いつものように、スティーヴはカマロの運転席に収まり、ダニーもまた、文句も言わずに助手席に座る。
遅刻だの蜂蜜だの大騒ぎしても、二人はFIVE-0。けじめはしっかりつける。・・・と言いたいところだったが。
運転しながらスティーヴがチラチラとダニーに視線を送る。
「・・・・・・スティーヴ。頼むから、前を見て運転して。俺、死ぬなら殉職がいい。少なくともあんたのハンドリング・ミスが死因だなんて嫌」
しかし、スティーヴはダニーから発せられているであろう蜂蜜の匂いが気になって仕方がない。別に、蜂蜜が嫌いなわけでもないし、ダニーが悪いと言いたいわけでもない。ただ、気になるのだ。
蜂蜜よりもダニーが気になる。それはダニーの姿勢にもあった。
いつものダニーなら、もっとシャンとして座り、スティーヴに説教をしてくる。それなのに、今日は見るからに怠そうにシートに体を預けているからだ。
「何。何よ」
「ダニー、正直に言ってくれ。体調が悪いのか?本部待機の方が良かったんじゃないのか?」
「・・・・・・喉が渇いた。悪いんだけどさー。途中でミネラル・ウォーターを買ってくんない?これから現場に行くってときで悪いけど。昨夜の酒が抜けてないのかもねー」
「わかった」
急ぐ事件でもない。今頃マックスが先に現場に到着して、簡単な検死をしている頃だろう。
スティーヴは目に付いた店の前に車を止めた。
スティーヴから受け取った水を喉を鳴らして飲むダニーを見てから、車を発進させる。
やはり酔いが残っていただけなのか、水を飲んだダニーは少しだけ調子が良くなったようにも見える。
「さー!張り切ってお仕事しましょー!」
ダニーはスティーヴよりも先にカマロから降り、現場のマックスに小走りに近づいていった。その様子を見ながら、「思い過ごしか」と小さくため息をつきながら、スティーヴも車を降りる。
そのとき、ナビシートの上にキラリと光るものを見つけた。
薬1錠分のPTPシート。
「薬が飲みたかったのか?ダニーは・・・」
そう呟くと、スティーヴはそのPTPシートをカーゴパンツのポケットにしまった。
「死因としてはそう難しくないよ。被害者は30代男性。背後から拳銃で心臓を撃たれて即死。完全なる他殺だ」
マックスが言う。
「ただし」
その後をチンが繋いだ。
「ドラッグが絡んでいる可能性がある。被害者のそばにこれが落ちていた。鑑識に回してみないとわからないけど」
チンがPTPシートを1枚差し出す。
「もしかしたら、この被害者は鞄か何かを持っていたかもしれない」
「その中にドラッグが?」
ダニーが聞き返す。
「可能性としては」
チンが頷いた。
「OK。近くの防犯カメラをチェックだ。マックス、被害者の薬物反応も検査してくれ」
「もちろん」
太陽の光を浴びて、キラキラと光る、銀色のPTPシートを見ながら、スティーヴは先ほど自分のポケットに入れた別な色のPTPシートを思い出していた。
「ねえねえ、ボス!」
ファイブ・オーの本部。ノックをしながらコノがスティーヴのオフィスに入ってくる。
「どうした?コノ。防犯カメラのチェックは終わったのか?」
「それはバッチリ。容疑者と思しき人物が映ってた。認識ソフトで検索したら1名がヒット」
「住所は」
「それもバッチリ。私とチンとで行ってくる。経歴を見たら小物っぽいし」
立ち上がろうとするスティーヴをコノは手で制した。
「それよりね、ボス。ダニーが寝てる」
「・・・・・・は?」
「オフィスにダニーの姿が見えないなーって思ったら、ソファで寝てたの!朝、寝坊して、そして今も眠ってるの!ねえ、ボス、昨夜どれだけダニーに飲ませたのよ」
「いやいや、大して飲んでないし、飲ませてない!いつもより少ないくらいだった!」
「でも、心配よねー!ってことで、容疑者のところには私とチンで行ってくるから、ダニーをよろしくー」
ここの指揮者は一体誰なんだ。と突っ込まれそうだが、スティーヴもダニーが心配になった。ここは素直に、コノとチンに任せることにする。
二人を見送るとき、スティーヴは聞いてみた。
「なあ、ダニーから蜂蜜の匂いがするって気づいてたか?」
チンとコノはきょとんと首を傾げ、お互いを見遣った。
どうやら、二人にはわからないらしい。自分の鼻がおかしいのか?
スティーヴも二人に習って、首を傾げたくなった。
自分の体を抱くようにして、ダニーは眠っていた。
ソファの側に屈みこんで、ダニーの首元に鼻を寄せる。
やっぱり、蜂蜜の匂いがする。ただし、朝よりはずっと薄くなっていて、微かになっている。
スティーヴのカーゴパンツの中でスマートフォンが鳴った。
鑑識のフォンからだった。
被害者の側に落ちていた薬物の鑑識結果が出たのだろう。そして・・・・・・。
『スティーヴ。銀色のPTPシートの方は予想どおりのドラッグだよ。最近出回り始めた新種のものだ。それから、もう一つの方だけど・・・』
スマートフォンの向こうのフォンの口が止まる。
「薬物か?」
『んー。スティーヴはこれを何処で手に入れた?中身は?』
「それは言えない。ただ中身はなかった。シートだけを拾ったんだ」
『まあ、あえては聞かないど。これ、ものすごく珍しい薬だよ』
「ドラッグか?」
『そういうのじゃない。微かに残っていた粉とPTPシートの種類から割り出したんだけど、これ、抑制剤だよ』
「抑制剤?」
『そう。Ωが発情期の症状を軽くするために服用する、発情抑制剤。ちなみに副作用は、怠さ、食欲不振、それと眠気などなど。スティーヴ、君の身近にΩが?』
「いや。偶然、他の事件で拾っただけで。・・・わかった、ありがとう、フォン。じゃ」
スティーヴはそそくさと電話を切った。
Ω?ダニーがΩ?
スティーヴは口を押さえながら、ソファに眠る相棒を見下ろした。