キスを与えられたら、少し苦味を感じた。その原因にすぐに思い当たる。こういうことは、過去にかわいー女の子とコトに及んだときに経験済みだった。しかしなー、スティーヴとのキスでこの味を感じるとはねーあははははははー。そんな乾いた感情を心の隅っこに思い上がらせる。それは、現実逃避ともいうのだけれども。尻を弄られてるということからの現実逃避だった。
「なあ・・・」
キスの合間に問いかけてみる。
「ん?」
「やっぱり・・・するわけ?」
「そのつもりだが?」
「楽しいかな?」
「楽しいに決まってるだろう」
「・・・そうかなぁ・・・。しつこいようだけど、俺、男だからね」
「しつこいようだが、それは十分にわかってる。それより・・・お前、膝、辛いよな?」
「何?なんか関係あんの?」
「後ろからの方が楽だと思うんだが・・・膝に負担がかかる」
「うわ。それは、カンベン」
「じゃあ、やっぱり、こうだな」
くいっと、ダニーの左の膝裏を持ち上げられる。
「俺としては、ダニーの顔が見られて好都合だ」
「・・・あー。やっぱ、後ろからで」
「却下」
スティーヴは楽しそうにニヤリと笑うと、もう一度ダニーにキスをする。頭上で何かのキャップを外す音がした。と思ったら、下半身にひやりとした感触。
「んっ・・・何?」
「ローション。ダニーに怪我はさせたくないからな」
「だったら、怪我をしちゃうような行為はやめとこうよ」
「却下」
「スティーヴ。今に始まったことじゃないけど、相変わらず、強引だよな」
「随分と待たされたからな。一応、俺だって、ダニーの気持ちは尊重したんだ」
「まあ・・・ね」
確かに、このアニマルの告白を受け入れて、ハグを受け入れて、キスを受け入れて、それから数ヶ月。のらりくらりと躱していたのは事実だ。ダニー自身の経験からいって、好きな女の子からこういう仕打ち(?)を受けたら、バイバイしちゃうよなーと思う。その点、ある意味、スティーヴは我慢強かったというわけだ。普通なら、愛想をつかされても文句はいえない。男と女の関係だったら。男同士だから、我慢ができた?ああ、それは違うな、とダニーは思う。こういうことは男も女も関係ないだろう。スティーヴは自分をそれなりに大事にしてくれていたのだ。ネガティヴで保守的で、ついつい自己保身を考えてしまう自分のことを。
ここで逃げたら、男が廃るっていうのかね。
「いいよ、スティーヴ。好きにして。ああ、別に、これは投げやりで言ってるんじゃないからな?」
「わかってる。前向きに俺の気持ちに応えてくれるってことだろう?さすが、ダニーは男らしいな」
「自分で自分に惚れちゃうね」
軽口でも叩かなくては、これから自分の身に起こることに対応できないような気がする。
スティーヴが嫌いなわけではない。きちんと言葉にして言ったことはないような気もするが、たぶん、自分もまた、スティーヴのことを愛しているのだろう。スティーヴが自分を愛してくれているのと同じ温度で。
自分を見つめるヘイゼル・グリーンの瞳に自分が映り込んでいるような錯覚。ダニーは一呼吸おいて、静かに目を閉じた。
「いいよ。来いよ」
スティーヴの空いた指先が、自分の髪は肌に触れるのを感じながら、自分の腕をスティーヴの体に回す。その瞬間、ぐるりと後孔に濡れた指先を感じる。
「んっ・・・」
「ダニー、力、抜けよ?」
「わ・・・わかってるっ・・・」
そう言ったものの、頭ではわかっていても、体はすぐにはついてはいかない。縋るものを求めて、スティーヴの首に腕を絡める。その動きが、欲しがっているように誤解されても仕方がない。
ゆっくりと解すように何度もなぞられる。気持ち悪さは意外となかった。それよりも、この先の行為の不透明な不安。
つぷり・・・とスティーヴの指が侵入してくる。
「んあっ・・・んん・・・」
無意識に体に力が入る。スティーヴの指の動きが止まる。
「大丈夫だから」
あやすように、髪が撫でつけられる。軽い異物感を感じながら、ダニーは息を吐いた。
「OK。わかってるよ。大丈夫・・・うん。たぶん、大丈夫・・・」
「さすが、ダニーだ」
褒められているのか、何なのか。スティーヴの言葉を分析する余裕は残念ながらなかった。
少しずつ、少しずつ指で犯されていく。再び、スティーヴの指が止まり、内部をクッと押された。
「あっ・・・ん・・・な、何だよ、今の。あっ・・・あああっんっ」
ダニーの問いかけには応えず、スティーヴはしつこく、その一点を責め続ける。
生理的な快楽を感じる。表情を見られるのが嫌で、ダニーはスティーブの肩口に顔を埋めた。一度は萎えた自分自身が、再び熱を熱をもつのがわかる。
「っ・・・スティーヴ1そこ・・・や・・・やだっ・・・変っ」
「気持ちはいいだろう?」
「だから、やなんだよ!馬鹿っ!」
「やっぱり、ここか」
「やっぱりって、何!?」
「感じる場所の話。いいから、そのまま、感じとけ」
指が増やされても、痛みは感じない。それ以上に快感が勝る。理性が自分から乖離されて行くような感覚。
すっと指が抜かれて、別の熱い塊が押し付けられる。
「えっ・・・う・・・無理っ・・・!」
「どうかな」
随分と冷静な声が聞こえる。
「ダニー、息を止めるなよ」
そう言って、スティーヴ自身が押し込まれていく。
「ああ・・・ああ」
苦しくて、広い背中に爪を立てる。さっき指で責められた場所を確実に擦り上げられる。浅い呼吸を続けながら、意識がもっていかれないようにする。屹立した自分に、指が添えられて、一緒に追い上げられていく。
スティーヴの荒い息を聞きながら、自分がこれまでセックスしてきた女の子たちもこんな感じだったのかと頭の隅っこで考える。けれども、そんな思考も、すぐにスティーヴの激しい動きで彼方へと消えていく。
荒くて暑くて激しい呼吸。それだけが、部屋の中に響いているような錯覚。
口で包まれていたのとは違う、快楽。
「スティーヴっ!」
早く達したくて、相手の名前を呼ぶ。きっと、切羽詰っているであろう声音。
きっと、コントロール・フリークなこの男は、自分の支配下にある相棒を見て、ほくそ笑んでいるに違いない。それでも、ダニーは切ない声しか出すことができない。
「大好きだ。愛してるよ、ダニー」
「俺もだよ!愛してるから、だから、早くイかせろ!馬鹿!」
スティーヴがダニーの腰を引き上げて、いっそう密着させる。と、同時に、奥が突かれ、スティーヴがダニーの中で果てる。もちろん、ダニーを最高潮まで高め、精を解き放つことも忘れずに。
「言ったよな」
「は?何を?何が?何のこと?」
呼吸を整えながら、ダニーが聞き返す。
「愛してるって言ったよな」
「そうだっけ?」
「言った。初めて言ってくれた。最後の馬鹿は余計だけどな」
「あっそ。記憶ないけど。あー、馬鹿って言ったのは覚えてるわー」
「都合のいい記憶力だな」
そういうスティーヴは別段、機嫌を悪くした風でもない。むしろ、嬉しそうだった。
「キスしていいか?」
「どうぞ。つか、何で許可、取んの?いつもは強引にするくせに」
「幸せだから。ダニーを大事にしたいと思うから」
「じゃ、今度ビールおごって」
「わかった」
「ピザも」
「わかった」
「やっぱ、ステーキにして」
「わかったよ。何でも言うこと、聞いてやるよ」
「へー。ほー。ふーん」
「何だよ」
「じゃあ、俺の愛するカマロちゃんのトランクに、手榴弾とかライフルとかを勝手に積みこむのやめてくんない?」
「うっ・・・それは・・・捜査上必要で・・・」
「捜査ぁ?突入だろ?んっとにもー」
愛しあった後に、ロマンティックにならない。というよりは、したくないダニー。本当なら、恥ずかしくて、今すぐにでもベッドから逃げ出したい気分なのだ。がっちりスティーヴにホールドされているので、それは叶わない願いなのだが。
「明日、仕事が終わったら、ショア・バードにでも行くか」
話を逸らし、ステーキに話題を戻すスティーヴ。
「いいね。肉を焼く係、よろしく。俺はサンセットを眺めながら飲む」
「わかった。任せとけ」
交渉成立。そして、さっきのキスをする。
告白からハグ。ハグからキス。キスからセックス。そして、再びキス。
この男との間に、これからどんなことが待ち受けているのだろうか。
一抹の不安を抱えながらも、ダニーは素直にキスを受け取り、そしてキスを与えたのだった。
END