「夕食に行こう」
と言われたので、いつものように、「OK」と俺は答えた。
ランチじゃないから、カマコナのところのガーリック・シュリンプではないな、と判断はした。けれども今夜はなんだろう。基本的に、俺はめんどくさがりだし、スティーヴはコントロール・フリークなので、結局マクギャレットお任せコースになる。まあ、別にそれはそれで構わない。腹が膨れればそれでいい。そういえば、この間行った、タイ料理の店はなかな美味かったな、と俺は反芻した。
「じゃあ、19:00にハレクラニのロビーで待ち合わせだ」
「ハレクラニ?なんで、ホテルのロビーなわけ?しかも待ち合わせって何よ。面倒くさい。こっから直接行けばいーじゃん」
「いいから。それとジャケットを忘れるなよ?」
「はいー?」
更なる質問をぶつけようとしたが、スティーヴはさっさと本部を出て行ってしまった。
「わっけわかんねー」
一人呟いて時計を見た。
家に帰って、着替えて、ワイキキまで。ギリギリの時間だ。
俺も慌てて、本部を後にした。
「天国にふわさわしい館」という意味をもつこのホテルには歴史がある。20世紀の初め、長期滞在用のホテルとして始まった「ハウツリーホテル」がその起源だ。ホテルアワードも受賞している、ラグジュアリーなホテルだった。
ホノルルに在住しているとはいえ、用事でもない限り足を運ぶことがない場所でもある。用事というのは、主に事件関連だが、幸いな事に、今のところ、ハレクラニで事件が起きたことはない。
仲間と集まるときは、ヒルトンを使うことのほうが多い。この間も、ホクラニ・ワイキキで飲んだ。
車を預けて、ホテルのロビーに着いたのが、18:55。ざっと見渡すと、既にスティーヴが来ていた。ソファに足を組んで座っている。ノータイではあるが、ジャケットを着ている。なかなか様になっていて、ちょっとムッとする。
そうしたら、いきなりスティーヴが俺を見た。なんか、センサーでもついているのか。戸惑っていると、スティーヴが立ち上がって近づいてきた。微かに笑っている。
「なんだよ」
「いや。ダニーもハワイに馴染んできたんだなと思ってな」
「どういう意味?」
「きっと以前なら、ジャケットって言ったら、絶対にネクタイもしてくるだろうなって」
「ここがニュージャージーだったらな。間違いなく、ノータイなんてありえない」
着替えのとき、一瞬迷ったのだ。でもまあ、ここはハワイだし。アロハシャツなら何処でも入れる土地柄だし。だったら、ノーネクタイでもいっかー。と、判断したのが実際のところである。
「シャワーを浴びてきたのか」
「そ。どうせ、着替えるんだから、さっぱりしたくてね。それで時間ギリギリ。悪かったな」
「大丈夫。ちょうどいい。行こうか」
「何処に?」
「ここの2階。ラ・メールに予約を入れておいた」
「え!フレンチじゃん。しかも予約?言っとくけど、今日は俺の誕生日ねじゃねーよ。もしかして、これドッキリ?どっかで、カマコナがカメラを構えてたりなんかしない?」
「ダニー。いいから」
背中に手を当てられて、促される。そうすると、俺は歩くしかないわけだ。
なんつーか。変。心がくすぐったくて、気持ちが悪い。
早くも俺は帰りたい気分になってきた。
ラ・メールの席に案内されて、俺は本当に帰りたくなってきた。
用意されていた席は、見事にオーシャンビュー。椅子は180°対面でなく、90°の角度を保って隣り合わせ。きっと、海がよく見えるように、という配慮のセッティング。
うわー。こういうのって、女子が喜ぶよねー。・・・・・・つか、俺、女子じゃねーし。
「座れよ、ダニー。コースで頼んでおいた。アラカルトは面倒くさいだろう?」
「わかってんね」
ついでにワインのセレクトもスティーヴに任せる。
ソムリエと話しているスティーヴを見て、この角度は新鮮だなと思った。いつもなら、向い合わせ。車の中だったら真横。
「何だ」
ワインを決め終わったスティーヴが俺の視線に気づいたらしい。
「んー。なんつうかね、お前が人間に見える」
「何を言う。俺はもともと人間だ」
「アニマル目アニマル科アニマル属アニマル種アニマルだろう」
「アニマルしつこい。今は容疑者を追ってるわけでもないし、銃撃戦をしてるわけでもないぞ」
「仰るとおり。でも、あんたはアニマル」
ふふん、と笑ってやる。
こんなガサツな奴がフレンチとはね。一体、何を考えているんだか。いつもの軽い食事ってわけじゃなさそうだ。高級な店。高級な料理。高級なワイン。・・・・・・ん?これは、何かワケありだな。
運ばれてきたワイン。グラスを形式的に掲げて、コクリと一口飲む。
あ。ワインを飲むのって、すんげー、久しぶり。このボルドー、結構好きかも。
コースなので、何も考えなくても、前菜から運ばれてくる。こちらの食べるスピードに合わせて。だから、スティーヴとの会話に集中できる。仲間の話。事件の話。釣りの話。グレイスの近況。まあ、ウォー・ファットや、ドリスの話は触れないでおいてやる。スティーヴを怒らせたら、せっかくの料理が不味くなる。
けれども、俺は心の隅っこで、タイミングを図っていた。
何処で、話を切り出してやろうか。というか、今夜の高級な夕食会の目的をどうやって、スティーヴの口から言わせようかと。
さっきから、スティーヴが何か言いたそうにしているのがわかる。
ま、まどろこしいことはせず、ここは単刀直入、ストレート勝負でいったほうがいいかな。何せ、相手はアニマルだし。
だから、口直しのソルベが運ばれて来たとき、聞いてやった。
「んで?今夜のこの趣向は一体何?何か、俺に頼みごとでもあんの?」
ん?と、小首を傾げて伺ってみる。
スティーヴが驚いたように、目を見開く。ビンゴだ。
「はいはい。何でも言ってごらん?この相棒様が相談にのってあげよう」
にーっこりと笑って、先を促す。美味しいワインと料理で、いつになく、今夜の俺はご機嫌だ。アニマル・スティーヴに対する態度としては、なかなかないぞ。
一瞬、明後日の方角を見たスティーヴだったけれども、すぐに、俺に向き直った。そして、
「実は・・・・・・」
「実は?」
「・・・・・・キャスに言われたんだ」
キャサリンの名前が出て、ドキリとする。まさか、バレたか。
実は、スティーヴと俺は相棒の一線を超えた関係をもってしまっていた。最初は酔った勢い。その後は、惰性?なし崩し?俺達の関係に、どんな名前をつけたらいいのかわからない。ただ、スティーヴと過ごす夜は嫌いじゃなかった。でも、確かに、スティーヴとキャサリンは恋人同士のような付き合ってるような・・・確認したことないけど。仲は・・・いい。
「えーっと・・・何て、言われたのかな?」
冷静を装って、笑顔を重ねて聞いてみる。
「ロコモコをテイクアウトして、ラジオを聞きながら、車の中で食べるのはロマンティックじゃないって」
・・・・・・あー。わかった。キャサリンとのデートでそういうことをしたわけだ、こいつは。俺、相手ならともかく、女性相手なら、もうちょっと気の利いたことをしなくちゃだわな。それで、このラ・メールか。キャサリンとのデートの予行演習か。
ちょっとだけ、胸がちくりと傷んだけど、まあ、俺も男だ。相棒のために、一肌脱ごうじゃないか。いやー、俺って男前ー。
「OK、スティーヴ。わかった。俺に任せろ。確かにアニマルの辞書に、ロマンティックという言葉はないだろう。それはわかる。何せ、ロマンティック・コメディな映画すら、解説抜きじゃ理解不能なお前だ。でも、大丈夫。俺がついてる。完璧なデートになるように、俺がちゃんと指南してやるから、安心しろ。スティーヴ、お前は見てくれだけは完璧なんだ。後は、ノウハウの問題だ。好きなくとおも前はシールズではエリートだったんだろう?人間の言葉くらいは理解できるはずだ。なら、大丈夫だ」
「・・・・・・ダニー。聞き捨てならない単語がいくつか聞こえたんだが?」
「スティーヴ、まず、それが駄目だ。相手の言葉尻を捉えたら駄目だ。いいか?相手は女王様。そして、己は下僕。この精神が大事なんだ。ほら、お前ら軍人の大好きな上下関係ってやつだ」
俺はチッチッチと、スティーヴの目の前で人差し指を左右に振りながら言ってやった。
「相手を女神のように崇めるんだよ。褒め称えるんだ。あ、そのとき、さりげなく相手の手に自分の手を重ねることを忘れるな」
「わかった。・・・・・・ダニー」
テーブルの上。俺の左手にスティーヴの右手が重ねられた。おいおい。俺でやらんでいい。キャサリンでやらんかい。そう、言ってやろうとしたら、スティーヴの目が妙に真剣だったので声に出せなくなった。相変わらず、こいつのヘイゼルの瞳は綺麗だ。しかも、シャツにジャケット効果もあって、いつもの2割増しに格好良く見える。これで落ちない女はいないと思うんだが。そりゃまあ、デートが車の中でのロコモコ・テイクアウト・ランチだったら興醒めだわな。やっぱり、ここは協力してやらんと。
「何、スティーヴ」
キャサリンになったつもりで、薄い笑顔を浮かべて笑ってやる。
「愛してる」
おいおいおいおいおいおいおいおい!いきなり直球勝負かよ!もうちょっと、カーブとかスライダーとかシュートとかシンカーとか、変化球はないんかい!俺は思わず眉間を抑えそうになった。まったく、ロマンティックのロの字もない奴だな!いつものように怒鳴りつけたくなる衝動をどうにか抑えて、俺は穏やかに言った。今日の俺は恋愛指南役だ。
「スティーヴ。その言葉はもうちょっと後半に取っておこう。な?まずは、相手を褒めろ。髪型とか、服装とか、魅力とか。たとえば、俺ならこういうね。・・・スティーブ。今夜のお前ってば、かなりイケてる」
俺は、重ねられた左手はそのままに、右手で頬杖をついて、小首を傾げながら、笑顔を崩さずに言ってやる。
「今夜のお前はいつもと違って、かなり新鮮。ジャケットのせいかな?ワイルドじゃなくて、どこかセクシー」
右手を伸ばして顎のラインを指先で辿ってやる。
「俺、お前の顎のライン、好き。そして、これもね」
といって、親指で下唇をなぞる。そして、トドメの最高級の笑顔。
「っていうようなことをだなー」
ガタンっ。いきなり、スティーヴが立ち上がった。俺の手を掴んでだ。ということは、自然に俺も立ち上がることになる。
「行くぞ」
「は?ちょっ!おい!スティーヴ、待てよ!おーい、聞いてるー?」
聞いてねえ。半ば俺を引きずるようにしてずんずん歩いて行く。ワインも料理も残ってるのにー!!!
そして、エレベーターに引きずり込まれる。ん?ちょっと待て、今、上階のボタンを押さなかった?出口は1階でしょうが!
掴まれた左手首をぶんぶん降ってみた。けれども、放してもらえる気配はない。スティーヴの顔を見ると、眉間に皺を寄せて、回数表示を睨みつけている。何?怒ってんの?俺が何かした?親切に恋愛相談に乗ってやっただけじゃん!
軽快な音とともに扉が開く。今度はエレベーターから引きずり出された。
ドンっ、と部屋に入るなり、壁に押し付けられた。背中が痛かったので、文句を言ってやろうとした口を塞がれる。
何よ、これ。めっちゃ、理不尽じゃね?いいだけ、蹂躙されるように唇を奪われ続ける。
スティーヴを押しのけてやるとか、蹴っ飛ばしてやるとか、殴ってやるとか、本気になればできなくもなくなかったけど、結局は、惚れた弱みがあるので、それもできない。うっ。俺って、何ていいヤツなんだ。なんつうの、これ。都合のいい男?
ようやく、スティーヴの唇が離れる。ただし、体は密着したまま。なんとなく目を合わせるのが嫌で、俺は下を向いていた。
さあ、俺はこいつにどんな言葉をかけたらいいんだ?
その1。食事が途中になってしまった文句?
その2。乱暴に部屋に連れ込まれたこと?
その3。キャサリンの代わりにキスをされたこと?
やっぱ、その3だな。俺は覚悟を決めて、顔を上げた。
「スティーヴ。女性を部屋に連れ込むのは、きちんと食事が終わってからにしろよな。せっかくのハレクラニ。せっかくのラ・メール。せっかくの男前でセクシーな、お前。台無しだろうが。そんなんじゃ、キャサリンは喜ばないっての」
「・・・・・・なんで、キャサリンが出てくるんだ?」
「は?だって、キャサリンとデートするんだろ?ロコモコ・ランチ・デートじゃなくて、ロマンティックなディナー・デート。まあな。付き合って女は目に見える形で大事にしないとな。ハレクラニ。ラ・メール。セレクトは間違ってない。間違ってないけど、食事の途中で部屋に連れ込むのはまずい。それは減点だスティーヴ」
「ダニー。俺はキャスとデートはしないし、そもそも付き合ってない」
「え?」
「キャスは軍人仲間で、友人で、まあ、ちょっと無理な頼みを聞いてくれるって意味では大事なつながりはある」
「えっと・・・スティーヴって、キャサリンと恋人同士じゃなかったっけ?」
「まさか。そんな関係だったら、ダニーと寝たりしない。俺はそこまで不義理な男じゃないぞ」
「あー。ちょっと、混乱してきた。整理させて。んっと?あんたとキャサリンは付き合ってない?」
「そう」
「でも、キャサリンにロコモコ・ランチ・デートを否定されたんだよな」
「そう」
「だから、名誉挽回しようと思って、俺を練習相手にディナー・デートを計画した?」
「そこが違う。練習じゃない。ダニー、お前が本命。だって、俺たち付き合ってるだろう?」
「・・・そう・・・だっけ?」
「おい!ダニー!なんてことを言うんだ!じゃあ、何で俺たち今まで何回もベッドを共にしたんだ?」
「んっとー・・・・・・セフレ?」
「ダニー!!!」
ダンっと、俺の顔横の壁にスティーヴが手をついた。これは、某国で流行っているという壁ドンか。違う違う違う。こいつ、怒ってる。げろげろ。やべー。スティーヴ・マクギャレットのアニマル・スイッチ・オン!いやいやいや。ここは気を強くもたなくちゃダメだ!
「スティーヴ、落ち着け。俺はてっきり、今夜のことは、キャサリンとのデートの予行演習だと思ったんだ。だから、俺は親友として、あんたらが上手くいくように・・・・・・」
「ダニー。何度も言わせないでくれ。俺はキャスと付き合ってない。キャスは恋人じゃない。俺の恋人は、ダニー、お前だ」
「恋人と書いて、セフレと読む的な・・・・・・」
「ダニー!!!!!!!!」
エクスクラメーションマークが増えたのは気のせいか。
「・・・本気だったのは、俺だけだったのか?」
今度は、怒りが転じて、下がり眉になる。しょげたわんこ状態。ああ、ああ。俺、この表情にも弱いんだよな。すっげー、俺が悪者になった気分になる。でもだな。それでもだな。
「じゃあ、何で、キャサリンがロマンティックじゃない云々て話をあんたにするんだよ。それって、スティーヴとロマンティック・デートをしたいって意思表示じゃないのか?」
「それはない。キャスは俺とダニーが付き合ってるのを知ってる」
「待てい!」
今、何って言った?こいつ、さらっと、何て言いやがった!?百歩譲って、こいつとキャサリンが友達だとしても、それは言っちゃいけないでしょ!!!勝手にカミング・アウトすんな!
「キャスは俺に言ったんだ。ダニーをちゃんと大切にしないと駄目だって。仕事仲間だからだとか、相棒だからだとか、男だからだとかって、気を抜いたり、手を抜いたりしたら逃げられるって。ドレス・アップしてラ・メールに連れて行けって言ったのも、キャス」
「は?」
空いた口が塞がらないとはこういう状況のことを言うのか。こいつはすでにキャサリンから恋愛指南を受けてたってことか?
「キャスもお前と同じことを言ってた。ボディ・タッチしろとか、相手を褒めろとか。でも、それを先にダニーにやられて・・・まあ、それで・・・・・・」
「・・・・・・変なスイッチが入った、と?」
「う・・・まぁ・・・」
スティーヴが視線をそらす。
「あ、それと!俺はキャスには言ってない。ダニーと付き合ってるなんて言ってない。でも、キャスは感づいてたんだ。で、カマをかけられてそれでまあその・・・・・・」
「へろっと言っちゃったってか?」
「・・・すまん」
なんか、疲れた。
「スティーヴ、座っていいか?」
「あっ・・・ああ」
スティーブの横を擦りぬけてベッドに腰掛ける。ソファもあったけど、そこまで行くのがもう、面倒。ん?ってことは、この部屋をリザーブしたのも・・・。
「なあ、もしかして、部屋を取ったのもキャサリンのアドバイスか?」
「まあ、そういうこと」
あーはいはい。こいつは言われたことを言われた通りに実践したわけだ。本当に変化球の投げられない奴だな!
「ダニー?怒ってるか?」
スティーヴが俺に床に膝をついて、俺の顔を覗き込む。お、いつもより、スティーヴのヘイゼルの瞳が下にある。見下ろす感じ。これ、新鮮。しかも、下がり眉だし。例えるなら、ご主人様、ごめんなさい、のわんこの目だ。わんこ好きの俺としては、ちょっと心をくすぐられる。思わず、スティーヴのダークブラウンの頭をぽんぽんしてしまう。
「もういいよ。努力は認める。あんたはよくがんばった。よしよし。でもな、俺には通用しないから、こういうの」
「失敗だったか?」
「あんね。俺は男なの。キャサリンもそこんとこわかってない。今夜みたいなロマンティック・デートは女の子にしてやって。俺は、あんたんちのソファで、ビールとピザで十分。ポップコーンもつけば、なお最高」
「俺は、自分の本気をダニーに伝えたかったんだ」
「いやまあ、あんたの本命が俺だってことを、さっき初めて知ったわけだし。あんたはキャサリンと付き合ってると思ってたし」
「だから、それは誤解だ」
「はいはい。わかったわかった」
「セフレって言われて、かなり傷ついた」
「あー。すまん。他に俺たちの関係性を表現する言葉が見つからなかった」
「俺は、ずっとダニーを大事にしていたつもりだったのに、ダニーは違ったんだな」
「いやいやいやいや。それは、だってさ、そういう話したことないじゃん!」
「俺は態度で示してた」
「それって、やたらとねちっこいセックスのことを意味してる?」
「その言い方、身も蓋もない」
「ごめん」
でもなあ。こいつ、捜査は乱暴なくせに、セックスは丁寧なんだよな。ちょっとしつこいけど。
とんっと、肩を押された。構えていなかった俺は、簡単にベッドに倒れてしまった。そして、すぐさま、スティーヴが覆いかぶさってくる。
「ダニー・・・」
耳の中に吹き込まれるように、名前を囁かれる。
「うあっ・・・ちょ・・・くすぐったい!」
「ダニー、愛してる。今まで、ちゃんと言葉にしなくて悪かった。愛してる」
「んっ・・・・・・」
くすぐったくて、スティーヴの体を押しのけようとするけど、さすが鍛え上げられた男。ビクともしない。
「ダニーだけだから。俺が大切にしたいと思う相手も、俺が欲情する相手も」
「んんんんっ!わ・・・わかった!わかったから!耳元で喋るの、やめっ!!!!」
ようやく、スティーヴの唇が耳元から離れる。けれども、その代わりにキスされた。唇が触れたかと思った瞬間に、舌が潜り込んでくる。壁に押し付けられながらされた、さっきのキスとは違う種類のだ。すっごく丁寧で、俺の思考をグズグズに溶かすヤツ。逃れたくても、逃れられないヤツ。俺の好きなキス。
こんなキスをされて、こいつ、俺に本気なのかなって、思ったことは確かにあった。でも、ネガティブ思考な俺は、自分が傷つくのが嫌で、「セフレ」って言葉の中に感情を押し込めていたのかもしれない。・・・・・・ちょっと悪かったかな。少し、罪悪感。キスに堕ちそうになりながら、そんなことを頭の隅で考える。
呼吸のために、一瞬、唇が離れる。その隙間に俺はスティーヴの頬を両手で軽く挟んだ。
「スティーヴ。・・・俺も、愛してるよ。」
「!・・・ダニー!」
スティーヴが破顔する。
「まあ、グレイスの次に、だけどね」
「十分だ!」
がしっと抱きしめられる。甘い言葉よりも、こういうアニマルなスティーヴの方がずっと安心できる。でも、せっかくのハレクラニだし?天国にふさわしい館だし?
「スティーヴ・・・・・・する?」
「いいのか?」
「しないって言ったら、しないわけ?」
「いや、する」
「だよな」
今度はこっちからキスをしかけてやる。ただし、触れるだけの、軽いキス。そして、時間をかけて教えてやろう。ロマンティック・コメディを理解できない、アニマル・ボーイに、ロマンティックのなんたるかを。人には人それぞれのロマンティックがあるってことを。
END