「どうした?リード」
ホッチが出版社から打ち合わせを終えて屋根裏部屋に戻ると、リードがベッドを見詰めて腕組みをして唸っている。それで、ホッチは視線を古びたベッドの上へと移した。そこには、赤いドレス。レースの下着。ストッキング。赤いハイヒール。リードがムーラン・ルージュの踊り子だった時の普段着だ。リードが住んでいたアパルトマンは、一部の思い出の品を除いては、全て処分し、ほとんど身一つで、ホッチの屋根裏部屋の越してきたのだ。しかも、今は元来の性である、男のなりをしている。近所のカフェでギャルソンとして働いてもいる。それなのに、どうして、赤いドレスがあるのか。
「・・・あ。・・・ホッチ?ごめん、気づかなかった。えっと、お帰りなさい」
リードは、慌ててホッチに近づくと両腕をその逞しい首に回してキスを強請る。それはいつもの儀式だ。先に部屋にいる方がキスを強請る。どちらかというと、物書きをしているホッチの方が屋根裏部屋にいることが多い。だから、カフェから帰ってきたリードに、ホッチが「お帰り」のキスを送る方が多いのだ。今日は、ホッチが出版社に行っていたために、こういうことになった。というか、リードもいつもより帰りが早い。
「何かあったか?・・・その、ドレス」
「んー・・・。あのね、カフェにモーガンが来たんだ。エミリーとJJとガルシアのお願いを伝えに来たって」
「お願い?どんなお願いだ」
「・・・その・・・今夜だけでいいから、もう一度、ムーラン・ルージュの舞台に立って欲しいって」
「何か、理由がありそうだな」
「そうなんだ。理由はね、今夜はムーラン・ルージュのお祝いの日なんだ。なんていうのかな、ムーラン・ルージュのお誕生日的な?」
「ああ・・・ムーラン・ルージュが開店した日なのか」
「ああ・・・本当はね、先月なんだ。10月6日。でも、オーナーが体調を崩したりとか・・・その僕のこととかで・・・10月にはしなかったんだ。それを1ヶ月延ばして・・・」
「今夜になったということか」
「うん。10月6日にはさ、毎年、歴代の踊り子が来たりしてお祝いするんだ。それで・・・その・・・」
「元看板娘の君のところにも、話が来たんだな?」
「うん・・・そういうこと。・・・ねえ、ホッチはどう思う?」
「そうだな。・・・悪い話ではないと思うが?何せ、俺たちはムーラン・ルージュで出会った。思い出の場所と言ってもいい。それに、リードは、エミリーやJJ、ガルシアに恩義があるから、彼女らの頼みを断りたくないんだろう?」
「そんなことまで、分かっちゃうんだ・・・すごいや、ホッチ」
「せっかくの話だ。その赤いドレスに着替えて、一緒にムーラン・ルージュに行こう。君を送って、そして俺は客として君を観る。どうだ?」
「いいの?ホッチ、一緒に行ってくれるの?」
「構わない」
「うわぁ・・・嬉しい!ありがとう、ホッチ!」
「俺が嫌がると思って悩んでいたのか?」
「え?あ・・・ん・・・それもあるけど・・・」
「他には?」
「ほら、僕、髪を短く切っちゃったでしょ?それで、このどれを着たら変かなって」
「そうだろうか。髪の長さなど関係なく、君は美しいと思うが。最近は髪を短くする女性も増えた。いいんじゃないか?きっと似合う」
「本当に、そう思う?」
「ああ。君はどんな格好をしていても綺麗だ」
「・・・恥ずかしなぁ・・・もう・・・」
リードは俯いて恥ずかしがった。
「着替えるのを手伝おう。まあ、化粧はちょっと無理だが」
「ありがとう」
リードは嬉しそうに顔を上げて微笑んだ。
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リードはギャルソンの服を脱ぎ、全裸になると、レースのパンティを穿き、ブラの肩紐に腕を通した。後ろに立ったホッチが、そのホックを優しく留めてやる。ついでに頸に、軽くキスを落とす。
「ん・・・」
ホッチに触れられれば、自然に声が出る。日々の閨でそういう身体になった。これからムーラン・ルージュに赴かなければならないのに、困ってしまう。リードがもじもじしていると、ホッチはガーターベルトを取り、そのウエストに巻きつけて、そのホックも留めた。
「・・・ホッチ・・・」
くるりとリードが身体の向きを変えて、ホッチと向かい合う。
「駄目だろう?これから出かけるんだから」
「ホッチの意地悪ぅ・・・」
ホッチはリードをベッドに座らせると、絹の長靴下を履かせる。しかも綺麗な形の脚にキスをしながら。
「やぁ・・・も・・・ホッチ・・・」
リードがベッドに座りながら、身体をよがらせる。それを無視して、ホッチはリードの両脚を長靴下で覆ってしまった。後はガータベルトの留め金で固定するだけとなった。
「んー・・・もっ・・・やっ!」
リードはホッチの胸を押し、二人の間に隙間を作ると、急いで履いたばかりのパンティを脱いだ。そしてベッドの端に放ってしまう。
「お願い。ホッチ。我慢できないの。責任、とって!」
「これからムーラン・ルージュに行くんだろう?」
「こんな状態で行けるわけない!!身体が火照っちゃったの!ホッチのせいなんだから、ホッチがどうにかして!」
視線を落とすと、リードの果実は勃ち上がっていて、先端には蜜が溢れている。こういう身体にしてしまったのは、確かに自分だ。
リードはころんとベッドに転がると、自分の両膝裏を抱えて、自分で脚を左右に割り開いた。そこまでされて、何もせずにいられるホッチでもない。リードの股間に顔を寄せると、その果実を口に含み、転がし始めた。
「あっ・・・んあ・・・あ・・・気持ち・・・いい・・・」
言うまでもなく、ホッチは気持ちのいいことしか、リードにはしない。嫌なことは絶対にしない。恥ずかしいことはたまにするけれども。ホッチは口と指を使って、リードの快感を追い上げてやった。いつも抱いているにに、飽きることはない。リードも与えられる快感に飽きることはない。いつだってホッチとのセックスは新鮮だった。それに、今は、久しぶりに女性の下着を身に付けている背徳感もあるのかもしれない。
「い・・・く・・・」
リードは緩く、腰を上げた。それに合わせて、ホッチは果実を強く吸ってやる。
「ひゃ・・・ああ・・・ああああああ~っ!!!」
小さな叫び声とともに、背中がしなる。ホッチの口腔に甘い蜜液が広がる。ひくひくと弛緩した身体が、ゆったりとベッドに沈んだ。
「満足したか?」
リードは首を横に振った。
「ホッチが、まだ、だもん。僕の中で気持ち良くなって」
「そんなことを言って。出かけるのに」
「いいの。大丈夫なの。ホッチが欲しいの。くれなきゃ、行けない。そうしたら、エミリーたちに叱られるのはホッチだよ」
「それは・・・少々、怖いな」
「じゃあ、抱いて。僕の中に来て」
「わかった」
ホッチは手早く衣服を脱ぐと、待ち受けるリードの身体に覆い被さった。貪るようなキスを与えると、己の切っ先をリードの後孔に当てがった。いつも不思議に思うが、そこはすでに濡れていて、柔らかくなっていた。
「ホッチ、早く・・・」
「ああ・・・わかってる」
ホッチは両手でリードの両脚を抱え、折り畳むようにすると、ゆっくりと体重をかけていった。くちゅり・・・と言う音の後に、ズブズブと自分が飲み込まれて行くことがわかる。そして、柔軟な締め付けと。それはそのうちキツいものに変化する。
「は・・・い、いい・・・ホッチの・・・好き・・・大好き・・・もっと・・・トントンして」
奥を突いて欲しい時のおねだりだ。ホッチはそれに応えて、小刻みに突いてやる。
「あ・・・ひっ・・・ふあ・・・ああ・・・あんっ・・・」
甘ったるい声が、屋根裏部屋に響く。そんな声を誰にも聞かせたくなくて、ホッチはその唇をキスで塞いでやる。
「んぐっ・・・んんぅ・・・」
呼吸は苦しそうだが、気持ちはいいらしい。腰を揺らめかせて、ホッチを受け入れている。そんな姿が可愛らしい。幾度、抱いても、飽きることなどないのだ。スペンサー・リードは。愛しているが故に。ホッチが動く度に、ガーターベルトの留め金が揺れた。扇情的に、それは揺れていた。
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温い湯に浸して絞ったタオルで、脱力したリードの下半身を優しく拭いてやる。
「大丈夫か?ムーラン・ルージュには行けるのか?」
「ん・・・大丈夫。久しぶりに、ランジェリーを身につけたせいかな。変な気分になっちゃった」
拭いてもらった後、ゆっくりと起き上がると、リードは腕を伸ばして、さっき放ったレースのパンティを探すと、それを穿いた。そして、長靴下とガーターベルトを停めようとする。
「それは俺がやってやろう」
「また、変な気分になっちゃう」
「そうなったら・・・続きは帰って来てからだな。俺は久しぶりに踊り子の君の姿も見てみたい」
「ホッチが見たいなら、がんばろっと」
キュッっと留め金で靴下を挟み留める。4箇所の留め金。思わず、パンティと長靴下の間の皮膚、ある意味、絶対領域とも言えるその場所にキスしたくなる。けれども、それは、祝いのショーの後でもいいだろう。楽しみを後に取っておくのも悪くはない。
赤いドレスを着たリード。その後ろのボタンも留めてやる。もう一度、リードをベッドに座らせ、その足に赤いハイヒールもホッチの手で履かせる。まだ、化粧はしていないが、情事の後で、火照り、潤んだ瞳だけで、美しいと思う。
「今日はムーラン・ルージュのお祝いの日だけど、僕は貴方のために、踊るね。ちゃんと見ててね」
「ああ。俺には、君の姿しか目に入らないからな」
「そう言ってもらえると、とても嬉しい」
リードはホッチの手を取って、頬ずりをした。本当なら、腕を回してキスをしたいところなのだが、いい加減出かけないと遅れてしまう。リードは手早く化粧をすませた。しかし、最後の赤いルージュだけは、時間をかけてきちんと引いた。
「ホッチ、僕、大丈夫かな?」
「ああ。誰よりも、どんな踊り子よりも美しい。そうだな、また、何か物語を書きたくなるほどに」
「・・・ダメ・・・やっぱりキスしたいよ・・・軽いのでいいから」
ホッチはリードの意図を汲み取ると、その小さな顎に指をかけて、本当に軽いキスを送った。
「さあ、出かけよう」
今夜はホッチもクローゼットから、少し上質なフロックコートを出した。美しい踊り子と釣り合うように、原稿料で誂えたものだ。もう、踊り子を辞めてしまったリードだが、こんな時に役立つとは思わなかった。
ホッチの腕に、リードが細い腕を絡ませる。そして、屋根裏部屋の古びたドアを開けると、二人で仲睦まじく、ムーラン・ルージュへと赴いたのだった。
END