そうだったのか

わかったことがある。

あの嫌味で人を挑発する言葉しか吐かないと思っていた口は、実はオフィシャルモードであって、プライベートでは存外無口であるということ。

そして何よりも、見てくれからα全開の人間だと思っていたら、実はΩであったということ。過去に初めて出会ったときも、そして今回も。特殊ミッションが終わっても。本当に気づかなかった。どうしてルースターが、彼がΩであることを知ったかというと、コヨーテの存在だった。基地の食堂で、ちょっとした宴会になったとき、気づけばコヨーテとハングマンの姿がなかった。自分とマーヴェリックの生命を助けてくれた救世主の存在はルースターにとっては非常に大きく、どうしたものか・・・と思って基地内を探した。そうしたら、暗い講義室にいる二人を見つけたのだ。ぐったりしている救世主の上半身を抱えながら、まるで子どもあやしているようにしているコヨーテの姿。そんな二人を見て、何故だかルースターの胸が痛くなる。

「ああ、ルースター」

気配に気付いたコヨーテが焦る様子もなく小さな笑顔でルースターに声をかける。

「あー・・・っと。寝不足とか?そいつ」

ルースターがハングマンを指差す。

「いや。体調不良。・・・こんなこと、珍しいんだけどね。意外に思うだろ?」

「んーまぁ・・・そうかな」

「今夜はもうダメそうだから、官舎に連れて帰るよ」

「一人で大丈夫か?」

「まあ、慣れてるからね。・・・ジェイク?立てる?」

「・・・んー・・・」

少し甘ったるさを感じさせる二人の様子に、ルースターは思わず尋ねてしまった。

「あのさ。お前ら、もしかして付き合ってる?」

ルースターの質問にコヨーテは目を丸くする。そして、小さく笑って否定した。

「まさか。違うよ。あー・・・でも、そういうの、気になる?」

コヨーテに質問返しをされて、返答に詰まる。けれども、さっき、胸が痛くなったのは事実だし、食堂から消えたハングマンが気になったのも事実だ。

「・・・少し」

「そっか。正直で嬉しいよ。なあ、そこに座らないか?」

講義室の椅子をコヨーテは指差した。ルースターは素直に座った。

「これを言ったら、後でジェイクに怒られると思うけど。まあ、ルースターならいいかな。うん。味方は多い方がいいからね」

コヨーテは一人で言って、一人で納得する。そして、ハングマンの肩を撫でながら、ルースターに向き合った。

「あのね。ジェイクは、Ωなんだよ」

随分と綺麗に笑うんだな、コヨーテは。と思いながら、耳に入ってきたワードを反芻する。

「あのね。ジェイクは、Ωなんだよ」

そして、コヨーテに凭れかかっているハングマンを見る。それから、ようやく、言葉が一致する。

「・・・こいつ・・・Ω?」

「そう。ジェイクは、Ω」

「え・・・だって・・・ちょっと待て。俺はαだぞ?でも、全然わからなかった!」

「だろうね。理由はよくわからないけど、ジェイクはフェロモンを出さないし、酷いヒートもない。ただ、時々こんな風になっちゃうんだ」

「マジ・・・か」

ルースターの身近にいるΩと言えば、マーヴェリックだった。番はアイスマン。二人は結婚していて、子どももいる。それでも、最高のアヴィエイターとして海軍に君臨している。だから、ルースターの認識として、Ωが弱くて庇護されなければならない存在という認識はない。実力さえあれば、第二の性は関係ない。驚いたのは、Ωの存在にαの自分がずっと気づかないでいた、ということだった。

「・・・もう、誰かと番ってるのか?」

コヨーテは首を横に振った。

「ジェイクはΩって思われてないし、フェロモンも出さないから気づかれない。ルースターだって気づかなかっただろう?」

「・・・まあ、そうか」

「でもさ、空を飛ぶには、その方が都合がいいのかもね。さて、と。困ったな。いつもなら、ちょっとは歩けるんだけどな」

コヨーテがハングマンを立たせようとするが、すっかり身体の力が抜けていてどうにもならないらしい。意識のない人間は重いし、筋肉も重い。

「俺が運ぶ」

「大丈夫?ラットとか起きない?」

「全然、フェロモンがわからないから大丈夫だろ。コヨーテこそ大丈夫なのか?」

「僕はβだからね」

ルースターはハングマンの身体を担ぎ上げた。姫抱きではない。

「さすが!ルースターは見かけ通りに力持ちだ」

「・・・なぁ。歩きながら、こいつのこともっと教えてくれよ」

「へぇ。興味持った?Ωだから?」

「いや。俺とマーヴの救世主だから」

「ルースターのそういうところが好ましいよ。でも、ジェイク本人から聞かなくのいいのかい?」

「こいつが、ペラペラ話すと思うか?」

「思わないな」

「だから、教えてくれよ」

「いいよ」

コヨーテはルースターの逞ましい腕を叩きながら、爽やかに笑った。そして、ルースターに担がれても意識を取り戻さない親友の金髪をそっと撫でてやったのだった。

END