I’m tired. Side:Harvey

「飽きた」

ハーヴィーは22:00過ぎのオフィスでボソリと呟いた。別に仕事が嫌いなわけじゃない。どちらかというと、休むのは嫌いだし、ワーカーホリックの気はある。ただ、今現在、取り扱っている案件が、ジェシカに無理矢理押し付けられたものであり、あまり興味のわかない内容だったからだ。気の乗らない仕事は、そこはかとなく精神を疲弊させる。

「ふむ」

ハーヴィーは、視線を宙に巡らせてから、スマホでメッセージを打った。相手はマイクだ。内容は、「今すぐ、オフィスに来い」だ。マイクが残業していないなんて思わない、ハーヴィーだった。

パタパタと廊下を走る足音とともに、マイクが現れた。今日は薄い水色のワイシャツだ。書類と格闘していたのだろう。袖を捲っている。白もいいが、青い瞳に合わせたこの色のワイシャツも好きだった。

「何?ハーヴィー!仕事に煮詰まった?僕のアイディアが必要?」

青い瞳をキラキラさせてマイクが言ってくる。マイクもどちらかというと、仕事大好き人間だ。いつも誰かの役に立ちたいと思っているせいだろう。

「ああ。ある意味、仕事に煮詰まった」

「え?何?ハーヴィーが手を焼くくらいな難しい案件なの?聞かせて!」

「そうだな。ソファでゆっくり、な」

そう言って、ハーヴィーはマイクをソファに促した。マイクは、もし犬だったら確実に尻尾をブンブン振っているかのような、ワクワクした表情でハーヴィーに従う。ハーヴィーが座った隣に座ろうとした瞬間、腕を掴まれて引っ張られた。体がハーヴィーの膝の上におさまる。

「ハーヴィー。この姿勢は、仕事をする体勢じゃないと思うけど?」

マイクが首を傾げて言う。けれども、嫌な顔はしていない。膝の上に乗せられた瞬間に、自分が呼び出された理由を察知したのだろう。マイクは、そういうところも聡くて、ハーヴィーのお気に入りだった。

マイクは、体を落ち着かせるために、左手をハーヴィーの膝に乗せて、右手でその逞しい頸に触れた。

「煮詰まった時は・・・気分転換が必要だよね、ハーヴィー」

小さく微笑みながら、マイクはハーヴィーの耳元で囁いた。

「Harvey, please」

その言葉でスイッチが入る。ハーヴィーは左手でマイクの太腿を掴んで引き寄せ、右手でその細い頸に手を添えた。そして、引き寄せるのではなく、マイクの体を半ば押すようにして、口付けた。・・・微かにキャンディー・バーの味がした。夕食抜きで、仕事をしていたのだろう。キャンディー・バーを齧りながら。けれども、そんな菓子の甘さよりも、マイクの唇は甘かった。押し付けるようにして、唇を味わいながら、舌を差し込む。絡めながら、溜まる唾液を吸い、飲み込む。キスに夢中になりながらも、どこか思考がクリアになるような気がした。本当に、愛している人間との接触は心地いい。

「んっ・・・ふっ・・・んんっ・・・」

わずかな唇の隙間から、マイクが必死に呼吸をしようとしている。けれども、ハーヴィーから逃げようとする気配はない。本当に可愛らしい。

ハーヴィーは、ほんの少しだけ、唇を離した。ただし、両手をマイクの体から離すことはしなかった。

「夕食の後のセックスと、せっくすの後の夕食・・・どっちがいい?」

「ふふっ・・・もう、夜食って時間だけどね。・・・でも、セックスはじっくりしたいから・・・先にご飯食べたい。ルイスの仕事のせいで、夕食抜きなんだ、僕。でも・・・仕事はいいの?」

「つまらん仕事だから、明日に回す。君の仕事は?」

「ルイスに仕事だから、明日に回す」

「意見が合ったな」

「そうだね」

至近距離で笑い合う。

「アソシエイト・オフィスに戻って、帰る支度をして来い。下で落ち合おう」

そう言いながらも、ハーヴィーはマイクの体をなかなか離さなかった。離し難かったのだ。いつでも触れることのできる関係にありながらも、離れたくない。随分と我儘なものだ、と自己分析をする。ハーヴィーはもう一度、マイクに深く口付けた。マイクもまた素直にそれを受け入れて嫌がらない。

2人が、夕食にありつけるのは、一体、何分後のことになるだろう。

それは、神のみぞ知る、だった。

END