Sean1
軍人であるが故に、休日でも早く目覚める。アイスマンとマーヴェリックはいつものように、二人でワークアウトに出かけ、部屋に戻る。
「先にシャワーを使っていいぞ」
とアイスマンが言えば、
「いいよ、一緒で。早く汗を流したいだろう?」
マーヴェリックはアイスマンの腕を掴んでバスルームへと引っ張った。ワークアウト用の服をポンポンと脱ぎ捨て、すぐに裸体になる。もう少し、恥じらいとううものはないのか・・・とアイスマンは思うが、それがマーヴェリックなのだから仕方がない。彼女が脱ぎ捨てた衣類をかき集めて、アイスマンはそれらをランドリーに放り込んだ。それからバスルームに入る。背中まであるブルネットの髪はすっかりと水を含んでいた。アイスマンはマーヴェリックよりも先にシャンプーのボトルを掴んだ。
二人が出会った頃、マーヴェリックはショートカットだった。それはそれでキュートで可愛らしかった。しかし、付き合うようになってアイスマンは驚愕した。何せ、ショートカットのマーヴェリックはボディソープで身体どころか、髪や顔まで洗っていたのだから。スキンケアに至ってはニベア1つで済ませるという、妙齢の女性にしてはあまりにも手を抜きすぎだろう・・・という感じだった。そんなことを思い出しながら、液体を手に取り、湯で泡立てると、ブルネットの髪を洗い始めた。慣れたもので、マーヴェリックもされるがままになっている。
「髪、伸ばせばいいのに・・・」
というアイスマンの呟きに言葉で答えることなく、マーヴェリックは態度で応えてくれた。毎月のように髪を切ることはなく、途中、中途半端で鬱陶しそうな時期もあったが、今は背中の中間あたりの長さをキープしている。アイスマン好みの長さだった。
指の腹を使って頭皮をマッサージしてやると、気持ちよさそうにマーヴェリックは口角を上げた。
泡を流してトリートメントを擦り込む。綺麗な髪だ。キュッと両手で水気を絞り、大きめのクリップで留めてやる。
「ありがとう。アイスは髪を洗うのが上手だよね」
「別に普通だ。マーヴェリックが雑すぎるんだ。ほら、洗顔フォームはこっちだぞ」
「あ、そうなの?そっちかと思った」
「そっちはクレンジングリキッドだ」
「見分けがつかない」
「ボトルの色が違うだろう。それにちゃんと書いてある」
「あー・・・見えなかった」
「嘘をつけ。半端ない動体視力の持つ主のくせに」
「あはは」
アイスマンは昇進のため、少しずつデスクワークが増えたが、マーヴェリックは現役アヴィエーターだ。
ボディーソープで汗を流し、その泡もすっきりと流してやると、
「秋に出てるね」
と言ってマーヴェリックは先にシャワーブースを出て行った。結局、マーヴェリックはシャワーの下に立っていただけで、全部アイスマンが洗ってやった。手のかかるお姫様。けれども、嫌ではない。
アイスマンも手早くを身体を洗うと、シャワーブースを出る。あまりゆっくりしていると、マーヴェリックは何もしない。ニベアで終わる。
「マーヴェリック。言っただろう。髪をタオルでゴシゴシと擦るな」
「んー?」
案の定。アイスマンが寝室に行くと、マーヴェリックはドレッサーに座り、ゴシゴシガシガシとタオルで髪を拭いていた・・・というよりも、擦っていた。
「ほら、貸せ」
アイスマンはタオルを取ると、優しく丁寧に、絞るように、髪の水気を取る。アウトバストリートメントを染み込ませ、それからドライヤーのスイッチを入れた。ダックカールでブロックキングしながら、内側から乾かしていく。ブルネットに艶が出てくる。
「今日の予定は?」
「そんなんのアイスの方が分かってるくせに」
「まあな」
「今日は、教官だよ。誰かさんのせいで飛ばせてもらえない」
「若鷹たちを育てるのも、使命の1つだと思え。・・・生きて還ることを教えるのに相応しい教官だと思うが?ピート”マーヴェリック”ミッチェルは」
「そうかな」
「飛ぶことと同時に、生還することも教えてやったほしい」
「分かった。アイス」
「さて。今日はサービスカーキだな。少しだけ緩めにシニョンにしよう」
マーヴェリックにとって、アイスマンの手指は魔法だった。整髪料を付けた手のひらでブルネットをまとめやすくする。きっちりと後ろに流すことはせず、サイドにほんの少しの髪を残し、器用にピンを使いながら、頭の後ろ下に髪をまとめる。トップの髪を指先で少し、引っ張り出す。公式の場に出るわけではないから、このくらいの遊び心はあっていいだろう。
次はメイクだ。
マーヴェリックがニベアの青缶に手を伸ばすのをアイスマンが止める。放っておくと、本当にこれ1つで済ませる。というか、付き合う前は済ませていた。初デートで行ったのはDiorだ。基礎化粧品をラインで揃えた。BAにメイクを施されたマーヴェリックは、素材がいいだけに、薄いメイクでも、かなり化粧映えした。アイシャドウとリップで彩られた目元と唇を鏡で見たマーヴェリックは相当恥ずかしかったのか「自分じゃないみたい」と下を向いていた。
「マーヴェリック。それは乳液。先に化粧水だ」
「だーかーらー・・・分かんないよ」
「覚える気がないだけだろう」
「あ、バレた?だって、どうせ全部アイスがやってくれるし、そういうの嫌いじゃないんだろ?」
「まあな」
言いながら、マーヴェリックの顔にメイクを施していく。今日は若鷹たちが相手だから、控えめに。けれども、マーヴェリックの美しさは最大限に引き出す。教官らしく、凛とした雰囲気が欲しいと思い、アイラインを引く。
「できたぞ」
「ありがと。アイス、軍人やめても、こういう仕事できるんじゃない?」
「これはマーヴェリック限定だ。他の女の顔に興味はない」
暗に「お前だけを愛している」と伝える。
「クローゼットからサービスカーキを出してこい」
「分かった」
その間に、アイスマンは中に身につける下着とストッキングを選ぶ。
「アイスー・・・ボタン取れてたー」
「後でつけてやる。それよりも、これ」
「着替えるー」
ベッドに上に並べられた、ブラジャー、Tバックショーツ、ガーターベルト、ストッキング。ベッドの下にはシンプルな黒のパンプスを置かれていた。
基本的に、マーヴェリックはアイスマンが用意したものに異は唱えない。信頼しているから。ヘアスタイル、メイク、ファッション。その方面にマーヴェリックは完全に疎い。というか、興味がない。だから、アイスマンに任せておけば失敗はないのだ。
「アイスーストッキングが破れるー」
「待て。履かせてやるから。前にも言ったろう。一気に履こうとするな」
「面倒臭い」
そんな悪態を吐きながらも、ニコニコしているのは、アイスマンに構って貰えるのが嬉しいからだ。アイスマンにストッキングを履かせてもらって、ガーターの留め金もやってもらう。インナーとスカート着ている間に、アイスマンが裁縫箱を用意して、取れかけたジャケットのボタンを手早くつける。
「アイスは本当に何でもできるよねー。ありがと」
繕ってもらったジャケットを受け取り、羽織る。パンプスを履き、アイスマンの前に立つ。
「どお?教官っぽい?」
「俺が教官ぽく仕上げたからな」
「ありがと」
マーヴェリックはアイスマンの首に腕を回し、その頬に口付ける。すぐに離れると、
「コーヒーを淹れてくるね。アイスも早く準備した方がいいよー」
言われてみれば、マーヴェリックにかかりっきりだったので、自分はまだバスローブ姿だ。苦笑しながら、アイスマンは頬に少しついたであろうリップを指で拭うと、メンズローションのボトルを手に取った。
***
若鷹たちが軽くどよめく。
並べられた椅子の間を歩くサービスカーキの女性教官。スカートから覗く脚はバックシームのストッキングで包まれている。
壇上に上がった教官が振り向くと、またどよめきが大きくなった。
えらく美人な・・・そしてセクシーな女性教官。
「おはよう、諸君。ピート”マーヴェリック”ミッチェルだ。今日は、君たちに、戦場から生きて還る方法を教える。ちなみに、その方法にマニュアルはない」
響く、凛とした声。
その夜。伝説のアヴィエーターが、ドチャクソ美人だった。・・・というテキストが、写真入りで飛び交ったのは言うまでもない。
END