いつものように、電話で呼び出され。
いつものように、被害者を検分し。
いつものように、銃撃戦になだれ込み。
いつものように、相棒は無茶をし。
いつものように、俺はハラハラさせられ。
けれども、
いつものように、事件は解決。
4人で報告書を分担し、それも終わる。
コンピュータのエンターキーを押して、
俺は椅子に深く寄りかかった。
デスクの上に飾ってある、グレイスの写真を見やる。
無意識に口角が上がるのは仕方がない。だって、彼女は俺の可愛いモンキーで、元気の源だから。
「ダニー」
俺のオフィスの入り口に無鉄砲男が立っていた。
「Let’s meet for Pau hana」
「へ?パウハナ?」
このハワイっ子は時折、俺のわからない言葉を会話にぶち込んでくる。
あー。やだやだやだ。だから、こう答えてやる。
「I don’t know」
よっぽど俺は仏頂面をしていたんだろう。
スティーヴがニヤリと笑った。余計にムッとする。
「”仕事は終わり”って意味だよ、ダニー」
「じゃあ、最初っから、そう言えよ」
「”郷に入りては郷に従え”って言うだろ?ダニーだって、最近は、AlohaやMahaloを使ってるぞ?」
「そうだっけ?」
「使ってる。この間もパンケーキ屋のウェイトレスに言ってたぞ」
「あの程度は、世界共通言語に近いだろう。Pau hanaは知らない」
「じゃあ、これで新しい言葉を覚えたな。スキルアップだ」
「俺はハワイっ子じゃないからいーの」
「これからハワイっ子になるかもだろう」
「なんで」
「ハワイ永住とか」
「しないしないしないしない!俺はグレイスのいるところにいるの!もし、グレイスが日本に行っちゃったら、俺だって日本に行くもんねー」
「俺が日本に行ったら?」
「はぁ?お前は勝手に行っただろうがよ!置き手紙一つで!ふざけんな!」
あの時のことを思い出して、だんだん、腹が立ってきた。
「悪かった、ダニー。膨れるなって」
「膨れてねーし」
実のところ、心はめっちゃ膨れていたわけだけれども。
「機嫌直してくれ。ビール、奢るから」
「今夜の飲み代、全部持ってくれるなら」
「仕方がないな」
「ふーん。気前がいいね。気持ち悪い」
「で?ププは何がいい?」
”ププ”ってハワイ語は大好きだ。おつまみって意味だから。
「そりゃあ、パイナップル抜きのピザ」
「それなら、冷凍庫に入ってる」
「え?お前んちなの?」
「帰らなくていいから、楽だろう?着替えも置いてあるし」
「えー」
「心配するな。ビールはちゃんと冷やしてある」
「そういう問題じゃないんだけどさー」
と、文句を言っている間に、スティーヴが近づいてくる。
あー、これは、来るなーと思った。
今日の銃撃戦は結構激しかったし。
アニマルのアドレナリン出まくってたし。
俺は、左手を伸ばして、グレイスの写真をデスクに伏せた。
と、同時に、唇を塞がれる。
これは序の口だ。
いや、序の口にさせる。何せ、ビールとピザが先だからな。
すっと唇が離れた瞬間に、俺は立ち上がった。そして、ポケットからカマロのキーを出し、スティーヴの目の前で左右に振る。
「安全運転で、よろしく」
「わかってる」
「それと、家に着くまで、お触りナシね」
「そりゃ、ないだろう」
「サカるときは、場所を考えろって言ってんの!ほら、行くよ!」
すでに、チンもコノもいなくなったfive-0の本部。釘を刺しておかないと、何をするかわからないアニマルボーイ。違った。アニマルおっさんか。
腰をホールドされる前に、俺はさっさと歩き出した。
「電気を消すのと、戸締り忘れんなよー」
ひらひらと手を振って後を任せる。
”Pau hana”
うん。悪い言葉じゃない。仕事は終わり。これで、上司と部下関係はリセット。
いつでも主導権を握られてたまるかってんだ。
俺は、心の中のハワイ語辞典に、”Pau hana”といういう言葉を書き入れた。
END