マイクの甘い嬌声とハーヴィーのくぐもった嗚咽が同時に寝室に響いた。そして、互いの吐息。それが収まったところで、二人で鼻先をこすり合せる。微かに笑いながら。それがいつしか、キスと変わる。どちらが仕掛けたかわからないようなキスを繰り返しながら、ハーヴィーは自身をゆっくりとマイクから抜いた。「んっ」というマイクの声が耳に心地いい。ハーヴィーはマイクの隣で横になった。すかさず、マイクが頭をぽんっと預けてくる。
「ちょっと嬉しい」
マイクがもぞもぞと居心地のいい場所を探しながら言う。
「何の話だ?」
「一緒にイけたこと。いっつも僕ばっかり先にイカされちゃうから」
ようやく落ち着く場所を見つけたマイクが、腕をハーヴィーの体に回した。
「ほら、ちゃんとかけろ。風邪をひくぞ。まだ、寒い」
「そお?暖かいよ?」
言い返すが、無理矢理ハーヴィーに肩口まで毛布をかけられる。マイクもそれを拒否することはなかった。ハーヴィーに甘やかされるのは嫌いじゃない。
「・・・そうだな。暖かくなったら・・・どこか行くか」
「ん?ディナーならいつでも行けるじゃん」
「いや・・・そうじゃなくて、少し遠出をするか。休みを取って」
「長期休暇は取らない主義じゃなかったっけ?ハーヴィー」
「一人ではな。君と一緒なら別だ」
「ふうん・・・何処・・・行くの?」
「考えておく。・・・希望はあるか?」
「そうだね。・・・ハーヴィーが一緒なら何処でもいいけど・・・さ」
「ザックリとでいいぞ。山とか、海とか」
「んー・・・森林浴もいいけど・・・海風もいいかなぁ」
「海か・・・いいな。わかった」
「お互いに休みが取れたら・・・だよ?」
「取るさ」
そう言って、ハーヴィーはマイクの髪を撫ぜた。
********************
「ハーヴィー!窓を全部開けていい?」
ハーヴィーは頷いて返事をした。
ビーチが目の前にある小さなコテージ。マンハッタンから車で6時間。リゾート地といわれるハンプトン。しかし、ハイシーズン前の6月であり、またそのハンプトンの外れにあるという立地条件から、まるで貸切のような空間だった。
休暇は、結局マイクの取れる時期にハーヴィーが合わせた。シニア・パートナーである自分の方が、休みには融通が利く。ジェシカも嫌な顔はしなかった。また、ハーヴィーのクライアントが新しいコテージを購入したものの、手放すことなく所有していた古いコテージを借りたのだった。
キャリーケースを床に置いたまま、マイクはバタバタとコテージ中の窓を開け放った。入り込んでくる風は、確かに心地よい。ようやく全ての窓を開け終わると、マイクはビーチに面しているリビングの大きな窓の前に立った。
「もう少し繁華街よりの方がよかったか?」
「なんで?僕、ここ一発で好きになったよ?だって、周りに人がいなくってさ、ハーヴィーと本当に二人っきりって感じじゃない?あー・・・それとも、ハーヴィーは都会の方が落ち着く?」
「いいや。俺もあえて、こっちのコテージを借りた。いつもビルと人に囲まれてるんだ。たまにはこういうのもいい」
「だよね!ありがとう、ハーヴィー!」
マイクがハーヴィーの首に腕を絡めてキスをする。感謝のキスだ。だから、すぐに離れると、改めてコテージの中を探検する。小さなコテージだから、あっという間に終わってしまうんだが、何か感じることがあるらしい。
「マイク?」
「んー、何?」
「そんなに珍しいか?」
「珍しいっていうよりも、懐かしいって感じ。確かに、このコテージの方が絶対に素敵に立派なんだけどさ、何となく前に住んでたアパートを思い出す」
ハーヴィーが勝手に解約して、勝手に引越しさせた、あの古い煉瓦造りのアパート。確かに、古さでいえば、似たようなものかもしれない。
リビングのすぐ隣のベッドルームに行って、マイクは思いっきりダイブした。管理人の手入れが行き届いているのだろう。綺麗にベッドマイクされたベッドに、マイクの体が軽くバウンドし、沈む。
「会社とかさ、ハーヴィーのマンションとかさ、いっつも高い所にいるじゃない?だから、なんかこういう地面に近い所にいるのって、何だかいい感じ」
ハーヴィーも寝室に行き、ベッドに腰掛けた。
「あの部屋は・・・苦痛か?」
そんなハーヴィーの言葉にマイクが慌てて起き上がった。
「ごめん!そんなつもりで言ったんじゃない!ハーヴィーと一緒なら、何処で暮らしたっていいんだよ。ただ・・・ごめん。ちょっと浮かれてたかも。嫌なこと言っちゃったよね」
「冗談だ。気にしてないし、俺もこういう環境は嫌いじゃない。こっちも悪かった。変な言い方をした」
「じゃあ・・・おあいこってことで」
マイクが上目遣いに笑う。せっかくのヴァカンスだ。どうでもいい話は終わりにする。
「マイク、スマホは?」
「電源を切って、キャリーケースの底」
「俺もだ。邪魔はされたくないからな」
「この休暇のために、前倒しで仕事を頑張ったんだよ」
「昨夜も遅かったな」
「疲れちゃった」
「少し、寝るか?」
「えー・・・それは、何だか、もったいないなぁ・・・」
「じゃあ、ビーチにでも出るか?」
「んー・・・」
「マイク?」
何処か煮え切らないマイクの態度に、ハーヴィーがその顔を覗き込む。それを避けるようにマイクが顔を背けた。が、すぐに、ちらっとハーヴィーを見る。
「ねぇ・・・」
「どうした?」
マイクはそれに答えず、ハーヴィーに唇を寄せた。軽く、その下唇を喰み、舌先でスッと舐めた。それだけで、ハーヴィーはマイクの求めていることがわかる。休暇を取るために互いに忙しい日々を過ごし、夜も一緒のベッドで眠るだけ・・・ということが続いていた。
「明るいうちからって・・・軽蔑する?はしたない?」
「まさか。俺も大賛成だ」
シャツの上から、ハーヴィーの手が、マイクの体のラインをなぞる。少し細くなったような気もする。お互いに忙しくて、一緒に夕食を取ることもしていなかったし、互いの調子を気にかける暇もなかった。そんなことに心がチクリと痛む。座ったまま、キスを続け、その唇の隙間から、マイクに話しかける。
「久しぶりだから、ゆっくりだぞ?」
「平気なのに・・・」
「駄目だ」
きつく言われて、思わず眉を顰めてしまったマイクだが、すぐにそれはハーヴィーの自分に対する思いやりなのだと、考え直す。それに、ゆっくりの方が、長い時間楽しめる。
どちらが仕掛けているのかわからないようなキスを続ける。こんな風にじっくりと唇を味わうのも久しぶりだ。最近は、朝や夜に軽いキスを交わすだけで終わっていた。
「ふっ・・・んっ・・・」
息苦しさが、快感になる。相変わらず、ハーヴィーの手は、マイクの皮膚に直接触れることはせず、シャツの上から弄るだけだ。コットンシャツが。、肌に擦れる感触がもどかしい。マイクはキスを続けたまま、ハーヴィーの右手を取ると、自分のシャツの中の招き入れた。手を離さずに、触れてほしいところへと導く。ハーヴィーの指先が、自分の胸に触れたとき、思わず、ヒクリと、上擦ったような声が出た。
「・・・ハーヴィー・・・」
ようやく、唇を離したマイクが、ハーヴィーの瞳を捉える。訴える。もっと触れて。もっと抱き締めて。もっと・・・もっと・・・。
ハーヴィーが静かにマイクをベッドに押し倒した。
「寒くないか?・・・窓を閉めるか?」
「やだ。・・・少しの間も離れたくない。どうせ、すぐに、ハーヴィーが熱くしてくれるでしょ?」
逃すものかと、視線を絡ませる。
「・・・わかった」
柔らかなベッドに沈み込むように押さえつけられる。まるで、コットンの海のようだった。さらりとした布の感触。清潔な匂い。それよりも、ハーヴィーのフレグランスの香り。
まだ、セックスをしているわけでもないのに、こんな風に触れ合っているだけで、気持ちが高揚する。明るい部屋の中で、自然風に晒されながら。きっと、体は冷えて行くのだろうに、そんなことも気にならないくらいに、体の芯部が熱い。
「ハーヴィー・・・言っても、言っても、言い足りないんだけど・・・大好き。僕を受け入れてくれて、ありがとう・・・」
「言うな。・・・俺も君には我儘を強いてるからな」
ハーヴィーは優しく笑うと、マイクの衣服を剥ぎ取り始めた。今まで触れなかった間を埋めるようにして、手のひらをマイクの体に這わせる。吸い付くような感触。滑らかな皮膚。思うがままに、唇で吸いながら、朱痕を残して行く。上半身はそうしながら、ハーヴィーは手を下肢にも伸ばし始めた。
指を一本だけ潜り込ませようとすると、そこは拒絶するかのように、きつかった。
「やっぱり、狭くなってるな」
「大丈夫だよ・・・ゆっくりなら・・・」
「スマホはともかく、ローションぐらいは、鞄から出しておけばよかったな。
「やだよ。今、僕から離れないでよ」
「辛いぞ?」
「いいもん。・・・ハーヴィーは絶対に嫌なことしないってわかってるし・・・」
すっかり安心しきった顔で言ってくるのが愛おしい。ハーヴィーはできるだけ、マイクに負担をかけないように、その狭い蕾を押し開いた。
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「陽が・・・傾いてきたねぇ・・・」
ハーヴィーに寄りかかりながら、マイクが小さく呟いた。そんなマイクの髪の毛を指先でいじりながら、腕時計で時間を確認する。
「街の方にでも、夕食を食べに行くか?」
「えー・・・いいよ。コテージで食べようよ」
「ワインとつまみくらいしかないぞ?」
「それでいい。人がいる所に行きたくない。ハーヴィーと二人っきりの方がいい」
「痩せたみたいだから、ちゃんと食べさせたいんだがな」
「明日、ちゃんと食べるから。だから、今夜はここにいようよ」
「ベッドに持ってくるか」
「・・・あ、いいこと考えた。ちょっと待ってて」
マイクがベッドから降り、シャツを羽織って、寝室を出て行く。遅れてハーヴィーも後を追うと、マイクはソファにかかっていた布を剥がしてリビングの床に敷き始めた。そして、ハンプトンにくる途中で買ったワインとつまみを並べ始める。
「行儀悪い?でも、やってみたかったんだよね、こういうの。あ、そこのキャンドル使っていいかなぁ」
「いいと思うぞ」
「じゃあ、遠慮なく」
マイクが棚にあったキャンドルを取り出して床に置き、火を付ける。部屋の灯りは付けない。
「ハーヴィー、座って。夜のピクニックをしようよ」
いつの間にか、陽は安全に落ち、蝋燭の炎の揺らめきが、マイクの顔を照らす。セックスをした後のせいか、色っぽく笑う。
「はい。ワインのコルクを抜くのはハーヴィーの仕事ね」
ハーヴィーにボトルを預け、自分は皿につまみを盛り付けて行く。
「楽しそうだな」
「うん。楽しいよ。・・・ヴァカンスっぽくない?っていうか、僕、ヴァカンスは初めてだから、本来のヴァカンスが’どういうものかは知らないけど。・・・でーきたっと。あ、ハーヴィー、はい、ワイングラス」
差し出されたグラスに赤い色の液体を注ぐ。
いつもはウィスキーだが、今回は何故か、ワインを買った。あとはパンとチーズとハムやソーセージくらいだ。
「朝までもつのか?君は」
「僕は大丈夫。あ・・・でも、ハーヴィーはしっかり食べたかった?」
「いや・・・そうでもない」
性欲が満たされたせいか、食欲はさほどない。目の前に広げられたものだけで十分だろう。
静かにしていると、さざ波が聞こえる。
「マイク、こっちに来い」
マイクは逆らうこともなく、素直にハーヴィーに近寄り、その足の間に収まって、背中を預けた。マイクの好きな姿勢の一つだった。
「いいね。このコテージ」
「随分と気に入ったようだな」
「うん」
「クライアントから買い取ることもできるぞ」
「贅沢すぎない?」
「本当なら、海外にでも連れて行ってやりたかった」
「そんなに休みを取るハーヴィーじゃないでしょ。・・・僕もだけど。このくらいが分相応だよ。十分楽しいし。プチヴァカンスくらいが、ちょうどいい。」
「まだ、セックスしかしてないぞ?」
「それがいいんじゃない」
「爛れてるな」
「本当にね」
クスリと笑いながら、ワイングラスを傾ける。何箇所かは窓を閉めたが、ビーチ向きの窓は開けたままで、海の音が聞こえてくる。
「明日はどうする?」
「そうだねぇ・・・二泊三日だし・・・のんびり爛れてるのがいい」
「行きたいところもないのか」
「来たじゃん。ここに。それでいいんだよ、僕は。それに傍にハーヴィーがいるんだし」
「相変わらず、あまり欲を言わないな、君は」
「そうかなぁ・・・結構、ハーヴィーには我儘を言ってるつもりなんだけどなぁ・・・。ねえ、そこのお皿のチーズが食べたい。食べさせて」
「お安い御用だ」
ピックを挿したチーズをマイクの口に運んでやる。はむっと口に入れるとモグモグと咀嚼する。
「次は?」
「じゃあ・・・スモークサーモンのカナッペ。・・・ね?結構我儘でしょ?」
「どうやら、我儘の基準が違うらしいな」
「・・・好きな人がずっと傍に入れくれたら・・・それで幸せだよ。僕の最高の我儘を言ったら、ハーヴィー、困ると思うよ?」
「言ってみろ」
「・・・今度ね」
マイクは笑顔ではぐらかし、口に差し込まれたカナッペを食べた。
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寝返りを打って、目を閉じたまま、自分の隣のスペースを手で探る。しかし、そこにはシーツの感触しかなかった。そこでハーヴィーはようやくを目を開ける。
もう、陽は上がっていて、カーテンを閉めずにいた寝室はとても明るかった。恋人の姿はベッドに半なく、耳をすませばキッチンの方から物音がする。ハーヴィーは毛布をはねのけると、ベッドから降りた。
「あ、おはよう、ハーヴィー。ちょうど良かった。そろそろ起こそうかと思ってた」
「何時だ?」
「11時くらい」
「何をしてる?」
「サンドイッチを作って、コーヒーを淹れたよ。戸棚にあったバスケットを借りちゃった。ねえ、ビーチでランチにしようよ。さすがにお腹が空いた」
「サンドイッチを作る材料なんてあったか?」
「ハーヴィーが寝てる間に買い物に行って来た」
「歩いて?」
「ガレージに自転車があったから、勝手に借りた。わりと近かったよ。それより、早くシャワーを浴びて着替えてきてよ」
バスケットにサンドイッチを詰めているマイクに近づき、その美味しそうにできているものに手を伸ばそうとしたら、ピシャリと叩かれた。
「ダメ。これはビーチのお楽しみなんだから」
「ふうん。じゃあ、こっちで我慢するか」
ハーヴィーはマイクの顎を掴むと、その唇に深いキスをする。マイクも拒むことはなく、差し込まれた舌に応えた。ややしばらく、互いにキスを味わってから、ようやく離れる。
「これが朝食?」
「そういうことだ。シャワーを浴びてくる」
「そうして」
ハーヴィーはひらひらとマイクに手を振ると、バスルームに姿を消した。
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サンドイッチとコーヒーの入ったバスケットはハーヴィーが持ち、毎期は納戸から薄いラグを持って来た。コテージの前に広がる海。砂浜には、二人以外の人影はない。
ばさっとラグを広げて敷き、先に座ったマイクが、ポンポンとハーヴィーの座る場所を叩いて知らせる。
「車で、別なビーチに行っても良かったんだぞ?もう少し、賑やかなところもあるし・・・」
「いいよ。まるでプライベート・ビーチみたいじゃない、ここ。せっかくコテージの目の前が海なのに、他所に行くなんて、もったいないよ。それよりさ、食べようよ。僕、結構、空腹を我慢してるんだけど?」
言いながら、バスケットからサンドイッチを取り出す。
「これ、僕のおすすめ。パストラミとチーズ」
マイクがハーヴィーにサンドイッチを差し出すが、ハーヴィーはそれを受け取ろうとはせず、その代わりに顔を寄せて来た。
「何?」
ハーヴィーは何も言わずに、自分の口元を指差す。その指はとても綺麗だ。
「もしかして・・・食べさせろって?」
ハーヴィーがニヤリと笑う。
「甘えただねぇ・・・。ま、僕も人のことは言えないか。昨日、ハーヴィーに食べさせてもらったしね」
呆れながらも、マイクはサンドイッチをハーヴィーに口に運ぶ。一口齧り取り、マイクを見つめながら食べる姿もセクシーだ。案外、人が物を食べる姿はセクシーなのかもしれない。そんなことを思いながら、マイクはハーヴィーの様子を伺った。
「美味いな。・・・ふうん。マヨネーズやバターじゃないだな。ああ・・・タルタルソースか」
「そう!ま、出来合いのソースを使ったけどね。案外いけるでしょ?」
「サンドイッチにタルタル・ソースを使うとはな。意外だった」
そのまま、サンドイッチ1個をマイクに食べさせてもらって、ハーヴィーはご満悦のようだった。
「僕も食べようっと。あ、ポットにコーヒーが入ってるよ」
「俺が注いでおく。君も食べるといい。腹が減ってるんだろう?」
「そう。それなのに、僕はハーヴィーを優先してあげたんだよ。ああ・・・なんて、優しい僕!」
おどけて言いながら、マイクもサンドイッチを食べ始めた。
「夕食は俺が腕を奮うとするか」
「ほんと?ハーヴィーのご飯美味しいから、楽しみ。じゃあ、後で買い物だね」
「今度は車だぞ」
「わかってる。・・・あ、失敗。ナプキンとかティッシュとか持ってくれば良かった。指についちゃったよ・・・」
少し塗りすぎてはみ出していたソースがマイクの指先に付いている。それを自分で舐めとろうとしたマイクの手首をハーヴィーが掴んだ。そして、当然のように、口に含む。舌が指にまとわりつく。まるで、昨夜の行為の続きのようだった。否・・・朝方まで続いたそれ。
「ハーヴィー・・・」
ハーヴィーはマイクの指を口に含んだまま、ちらりとマイクの顔を見る。マイクは吸い寄せられるように、ハーヴィーの足の上に跨った。
「ここ・・・外だよ?それに・・・昼だよ?」
「周りに人はいない・・・」
ようやく、マイクの指を解放したハーヴィーが小さくて呟く。マイクの首の後ろに手をやると、少しだけ強引に自分の方に引き寄せ、口付ける。
「ん・・・う・・・」
髪を梳いたり、耳朶を触ったり、首筋に指を這わせたりと、マイクの好きなことを仕掛ける。ふっと唇を離し、満足気な目でマイクを見ながら、ふと気づいたというように、ハーヴィーが言った。
「君の髪は・・・こうして見ると、蜂蜜色だったんだな」
もう一度、マイクの髪に指を差し込み、新しい発見をしたかのように、慈しむ。
「そんなに綺麗な色じゃないよ。・・・多分・・・太陽の光のせいでそう見えるんだよ。僕は・・・そんなに綺麗じゃない」
「・・・君は綺麗だ・・・」
「それは・・・この場所のせいだよ。マンハッタンに戻れば、僕はただのくすんだ人間だよ?ハーヴィー」
「マイク?」
ハーヴィーが眉を潜める。マイクは時折、こんな風になる。自分を卑下する言動。悪い傾向だ。
ハーヴィーはあやすように、マイクを抱きしめた。
「マイク。俺は、案外、君の最高の我儘を知ってるんだぞ」
「えっ?」
マイクがもぞりと動き、ハーヴィーから体を離す。
「・・・ずっと傍にいて欲しい。・・・違うか?」
「・・・・・・何で・・・わかるの・・・びっくり」
「俺だって同じ我儘をもってるからだ。・・・君を縛り付けておくのは、存外、大変なんだぞ?」
「僕が、ハーヴィーから離れると思ってる?」
「・・・離れないと思ってる。・・・しかし、身を引こうとするとは思ってる」
「・・・・・・」
「図星だな」
「だって・・・おかしくない?・・・僕と貴方じゃ釣り合わないじゃん。今は、僕に興味をもってるかもしれないけど・・・でもさ、もっと素敵な女性が現れたら・・・さ・・・」
しゅんと項垂れた犬のような目をする。
「マイク。・・・たぶん、俺がどれだけ言葉を尽くしても、、君は全てを否定するだろう。だから、これ以上は言わない。だが、俺は行動で示す」
ハーヴィーはやや乱暴にマイクの体を引き寄せると、先ほどよりも深く、口付けた。そして、手をシャツの中に入れる。背中を、傍腹を、胸を、腹を撫で摩る。そして、ハーフパンツのウエストに手をかけた。
「んっ・・・んんっ・・・」
そのまま、下着ごと、片方だけ足から抜く。すかさず、後孔に指を押し当てた。朝方まで愛したそこは、まだ、柔らかく熟れていた。
「はっ・・・ハーヴィー・・・こ・・・ここで・・・?」
「さっきも言った。周りに人はいない」
クッと指を差し入れると、そこは難なく飲み込んだ。
「ひっ・・・あっ・・・」
体のバランスが崩れそうになって、マイクは慌ててハーヴィーにしがみついた。
軽く、解すと、ハーヴィーはすぐに、自分も前をくつろげて、マイクの中に入る準備をする。
「いいな?」
マイクは、こくんと頷いた。マイクがハーヴィーと体を繋げることが好きなのは、その瞬間だけは、ハーヴィーが自分だけのものになるからだ。体を揺らされながら、泣きたくなる。いや、きっともう泣いている、目を開けたら、きっと自分の瞳には膜が張っているだろう。今、この瞬間が嬉しいのと、ハンプトンを去って、マンハッタンに帰ったときのことを考えてだ。
大切な人失うのは、もう嫌だった。嫌なら、大切な人など作らなければよかった。けれども、マイクは落ちてしまった。ハーヴィーに。心を奪われた。唯一のものにしたくて。唯一のものになりたくて。二度と作らずにおこうとしていたにもかかわらず、マイクはハーヴィーを求めてしまった。いっそ、最初に自分を拒否してくれたらよかったのに。でも、もう遅い。歯車は回ってしまった。いつまで噛み合っていられるか、わからない、もろい歯車だ。
「はぁ・・・あ・・・あん・・・ハーヴィー・・・ありがとう・・・この瞬間だけでも・・・幸せだよ・・・僕・・・」
ハーヴィーはそれには答えず、ただ、マイクの体を揺り動かした。陳腐な言葉では、マイクを落ち着かせ、納得させることなどできないのだから。ただ、永遠の時間をかけて、傍にいる。ただ、それだけだ。
「ハーヴィー・・・ダメ・・・イく・・・」
マイクに絡めた指に力を込める。
「あっ・・・ああっ・・・」
感極まった声が、海風の中に紛れた。
********************
爛れた、二泊三日をハンプトンで過ごし、マンハッタンに帰る。また、忙しい日常が始まった。
けれども、一つだけ、変わったことがあった、
マイクが持ってきたダンボールが、ハーヴィーによって綺麗に片付けられた。
そして、壁の中央には、祖母のパンダの刺繍が、きちんと飾られていた。
END