リードは身に付けていた借り物のジュエリーを飾り箱の中に閉まった。メイクはそのまま。鏡の中の自分を見ると、髪に羽根の飾りが付いていた。慌ててそれも外し、鏡台の上に置いた。銀色のスパンコールで彩られた衣装を脱ぎ、自分の赤いドレスに着替える。それから、ホッチに買ってもらったコートを羽織った。そして黒いストールを巻く。コートのポケットから黒いファー付きの手袋を取り出し、嵌める。
フランス、パリ、冬。
底冷えのする季節だ。
リードは楽屋を出て、店···ムーラン·ルージュの従業員用裏口から外へ出た。
暗い街灯が1つ。けれども、その暗がりの中に立つ男のシルエットを見つけて、リードは微笑んだ。
「ホッチ!」
「リード」
「待たせて、ごめんね。寒かったでしょ?」
「いや。来たばかりだ」
「嘘」
リードはホッチの手を取った。
「ほら、冷たい。ひんやりしてる」
「冬だからな」
「僕、一人で帰れるよ?ホッチ、無理しないで」
「それはこっちのセリフだ。君はカフェとムーラン·ルージュの掛け持ちだ。疲れてないか?」
「大丈夫」
ホッチとリードが歩き始める。リードはごく自然に、ホッチに腕に自分のそれを絡めた。空気は冷えているが、まだ雪は降らない。クリスマスまでには降るだろうか。
クリスマスが近く、パリの人々は浮かれていた。こんな時期は夜の街も稼ぎ時だ。ムーラン·ルージュも然り。このクリスマス·シーズンの呼び物として、オーナーはリードに舞台に立つことを交渉した。破格のギャラで。一瞬迷ったものの、リードは承諾した。クリスマスといえば、プレゼントだ。お金があれば、ホッチに何か素敵なものを買うことができる。素敵な何か。素敵な贈り物。ワクワクする。以前、ホッチと行った、ボン·マルシェなら、きっと素敵なものが見つかるはず。クリスマスに向けて、リードの心は高揚するばかりだった。
***
「すぐに暖炉に火を入れるからな。部屋が暖まるまで、コートを着たままでいた方がいい」
「ホッチもね」
「そうだ!ねえ、ホッチ。クリスマス·イブの夜、お出かけしない?」
「出かける?」
ホッチは訝しげに眉を顰めた。自分は執筆、リードはカフェとムーラン·ルージュで忙しく、クリスマスの予定は立てていなかった。もちろん、特別な日に、特別なことを行いたいとは思っていたが。
「あのね、カフェでパーティーをするの。ほら、モンマルトルって芸術家さんが多いでしょ?画家さんが多いんだけど、みんな一人で暮らしている人が多いんだよね。クリスマスの夜にひとりぼっちなんて寂しいからって、カフェのオーナーがね、企画したの。それにね、ホッチの小説のファンもいて、ぜひ貴方に会いたいって!···えっと···ダメかな?」
一気に話した後、リードは俯き加減にホッチの顔色を伺った。つい、自分の思いを独りよがりに喋ってしまうのが、自分の悪いところなのには自覚があった。また、やっちゃった···と少し、トーンを落とした。
「···リード」
「ごめんなさい。貴方の予定も聞かずに」
「何を言っている。俺は君と一緒にいることができたら、それだけで嬉しい」
「迷惑じゃなかった?」
「全然。クリスマスのお仲間に入れてもらおう」
「本当?嬉しいな。あ、それとね、僕、そのパーティーにはドレスで参加なの。芸術家さんたちにムーラン·ルージュのお裾分け」
「そうか。それは喜ぶだろう」
リードが元ムーラン·ルージュの踊り子であることは、カフェの常連客は知っている。踊り子姿のリードを描いた、小さな水彩画を貰ったことがあ理、それはリードのドレッサーの近くの壁に飾ってある。
「でも···パーティーが終わった後は、貴方と二人っきりで過ごしたい」
「もちろんだ」
リードの望みはホッチの望みだ。ホッチはリードに近づくと軽く纏めた髪を撫でた。肩につくかつくないかのギリギリの長さになった髪をリードは切らなかった。ムーラン·ルージュの手伝いに行くことがあるし、ホッチは今のリードのスタイルを好んだから。言ったことはないが、リードは察したらしい。ハサミを入れずに、ここまで伸ばした。ギャルソンの仕事をするときには後ろで結んでいる。
ホッチはリードの髪を纏めているピンを外した。するりと髪が落ちる。
「ねえ、ホッチ。あったかくなろ?」
リードは背伸びをして、ホッチの首に腕を絡めた。
暖炉の火が屋根裏部屋を暖めてくれるには、まだ時間がかかりそうだ。それなら、互いの温もりを交換した方がいい。
「先にベッドに行っていなさい」
「一緒がいい」
小さな我儘。ホッチは苦笑すると、コートを着たままのリードを持ち上げて、ベッドへと運ぶ。舞台の後のリードの唇は艶のある真っ赤なルージュに彩られていて扇情的だ。絶対に一人で夜道など歩かせられない。だから、ホッチは必ず、舞台のある時はムーラン・ルージュに迎えに行く。看板娘ではない今は、モーガンの護衛も付かない。
「ホッチはあったかいね」
ルビーの指輪を嵌めた指が、ホッチの頬をなぞる。ヴァンプの蚤の市で買い与えた小さな赤い石の指輪。今の原稿料なら、もう少し大きな石のジュエリーを送ることができる。蚤の市ではなく、もっとちゃんとした店のものを。そうだ。もう、リードへのクリスマス・プレゼントは決めてある。
ホッチは指でリードの耳朶を弄びながら、その胸元に唇を寄せて薄い肉を吸い上げた。
「んっ・・・あ・・・くすぐったいよ・・・ホッチ・・・」
リードは頭を動かして、自分の耳を触る指を口に含んだ。チロチロと赤い舌を動かしながら、ホッチの指を舐める。自分の秘所を開く指は丹念に。ねっとりを唾液を這わせる。ホッチは右手をリードに委ねながら、左手をドレスの裾から忍び込ませる。絹の長靴下を辿って、鼠蹊部に辿り着く。
「んん・・・」
ホッチの指を含んだ口からくぐもった声を発しながら、リードは体を捩った。腰を上げて誘う。ホッチは指先を器用に使って、下着を引き下ろした。
部屋の空気はまだ冷たい。このまま、体を繋げよう。
ホッチはリードの口から指を引き抜いた。そして、細い両脚を広げ上げる。リードの唾液で濡れた指が乾かないうちにと、ホッチはその窄まった場所に中指を押し込んだ。
「はっ・・・あんっ・・・あ・・・」
既に女性器のようになってしまった蕾が、するりとホッチの指を受け入れる。
「あ・・・ホッチ・・・もっと・・・もっと挿れて・・・」
眼下の恋人が強請るようにホッチを見上げてくる。口付けながら。指2本で広げてやる。
くちゅり・・・とした音が聞こえたような気がする。
「ひ・・・や・・・あ、意地悪・・・しないで・・・来て・・・ホッチが欲しいよ・・・」
リードは、さほど慣らさなくとも、すんなりとホッチを受け入れる身体になっている。ドレス中で、可愛らしいリードの雄が頭をもたげている。
「そうだな。俺も君の中に、早く入りたい」
「あったかいよ?・・・約束するよ・・・ホッチ」
リードは妖艶に微笑むと、長靴下の脚をホッチに絡めた。
***
翌日。
カフェの仕事を休ませてもらったリードは、パリの百貨店、ボン・マルシェを訪れた。ホッチへのクリマス・プレゼント買うためだ。カフェとムーラン・ルージュの給金で懐は暖かい。昨日とは違う赤いドレス、赤いコート、黒いショールに手袋を身につけている。コートと手袋はホッチからの贈り物だ。ホッチから貰ったもの、というだけで、暖かさが増しているような気がする。冬の空気は冷たかったが、リードの心は温かった。
百貨店の中で、紳士用小物を取り扱っているフロアへ行く。プレゼントは、革の手袋と暖かそうなマフラーと決めていた。今、ホッチが使っている手袋はウールのもので、かなり年季が入っていた。穴が空いたところは、リードが繕ったりもした。針と糸を手にしながら、ずっと、手袋を贈りたいと考えていた。それに合う、マフラーと。マフラーだって、結構古そうなものだった。取ろうとしてもなかなか取れない毛玉がたくさんついている。生地も薄くなっていて、防寒になるのだろうかと思うほどだった。ホッチは作家として、今とても大事な時期だ。今日も新連載の打ち合わせで新聞社に行っている。風邪なんか引いたら大変だ。タイプライターを使う指だって、大切にしてほしい。リードと違って、屋根裏部屋で書き物をすることが多いホッチだが、用事で出かけると、必ずリードに土産を買ってきてくれる。リードの好きな甘いお菓子だ。それもパリで話題になっているものばかり。新聞社の人が流行を教えてくれたから、と言っているけれども、そういったお菓子は大概、高額だ。それに比べて自分が屋根裏部屋に持ち帰るものといったら、カフェで貰った残りもののパンばかりだった。だから、ガルシアから「ホリデー・シーズンにムーラン・ルージュで働踊らないか」と打診があった時は、即答でOKした。お金があれば、質の良いものを買うことができる。
リードは並んだ手袋を食い入るように見つめた。
けれども、すぐに困ってしまう。質の良さが自分には分からないのだ。色は黒がいいと思ってはいたけれども、革にもいろいろな種類があるようだった。
「何かお探し物ですか?」
女性の店員から話しかけらて、リードは顔を上げた。ここは専門家に尋ねるが得策だ。
「あの・・・手袋を・・・」
「贈り物ですか?」
「あ、はい!・・・色は黒って決めているんですけど・・・革の種類とか分からなくて。ただ、暖かいものがいいなぁって」
「それでしたら・・・こちらはいかがでしょうか?柔らかい羊革を使っていて、すぐに手に馴染みます。それに内側はベルベットで、とても暖かいですよ。そうですね・・・デザインは、他にもこのようなものがあります。ご覧くださいませ」
店員は3種類の黒い手袋を見せた。
「触っても?」
「もちろんですよ」
リードは一番シンプルな手袋を手に取った。
「わぁ・・・柔らかい。これ、本当に革なんですか?」
「ええ。羊の革は柔らかくて滑らかなんですよ。牛革の方が一般的ですが、このシープスキンは上質でお勧めです」
上質、という言葉に心惹かれる。今日、持ってきたお金で足りるだろうかと心配になる。そんなリードの心を読んだのか、店員は小さな声で、「ご予算はいかほどですか?」と優しい笑顔で聞いてくれた。決して馬鹿にしたような表情ではない。だから、リードはこれまた小さな声で、使える金額を言った。それとマフラーも合わせて欲しいことを伝えた。
「それでしたら、この手袋とカシミアのマフラーを買っても十分、お釣りが出ますよ。あちらにマフラーがありますから、見てみましょうか?」
「あ、お願いします」
やはり専門家は違う、とリードは思った。黒い手袋に合わせて、黒いマフラーを見せてもらう。予算を伝えたせいか、店員はそれに収まるようなものを見せてくれた。
「こちらのマフラーは暖かくて、それでいて型崩れのしにくいものになっています。高級感が出ますよ」
「じゃあ、それを。お会計をお願いできますか?」
「贈り物ですからラッピングしますね。それと、ホリデー・シーズンなのでカードをサービスでおつけしますよ。お相手の名前を、こちらでお書きになりますか?」
「はい。えっとペンをお借りできますか?」
「こちらにあります。どうぞ」
クリスマスらしい綺麗なカードとペンを差し出される。リードはショー・ウィンドウの上を借りて、カードに名前を書いた。アーロン・ホッチナーと。
「あら?」
店員が驚いたような声を上げた。
「もしかして、その名前・・・。作家のアーロン・ホッチナーさんですか?」
「え?あ、はい」
「まあ!私、ファンなんですよ!新聞の連載小説は必ず読んでいます!これは張り切ってラッピングしないといけませんね。少々お待ちくださいね」
「お願いします」
奥に引っ込んだ店員の背中を見ながら、リードは誇らしくなる。以前、タイプライターを買った店の主人もホッチのファンだと言った。カフェに来る芸術家たちもホッチの小説を読んでくれている。
「すごいなぁ・・・ホッチ」
嬉しい。ホッチの作品が認められ、ホッチの名前が知られているのが嬉しい。パリで小説家として生きていくいことがホッチの夢だ。その夢が確実に叶っている。
「やっぱり、すごいなぁ・・・ホッチ」
リードは、もう一度、小さな声で呟いた。
***
クリスマス・イブ。
いつもより早い時間にリードはカフェから帰ってきた。屋根裏部屋でホッチが迎え入れる。今夜は、そのカフェでのパーティーだ。
「ただいまー。さっむいね」
「暖炉の前に行くといい」
「うん。ありがとう」
リードは暖炉の火に手を翳した。
「意外に早く帰ってきたんだな」
「うん。パーティーの準備は店長と他のギャルソンがやってる。ほら、僕は着替えないといけないから。ね?化粧もしないといけないし」
「ムーラン・ルージュの看板娘が来るんだから、客も喜ぶだろう」
「あはは。元、だよー。じゃ、着替えようっかなー」
「リード、今夜は何を着ていくんだ?」
「いつもの赤いドレスだよ」
「だったら・・・」
ホッチはいつも書き物をしている机の下から大きな箱を取り出した。赤いリボンがかけられている。
「なぁに?」
「クリスマス・プレゼントだ。これを着て行ったらいいかと・・・」
「え・・・今夜のパーティー用?」
「いや、もちろん、普段に着たっていいんだが・・・」
「開けてもいい?」
「ああ」
リードは丁寧にリボンとラッピングを外し、そっと蓋を開けた。
「うわぁ・・・」
現れたのは、赤いドレスだった。けれども、普段着ているものよりも上質な生地なのは見ただけでわかる。光沢があるからだ。リードは赤いドレスを持ち上げた。ギャザーの寄り方やデザインが、今のパリの流行のものだと分かる。
「綺麗・・・ありがとう、ホッチ!」
「着替えるのを手伝おう」
リードはギャルソンの服を脱いだ。床にどんどん落とす。下着も女性用のものに変え、ガターベルトも身に付ける。ベッドに座ると、ホッチが長靴下を履くのを手伝う。金色の留め金。そして、ドレス。オフショルダーのドレスで、胸の辺りが浅くカットされている。ベッドから立とうとしたリードを手で止める。そして箱の中で薄い紙の下に隠れている靴を取り出し、リードの足を取る。
「えっ、靴も?」
「ああ。せっかくのクリスマスだから。ドレスと一緒に展示してあって、全てをリードに着せたいと思った」
赤いサテンの靴をリードの足に履かせる。そして、踝に軽くキスをする。
「ありがとう、ホッチ。でも、ごめんね。いっぱいお金を使わせちゃって」
「クリスマスだろう?」
「そうだけど・・・。あ、じゃあ、待ってて、ホッチ」
リードはベッドから降りると自分の衣装箱の中から、包みを取り出した。
「ホッチはこれを身に付けて、パーティーに行ってね。今日も寒いんだから!」
そう言って、包みをホッチに押し付ける。
「・・・僕からのクリスマス・プレゼント。開けてみて」
「君だって、随分とお金を地受かったんじゃないのか?」
「だって、クリスマスでしょ?それに、このためにムーラン・ルージュのお仕事も頑張ったんだもん」
「そうか」
ホッチもリードと同じように、丁寧に包みを開いた。手袋とマフラー。
「これは・・・羊だな」
さすが、元貴族のホッチは見抜いていた。
「内側がね、ベルベッドになっていて、あったかいんだって。って、お店の人の受け売りなんだけど。僕、革のことなんか、全然わかんなくて」
「マフラーも暖かそうだ。いや、絶対に暖かいな。ああ、カードも」
「そう!ホッチの名前を書いたらね、店員さんがびっくりしてた。貴方のファンなんだって!僕、すっごく嬉しかった」
「知名度じゃ、君の方が上だと思うぞ。ムーラン・ルージュの看板娘」
「だから、それは昔の話!」
くすぐったそうにリードは笑った。
「俺の名前が売れたのはその踊り子のおかげだ。君をモデルにした小説で売れるようになった」
「貴方の実力だよ。僕は何もしていない」
「俺の傍にいることを選んでくれた」
「···貴方の傍じゃないと、生きていけないもん」
「これからも、ずっと、俺の傍に?」
リードはこくりと頷いた。
ホッチはリードの首にかかっている、リングを通したチェーンを外した。小さなルビーの指輪。チェーンから指輪を抜き、それをリードの薬指に嵌める。
「仕上げをしよう」
「そうだね。化粧をしなくちゃ」
「その前に···」
ホッチはデスクの上から、紙束に隠した小さな箱を取り出した。
「踊り子はもっと着飾らないとな」
蓋を開け、ネックレスを取り出す。一粒ルビーのネックレス。しかし、赤い石の周りが透明度の高い石で囲まれている。
「鏡の前へ」
ホッチがリードをドレッサーへと促す。
椅子に座ったリードの首に、後ろからネックレスを回し、後ろで留める。
リードは鏡の中の自分、否、首元を覗き込んだ。
「凄い···キラきらしてる···」
「小粒だが、ダイヤモンドをあしらっている」
「ダイヤモンドって···え···これ、絶対に高いでしょ···」
リードは後ろを振り向いて、ホッチを見上げる。
「まだ、あるんだ」
「え、ちょっと待って。僕、心臓が止まりそう」
「いや、まだ死なないでくれ」
笑いながら、ホッチは耳飾りを取り出した。やはりルビーだ。クリップでリードの耳朶にルビーをあしらう。
「ああ、やはり、リードは赤色が似合うな。これでルージュを引いたら完璧だ」
ホッチはドレッサーの上からルージュを取り上げてリードに渡す。リードは鏡の中の自分を覗き込みながら、唇に紅を引く。鏡の中に、踊り子が現れる。
「綺麗だ」
「綺麗なのは、ドレスとルビーのおかげだよ」
「そんなことはない」
ホッチはリードを後ろから抱き締めた。その腕にリードは自分の手をそっと重ねる。
「このままベッドに連れて行きたいくらいだ」
「僕もベッドに連れて行ってほしいくらい」
「しかし···時間だな」
「うん···」
「でも···パーティーが終わったら···」
「そうだな···」
ホッチは腕を解き、リードを立たせる。赤いコートとストールを渡し、自分もコートを着る。もちろん、首にはリードから贈られたマフラーを巻く。コートを着終わった、リードがホッチの前に立ち、マフラーを整える。
「どお?」
「暖かい」
「良かった」
リードは赤いサテンのハイヒールで爪先立ちをする。そして、ホッチに腕を絡めてギュッと抱きしめた。
「今夜は、貴方の為にも歌うね」
「パーティーを盛り上げてくれ」
「うん。···大好き、ホッチ」
「俺もだ」
***
美しく着飾ったリードは、カフェでのパーティーを随分と盛り上げた。モンマルトルの芸術家たちは喜び、そしてホッチの小説を褒めた。
パーティーの終盤で、ある一人の画家が、布に包まれた大きな絵をホッチに渡した。
「これは?」
「我ながら、なかなかよく描けたんだ。あんたたちへのクリスマス·プレゼントだ」
白布を外すと、赤い踊り子の油絵が現れた。ドレスや手袋は赤いが、肌は陶器のように白い。赤と白のコントラスト。額縁の中で躍動する踊り子。
「もうしばらくしたら、日本に帰るんでね。その前に、あの子を描くことができて良かった」
「いただいてもいいんですか?」
「クリスマス·プレゼントだよ」
「俺は何も」
「いいんだ。君の小説とムーラン·ルージュの踊り子からは、多くのインスピレーションをもらったからね。そのお返しだよ」
「自分も、リードからは多くのものを貰っています」
「あの子は、たくさんのものをたくさんの人々に与えることのできる子だ。···幸せに」
「ありがとうございます」
ホッチはもう一度、絵を眺めると、白布をかけた。そこへリードがやってくる。
「みなさーん!オーナーの力作、ブッシュ·ド·ノエルですよー!」
パーティーは、まだまだ終わりそうにない。けれども、自分が贈ったもので彩られたリードを見て、その美しさに誇らしくなるホッチだった。そして。心から、その姿を、愛おしいと思うのだった。
シャンパンの入ったグラスが、日本人画家から差し出される。
「ノエルと踊り子に、乾杯」
ホッチは頷き、自分のグラスを合わせる。
硬質な、それでいて美しい音色が、店の喧騒の中で小さく響いた。
Fin