「ハーヴィーの嘘吐き」
ソファに座っているハーヴィーの膝に乗り、マイクが唇を尖らせる。むぅっとした表情で、ハーヴィーを青い瞳が見つめる。何処か、詰られているような気もするが、ハーヴィーは首を縦には振らなかった。
「嘘吐きって・・・なぁ・・・」
「だって、ハーヴィー言ったもん。触っていいって言ったもん。身体中、何処を触ってもいいんだって言ったもん。言ったよね?」
「・・・まぁ・・・言ったな。確かに」
「ほらぁ。じゃあ、やっぱり、ハーヴィーは嘘吐きだ」
「俺は君に無理をさせたり、嫌な思いをさせたりしたくないだけだ。嘘を吐いたわけじゃない」
「無理じゃないもん。嫌じゃないもん」
じっと見つめてくる青い瞳を凝視できなくて、ハーヴィーは視線を逸らして眉間を指で押さえた。一体どうやって、マイクを納得させたものか。
最近のマイクは、とても可愛くて、心も体も、自然体になってきて、ハーヴィーにとって、それはとても喜ばしいことだった。感極まって上げる声など、耳触りがとてもいいし、縋るように自分の体に触れてくる手も心地よい。
しかし。今、マイクが要求してくることに、是と言うことは憚られた。本当にマイクが大事だから、させたくなかったのだ。けれども、マイクは引き下がらない。
「・・・そっか・・・やっぱり・・・僕が汚いから?・・・そだよね・・・綺麗な体じゃないもんね。・・・お古だもんね・・・」
「マイクっ!」
慌てて、マイクに視線を戻し、その頰を両手で包む。
「そんなことはない。君は綺麗だ」
「・・・じゃぁ・・・さ?」
「う・・・・・・」
ハーヴィーの両手の中で、上目遣いに自分を見る青い瞳が悲しげに揺れている。今、ここで、自分がマイクの要求を拒否したら、きっとマイクは不必要な誤解をするのだろう。それは、避けたい。
「・・・わかった。・・・君の好きにしていい」
「ほんと!?」
マイクの顔が嬉しそうに輝く。
「ただし!・・・無理はするな。嫌だと思ったら、すぐにやめろ。・・・いいな?」
「たぶん、そういうことにはならないと思うよ!」
マイクは自分の頰を包むハーヴィーの手に自分の手を重ねた。
「じゃ、先にキスさせてね」
そう言って、マイクはリップ音を立てながら、ハーヴィーに幾度となくキスをする。頰や顎、それから首筋。そしてマイクは、ストンっと床の上に座った。
「マイク、わかってるな?約束だぞ?嫌なら・・・」
「大丈夫だってばぁ」
マイクはハーヴィーのベルトを外し、前をくつろげた。そして嬉しそうに、ハーヴィー自身を丁寧な手つきで取り出す。そして、ゆっくりと口に含み始めた。
口いっぱいにハーヴィーを頬張り、含みきれなかった部分は指を使って刺激する。同じ男だから、イイ所が分かっている・・・というよりも、これまでハーヴィーがマイクに対してしてきたことを記憶していて、それをなぞっているのだろう。舌遣いも、指使いも、何処となく覚えがある。首を傾けながら、ハーヴィーを愛撫する表情を注意深く観察するが、そこに、苦しさや辛さは見受けられず、ハーヴィーは思わずホッとした。指先で髪を梳いたり、頰を撫でたりしてやる。それを気持ちよさそうに受け入れる姿は、まるで愛玩犬のようだった。舌と口腔の内側で、たっぷりとハーヴィーを煽り立たせると、今度は口をすぼめるようして、頭をゆっくりと上下に動かし始めた。
「マイク、奥まで含むな。苦しいぞ」
「らい・・・りょう・・・ぶぅ・・んくっ」
クチュクチュと音を立てて、ハーヴィーを口でイかせようとしているのだろう。ハーヴィーはマイクの喉奥を刺激しないように気をつけながら、少し腰を引いた。しかし、マイクはそれを許さずに、追いかけて来る。マイクの一生懸命さと、自分が教え込んだ技術に、ハーヴィーの限界が近く。
「マイク・・・離せ・・・もう・・・・いいから・・・」
「やら・・・」
マイクは拒否し、そのまま頭と口の動きを激しくする。ハーヴィーが自ら離れようとするが、マイクはしっかりとハーヴィーの体を掴み離さない。
「っ・・・マイ・・・クっ・・・」
結局、そのまま、マイクの口の中に精液を吐き出す。こくん、と数回音を立てて、マイクはその全てを飲み込んだ。
「マイク・・・もういい・・・離せ」
マイクはそれを無視して、綺麗に清めるように、ハーヴィーを暫し舐めた。そしてそれからようやく、ハーヴィーを口からそっと出したのだった。
マイクの脇の下に手を差し入れ、その体を持ち上げて、再び自分の膝に座らせる。唾液と精液とで、濡れて光る唇を親指で拭ってやる。
「吐き出せるか?」
「無理。飲んじゃったもん」
にっこりと笑ってマイクが答える。
「まったく。・・・ほら、うがいをしてこい」
「やだ。せっかくのハーヴィーの味なのに」
「君ってやつは・・・・」
ハーヴィーはテーブルの上からスコッチの入ったグラスを取ると、酒を口に含み、マイクに口移しでそれを飲ませた。
「んんっ・・・んふっ・・・う・・・んー」
ゴクリとスコッチを嚥下して、マイクが不満そうにハーヴィーをみる。
「味が混じっちゃった」
「いいんだ。アルコール消毒だ」
そう言って、乱れた髪の毛を撫でて整えてやる。マイクはことんっと頭をハーヴィーの方に預けて、体重も受け止めてもらう。
「ねえ、知ってた?これで、本当に上書き終了なんだよ?これ・・・僕が触ってない、ハーヴィーの場所はなくなったんだよ」
「・・・わかってはいたが、させる気はなかったんだ」
「ダメだよ。有言実行、完璧主義の貴方なんだから。上書き保存をするなら、完璧にしてよ」
おそらく、あのクズ野郎のことだ。もっと酷いことをマイクにしていたに違いないことは容易に想像できた。だから、ハーヴィーはマイクに口で奉仕させる気はまったくなかったのだ。それが、マイクの方から仕掛けて来るとは・・・。とんだ想定外だった。
「・・・ハーヴィー・・・もしかして・・・引いちゃった?」
マイクが心配気に問いかけて来るが、ハーヴィーは首を横に振った。
「可愛らしくて、余計好きになった。ただ、こんなことなら、もう一度五つ星ホテルをリザーブするんだったな」
「いいよ。僕、ハーヴィーの部屋、好きだもん。・・・あのさ・・・今、すっごく幸せ」
マイクがハーヴィーにしがみつく。
「本当にハーヴィーのおかげだよ。あの日、あの部屋に飛び込んでよかった」
面接会場で出会ったのは、奇跡としか言いようがない。けれども、見方を変えれば、あれは運命でもあったのだ。まるで、互いの片翼を見つけるかのような。
「俺もだ。君と出会えてよかった。・・・さて、今度はちゃんとベッドで、俺が君に奉仕する番だな。覚悟しとけ。君にしてもらったこと以上のことをしてやる」
「えー。怖い」
口ではそう言いながら、顔は笑っている。マイクはハーヴィーが自分に酷いことを絶対にしないことを理解している。
「俺は3倍返しする主義なんだ」
「じゃあ、僕は3倍の愛を返すよ」
「それは・・・お互いだな」
ハーヴィーがマイクに口付けようとしたら、スッとマイクが顔を背ける。
「マイク?」
「お酒・・・飲んだけど・・・味・・・残ってるかもよ?」
「気にしない。あのクズ野郎と一緒にしないでくれ」
マイクの唇を追いかけて、キスをする。確かに、苦味のある酒の味がする。けれども、マイクの行為の結果だと思えば、なんてことはない。今夜はどんな風に抱いてやろうか・・・そんなことを考えながら、ハーヴィーはマイクを抱き上げた。
END