Hybrid dog 04

「ワオ・・・」

マイクが手を引かれて連れて来られたのは寝室だった。

「すご・・・ホテルみたい。ベッドが大きいよね」

「君はこういうベッドのあるホテルに行ったことがあるのか?」

「まさか。想像と映画やドラマから仕入れる情報。これ、キングサイズ?」

「そうだ」

「こんな大きなベッドに一人で寝てるんだ。あ、違うか。綺麗な美女が選り取り見取りだもんね、貴方」

「この状況でよくそんなセリフが出てくるな。ほら、さっさと行け。広いドッグランに」

「え?ドッグランって・・・このベッドのこと?」

ハーヴィーの返事はなく、その代わりにトンッと背中を押された。その勢いで、ベッドに軽くダイブしてしまったのは、満足に食事も取らずに仕事をして、力があまり入らなかったせいもあった。マイクは慌てて、ベッドの上に起き上がろうとしたが、それは叶わず、すぐにハーヴィーの体がのしかかってくる。

「今日の相手は君だ」

「ハーヴィー。僕には大きな胸もないし、ハイヒールの似合う華奢な足もないんだけど」

「そんなことは見ればわかる」

ハーヴィーの指がマイクのタイのノットにかかった。いとも簡単にタイが引き抜かれ、そのまま襟元のボタンも外される。

「手際・・・いいよね。貴方」

「女のドレスを脱がせるよりも楽かもな」

「あ、それわかるー。女の子の服って、どういう構造をしてるかわかんないのってあるよね。たまに破きそうになっちゃって、怒られんの」

「どの女の話をしてるんだ」

「いやー、誰ってわけでもないけど。ハーヴィーの付き合う女性は高級なドレスを着てるだろうから、大変そう」

「俺は指先が器用なんだ」

「・・・んー。それは、今、身をもって実感してるよ。ねえ、貴方、僕の服を脱がせて楽しいの?」

「ああ、楽しいな」

今、マイクは上半身を完全に脱がされ、ハーヴィーの手はスラックスのベルトにかかってる。

「あー、その、ねー、ハーヴィー」

「なんだ」

「僕もハーヴィーのネクタイを解いたりとか、シャツのボタンとか外していい?」

「上手にキスができたらな」

「さっき、したじゃん」

「あれをキスというのか?とんだ幼稚園児だな」

「まあ、それは否定しないけど・・・む~。わかった。今度はちゃんとする。僕だってやればできる子なんだからね」

ハーヴィーの手が一度止まり、「やってみろ」と言わんばかりに、挑発的にマイクを見る。マイクは肘を付いて起き上がり、両手でハーヴィーの顔を包んだ。軽く顔を傾けて、唇を触れ合わせる。さっきは気づかなかった、シトラスとムスクが絶妙に混ざり合った香りが鼻腔をくすぐった。こんなに間近にハーヴィーを感じたことはなかったな、と思いながら、そっと舌先を潜り込ませた。上司が抵抗なく受け入れてくれたことに、心の隅っこで感謝しながら、マイクは歯列の奥の舌に、自分の舌を絡ませた。

こんなキスをしたのはいつ以来だっけ?と、数少ない女の子との経験を思い出しながら、角度を変えて、ハーヴィーを悦ばせようと努力する。何が正解かわからず、ただ夢中で口付ける。

いつしか、マイクの体は再び倒され、肌触りの良いシーツに縫いとめられていた。

スッとハーヴィーがマイクから離れた。

「ハーヴィー?」

不安げにマイクが名前を呼ぶ。やっぱり、男相手じゃな、と思ってみたりもする。しかし、ハーヴィーの表情に嫌悪感はなく、面白そうな笑顔があるだけだった。

「それで?今はどの女のことを思い出しながら、キスしてた?」

「そういうこという?言っときますけどね、僕、男の人相手にキスするの初めてなんだから!」

「それはいいな」

「どういうこと?」

「躾がいがあるってことだ」

ハーヴィーがマイクに覆いかぶさり、唇を奪う。それは子どもの遊びとは違って、激しくて、深かった。

「んっ・・んんっ・・・」

吸い上げられるような感覚に、呼吸が苦しくなる。唾液が口角から溢れるのがわかる。ハーヴィーのシャツを指先で掴み、必死にわずかな隙間で呼吸しようと努力する。甘いけど、苦しい。苦しいけど、甘い。ぎゅっと指を握りしめたのを合図にするかのように、ハーヴィーが離れた。

「はっ・・・こ・・・呼吸させてよ・・・死ぬかと思った」

「鼻で呼吸すればいいだろう」

「あ、そっか。・・・でも、ねえ、途中で形勢逆転されちゃったけど、僕のは合格だったの?」

「そうだな。一応ボーダーは超えていたってことにしてやろう」

「何それ」

「これで終わりじゃないってことぐらい、わかるよな?」

いつのまにか、ベルトもスラックスのボタンも外され、ハーヴィの手がマイクのウエストにかかっている。

「まったく。随分と細くなってるじゃないか」

「言ったでしょ?僕はお仕事をしていたんだよ。食べる暇も惜しんでね」

「俺のじゃなくて、ルイスのな」

「だって。貴方、仕事をくれなかったじゃないか」

「・・・それは・・・そうだな。さっさとあのオツム空っぽ金髪坊やを追っ払いたくてな」

「口が悪いよ、ハーヴィー。アレックスだって、頑張ってたんじゃない?」

「庇うんだな」

「貴方に認められたいって気持ちはわかるよ。僕も同じだから」

「俺は君を認めてるだろう」

「本当に?」

「ああ。やっぱり、傍に置いておくのは、君がいい」

「ありがとう。嘘でも冗談でも嬉しいよ」

マイクの顎を掴んだハーヴィーの指に力が篭る。

「んあっ・・・いたっ・・・」

「あんまり自分を卑下するな。怒るぞ」

「だって・・・どこで、自信をもっていいかわかんないよ。アレックスの言う通り、僕は雑種なんだから・・・」

「また、あいつと自分を比べてるのか?」

しつこいな、とは自分でも思う。けれども、マイクにとって、アレックスの登場は記憶の隅から剥がせないくらいに強烈だった。

綺麗な蜂蜜色の髪と澄んだ海のような瞳の色。血色のいい頰。もし、彼が女性だったら、相当の美人だと思う。

それにハーバード・ロースクール出だ。父親は大企業の社長で、素晴らしい血統書の持ち主。ある意味、完璧。

「もし、アレックスが女性だったら、放っておかなかったんじゃない?」

「俺は仕事のできる人間が好きなんだ。馬鹿と寝たら、自分の価値が下がる。キスでもして馬鹿が感染したどうするんだ」

「あーあー。ハーヴィー。僕とキスしちゃったね」

「君は馬鹿じゃないからな。大丈夫だ。それと一応言っておくが、俺は、あの金髪坊やにキスはしないぞ。してほしそうな素ぶりはあったけどな」

「えっ・・・うそっ。まさかっ・・・」

「してない」

「えー。だって、あんなに綺麗な子だよ?」

「君だって、自分のことを自分でフェミニンだと言ったことがなかったか?」

「あれは冗談だよ!」

「今度、ドレスを買ってやろうか」

「いらないって!もうっ!」

「それこそ、冗談だ。そんなことよりも、そろそろ黙れ。それとも、俺を焦らしてるのか?だとしたら、性悪だな。幼稚園児より、悪い」

「焦らすって・・・一応、キスは合格でしょ?これ以上、何を・・・って・・・え?」

「キスで終わるわけがないだろうが」

「嘘だー」

「・・・天然なのか、本気で言ってるのか、どっちなんだ」

「だって、僕、男だし、ハーヴィー特有のジョークかと・・・」

「俺も男を抱こうと思ったのは初めてだ」

「・・・抱く?・・・抱くの?僕を?うっそ・・・」

「この状況で何を寝ぼけたことを言ってるんだ、君は」

「楽しくないと思うよ?」

「さあ、それはどうかな。俺は今、この瞬間も最高に楽しんでいるからな」

「怖い・・・ハーヴィー。その笑顔が怖い」

「まあ、覚悟しておけ」

ニヤリと笑ったハーヴィーに再び口付けされる。さっきとは違い、優しいキスだった。マイクは頭の中をごちゃ混ぜにされたような気になりながらも、ハーヴィーのタイに指をかけた。ハーヴィーをそれを遮ることなく、マイクの好きにさせる。

「・・・ハーヴィー?」

キスの隙間から、声をかける。

「僕・・・もう、捨てられたりしない?」

「ああ。しない。動物愛護の精神に反するからな。ちゃんと責任をもって飼ってやる。安心しろ」

「犬は、ご主人様のために働くのが好きな動物だからね。わかってる?」

「明日から、たくさん書類を回してやる。そうだな、散歩は裁判所だな」

「本当?ありがとう!ハーヴィー!」

思わず、ハーヴィーの首に腕を回す。

「君は、どっちが嬉しいんだ?」

「え?」

「俺とセックスするのと裁判所に行くのと、だ」

「あーっと。まあ、セックスは未知の世界なんで、ジャッジするのは体験してからでも、いい?」

「ふん。裁判所以上に楽しいってことをわからせてやろう」

「凄い自信だね」

「俺を誰だと思ってる?」

「・・・ハーヴィー・スペクター。街一番のクローザーでしょ?」

「それに、最強の動物愛護家とも付け加えておけ。ただし、マイク・ロス限定のな」

「・・・了解」

二人で、シーツに沈む。このシトラスとムスクの香りも。この器用な指先も。常に人を圧倒させる雰囲気を持った体躯も。全て、自分のものになったら、いいのに、とマイクは思った。本当はすでに、そうなっていることも知らずに、マイクはハーヴィーの背中に指を這わせた。

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