セントラルヒーティングのハーヴィーの部屋は常に暖かい。
ハーヴィーは嫌がるマイクをベッドに横たえた。マイクは身じろぎすると、自分の体を抱えるように蹲った。
発情期のΩを相手に、できることといったら一つしかない。抱けばいい。それで、マイクの体はかなり楽になるはずだった。
しかし、それを理由にマイクを抱くことに抵抗があった。
額にかかる短い髪の毛に触れる。少し、マイクの体に暖かさが戻ったような感じがする。そして、あの寒い部屋では突き刺すような甘い香りが、今は漂うように柔らかいものへと変わっている。
そして、αであるハーヴィーにとって、その香りが魅惑的であることも事実だった。
「マイク・・・」
「・・・帰りたい」
「まだ、言うのか」
「・・・ルイスに頼まれた書類・・・やらなくちゃ・・・」
「そんなもの放っておけ」
「ダメだよ・・・最後の仕事はちゃんと終わらせなくちゃ・・・」
「何が、最後の仕事だ。勝手に辞めさせないからな」
「・・・辞めさせたくなるよ・・・うん。貴方は僕をクビにしたくなる・・・」
「何故だ」
マイクがうっすらと目を開ける。眦がほんのりと赤い。呼吸は浅く、肩が上下している。
「抑制剤が効かない原因・・・それ、わかってるんだ」
「薬の種類が合わないのか」
「・・・もう、全種類試したよ。肝機能障害になるんじゃないかってくらい、オーバードーズもした」
「何を馬鹿なことをしてるんだ、君は」
「だって・・・抑えなくっちゃ、仕事にならないもの。・・・でも、わかった。無理だって。仕事を辞めなくちゃ・・・貴方から離れなくちゃった無理だって」
「マイク?」
「僕ね・・・貴方のことが好きなんだよ。好きになっちゃったから、抑制剤が効かないくらい、発情が酷くなってんの。・・・だから・・・帰る・・・」
マイクがベッドに両手をついて、体を起こす。しかし、ハーヴィーはそれをベッドに押し戻した。
「ハーヴィー・・・?」
「そんな話を聞いたら、ますます帰せないな」
そう言って、ハーヴィーはマイクの顔を両手で包み込んだ。そして、濡れた唇にキスを落とす。角度を変えながら、何度も唇を合わせる。甘い香りがハーヴィーの鼻腔を刺激する。自分でも背筋がゾクリとするのがわかった。これほど、相手の体を欲しいと思ったことはなかった。マイクがΩだからではない。マイクがマイクだからだ。
「・・・ハー・・・ヴィー・・・?」
マイクが驚いたように、ハーヴィーを見詰める。
「なん・・・で?」
「マイク、君はクリスマスを誰と過ごすんだ?」
「え?・・・それは・・・一人・・・かな。ばあちゃんのところに行くかもだけど・・・」
「俺はクリスマス・ディナーの予約を入れた。・・・君と過ごすために。そのぐらいには、君のことが好きだと言うことだ」
「・・・嘘だ・・・」
「嘘じゃない。証明してやろう」
ハーヴィーは不敵に笑うと、マイクのシャツのボタンを外し始めた。
「やだっ・・・ハーヴィーやめてよっ・・・Ωに対する同情ならいらないっ・・・」
「君はさっきの話を聞いていたのか?君とクリスマス・ディナーに行くと言っただろうが」
「そっ・・・それは仕事を頑張ったご褒美とか、その程度・・・」
「クリスマスは、大切な人と過ごす日だ。仕事の褒美なら、ベーグルで十分だ。ちなみに、レストラン近くのホテルも予約してある」
レストランはドナが予約をしたが、ホテルはハーヴィーが自分で電話をした。
「ダメだよっ・・・言ったでしょ?僕もう・・・薬でのコントロールが効かないんだ・・・仕事に差し支えるよっ・・・」
「俺が君を抱けばいいだけの話だろう。いや・・・違うな。そう。番になればいい」
いいアイディアとでも言うように、ハーヴィーはきっぱりと言い放った。まるで、裁判で相手をやり込めるアイディアを思いついたかのように。
「ダメだってば・・・僕は、貴方の重荷になりたくない・・・僕は・・・仕事で認められたい・・・」
「認めてる。君の能力は素晴らしい。だから、今日の裁判も勝った。君にも見せてやりたかった」
裁判所に現れなかったマイクが心配で、裁判を30分で終わらせたことは内緒だ。
「それに、君のことは全く重荷にならない。重荷になると思っていたら、ハーバードを出ていない君など雇うものか。さあ、そろそろ、そのダメとかヤダとかしか言わない口を閉じろ。開くなら、もっと可愛いことを言え」
口調は俺様だったが、ハーヴィーの手は優しく動いていた。マイクのベルトを外し、スラックスを足から抜き取る。
「寒くないか?」
「・・・あつい・・・」
「そうか。じゃあ、もっとあつくしてやる」
ハーヴィーの唇と指が、マイクの細い体を辿るように触れる。その度に甘い香りがキツくなることに、ハーヴィーは満足する。マイクを口に含むと、口腔内に甘い味覚が広がるのを感じた。
「あっ・・・ああっ・・・やぁ・・・んあ・・・」
マイクの指先がハーヴィーの髪を乱す。したいようにさせておいて、自分もまた、マイクを高みへと引きずり上げる。
「あ・・・ハーヴィー・・・離して・・・イく・・・イっちゃう・・・ね・・・離して・・・」
上司の口に精を吐き出すなんてできないと、マイクは腰を捩らせた。しかし、ハーヴィーがそんな抵抗を許すはずもなく、マイクを追い上げ、結局は口の中で吐精させた。
「甘いな」
「やだ・・・も・・・ハーヴィーの馬鹿っ・・・」
射精して少しは楽になったのか、マイクの顔に色と表情が戻る。呼吸も浅いものから、通常のものへと変化していた。
それを見て、満足と安心を覚える。そして、ハーヴィーも自分のネクタイに指をかけ、服を脱ぎ始めた。ハーヴィーの体にマイクを軽く目を背けた。
「どうした?」
「なんか・・・僕の体・・・貧相だよね」
「俺は自分の番がマッチョだったら、かなり嫌だぞ。Ωらしい体つきでそそられるがな」
「・・・それ、差別発言だよ?」
「俺の好みだと言っているんだ」
「・・・胸とお尻がおっきくて、ハイヒールの似合うのがタイプかと思ってた」
「それは誤った情報だな。俺は好きなのは、君だ、マイク」
「僕のことが・・・好き?」
「さっきも言っただろう。どうした?君の得意な記憶力は」
「だって・・・そんなの・・・信じていいのか・・・」
「信じろ。俺だって、君を信じている。それよりも・・・」
ハーヴィーの指が、マイクの下肢の裏側に回される。そして、割れ目をなぞり、目指すところに中指を押し当てる。
「んあっ・・・」
マイクの体が硬くなる。ハーヴィーが触れている後孔も締まってしまう。
「マイク、力を抜け」
「む・・・り・・・」
「何故だ?」
「だって・・・初めて・・・なんだもん・・・」
その言葉に思わず、マイクから手を離す。
「・・・今まで・・・どうしてたんだ?発情期が来るのは初めてじゃないだろう?」
「・・・これまでは抑制剤がちゃんと効いてたから。それに・・・好きになった人もいなかったし・・・。だから・・・」
「そうか・・・初めてか・・・」
「こんなことなら、トレヴァーとでもしておけばよかった・・・」
「マイクっ!」
耳障りな名前がいきなりマイクの口から出て、思わず口調がキツくなる。
「どうせ・・・僕はΩだし・・・αのトレヴァーにとっては、都合のいい性欲の処理になっただろうし・・・」
「冗談じゃないっ!自分の体は大切にしろ!それと、二度とあの馬鹿男の名前は口にするなよ!」
「ハーヴィー・・・?怒った?」
「ああ、怒った。だから、お仕置きだな。たった今から、君は俺に絶対服従だ。まったくっ!君って奴は!」
マイクを睨むハーヴィーの表情は険しかったが、マイクに触れる手は暖かく、優しかった。
ベッド脇のサイドテーブルからローションを取る。
マイクにキスをしながら、ローションで濡らした指を、再び、マイクの後孔に押し当てる。ひくり、とマイクの背が仰け反る。ハーヴィーは無理することなく、ゆっくりとなぞるように刺激する。
キスと後ろへの愛撫に、マイクの性器がゆっくりを頭をもたげる。その反応に満足したハーヴィーは、つぷりと指先を潜り込ませた。
「はぁっ・・・んんっ・・・ハー・・・ヴィー・・・」
マイクの声が甘くなる。香りもまた強く甘くなる。香りの刺激が、ハーヴィーの気分を高める。
しばらくすると、Ω特有の分泌液が溢れてきた。
「これで、いけそうだな・・・」
指を抜き、マイクの白い太腿を抱え上げる。
「ねぇ・・・ハーヴィー・・・僕・・・発情期だから・・・その・・あの・・・」
「わかってる。せっかくだから孕ませてやりたい気もするが、今、優秀な専属アソシエイトに産休に入られたら、俺にとっては痛手だからな。避妊はする」
「あ・・・ありがと・・・」
顔を真っ赤にしながらマイクは、顔を背けた。けれども、両手を静かに、ゆっくりとハーヴィーの首に回した。
「覚悟しとけ」
「嬉しいけど・・・ちょっと怖いよ」
「愛が重いと言ってくれ」
二人で破顔する。それを合図に、ハーヴィーはマイクの中に押し入った。
緩やかな抽挿。けれども、だからこそ、互いに幸福感を感じることができるような気がした。
マイクの腰を引き寄せ、ハーヴィーは彼を自分の膝の上に座らせるようにする。そして、ペロリと頸を舐め上げた。
「いいか?」
「・・・うん」
「後悔はさせない」
「・・・うん。いいよ。貴方の番にしてよ」
「いい子だ」
ハーヴィーはもう一度、頸を舐めると、そこにキツく歯を立てた。