顔をこちらに向けて、うつ伏せになって寝ているマイクを見るのは、朝の楽しみの1つだった。折り畳んだ白い羽で体のラインが隠れてしまっているのが少々残念ではあるが、その羽も含めて愛しているのだから、まあ、いいだろう。
ハーヴィーは起き上がることはせずに、腕だけを伸ばして、マイクの羽をすぅーっと何度も撫でた。滑らかで、少しひんやりとしている。マイク曰く、鳥にしろ、自分の翼にしろ、その造りはなかなか複雑らしい。一度、「空を飛んでいる姿が見てみたい」と言ったら、速攻で却下された。このNYでは目立ちすぎる、ということだった。確かに、それもそうだな、と思う。未確認飛行物体と騒がれても面倒だ。この部屋の中で、眺めることで十分と思った方がいい。マイクも狭っ苦しい自分のアパートよりも、ハーヴィーの部屋の方が広くて、自由に羽を伸ばせるから快適だと言っていた。
ハーヴィーはマイクの蜂蜜色の髪や、白い頬を触り、それから再び、羽を撫で始めた。
「ん・・・んふ・・・ハーヴィー・・・くすぐったいよ・・・」
「起きてたのか」
「羽にだって、感覚があるんだからね・・・」
そう言って、マイクはゆっくりと目を開けた。綺麗な、スカイブルーの瞳だ。大天使と同じ名前を持つマイクは、とても綺麗だった。・・・堕天使ではあったが。
マイクは両手をついて起き上がると、四つ這いでハーヴィーに近づき、その体を跨いだ。
「おはよ、ハーヴィー」
天使のキスを受ける。マイクは軽いつもりだったようだが、ハーヴィーは彼の頸に手を添えて、体を逃さないようにした。マイクも嫌ではないらしく、大人しく、唇を深く合わせ、舌を絡め始めた。時折、呼吸のためにわずかに唇を離す。数回目に唇を離したとき、マイクは小さく呟いた。
「ねえ・・・僕のココ・・・まだ・・・柔らかいよ?」
そう言って、ハーヴィーの手を取り、自分の後ろに誘う。ハーヴィーも意図を察して、その割れ目に指を差し込んだ。
体を重ね終えて眠りについてから数時間。それでもそこは、ついさっきまで熱いものを咥え込んでいたかのように、熱を孕んでいた。すぐに、ハーヴィーの指が飲み込まれる。
「んっ・・・ふっ・・・」
マイクが気持ち良さげに、喉を反らした。
「淫乱天使め」
「嫌いじゃないでしょ?」
マイクは、にっこりと笑みを浮かべると、腰を上げた。自然とハーヴィーの指が、抜ける。けれどもすぐにマイクはたったそれだけのやりとりで、すっかりその気になったハーヴィーに綺麗n指を添えると、自分の後孔に当てがい、腰をゆっくりと落とした。深く、甘いため息をつきながら。
全てを飲み込むと、両手をハーヴィーの腹に付き、細めた目で一度ハーヴィーを見てから、静かに目を閉じて、体を上下に動かし始めた。
マイクが羽を出している時のスタイルはいつもこんな感じだ。あるいは、向かい合って、座ったままか。マイクも表情が豊かだが、彼の持つ羽も、きちんと表情を持っていた。まるで、猫の尻尾のように。いつも羽をしまっているのは窮屈らしい。けれども、マイクのアパートでは狭すぎて、十分に羽を広がられない。以前、マイクの部屋でセックスをしたことがあったが、彼が達するときに広げた翼が周囲のものに当たり、色々と落ちてきて大変だったことがある。だから、セックスはハーヴィーの部屋で・・・が暗黙の了解だった。
いつの間にか、マイクの両手が、ハーヴィーの腹から立ち上がった自分のものへと移動し、刺激を与えていた。ハーヴィーはその手を包み込むようにして、手伝ってやる。
「はっ・・・あっ・・・あっ・・・ああんっ・・・」
甘い声とともに、マイクの翼が広がり始めた。絶頂が近いのだろう。ハーヴィーは自分の手をマイクの手の中に滑り込ませ、ぬるぬるとしたそれを直接刺激してやった。
「あっあっあっ・・・あああっ・・・やぁっ・・・」
赤く濡れた口腔が見える。背中がしなり、白い翼がバサッという音を立てて、寝室中に広がった。数本の羽根が、宙を舞う。マイクは、ハーヴィーの手の中に、ハーヴィーのマイクの体の中に、白濁を放った。
震える天使の体が、ぽすんと、自分の体の上に落ちてきた。ゆっくりと緩慢に畳まれた翼ごと、ハーヴィーはその体を緩く抱きしめてやった。
シャワーを済ませたハーヴィーがキッチンでコーヒーを淹れていると、ようやくマイクが寝室から姿を表した。翼を出してはいるが、ハーヴィーのお古のシャツは着ている。どうしてそういうことができるかというと、ハーヴィーが自分の着なくなったシャツやTシャツの背中を、羽が出せるように切ってやったからだ。天使のマイクは、羽を出しているのがデフォルトなので、このスタイルは楽でいいらしい。
「マイク、コーヒーを飲むか?」
「んー・・・飲みたいけど・・・シャワーが先?・・・だって、僕の中、貴方のでいっぱいなんだもん。・・・溢れそう・・・」
「ふうん・・・」
カウンターに手をついたものの、座ろうとしないマイクに、ハーヴィーはマグカップを置いた。そして、マイクのいる側に移動する。
「ん?何?ハーヴィー」
自分の隣に立つハーヴィーの意図が読めなくて、マイクは首を傾げた。そんなマイクのウエストを左腕でホールドすると、ハーヴィーは右手の指2本で、マイクの双丘を、否、後孔を左右に開いた。
「えっ・・・あっ・・・やっ・・・ちょっとっ・・・あ・・・出ちゃうっ・・・」
ハーヴィーの指に割り開かれた部分から、こぷっっと・・・白いとろりとした液体が溢れてくる。それはマイクの内腿を伝って、ゆっくりと降りて行った。
「やぁんっ・・・ハーヴィー・・・こんなところでしなくたって・・・ふえ・・・」
「自分でするよりもいいだろう?」
「だから、やなの!・・・だって・・・またシたくなっちゃうじゃん・・・うー」
口を尖らせながら、涙目になっている姿も可愛い。
「羽をしまえ。バスルームで綺麗にしてやる」
「それだけ?」
「それ以上のことが欲しいか?」
「んー・・・お腹が空いたから、それは保留にしてもいい?」
「いいだろう。ほら、先にバスルームに行け」
「わかったー・・・」
マイクがハーヴィーに白い翼を見せながらバスルームに行く。その歩いた床には、ヘンゼルとグレーテルのように、白いものが点々と落ちていた。それを見て、何故だか、ニヤリと笑みがこみ上げてくるハーヴィーだった。
一体どういう仕組みになっているのかは、まだハーヴィーにもわからない。おそらく、マイク自身にもわかってはいないのだろう。バスルームのマイクには、もう翼はなかった。シャワーで頭をガシガシと洗っている。綺麗な蜂蜜色の柔らかな髪をしているのだから、もう少し丁寧に扱ってもいいのに・・・と思う。けれども、マイクは結構、ガサツな天使だった。
ハーヴィーも服を脱いでマイクに近づく。今朝、2度目のシャワーだ。ハーヴィーはマイクの手を頭からそっと外し、代わりに自分が髪を洗ってやった。指の腹だけに軽く力を入れて、頭皮をマッサージしてやる。それが気持ちいいらしく、マイクは目を細めた。
「んー・・・ハーヴィー、髪を洗うの上手」
「君は乱暴すぎる」
「だって、天界にシャワーなんてないもん。なかなか人間って面倒だよね。ああ・・・僕、猫になればよかったかなぁ。猫はシャワーなんか浴びないもんね。体を舐めておしまーい」
「猫だったら、俺とは出会えなかったな」
「・・・そっか。それは・・・やだな・・・」
髪から泡を流すと、ハーヴィーはマイクの尻に指を這わせた。
「まだ・・・残ってるんだろう?」
「貴方が奥までいっぱい出したからね」
マイクがにこりと笑う。ずいぶんと性に奔放な天使だ。
「マイク、腰を出せ」
マイクは壁に手をついて、素直に軽く腰を突き出した。ハーヴィーの指が内部に入り込み、開きながら、その内壁や襞を撫でる。
「んっ・・・もう・・・ハーヴィー・・・洗い方が、エッチくさい」
「君がそう感じているだけだろう。俺は純粋に綺麗にしてやってるだけだ」
「ああ・・・ハーヴィーはデフォルトでエッチなんだね」
「それは君だろう。淫乱天使」
「それはハーヴィーが僕に気持ちいいことを教えるからでしょ」
「君も嫌がってない」
「まあ・・・それはね。そうなんだけど・・・」
ハーヴィーはマイクを綺麗にすると、シャワーを止めて、その羽のない背中にキスをした。
「ねえ、バスルームを出たら、また羽を出していい?」
「もちろん。君の翼は好きだ」
「・・・黒くても?」
「ああ」
ハーヴィーはふと思い出す。初めてマイクの翼を見たとき、その羽は漆黒だったのだ。だから最初は悪魔かなんかだと思った。けれども、よく話を聞いてみると、元いた天界で悪戯が過ぎ、下界に堕とされた時はまだ白い羽だったという。ところが、堕ちた場所が悪かった。マイクの下界でのファースト・コンタクトは、トレヴァーだった。だから、マイクは悪いことばかり覚えた。それとともに、羽の色が変わっていったらしい。どんどん汚くなっていく自分の羽を見て、マイクもマズイと思った。だから、トレヴァーと縁を切ろうと。そんな時に出会ったのが、ハーヴィーだった。ハーヴィーと一緒に仕事をし、人助をし、そしてハーヴィーを愛するようになって、羽の色が次第に白へと戻っていった。その変容を見るのもハーヴィーの楽しみの1つだった。
今では、とても美しい、純白の羽だった。心も行動も安定している証拠だ。
2人はバスルームを出た。広いリビングでマイクは髪を拭きながら、シャツから羽を出して広げた。そして、すぐに折りたたむ。
「ハーヴィー!朝御飯ー!」
「わかったわかった」
マイクが寝ている間に、だいたいの準備は済ませてある。あとはマイクの好きなオムレツを作るくらいだ。
「僕、ハーヴィーの作るオムレツ大好き!」
「だろうな」
「ふっわふわで、中身はトロッとしてて、美味しい!」
「うん。君の作るオムレツは石みたいだからな」
「・・・いいの。僕は天使だから、家事能力はなくてもいいの」
「そうだな」
笑いながら、ハーヴィーはカウンターからオムレツの乗った皿を差し出した。
「サラダもちゃんと食べろよ」
「はーい」
天使も食事をするんだな、と思ったら、それは下界に堕とされた天使だけらしい。翼以外は、普通の人間と同じだという。取り立てて特殊能力があるわけでもない。あるとしたら、見ただけで全てを記憶できる能力ぐらいだろう。しかし、それは天使だから備わっている能力というわけではないらしい。マイク固有の能力だ。そしてそれは仕事で十分に発揮されている。
「ハーヴィー。僕、貴方に出会えてよかったよ」
マイクがオムレツを頬張りながら、おもむろに言った。
「それはオムレツが美味いからか」
「違うよー。貴方と出会えて、僕は少し真っ当な天使になってきたと思うんだ。・・・トレヴァーと一緒にいた時は・・・すごく、怖かった。・・・羽がどんどん黒くなっていくの。・・・だって・・・この下界にいられなくなったら、あとは地獄に堕ちるだけだもん。・・・ルシフェルに会うの、マジ怖いし」
マイクはぶるりと体を震わせた。
そんなマイクを見て、ハーヴィーはたった1つだけ気がかりなことがあった。
この下界に堕とされた天使は、いつか天界へと帰っていくのだろうかと。それを訊ねてみたいと思ったことは何度もあったが、なかなか聞き出せずにいた。・・・今もだ。
「マイク・・・」
ハーヴィーはカウンター越しに手を伸ばして、乾き始めた蜂蜜色の髪に触れた。
「デザートにプリンもあるぞ」
「食べる!」
とりあえずは、今、この瞬間の幸せを。
ハーヴィーは冷蔵庫から、これまたマイクの好物であるプリンを取り出したのだった。
END