I think that you’re…… 02

翌朝、いつもよりも少しだけ早い時間にマイクはハーヴィーのオフィスに向かった。裁判前の最終チェックをしたかったからだ。

ただ、昨夜のキスや告白のこともあって、少し緊張気味だった。

昨夜はレクサスでアパートまで送ってもらって、別れ際にもう一度キスをされた。その感触が、まだ唇に残っているような気がする。思わず、指先で自分の唇に触れてしまった。

「おはよう、マイク」

ドナの笑顔に迎えられる。

「あ、お、おはよう、ドナ。えっと・・・ハーヴィーは・・・」

「電話中。・・・それよりも~」

ドナがニヤニヤと笑って顔を近づけてくる。

「昨夜は楽しい残業だった?」

「え?あ、うん・・・まぁ・・・その、完璧な裁判の準備ができたっていうか・・・」

「そんなこと聞いてないわよ。ハーヴィーと素敵な夜を過ごしたかってことよ」

「ふえっ?なっ・・・・なっ・・・・なっ・・・・」

「私が何のために、残業もせずに、昨夜はさっさと帰ったと思ってるのよ」

「ああ・・・そういえば・・・帰るの、珍しく早かったよね」

「ハーヴィーに頼まれたのよ。バレエのチケットで。張り切ってたのよ、ハーヴィー。鈍いマイクに想いをぶつけてみるって。でも、その顔を見ると・・・うまくいったみたいねー、お互いに」

ドナがウィンクをしながら、ちらりとガラスの、向こうのハーヴィーに視線を向けた。それにつられるようにして、マイクもハーヴィーの姿を見た。

相変わらず、スタイリッシュだ。足を組み、メモを取りながら電話をしているハーヴィーの姿。いや、どんな姿でも、ハーヴィーは素敵だ。

電話を切るのを見計らって、マイクはオフィスに入った。

「おはよう、ハーヴィー」

「早いな、マイク」

「うん。完璧で最高の裁判にしたいからさ」

「良い心がけだ。仕事じゃなかったら、ご褒美にキスをしてやりたいくらいだな」

「キ・・・ちょっと・・・も・・・やめてよ・・・」

「仕事中だからな」

口角を上げて笑う姿まで、決まっているんだから、嫌になる。

「あの・・・さ、ドナが知ってたんだけど」

「だろうな。言ったから。というか、ドナに指摘されて、俺も自覚した」

「そう・・・なの?」

「君のことが気になって仕方がなかったが、それが恋とは思っていなかった。しかし、ドナに言われて腑に落ちた。俺は、君が好きなんだ」

「ハーヴィー!仕事中だよ!」

「まだ、始業時刻まで、10分ある。それに、ドナは君のこともわかってたぞ。マイクの目は恋をしている目だと言ってた」

「怖い・・・ドナが怖い・・・」

「まったくだ。・・・マイク、君はちゃんんと昨夜眠ったのか?」

「・・・聞かないでよ。夜通し、心臓がバクバクしてて、眠るどころじゃなかったよ。目を瞑れば、貴方の姿しか浮かんでこないし!」

「ほう・・・愛されているんだな、俺は」

「貴方に恋しない、貴方を愛さない人間がいる方が不思議だよ」

「敵は多いんだがな」

「・・・仕事では・・・でしょ?」

「それもそうだな」

「貴方・・・本当に素敵だもん」

「恋人にそう言ってもらえるのが一番幸せだ」

「うっ・・・き・・・気障っ!もう、ハーヴィー、気障!」

「そういうキャラクターなんだ。さて、マイク、最終チェックとするか」

「えっ?あ、うん!」

そこでようやくマイクは自分が早出してきた理由を思い出したのだった。

裁判はハーヴィーの圧勝だった。相手をやり込める言葉は厳しかったが、それはクライアントを守る、クライアントのために勝利するという、ハーヴィーの矜持ゆえだった。そんなハーヴィーを裁判の度に誇らしく思うマイクだった。

メッセンジャーバッグにファイルを入れ、ハーヴィーと肩を並べて裁判所を出た。日中とはいえ、冬の外の空気は冷たい。

「ねえ、ハーヴィー、コーヒー飲まない?勝利祝いに僕の奢り」

「ああ。良いだろう。頼む」

「待ってて!」

マイクは裁判所帰りによく寄るフードトラックに向かって走る。自分用にはブラックを。ハーヴィー用に少しミルクを入れたコーヒーを買い求める。紙カップの熱さが、冷えた手に気持ち良い。両手にカップを持って戻ろうとして、マイクは足を止めてしまった。・・・というよりも、目を奪われてしまったのだ。階段に佇むハーヴィーの姿に。

スラリとした長身に合う、黒のロングコート。風にその裾が翻っている。しかし、そこだけ時間が止まって、まるでスチール写真のようだった。モデルと言っても誰も疑わないだろう。

「うわ・・・格好良い・・・」

あの姿の隣に立つのが躊躇われるような格好良さ。マイクは自分の貧相さが恥ずかしくなってくる。コーヒーを持ったまま、一歩が踏み出せない。もう、このまま回れ右をして一人で帰りたいくらいだ。

離れた所に立っているハーヴィーと目が合う。なかなか戻ってこない自分を訝しく思っているに違いない。けれども、なかなか歩き出せない。

そうこうしているうちに、ハーヴィーの方が歩いてきた。

「どうした?マイク?」

顔を覗きこまれる。

「えっと・・・その・・・」

「マイク?」

「うんっと・・・僕の彼氏・・・格好良いな・・・って・・・あっ・・・彼氏って言っちゃった!ごめん!ごめんなさい!」

マイクは慌てて下を向いた。

「ほう・・・そうか。ちゃんと俺が彼氏になったという自覚ができたんだな。良い子だ、マイク」

ハーヴィーの綺麗な指先がマイクの顎にかかる。マイクはコーヒーで両手が塞がっているので、抵抗はできない。

「そういう、俺の恋人は最高にキュートだ」

ハーヴィーはそう言って、マイクの唇に掠めるようなキスをする。

「!・・・ちょ・・・ここ・・・外!仕事中!」

「裁判は勝利で終わったし、今は休憩中だ。周り?・・・俺は気にしない」

「僕は気にするよ!」

「恥ずかしいのか?」

「・・・だって。貧相な僕がこんなに格好良いハーヴィーの側にいたら、貴方の価値が下がるっていうかさ・・・。だって、貴方ってば、本当に格好良いんだもの・・・」

「あのな・・・君は、もっと自分の魅力を自覚した方がいいぞ?俺が告白を決めたのは、ドナに言われたからだけじゃない。早くしないと、他の奴にかっさらわれそうだと思ったからだ」

「は?い・・・いやいやいやいや。それはないし!こんな僕を好きになる馬鹿はいないよ!」

「じゃあ、俺は馬鹿か」

「あっ!いや!そんなことを言いたいんじゃなくて!そのっ・・・ああっ、もう、ごめんなさい!」

ようやく、マイクがコーヒーをハーヴィーに手渡す。

「今夜は、勝利祝いに食事に行こう。美味いステーキの店がある」

コーヒーに口を付けながら、ハーヴィーが言った。

「そして、君がどれだけ魅力的か語ってやろう」

「いえ・・・遠慮しときます」

「まあ、そうい言うな」

ハーヴィーは面白そうに笑顔でマイクを見た。そしてその笑顔に、マイクはやっぱり、『He is gorgeous.』と思うのだった。華やかでオーラのある、その上司の姿に。

END