突然の雨だった。
リードが被害者の知人に対する聞き込みを終えて、エミリーとの待ち合わせ場所まで歩こうとしたとき、ポツポツと雨が降ってきた。それはすぐに土砂降りへと変わった。
「・・・嘘・・・今日って、雨の天気予報だったっけ?」
リードは首を傾げながら、仕方なく歩き始めた。雨宿りをしていたら、エミリーを待たせてしまうことになるし、何よりも雨宿りをする場所がなかった。斜めがけ鞄の中の書類を濡らさないよに、リードは鞄を抱き締めるようにして歩き出した。
てくてくと雨の中を歩くと、ハイスクール時代ことを思い出す。ハイスクールといっても、リードはスキップしていたから、年齢はジュニアハイだった。生意気だとクラスメイトに言われて、テキストやノートを窓から捨てられた。それを拾っていたら、雨が降ってきた。一生懸命拾ったけれども、雨はどんどん、ノートのインクを滲ませていったのを覚えている。何とか全てを掻き集めて、それ以上濡れないように、抱き締めて家路に着いたのを覚えている。自分は濡れてもいいから、大事なテキストとノートは守りたかった。全てを暗記できるリードだったけれども、まだ読んでいないページもあったのだ。けれども、その日も物凄い土砂降りで、テキストもノートもページが完全に張り付いてしまい、もう二度と開くことが出来なかった。その時思ったのだ。虐められるのは仕方がないけれども、勉強に必要なものを台無しにされるは辛いなぁ・・・と。そんなことを思い出しながら、リードは鞄を抱き締める腕に力を込めた。何故なら、鞄の中には、ホッチから借りた犯罪心理学の本が入っているからだ。これは絶対に濡らすわけにはいかない。リードは、カーディガンやボックスプリーツのスカートがどんどん重くなるのを感じながら、足を早めたのだった。
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BAUのエレベーターが開くなり、エミリーが叫んだ。
「誰か!タオルを!!」
エミリーに抱えられるようにして、ずぶ濡れになったリードが現れた。
「リード!!!」
JJとガルシアが立ち上がった。すぐにモーガンがタオルをデスクの引き出しに突っ込んであったタオルを取り出して、リードに近づく。
「ほら」
「あ、ありがと・・・モーガン・・・くしゅんっ・・・」
タオルを受け取りながら、リードはくしゃみをした。
「早く着替えないと」
JJがタオルでリードの髪の水分を取ってやりながら言う。
「私が悪いのよ。聞き込みに手間取って、リードを随分と雨の中で待たせてしまったの」
エミリーが申し訳なさそうに言った。
「エミリーのせいじゃないよ!」
慌ててリードが否定する。
「どうした」
オフィスからホッチが出てきた。ずぶ濡れのリードの姿を見てすぐに眉を顰める。
「リードを更衣室に連れて行きます。リード、ロッカーに着替え、あるわよね?」
「え?あ・・・ああ・・・えっと・・・」
「着替えながら俺の部屋にある。リードのゴーバッグがあるから。来なさい、リード」
有無を言わせない口調で、命令するかのようにホッチが言った。
「ほら、早く行きなさいよ」
ガルシアがリードの背中をそっと押した。
「・・・うん・・・」
鞄を抱きしめたまま、リードは階段を上がった。
「俺は外に出ているから。ゆっくり着替えるといい」
「・・・はい」
そんなやりとりを見ながら、BAUのメンバーたちは「あ、ホッチにも常識があったんだ」と胸を撫で下ろした。なんとなく、皆、ホッチはリードの生着替えをガン見しそうな気がしていたからだ。リードがホッチのオフィスに消えると、ホッチは階段を降りて、エミリーに事情を聞き始めたのだった。
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出張から帰って来て、リードはホッチに報告することがあった。その時にゴーバッグをホッチのオフィスに置き忘れてしまったのだ。そして、すぐに新しい事件が起きた。リードのゴーバッグはそのままになってしまった。
リードがオフィスを見回すと、黒いソファの上に、リードのゴーバッグが置いてあった。床に置いたのを、ホッチが移動してくれたのだろう。リードはそれを床に置き、代わりに茶色い鞄をソファの上に置いた。そして、中の本を確認する。ホッチが貸してくれた犯罪心理学の本は無事だった。全く濡れていなかった。
「よかったぁ・・・」
リードは安心して、ようやく肩の力を抜いた。自分が雨に濡れることよりも、本のことがずっと気になっていたのだ。濡れた自分のせっかくの本が濡れてしまうのを避けて、リードはすぐにソファから離れた。そして、腕時計を外し、カーディガンを脱いだ。雨水をじっとりと含んでいてとても脱ぎづらい。それはカーディガンに限らず、シャツもスカートもそうだった。身体にべったりと張り付いているのだ。リードは、皮膚から剥がすようにして、衣類を脱いでいったのだった。
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ホッチはエミリーから事の経緯を聞くと、「わかった」とだけ言って、責めるわけでもなく、自分のオフィスに戻った。当然、BAUの皆が「え?もう?まだ、着替え中じゃ・・・」と心の中で突っ込んだが、口には出せなかった。何せ、リードに関しては「超」が付くほどに過保護なのだ。うちのユニット・チーフは。
ホッチはノックもせずにドアを開けると、身体を滑り込ませて、すぐにドアを閉めた。そして、自分の視界に入ってくる光景に「おお・・・」と心の中で言ったのだ。何故なら、パイナップル柄のパンティに包まれた、形の良い尻が、自分の方に突き出されているからだ。どうやらリードは床に置いたゴーバッグの中を漁って、探し物をしているらしい。
「おかしいなぁ・・・ないなぁ・・・入ってると思ったんだけどなぁ・・・変だなぁ・・・」
ホッチの存在に気づかず、ブツブツと呟きながら揺れる尻。レースのセクシーパンティでないのは残念だが、この際パイナップルでもいい。眼福である。
「・・・リード」
「ひゃっ!・・・あ・・・ホッチ・・・」
声をかけられて、ようやくその存在に気付いた。振り向いたリードはパイナップルのパンティ1枚で、ふくよかとはいえない胸も露わだった。
「着替えがないのか?」
「えっと・・・パンティもあったし、シャツとかスカートもあるんだけど、ブラジャーがないの・・・」
それで、上半身がスッポンポンなのか、とホッチは納得する。
「でも・・・僕、ぺったんこだから、ブラジャーなくても平気かなぁ・・・って・・・あ!!!やだっ!」
ようやく自分がパンティ1枚であることに気づき、リードは慌てて両腕で慎ましい胸を隠した。
「ふえ・・・」
床にあひる座りになって、胸を隠す。ホッチは萌えた。が、これでも一応BAUのユニット・チーフだ。こほん、と咳払いをすると、「大丈夫だ」と言った。が、その後に続く言葉が問題だった。メンバーには聞かせられない。
「リードの下着一式は、常に俺がオフィスの引き出しに準備してあるから」
「え・・・」
ホッチはデスクの引き出しを開けると、レースのブラジャーをいくつか取り出した。
「パンティは取り替えたのか?」
「うん。それはすぐに見つかったから・・・」
「そうか。じゃあ、パイナップルに合わせて、黄色いにするか」
そう言うと、ホッチはシフォンレースで彩られた、淡い黄色のブラジャーをリードに差し出した。
「あ・・・ありがとうございます・・・」
「礼には及ばん。それよりも、風邪をひくから、早く着なさい。ああ、ブラのホックは俺が止めてやろう」
リードがブラジャーを身に付けるのを手伝い、それからホッチはソファにドカリと座った。リードの着替えを堪能するためである。しかも無意識である。
リードが服を脱いでいく様子を見るのもいいが、こうして一枚一枚、ゆっくりと服を着ていく様子を見るのも新鮮で良い。何よりも可愛らしい。左右が埒外の靴下を履く姿が、ホッチはかなり好きだ。
「リード。今夜は身体の温まるものを食べて帰ろう。いい店がある」
「あ、ありがとう、ホッチ。それと・・・ホッチに借りてる本、濡らさずにに済みました。僕、本を濡らしたらどうしようってずっと思ってて。でも、ちゃんと鞄に入れて抱きかかえていたから、大丈夫でした。本当なら、雨宿りをする場所を探すべきだったんだけど・・・」
「事情はエミリーから聞いた。仕方がない。場所がなかったんだ。しかし、俺の本のことよりも、自分のことを心配しなさい」
「でも・・・大事な本だし・・・」
「俺には、リードよりも大事なものはないから。だから、ちゃんと自分を大事にしなさい」
「・・・はい」
リードは照れ臭そうに俯くと、はにかみながら小さな声で返事をした。
「そうだな。食事の後は、俺の家に泊まるといい。ちょうどジャックがお泊まり学習会から帰ってくる。君に会いたがってるしな。いいな?」
「はい!ジャックに会えるのは、僕も嬉しいです!」
「行こうか」
「はい!」
リードがゴーバッグを持とうとすると、それはホッチに奪われた。
「あ、あの・・・」
「いいから。濡れた服で重くなってる。ああ、洗濯も俺の家でするといい。今夜は泊まっていけ。ジャックも喜ぶ」
「いいんですか?」
「構わない」
リードは茶色い斜め掛け鞄を持って、先に歩き始めたホッチの後を追ったのだった。
END