Sugar 03

1:30 pm

裁判所から事務所へ戻り、ハーヴィーは自分のオフィスへ、マイクはアソシエイト・オフィスへと別れた。先ほどの裁判の結果をまとめたり、新しい案件に着手したり、ルイスにデスクに置き去りにしていった仕事をこなしたりと、今日もなかなか忙しい。それでも、仕事があるだけ幸せなことだし、忙しいことはあまり苦ではない。トレヴァーと一緒に怠惰で、何の実にもならない怠惰な日々を過ごしていたときのことを思えば、今の自分は相当に恵まれた環境にあるのだ。

書類仕事をひと段落させて、マイクは耳からイヤホンを外した。部屋がシン・・・としている。周囲には誰もいない。時計を見ると、ちょうど遅めのランチタイム。皆、外へ食べに行くか買いに行くかしたのだろう。マイクは腹を撫でた。朝、ハーヴィーが作ってくれた朝食は完全に消化している。今、食べないと、今日はいつまた食事にありつけるかわからない。マイクは捲っていた袖を直してジャケットを羽織った。フードトラックでベーグルとコーヒーでも買おう。そう思ったのだ。

エントランスを出て、キョロキョロと左右を確認すると、馴染みのフードトラックがいつもの場所に停まっていた。人も数人並んでいる。その中に、ハーヴィーの姿があった。マイクは小走りに駆け寄った。

「ハーヴィーもベーグルサンドでランチ?」

「マイク。今頃、昼食か?」

「うん。ついさっきまで、書類と格闘してた。あ、今朝の裁判のレポートも完成したから、後でオフィスに届けるね」

「早いな」

「ハーヴィーの仕事は一番に手をつけることにしてるから」

にっと笑ってマイクはハーヴィーの後ろに並んだ。

「サーモンとクリームチーズにしようかなぁ・・・」

そんなことを呟いていると、ハーヴィーがマイクの腕を掴み、フードトラックの列から連れ出した。

「えっ・・・ちょっと!買わないの?」

「せっかくだ。食べに行こう。この近くだ。歩いていける」

「だって、仕事!ベーグルサンドなら仕事しながら食べられるし・・・」

「1時間くらいランチに時間を割いたところで、仕事に支障をきたすような君じゃないだろう。ほら、言うことを聞かないと、また触るぞ」

「うわっ・・・」

マイクは腕を振りほどいて、数歩、ハーヴィーから離れた。

「・・・わかったよ!行く!行くから!もう、公衆の場での猥褻行為はやめて!」

「猥褻って・・・愛情確認だろうが」

「人前はダメ!」

「わかったわかった。ほら、行くぞ」

笑うハーヴィーに促されて、マイクは一緒に歩き始めた。念の為、自分の背後に気をつけながら。

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「え?ランチでこんな高級なレストラン?」

マイクはちょっと体を硬くした。

「本当はこの店でクライアントとランチミーティングの予定だったんだ。しかし、相手方の都合でキャンセルになった。ランチだからミニコースだが、なかなか美味いぞ」

「いいの?僕なんかが?」

「今日の法廷でのご褒美だ。遠慮はしなくていい。ご馳走様してやる」

「嬉しいけど・・・」

戸惑っているマイクを余所に、ウェイターがハーヴィーたちを席に案内する。ハーヴィーと一緒に外食をすることは珍しくもないが、それは夜が多くて、こんな明るい昼間に一緒に食事だなんて、非常に珍しいことだった。

「なんか・・・新鮮」

「何がだ?」

「貴方と一緒にこういう場所でランチをすること」

ゆっくりと一品一品運ばれてくる料理を食べながら、マイクが言う。

「別に、レストランで食事なんて、初めてじゃないだろう。夜景の綺麗な高級レストランにも連れて行ってやったことがあるはずだが?」

「なんていうのかなぁ・・・それって夜でしょ?だから、その・・・仕事も終わって、ホッとして・・・そのプライベートでって感じで・・・あ、もちろん、高級レストランだから、そういう意味では緊張するんだよ?でも・・・その・・・仕事を終えて事務所を出たら・・・えっと・・・んー・・・僕たちの関係ってさ・・・」

「ああ・・・」

ハーヴィーは悟った。要するに、マイクは仕事中に「イケナイこと」をしているような気になっているということだ。ハーヴィーはマイクとの関係については24時間フラットだが、逆にマイクは公私をきちんと分けようとする。

ハーヴィーは面白くなって、手をマイクの方へ伸ばした。マイクが慌てて引っ込める前に、掴み取る。

「ハ、ハーヴィー!」

小声でマイクが嗜める。

「ここで、君の手の甲にキスをしたら?」

「絶対に、ダメ!」

「やっぱりか」

「当たり前じゃん!もうっ、離してよ!誰かに見られたらどうするの!ほらっ!ウェイターが来るから!」

黒服のウェイターが食後のデザートとコーヒーを持って近づいてくる。ハーヴィーの指の力が抜けた瞬間、マイクはサッと手を引き抜いてテーブルの下に隠した。

「洋梨のタルトでございます」

綺麗にデセールされた皿が置かれる。ウェイターが去った後で、ハーヴィーが自分の皿をマイクの方へ押しやった。2つくらい余裕で食べられるだろう?」

「え?くれるの?」

「甘いものを頬張る君の顔は可愛いからな。俺はそれで十分だ」

そう言いながら、ハーヴィーはコーヒーに口をつける。

「ハーヴィー・・・ほんと、人前だってことを自覚して・・・。まあ、タルトは貰うけどさ・・・」

高級レストランの、高級デザートを口にして、マイクは青い瞳をキラキラと輝かせた。

「美味しいっ!。はぁ・・・幸せなランチ。これで午後からも仕事、頑張れる・・・」

「それは良かった。これで、君の仕事の効率が上がるのなら、連れてきた甲斐があった」

「・・・まあ・・・ランチもそうだけど・・・ハーヴィーを補給できたからってのも・・・あるよ?」

「ほう・・・。じゃあ、やっぱりキスの1つくらいは・・・」

「いや!それはいらないから!」

ハーヴィーに手のひらを見せ、きっぱりと言うマイクだった。

to be continued