My Happiness 04

深い眠りから、静かに引き起こされるようにして、マイクは自然に目がさめた。部屋が明るい。

『ああ、ここはハーヴィーの部屋だったっけ』

と思いながら、隣を見るが、ハーヴィーの姿はなかった。そして、昨夜、セックスをしなかったことを思い出す。どうやら眠りに落ちてしまった自分を、ハーヴィーはそのまま寝かせてくれたらしい。珍しいこともあるものだ、と思いながら時計を見ると、9:00を過ぎていた。

「うわっ!寝坊!遅刻じゃん!」

マイクは慌ててベッドを出ると、リビングに行った。ソファでハーヴィーがコーヒーを飲みながら新聞を読んでいる。しかも、スーツ姿ではない。シャツにせーたーというラフな格好だ。

「え?・・・ええ?ちょっと待って。ハーヴィー!今日って仕事、休みだった!?」

「いや。普通に平日だ」

「仕事は!?」

「休みを取った」

「貴方はそれでいいかもしれないけど、僕は完全に遅刻だよ!うわー!最低!起こしてよ!」

「君も休みだ。俺が申請して、俺が許可した。俺は君の上司だから、それぐらいできる」

「へ?」

「顔を洗って、着替えろ。出かけるぞ」

「出かけるって・・・何処?」

「いいから」

ハーヴィーは新聞から目を離さずに、バスルームを指差した。

これ以上は何を尋ねても無駄だな、とマイクは悟り、素直に顔を洗うことにした。

「鉄道?うわー、久しぶりに乗るよ」

ハーヴィーに切符と紙袋を渡される。

「何?」

「朝食のベーグルサンドとコーヒー。朝、急かしたからな」

「ありがとう。ちょうどお腹が空いたところ!」

汽車に乗り込み座席を確保すると、ハーヴィーは部屋で読んでいたのとは別の新聞を広げ読み始めた。マイクはベーグルサンドを囓りながら、窓から見える景色を眺める。

新聞を読み終わったハーヴィーが座席の空いたところにそれを置いて、マイクに話しかける。

「結構時間がかかる。寝てていいぞ」

「あんまり眠くもないけど・・・遠いの?」

「そうだな・・・あと3時間はかかる」

「ふうん」

「行き先を聞かない、いい子だな」

「教える気があるなら、朝の段階で教えてくれてるでしょ?」

「そういう賢い仔犬は大好きだ」

ふっと笑うと、ハーヴィーも窓からの眺めに目を向けた。その目が、仕事のときとは違う、優しいものになっていることにマイクは気づいた。初めて見る表情かもしれない。そう思った。

「マイク。起きろ、着いたぞ」

眠くない、とは言いながらも、どうやら眠っていたらしい。きっと汽車の振動のせいだろう。あのリズムは眠気を誘う。

「何処?ここ・・・」

「ユーティカ」

「初めてきた。っていうか、僕、ニューヨークから出たことないし」

「旅行は?」

「両親が死ぬ前にしたことあるかもしれないけど・・・ばあちゃんとはないなぁ」

「・・・悪いことを聞いた」

「ううん。別に。気にしないでよ」

「駅から少し歩く。大丈か?」

「大丈夫。ずっと座りっぱなしだったから、逆に助かるかも」

そう言って、マイクはハーヴィーに付いて歩き出した。

高層ビルひとつない、田舎の風景。それがマイクには新鮮だった。

途中、酒屋に寄り、ハーヴィーがスコッチを買う。小さなグラスも3つ買った。

そして、さらに歩く。マイクも敢えて行き先は聞かない。酒を買った理由も聞かない。ただ、ハーヴィーに付いていけばそれでいい。

ハーヴィーが立ち止まった。

緑色のフェンスで囲まれた敷地。

「え?・・・ここ・・・墓地?」

「こっちだ」

ハーヴィーがマイクを促す。しばらく歩いて、ようやくハーヴィーが一つの暮石の前で立ち止まった。

『ゴードン・スペクター』

ハーヴィーはグラスを一つ、暮石の上に置き、スコッチを注いだ。そしてマイクに私たグラスと自分のグラスにも。

「この人って・・・」

「俺の親父だ」

「じゃあ、ユーティカって・・・」

「まあ、俺の生まれ故郷だな」

「知らなかった」

「言ってないからな」

「でも、どうして今日はここに?」

ハーヴィーは答えず、グラスをあげてニヤリと笑った。そして墓石に向かって話しかける。

「こいつはマイク・ロス。俺の優秀な部下で、俺が認めた男だ。そして、俺の大事な恋人だ」

マイクの心臓が跳ね上がる。

「ちょ・・・ちょっと、ハーヴィー!」

「生きてるうちに紹介できると良かったんだがな。許してくれ」

それは父親への言葉なのか、それともマイクへの言葉なのか。

「ハーヴィー。そういうことは先に言ってよ!だったらミッシェルの格好をしてきたのに!これじゃ、天国のお父さんもびっくりだよ!」

「・・・俺の恋人はミッシェルじゃない。マイク・ロスだ。違ったか?」

「・・・いや・・・でも・・・その・・・」

マイクが焦っていると、ハーヴィーの手が伸びて、マイクの首の後ろに手を当て、引き寄せた。そして、深くキスをする。ややしばらく、マイクの唇を楽しんだ後、ようやくハーヴィーはマイクを解放した。

「付き合ってると言ったのも、結婚を考えていると言ったのも、結構本心だったんだがな」

「あ、あれは、僕がミッシェルの格好をしてて、相手がライオネルだったから・・・」

「しかし、中身はマイク・ロスだ。そのくらい、ちゃんと認識してる。それに、ニューヨークは同性婚可能だぞ?」

「そ・・・その気持ちだけで十分だから!」

マイクの慌てっぷりにハーヴィーが苦笑する。

「なんだ。もっと喜ぶかと思った」

「・・・嬉しいよ。でも、一番、嬉しいの胃は・・・貴方が僕のことを父親に紹介してくれたってことだよ。しかも、マイク・ロスとして」

「昨夜もマイク・ロスとしてタキシード姿で現れたら良かったのに」

「それでも同じセリフを言った?」

「言ったとも」

「怖いもの知らずだね」

「怖いものがないんだ。あるとしたら・・・君を失うことぐらいだろう」

そう言って、ハーヴィーは笑った。マイクは恥ずかしくて、俯くしかなかった。

「今夜はここに泊まるぞ」

「え?墓地に?」

「馬鹿。モーテルだ」

おそらく自分のアパートよりも酷いベッドのスプリングだったが、ハーヴィーに抱かれることで、そんなことは全く気にならなかった。正確言うと、気にする間もないくらい、ハーヴィーに翻弄された。ミシミシと音を立てるスプリングに合わせて、マイクの体も揺らされる。思わず出てしまった声。その唇をハーヴィーが指で押さえる。

「そんな可愛い声を隣の部屋の奴に聞かせることもないだろう」

「あ・・・ん・・・だっ・・・だったら、加減してよっ!・・・んくっ・・・」

「それは無理だな。昨夜我慢した分、こっちは止まらない」

そう言って、自分の楔をマイクの再奥に打ち込む。

「はっ・・・んっ・・・・」

「昨日は・・・抱かれたくなかったんだろう?」

「・・・バレてた?」

「そのくらい、表情を見ればわかる。その理由もな」

「・・ふっ・・・ん・・・何でも・・・お見通しってわけ・・・」

「今夜は、容赦しないからな。覚悟しとけ」

「ん・・・いいよ・・・もう・・・嬉しくて、何でも・・・許せそ・・・」

「いい子だ」

トロンとした表情のマイクは、あのミッシェルよりも、綺麗だと思う。自分が愛した人間だから、それは当然のことなのだろう。愛しているから、マイクをこの土地に連れてきたかった。そして、父親に紹介したいと思った。昨夜のマイクの悲しげな表情を見てそう思った。

「マイク・・・」

「ん?・・・何?」

「愛してる」

マイクが嬉しそうにふわりと笑う。そして、

「僕もだよ。ハーヴィー。愛してる」

そう言って、両腕をハーヴィーに絡め、もっと欲しいと全身で強請った。

キスを。もっと深いキスを。繋がりを。もっと深い繋がりを。

そして、マイクは、体だけではない、深い幸せを心で感じていた。

END