BAUのオフィスで、リードは甘ったるい、最早コーヒーとは言えないようなコーヒーの入ったカップを持って、ぼーっと座っていた。思考が、何処か深い所へと入り込んでしまったような感じ。そんなリードの様子をチラチラと伺う、エミリーとJJとガルシア。それも仕方がない。彼女たちは、BAUの末っ子リードの姉的存在なのだから。兄的存在のモーガンは出掛けていて不在だった。
「リード、悩み事?」
「その表情は事件のことじゃないわね。第一、今現在は事件を抱えていないもの」
「お母さんのことってわけでもなさそう」
「え?ええええ?」
3人の女性ににじり寄られて、リードは焦った。
「まあ、リードがそんな顔をするときは、ある人のことを考えてるときよね」
エミリーが自分の主張に頷きながら言う。
「そうそう。年上の彼氏のことに決まってるわよねー。今、オフィスで書類と格闘しているね」
と、JJ。
「で?ホッチと何かあったの?」
ガルシアは直球勝負だ。
「ななな何で、何で、ホッチなのっ。む、昔の事件のことかもしれないじゃん!」
リードが肩をヒクつかせながら、反応する。
「だって、目つきが違うもの。その目は事件のことを反芻してる目じゃないわね」
「お母さんのことを考えてるときの目とも違う」
「と言うことは、残るはホッチしかいないじゃないの。ビンゴでしょ?」
「・・・うー・・・もう・・・みんなには隠し事、できない・・・」
リードが観念したように呻いた。
「うふふ。私たちに隠し事なんて、百億年早いわよ」
「みんな、魔女みたいな」
「あはは。ある意味、そうかもねー。で?何があったの?喧嘩でもした?」
リードは首を振った。
「違うんだ。・・・寝言、なんだけどね。・・・ホッチが、『ベビードール』って呟いたんだ」
「あら」
「まあ」
「あらららららら」
3人の姉たちの瞳がキラリと輝いた。
「それは・・・ねぇ・・・」
「まあ、リードは華奢だし?」
「可愛いしね」
意味深に呟く、エミリー、JJ、ガルシア。
「それって、1回だけ?」
「ううん。何回も。でも、僕、意味がわかんなくて。それで、検索したんだよね。そうしたら・・・」
「セクシーランジェリーがヒットしたのね」
「・・・そうなんだ・・・」
「まあ、うちのユニットチーフは、ムッツリスケベだからねぇ」
そう言いながら、エミリーはホッチのオフィスを見遣った。
「でもまあ、寝言って無意識の潜在意識だから、それって、ホッチがリードの求めてる願望ってことよね」
JJは立ち上がるとバッグを手に取った。それにエミリーとガルシアも習う。
「ほら、リード、立って!行くわよ!」
ガルシアがリードの腕を取った。
「へ?行くって・・・何処?」
「「「決まってるじゃない!ランジェリー・ショップよ!」」」
その掛け声と共に、リードはズルズルと拉致されていったのだった。
*******************
「リード?」
寝室の入り口で、斜め掛けバッグのストラップを握りしめたまま、リードは立ち竦んでいた。ホッチの家である。ジャックはいない。何故か、ジェシカの所に行っていると言う。けれども、なんとなく、エミリーたちが手を回したような気がしないわけでもなかった。きっとホッチもそのことに気づいている。
エミリーたちとの買い物を済ませた後、タクシーでホッチの家まで送り届けられた。そして、インターホンを鳴らしたJJが、
「じゃ、リードを置いてくわね~。素敵な夜を~」
とリードをホッチに渡したからだ。きっと、エミリーかJJかガルシアがホッチにバラしているに違いない。
「ぼ、僕、帰る!」
踵を返そうとしたが、ホッチの力強い手で、それは阻止された。すぐに、ホッチの腕の中に収まってしまう。こうなると、非力なリードは逃げられない。
「ふええええええ・・・」
情けない声を出して、もう、涙が出そうだった。
「寝室まで来て、帰る、はないだろう?ん?」
「きょっ、今日はダメなの!」
「生理や排卵日でもあるまいし。まあ、リードにならありそうな気もするが」
「ホッチ!!!何てことを言うの!!!」
ホッチの腕の中で真っ赤になる。
「昨夜は良くて、今夜はダメ。そんな理屈が俺に通ると思うか?非理論的だ」
「うう・・・」
「それとも、ここで脱ぐか?ジャックもいないし、俺は何処でもいいぞ」
「ホ、ホッチの意地悪!!」
「意地悪はどっちだ。ここまで来て、お預けを食らってるのは俺の方だぞ?違うか?リード」
「うううう・・・」
小さく恥ずかしげに唸るリードの身体を、ホッチは掬い上げるようにして抱き上げた。言葉で言うことをきかせるよりも、こっちの方が断然、早い。
「ひゃあ・・・」
軽々とベッドに運ばれてしまい、間髪入れずに、バッグを取り払われた。
「で?自分で脱ぐか?俺が脱がせるか?」
「・・・どっちも・・・やだ・・・」
「おいおい」
「だって・・・恥ずかしいんだもん」
「服を脱ぐ以上に恥ずかしいことをしてるだろうが、いつも!」
「今日は違うの!・・・もう・・・やだぁ・・・」
めそめそとした、煮え切らない態度をリードはとる。
「じゃあ、俺が脱がせるぞ」
「やっ!ダメ!・・・う・・・も・・・自分で脱ぐもん・・・」
ベッドの上でアヒル座りをしたリードが、身体を斜めにして、ホッチの視線から逃れるようにしながら、カーディガンを脱ぎ始めた。それからネクタイ。チェックのシャツはそのままで、ベルトを外すと、シャツが捲れないように気を付けながら、チノパンを脱ぐ。そして、そこで、リードの手は止まってしまった。
「リード?」
「こ、今夜は、このままじゃ、ダメ?」
「おかしいな。今夜は、非常に可愛らしいリードを堪能できると、JJたちから聞いたんだが」
「!!!!」
リードが驚いたように、目を見開く。バレてる。と言うよりも、JJがホッチにリークしたのだ。
「まあ、脱がせる楽しみもあるか」
ホッチはリードのシャツのボタンに指を伸ばした。
ひくんっと、リードが後ろに身体をずらす。しかし、それを逃すホッチではない。
「やっ!!!や、やっぱり、自分で脱ぐから!!!」
「そうか。いい子だ」
ホッチは、手を引っ込めた。しかし、視線はリードから外さない。じっと見つめられて、リードは身体がもぞもぞとした。それは、いつものことだ。けれども、今日はそれに、もう一つの理由がある。
「あのね。ホッチ・・・あの・・・その・・・戊、僕を見ても、笑わない?」
「俺がリードを笑ったことがあるか?ん?天才少年」
「・・・僕の頭脳は関係ないもん・・・でも、本当に、笑わない?」
「笑わない」
「・・・ほんと?」
「俺が信じられないか?」
「そんなことない。僕はいつだって、ホッチを信じてる。でも・・・今の僕・・・とっても変だから・・・」
「リード」
ホッチが腕を伸ばして、優しくリードの髪を撫でた。
「どんなリードでも、俺の可愛いリードだよ」
「ふええ・・・」
ホッチのセリフにリードは俯いてしまった。けれども、その言葉で意を決する。リードは自分の指をシャツのボタンに掛けた。ゆっくりと、ボタンを外す。
「あの・・・本当に笑わないでね」
「約束する」
リードはボタンを全て外し終えると、するんっとシャツを腕から落とした。
「ああ・・・いいな。JJから聞いてはいたが、予想以上だ」
「嘘・・・だって、僕、女の子じゃないんだよ?胸だってないし、ウエストもくびれてないし・・・」
「しかし、リードはピンクが似合うからなぁ。ほら、今日の靴下だって、片方はピンクだろう?」
「・・・うん。まあ、そうなんだけど・・・」
シャツの下にリードが身につけていたのは、ガルシアが見立てた、ピンク色のベビードールだった。少しだけ透け感があり、胸はレースで彩られている。リードは恥ずかしそうに、指先でベビードールの裾を弄っている。
「よく、見せてごらん」
「ん・・・」
ようやく、リードはすとんと両腕を身体の横に落とした。ピンクのベビードール。右足は薄ピンクの靴下で、左足は薄紫の靴下だ。リードのジンクス。科学的な頭脳の持ち主が、そんな靴下のジンクスを信じるギャップが可愛らしい。
ホッチはリードの髪を撫でていた手を下に滑らせて、ベビードールの中を確かめようと、その裾を割った。
「あ・・・」
「ほう・・・ちゃんとお揃いなんだな」
「だって・・・JJが、こういうのは、ちゃんとお揃いにしないとダメだって・・・。エミリーもガルシアもそう言うんだもん。僕に、拒否権なんて、なくって・・・」
「相変わらず、いい仕事をするな、あの3人は」
「・・・僕・・・変じゃない?」
「全然。かえって可愛らしい。抱きしめていいか?」
「ホッチが・・・嫌じゃなかったら・・・」
「嫌なわけがないだろう」
薄い生地に包まれたリードの身体を、まるでガラス細工を扱うかのように、腕に囲う。さらりとした上質な布。露わになっている、しっとりとした肌。
「ああ、本当に、リードは可愛いな」
ホッチはゆっくりと、リードをベッドに押し倒した。
「しかし、どうして、こういう下着を着ることになったんだ?」
「え?だって・・・だって、ホッチが寝言で言ってたから・・・」
「俺が?」
「うん。昨日・・・寝言で、babydollって、何回も言ってた。だから、僕、検索したんだよ。そうしたら、こういう下着がヒットしちゃって・・・それで、ぞのこと考えてたら、エミリーたちに問い詰められて・・・その・・・」
「それで、こういうことになったのか。そうか、俺のせいか」
「みんな言うんだもん。ホッチはきっと、こういうのを着た僕が見たいんだって。僕は全否定したけど・・・でも・・・」
「まあ、結果オーライだな。俺の寝言で、こういう良いものが見られたのなら、大正解だ」
「ん?結果オーライって・・・本当は違うの?」
「寝言を言っていた自覚はないんだが・・・おそらく、petnameで、夢の中でリードのことをbabydollって呼んでいたんだろうな」
「え・・・petname?えええええ・・・嘘・・・僕の勘違い?えええええ!!!!こういうランジェリーのことじゃなかったの!?」
「たぶん、俺は『かわいこちゃん』という意味の寝言を言ってたんだろう。何せ、本当に腕の中に『かわいこちゃん』がいたんだからな」
「嘘ぉ・・・僕の・・・勘違い?やだ・・・馬鹿だ、僕・・・」
リードは慌てて、ホッチから逃れて、シャツを着ようと腕を伸ばした。しかし、すぐに、ホッチに阻まれる。
「リード、夜はこれからだろう?」
「やだよう・・・僕の勘違いで、こんな格好・・・本当に馬鹿で恥ずかしい・・・」
「しかし、俺の為に着てくれたんだろう?本気で嫌だったら、全力で拒否してただろうに」
「・・・う・・・だって・・・3人が、絶対にホッチは喜ぶって言うんだもん」
「正直、喜んでる」
「・・・変じゃない?」
「リードにベタ惚れしてるからな。頭がおかしくなるくらいに。だから、つい、寝言も言った」
「pentname・・・紛らわしいよぅ・・・」
「言っただろう?結果オーライだ。俺にとっては最高のご馳走だな」
「僕、食べ物じゃないよ」
「いや、食べてやる」
ホッチは不敵に笑うと、ピンクのベビードールに身を包んだリードを抱きしめて、深いキスを送ったのだった。
END