ついつい、やってしまったのだ。
「トップに立ちなよ」とハーヴィーを説得したし、このオフィスを貰うことも宣言したし、ハーヴィーもそれに異を唱えることもしなかったし。だから、つい気が緩んだ。このオフィスは特別だ。自分がハーヴィーに拾われて、アソシエイトとして働き始めた時から、毎日のように足を運んだオフィス。途中、様々な理由で、このオフィスを離れることはあったけれども、結局は、またここに戻って来た。ハーヴィーのオフィス。とても特別な空間で、愛着があった。まるで、自分の部屋みたいに寛ぐこともできた。安心できる場所。
だから。このハーヴィーがトップに立ち、このオフィスを自分のものにすることが、とても嬉しかった。・・・それで、つい、主人のいないオフィスのソファに寝っ転がって、雑誌を読んだりしてしまった。まあ、見つかっても、ハーヴィーは怒らない。多分、小さな溜息をついて呆れるだけだ。実際、ハーヴィーが戻って来ても、マイクは「いつになったら、ここのレコードを退けてくれるの?」なんて、言ったくらいだ。・・・けれども、その言葉の裏には、「早く事務所のトップとして活躍しなよ」という意味も込められいる。
それなのに、ハーヴィーは「最後に一緒に組んで仕事をしたい」と言ってきた。ハーヴィーとジェシカの関係を引き合いに出して。
そうか・・・とマイクは思った。ハーヴィーがマネージング・パートナーになってしまったら、肩を並べて一緒に仕事をすることができなくなる。そこまで、考えが及んでいなかった。マイクは、逡巡の後、ハーヴィーの申し出に首を縦に振った。
最後になるかもしれない、一緒の仕事。
そんな仕事を片付けるために、いつものように残業してて・・・。
・・・どうして、こうなった?
ハーヴィーのオフィスのふかふかのソファ。正直言って、寝心地がいい。もしかしたら、自分の安アパートのベッドよりも寝心地がいいんじゃないかってくらい。そのソファにハーヴィーと二人で並んで、書類の精査をしていた。スコッチを舐めながら・・・というオプション付きで。ハーヴィーが満足そうに、書類を置いたから、マイクもそれに習った。今日の残業はこれでおしまい、という意味。スコッチのおかげで、程よく体が火照っていて、気分もいい。明日の仕事のために、アパートへ帰って、寝て、英気を養うことをしなくちゃいけないことはわかっていたものの、立ち上がるのがもったいないような気がした。ハーヴィーと組む、最後の仕事、という感傷もあったのかもしれない。けれども・・・と思って、マイクは立ち上がろうとした。が、その手を掴まれ、引かれ、ソファに戻される。
「・・・ハーヴィー?」
マイクが上司の顔を覗き込むと、そこには凶悪な悪戯っ子のような笑みを湛えた上司がいた。
「待って」
ようやくその言葉を口にしたマイクが身につけているのは、ワイシャツと靴下だけだった。他は全て手際よくハーヴィーに脱がされ、上から押し掛かられている。ハーヴィーの綺麗な形をした指先が、マイクの首元を撫でたり、摩ったりと動いている。
「いくら夜が遅いからって、セキュリティとか来たら・・・」
「今まで、この時間帯に見回りが来た試しはない」
「う・・・で、でも・・・」
「何だ、うるさい口だな。塞ぐぞ」
「や、ダメ!・・・だってさ・・・ハーヴィー、自分の高級スーツがいくらするか、自分でわかってるよね?」
「もちろんだ」
「それを汚すわけにいかないでしょ?」
「別に。替えのスーツはおいてあるから問題ない」
「そういう話じゃなくて!」
「君の体を自由にできるなら、スーツの一着や二着は別に惜しくない。君にはそれぐらいの価値はある」
「う・・・僕、そんなに高くないと思うよ・・・?」
顔を真っ赤にしながら、マイクが言う。
「だいたい、君が悪いんだ」
「何で?」
「君が俺をこのオフィスからさっさとと追い出したいようなことを言うから・・・」
「だって、ハーヴィーは事務所のトップに立つんだよ?だったら、ジェシカのオフィスに行かなくちゃ・・・あ・・・や・・・」
首筋を舐められて、思わず、甘い声が出る。
「ここは俺の城だ。この城で自由な振る舞いができるのは、ドナか君しかいない。そのドナだって、君よりは遠慮深いぞ。それなのに、君ときたら、我が物顔で、このオフィスで寛ぐ」
「・・・居心地・・・いいんだもん・・・」
可愛い顔を見せつけられて、ハーヴィーもニヤリとする。首筋に吸い付くと、ふるっとマイクの体が震える。
「は・・・ハーヴィー・・・」
切ない声が耳に心地よい。しかし、
「・・・ハーヴィー、やっぱり、やめよう・・・」
とマイクが遮る。
「断る」
ハーヴィーはあっさりと、それでいて強い口調で言い放った。
ここまで脱がせといて、誰がやめるものか。これだけ可愛い顔を見せられて、誰がやめるものか。
マイクの体のラインをなぞりながら、手を下の方へと滑ら背ていく。
「あ・・・ハ・・・ヴィ・・・」
「断ると言ったろう」
「んん・・・そうじゃなくて・・・その・・・」
感じ入った声を出しながら、マイクが恥ずかしそうに言う。
「あの・・・さ・・・僕を触るなら・・・その・・・ワイシャツの上から・・・にして?」
「?」
「だって・・・やっぱり、ハーヴィーのスーツを汚したくないし・・・」
「そんなこと気にするなと言っているのに・・・」
と、答えつつも、マイクに可愛らしい物言いに目尻が下がる。ハーヴィーはマイクに深いキスを与えながら、ワイシャツの裾から手を入れて、直接、握りしめた。
「やっ・・・あ・・・ダメ・・・だってばぁ・・・」
「こっちの方が気持ちいいだろう・・・」
合わせた唇の端から、言ってやる。
「ふっ・・・ん・・・」
やはり、直接的な刺激が気持ちいいのか、マイクも目を瞑りながら、快楽を追い始めた。先走りを指に取り、マイクの後孔を軽く解す。昨夜もハーヴィーの部屋で体を重ねたばかりのせいか、そこはまだ柔らかく、すんなりと受け入れた。
「マイク・・・いいか?」
「・・・うん・・・いい・・・よ」
マイクは目を瞑ったまま、こくりと頷いた。ハーヴィーはマイクの左の膝裏を掴み、自分を潜り込ませる。そこは、難なく、ハーヴィーを受け止め、軽く締め付けてくる。マイクの両手の指先が、ハーヴィーのシャツ辿り、左手は腕を右手は肩に当てられ、体を揺さぶられるのに備える。ハーヴィーも自分を深く押し込もうと、右手でマイクの方を押さえ込んだ。
ゆっくりとした、体の内部を味わうようなグラインド。
「ああ・・・ああ・・・ハーヴィー・・・いい・・・」
昨夜も体を重ねているはずなのに、飽きることのない行為だ。体をソファに押し付けられるように奥を突かれながら、マイクは昨夜の余韻をトレースしながら、今、目の前にいる上司の体温を感じる。
「・・・ハー・・・ヴィー・・・」
切なく、甘い声で、恋人の名を呼ぶ。ハーヴィーの荒い吐息が耳をくすぐる。
「あ・・・ん・・・もっと・・・激しくしてくれて・・・いいのに・・・」
「事務所中に君の声が響いたら、困るだろう?」
くすりと笑われたが、ハーヴィーは動きを少し早めてくれた。背中が続々するのは、ここが閉ざされたハーヴィーの部屋でなく、オープンなガラス張りのオフィスのせいだろうか。
「はぁ・・・ああ・・・あ・・・え?」
ハーヴィーの体の動きが止まったことに気づき、マイクはうっすらと目を開けた。ハーヴィーの視線が自分ではなく、自分の頭の向こうに向けられている。
「へ?」
マイクはソファの肘掛けに乗った自分の首を仰け反らせた。
そして、視界に入ったのは・・・・・・・。
180度回転し、なおかつ硬直している、ベンジャミンの姿だった。
「ひゃっ・・・」
思わず、声を上げるマイク。その声に反応して、ベンジャミンがあわあわと口を開いた。
「パパパパパパパパパソパソパソパソパソパソコンパソコンパソコンののののののアアアアアアアアアアアアップアップアップアップアップアップデートアップデートアップデートアップデートしにしにしにしにしにそのそのそのそのそのその」
『死にたい』・・・とマイクは思った。おそらく、ベンジャミンもそうだろう。
そんな二人の思考をよそに、ハーヴィーがぴしゃりと言い放った。
「空気を読め」
その声に、再度固まるベンジャミン。しかし、USBメモリを片手に、ベンジャミンは速攻で回れ右をすると、ピューっとその場から走り去って行った。
「ハ・・・ハーヴィー・・・見・・・見られちゃった・・・」
「気にするな」
「気にするよ!!ばかっ!ばかっ!ばかーっ!!!!!!」
マイクは両手でハーヴィーの背中をぽかぽかと殴る。しかし、ハーヴィーはそんなことには動じない。
「さて。邪魔者はいなくなったし、続きだな」
さらりと言って、再びマイクを腰を掴んで、ぐっと突き上げを再開する。
「何、考えてんのー!!!!!やーんっ!!!!」
足をばたつかせながら暴れるマイク。それを力でねじ伏せるハーヴィー。
「諦めろ」
「ふえ・・・・・・もー・・・やー・・・」
ベンジャミンに見られてしまった恥ずかしさは当然あるのだが、ハーヴィーに突かれて、快楽の波に溺れていってしまう自分もいる。何だか、心の中で思考がぐちゃぐちゃになってしまったが、どうやらハーヴィーは自分の体を離してはくれそうになかった。
「あっあっあっ・・・はぁっ・・・あんっ・・・」
自身を扱かれながら、再奥を突かれる気持ちよさはには勝てなかった。マイクは、「もう、どうにでもなれっ」という気分で、揺らされる自分の体を固定するために、ぎゅっとハーヴィーにしがみつきながら、頭の隅で、『今週末のムービーナイトをどうしよう・・・』と思ったのだった。
END
おまけ
ITルームで、ベンジャミンは自分の呼吸を落ち着けていた。まさか、あの人とマイクが、そういう関係だったとは思わなかった。一緒に仕事する仲という認識しかなかった。マイクはいい人だ。いつも美味しい食べ物をくれる。自分では仲の良い友人だと思っている。それに、別な法律事務所に行ってしまったハロルドとも交流があって、時々3人で集まって、映画を観たり、ゲームを楽しんだりしている。今週末だって、自分とマイクとハロルドの3人で、ホラームービーナイトをしようという計画があるのだ。ああ、それなのに。どんな顔をして、マイクに会ったらいいのか。
ベンジャミンはちょっと冷めてしまったポテトをもしゃもしゃと食べながら、「ザ・ドナ」を触って、溜息をついた。明日、ドナにどうしたらいいか、相談しよう。そんなことを思いながら。
END?
おまけ2
「ムービーナイト?」
衣服を直したハーヴィーが片眉を上げた。
「うん・・・あれ?・・・靴下がかたっぽない・・・」
シャツを引っ掛けただけの姿のマイクがソファの周囲を探す。
「ここにあるぞ。床から靴下拾って、マイクに渡す。
「ありがと・・・んしょ」
シャツに靴下だけのマイクは可愛いなぁ・・・と思いながら、マイクのワイシャツのボタンを留めてやった。自分がつけた紅い所有痕を満足気に眺めながら。
「何を観るんだ?」
「今週末はホラームービーナイトなんだ。だから、『チャイルド・プレイ』とか『ミザリー』とか『シャイニング』とか、オールナイトで観るんだ」
「面白そうだな」
「ハーヴィーは来ちゃダメ」
「いいだろう、別に。そんなに怖い映画を観るなら、保護者が必要だろう」
「だーめ!貴方が来たら、ハロルドとベンジャミンが可哀想だよ!ホラーより、怖がる」
「なんだ、その言い方は」
ムッとした顔でハーヴィーが拗ねる。
「貴方は僕の大事な人だよ?でもね、ベンジャミンもハロルドも大事な友達なの。わかって?」
上目遣いに言われて、ハーヴィーも黙る。可愛いからだ。
「わかった。その代わり・・・」
「何?」
「今夜、これからうちに来るよな?」
「えっ・・・」
「今度は広いベッドで、君の体を味わいたい」
「昨日も・・・したじゃん」
「昨日は昨日。今日は今日。嫌なら・・・ホラームービーナイトに乱入するぞ」
「うっ・・・わ・・・わかったよ・・・」
マイクは可愛らしく口を尖らせて、ハーヴィーの命令のような申し出に承諾したのだった。
REAL END
おまけ3
ITルームで、事務所が円滑に動くように、色々と作業をする。紙も大事だが、次第にペーパーレスが進んでいる時代だ。だから、データベースを常に監視し、最新のものにする。「ザ・ドナ」の開発だって楽しい。ベンジャミンは、今朝方マイクが差し入れてくれたサンドイッチをモギュモギュしながら、パソコンとにらめっこをしていた。そんなベンジャミンの目の前に紙袋が差し出される。ベンジャミンの大好きなバーガー屋さんのポテトの匂いがする。ベンジャミンは、すっと顔を上げた。そして・・・固まった。
「ススススススススススススススススススススペクターさんっ!!!!!!!!!」
ズザザザザザーッっと、椅子のキャスターを滑らせて、後ずさりするベンジャミン。
ハーヴィーは紙袋をデスクに置き、ニヤリと笑った。
「俺は察しのいい奴は好きだ。昨夜の空気の読みっぷりは素晴らしかったな。それと、俺のパソコンのアップデートは今日の昼間に頼む」
「はははははははははははいっ」
体は硬直したまま、口だけが動く。
「そして・・・今週末のホラームービーナイトは誰の部屋でやるんだ?」
「ママママママママママママママイクの部屋ででででででですすすすすすす!!!」
「そうか。わかった。なら、ピザのデリバリーを差し入れてやろう。その代わり・・・」
「そそそそそそそそそそそその代わり?」
「怖がるマイクの様子を動画で撮っておけ。そしてそのデータを俺に渡せ」
「デデデデデデデデデデータ?」
「君の得意分野だろう?それと、君に新しいパソコンを買ってやろう。君が必要だと思うスペックのものを買ってやる」
「ほほほほほほほほほほほ本当ですか?」
「空気をが読めて、なおかつホラー映画に怖がるマイクの動画の礼だ。頼んだぞ」
そう言って、ハーヴィーは颯爽とITルームを出て行った。
残されたベンジャミンは嬉しさ半分、困惑半分だ。でも、怖がる動画なら、犯罪にはならないかな?と黒尾を傾げて考えた。そして、新しいパソコンについて、ネット検索を始めたのだった。
REAL REAL END