「ねぇねぇ、ハーヴィー。僕もう10日間も自分のアパートに帰ってないんだけど?」
「何か不都合でもあるのか?」
「・・・スーツは全部持ってきてるし、私服はハーヴィーのを借りてるからいいんだけど・・・でも、こんなに入り浸ってるのもさー。おかしくない?」
「全然」
ハーヴィーのペントハウス。ソファに座って足を抱えて座ったマイクが飲まされているのは、ホットミルクだった。バレンタインの夜以来、お酒を飲ませてもらえないのだ。それを強いているハーヴィーはいつものように、スコッチを飲んでいる。
「いーなー。美味しそう・・・。仕事に疲れたときとかさ、仕事を頑張ったときのお酒って美味しいよね・・・」
「酒は絶対に駄目、だからな」
「うー・・・」
ヒート状態におけるΩの妊娠率は高い。それでなくとも、あの夜、ハーヴィーはマイクの中に何度も精を放った。検査したわけではないし、検査したところで、まだはっきりする時期ではないが、留意するに越したことはない・・・というのがハーヴィーの考えである。食事の管理も完璧だった。妊婦に食べさせてはいけないものを調べ上げ、毎日キッチンに立つ始末。
『なんか・・・街一番のクローザーが大変なことになってる・・・』
と、口には出さないが、心の中で思うマイクだった。
「病院にはいつ行くんだ?」
「んー。そろそろ、抑制剤がなくなってくるから・・・えっとー」
スマホでスケジュールを確認しながら、マイクが答える。
「来週かな」
「俺も行く」
「なんで。薬をもらいに行くだけだよ?」
「ついでに調べてもらえ」
「えー・・・わかるのかなぁ・・・早すぎじゃない?」
「いいから。ついでだろう」
「そりゃまあ、そうなんだけど」
「自分の体のことだろう」
「だからこそ、まだかなーって思うんだよね。自覚症状がないっていうか。まだ、10日だし」
「マイク」
ハーヴィーが眉を潜める。その表情を見て、マイクは肩を竦めた。
「わかったよ。来週、抑制剤をもらうついでに、一応調べてもらうよ」
「そうしてくれ。・・・ん?妊娠したら、発情ってしなくなるのか?」
「どうなんだろ・・・それも聞いてくるよ」
その言葉を聞いて、ハーヴィーは満足気に頷いた。そして・・・
「そうだ、マイク」
ハーヴィーが立ち上がって、寝室から小さなショッピングバッグを持ってくる。そして、マイクの隣に腰を下ろした。そしてマイクの手から、ミルクの入ったマグカップを取り上げて、ローテーブルに上に置いてしまう。
「あー。まだ飲んでる最中なのに」
「いいから」
ショッピングバックからこれまた小さな箱を取り出す。
「15日にオーダーして、今日、出来上がったんだ」
ハーヴィーが蓋をあけると、リングが2つ並んでいる。
「えっ・・・リング?」
「ああ。本当なら、番になったときに、作って渡すべきだった。俺としたことが、失敗した」
「うわぁ・・・すごいクールなデザインだね」
「ハリーウィンストンのザリウム・バンドリングだ。プラチナも考えたが、こっちの方が心惹かれた」
「うん。これすごく好きかも」
「ほら、指を出せ」
「・・・・・・いいの?」
マイクはなかなか手を出さずに、ハーヴィーを見上げた。その不安気な顔にハーヴィーの表情が曇る。
「どうした?」
「だって・・・なかったことにもできるんだよ?・・・もちろん、ハーヴィーが僕を番にしてくれたこと、すっごく嬉しい。でも・・・ともすれば、僕はハーヴィーの負担になるかもしれない。こんな・・・リングなんて、形のあるものをしちゃったら・・・」
「馬鹿だな。俺は、ちゃんと目に見えるように、形のあるものにしたいんだ。だから・・・受け取ってくれ」
ハーヴィーがリングケースから指輪を一つ取り出すと、そっとマイクの手を取った。そしてその左手の薬指に軽く口付ける。
「俺は君を一生離さない。覚悟しておけ」
マイクの手を取り、その薬指にリングを嵌める。そしてもう一度、リングの上からキスを落とした。
「ありがとう、ハーヴィー・・・。幸せだよ、僕」
そして、今度はマイクがリングケースに手を伸ばした。
「僕も・・・いい?」
「もちろんだ」
さあ、嵌めろ。と言わんばかりに、ハーヴィーが指を差し出す。マイクはクスリと笑って、ハーヴィーの薬指にリングを通した。そして。二人同時に、左手の指を絡ませる。そして、互いに顔を近づけて、深いキスをした。
「ふっふっふ~。見ちゃったぁ。お揃いのリング!」
ハーヴィーがオフィスに入るなり、ドナに捕まる。
「ザリウム・バンドリングを選ぶなんて、そのセンス、ハーヴィーらしいわ」
「特注だ。急がせて、10日かかった」
「あら。サイズさえあれば、すぐに買えるでしょ?」
「だから。あれは特注だ。マイクのリングにはGPSが仕込んである。本当なら、マイクの体にマイクロチップを埋め込みたいくらいなんだがな」
「・・・ハーヴィー。犬や猫じゃないのよ?マイクは!」
「だから、GPSを仕込んだリングで我慢してる。あ!あいつ、裁判所の帰りに寄り道してるな!」
ハーヴィーがスマホを見ながら声を上げる。
「・・・ハーヴィー。行き過ぎると、モラハラ彼氏とかDV彼氏になっちゃわよ?」
「何を言う、俺は夫だ」
「あら?結婚式に呼ばれた覚えはないんですけど?」
「じゃあ、君の力で、プラザ・ホテルを押さえてくれ」
「了解!ただし。マイクのOKが出たらね!」
「マイクの許可が必要か?」
「当たり前じゃないの。ま、私の勘では、マイクはひっそりとこじんまりとやりたがるわね。っていうか、結婚式をやること自体拒否すると思うわ」
「どうしてだ」
「それは、マイクに直接聞くべきね。でも・・・おめでとう、ハーヴィー!私は二人を応援するわ」
そう言って、ドナはワンピースの裾を翻して去って行った。
むーん、とした表情で立つハーヴィー。その脳内は、いかにしてマイクと結婚式を行うかでいっぱいだった。
END