Sugar 02

10:00 am

静謐な空間に響くテノールの声が心地いい。弁論をするハーヴィーの声を聞いたのは久しぶりだ。割と事務所においてけぼりのお留守番が多いからだ。まあ、法廷に連れて行ってもらえるほどの力もない。なにせ・・・無資格だし。事務所で書類仕事をしてる方が、自分には分相応なんだろう。けれども、今日のハーヴィーはマイクを法廷に連れてきてくれた。そして、隣に座らせてくれる。一人の弁護士としてハーヴィーはマイクを扱った。にもかかわらず、その声に酔いしれてしまっているのだが。しかし、デュアルに脳を使うことができるので、マイクは的確な資料を適切なタイミングで、ハーヴィーの前に滑らせた。大事な箇所はきちんとマーキングしてある。いきなり法廷に連れてこられたから、事前の打ち合わせなどない。それなのに、マイクはあたかも念入りに作戦会議をしてきたかのように振る舞った。言われなくても、それをハーヴィーが望んでいることは十分にわかっている。だから、ハーヴィーの姿に見惚れながら、その声に聞き惚れながらも、自分の役割をこなした。・・・自分は、完璧だったろうか。

結局のところ、というか当たり前のように、ハーヴィーの勝利で閉廷した。先に立って歩き始めた上司の姿に慌てて資料や書類をメッセンジャーバッグにしまい、後を追いかける。すぐに追いついたけれども、マイクは一歩半だけ、後ろを歩いた。「斜め後ろから見るハーヴィーもかっこいいなぁ」などと思いながら。そうしたら、急にハーヴィーの手が伸びて、マイクの腕を掴んで引っ張った。マイクの体が、裁判所の廊下でハーヴィーの真横に並ぶ。

「ちゃんと俺の隣に立って歩け。君にはもう、それだけの力を価値がある」

その言葉に、マイクは青い目を見開いた。マイクにとって、それは褒め言葉だ。自分を仕事で認めてもらえることほど、嬉しいことはない。

「ほら」

と、ハーヴィーが歩き始めるときに、背中を叩かれる。

マイクは慌てて、ハーヴィーに歩調を合わせた。

法廷を出ると、空がとても青かった。もう、季節は秋で、空気が少しずつ、冷たく綺麗になっているのだろう。

「ああ・・・君の瞳と同じ色だな」

「・・・こんな色・・・してる?」

「君の瞳は綺麗なスカイブルーだろう。まあ、その時の感情で微妙に色合いが変わるがな」

「え・・・」

「君は結構、感情が顔と瞳の色に出る。自分で気づかなかったか?」

「だって・・・そんな、自分で鏡なんて見ないもん・・・」

「今はかなり澄んだブルーだ。・・・楽しかったか?法廷は」

「うんっ。今日は連れてきてもらって嬉しかった。・・・その・・・僕は・・・貴方の役に立ててた?」

「自覚がないのか」

「・・・どうかな・・・」

「最高だったぞ」

「ほんと!?」

「ああ。ベッドの中での君と同じくらいにな」

「っ・・・ちょっ!公共の場でそういうこと言わないで!」

マイクは顔を真っ赤にしてハーヴィーの言葉を遮ろうとする。けれどもハーヴィーは我関せずといった涼しい表情でマイクの腰に手を当てて歩き始めた。

まさか、公衆の面前で不埒なことはしないとは思うが、相手はハーヴィーだ。油断ならない。マイクは気持ちだけでは自分の尻をガードした。が、やはり、裁判所の階段を下りきったところで、サッとひと撫でされたのだった。

「~~~~っ!!!!!!」

「スーツの上からでも、触り心地がいいな」

マイクは慌ててハーヴィーから少し離れ、メッセンジャーバッグで尻を隠した。

「ああ、ほら。今度は潤んだスカイ・ブルーの瞳だ」

「はっ、恥ずかしいんだってば!」

そんなマイクを横目に、小さな笑い声をあげるハーヴィーだった。

to be continued