黒うさぎたちの夜

クライアントとの会食を終えて、いつもよりやや遅い時間にペントハウスに戻るとマイクがいた。それは別に構わない。むしろ大歓迎だ。ジェシカに命令された、堅苦しい食事の後に見るマイクの笑顔は癒しだ。

「おかえりー」

にこにことした笑顔でマイクがハーヴィーを出迎える。まるで、この部屋の住人のように。別に、そうなって構わないと、ハーヴィーは思っているが、言ったことはない。

「・・・ねえ、疲れてる?」

「そうだな・・・さっきまでは少々疲れていたが、君の顔を見たら機嫌が良くなった・・・といったところだな」

「そお?僕も役に立つことがあるんだね」

「いつも役に立ってる。仕事でも、プライベートでも」

そう言って、ハーヴィーはマイクの頰にキスを与えた。マイクもお返しにキスを返す。そして。

「ねえ、遊ぼ?ハーヴィーが嫌じゃなかったらだけど」

「遊ぶ?さて、一体どんな趣向の遊びなんだか」

苦笑しながらも、ハーヴィーはマイクに手を引かれて寝室へと移動した。

「・・・スーツ?」

「そう!勝手にハーヴィーのクローゼットを開けちゃって、ごめんね。でも必要だったから。えっと、それで、今着ているスーツから、こっちのスーツに着替えて欲しいんだ。

「部屋着じゃなく、スーツ?」

「そう!スーツ!・・・ダメかなぁ・・・」

「君の考える遊びの一環なんだな?」

「そうなんだ」

「まあ、いいだろう」

「やった!じゃ、ハーヴィーが着替えている間、僕はお酒の準備でもしてるね。あ、飲むよね?」

「ああ。今日の会食の酒はイマイチだった。一番高いのを出していいぞ」

「わーい!ラッキー!」

マイクは喜んで、居間へと駆けて行った。それを見送ってから、ベッドの上に広げられたスーツをみる。ブラックスーツではない。よくみると、軽い光沢のある細いブラックラインが何本も入ったものだ。最近あ袖を通していない。ワイシャツは濃いグレー。ネクタイはそれよりも更に濃いグレーだった。喪服には見えない、ブラックコーディネートといったところか。

「ふむ」

ハーヴィーは着替えを始めた。しかし、部屋だからジャケットは着ない。しかし、揃いのベストはちゃんと着てやった。

「マイク、着替えたぞ」

居間へ行くと、酒の準備を整えたマイクが両手を後ろに隠して待っていた。

「うわぁ・・・やっぱり、ハーヴィー、かっこいい。じゃ、仕上げね。ジャーン!」

マイクは右手に黒縁の眼鏡、左手に黒いうさぎの耳カチューシャを持っていた。そして、いそいそとハーヴィーの眼鏡をかけさせて、頭に黒いうさぎ耳カチューシャを取り付ける。

「これで、黒うさぎハーヴィーだよ!」

「・・・・・・マイク・・・俺に眼鏡をかけさせることの意味をわかっててやってるんだろうな。しかも、今日が変なオプションまでついてるぞ」

「わかってるってば。だーかーらー」

マイクはソファの上から、やはり黒いうさぎ耳のカチューシャを取り上げた。しかし、こちらは垂れ耳のロップイヤーだった。

「これでいいでしょ?今日は黒いセーターだし、ブラックジーンズ。それに・・・ちゃんとボクサーパンツも黒だからね!これで、ハーヴィーと僕の黒うさぎの完成!さあ、お酒を飲もうよ」

「・・・・・・違うな」

「へ?」

「君のうさぎ耳はいい。ナイスだ。しかし、セーターとブラックジーンズで俺が納得するとでも?」

「え・・・でも、ボクサーパンツも、黒・・・だよ?」

「俺は納得しない。しかし、いいアイディアがある。君が俺のスーツを用意してくれたように、俺にも用意がある。いつ出番がくるかと思ってはいたが、それは今、だな」

「え、ええ?・・・なんか・・・やな予感しかしないんですけど・・・?」

「さあ、来い」

そう言って、マイクはハーヴィーにバスルームへと拉致されたのだった。

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ハーヴィーはマイクからロップイヤーのうさぎ耳を外すと、洗面台に置いた。

「うさぎじゃなくなっちゃう」

「また、後でつける。耳があると、セーターが脱げないだろう?」

「・・・やっぱ・・・脱ぐんだ。でもさぁ・・・黒うさぎなんだよ?」

「ちゃんと代わりは用意してある」

「・・・準備がいいことで・・・」

万歳するように両手をあげると、するりとハーヴィーがセーターを脱がす。肌触りのいいセーターで、素肌で着てもチクチクしなのがすごくよかった。さすが、ハーヴィーの持つ服は違うなぁ・・・と借りたセーターだった。

ハーヴィーは洗面台の引き出しを開けると、黒い布地を取り出した。

「これを着たら、うさぎ耳の再着用だな」

「なあに?それ」

首を傾げながら受け取り広げる。

それは、少々丈の短い、それでいてレースフリルのいっぱいついたキャミソールだった。

「・・・ああ・・・やっぱり・・・こうなるんだ・・・ねえ、ハーヴィー。こういうの・・・いっつもどうやって手に入れるの?」

「ああ、最近、馴染みの店ができたんだ。君のサイズを教えたら、特注で作ってくれるようになった」

「・・・それって・・・ランジェリー・ショップ?」

「そうとも言う」

「ランジェリーショップが馴染みの店だなんて・・・NYナンバー1クローザーの言うセリフ?」

「幅広いジャンルで馴染みの店はあった方がいい」

「・・・通りで・・・いつもサイズがぴったりすぎるって思ってたんだよ・・・」

「いいだろう・・・それよりも、うさぎ遊びをするんだろ?」

「まあ、そうなんだけど・・・」

黒いキャミソールを着たマイクにロップイヤーの黒い耳をつけてやる。キャミソールの裾から5センチくらい下辺りに、可愛らしい臍がのぞいている。つまり、それだけ短いキャミソール、ということだ。

「これで、完成?ハーヴィー。お気に入りの黒うさぎになった?僕」

「いいや、まだだな」

マイクの腰を引き寄せて、座らせていた洗面台からするりと下ろす。すぐにブラックジーンズのボタンとファスナーに手をかけてボクサーパンツごと、引き下げる。手のひらで、マイクの太腿の感触を味わいながら。ハーヴィーは床に膝をついて、マイクの脚にキスをしながら、ジーンズとボクサーパンツを抜き取った。そして、キスに満足してから、立ち上がり、マイクの脇に手を入れて再び洗面台に座らせた。そして、また、引き出しから新しいアイテムを引っ張り出す。

「・・・今度は何?・・・え?・・・ちょっと・・・それ・・・」

「ガーターベルトだな」

シンプルな形ではあるが、黒いレースが美しくが施された、ガーターベルトをマイクのウエストに回して、後ろでパチンとプラスティックの留め具をかける。

「そして・・・」

次にハーヴィーが取り出したのは、案の定、黒いレースのガーターストッキングだった。それを見てがっくりと項垂れるマイク。やっぱり、黒いセーターとジーンズじゃダメだったか。それはハーヴィーの性癖とは違ったらしい。・・・まあ、予想はしていたが。

「なんか、破けそう。僕、上手に履けないよ、きっと。うん、破いちゃう、せっかく綺麗なのに」

「安心しろ。履かせてやるから」

ハーヴィーは再度、床に膝をつくと、マイクの足を取り、その爪先に舐めるようなキスをする。

「やっ・・・汚いってばっ・・・」

「そんなことはない」

引っ込めようとするマイクの足を、ガシッと掴んで離さない。

「うー・・・」

マイクは剥き出しの下半身の中心を手首のあたりで隠すようにして、洗面台に手をつき、ハーヴィーを見下ろした。

「大人しくしてるな?」

「・・・わかった。・・・遊びを仕掛けたの、僕だもんね」

「いい子だ」

ハーヴィーはクルクルと丸めたストッキングをマイクの爪先に当てると、少しずつ、時間をかけて少しずつ引き上げていった。下から上へと、ねっとりとしたキスを仕掛けながら。

「ん・・・う・・・ハーヴィー・・・それって・・・キスしながらじゃないと・・・・ダメなの」

「君の脚は綺麗だから。キスをしなかったら、損というものだ」

「ん・・・でも・・・でもさ・・・」

「嫌なのか」

「・・・違う。嫌じゃないのが・・・困る・・・」

マイクの手首の陰にちらっと見える中心。それは軽く形をなしていた。

「もう少し我慢しろ」

片脚のガーターストッキングをゆっくりと引き上げると、ガーターベルトの留め金で固定する。そして、もう片方の脚に取り掛かる。やはり、さっきと同じようにねっとりとしたキスと時間をかけて。ようやく、ガーターストッキングの装着を終えて、マイクを見ると、その頰は赤くなっていて、吐息も甘くなっていた。

「やだ・・・もう・・・ハーヴィー・・・キス・・・うますぎ・・・」

「褒め言葉だな」

ハーヴィーはマイクを洗面台から下ろし、自分の腕の中で反転させた。二人の姿が大きな鏡に映る。

「これが、黒うさぎのコスプレってもんだろう?ああ、隠すな、こら」

股間を隠すマイクの両手を掴んでひっぱり、自分の太腿に這わせる。

「うあっ・・・ちょっと!恥ずかしいよっ!下着ぐらい履かせてくれたってっ!」

「必要ないだろう?」

そう言って、マイクのふるりと震える中心を摩ってやる。

「あんっ・・・」

自分を弄られているのが鏡のせいで丸見えで、恥ずかしくなったマイクは鏡から目を背けた。

「ん・・・もう・・・」

「見てればいいのに」

「やだよぅ・・・」

唇を尖らせながら、マイクはハーヴィーの太腿に当てた手をそろそろと後ろに回した。そして器用にハーヴィーのスラックスのボタンを探り当て外し、ファスナーもジジッと下ろす。

「・・・くれるんだよね?・・・ハーヴィーの・・・太くて・・・熱くて・・・大きいの・・・」

「ああ、もちろん」

マイクは洗面台に両手をついて、尻を突き出した。ハーヴィーはそれをひと撫ですると、洗面台に置いてあった、フェイシャル用の乳液のボトルを手にした。

「寝室じゃないから、これで代用だな」

白い液体を手に取る。マイクの鼻腔をシトラスの香りが擽った。ハーヴィーの匂い。

ハーヴィーは乳液を手に取ると、たっぷりと濡らした指をマイクの後孔に差し込んだ。まずは1本。そして、ぐるりと中をかき混ぜてやる。

「あ・・・ああ・・・」

ぶるりとマイクの体が震えた。快感と物足りなさが混ざっている。

「ん・・・ハーヴィー・・・」

甘ったるい声で、恋人の名を呼ぶが、指を増やしてくれる気配がない。そもそもマイクが欲しいのは指じゃない。だから、マイクは尻を動かした。もどかしげに。強請るように。けれども、ハーヴィーの指での悪戯が次の段階へと進む気配がない。空いたハーヴィーの左手が、マイクの唇をなぞる。

「君には口があるだろう?おねだりは、ちゃんと言葉にして言ってみろ」

「ふっ・・・んっ・・・」

乳液で滑りも良くなってる、ハーヴィーの指が解してもくれた。

だから、欲しい。早く、挿れて、欲しい。

「あ・・・ハーヴィー・・・挿れて・・・お願い・・・・ハーヴィーの・・・太くて、大きいの・・・僕の中にちょうだい・・・も、我慢できないの・・・」

そう言って、さらに尻を突き出す。

「なかなか可愛い声でのおねだりだな」

ハーヴィーは両手でマイクの腰を固定すると、すっかりと柔らかく滑りのよくなった尻に、己の切っ先を当てて、ぐっと力任せに押し込んだ。けれども、そこは抵抗することもなく、するりとハーヴィーを受け入れた。

ハーヴィーはマイクの上半身をぐっと自分の方に引き寄せて、ほぼ直立になるように立たせる。自分を支えるのは脚とハーヴィーと繋がった部分だけだった。それで、マイクは手をハーヴィーのスラックスに這わせた。マイクの中を捏ねくり回しながら、ハーヴィーの右手はマイクの中心で遊ぶ。指先で先端部分を刺激したり、あるいは根元から一気に握って扱きあげたり。

「ふあっ・・・あっ・・・あっ・・・ん・・・いいっ・・・すごく・・・いい・・・」

マイクは目を瞑っているが、ハーヴィーはしっかりと、鏡の中の痴態を眺めていた。こんなにいやらしくて可愛らしい、ロップイヤーの黒うさぎはいないだろう。ハーヴィーは左手をキャミソールの中へ忍び込ませ、胸の飾りもキツく摘んで弄ってやる。その瞬間、マイクの甘い嬌声が響いた。ああ、どこもかしこも可愛らしいと思う。ハーヴィーはマイクのペニスから手を離すと、その腹を撫でた。男特有の薄い腹。だから、マイクの胎内を開拓している自分の存在がよくわかる。

ハーヴィーはニヤリと笑った。そして、マイクの右手を掴むと、その腹に手のひらを当てるように置いた。

「わかるか。君の中の俺の存在が」

そう言って、グイッと動く。

「あ・・・」

自分の腹お腹で蠢くものの存在がハーヴィーであることはわかっている。けれども、頭の隅でエイリアンが自分の中に巣食っている様子を思い浮かべてしまった。

ハーヴィーは腹に置かれたマイクの手のひらに当たるように、動き、突いてやる。

「ふあ・・・あ・・・すご・・・知らなかった・・・こんなの・・・こんな風なの・・・」

マイクは目を開けて、自分の腹を見ていた。そして、顔をあげる。鏡に映る、2つの黒いうさぎ。このままずっと、しばらくの間、繋がっていたいと思う二人だった。

END