るのはダディの仕事だからね。わかった?」

「ああ、わかってる。任せておけ。おやすみ、ジャック」

「おやすみなさい、ダディ。それとお姫様リード。今日は僕のためにありがとう。リードが素敵なお姫様になってくれて、僕は嬉しかった。・・・僕、ちゃんとヒーローになれてた?」

「もちろん!とっても頼もしいFBIエージェントだったよ!」

「よかった!じゃあ、おやすみ!リード!」

「おやすみなさい、リード」

ジャックは破顔しながら、自分の部屋へと消えていった。

「えっと・・・じゃあ、僕も帰ろうかな。でも、この格好じゃマズイから、ちょっと着替えるね」

リードはソファの横に置いておいた、自分の服とコンバースの入っている紙袋に手を伸ばした。しかし、すぐに腕をホッチに取られる。

「ホッチ?」

「大人のハロウィンをしようか?シンデレラ」

「え・・・」

ソファの隣に座ったホッチの両手が、ドレスを着たリードの体を弄る。

「ちょ・・・ダメ・・・ジャックが・・・」

「そうだな。寝室に行った方がいいな」

そう言うと、ホッチはリードを軽々と抱き上げた。ドレス姿にふさわしい、お姫様抱っこだ。そして、器用にドアを開けて、リードを寝室のベッドに運び込む。静かに横たえると、少しだけドレスをたくし上げて、脚にキスをしながら、パンプスを脱がせる。

「大変だったろう、この靴は」

「うん。結構、辛かった。でも、ジャックの為だから、頑張ったよ。それに、ジャックは僕に気を遣ってくれて、とってもゆっくりと歩いてくれたんだ。本当に、紳士」

「そうか」

「ホッチの教育がいいんだね」

「そうだといいんだが」

「心配?」

「・・・仕事が忙しくて、あまり構ってやれていない」

「でも、ジャックは確実に貴方の背中を見て成長してるよ。すごくしっかりしてる」

「そうかな」

「それに、カッコいい。ダディがカッコいいからだね」

ふふっとリードが笑った。

「そうか。・・・だったら、美しい母親も必要だな・・・」

ホッチがリードの髪を梳く。

「・・・ホッチ?」

「・・・本物の母と息子みたいだった。ドアのところに立った君たち二人は」

「そんなわけないじゃない。僕は・・・ジャックの母親にはなれないよ。せいぜい・・・お兄さん・・・かな?結構、年齢の離れたね」

「リード・・・ジャックは君を慕っている。ものすごく」

「うん。たまに勉強を教えたりしてるせいかな」

「そうじゃない。ちゃんと、一人の人間として、リードを慕っているんだ、あの子は」

「だったら、嬉しい。ジャックには好かれたいって、僕も思うもん」

「・・・多分・・・ジャックは、俺たちの関係を知ってる」

「え・・・えっ・・・えええええっ!?」

慌てて、リードは上半身を起こした。

「ちょ・・・ちょっと・・・それって・・・魔、マズイよ!」

「そうかな?」

「そうだよ!・・・ああ・・・どうしよう・・・」

「しかし、別にあの子はショックを受けてるような感じじゃないぞ?もし、俺たちの関係に否定的だったら、夕食を一緒にしないだろうし、リードと一緒にハロウィンに行きたいなんて言わないだろうし。それに、あの子は我儘を言った」

「我儘?」

「お姫様のコスプレ。普通なら、断るだろう?しかし、ジャックは、リードは断らない。自分の望みを叶えてくれる・・・そう、信頼してるんだ」

「信頼?」

「ああ。今年のハロウィンで俺は確信した。あの子は・・・ジャックは、リードと家族になりたいんだ。もちろん、俺もだが」

「そんなこと・・・あるの?」

「あるさ。俺の息子だ。趣味は似ている。しかし・・・こんなことができるのは。俺だけだがな」

起こした上体をベッドに押し付けられ、唇を貪られる。

「ふっ・・・んっ・・・」

「ジャックの弟か、妹ができるといいな」

合わせた唇の隙間から、ホッチが不敵に囁いた。それが、大人のハロウィンの開幕だった。

END