堕天使と監督者 Harvey’s Angel

寝坊助天使をそのままにして、ハーヴィーはベッドから出た。シャワーを浴びて、簡単に身支度を整える。それから、腹ペコであろう天使の為に、朝食の用意である。天使の家事能力は壊滅的なので、ハーヴィーが作った方が被害が少ない・・・というのもあるが、自分が作った食事を、ものすごく美味しそうに頬張る天使の顔を見るのも好きだった。

今朝はチーズの入ったふわふわとろとろのオムレツにしてやる。それにベーコンをつけて。野菜嫌いの天使だが、小さめのボウルにグリーンサラダを。トーストに塗るためのジャムは数種類用意する。飲み物も天使が好きに選べるように、これまた3種類ほど冷蔵庫から出した。

「さて。準備はできたが・・・」

とハーヴィーが独り言を言ったところで、寝室から大きな欠伸をしながら天使が出てきた。羽は出しっ放しだが、シャツは着ている。背中の部分を細工してやったハーヴィーのシャツだ。

「おはよー、ハーヴィー」

「起こしに行こうと思ったが、自分で起きられて偉いな」

「うん!だって、すっごくいい匂いがしたから!」

ふらふらとキッチンカウンターに引き寄せられるようにして、マイクが歩いてくる。カウンターに並べられた朝食を見て、完全に覚醒したようだ。目がキラキラしている。

「うわぁ・・・美味しそう・・・。ううん。絶対に美味しい!」

いそいそと椅子に座ると、マイクはにっこりと笑って「いただきます」と言いながらフォークを手に取った。

「んー!!!美味しい!!!」

マイクの目が見開かれる。何の変哲も無いオムレツなのだが、マイクは何につけ下界の食事が好きらしい。

「そういう反応をしてもらえると、作り甲斐があるものだな」

「だって、美味しいもん!本当に本当」

「まあ、君は食事に時は大体そういう表情だし、そういうことを言う」

「・・・ごめん、語彙が少なくて」

「気にすることはない」

ハーヴィーはカウンター越しに寝癖のついた蜂蜜色の髪をクシャクシャとした。

「君は本当にいい顔をして食事をするな」

「だってさ、ハーヴィーの作ってくれたものはもちろんだけど、人間界のご飯ってめっちゃ美味しいよね!僕、ハンバーガーとかピザを食べた時、感動したもん」

「俺と行ったレストランのステーキは?」

「・・・緊張して、味がよくわからなかった。でも・・・うん・・・美味しかった。だって、ハーヴィーと一緒だもん」

「ふうん。で?人間界での一番のお気に入りは何だ?、まあ、まだ挑戦していない料理もあるだろうが」

「んー・・・一番のお気に入りかぁ・・・・そうだなぁ・・・。ああ・・・いっちばん好きなのは、ハーヴィーに食べられることかなぁ・・・気持ちいいし・・・」

無邪気にマイクは言ったが、その言葉にハーヴィーのスイッチが入った。カウンターを周り、マイクの隣に立つと、フォークを取り上げて皿の上に置いた。

「え?まだ食べてる途中なのにぃ」

言いながらハーヴィーに担ぎ上げられる。

「ひゃあっ・・・なっ・・・何?ハーヴィー!?」

「後で温めなおすか、作り直すかしてやるから安心しろ。寝室に戻るぞ」

「へ?え?何で?何でそうなるのー!!」

ハーヴィーの肩の上で、羽を揺らしながらジタバタとするが、さっさと寝室に戻されて、さっきまで惰眠を貪っていたベッドのに俯せに置かれてしまった。

「・・・ハーヴィー?」

「君のお気に入りなことをしてやる」

そう言って、ハーヴィーはシャツを脱がせると、マイクの羽の付け根をぞろりと舐め上げた。

「ひっ・・・あっ・・・ああっ・・・」

ハーヴィーのおかげで、全身が性感帯のようなマイクだったが、特に羽が現れる肩甲骨のあたりは一番、感じる箇所だった。天使属性であることを顕著に示す羽が現れる部分は、マイクのアイデンティティの1つである、弱点であり、気持ちの良い部分でもあった。もちろん、マイクは、そこは羽が現れる大事な所、と言う認識はあったが、まさか性感帯として、自分の欲情を引き出す所は思っていなかった。ハーヴィーに触れられて初めて知ったことだ。

気持ちが良くて、羽を広げているので、マイクの細腰は完全にハーヴィーにホールドされている。逃げられない。ハーヴィーの熱い舌によって与えられる刺激が、マイクの思考を蕩かす。

「ふ・・・あ・・・ハー・・・ヴィー・・・」

マイクは指先でリネンを掴みながら、そろそろと膝を立てて腰を上げた。そして。ハーヴィーの体に腰を擦り付ける。

閨で、よくハーヴィーに「この淫乱天使め」と言われるが、仕方がない。こんな快感や快楽など、天界で味わったことなどない。大体、天界では無性だった。この下界に落とされるときに、その見た目で、男性という性を与えられたのだから。

人間界では、異性同士が愛し合うことが多い・・・とういうことを知ったのも、ハーヴィーに抱かれてからだ。マイクとしては、「ふうん、そういうものなんだー」くらいの認識しかない。だから、テレビなどで、LGBTの話題が取り上げられても、「同じ人間が’愛し合うんだから、いいじゃんねー。僕なんか、異種だよ、異種」と言っている。そんなマイクは、性に対して割と奔放なところが少しある。もちろん、誰にでも盛る、というわけではない。自分のパートナーはハーヴィーだけだと思っている。けれども、一度スイッチが入ると、壮絶に色っぽく、ハーヴィーを誘う。今がそうであって、「ご飯食べたいスイッチ」から「ハーヴィーとエッチしたいスイッチ」に切り替わっていた。

マイクは自分の腰を掴んでいるハーヴィーの手を、ゆっくりと自分の中心に誘った。肩甲骨への愛撫ですっかり、育ってしまっている。ハーヴィーも悪い気はせず、素直に勃ち上がったものを綺麗な指で弄ってやった。

「それで?触るだけでいいのか?後ろへは欲しくないか?この・・・淫乱天使」

やっぱり言われた。けれどもマイクはその言葉に頓着はせず、

「ん・・・お願い・・・挿れて・・・」

と腰を揺すって答えたのだった。そして、頰と肩、膝で自分の体を支えると、両手で自分の双丘を左右に割って見せた。昨夜、しつこく犯されたそこは、ほんのりと赤かったが、ヒクヒクと蠢いていた。ハーヴィーは、羽の付け根を強く吸い上げると、意識をマイクの後孔へと移し、自分の先端を当てがった。

「あ・・・来て・・・お願い・・・奥に・・・欲しい・・・」

我慢できないというように、マイクは腰を揺すり、ハーヴィーに尻を押し付けた。

美味しいご飯も好きだが、ハーヴィーとのセックスはもっと大好きだった。今、マイクの心は安定していて、羽も真っ白で、そしてハーヴィーに求められて、愛されて、自分もまた彼を愛して、とても幸せだった。こんなに幸せな天使は、他にいるだろうか・・・。そんなことを頭の隅っこで考える。けれども、そんな思考もすぐに吹っ飛んでしまった。なぜなら、ハーヴィーが激しくマイクを突き上げ、全身を揺さぶり始めたからだ。そうなると、もう、考え事などできなくなる。刺激と快楽と愛情に振り回されるだけだ。マイクはキスが欲しくて、無理な体勢から後ろに頭を向けた。優しいハーヴィーはすぐに察して、マイクにキスをくれる。「ああ・・・やっぱり、僕は幸せだな」とマイクは思った。

********************

「ハーヴィー!頼まれていた書類と調べ物、それから探せって言われてたファイル!」

両手に山ほどの書類やファイルの束を抱えて、マイクがハーヴィーのオフィスにやって来た。

「相変わらず、仕事が早いな。いい子だ」

「えへへ~。ちゃんと自力でやったからね!まあ、自分の持っている能力は使ったけれどもさ」

天使にはそれぞれ、何かしらの特別な能力が与えられているらしい。有名なラファエルは癒しの力を持っているので、癒しの天使とも言われている。マイクに与えられたのは、フォトグラフィック・メモリーという能力だった。一度覚えたことは絶対に忘れない。マイクはその能力を、この法律事務所で遺憾無く発揮している。少しでも時間があれば図書室や資料室に閉じこもり、何処に何があるか、そしてその内容を覚えるようにしていた。それがハーヴィーの役に立つことだし、天界から下界に堕とされてしまった自分のやるべきことと考えている。けれども、一番はやはり、ハーヴィーの役に立つことだった。ハーヴィーの役に立って、ハーヴィーが喜ぶ顔を見るのが心地良かった。

「おいおい。なんか、ルイス関連のファイルも混ざってるぞ」

「え?あー!!ごめんなさい!!ルイスの仕事も同時進行でやったから!」

「あいつ。相変わらず、君をこき使っているのか?俺の許可もなしに?」

「ああ、ハーヴィー、ルイスを責めないで」

「ん?庇うのか?」

「違うってば!・・・その・・・僕が進んで引き受けたんだよ。ルイスのオフィスに行って、何か手伝うことはないかって・・・聞いて・・・そのぉ・・・」

たちまち、ハーヴィーの顔が曇った。というよりも、不機嫌になった。その表情をマイクが見て、ちょっと後ずさる。が、ハーヴィーは指先でマイクを手招いた。それには逆らえない。マイクはそろそろとデスクに近づいた。けれども、ハーヴィーは首を横に振り、自分の横を指差した。

「え・・・ハーヴィー・・・ここ・・・オフィスだよ?」

「いいから」

「だって・・・ドナが・・・」

「彼女は甘ったるいコーヒーを買いに行った」

マイクがちらっとドナのブースを見ると確かに彼女はいつの間にかデスクにはいなかった。

「ほら、早く」

「うう・・・」

仕方なく、マイクはデスクを回って、ハーヴィーの横に立った。ネクタイをクイッと引っ張られる。自然と体が前に傾がる。体勢を維持するために、マイクはハーヴィーの肩に手をついた。さらにネクタイを引かれてますます顔が近づく。

「君は、誰のものだ?」

「えっと・・・その・・・ハーヴィーのもの?」

「何だ、その疑問形は」

「だって!・・・貴方みたいな素敵な人を独り占めとかって・・・そんな、恐れ多いもん」

「その割には、嫉妬心はあるよな」

「う・・・だって・・・好きなんだもん」

「俺を独り占めしたいか?」

「そりゃあ、もう!・・・そんなの・・・決まってる・・・」

「それなら、キスを」

「えっ!?ここで?」

ハーヴィーが頷く。

「い、今?」

さらにハーヴィーが頷く。その表情は、まるで悪戯っ子だ。しかも、逃れられない、笑み。

本当はドナがいつ戻ってくるかわからないから、急がなければならないのに、マイクは少しだけ時間をかけてハーヴィーに顔を近づけた。職場で、ガラス張りのオフィスで、いつ人が来るかもわからない状況で。そんな中で、マイクはちょっとだけ興奮した。そして。ようやく、唇をハーヴィーに合わせる。流石に舌を差し込むことはできなかった。けれども、ハーヴィーの方が仕掛けてきた。熱い舌をマイクの口腔に押し入れ、控えめな舌を貪った。

「んっ・・・うっ・・・」

ハーヴィーの肩に置いたマイクの指に力が籠る。本当はそれほど長い時間ではなかったのかもしれない。けれども、マイクには永遠のように感じられた。

ようやく、ハーヴィーがマイクから離れ、肩で呼吸をしているマイクのネクタイと襟元を直してやる。そこへ、

「あーら、仲の良い兄弟だこと」

軽やかな笑いとともに、ドナがオフィスに入って来る。

「あ、ドナ!」

マイクは慌ててハーヴィーから離れた。

「ハーヴィーに服装を直してもらえるアソシエイトなんて、貴方くらいよ、マイク」

どうやら、ドナには、ハーヴィーがマイクのネクタイを直しているようにしか見えなかったらしい。マイクは、ホッとした。

「見栄えがいいのが側にいた方がいいだろう?見窄らしいのが隣に立っていたら俺の評価が下がる。人は見た目が何とやら、だ」

「あらん。じゃあ、私も見栄えをよくしなくっちゃだわー!」

「え?ドナ=、それ以上綺麗になっちゃうの?」

そんなマイクの天然な発言にドナが固まった。そして、

「かーわーいーいー!なんて可愛いの!マイクったら!今度、貴方の大好物のパンケーキをご馳走してあげるわ」

「パンケーキが好きなのか?」

ハーヴィーが話に割り込む。

「ホイップクリームとフルーツがたーっぷりのパンケーキが好きなのよね?あら、ハーヴィー、そんな可愛いマイク情報を知らなかったの?マイク、また一緒に行きましょうね、あのパンケーキが美味しいカフェ」

「えっ、あっ、うんっ」

「さーてっと。仕事仕事~」

言いながらドナが甘いコーヒーのカップを持ちながら自分のブースへと戻って行った。

「ふうん。パンケーキな。初耳だな」

「だってっ」

「女子が好むようなパンケーキを頬張る君はさぞかし、可愛いだろうな。それをドナは見たんだな。俺は見てないのに」

ハーヴィー、本日2度目の軽い嫉妬である。

「だって・・・貴方・・・そういう甘いの嫌いかと思って・・・」

「俺が食べなくたって、君をカフェに連れて行くことはできるが?」

「偶然だったんだよ~。裁判所の帰りにドナに会って。それでちょうどランチタイムで。それで誘われたんだ。パンケーキランチ」

「ルイスの件といい、パンケーキの件といい・・・俺はないがしろにされるのは好まない。君に関しては」

ピシッとハーヴィーがマイクに指を突きつけた。

「ごめんなさい。今度からはちゃんとハーヴィー優先にするから」

「当然だな」

「じゃ、僕、仕事に戻るね!」

ぴゅーっと逃げるようにして、マイクはハーヴィーのオフィスを走って去って行った。マイクが視界から消えた後、ハーヴィーはスマホを取り出して、パンケーキについて検索を始めたのだった。

********************

それから何日かして、ハーヴィーは図書室へ足を向けた。珍しいことだった。調べ物ならマイクに任せるのだが、ここ数日、体調が悪そうだった。食欲もあるし、ハーヴィーの部屋で寛いているときやセックスの時は別段変わった様子はないが、ただ時々、溜息をついて、しんどそうにしている瞬間がある。それを部屋で指摘したところ、「へ?そお?溜息ついてた?そうかなぁ~」と言って自覚もないようだった。けれども、いつも見ているマイクだ。それも必要以上に。何となく、元気がないことはハーヴィーにはわかった。本人が自覚しているとしていないとに関わらず。

おそらくきっと、マイクは真っ白な羽を維持するために、必死なのだろう。少しでも人の役に立とうと、プロボノも頑張っている。それで、ハーヴィーはちょっとした判例を調べるためにマイクを使わずに、自分で図書室へ赴いたのだ。

しかし。

そこにはすでにマイクがいた。パラリーガルのレイチェルと一緒に。レイチェルもハーヴィーの部下になる。優秀なパラリーガルだった。椅子に座って一生懸命調べたことをリーガルパッドに書き写している横に、すらりとした体躯で立っている。何処か、マイクのお姉さん・・・といった感じだった。何かを見つけたのか、マイクの表情が輝いた。そして、レイチェルに顔を向ける。軽く腕組みをして見ていたレイチェルが、頷き、そして微笑んだ。が、次の瞬間、その腕を解いて手を伸ばし、マイクの頰を触った。マイクのそれに頓着することはせずに、されるがままになっている。それから、レイチェルが体を屈めて、自分の額をマイクの額へと合わせた。まるで、熱を測るみたいに。その様子を見て、ハーヴィーは図書室に入れなくなった。いや、入ってもよかった。けれども、不愉快な気持ちが込み上げてきて、すぐさま、その場を離れたくなったのだ。ハーヴィーは踵を返すと、元来た廊下を戻り始めた。

********************

「ねえ、ハーヴィー。最近、貴方が事務所を徘徊してるっていう噂が立ってるだけど?」

デスクの前に立ったドナが、首を傾げてハーヴィーに言った。

「何だ、それは。俺をボケ老人みたいに言うな」

「でも、事実よね?貴方、やたらと事務所内を歩き回ってる」

「別に・・・部下の仕事ぶりを眺めているだけだ」

「あら、そんなのルイスの仕事じゃない。貴方がするまでもなく、ルイスが抜かりなくやってるわよ。彼はアソシエイト教育が趣味の一つなんだから」

ハーヴィーはデスク・チェアに背中を預けると、椅子を一回転させた。

「君はレイチェルと仲がよかったよな」

「ええ。よくランチに行ったり、お酒を飲みに行ったりするわよ?」

「どんな人間だ?」

「どんなって・・・そうねぇ・・・仕事はできるわね。アホなアソシエイトよりもよっぽど仕事ができるわ。貴方だって、彼女に仕事を任せたことがあったでしょう?」

「そうだったか?」

「・・・貴方って・・・マイク以外に興味がないの?」

ドナが肩をすくめた。

「二人の関係は?」

「そりゃ、アソシエイトとパラリーガルでしょ?基本的にマイクは一人で何でもできるけど、やっぱりレイチェルの方がここの事務所は長いから、色々と聞いてるみたいよ?」

「ふうん・・・」

「ハーヴィー。眉間の皺、深くなってるわよ。これからクライアントに会うんでしょ?その皺、浅くしといてね。そろそろマイクを呼びましょうか?」

「ああ。そうしてくれ」

クライアントの所へはマイクを同伴させることにしていた。ドナは自分のブースに戻ると、マイクに電話をかけた。

********************

「えっと~・・・僕、何かやらかしちゃった?」

マイクが上目遣いにハーヴィーを見る。クライアントとの会合が終わったのが少々遅めだったので、馴染みのステーキ・ハウスで一緒に夕食を取ることにしたのだ。

「クライアントに見せる資料はレイチェルに手伝ってもらって、完璧に仕上げたはずなんだけど・・・・・・」

レイチェルの名前がマイクの口から出た。一気にハーヴィーが不機嫌モードに入る。

「ハーヴィー?」

マイクは手にしていたナイフとフォークを置き、姿勢を正した。

「あの・・・ハーヴィー?もし、僕が何か失敗したのなら教えて。同じ失敗をしたくないから。ちゃんと勉強したいから。ハーヴィーに迷惑をかけるような仕事はしたくないんだ」

「・・・いや。資料や書類は完璧だった。・・・で?レイチェルに手伝ってもらったって?」

「え?あ、ああ・・・うん。一度見たものや読んだものは忘れないけど、知らないものの在り処を探すことはできないから。そういうときはレイチェルの助けを借りてるんだ。その・・・一人で仕事をしなかったことが・・・いけなかったのかな・・・?」

「別に・・・そういうんじゃないが・・・。君はレイチェルとは仲がよかったか?」

「えっと・・・まあ、普通の同僚・・・かな?」

マイクがぎこちなく笑った。ますます、ハーヴィーは不愉快になる。今のマイクの反応もそうだが、普通の同僚が図書室で額と額を合わせるのか、ということだ。そこが引っかかる。しかし、それを口にしたら大人気ないような気もして、問い詰めることもできない。もやもやとした思いを抱えたまま、ハーヴィーは大人の対応を取ることにした。

「せっかくのレアだ。火が通ってしまう前に食べるといい」

そう言って、ようやくハーヴィーもナイフとフォークを手にしたのだった。それを見て、マイクもおずおずとステーキに手をつけ始めた。

そして、ハーヴィーに取って最大の事件が翌日に起こった。

ドナがいない、マイクと連絡が取れない、レイチェルに頼む気がない。という条件が揃い、ハーヴィーは仕方なく資料室へと行くことになった。自分が資料室に行くなんて、一体何年ぶりだ、と思いながら廊下を歩く。最近は色々と不愉快なことが多すぎて、眉間の皺は深まるばかりだ。そんな表情で廊下を歩くので、モーゼの十戒のように、周囲の人間はハーヴィーを避ける。それをしないのは空気が読めないルイスぐらいだ。運よく、ルイスはそんなハーヴィーとは出会わなかったが。

資料室のドアを開けようとしたら、少し開いていた。中から話し声が聞こえてくる。

「ダメだよ、レイチェル。いけないよ、こんなこと」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ?マイク」

マイクとレイチェルの声。ハーヴィーの体が固まった。

「僕、大丈夫だからさ」

「そうは見えないわよ?」

ハーヴィーはドアの隙間から中の様子を伺った。資料室の棚に背中を預けたマイクがレイチェルを視線を合わせている。

「本当に、大丈夫だよ?」

「いいから」

レイチェルは強い口調で言うと、マイクに顔を寄せてキスをした。「これは一体どう言う状況なんだ?」とハーヴィーの頭が混乱する。が、マイクとレイチェルがキスをしているのは事実だ。マイクもそれを押しのける様子はない。されるがままになっている。資料室に踏み込みたくなる衝動を抑えて、ハーヴィーはその場を離れた。この上なくムカついた感情を抑えながら。しかし、最後まで抑え切ることはできず、途中でルイスのオフィスに寄って、散々、謂れの無い悪態をルイスについたのだった。

********************

これは、「浮気」だ。と、ハーヴィーは断定した。自分も義理の妹やスコッティのことでマイクを不安がらせたことはあったが、あれは断じて浮気ではない。当たり前だ。義妹や終わった女とキスはしない。何より、ハーヴィーはマイク一筋だった。あの、ハーヴィー・スペクターが、である。けれども、マイクはそうではなかったらしい。確かにマイクは魅力的な人間・・・いや、天使だった。けれども、ハーヴィーがマイクを好ましいと思ったのは、天使と知る前だったのだから、マイク・ロスという人間を好きになったにも等しい。悪魔と誤解し、天使だと知ってからも、ハーヴィーのマイクに対する思いは変わらない。

が。

マイクは違ったのか。

ハーヴィーは、「仕事が終わったら家に来い」と、少々投げやりで乱暴なメッセージをマイクに送ると、スマホをしまった。そして、その日はマイクよりも随分と早く事務所を出て、部屋に帰ったのだった。スーツのジャケットやや乱暴にソファにかけ、ネクタイを抜き、ワイシャツのボタンを緩める。そして、グラスに氷とスコッチ入れて、ソファに座った。マイクが現在抱えている仕事の進捗状況はわからないが、マイクは自分の言ったことには必ず従う。だから、どんなに遅くなっても、この部屋には来るだろう。どうやって追い詰めるか、もとい問い詰めるか。そんな思考をめぐらしていると、玄関のドアが開く音がした。マイクだ。

「・・・・・・ハーヴィー?」

マイクが顔を覗かせるのを、ハーヴィーは一瞥した。

「えっと・・・仕事が終わったから部屋に行くって、メールした方がよかったかな、僕。そんな時間があったら、少しでも早くここに来たくて・・・」

「随分と可愛らしいセリフを吐いてくれるが・・・で?別れ話は俺からした方がいいのか?それとも君から?」

「え?・・・わ・・・別れる?・・・え?僕と・・・ハーヴィー・・・?」

「この部屋で他人の話をしても仕方がないだろう。それとも、このまま黙って、俺とレイチェルと、同時に付き合うつもりだったか。ああ、所謂、二股ってヤツだ」

「レっ・・・レイチェルとはそんなんじゃないよ!仕事を手伝ってもらってるだけで・・・」

「キスをするのも仕事のうちか?」

「え・・・キ・・・ス・・・?」

「誤魔化すなよ。資料室での君とレイチェルを見たからな」

「え・・・嘘・・・見られてた・・・」

「その前にも図書室でイチャイチャしてただろう。額と額と合わせて」

「うわ・・・あれも見られてた・・・」

「君は、自分で、言ったんだ。自分は俺のものだとな。あの言葉は嘘だったということだな。俺は嘘つきは嫌いだ」

「違う!ハーヴィー!違うんだ!」

「何が、違うんだ?現場を押さえられているのに?ああ、証拠写真でも撮っておけばよかったかな」

「そうじゃなくて・・・その・・・」

マイクが両手の拳を握りしめ、唇も噛み締める。

「何も言えない、説明もできないのなら、もういい。帰れ。そして二度と、ここには来るな」

ハーヴィーは空になったグラスを乱暴にテーブルに置くと、立ち上がってマイクの横をすり抜けた。

「マイク。玄関はこっちだ。さあ、帰れ」

けれども、マイクは玄関には向かわなかった。メッセンジャーバッグを床に放り投げると、ハーヴィーの背中に抱きついた。両腕をハーヴィーのウエストに回して、顔を背中に押し付ける。

「ごめんなさい!!!ちゃんと話す!!話すから・・・僕を捨てないで!!!!」

「二股をかける人間に興味はない・・・いや、堕天使だったか」

「違うんだ!・・・その・・・レイチェルも天使なんだよ!!!!!」

叫ぶように言うと、マイクは、ぎゅうっと腕に力を込めた。

「マイク、苦しい。離せ。嘘ならもうちょっとまともな嘘をつけ。そんな身近に天使が二人も居てたまるか」

ハーヴィーがマイクの腕を乱暴に解き、体の向きを帰ると、これまた乱暴にマイクの顔を掴んだ。そして、ハッとする。マイクの青い瞳に涙が溢れていたからだ。あの時と同じように。黒くなってしまった自分の羽根を毟っていた、あの時のように。

「し・・・信じられないなら、信じなくてもいい・・・でも、話だけはさせて・・・お願い・・・話したら・・・消えるから・・・本当に・・・消えるから・・・お願い・・・」

「・・・・・・」

黙るハーヴィーを見て、了解と取ったのか、マイクはポツリポツリと話し始めた。ハーヴィーに顔を掴まれたまま。

「・・・レイチェルは・・・その・・・上級天使なんだ。僕は下級天使だけど。・・・それで、元々、レイチェルは天使の仕事で下界に降りてて、あの事務所で人間として働いているんだ。・・・あそこが彼女の管轄だったから。僕はいけない子だから下界に堕とされちゃって・・・・それで・・・監督者として天使が付くんだよ。堕天使がちゃんと下界でやってるかどうかって。僕、最初はレイチェルから逃げて、トレヴァーと悪いことばっかりやってて・・・・羽も真っ黒になっちゃって・・・でも、ハーヴィーと出会えて、人の役に立つ仕事もさせてもらえて・・・。レイチェルと同じ職場になったのは本当に偶然だったんだ。事務所であった時、すっごいびっくりした。そして怒られもした。・・・僕、監督者のレイチェルから逃げて悪いことしてたから・・・」

「・・・・・・キスは?」

ようやくハーヴィーが言葉を発する。

「・・・あれは・・・天使のキス。・・・本当は堕天使でも、たまには天界に戻らなくちゃいけないんだ。報告もあるけど・・・その、僕たちが天使がずっと下界にいると、瘴気みたいなのに当てられちゃって、具合が悪くなるから・・・それを浄化するために・・・。でも、僕、ハーヴィーとちょっとでも離れるのが嫌で、ずっと天界に帰ってなくて・・・それで、具合が悪くなっちゃって・・・」

「・・・それで顔色が優れなかったのか?・・・疲れたような溜息とか・・・」

「ん・・・多分、そうだと思う。だからレイチェルが心配して、天使のエナジーを分けてくれたんだ。もう・・・天界に帰る力も残ってなくて・・・。おでことおでこをくっつけてたのは、応急処置。・・・キスしたのは・・・それが一番ダイレクトな方法だったから。一度は断ったんだよ?だって・・・ハーヴィーがいるのに・・・。僕、キスの意味を知ってたから・・・。好きな人としかしちゃいけないって知ってたから。・・・でも・・・僕の限界をレイチェルは見抜いてて・・・。彼女、上級天使だから、エナジーも僕と違って強いんだ」

「それを、分けてもらったと言うことか?」

「・・・うん。もう、おでこくっつけるぐらいじゃ、どうにもならないくらい、僕、弱ってたみたい」

「・・・天界に帰らなかったのは、俺に側に居たかったからだと?」

「・・・うん。ちょっとでも、貴方と離れたくなかった。もしかしたら、下界に戻れなくなっちゃうかもしれないし」

「何故?」

「だって・・・堕とされる理由がなくなったら、天界に戻されるから。そうしたら、二度と貴方に会えなくなる・・・そんなの・・・やだ」

マイクはグズグズと泣き始めた。涙が溢れる青い瞳には嘘はなかった。それは、これまでの感覚でハーヴィーにもわかった。わかったから、ハーヴィーはマイクの顔から手を外すと、その体を抱きしめた。

「もっと早く言ってくれ。体調のことも、レイチェルのことも」

「ごめんなさい。・・・もっとこまめにレイチェルとハグぐらいしておけば、キスまでしなくても済んだんだけど。もう、僕ほとんどエナジーが残ってなかったんだ」

「放っておいたら死んでしまうだろう」

「・・・天使は死なない。ただ・・・消えるだけだよ・・・」

「そんなこと・・・許さない。絶対に、俺の前から消えるな。ずっと俺の腕の中にいろ」

「そうしたい。・・・本当に、僕はそうしたいんだ」

「今は?少しはいいのか?」

「だいぶね。レイチェルにエナジーを分けてもらったから。元気」

「だったら、一度天界に帰ったらどうだ?」

「やだよ・・・せっかく堕天使になって貴方に会えたのに。・・・最近の僕、いい子だから、もう下界に行かなくていいって言われる可能性もあるから」

「じゃあ、仕事をサボってマリファナでもやるしかないか」

「・・・それもやだよ・・・。貴方には、真っ白な羽を見せたいもん」

「マイク・・・悪かった」

「僕の話・・・信じてもらえた?」

「ああ」

「良かった・・・。じゃあ・・・僕、帰るね・・・。ハーヴィー、本当にごめんなさい」

ハーヴィーの腕から抜け出ようとするマイクの体をハーヴィーは離さなかった。そして、そのまま抱き上げて、寝室へと運んだ。

「君の体調の悪さに気づけなかった俺も、いけない人間だな」

「ちゃんと説明しなかった僕も悪いんだ」

「俺の命の半分でも、君にあげることができたら・・・」

「ダメ。お願いだから、そういうことは言わないで」

ハーヴィーはマイクをベッドに横たえると、蜂蜜色の髪を撫でた。少し、パサついているような気もする。本人は元気と言ったが、肌も唇もカサついているし、体も細くなっている。天使が、人間界にいることが、これほど体に負担を与えるとは知らなかった。それなのに、自分の側に居たいからと、天界に帰ることもせず、頑張っていたのかと、そのいじらしさに何か込み上げてくるものがある。

「俺は天使じゃないから、君に何もしてやることはできないが・・・少し休むといい。最近の君は、仕事を頑張りすぎだ」

「だって・・・ハーヴィーの傍では、白い・・・真っ白い羽の天使でいたいんだ。それに・・・僕、少しだけど、ハーヴィーからエナジーもらってるよ?」

「・・・どういうことだ?」

「・・・えっと・・・その・・・僕たち・・・セックスしてるでしょ?それって、お互いに愛してるからでしょ?僕、愛してもらえたら、羽も白くなるし・・・元気にもなれるんだ・・・」

「しかし、君の体力は落ちてる」

「うん。天界に帰る力はないけど・・・人間界で生きてくには十分だよ」

「あんな疲れた溜息をついても?」

「・・・・・・僕、そんなんに元気なかった?ハーヴィーにもバレちゃうくらい?」

「ああ。隠せてはいなかったな。ただ、そのことに本当に俺が気づいていたか、と言えば・・・それは違ったな。気づいてやれてなかった」

「ああ、ハーヴィー。そうやって自分を責めないで。今回のことは本当に僕が悪いんだから」

マイクは両腕を伸ばして、ハーヴィーに触れようとした。ハーヴィーはマイクの体を持ち上げ、ぎゅっと抱きしめた。

「・・・セックス・・・してくれる?ハーヴィー・・・」

「やめとけ。疲れてるんだから」

「だから・・・したいんだ。・・・ハーヴィーのエナジー、僕にちょうだい?」

「俺は天使じゃないぞ?」

「でも、僕を愛してくれる。・・・もうダメ?僕たち、終わっちゃった?」

「いや・・・終わってない。また、ここから始めよう」

そう言って、ハーヴィーがマイクに優しくキスを与える。マイクは嬉しそうに柔らかく、それを受けた。ハーヴィーの愛情が、唇から流れ込んでくるような感覚。マイクは幸せに浸った。

「大好き・・・ハーヴィー・・・ううん、・・・愛してる、ハーヴィー」

唇の端から、マイクが小さな告白を零した。

********************

本当は休ませたかったが、結局マイクは自分からスーツを脱いでしまった。そして、胡座をかいたハーヴィーの足の上に座っている。両腕をハーヴィーに絡め、肩にぽてんと頭を乗せている。

「・・・元気のない天使は魅力ない?」

「君はどうあっても、魅力的だ。ただ・・・体に負担だろう」

「・・・じゃあ・・・1日だけ休暇を貰って、天界に一度帰る。そうしてエナジーを補給してくる」

「1日と言わず、元気になるまで天界にいればいいだろう」

「やだ。ハーヴィーのいない世界は、僕の世界じゃないから」

マイクはハーヴィーの首筋に鼻を擦り付けた。そして、指先を使って、ハーヴィーのシャツのボタンを丁寧に1つずつ外していった。ワイシャツをハーヴィーの体から剥ぎ取り、今度はウエストへと指を伸ばす。しかし、ハーヴィーはその手を遮り、マイクの体をゆっくりと押し倒した。マイクの唇にキスをした後、ハーヴィーの唇はマイクの体を探求するかのように、静かに下降していった。そして、もうふるりと震えている中心を捉える。口腔の中に取り込み、ねっとりを舌を這わせると、もうマイクは両足を捩った。陰囊も指で優しく刺激してやりながら、口でしゃぶってやる。次第にマイクの腰が浮いてくるのがわかる。ハーヴィーに押し付けるように、あるいは自分でも快楽を得ようとしてマイクも軽く動く。

「あ・・・ハー・・・ヴィー・・・羽・・・出ちゃいそう・・・」

マイクは感情や快楽をコントロールできなくなると、羽が出てしまう。このままの体勢では、綺麗な羽が折れてしまう。

ハーヴィーは一度、口からマイクを離すと、マイクを抱き上げてベッドの端に座らせた。そして自分は床に下り、マイクの両足を左右に開く。

「これなら、いつでも、羽が出せるだろう?」

「・・・ん・・・ありがと・・・ハーヴィー・・・」

ハーヴィーは微笑むと、再び口でマイクを刺激することに専念した。優しく包み込むように、あるいは追い上げるように。

「んっ・・・あっ・・・あっ・・・」

マイクの指先がハーヴィーの髪に触れる。喉を仰け反らせて、喘ぎ声を出す。絶頂が近い時の仕草。

「ひあっ・・・あ・・・ハーヴィー・・・イく・・・イっちゃう・・・」

その言葉に、ハーヴィーはマイクをきつく吸い上げた。

「やっ・・・あっ・・・ああああああっ」

バサリ・・・という羽音とともに、甘さを感じる液体が、ハーヴィーの口の中に迸った。口を離すことなく、全てを飲み込む。しばらくしてから、足の指先まで緊張したマイクの体が弛緩してゆく。

「ふっ・・・あ・・・」

脱力したマイクが後ろに倒れそうになるのを、ハーヴィーが抱きとめた。綺麗な真っ白い羽を傷つけたくなかったからだ。

「・・・やっぱり・・・コントロールできない・・・僕・・・羽が出ちゃうよ・・・」

「天使は皆、そういうものじゃないのか?」

マイクは首を振った。みんなちゃんと自分でコントロールできてるよ。レイチェルだって。・・・やっぱり、僕、未熟なのかなぁ・・・下級天使だからしょうがないけど・・・」

しょんぼりとマイクが言う。

「君の羽は綺麗だから、俺は見ることができて嬉しいがな」

ハーヴィーがマイクの白い羽に口付ける。

「ハーヴィーのおかげで、真っ白な羽になれたんだ・・・ありがとう」

マイクが顔を寄せてくる。

「君の味がするぞ?いいのか?」

「どんな味?」

「甘いな」

「そうなんだ・・・。自分じゃわかんない」

マイクは頓着せずに、ハーヴィーに口付けた。自分にはほろ苦いようにしか感じないが、味覚が違うのだろうか。

「ねえ・・・僕が上になってもいい?」

「そうだな・・・羽があるからな・・・」

ハーヴィーはベッドに上がると、マイクの手を取ってもつれるようにして横になった。マイクはしばらくハーヴィーの体の暖かさを感じた後、ゆっくりと体を起こして、ハーヴィーに跨がった。

「慣らさないと」

「ん、いいの。すぐに欲しいから」

左手で自分の尻を開き、右手をそっとハーヴィーに添えると、マイクはゆっくりと腰を落とし始めた。躰の中に入ってくるハーヴィーの熱さ、熱量を感じる。いつもマイクに多幸感を味あわせてくれる、熱。人と繋がることが、こんなにも幸せなことだとは、マイクは知らなかった。教えてくれたのは、ハーヴィーだった。

「好き・・・ハーヴィー・・・大好き・・・」

ハーヴィーの引き締まった腹部に指を添えると、マイクは腰を上下に動かし始めた。擦れる躰の入り口部分が心地よい刺激に翻弄される。

「ふあ・・・あ・・・いい・・・ハーヴィー・・・すごく・・・いい・・・」

「奥には?欲しくないのか?」

「ん・・・もちろん・・・突いて欲しい・・・」

「じゃあ、この体勢じゃダメだな」

ハーヴィーの声にも、深くマイクを犯したいと言う欲が出ている。

体をつなげたまま、起き上がり、マイクの片足を掴んで体勢を入れ替える。マイクの頭をベッドリネンに押し付け、腰を高く上げさせた。

「辛くないか?」

「だい・・・じょうぶ・・・」

うっとりした声をマイクが出す。これから与えられる刺激と快感を待っている。ハーヴィーは一度ギリギリまで自分を引き抜くと、一気にマイクの胎内へと押し込んだ。

「ぐっ・・・んあっ・・・あっ・・・」

それを何度も何度も繰り返す。その度に、マイクは声にならない声を上げた。痛みはない。あったのかもしれないが、それは甘くて、自分をゾクゾクとさせてくれる感覚だった。再奥を何度も突かれる。背筋がぞわりと快感に襲われる。そして、もう自分自身が勃ち上がってくるのがわかる。リネンを掴んでいた指先を、そろそろと自分に這わせようと動かしたが、すぐにハーヴィーの気づかれて、彼の手が自分をシゴいてくれる。

「んっ・・・んっ・・・んんーっ・・・」

ファサファサと羽が揺れ、広がる。前と後ろへの刺激に、もう膝が耐えられない。がくりと落ちそうになる身体をハーヴィーが支えてくれる。そして、二人は同時に、絶頂を極めた。マイクはハーヴィーの手の中へ。ハーヴィーはマイクの体の中へと。そして、ハーヴィーは自分をマイクの中から抜くことはせずに、そのまま抱きかかえて座った。

「はっ・・・あ・・・ハーヴィーの・・・まだ、僕の体の中で・・・おっきいままだね・・・」

「君は?大丈夫か?」

「ん・・・もっと・・・しよ?」

そんな可愛らしいマイクの言葉に、ハーヴィーはその体勢で律動を始めたのだった。

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翌日、ハーヴィーはマイクに休暇を与えた。マイクは嫌そうにしていたが、やはり自分なりに考えて、天界に一度帰ることに決めたらしい。

マイクが消えてから、ハーヴィーはレイチェルを呼び出した。

「ちょうど良かったです。マイクからファイルを預かっていたので」

レイチェルは笑顔でハーヴィーに接した。が、ハーヴィーとしては、複雑な心境だった。けれども。

「事務所に天使が二人ともいるとは驚きだ」

「あら。マイクから聞いたんですか?。あんまりペラペラ人間に話しちゃいけないのに」

そう言いながらも、レイチェルは笑顔を崩さなかった。

「マイクは一度天界に帰した」

「その方がいいと思います。だいぶ、人間界の瘴気にやられていたようなので。一度天界に帰れば、クリアになって戻ってくるでしょう」

「・・・天界に足止めされることは?」

その言葉を聞いて、レイチェルは声を上げて笑った。

「大丈夫ですよ、ハーヴィー。マイクはもう、貴方の守護天使ですから。ずっと貴方の傍にいます」

「ちょっと待て。守護天使は実体を伴わないとマイクは以前言っていたぞ?」

「それはマイクの勉強不足ですね。もちろん、実体を伴わなず人知れずなるケースの守護天使もいます。けれども、マイクは貴方とリアルに出会ってしまった。だから、マイクはあのままで貴方の守護天使です」

それを聞いて、ようやくハーヴィーは体の緊張を解いた。一度天界に戻したものの、帰ってくるかどうか、不安だったのだ。

「でも、たまには休暇をあげて、天界に行かせてください。マイクはとても素直な天使なので、瘴気に当てられやすいんです」

「・・・わかった。心得ておく。それと・・・」

「もう、マイクとはキスはしませんよ?あれは、本当に極限状態だったからエナジーを与えただけです。・・・見ていたんですよね?」

「気づいてたのか」

「上級天使なので」

再びレイチェルはにっこりと笑った。

「今後はハグ程度に留めておきます。定期的に天界に戻れば、その程度で大丈夫だと思うので」

「・・・君は・・・弁護士になるつもりはないのか?」

「パラリーガルも結構楽しいですよ?でも、昇給の話なら、いつでも聞きます」

「考えておいく。・・・それと、感謝する」

「いいえ。私はマイクの監督者ですから。それじゃ、失礼します」

レイチェルは長い髪を揺らめかせて、オフィスを出て行った。

ハーヴィーはリアリストだ。普通だったら天使の存在など信じない。けれども、マイクと同じように、レイチェルという天使の存在も認めることにした。何故なら、彼女のおかげで、マイクは助かったのだから。

********************

「ハーヴィー、ただいまぁ!」

3日後、マイクはハーヴィーの部屋に現れた。その姿を見て、ホッとする。レイチェルには大丈夫だとは聞いていたが、やはり自分の目で確認するまでは安心できなかったからだ。

ハーヴィーはマイクの体を抱きしめると、ポンポンとその背中を叩いた。ちゃんと感触がある。実体がある。

「なあに?どうしたの?ハーヴィー」

「いや・・・なんでもない。それで?どうだった、天界は」

「んー。神様にめっちゃ怒られた。もうちょっと、ちゃんと天界に報告しに来いって。それとエナジーも補給しに来いって」

「そうか。・・・レイチェルと話をした」

「えっ!」

「もう少し君に休暇をやって天界に帰すように言われた」

「・・・えー・・・」

「そういう不満そうな顔をするな。大切なことだろう?」

「そうだけど・・・」

「それから守護天使の話も聞いた」

「あ!それね!僕も今回、神様から聞いてびっくりだったんだけどね!僕、もうハーヴィーの守護天使なんだって!」

「レイチェルもそう言ってた」

「だから・・・その・・・ずっと貴方の傍にいられるんだ・・・僕。もちろん・・・貴方に契約解除されなかったらの話だけどさ・・・」

「誰がするか、そんなこと。・・・それよりも、腹は減ってないか?」

「うん!・・・僕、ハーヴィーが作ってくれたものが食べたい。簡単なものでいいんだけど・・・」

「パンケーキは?」

「え?」

「ホイップクリームとフルーツのたくさん乗ったパンケーキ」

「食べたいっ!貴方が作ってくれるの?」

「ああ」

「嬉しいっ!!!」

「材料は用意してある。座って待ってろ」

「うんっ」

マイクはカウンターキッチンの椅子に座り、パンケーキを焼き始めるハーヴィーを、ニコニコ笑顔で眺めた。

「クリームが余ったら・・・君に塗って舐めるのもいいかもな」

「へ?」

「3日間、会えなかったからな」

「あ、そういうプレイ?」

「とも言う。まあ、まずは腹ごしらえだ」

マイクの目の前に、ホイップクリームとフルーツで綺麗に彩られたパンケーキが置かれる。

「わーい!いただきまーす!!」

パンケーキを美味しそうに頬張るマイクを見ながら、最愛の天使が、自分の元に確実に戻ってきたことに感謝するハーヴィーだった。

END