思わず声が出そうになって、とっさにマイクは唇を噛んで、口を手で抑えた。
「マーイク」
優しいけれども、不満気な声が降ってくる。そして、そっと口から手を外された。整った指がマイクの唇を噛む歯に触れた。
「唇が切れそうだ。ほら、噛むのをやめろ」
その言葉で、マイクはようやくを唇から歯を離した。
「赤くなってるな。まるで、口紅を引いたみたいだ。女の子みたいだぞ」
くすりとハーヴィーがマイクの体の上で笑った。
「くすぐったかったのか?」
マイクが唇を噛んで、口を抑えたのは、本当に女の子みたいに、ハーヴィーに胸を愛撫されたからだ。あまりの気持ち良さに、思わず声が出そうになって、反射的にそれを抑えようとしたのだ。
マイクは申し訳なさそうに、ハーヴィーを見た。
「ごめんなさい」
「謝らなくていい。ただ・・・昔のことは忘れろ。そして、感じるままに声を出してくれ。でないと、こっちも不安になる」
「不安?ハーヴィーが?」
「ああ。君に無理をさせているんじゃないかとか、本当は嫌なんじゃないかとか・・・まあ、考える」
「嫌なんかじゃ・・・ないよ・・・本当に・・・嫌じゃないんだ。でも・・・ごめん。なんか・・・声を出しちゃいけないって・・・体がそうなっちゃうんだ・・・」
「頭はいいのに、もの覚えの悪い子犬だな。まあ、初々しくてそれもまたいいか」
そう言って、またマイクの胸に悪戯を鹿仕掛ける。
「マイク。手はどうするんだ?」
シーツの上に投げ出されたマイクの腕。その腕をマイクは恐る恐る動かして、ゆっくりとハーヴィーの首に絡めた。
「いい子だ」
ハーヴィーは弁護士の仕事だけでなく、別なものもマイクに与えた。
愛するということ。愛されるということ。痛みなく、体を繋ぐということ。そしてそれが互いに幸福感を与え合うということ。
すでに、今夜は2回も達したというのに、ハーヴィーはマイクから離れることはなかった。身体中のいろいろなところを触られて、またハーヴィーが欲しくなってしまう。相手を欲しいと思ったことなど、トレヴァーが相手だったら、考えられなかった。トレヴァーとだったら、早く終わって欲しいと願うばかりだったのが、ハーヴィー相手だと、ずっと触れ合っていたいと切実に願う。ただ、体に覚え込まされてしまった恐怖感だけが、なかなか拭えず、ハーヴィーに申し訳ないと思う。ハーヴィーは絶対に、嫌なことなどしないというのに。
「マイク。週末は空いてるか?」
「貴方に仕事を与えられなかったら、空いてるよ?」
「そうか。なら、大丈夫だ。仕事は金曜日のうちに終わらせよう」
「何か、あるの?」
「連れて行きたいところがある。だから、週末は開けとけ。アソシエイト仲間との飲み会なんか入れるなよ」
「わかった」
ハーヴィーがマイクの髪を梳きながら、満足した表情で、口付けた。
そして、週末。
マイクのお気に入りのダイナーで夕食を済ませた。これからハーヴィーの家に行くのかな・・・と思ったら、五つ星ホテルに連れて行かれた。そして、エレベーターに乗り込み、最上階で降りる。ハーヴィーがカードキーで部屋を開けると、先にマイクを行かせた。大きなガラス窓から見えるニューヨークの夜景。
「さすが、最上階。綺麗だね」
窓際に立つマイクを、ハーヴィーが後ろから抱き込んだ。
「俺の部屋の眺めとどっちがいい?」
「そりゃあ・・・ね。・・・ハーヴィーの部屋だよ」
「優等生な答えだな。さすが、俺の子犬だ」
後ろから、ハーヴィーがマイクの耳たぶを食む。
「ねえ・・・あのさ・・・もし、違ってたら、馬鹿みたいなんだけど・・・」
「なんだ?」
「もしかして・・・今夜、この部屋を取ったのって・・・47回目だから?」
「ほう。ちゃんと数えていたか」
「僕の場合は、覚えていたっていうのが正しいんだけど・・・ハーヴィー・・・数えてたんだ」
「言っただろう。上書き保存するって。それも終わったからな。今度は、正真正銘、初めての夜ってことだ。それに・・・君を女の子のように抱くとも言ったはずだ。女の子なら、絶対に喜ぶシチュエーションだろう」
「あのねー・・・僕の思考回路は女の子じゃないんだけど・・・でも・・・嬉しいかな・・・。ハーヴィーが覚えててくれて」
「今まで以上に女の子みたいに抱いてやる」
「・・・僕も頑張るよ。声を出すの・・・我慢しないとか・・・ちゃんとハーヴィーに触れるとか・・・」
「それは楽しみだ」
「・・・ベッド・・・連れてってよ・・・」
ハーヴィーは笑うと、マイクを横抱きにすると、キスをしながらベッドに運ぶ。静かにマイクの体をベッドに下ろし、丁寧な手つきで衣服を脱がせていく。本当に、女の子を扱うようかのように。
「ハーヴィー・・・ありがとう。大好き。・・・僕を地の底から引き上げてくれて・・・本当に感謝してる」
「俺はきっかけを与えただけだ。後は・・・君の実力だ。自信をもて」
マイクを裸にし、自分も衣服を脱ぐと、体重をかけないようにして。ハーヴィーはマイクの上になる。マイクは、鍛えられた体にそっと手を這わせた。
47回目のセックス。それは、マイクにとって、初めてのセックスにもなるのだ。
だから。今まで以上に、ハーヴィーに抱かれる幸せ・・・多幸感を全身で享受しようと、そう思うのだった。
END