ハングマンは、ふんわりと覚醒した。柔らかなベッドの上で、見慣れた壁が目に入る。
昨日は食堂での宴開催中に体調が悪くなり、コヨーテに連れ出してもらった。「講義室で休もう」と親友が言ってくれたのは覚えているし、身体を彼に預けてうとうとしたのも覚えている。けれども、ここは講義室ではない。自分の部屋で自分のベッドだ。きっといつものように、コヨーテが連れ帰ってくれたのだろう。「あいつにランチでも奢んねーとな」と思いつつ、起きあがろうとしたところで、身体の自由が効かないことに気付く。痛みがあるわけではない。何かが自分の身体の動きを封じている。そして、それが非常によく鍛えられた男の腕であることがわかる。誰かの腕が、自分の身体に巻き付いているのだ。
「マジか・・・」
ハングマンはかろうじて自由な自分の手を動かして、自分の身体を検分する。痛みはない。着衣は昨日のサービス・カーキのままで、これといって乱れていない。皺にはなっていそうだけれども。首を触ってみたが、どうやら傷もできていない。
ハングマンは、再度、自分の身体に巻き付いている腕を見る。どうみても、親友の腕ではない。けれども、昨日、一緒にいたのは親友で。
「・・・わかんねー」
言いながら、何とか腕の中から脱出を試みようと、モゾモゾと動く。動きながら、「なんか、体調、いいな」と感じる。昨日はあれほど、動きたくなかったのに。
「・・・起きたのか・・・・ハングマン」
声を聞いて、ゾワリとする。それが、よく知った人間の声だったからだ。これなら、見知らぬ男の声の方が、まだこの状況にピッタリとくるのに。
戒めのような腕が解かれたので、ハングマンは両手をベッドに着きながら、ゆっくりと体を起こした。そして、仕方なく声の主を見る。やはり、ルースターだった。ハングマンは盛大にため息をつき、寝乱れたブロンドをかきあげると、焦点をルースターに合わせる。
「で?俺はシャワーを浴びた方がいいのか?それとも、このままの方がお前好みなのか?」
そう言いながら、ハングマンはサービス。カーキのボタンを外し始めた。
「ちょ、ちょっと待てっ!」
慌ててルースターが飛び起きる。そして、ハングマンの手首を掴む。傷まない程度の力で。
「あー・・・脱がせたかった?いや、それとも着たままがいいとか?まあ、いるよな、そういう奴。眠ってる俺を犯さなかった代わりに、要望は聞いてやるし」
「だから!ちょっと待ってくれ!ハングマン!」
「何だよ。αのくせに」
「知ってたのか」
「いや。俺は気づかなかった。興味ないし。ただ、コヨーテが、ルースターはαだから気をつけろって。危機管理ってやつ?俺は、αのくせにビビリでノロマだなって思ってた」
「あ・・・そ」
ガックリくる辛辣な言葉だが、少しハングマンの調子が戻ってきたようで嬉しかった。
「なぁ、体調はいいのか?」
「絶好調だ」
「うん。わかった。よかった。講義室でのお前、すっげー具合が悪そうでさ。心配した。それで、俺が官舎まで運んだんだけどさ」
「ん?コヨーテは?」
「お前、全然、身体に力が入っていなくてさ。コヨーテじゃ運べなくて、俺が運んだの。コヨーテも一緒に来た。お前をベッドに寝かせたら帰ったけど」
「なんで、お前は帰らなかったんだよ」
「心配だったし。コヨーテに頼まれたし」
「・・・コヨーテの奴、俺を売ったな。いつもなら、コヨーテが一緒にいてくれるのに」
「そう言うなよ」
「ふん。・・・ん?あれ?」
「どうした?ハングマン」
「・・・俺がΩだって、お前に言ってないよな」
「そうだな。俺も全然気づいてなかったし。昨日、コヨーテから聞いて知った」
「・・・コヨーテの奴。やっぱり俺を売った」
「いやいや、売ってない。あいつは、お前の味方を増やしたかったみたいだ」
「味方」
「そう。味方」
「ノロマなお前を?それはコヨーテの人選ミスだな」
口唇からこぼれる辛辣な言葉に、ルースターは安心する。
「とにかく。シャワーを浴びてこいよ。それから朝飯でも食いに行こうぜ。俺、腹が減った」
「・・・わかった」
ルースターがハングマンの手首を解放するのと同時に、ベッドを降りる。身体は痛くないし、本当に気分も絶好調だった。いつもなら、昨日のような状態は3日ほど続く。それが一晩眠っただけで解消されたのは初めてだった。
***
ハングマンと入れ替わりに、ルースターにバスルームを譲る。「タオルは適当に使っていいから」と伝えると「サンキュ」と返ってきた。
「あー・・・腹が減ったって言ってたな」
キッチンに向かってコーヒーを淹れる。淹れながら、朝食のメニューを考える。ルースターは、よく食べる男だ・・・という認識はあったが、何が好きかは分からない。
「まあ、食えて、量があればいっか」
ハングマンはフリッジと戸棚から、食材を色々と取り出し、慣れた手つきで料理を始めた。
***
「え?作ったのか?外で食べるんで良かったのに」
「んだよ、せっかく作ってやったのに」
「いや!ごめん!そうじゃない。ただ、面倒をかけたなって」
「別に俺も食べるし」
「ああ、うん。そうだな。でも・・・凄いな。お前、料理できるんだな」
「優秀だからな。コーヒーは?ブラック?」
「今日はブラックだな」
「毎日、好み変わるのか」
「そういうわけでもないけど。あ、サンキュ」
コーヒーが注がれたマグカップを渡される。ルースターは一口コーヒーを飲んでから、改めて食卓を見る。テーブルがこんなに料理で埋めつくされるのを見たのは、いつぶりだろうか。
「お前、毎朝、こんな量を食べるのか?」
「まさか。朝は、ほとんど食欲がないから、空を飛ぶのに必要最低限な栄養だけ摂取する」
「つまり?」
「適当な総合栄養食」
「じゃあ、これ・・・」
「お前の好みも、食う量もわからないから。いろんなものを多めに作っておけば、1つぐらい食えるものがあるだろ」
「ありがとう、ハングマン。嫌いなものはないし、ここにあるの全部好き。食べる」
「ふうん。・・・人参も?」
千切りの人参が乗ったグリーンサラダ。その皿をハングマンがルースターの方に押してくる。
「平気。美味しいだろ」
「うげっ」
「嫌いなのか?人参。綺麗で美味しそうな色してんじゃん」
「チッ。嫌がらせにならなかったか」
面白くない。という表情でハングマンが口唇を尖らせる。
「悪いな。基本的に俺に好き嫌いはない。子どもの頃、マーヴの手料理で鍛えられたから」
「あー・・・あの人、料理できなさそう」
「割と壊滅的。それでも、母さんのレシピはいくつかコピーできるようになったけど」
「ふうん」
「でも、お前は凄いな。あんな風に綺麗に空を早く飛べて、料理もできて」
「お前は?料理しないの?」
「マーヴよりはマシって程度。あ、BBQは得意」
「肉を焼くだけだろ」
「下ごしらえのシーズニングが大事なんだよ。これはスライダーおじさん仕込み」
「誰?」
「アイスおじさんのRIO」
「・・・・・・」
ハングマンの頭の中を「おじさん」というワードが舞う。そして、気付く。そうだ。トム”アイスマン”カザンスキー大将だ。マーヴェリックの夫で。ということは、ルースターの義理の父親みたいなものか。そう考えると、目の前の雄鶏には、物凄い後ろ盾が揃っていることになる。マーヴェリック。カザンスキー大将。確か、ベイツ少将もマーヴェリックの同期だ。けれども、ルースターが彼らの名前を出すことは今までなかった。
「ハングマン?どうかしたか?」
「いや。何でもない」
「BBQは嫌いか?」
「実家ではよくやってた」
「今度、みんなでやりたいよな、BBQ」
「みんな?」
「そう。コヨーテは当然だけど、フェニックスとかボブとか・・・みんなで。そのうち、みんなそれぞれの基地に帰るだろ?その前にさ。あ、マーヴに隠れ家を提供してもらおうかな」
「あの人、そんなの持ってるんだ」
「うん。マーヴはさ、バイクとか車とか、それと飛行機とかコレクションしてるから」
「は?飛行機?」
「そう。P51マスタング。さすがに一般家庭のガレージには入らないだろ。だから、アイスおじさんがマーヴェリックのために、使えるようにしたんだって。元は軍の保有施設」
「つまり、マスタングが格納できるでかいガレージ?」
「モハーヴェ砂漠にあるんだ。夫婦喧嘩した時はそこに逃げるって」
「あー・・・大将と大佐が夫婦喧嘩?」
「マーヴは言葉で説明するのが苦手で、面倒くさくなっちゃうんだ。だから、逃げる。アイスおじさんが嘆いてた。まあ、迎えに行くんだけど」
「ふーん」
言葉で説明するのが面倒くさい。それには何だか共感できる。ハングマンも、基本的にそういうタイプだ。説明が面倒くさいから、相手を怒らせる。
「なあ、マーヴのハンガーでBBQをやろうよ」
「・・・コヨーテが行くなら」
「行くだろ、絶対」
笑いながら、ルースターは人参を口の中に放り込む。その様子を「うわぁ」という顔でハングマンが見る。嫌いだけれども、色が綺麗だからという理由で、つい買ってしまう人参。
「なあ、お前さ、キャロット・ラペ好き?」
「あれ、美味いよな。マーヴが作るものの中では美味しいランキング上位に入る。簡単だから」
「・・・今度、作っとくわ」
何気なく言った言葉。それをルースターは耳ざとく捉えた。嬉しくなる。
「なぁ、朝飯の後、何か予定はあるのか?」
ルースターもハングマンも今日は休みだった。あのメンバーは皆、休みで、それだからこその昨夜の宴会になったのだ。
「別に。まあ・・・家にいるかな」
やっぱりな。とルースターは思う。昨夜、コヨーテが言っていた。「ジェイクは基本的に一人が好き」だと。けれども、例外はある。
「俺、一旦自分の官舎の戻って着替えて、また車でここに来る。そして、何処かに出かけないか?」
「んー・・・」
乗り気ではない返事。これは想定内の反応だ。しかし。
「映画とか、本屋とか」
「本?・・・本屋なら行きたい」
食いついた。「ジェイクを外に連れ出したいなら、映画か本だね」というのもコヨーテに教えてもらったことだ。
「そうか。じゃあ、行こう」
ルースターは約束を取り付け、ハングマンの気が変わらないうちに朝食を平らげ、そして食器を洗い、「また、後でな」と言って、ハングマンの官舎を後にしたのだった。
***
確か、好きで読んでいるシリーズの最新刊が発売されていたよなぁ。・・・と考えながら、ハングマンはチェストから出かけるための服を選ぶ。といっても、適当である。周りからは意外に思われるが、着るものにあまり執着はない。どう組み合わせても、大丈夫、というワードローブしか持っていないからだ。季節の変わり目などにコヨーテがチェックして買い足したりしている。着替えて、ランドリーを回して、必要最小限なものだけをポケットに入れる。財布と携帯と鍵。そして一応フリッジを確認する。今朝、朝食を作るのに使った食材の穴埋めをするメモを頭の中に作る。一瞬、多めに準備しておいた方がいいかな?と思ったが、ルースターが今後も自分の料理を食べる確証はないので、それは脳内から消去する。そうこうしているうちに、インターホンが鳴った。おそらくルースター。それにしても、早い。腕時計を確かめると、ここを出て1時間と少し。ドアを開けると、やはりルースターだった。ジーンズにタンクトップ。それにサングラスはいつも通りで、アロハシャツは見かけるたびに変わっていたような気もするが、その記憶にあまり自信はない。
「早いな」
「ああ、うん。シャワーはお前んとこで浴びさせてもらったから。着替えただけ。それの車だしな」
「まあ、そうか」
「えっと、もう出れる?」
「大丈夫だ」
ハングマンは自分の体を外に出し、鍵をかけた。家の前に綺麗な水色のブロンコ。ああ、空色だなぁ・・・と思っていると、ルースターが「乗れよ」と言って、助手席のドアを開けてくれる。一瞬、驚いたが、ルースターが目で促すのでとりあえず乗り込む。ドアも彼が閉めたので、ハングマンはシートベルトで自分の身体を固定することにした。ルースターも運転席に乗り、エンジンがかけられる。
「’じゃ、行くか」
「ああ」
ハングマンは右の肘を窓に当てて、外の遠くの景色に視線を送った。
***
「なぁ、音楽かけていいか」
「お前の車だし。好きにすればいい」
「いや、静かな方が好きかなって思って」
「そんなこともないけど。お前がピアノを弾きながら歌うのを聴くの好きだし。別に音楽は嫌いじゃない」
「そっか。じゃ・・・」
ルースターがオーディオを弄ると、聞き慣れた曲が流れてくる。ルースターがハードデックでよく歌う曲だった。ハングマンの太腿の上で人差し指がリズムを取るのを横目で見て、ルースターは少し安堵する。というか、情緒がマズい。ハングマンの官舎のドアが開いて、すぐに飛び込んできた姿に、ルースターは一瞬言葉を失ったのだ。
ナンデスカ。コノ、カワイイ、ドウブツハ。
詳しいことはよくわからないけれども、ローゲージのモスグリーンのサマーニット+インナーは白いTシャツ(たぶん)で、その白い部分がニットの襟から少し見えてて+明るめの色のジーンズがハングマンの形のいい脚をより一層綺麗に見せてるし+何だったらニットの裾からちらっとだけ見える白いTシャツがいい感じだし+何と言っても、ニットの袖が長くて手の甲を半分弱ほど隠してるって+それって俗にいう萌え袖ですか!・・・という思考がマッハ10で脳内を駆け巡って、尚且つ運転中も反芻しているのである。危うく開口一番「可愛いな」と言ってしまいそうになる自分は抑えた。言ったら、絶対に「・・・気持ち悪いな、お前。眼科に行ったらどうだ、雄鶏くん。いや、獣医か」と言われそうな気がしたからだ。過去の経験則で。けれども、今日みたいなハングマンだったら、そういうことは言わないかもな。あー、だったら何で、素直に誉めなかっただよ、俺!まさにチキンじゃねえか!こんな時、親父だったら、絶対に母さんのことを褒めてるよな。畜生!そういう遺伝子をちゃんと俺に組み込んどけよ!親父!・・・とハングマンの服装を即座に誉めなかった自分のことも同時に責めるという、器用なことしていた。
「俺、この曲好き」
「ああ・・・お前、ハードデックでかけてたよな。今度、ピアノで弾いてやろうか?」
「弾けんの?」
ずっと窓の外を見ていたハングマンが、ルースターを見る。嬉しそうな表情で。
「俺、耳コピできるから」
「・・・絶対音感があるのか?」
「そういうのかどうかわかんねーけど、俺のピアノは独学だし、楽譜はあんまり読めないから」
「すごいな。俺は楽譜がないと弾けない」
「え?弾けるのか?」
「バイエル、ブルグミューラー、ソナチネ・・・の途中までかな」
「あーそれ、俺には縁のないやつだわ」
「姉さんと妹が習ってるから、なんか俺も習う羽目になったってだけの話」
ピアノを弾けるとか、姉妹がいるとか。昨夜コヨーテからは聞けなかった情報をゲットしたことに満足しつつ、車を走らせる。
「今度、連弾しようぜ」
「やだ」
「え?何でだよ」
「ピアノが弾けるのはルースターだけでいいだろ」
「お前も弾けたら楽しいじゃん。ハードデックが盛り上がる。お前も目立つぞ」
「別に。俺は空で目立てばそれでいいから」
ハングマンが、またふいっと視線を窓の外にやってしまう。せっかく自分を見てくれたのに!俺の馬鹿!と自分を罵る。
「じゃあ、他にも弾いてほしい曲があったら教えろよ。弾いてやる」
「・・・うん」
ハングマンは外を見たまま、小さな声で返事をした。
***
ショッピングモールの中にある書店。そもそもこのショッピングモールに来ること自体、初めてだった。ミッションで忙しくて、買い物どころではなかった。フロアガイドで書店の場所を確かめて、移動する。実は、ルースターの場合、このモールについてはウェブ上でリサーチ済みである。コヨーテから「’ジェイクは読書が好き」という話を聞いて、速攻で検索した。フロア面積も広く、取り扱っている本の種類や冊数も多いのが、このショッピングモール内の書店だったのだ。
「欲しい本は決まってるのか?」
「んー・・・と、『ロボット・イン・ザ・ガーデン』の最新刊。後は特に決まってない。どんな本があるのか、見るのが好き」
「そうか」
これは想定内の返事である。コヨーテから教えてもらった。「ジェイクは3時間くらい本屋にいるのが好き」。
「あー・・・でも、欲しい本を買ったら別にいい」
「何で?」
「お前はつまらないだろ?」
「俺が本を読まない人間だとでも?」
「うん」
「あのなぁ。俺だって本は読む。最近は『Devotion』を読んだぞ」
「え?」
ハングマンが立ち止まってルースターのアロハの裾を掴む。萌え袖から覗く指で。マジ可愛い。ルースター心の声。
「お前も読んだのか!?どうだった?どう思った?」
キラキラした目で感想を聞いてくるハングマンがマジ可愛い。
ルースターは、『Devotion』の感想を滔々と語り始めた。ちなみに、ルースターはこの本を一行たりとも読んではいない。昨夜、コヨーテから「最近ジェイクは『Devotion』っていう本に感銘を受けたんだって」と教えてもらって、速攻で検索したのである。大体の内容を把握し、レビューをたくさん読んだ。今、ルースターが滔々と喋っている感想は数多くのレビューを再構成したものである。要するに、ルースターはハングマンの気を引きたいがために、盛大な嘘をついている、どころか語っているわけなのだが、後日ちゃんと読めば結果オーライ!という謎の理論で真剣に(ちょっと演技)語る。うんうん頷いて一生懸命聞いてくれるハングマンがマジ可愛い(3度目)。約30分に渡って、本を選ぶ他の客の邪魔になっていたがそれにも気づかず、ルースターは本の感想をハングマンに語り尽くした。その後の達成感。どだ!と心の中で胸を張る。
「お前と解釈一致で嬉しい」
「そっか」
心の中でガッツポーズを決める雄鶏。
「じゃあ、お前の本を探そうか。その後、本屋の中を探索しようぜ」
「うん」
ハングマンが素直に頷いたので、ルースターはほっとする。そしてさりげなくハングマンの腰をエスコートしながら、歩き始めた。
***
結局、ハングマンは5冊ほど本を買った。本当はもっと欲しかったのだが、官舎は仮の住まいであまり物を増やしたくないので、我慢した。そして、コヨーテの言った通り、書店には3時間ほど滞在したのである。最初は、「別行動でもいいのに」と言っていたハングマンだったが、次第に本に夢中になり、高いところにある本をルースターが取ってやっても、格段文句をつけることもなかった。ルースターも可愛いハングマンを見ることができたらそれで良いので、非常に充実した3時間になった。本の入った紙袋をルースターが持ってやる。そして時計を見ながら「’ランチにしようぜ」とハングマンを促す。ハングマンも腕時計を見て「そんな時間か・・・」と呟いた。
「エスニックは?大丈夫か?」
「平気」
「じゃあさ、このモールの一角がレストラン街になってて、そこにタイ料理の店があるんだ。そこでいいか」
「いいぞ」
これも当然の如く検索済みである。「最近、俺とジェイクはエスニック料理を食べに行くことが多いんだよな。トム・ヤン・クンとか好きだってさ」。もはや、ルースターにとってコヨーテは心の友である。そして、もしこのモールにタイ料理の店がなかったとしてもノープロブレムである。他に2軒、チェック済みである。ルースターがこのモール内に拘ったのには、理由がある。ランチの後で寄りたい店があったからだ。
モール内のレストランとはいえ、侮れない味。とYELP(ぐるなび的なウェブ)に書いてあったのだが、確かに申し分なかった。その証拠に目の間のハングマンが、トム・ヤン・クンとガイ・パット・ガパオ・ラート・カオを完食したし、ルースターのオーダーしたガイヤーンも食べた。「お前、共食いだな」と言いながら。けれどもマジ可愛い(4度目)笑顔付きだったので、ルースターは気にしない。
「このモールの中に寄りたいところがあるんだけど、疲れてないか?」
「別に」
「そっか。よかった」
会計を済ませるときにハングマンが財布を出したので、「これは朝飯にお礼だから、俺の奢り」と言って、ルースターが払った。何せ、可愛い格好と笑顔を見せてもらっているので、これでランチ代を支払われたら、貰い過ぎである。いやもう既に貰い過ぎなのだが。
「えっと。あーこっちだ、こっち」
相変わらず本の入ったショッピングバッグはルースターが持ち、尚且つハングマンにそっと触れながら誘導する。ハングマンは「今日は難しいことをあんまり考えなくていいから楽だなぁ・・・」と思いながら、ルースターに着いていく。歩いていくと、ふと甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「ここだ。なんかさ、有名なクッキーのポップアップショップが明日まで出てんだよ」
何故に、クッキーか。コヨーテ曰く「ジェイクはね、家で映画を見る時はポップコーンじゃなくて、クッキー派。本を読む時も好きで食べるよ」。速攻で検索である。
「デメルだ。俺、ここのクッキー好き」
はい。正解。さすが、俺。っていうか、神様ありがとう。ハングマンイチオシのクッキーをこのモールで売ってくれて。いや、もう、今日の俺、祝福されてるわ。
ルースターは一番大きいアソートの箱を選び、会計を済ませる。そして、綺麗な紙袋をハングマンに渡した。
「え?」
「官舎に戻って本を読むなら、クッキーがあったほうがいいだろ?」
「あ、まあ・・・うん」
「ネットフリックスで映画を観ながら食べるのもいいしな」
「・・・サンキュ」
なんだかよくわからないが、好きな物を貰ったので例を言う。そして=、ちょっと逡巡した後、ハングマンはルースターを見て言った。
「・・・なあ。俺の家で夕飯食べるか?あ、でも、食材があんまリないから、ちょっとスーパーに寄ってもらわないとダメだけど」
「いいのか?」
「ん、まあ。どうせ、俺も食べるし。大したものは作れねーけど」
「お前の飯がうまいのは朝分かったから。お邪魔していいなら、行く」
「別に邪魔じゃない」
「そっか。じゃあ、スーパーに寄って帰るか」
ハングマンは返事をせずに、パーキングエリアに向かって歩き始めた。けれども、すぐにっ立ち止まって振り返る。
「なあ。、食いたいもん、ある?リクエストに応えるけど」
はい、マジ可愛い(5度目)。
「’お前が得意なおすすめは?」
「・・・そうだなぁ・・・イタリアン系かなぁ・・・」
「じゃあ、アクアパッツァ食いたい。できる?」
「簡単だ」
コヨーテの言葉を思い出す。
「ジェイクはね。イタリア料理が得意。アクア・パッツァは絶品」
END