FBI監督特別捜査官アーロン・ホッチナーとDr.リードには、朝の細やかで秘め事的な儀式がある。
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朝。リードはオフィスに入るとみんなに挨拶をして、手に持っていたコーヒーの紙コップを自分のデスクに置いて、鞄を斜めに掛けたままホッチの個人オフィスに向かった。ノックをして入り、後ろ手に扉を閉める。すでにデスクで書類仕事をしていたホッチは顔を上げずに言った。
「リード。鍵とブラインドを」
「・・・はい」
リードは扉に内鍵をかけ、ブラインドを閉めた。これで、ホッチのオフィスは外界から閉ざされる。リードが鞄を肩から外して黒いソファに静かに置くと、おずおずとホッチのデスクに近づいた。そこで、ようやくホッチは顔を上げて、リードを見ながら立ち上がった。ゆっくりとデスクを回り、リードの前に立つ。肩よりも少し上までの長さの髪をひと撫でする。それが合図だった。リードは濃い紫色のベストを脱ぎ、続いて同系色のネクタイも外した。元々、シャツの一番上のボタンは留めていない。リードは上司の顔をじっと見つめた。少し緊張した面持ちで。今日は、合格点だろうか。そこから先はホッチの仕事だ。骨太な指で、リードのシャツのボタンをゆっくりと1つずつ外す。チノパンのウエスト部分からシャツの裾を引っ張り出して、一番下までボタンを外し、シャツを肩から外した。
「・・・ああ・・・いいな」
「・・・合格?」
「もちろんだ。そもそも俺はリードの身体に似合うものしか選ばないし、買わないからな」
「よかったぁ」
毎日のことであるが、いつもリードは嬉しそうに笑う。どんなにホッチの選ぶセクシー・ランジェリーが素敵でも、自分の身体や着こなしがイマイチだったら台無しだからだ。今日のランジェリーは黒。まるで蝉の羽のような、繊細なレースが特徴の綺麗なブラジャーだ。これもいつものようにホッチが選び、昨日プレゼントしてくれたものだ。ホッチは黒いレースに隠された平らな胸に、チュッとキスを1つ落とすと、シャツを直してやる。
「下は?」
「・・・もちろん・・・ホッチが昨日くれたやつだよ・・・ブラとお揃いの黒いレースの・・・その・・・」
「Tバック?」
「・・・うん」
リードが恥ずかしげに呟いた。
「いい子だ。見せてくれるか?」
リードは無言で頷くと、かしゃかしゃとベルトを外した。チノパンを全て下ろすことはせずに、ちらりと見せる。ホッチはそんなリードを抱き込むと、背後に手を回して、ストリングを軽く引っ張る。
「あ・・・ん・・・ダメ・・・まだ朝で、これから仕事なんだから・・・」
「わかってる」
ホッチはリードから離れると、自分のデスクから、茶色い紙袋を取り上げた。
「リードは、これは明日の分」
「はい、わかりました」
リードは微かに嬉しそうに微笑むと、素直にその紙袋を受け取り、愛用の鞄にそっと入れたのだった。
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その頃。JJとエミリーとモーガンは、ブラインドに閉ざされたホッチのオフィスを見上げながら、こそこそと話し合っていた。
「何で、ブラインドを降ろすのかしら」
「鍵をかける音もしたぞ」
もう、かれこれ2週間以上続いてるわよね」
そこへ、ラップトップを持ったガルシアが現れた。
「ちょっと!みんな!これを見て!謎が解けたわ!」
3人からよく見えるように、デスクの上にラップトップを置く。そして、そのモニターに映し出されていたのは、ランジェリー・ショップの公式ウェブサイトだった。
「あら、素敵。可愛いわね、このレース」
と、エミリー。
「私、この色好き」
これは、JJ。そこへモーガンが本題に戻そうとホッチのオフィスを指差しながら、口を挟んだ。
「これとあの謎がどう繋がるんだ」
「ホッチのオフィスと自宅のコンピュータをハッキングしたの。これが最新の検索履歴。過去の履歴を遡っても、この手のお店のサイトばっかりなのよ。ちなみに、昨日ホッチの自宅に届いた商品がこれ」
ガルシアがクリックすると、黒いレースのブラとショーツのセットが映し出された。
「やーん。セクシーで可愛い」
「蝉の羽のような繊細なレースですって。確かに」
JJとエミリーがキャッキャと喜んでいる。そこへ、ロッシが登場。
「お。それは私がホッチに教えた見せだな。そうか、早速行動に移していたか」
「「「「え?」」」」」
4人の疑問詞が小さく響く。
「最近、マンネリ化してるから、刺激が欲しいって相談されてな。それで、色々なランジェリーサイトを教えたんだ。活用しているんだな、いいことだ」
笑いながらロッシはコーヒーを淹れに立ち去った。
「つまりだ・・・」
モーガンは呟いた。
「今日のリードはこれを・・・」
「「きゃーん!可愛いー!!!」」
モーガンの声はJJとエミリーの叫び声に掻き消された。
「ねえねえ、ガルシア。ホッチは他にどんなの買ってるの?」
「待って、順を追って履歴を見せるから」
モーガンはそっとその場を離れた。その時、ホッチのオフィスからリードが出て来る。いつもの肩掛け鞄を大事そうに胸に抱いていた。
「あ、おはよう、モーガン」
「あ、ああ・・・あー・・・おはよう、天才君」
「ねえ、JJたちは何を盛り上がってるの?」
「気にするな。それよりも、お気に入りのカフェのコーヒーを奢ってやる。外に出るぞ」
モーガンはリードを女子3トリオから離すように促した。
「ほんと!?じゃ、砂糖とクリームがたっぷりの甘いラテ!!」
「わかった、わかった」
モーガンはリードの背中に手を当てようとして、思わず止める。そうだ、この服の下は。
「・・・・・・お前も大変だな」
「ん?何が?ねえねえ、ラテにチョコレートシロップもトッピングしていい?」
「ああ。いいぞ」
自分の弟分であるリードに同情の眼差しを向けながら、モーガンはリードを連れて歩き出したのだった。
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その頃。
「こんなのはどうだ?このショップはかなりセクシーななのを取り揃えているぞ」
「いいですね。この色はリードに似合いそうだ」
互いのスマホを操作しながら、コアラとゴリラが、ランジェリーショップのウェブサイトを検索していたのだった。
END