「ハーヴィー・・・」
マイクはハーヴィーの姿を認めると、にっこりと笑った。差し出された手を素直に取り、レクサスに乗り込んだ。
レクサスの中で、二人とも無言で窓の外を眺める。ただ、シートの中央で、二人の手はしっかりと繋がれていた。暖かさ。力強さ。絆。・・・どんな言葉を駆使しても言い表せない思いが、交差する。どんなに触れたくても、叶わなかった長い時間。
ようやく、その時間が終わり、二人は再び触れ合うことができたのだ。
だから、言葉はいらなかった。
「変わってないね」
久しぶりに訪れたハーヴィーのペントハウスを見回し、マイクは呟いた。
「変わっていない方が、君も落ち着くだろう」
「うん。・・・僕のため?」
「もちろん」
ハーヴィーが後ろからマイクを抱きしめる。
「さて。まず最初に何をしたい?」
「・・・体を伸ばしてお風呂に入りたい」
「じゃあ、そうしよう」
ハーヴィーはそう言って、マイクをバスルームへと誘った。
バスバブルで泡いっぱいになった浴槽の中で、マイクは思いっきり体を伸ばした。もちろん、背中にハーヴィーの存在を感じながら。
「痩せたか?」
「そお?かなり健康的な、規則正しい生活をしてたんだよ?食事と運動はいつも決まった時間に、決まった量。まあ、たまにエッセンスで嫌がらせ。あ、でも大丈夫。ハーヴィーの『背中に気をつけろ』はちゃんと肝に命じていたから、貞操はちゃんと守ったよ」
マイクの体に回されているハーヴィーの腕に力が篭った。
「信じて」
「信じてる。・・・痣が、あるな」
「まあね。参加したくない殴り合いに、強制的に参加させられることもあったから。でも・・・消えるよ、こんなの。いつか、さ」
「マイク・・・」
「ストップ。やめて。絶対に謝らないで。・・・僕は後悔していない。僕は僕のやるべきことをやった。そしてそれは僕がどうしてもやりたいことだった」
「しかし・・・」
「謝ったら・・・僕、二度とここには来ない。貴方にも会わないよ」
「・・・わかった」
そう言って、ハーヴィーはマイクを抱きしめる腕に、より一層力を込めた。
「んー!気持ちよかったー!収監される前はシャワーばっかりだったけど、なんか、湯船に浸かるって気持ちいいんだね。体がほぐれた」
「マイク、動くな。髪を乾かすぞ」
「えー。短いんだから、放っておいてもすぐに乾くよ?」
「駄目だ。風邪をひく」
「んー。じゃあ、ハーヴィーの髪は僕が乾かしてもいい?まあ、セットはできないけど」
「セットは必要ない」
「・・・それも・・・そうだね」
マイクが屈託なく笑う。
ハーヴィーは、ヘア・ドライヤーで、随分と短くしたマイクの髪を乾かした。
ゆっくりと湯船に浸かっていたせいか、二人とも体がほかほかと温かい。その体を寄り添い合わせて、シーツに潜り込む。
「どうしたい?」
ハーヴィーが指先でマイクの頰を撫でながら尋ねた。
「・・・そうだね。・・・あのね。こうやって一日中、貴方とベッドの中にいたい」
上目遣いのスカイ・ブルーの瞳がはーゔぃーを捉える。その綺麗な眼から、ハーヴィーは逃れることなどできなかった。最初に見たときから、心惹かれ、愛した色だった。
「いい考えだ。・・・そうしよう」
ハーヴィーがマイクを抱き寄せる。マイクも居心地のいい場所を探し当てて、体を落ち着かせた。
「ああ・・・まだ、言ってなかったね、ハーヴィー」
「ん?」
「・・・・・・ただいま、ハーヴィー」
「・・・・・・おかえり、マイク」
キスをすることもなく、体を繋げることもなく、こうして抱き合うだけで、十分だった。互いの温もりを感じることの尊さを、実感する。
「二度と、離さない」
「・・・うん。僕も、二度と離れない」
離れていた時間を埋めるかのように、ハーヴィーとマイクは、互いの体の暖かさだけを享受するかのように、ただ・・・シーツの中で抱き合った。ただ、ひたすらに。ただ、ずっと。
END