何度、身体を重ね、貫かれただろうか。仰向けにされてのし掛かられ、ぐっと奥まで昂りがリードを犯したし、その反面、膝の上に座らせて、指を絡めながらゆさゆさと優しく揺さぶられたりもした。けれども、それがどんな体位であっても、リードは嬉しかったし、もっとホッチに喜んでもらいたいと思った。自分からは、もうどんな液体も出ないくらいに夜通し責め立てられても、それが幸せだった。ホッチを後ろに咥え込んだまま、数度目の絶頂を味わいながら、意識を手放したような気がする。リードはうっすらと目を開いて、自分の左右を見た。そのどちらにもホッチはいなかった。「今、何時だろう・・・。アーロンはもうお帰りになられたのかな」と思いながら、リードは気怠い身体を起こそうとした。しかし、全くと言っていいほど、体に力が入らない。「あれ?」っと思って、もぞもぞとしたら、ようやく腕だけが持ち上がった。「どうしよう・・・部屋に帰れないなぁ」と困っていたら、優しい声が降ってきた。
「おはよう、スペンス。身体は大丈夫か?」
声が近づき、ホッチの顔がリードを覗き込んだ。
「・・・アーロン・・・どうしよう・・・起き上がれないんです・・・」
「そうか。・・・俺のせいだな」
ホッチは申し訳なさそうに言うと、ベッドとリードの背中の間に手を差し込んで起き上がるのを手伝ってやった。
「喉は乾かないか?」
「・・・少し」
「そうだろうな。昨夜はとても綺麗な可愛らしい声で啼いていたからな」
そう言うと、ホッチはリードのために、水差しの水をグラスに注いでやる。
「あ・・・自分で・・・」
「できないだろう?」
「・・・・・・」
リードはしゅんとなる。そうなのだ。うまく力が入らなくて水すらも汲めないのだ。渡されたグラスを両手で持つことはかろうじてできる。こくんこくんとリードは喉を鳴らしながら水を飲んだ。
「は・・・ああ・・・美味しかったです。ありがとうございます。それに、ごめんなさい。アーロンにこんなことをさせてしまって」
「何を言う。愛する者を労わるのは、当然のことだろう?」
リードからからのグラスを受け取り、空いた方の手で金髪を撫でる。それから、紫色のスリップ1枚のリードを横抱きにして抱き上げた。
「君の部屋へ案内してもらおうか」
「あ・・・自分で歩けます」
「本当に?」
「・・・えっと・・・」
言ってはみたものの、無理のような気がした。けれども、少し休めば大丈夫だろう。身体が怠いだけで、痛みは全くない。ホッチはとても優しくしてくれたのだとリードは思った。
「君の部屋は何回だ?」
「2つ上の階です。・・・でも・・・お客様が行くようなところではないです。こんな立派な部屋ではないんです」
リードは逞しい腕に抱かれながら、緋色の部屋を見回した。
「君が普段、暮らしている部屋も見てみたい」
ホッチは歩き出した。階段を上がり、廊下を歩く。リードが途中で指差した部屋を目指す。確かに、階の造りそのものが質素だ。客を迎え入れる場所ではないからだろう。何処と無く、埃っぽくて、うらぶれていた。リードを抱いたまま器用にドアを開けると、部屋の中に入り、疲れ切っている身体を静かにベッドに降ろしてやった。リードは両腕をついて身体を支えながら、ベッドに座った。
「あのお部屋に比べたら随分と質素でしょう?でも、僕にしたら、とっても良い部屋なんです。この娼館に来る前は物凄く酷い所に住んでいたんです。雨が降ったら、必ず家の中が雨漏りするような所でした。・・・そういう湿気も母には良くなかったのかなぁ・・・」
そこへトントンとノックの音が聞こえた。ホッチが出る。そこには、お湯の入った水差しとタオルを持ったアンダーソンが立っていた。
「ありがとう」
ホッチは心付けをアンダーソンに渡した。リードもドアの隙間から見えるアンダーソンに微笑んだ。扉を閉めると、ホッチは水差しとタオルをテーブルの上においた。すぐに洗面ボウルを見つけ、ホッチはそこへ熱い湯を注いだ。
「身体を拭いてやろう」
「えっ!だっ、だめですよ!そんなこと!自分でできますから」
「いいから、やらせろ」
嬉しそうにホッチがタオルを絞る。そしてリードに近づいた。紫色のスリップの肩ひもをするりと落とす。
「熱かったら、遠慮せずに言うんだぞ」
首筋から肩、腕。スリップを落とされて露わになった平らな胸。そこをタオルで丁寧に拭われる。リードは申し訳なく思うが、気持ちは良かった。さっぱりとする。そう思っていたら、トンっと肩をホッチに押された。無防備な絵リードはベッドに倒れこむ。それと同時に、スリップが剥ぎ取られた。
「あっ・・・」
反射的にリードは自分の手を股間にやった。が、すぐにホッチに取り払われてしまった。
「今更だろうに」
「そっそれは・・・夜の話でっ・・・」
しかし、ホッチは聞く耳を持たず、新しいタオルで、リードの下腹部や鼠蹊部、それに昨日散々愛してやった場所を拭いてやる。もちろん、後ろの方も。ん?3枚目のタオルでは脚を。つま先まで丁寧に拭われる。
「寒くないか?」
「大丈夫です。・・・本当にごめんなさい・・・貴方に世話を焼かせてしまって」
「俺は非常に楽しい」
ホッチは笑って、タオルを洗面ボウルの中に入れる。
「じゃあ、着替えるか」
「あ、もう大丈夫です。もう立てます。着替えも自分で準備できますから」
「そうか。しかし、これから君が着る服はこれだ」
ホッチはテーブルの陰に置いてある箱を持ち上げた。
「え?」
今まで貰ったどんな箱よりも大きな箱だった。小さな箱も1つある。ホッチはそれをベッドの上に置き、蓋を開けた。
「君の新しい服だ」
リードはおずおずと箱の中を見る。シャツにベスト。ジャケットにズボン。下着も。どれも、今ホッチが着ているような、上質なものだった。いつもリードが着ている、ブラウスやズボンとはまるで違っている。そう。まるで上流顔級の人間が着るような洋服の一色だった。
「こっちは靴だ」
ホッチが蓋を開けると、美しく磨き上げられた革靴が現れる。リードは娼館の中では靴など履いたことがない。いつも裸足だ。
「あの・・・どういうこと・・・ですか?」
「簡単なことだ。スペンスはこの服を着て、迎えの馬車に乗る。そして、俺の屋敷に行くんだよ」
「えっ・・・え!?」
リードが綺麗な目を見開く。あまりの驚きに声を失う。そんなリードに微笑みかけながら、ホッチは白いシャツを手に取り、リードの肩にかける。
「さあ、着せてやろう」
「・・・ま・・・待って!待ってください!・・・ぼ、僕は・・・その・・・この娼館からお出かけすることはできなくて・・・その・・・えっと・・・」
「お出かけ?違うな。ああ、そうか。俺の言い方が悪かったな。あのな。スペンス。君は俺と一緒に俺と一緒に俺の屋敷に帰るんだ。そして、二度とこの娼館には戻ってこない」
「え・・・わ、わかんない・・・」
「君は賢いだろう?わからないわけがない」
「だって・・・どうして・・・」
「愛してると言っただろう?それに君だって、俺を愛してくれているだろう?違うか」
「・・・違って・・・ないです・・・」
「だから、俺は、君を連れて帰るんだ。ずっと一緒にいたいからだ」
「でも・・・僕は・・・とても低い身分で・・・こんな服を着る資格なんてないし・・・貴方のお屋敷なんて・・・そんな・・・」
「俺は君を他の誰にも渡したくないし、触らせたくない。となると、連れて帰るしかない。スペンス、悪いが君に拒否権はない。もう、ストラウスに金を払ったからな。もう、君に借金はない」
「そんな・・・僕・・・そんな価値・・・ない・・・」
「さあ、それはどうかな」
ホッチは不敵に笑うと、リードの体に服を着付けていったのだった。
********************
綺麗な服を着て、金髪を後ろに流したリードは貴公子のようだった。その姿を満足げに眺める。そして、ホッチはリードを連れて娼館を出た。女将のストラウスとエルが、玄関まできて、二人を見送った。
「これに・・・乗るんですか?」
美しい装飾の施された馬車にリードが怖気付く。
「ああ。そうだ。さあ」
リードの手を取り、馬車に乗せてやる。シートに座るのが怖がっているリードの肩を抑えて無理矢理座らせる。もう、リードの体はガチガチだった。着ている服を汚しちゃいけない。馬車のシートを汚しちゃいけない。そんな思いばかりが、リードの頭を駆け巡る。隣に座ったホッチはそんなリードを片腕で抱き寄せる。
「今からそんなに緊張して、屋敷についたらどうするんだ」
「・・・死んじゃうかもしれません」
「それは困るな」
馬車は程なくしてホッチナー邸に到着した。ホッチは再びリードの手をとって、馬車から降りるのを手伝ってやる。地面に足が付き、リードは顔を上げた。そして、息の飲む。
「あ・・・・アーロン・・・いえ、ミスター・ホッチナー・・・」
「どうして呼び方を変えるんだ?スペンス」
「だって・・・やっぱり・・・僕・・・場違いだ・・・」
立派な屋敷を目に前にして、リードは後ずさる。しかし、ホッチのその腰に手を当てて、強引に歩かせた。
「・・・怖い・・・」
「バケモノ屋敷じゃないぞ。ああ・・・でも、それに近いのは来ているかな」
「え?」
「まあ、会ってのお楽しみだ」
数人の召使がエントランスで並んで待ち構えている。リードはいたたまれなくなって、下を向いてしまう。自分は貧乏で、母親の入院費用のために娼館で働くようになった人間だ。こんな立派な場所にいていい人間ではない。しかし、身体はしっかりとホッチに捕まえられていて逃げることはできない。
「きゃああああ!!!貴方がスペンサー・リード!?」
「金髪が綺麗ね!目の色も素敵」
「やっぱり私が誂えた服はいいわね。似合ってるわぁ!!!」
女性が3人。エントランスに躍り出て来た。あっという間に囲まれる。
「私はジェニファーよ。JJって呼んでね?」
「私はエミリー」
「私はペネロープよ。その服は私が見立てたの!どお?着心地は!?」
グイグイと来られながらも、リードは失礼にならないように、やっとのことで答える。
「と・・・とても、素敵です。・・・僕には勿体無いくらいに・・・」
「あら。貴方のためにあるような服だわ。すごく似合ってるもの!!!」
「さあさあ、お茶にしましょう。貴方の好きなショコラ・ド・オランジュも用意したわ!」
リードの身体はすっかりホッチから女性3人に奪われてしまった。ホッチは仕方がないな、と肩をすくめる。そんなホッチの背中を叩いたのが、ロッシとモーガンだった。
「うまくいったようだな。籠の鳥を救い出したか」
ロッシが言った。
「それで?これからどうするんだ?この屋敷で」
モーガンが問う。
「そうだな。モーガンが調べてくれた通り、賢い青年だ。ああ、そうだ。情報が1つ抜けていたぞ?彼はロシア語もできる」
「・・・それは・・・凄いな」
「今からでもきちんと教育を受けさせれば、きっと俺の素晴らしい右腕になるだろう。ただ、それは少し先の話だな。もう少し、彼との蜜月を大事にしたい」
「それがいい」
ロッシが賛同する。
「モーガン、彼の母親の病院の件は?」
「大丈夫だ。ちゃんとした病院に移送した。看護体制も整っている。そのうち、見舞いに連れて行ってやるといい」
「そうだな。きっと、喜ぶ。とても母親のことを愛して、大事に思っている青年だ」
ホッチはJJ、エミリー、ガルシアに連れ去られていくリードを穏やかな目で見守った。ホッチがリードに新しい生活を用意したのは、哀れみでも、憐憫でも、奉仕でもない。ただ、愛した者を大切にしたいという、純粋な思いだけだった。そんな感情が自分にもあるのだということを、リードに出会って、初めて知った。
「そろそろ、助けに行ってやった方がいいんじゃないか?」
モーガンが言うと、ロッシも頷いた。
「そうですね。けれども、彼女たちはきっと、彼の気持ちをほぐす役割を果たしてくれると思いますよ」
そう言いながらも、ホッチは4人が消えて行った部屋へと足を運んだ。
そう。
籠の鳥は、解き放たれたのだ。
END