Honey and Lime 02

いつものように、スティーヴはカマロの運転席に収まり、ダニーもまた、文句も言わずに助手席に座る。

遅刻だの蜂蜜だの大騒ぎしても、二人はFIVE-0。けじめはしっかりつける。・・・と言いたいところだったが。

運転しながらスティーヴがチラチラとダニーに視線を送る。

「・・・・・・スティーヴ。頼むから、前を見て運転して。俺、死ぬなら殉職がいい。少なくともあんたのハンドリング・ミスが死因だなんて嫌」

しかし、スティーヴはダニーから発せられているであろう蜂蜜の匂いが気になって仕方がない。別に、蜂蜜が嫌いなわけでもないし、ダニーが悪いと言いたいわけでもない。ただ、気になるのだ。

蜂蜜よりもダニーが気になる。それはダニーの姿勢にもあった。

いつものダニーなら、もっとシャンとして座り、スティーヴに説教をしてくる。それなのに、今日は見るからに怠そうにシートに体を預けているからだ。

「何。何よ」

「ダニー、正直に言ってくれ。体調が悪いのか?本部待機の方が良かったんじゃないのか?」

「・・・・・・喉が渇いた。悪いんだけどさー。途中でミネラル・ウォーターを買ってくんない?これから現場に行くってときで悪いけど。昨夜の酒が抜けてないのかもねー」

「わかった」

急ぐ事件でもない。今頃マックスが先に現場に到着して、簡単な検死をしている頃だろう。

スティーヴは目に付いた店の前に車を止めた。

スティーヴから受け取った水を喉を鳴らして飲むダニーを見てから、車を発進させる。

やはり酔いが残っていただけなのか、水を飲んだダニーは少しだけ調子が良くなったようにも見える。

「さー!張り切ってお仕事しましょー!」

ダニーはスティーヴよりも先にカマロから降り、現場のマックスに小走りに近づいていった。その様子を見ながら、「思い過ごしか」と小さくため息をつきながら、スティーヴも車を降りる。

そのとき、ナビシートの上にキラリと光るものを見つけた。

薬1錠分のPTPシート。

「薬が飲みたかったのか?ダニーは・・・」

そう呟くと、スティーヴはそのPTPシートをカーゴパンツのポケットにしまった。

「死因としてはそう難しくないよ。被害者は30代男性。背後から拳銃で心臓を撃たれて即死。完全なる他殺だ」

マックスが言う。

「ただし」

その後をチンが繋いだ。

「ドラッグが絡んでいる可能性がある。被害者のそばにこれが落ちていた。鑑識に回してみないとわからないけど」

チンがPTPシートを1枚差し出す。

「もしかしたら、この被害者は鞄か何かを持っていたかもしれない」

「その中にドラッグが?」

ダニーが聞き返す。

「可能性としては」

チンが頷いた。

「OK。近くの防犯カメラをチェックだ。マックス、被害者の薬物反応も検査してくれ」

「もちろん」

太陽の光を浴びて、キラキラと光る、銀色のPTPシートを見ながら、スティーヴは先ほど自分のポケットに入れた別な色のPTPシートを思い出していた。

「ねえねえ、ボス!」

ファイブ・オーの本部。ノックをしながらコノがスティーヴのオフィスに入ってくる。

「どうした?コノ。防犯カメラのチェックは終わったのか?」

「それはバッチリ。容疑者と思しき人物が映ってた。認識ソフトで検索したら1名がヒット」

「住所は」

「それもバッチリ。私とチンとで行ってくる。経歴を見たら小物っぽいし」

立ち上がろうとするスティーヴをコノは手で制した。

「それよりね、ボス。ダニーが寝てる」

「・・・・・・は?」

「オフィスにダニーの姿が見えないなーって思ったら、ソファで寝てたの!朝、寝坊して、そして今も眠ってるの!ねえ、ボス、昨夜どれだけダニーに飲ませたのよ」

「いやいや、大して飲んでないし、飲ませてない!いつもより少ないくらいだった!」

「でも、心配よねー!ってことで、容疑者のところには私とチンで行ってくるから、ダニーをよろしくー」

ここの指揮者は一体誰なんだ。と突っ込まれそうだが、スティーヴもダニーが心配になった。ここは素直に、コノとチンに任せることにする。

二人を見送るとき、スティーヴは聞いてみた。

「なあ、ダニーから蜂蜜の匂いがするって気づいてたか?」

チンとコノはきょとんと首を傾げ、お互いを見遣った。

どうやら、二人にはわからないらしい。自分の鼻がおかしいのか?

スティーヴも二人に習って、首を傾げたくなった。

自分の体を抱くようにして、ダニーは眠っていた。

ソファの側に屈みこんで、ダニーの首元に鼻を寄せる。

やっぱり、蜂蜜の匂いがする。ただし、朝よりはずっと薄くなっていて、微かになっている。

スティーヴのカーゴパンツの中でスマートフォンが鳴った。

鑑識のフォンからだった。

被害者の側に落ちていた薬物の鑑識結果が出たのだろう。そして・・・・・・。

『スティーヴ。銀色のPTPシートの方は予想どおりのドラッグだよ。最近出回り始めた新種のものだ。それから、もう一つの方だけど・・・』

スマートフォンの向こうのフォンの口が止まる。

「薬物か?」

『んー。スティーヴはこれを何処で手に入れた?中身は?』

「それは言えない。ただ中身はなかった。シートだけを拾ったんだ」

『まあ、あえては聞かないど。これ、ものすごく珍しい薬だよ』

「ドラッグか?」

『そういうのじゃない。微かに残っていた粉とPTPシートの種類から割り出したんだけど、これ、抑制剤だよ』

「抑制剤?」

『そう。Ωが発情期の症状を軽くするために服用する、発情抑制剤。ちなみに副作用は、怠さ、食欲不振、それと眠気などなど。スティーヴ、君の身近にΩが?』

「いや。偶然、他の事件で拾っただけで。・・・わかった、ありがとう、フォン。じゃ」

スティーヴはそそくさと電話を切った。

Ω?ダニーがΩ?

スティーヴは口を押さえながら、ソファに眠る相棒を見下ろした。

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