ハヴィマイわんこの三角関係 02

「まぁ、可愛いわんちゃん!お名前は?」

ハーヴィーとマイクが訪れたアッパーイーストサイドにある小さなペットショップで、ピーターはスタッフの女性に満面の笑みで迎えられた。マイク的には、ペットショップと言ったらPETCOしか思い浮かばなかったのだが、NYナンバーワンクローザーの趣味に合わないらしく、ハーヴィーの意向でセレブな人たち専用のペットショップで買い物をすることにしたのだ。

「ピーターっていうんです。この間、セントラルパークに捨てられていたのを保護したんです」

「あらあら。酷いことをする人がいるのね。・・・この子、ミックスだけど、ゴールデンの血が濃いわね。足も太くてしっかりしているし、将来はきっと元気で大きな子になるわよ」

ジェニファーという名のスタッフはウィンクを一つ寄越すと、『困ったことがあったらいつでも声をかけてね』と言って、その場を離れた。

「ピーター、これから君に必要なものを買うからね。っていうか、正確に言うと、ハーヴィーが買ってくれるんだけど。良かったねー」

マイクの腕に抱かれた仔犬が、きゅんきゅんと鳴いて、マイクの頰を舐めた。その様子を憮然とした表情で見るハーヴィー。というのも、このピーターが来てから、ハーヴィーはマイクとちゃんとしたキスすらできていないのだ。ピーターにことごとく邪魔をされて。キスすら・・・ということは、夜の営みにも当然、影響が出ている。マイクが『ピーターが見てるから、ダメ』と言うのだ。しかも理由が、『ピーターの教育によくないから』である。たかが犬の情操教育に配慮してどうするんだ、と言いたいところだったが、そんなことを言うと、『じゃあ、僕、ペット可のアパートを探して、ピーターを連れてくよ』と言いかねないので、ハーヴィーも我慢しているのだ。

マイクはピーターを抱いて両腕が塞がっているので、ハーヴィーがジャケットのポケットから買い物メモを取り出した。昨夜、マイクがネット検索をしながら作成したリストだ。書いてあるものを片っ端から選び、カウンターに積み上げていった。その横で、マイクは「いいねー。素敵だねー。良かったねー」とご満悦である。まあ、ハーヴィーが自分で選ぶのは構わなかった。むしろ自分で選びたかった。別にピーターを愛してのことではない。マイクに任せると、赤とか青とか黄色とか黄緑とか、目がチカチカするものばかり選んで(何も考えず)、モノトーンで統一されたハーヴィー邸のインテリアがぶち壊しになるような気がしたからだ。

そんなわけで、本日のピーターのためのお買い物。

ベッド  $250

首輪   $100

リード  $95

餌皿   $65×2

水入れ  $65×2

おもちゃ $16・$20・$13×3

キャリー $400

フード  $60

おやつ  $50

しめて、初期費用、$1277。

「うわー。ピーター、素敵なのをいっぱい買ってもらったねー」

というマイクの満面の笑み、プライスレス。

それをサクッとカードで支払う。外に待たせてあるレクサスに運んでもらい、家路についた。

「今日も泊まっていくな?」

「いい?」

「もちろんだ」

「良かった。ピーターがベッドや首輪やおもちゃを喜んでくれるか、ちゃんと見たかったんだ」

やっぱりそっちか。と、ハーヴィーは溜息をつく。ピーターが来てからというもの、マイクは薄茶色の物体ファーストで、全然、自分に構ってくれない。そんなハーヴィーの思いを知ってか知らずか・・・まあ、知らないのだろうが、いそいそとベッドを置く場所を考えたり、ピーターに首輪をつけてあげたりと忙しい。ご飯と水をあげて、それにピーターが口をつけたところで、マイクは安心したように、ようやくソファに座った。しかし、視線はピーターに釘付けだ。

「マイク」

「んー?」

ハーヴィーを見ないで空返事をするマイク。さすがにハーヴィーもムッとする。ハーヴィーはマイクの肩を掴み、強引に自分の方を向かせる。

「へ?どうしたの?ハーヴィー」

「・・・少し、ピーターに過保護じゃないか?」

「え?だって、仔犬だよ?しかも捨てられてたんだよ?愛情をかけてあげたいって思わない?」

「う・・・」

正論をぶちかまされて、返答に詰まるハーヴィー。

「でも・・・今日は、本当にありがとうね、ハーヴィー。ハーヴィーのおかげで、ピーターNYで一番幸せなわんこになったと思うんだよね。ハーヴィーには感謝しても仕切れないよ」

「だったら、態度で示してもらいたいものだな」

「態度?」

「そう」

マイクは、ちょっとだけ考えると、自分からハーヴィーに近付き、キスをする。少し、深く。次第に、深く。

そうだ、これで、いい。ハーヴィーは満足気に、マイクの唇を味わう。

クイクイ。

なんだか、潮ろからシャツが引っ張られているような気がするのは気のせいか。

グイグイ。

いや、これは気のせいではない。マイクの両手は自分の首に添えられているから、マイクがシャツを引っ張っているわけではない。・・・ということは・・・。あの薄茶色の物体か!

しかし、ハーヴィーはガン無視することにした。しかし、

ぐいんっ!

と、強い力で後ろに引っ張られて、体がマイクから離れる。

「うわっ」

「え?ハーヴィー?」

突然離れていったハーヴィーにマイクも驚く。

「きゅんきゅん!きゅんきゅん!」

「あ!ピーター!もう、ご飯、終わったの?全部食べた?美味しかった?」

マイクの集中力が、すべてピーターに持っていかれる。ハーヴィーが態勢を立て直した時には、すでに薄茶色の物体はマイクの膝の上だった。尻尾を振って、甘えている。

「うわー!ピーターってば、お腹がポンポコリンだね!」

マイクが薄茶色の物体を抱き上げて、その腹をハーヴィーに見せる。確かに、いっぱい食べてポンポコリンの腹。しかし、薄茶色の物体がハーヴィーに見せる顔は、勝ち誇ったそれだった。

「マイク。ちょっと確認したいんだが・・・」

「何?」

マイクが薄茶色の物体を抱き直して返事をする。

「今夜、そいつ・・・いや、ピーターは何処で寝るんだ?」

「もちろん、今日、ハーヴィーが買ってくれたベッドだよ?」

「そうか。なら、いい」

思わず、安堵したが、ハーヴィーはそれを悟られないように、クールに笑顔で返した。

ハーヴィーがバスルームから出てくると、マイクがベッドに寝かせた薄茶色の物体に話しかけていた。

「いい?今日からここで寝るんだよ?ここが、ピーターのベッドだからね?寂しいかもしれないけど、寝室にきちゃダメだよ?わかった?」

頭を撫でながら、一生懸命言い聞かせている。

「あ、ハーヴィー。先にベッドに行ってて」

「わかった」

マイクももう少し、あの薄茶色の物体に構っていたいのだろう。ハーヴィーはちらりと一瞥すると、ベッドに入り、読みかけの本を開いた。

「お待たせ、ハーヴィー」

「もういいのか。あの薄茶色の・・・いや、ピーターは」

「うん。ちゃんと言い聞かせてきた」

ハーヴィーの隣に来るのかと思いきや、マイクは体重をかけないようにして、ハーヴィーに跨ってきた。

「マイク?」

「ごめんね?なんか、最近、ピーター中心になっちゃってて」

「自覚があったのか」

「うん。あの子はまだ仔犬だから、放っておけなくてさ。でも、だからって、ハーヴィーを大切にしなくちゃ、本末転倒でしょ?」

「そうか。なら・・・今日は、いいんだな?」

マイクのTシャツの中に手を差し込む。マイクも嫌がらずに笑顔で答える。

「僕も・・・ハーヴィーとしたかったし・・・」

顔を赤くしながら俯くマイクの様子にハーヴィーの口角が上がる。素早く体を入れ替えると、ハーヴィーはマイクをシーツの上に組み敷いた。

久しぶりにマイクの体を堪能し、意識を手放したマイクにシーツをかけてやる。自分はキッチンに行き、水でも飲むか、とベッドから降りた。すると、ちょうどリビングと寝室の教会のところに薄茶色の物体が座っていた。相変わらず、ハーヴィーを見る目つきは座っている。

しかし、ハーヴィーはゆっくりと、その薄茶色の物体に近づいた。

「おい。噛むなよ」

ハーヴィーは静かに犬を抱き上げると、寝ているマイクの横にそっと置いてやった。その瞬間、薄茶色の物体の表情が変わる。くるくると回り、体を落ち着ける場所を見つけると、マイクにくっつくようにして横たわった。

いつから見ていたものやら・・・と思いながら、ハーヴィーは気にする風でもなく、キッチンに向かった。ミネラル・ウォーターを出し、ゴクリと飲むと、ペットボトルを持ったまま、寝室に戻った。

薄明かりの中で、眠る、マイクと仔犬の姿を見て、ある意味、幸福感を感じるハーヴィーだった。

END