リードは幼い頃からイジメられっ子だった。華奢な身体や頭が良いところ、そして空気を読まずに喋ってしまうところなどなど、イジメの理由など虐める側には何だっていいのだ。欲求不満の解消。ただそれだけだ。スペンサー・リードはその標的になった。大学生になって、研究に打ち込むことができるようになって、少しは虐められることは減った。けれども、変わった女子学生であるリードが、奇異の目で見られることには変わりはなかった。そんなリードはFBIアカデミーに入ることになった。自分の能力を活かせる場所を統計的に考えて選んだのだ。しかし、如何せん、リードは運動神経が皆無だった。射撃に至っては、側にいたら身内に死者が出そうなほど最悪だった。そんなリードでも、アカデミーから追い出されなかのは、その優秀な頭脳のおかげだった。けれども、ここでもイジメはあった。手入れをされていない自分で適当に切った髪、全くお洒落とは皆無な服装・・・シャツにカーディガンにチノパン。女性ではあったものの、身体つきはとても貧相で、冴えなかった。けれども、無意識にアカデミーの男たちを言葉でやり込めてしまうリードは、イジメの対象になった。無視、からかいなどは、まだいい方だった。一部の男たちの間で、性的にスペンサー・リードを虐めてやろう・・・という計画が持ち上がった。冴えない見栄えとはいえ、女は女だ。それに、男たちにとってはリードは虐めていいという認識の対象であったから、罪悪感などなかったのだ。
ある夜。
アカデミー出された課題に取り組み、リードは帰宅が遅くなった。終電ギリギリだった。慌てて、荷物をまとめて廊下に出ると、そこには数人の男たちが待っていた。リードは思わず、立ち止まった。その場の空気感に、リードは覚えがあった。自分が過去に酷いイジメに遭った時のことだ。これは、女子たちに服を脱がされて、ブラとパンティだけにされて、ゴールポストに縛り付けられたときの空気感に似ていた。リードはぎゅっと鞄のストラップを握りしめた。過去の体験でリードが学んだことは1つだけだ。
抵抗をしないこと。
諦めて抵抗をしなければ、相手は飽きる。飽きたら、それで終わる。
リードは唇を噛み締めた。昔のことを思い出したが、今、目の前にいるのは彼女たちではない。屈強なアカデミーの男たちだ。この先に起こることは、何と無く予想ができた。
諦める。
我慢する。
抵抗をしない。
そんな言葉をリードは心の中で反芻した。
リードの目の前に男たちが動いた。リードは、すぐ近くの部屋に連れ込まれたのだった。
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「全く、色気がねえよな、この女」
「服はダサいし、不景気な顔をしてるし、おっぱいは小せえし」
「でもまあ、女は女だろ」
「突っ込めりゃいいってか?」
男は4人だった。
床に叩きつけられたリードは、
諦める。
我慢する。
抵抗をしない。
を心の中で繰り返した。
乱暴にカーディガンを逃がされて、シャツは破かれた。チノパンのベルトは抜き取られて、ウエストのボタンを外された。
「はっ。マジ、なんなの、このブラジャー。だっせー」
「こんなちっちぇおっぱいに必要ねえよなぁ」
男の手が、リードの粗末なブラにかかった、その時、
「グホッ・・げっ・・ウェッ・・・」
突然、男がリードから離れて、目の前から消えた。おかしな悲鳴のようなものと一緒に。そのあと、バキッとか、メキッとか、ボキッっとかいう音が聞こえた。そして最後に
「消えろ」
という静かで、それでいて、怒りをはらんでいる声が聞こえた。
リードは、両手をついて身体を起こして、何が怒ったのかを確認しようとした。自分を襲った男たちが、身体を引きずりながら、部屋を出て行くのが見えた。
「大丈夫か?」
ファサリ・・・と身体に何かが掛けられた。見れば、とても質の良さそうなスーツの上着だった。
「え・・・あ・・・」
「大丈夫か?スペンサー・リード」
リードは自分の目の前に片膝をついて座る男を見た。
「あ・・・貴方は・・・」
リードの知っている男だった。アカデミーで行動分析の講義をしてくれたFBIのエージェント。
「えっと・・・アーロン・・・・ホッチナー・・・?」
「ああ。よく覚えていたな。いい子だ」
「貴方の講義は・・・とても、理性的で、理知的で・・・すごく印象に残ってて・・・」
リードは目をパチクリとさせた。
「どうして、抵抗しなかった?君は悲鳴すらあげなかった」
「・・・えっと・・・その・・・仕方がないかなって・・・」
「仕方がない?」
「・・・昔から・・・虐められていたから・・・」
「あれは虐めじゃあない。レイプだ。あいつらは、君をレイプしようとした」
「・・・・・・」
「君は、セックスの経験があるのか?」
リードは慌てて首をブンブンと横に振った。そんなことあるわけがない。
「セックスの経験もないくせに、レイプされるのは平気なのか」
「・・・・・・」
突然、リードの心の中にこみ上げてくる感情があった。・・・恐怖。今頃になって、恐怖が芽生えた。目の前に男に助けてもらって。そう。自分はレイプされる所だったのだ。冷静に考えたら、それは最早イジメではない。犯罪だ。
「ふえ・・・え・・・えぐ・・・ふえ・・・」
思わず、涙が出てきた。そんなリードの手入れのされていない栗色の髪をアーロン・ホッチナーは優しく撫でてくれた。
「送っていこう」
「だ・・・大丈夫れす・・・終電・・・間に合うかも・・・」
「馬鹿者。そんな格好で地下鉄に乗れるわけがないだろう。車で送る。・・・どこか、痛いところはないか?怪我は?」
リードは首振った。床に倒されたときの打撲はあるかもしれないが、大したことはないと判断した。
「そうか。じゃあ、帰ろう」
アーロン・ホッチナーは、リードが立つのを手伝ってくれた。そして、最低限の身なりを整えるのを待ってくれた。
「あの・・・」
「どうした?」
「・・・どうして・・・僕のこと・・・僕の名前・・・知ってるんですか?」
「ああ・・・それはな、君が賢くて、そして可愛らしいからだ」
アーロン・ホッチナーは優しい笑顔で答えた。それを聞いて、リードのは自分の心臓が鐘のようになるのを感じたのだった。
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それ以来、アーロン・ホッチナーは頻繁にアカデミーを訪れ、リードに護身術を教えてくれるようになった。とは言っても、運動神経ゼロのリードだ。パンチは無理だと早々に諦めた。しかし、アーロン・ホッチナーはリードの長い脚に目を付けた。リードの脚は充分に武器になる。だから、踵落としや回し蹴りを教えた。高身長ゆえに、リードの回し蹴りは、相手の顔にクリーンヒットする。身体を旋回するから、遠心力で充分な破壊力を発揮できた。幾度も稽古をつけてもらううちに、回し蹴りの精度も上がってきた。
そして、現在。
「リード!」
ホッチから逃げリードに向かってきた犯人に狙いを定める。もちろん銃ではない。そんなものをリードに持たせたら、身内が’危険だ。しかし、リードには別な武器がある。ホッチが育成した武器である。
「任せて!ホッチ!」
シャツに細いネクタイ、カーディガン。ボックスプリーツのスカートに左右柄違いの靴下。そんな服装のリードが、黒いコンバースを履いた足を振り上げた。そして、身体を旋回させる。
ズバゴンっ!!!!
ホッチとの特訓の成果もあり、今日もリードの回し蹴りは精度が高かった。踵が見事に犯人の頰にめり込んだ。薄汚れた歯が、2本ばかり宙を飛んだ。そして、犯人は地べたに沈んだ。遠心力によって翻ったボックスプリーツのスカートが華麗に捲れ上がる。地べたに沈む犯人が気を失う直前に見たものは、サクランボ柄のパンティだった。
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「リード。どうして、俺が送ったパンティを穿かないんだ」
「だってぇ・・・」
リードはモジモジとスカートの裾を弄った。昨夜、ホッチがリードの為に用意したのは、総レースのヒップハングショーツだった。あまりにもセクシーすぎるのい恥ずかしい・・・というので、ホッチは少しボーイッシュなヒップハングショーツで妥協したのだ。しかし、レースには拘りがあった。
「オフィスに帰ったら穿き変えるように」
「えー・・・」
「命令だ。背くのか?」
「・・・はい・・・穿き替えますぅ・・・」
リードは恥ずかしそうに俯くと、モジモジとした。
リードは、助けてもらったあの日、恋をした。自分を助けてくれた男に恋をした。神様の計らいで、相手も自分を好いてくれた。だから・・・恥ずかしいけれども、大好きな人の命令もちゃんと聴かなくちゃ・・・と思ったのであった。けれども、女らしい格好をしたことがなさすぎて、恥ずかしのだ。ボックスプリーツのスカートだって、最近になって、ようやく慣れたのだ。
「色はピンクで」
「・・・はい・・・」
犯人に手錠を掛けながら話す内容ではなかったが、どうせ気を失っているからと、平然としているホッチだった。そして、
「やっぱりホッチはむっつりスケベよね」
「うん。そう思う」
と確認し合う、エミリーとJJであったのだった。
END