Yea please quit 01

逃げたかった。
いや、現在進行形で逃げたい。
金髪碧眼が美しいダニエル・ウィリアムズ刑事は、上司であり相棒でもあるスティーヴ・マクギャレット少佐宅の2階寝室のベッドの上でブランケットにくるまりながら心底そう思っていた。
いや、現在進行形で思っている。
先にシャワーを使わせてもらったものの、あまりにもダラダラしていたら(30分位)、とうとうスティーヴがバスルームに押し入ってこようとしたので、慌てて脱出。入れ替わりにバスルームに消えた相棒からはしっかりと目をそらし、自分がこの家を脱出する算段を頭の隅っこで考えながら服を探したら、一式なかった。靴もなかった。いやいや、裸でなければなんとかなる!とスティーヴのクローゼットを物色しつつ、あれ?カマロのキーは?と思ったら、それもなかった。スマホもなかった。ダニーの家の鍵もなかった。全てがなかった。
「マジかよ」
そう呟いて、ベッドサイドの時計を見たら、確実にバスルームを出てから2分は経過していた。まずい。猶予は残り1分しかない。1分で何ができる?たかが1分。されど1分。しかし、ダニーが置かれた状況下においては、たかが1分でしかなかった。嗚呼。もう残り30秒。とりあえず、素っ裸で部屋に立ってるのは絶対によろしくないことだけはわかる。
しかし、ダニーはミノムシよろしく、ブランケットを全身に巻きつけてベッドに座ることしかできなかった。
そして、今、目の前には、スティーヴがいる。という状況である。
冒頭に戻るが、ダニーの心と頭は、「逃げたい」というフレーズで埋め尽くされていた。

「ダニー、確認するぞ」
「ああ・・・うん」
「俺はダニーが好きだ。OK?」
「まあ、それは聞いた。OK」
「最早それはlikeではなく、loveだとも言った。OK?」
「・・・そだね。そんなこと言ってたね」
「つまり、俺はダニーを愛してる。OK?」
「すっげー物好きだと思うけど、それも聞いた。OK」
「俺たち、普通にハグしてるよな?OK?」
「一般的なアメリカ人男性の頻度としてちょっと多すぎで長すぎって気がしないわけでもないけど、OK」
「キスだってしてるよな?OK?」
「まあ、俺から進んでしたことはないけどね。・・・OK」
「俺達は、相思相愛ってことだよな?OK?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ダニー、何故、黙る?」
怖い。スティーヴの目が怖い。完全に容疑者を問い詰める視線になっている。いつから、ここは取調室になったんだと、ダニーは思う。しかし、スティーヴの質問にうっかりと答えたら、確実に貞操の危機だ。っていうか、すでに野獣に体を押さえつけられている状態に等しい。
「ダニーは俺のことが嫌いだったのか?」
「うー・・・いや・・・まあ、その・・・ね?なんつうかね?そうじゃないんだけど・・・」
「じゃあ、好きなんだな?愛してるんだな?だったら、何も問題ないよな!」
そう言って、スティーヴの手がダニーをくるんでいるブランケットに伸びる。
「いやいやいやいやいやいやいや!!!!問題あるでしょ!!!!!」
ピタっとスティーヴの手が止まる。そして、眉間の皺が増える。怖い。マジ、怖い。いろんな意味で怖い。何が怖いって、スティーヴというよりも、スティーヴがこれからやろうとしていることが怖い。
「何が問題なんだ?俺には理解できない。付き合っていれば、誰もが通る道だろう?」
「とっ通らねえよ!!少なくとも俺は通ってない!あんたは、軍で通っちゃってるかもしれないけどさ!!」
「それは軍隊に対する偏見だぞ?ダニー。俺だって、男相手はは初めてだ」
初めて同士、ますます怖い。
「でも、大丈夫だ。俺は優勝でエリートだから」
何がー!何処がー!オーマイガー!
スティーヴの意味不明な自信にダニー頭を抱えたくなる。しかし、それをやるとブランケットがずり落ちるので、頭は抱えずにしっかりとブランケットを握りしめる。
「ももももも・・・もうちょっと段階を踏んだらいいんじゃないか?お付き合いってさ。な?」
「だから、さっき確認しただろう。告白した。ハグもした。キスもした。しかも、合意で。次の段階は言わずもがなだろう?」
と、眉間の皺を解いて爽やかスマイルで答えるスティーヴ。
告白を受け入れた、ハグを許した、キスも許した、そんな自分の浅はかさを呪うダニー。こうなることは予想出来ていたはずなのに。けれども、スティーヴのことは嫌いではないのだ。相棒としても、人としても。ただちょっとLOVEの見解にちょっとばかり相違があったような気がしないわけでもないのだが。
「でもさー、俺、男だし」
「それは十分に分かってる」
「じゃあ、男同士でセックスするって、いかがなものかと・・・」
「そうか。ダニーは保守的だったな」
「そっそうそうそうそうそうそうそう!わかってんじゃん!俺ってそういう人間だからさ!」
「でも、新しいスイーツは好きだよな」
「へ?」
「ニュージャージーにはない、ハワイ特有のスイーツは、ビビらないで率先して食べるよな。レナーズのマラサダとかリリハ・ベーカリーのココパフとかテッズ・ベーカリーのハウピアパイとか。つまり」
「・・・つまり?」
「自分が保守的だっていうのは、ダニーの単なる思い込みということだ」
・・・何なの、その論理展開。再び頭を抱えたくなる。が、それをこらえて、ブランケットを握りしめる。
「愛してるんだ、ダニー。だから、俺はダニーの全部が欲しい。そう思うのは、当然の成り行きだと思わないか」
愛とセックスの関連性については、ダニーも否定はしない。30年も生きていれば、好きだなーっていう女の子とセックスに及んだことは多々ある。愛とセックスは詰め合わせである。だがしかし。今目の前にいるのはスティーヴ・マクギャレットという男であって、可愛い可愛い女子ではないのだ。しかも、あまりにも恐ろしく確認できずにいるのだけれども、その体格差と相手のコントロールフリークっぷりからいって、ダニーの方が受ける入れる側であることはあまりにも明白だった。
それが、怖い。激烈に、怖い。猛烈に、怖い。何はなくとも、怖い。
だって。アソコはそういう器官じゃないし。消去法でいったら、アソコを使うしかないってだけの話だし。たぶん、全知全能の神様はそういう使用方法を考慮して、アダムを造ってないと思うし。無理っしょー。
そんなことを考えていたら、いつの間にか、ダニーはスティーヴに抱きしめられていた。
「絶対に後悔させないから、ダニー」
いやもう、すでに自分は後悔してます。己のパーソナルスペースにアニマルを侵入させたことが大間違いでした。と、ぶるぶる怯えるダニー。
「嫌か?」
「・・・・・・つーか、あのね」
ダニーがボソボソと喋り始める。無理矢理押し倒されることだけは避けたい。
「何だ?」
「笑わないで、聞いてほしーんだけさ。・・・あー。確かに、俺はあんたのこと嫌いじゃないよ?確かに、好きって言葉と受け入れたし、キスだって拒んでない。でもさ、でーもーさー」
「だから、何なんだ?」
「うー。・・・あんねー。・・・おっかねーの!マジ、怖いの!」
「俺が?」
「セックスしようとするあんたが!」
「心外だな」
「鏡を見てみろよ。なんか、捕食動物を目の前にした猛獣って感じ。それに男同士のセックスも怖い!」
「じゃあ、俺は一体どうしたら、いいんだ?」
「だーかーらー。こういうお付き合いは段階を踏みましょうって!」
「それはない」
「即答?」
「俺は十分に段階を踏んだ」
「じゃあ、俺の気持ちは無視なわけ?大事にしてくれないわけ?最低!」
「その言葉、そっくりそのままお前に返す。ダニーも俺の気持ちを大事にしてくれてない」
「しょうがないじゃん!」
「ダニー。喧嘩はしたくない」
スティーヴの声は荒げることなく、穏やかだった。
「ダニーを傷つける気もない。ただ、愛したいだけなんだ」
何かを押し殺したような、優しい声。それに対して、ダニーはあまりきつい言葉を返せなくなる。
「いや、まあ、その、そういうのがわからないわけでもないんだけど・・・さ・・・」
「本当に嫌だったら、殴っていい。それともベッドサイドに銃を置いておこうか?」
「何だよ、それ」
「心の底から嫌なら、俺を撃ち殺せばいい。レイプになるからな。正当防衛だろう?」
「・・・そこまでして、抱きたいわけ?」
「抱きたい」
「・・・・・・わ・・・わーったよ」
ダニーは小さくため息を付く。そこまで言われたら、そろそろ腹を括るしかないようだった。

to be continued