New Year Kiss

「お・・・終わった・・・」

マイクは読み終わった最後の書類をテーブルに投げ出し、ソファで大きな伸びをした。

ハーヴィーのオフィスである。

12月31日。本当であれば、アソシエイトのマイクは休みだったのだが、急な案件処理でハーヴィーに呼び出された。別にそれは構わない。一人で年を越すよりも、たとえ仕事でもハーヴィーと一緒の方がいい。ちらりと腕時計を見ると、22:00を過ぎている。それからハーヴィーに視線を移すと、どうやら彼の方も、書類を読み終えたようだった。満足そうな表情をしている。

「どお?なんとかなりそう?」

「ああ。これで、いい新年を迎えることができそうだ」

「よかった」

マイクもにっこりと笑う。仕事が順調だと、嬉しい。やりがいがある。

「今からなら、タイムズ・スクエアのカウントダウンに間に合うぞ」

「えー。めっちゃ人が多いんだもん」

「ほう。興味なしか」

「最近は観光客も多いしね。そういう貴方は?」

「俺が行くと思うか?」

「思わない」

「即答だな」

「でも、合ってるでしょ?」

「ああ、正解だ。それなら、これからどうする?」

「貴方は?」

「可愛い子犬と部屋から夜景を見ながら酒でも飲もうかと思ってる」

「で?その可愛い子犬は何処にいるの?」

「俺の目の前」

マイクは満足げに笑った。

「じゃあ、マッカランを飲ませてよ」

「最近、そればっかりだな」

「美味しいよ。まあ、貴方の影響だけどね」

「いいだろう。悪くない趣味だ」

ハーヴィーとマイクは、デスク越しに軽くキスを交わしてから、オフィスを出た。

ハーヴィーから借りたセーターとジーンズは、マイクの体にはちょっと緩い。身長は2㎝くらいしか違わないが、日々鍛えているハーヴィーに比べて、マイクは圧倒的に筋肉量が少ない。その細い体をハーヴィーは好む一方で、もう少し肉がついてもいいんじゃないか、と言う。それに対して、マイクは「仕事によるカロリーの消費量が大きいんだよ。僕が痩せっぽっちなのは、貴方のせい」と口答えをする。今日借りたVネックのセーターも肩の位置が合ってないし、綺麗に鎖骨が見えている。

「やっぱり最上階は見晴らしがいいよね。イルミネーションも悪くないけど、この部屋から見る夜景、僕は好きだよ」

「それは何よりだ」

マイクは床に座り込んで、マッカランの入ったグラスを片手に外を見ている。ハーヴィーも自分のグラスを片手にマイクを後ろから抱きこむように座った。マイクがハーヴィーに軽く体重を預ける。取り立てて、何かを話す訳でもなく、背中にハーヴィーの体温を感じるのは心地いい。仕事のときは厳しいハーヴィーだが、マイクはそれで構わないと思っている。何より、そうでなくては、と思う。けれども、ハーヴィーはマイクを守ってくれる。そういえば、カトリーナに意地悪をされたときも、彼女をやり込めてくれたのはハーヴィーだった。そんなことを思い出して、マイクは思わず、小さく笑ってしまった。

「どうした?」

「ううん。案外、貴方って、僕に甘いなって」

「何処から、そういう話が飛び出てくるんだ」

「思い出しただけだよ。ジェシカのこととか、ルイスのこととか、カトリーナのこととか。いつも僕を守ってくれるじゃない」

「仕事のためだ。・・・と言いたいところだが、それは理由の半分だな」

「もう半分は?」

「愛しているからだ」

「ありがと。僕も、貴方を愛してるよ」

グラスを持っていない方の手を後ろに回して、ハーヴィーの髪に触れる。その瞬間、マイクの携帯が鳴った。

「無粋だな。電源くらい切っておけ」

「違うよ。アラームだよ」

マイクは携帯のアラーム切ってから、画面をハーヴィーに見せた。0:00を数秒過ぎている。

「Happy New Year  ハーヴィー」

体を回して、口付ける。ハーヴィーはそのキスを受けながら、器用にマイクの手からグラスを取り上げて床に置いた。そしてそのまま、静かに、ゆっくりと押し倒す。最初はマイクが仕掛けたキスだが、すぐに主導権はハーヴィーに奪われる。舌を絡めて口腔内の熱を交換し合う。

「んっ・・・く・・・んんっ・・・あ・・・は・・・」

わずかな隙間から酸素を取り入れようとするが、すぐにハーヴィーに塞がれる。苦しいけれども、嫌な苦しさではなかった。支配される。それが心地いい。ハーヴィーになら、全てを持って行かれてもいいと思う。それで、自分が傍にいることができるのなら。

ハーヴィーの手がセーターの中に潜り込んできた。脇腹や胸を触られて、気分が高まる。

「マイク、ベッドに行くか?」

「んっ・・・ここがいい。ここで抱いてよ。夜景が見えるし・・・」

「体が痛くなるぞ」

「いいよ。・・・ねえ・・・早く、しよ」

待ちきれないというように、マイクがハーヴィーの頭をかきいだく。

「我儘な子犬だな」

ハーヴィーがぐっとマイクに体を抱き起こし、セーターを脱がせる。自分の膝上にマイクを座らせて頸から鎖骨へと唇を滑らせる。マイクは膝立ちになりながら、自分の足からジーンズと下着を抜いた。

「器用だな」

「貴方の手間を省いたの」

ガラス越し見える夜景の手前に、マイクの白い体が映り込む。なかなかの趣向だと思いながら、ハーヴィーは手のひらをマイクの体に滑らせる。そのまま、マイクを膝立ちのままにさせ、自身の指を後孔へと運び、クッと押し付ける。

「ひあっ・・・ん・・・」

「マイク、無理するな。寝室に行けば、ローションもあるし・・・」

「やだ。ここがいい。・・・僕のことは気にしなくていいよ。ねえ、お願い」

気にするな、とはいうものの、マイクの負担は大きい。しかし、マイクの我儘を聞いてやらないと、拗ねそうだ。

ハーヴィーは指をマイクから離すと、傍にあったグラスのマッカランで指を濡らした。そして、ゆっくりとマイクの中へ指を差し込んだ。

「はっ・・・んっ・・・何?いつもより熱いっ・・・感じっ・・・」

「下の口から酒を飲んでるようなもんだからな。きついか?」

「ううん。・・・いい。あ・・・んっ・・・」

甘い声がマイクの口から漏れる。自分の体の中で蠢く指が好きだった。けれども、貪欲にもっとほしいと願う。

マイクは手探りでハーヴィーのベルトを外した。スラックスのボタンも。ファスナーも。

「ね?・・・貰っていい?」

「ああ。こういうときは君のものだからな」

「ふふっ・・・」

マイクは嬉しそうに微笑んで、トンっとハーヴィーの体を押した。そして、その体を跨ぐようにして位置を取る。ハーヴィーの猛々しさを自分に当てがい、、ゆっくりと体を沈めていく。

「ああ・・・いい・・・」

「動けるか?」

「・・・うん。・・・ごめんね。好きにしちゃって・・・」

「いや。積極的な君もいい」

ハーヴィーの腹部に軽く指を置き、マイクは体を揺らし始めた。ハーヴィーは自分の体の上のマイクとガラスに映るマイクを交互に見やり、夜景よりも綺麗だと、目を細めた。

「だから言ったろう。床は痛いって」

「だって・・・そういう気分だったんですよ。・・・うう・・・痛い。膝が痛い・・・」

あれから、ベッドに場所を移し、ハーヴィーが主導権を取り戻して、何度も愛し合った。

そして、朝。

マイクの両膝が薄く青紫がかっている。軽い内出血だった。ハーヴィーの上になっているときは夢中で気づかなかったが、やはり硬い床のせいだ。

「まあ、今日は休みだ。特別にベッドまで食事は運んでやる。大人しくしてろ。ああ、その前にバスルームに連れてってやろうか」

「・・・何もしない?」

「して欲しいのか?」

「膝が痛いもん。やっぱり、ベッドって、必要なんだね。っていうか、貴方の膝が無事でよかったよ」

「ああ。そうか。俺が上だったら、俺の膝がやられてたんだな」

「僕に感謝して」

「俺はベッドに行くいことを提案したからな?その膝は自業自得だぞ?」

「わかってるってばー。・・・お腹すいた」

「待ってろ。今日は甘やかしてやる」

「・・・いつも甘やかしてくれてるくせに」

「明日からの仕事は厳しくいくぞ」

「ハーヴィーは半分、目に見えない優しさでできてるよね。その厳しさだって、僕には必要な優しさだよ」

「わかってるなら、いい」

そう言って、ハーヴィーはベッドを出た。

可愛い、腹を空かせた子犬に、美味しい朝食を提供するために。

END