「ん・・・」
柔らかくてサラッとしたシーツの感触が気持ちよい。薄眼を開けると、ほのかに太陽光が眩しいと思う。
マイクは寝返りを打ちながら、体を起こす。
が。
痛い。なんだか、体のあちらこちらが痛い。特に、腰が、痛い。鈍痛。というか、怠い。
その瞬間、記憶がフラッシュバックした。
ハーヴィーとキスをしたことか、それは唇だけじゃなく、身体中だったことだとか、ハーヴィーの手でイカされてしまったことだとか、指であそこを犯されたことだとか、っていうかハーヴィー自身に体を抉られたことだとか、その他諸々の自分の痴態が駆け巡る。
「う・・・そ・・・」
恐る恐る周囲を見回すが、ハーヴィーの姿はなかった。しかし、ここは確実にハーヴィーのペントハウスで、しかも寝室だった。
着るものを探すが、自分のスーツはなかった。しかし、ソファにハーヴィーのものと思しき、カジュアルなシャツがあった。
「借りよっと。クローゼットを勝手に開けるより、いいよね」
呟くと、マイクはシャツを羽織って、静かにリビングに続くドアを開けた。
「ようやく起きたか」
ハーヴィーはキッチンにいた。
「えっと・・・おはよう、ハーヴィー。僕の服が見当たらなかったから、シャツ、借りちゃったんだけど」
「構わない。そのために置いておいた」
何やら手を動かすことはやめずに、答える。
「ジーンズとかも一緒にあったら嬉しかったんだけど?」
「もったいない。綺麗な足を見せとけ」
「き・・・綺麗じゃないし・・・」
「照れてるのか、今更。その足で俺の腰を離さなかったくせに」
「ちょ・・・と・・・やめてよ!そういうこと言うの!」
「とても可愛い愛玩犬だったぞ」
「やーめーてーっ!!めっちゃくちゃに恥ずかしいよっ!」
「腰の振り方とか、玩具を狙う子犬のようだった」
「ハーヴィーっ!!も、僕、帰るっ!ねえ!僕の服はっ!?』
「そう言うな。腹が減ってるだろう?」
「え?・・・あ・・・ん?」
キュルルー。とマイクのお腹が鳴る。
「夕食も食べずに運動したからな。今、作ってるから、シャワーを浴びてこい」
「ご飯・・・うー。食べたい」
「そうだろう?もう昼近いからな。パスタにした」
「そんな時間?って、え!仕事はっ!?」
「休む連絡を入れておいた。有休が溜まってるからな」
「貴方はね!」
「冗談だ。家で仕事をすると言ってある。君のことはサポートで必要だと説明しておいた。ほら、早くバスルームに行け。それとも・・・」
ハーヴィーが悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
「物足りないなら、今度はリビングでするか?」
「うっ・・・え・・・遠慮しとくっ!」
慌てて、マイクはバスルームに飛び込んだ。
「ああ、もうっ!最低っ!最低っ!最低っ!これでしばらくの間、ハーヴィーに意地悪なこと言われるっ!」
ブツブツと言いながらシャツを肩からすべり落とす。ふと鏡に映る自分の体を見て、マイクは小さな悲鳴をあげて、その場にしゃがみ込んだ。
二種類のパスタを作り、それを白い皿に盛り付けたところで、マイクがバスルームから現れた。
「ハーヴィーっ!」
「いいタイミングだ。トマトソースとクリームソース、どっちがいい?」
「え?二種類もあるの?どっちも好き!どっちも食べたい!・・・でなくて!貴方、なんてことしてくれたのさっ!」
シャツのボタンをしっかりと上まで留め、勝手に借りたタオルを頭からかけているマイクが上目遣いにハーヴィーを睨む。
しかし、そんな表情も、ハーヴィーにとっては拗ねてる子犬にしか見えない。
「何かお気に召さないことでもあったか?物足りないなら、そこのソファで・・・」
「違うよっ!これだよっ!これっ!」
マイクがシャツのボタンを3つ外す。まるで赤い石のネックレスのように、朱痕が浮かんでいる。
「ああ。それか。首輪だ。飼い犬に首輪を付けるのは、飼い主の義務だからな。気に入ったか?」
「恥ずかしいこと、この上ないです!」
「じゃあ、Petcoに行って、君が気にいる首輪を買おうか?」
「もっと嫌!」
「俺も、Petcoじゃ納得いかないな。どうせならハリー・ウインストンだ」
「売ってるわけないし」
「オーダーメイドにすればいい」
「ハーヴィーっ!!!」
くっくっ・・・と笑いながら、ハーヴィーがカウンター・テーブルに皿を置いた。
「両方とも食べたいならシェアするか。ほら、早く座れ」
カウンターの椅子に座るように促す。マイクは憮然とした表情をしていたが、空腹には勝てない。
「・・・美味しそう・・・」
「ふん。聞き捨てならないな。間違いなく、美味いぞ」
ハーヴィーが取り皿を用意して、二種類のパスタを綺麗に盛り付ける。フォークを添えて、カウンター越しにマイクの髪に指を差し込む。
「ほら。待て、はしなくていいから」
「う・・・ま、ね。パスタに罪はないもんね。いただきまーす!」
くるくるとフォークにパスタを巻きつける。マイクが先に選んだのは、トマトソースのボンゴレ・ロッソ。
「うわっ・・・めっちゃ美味しい!」
「ちゃんと飲み込んでから感想は言え」
「こっちのクリームソースは・・・」
一瞬にしてパスタに夢中になり、ハーヴィーの注意は耳に入らないようだった。
「そっちは豚とりんごのペンネだ」
「りんごっ!?パスタにりんごが入るなんて、初めて!」
ペンネと豚肉とりんごをうまくフォークに刺し、口に運ぶ。
「こっちも最高っ!」
コロコロと感情を変えるマイクを見て、ハーヴィーも笑みをこぼす。
「ハーヴィーって料理もできるんだね。これだけのものを作る材料っていっつも常備してるの?」
「まさか。君が寝こけている間に買い物に行ってきた」
「寝こけ・・・って。他に言い方ってない?」
「可愛い子犬が眠り姫のようにスヤスヤと寝息を立てている間に買い物に行ってきた」
「・・・もういいです。僕が間違ってました」
「どうして?」
「貴方の言うことって、時々、本当に恥ずかしい」
フォークを口に咥えて、軽くハーヴィーを睨むが、そんな表情も拗ねた子犬のそれにしか過ぎない。
「食べたら、仕事だ」
「え?本当に仕事するの?」
「嫌か?嫌なら・・・・・・」
「あーっ!!!違う!そういう意味じゃなくてっ!仕事ができて嬉しいってこと!」
「何だ。残念。またベッドに戻りたいのかと」
「そんなわけないでしょ!もうっ仕事しようよ!させて!お願い!」
「もっとその口からは違うお願いが聞きたいものだな。昨夜みたいに」
「ハーヴィーっ!」
顔を真っ赤にするマイクを見て、ハーヴィーは盛大に笑った。
そして、1時間後。
リビングのソファで仕事を始めた二人だったが、ハーヴィーの膝の上に座らされたマイクは、書類を見る間、ずっとハーヴィーに脚を触られっぱなしなのであった。
END